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重症化させないための精神疾患の診方と対応

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精神科領域でも早期発見、早期治療の重要性が語られる時代になってきた。顕在化する前でも症状や生活上の困難への援助を求め医療機関を受診する当事者たち。彼らの不安・抑うつ・不眠といった主訴への対応から、統合失調症・うつ病などの早期徴候を見逃さない診断・治療のコツまで診療のポイントを満載。学校や産業現場との連携、領域の将来展望も充実。重症化させないアプローチを身につけ、自信を持って患者に向き合える。 シリーズセットのご案内 ●≪精神科臨床エキスパート≫ シリーズセット III 本書を含む3巻のセットです。  セット定価:本体15,500円+税 ISBN978-4-260-02007-7 ご注文ページ
シリーズ 精神科臨床エキスパート
シリーズ編集 野村 総一郎 / 中村 純 / 青木 省三 / 朝田 隆 / 水野 雅文
編集 水野 雅文
発行 2014年07月判型:B5頁:304
ISBN 978-4-260-01974-3
定価 6,380円 (本体5,800円+税)

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 平成25年から精神疾患が国の定める医療計画5疾病に加わり,精神科領域でもいよいよ予防,早期発見,早期治療の重要性と実現性が,具体的に語られる時代が参りました.早期からの適切な把握と支援により,疾病の進展と重症化を防ぎ,満足度の高い社会生活の実現を目指すことが,精神科地域ケアの目指す方向性だと思います.このような予防医学的発想と戦略は,身体疾患を対象とする一般医学領域においてはすでに当然のこととして積極的に取り組まれています.
 精神科臨床においても,近年の薬物療法・心理社会療法・診断技術の進歩,病院から地域へという視点の転換,さらに神経科学研究がもたらす脳機能に関するさまざまな新知見など,精神科領域における早期介入(early intervention)の実現に向けて世界中で大きな期待を膨らませています.
 確かに精神科領域における予防的視点は,まずは統合失調症をモデルに発展してきました.しかし臨床の場においては,統合失調症の早期発見やat risk状態からの発症頓挫のみを標的にしたアプローチなどありえません.当事者・家族は,精神病症状が顕在化するよりずっと前から,それぞれの症状や生活上の困難に対する援助を求めて受診や相談に来られます.この状態を的確にとらえ,医療,相談,観察や見守り,時には励ましも含めた適切なアプローチを行うことは,当事者・家族の負担軽減に加え,精神病の顕在発症を抑えるうえでも有効です.現代社会のなかで広がり続ける精神科サービスに対するニーズは,身近な,より一般的な精神身体症状を適切に把握し,その時点における適切なかかわりを行える専門家の養成を待っているということもできましょう.
 そのためにはまずわれわれ精神科医が,精神疾患の早期徴候の把握や治療について改めて勉強し,急な患者さんにも即応できる準備をする必要があります.そのうえで,地域においてはかかりつけ医や保健師とのネットワーク,学校では養護教諭やスクールカウンセラー,職域においては産業医や産業カウンセラーとの連携を築き,スティグマがなくアクセスのしやすい治療環境の構築を目指すことが求められているのだと思います.
 本書では,この分野の将来への展望にまで触れています.さまざまな切り口で早期治療の重要性を検討し,今後の発展のために必要な視点を共有したいと思います.
 人口減少社会のなかで,若者への支援は大切です.1人でも多くの若者が病いを乗り越え,かわし,自らの望む人生を送れるように,専門家としての適切なかかわりのあり方を読者の皆様とともに学んでいきたいと願います.
 《精神科臨床エキスパート》シリーズの1冊である本書では,こうした臨床実践のなかから,これからの精神科早期介入のあり方を考えるヒントとなる一書を目指しました.本書が,読者諸氏の日常の精神科臨床のお役に立つなら,編者にとって望外の喜びです.

 2014年6月
 編集 水野雅文

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 序論 なぜ早期段階の対応が重要か?
   はじめに
   早期介入の広がり
   早期介入を支持するエビデンス
   早期介入のモデル
   おわりに-医療化することが目的ではない

第1部 早期段階の主訴・症候の診方と鑑別
 第1章 不安
   はじめに
   臨床的な位置づけ
   実際の診察・診断の流れ
 第2章 抑うつ
   はじめに
   臨床的な位置づけ-病的な抑うつの見分け方
   実際の診察・診断の流れ
 第3章 思考障害と減弱精神病症状
   はじめに
   臨床的な位置づけ
   実際の診察・診断の流れ
 第4章 不眠
   はじめに
   臨床的な位置づけ
   実際の診察・診断の流れ
 第5章 不登校とひきこもり
   はじめに
   臨床的な位置づけ
   不登校への対応方針
   臨床的な位置づけ
   実際の診察・治療的支援の流れ
   おわりに
 第6章 希死念慮と自傷
   はじめに
   臨床的な位置づけ
   実際の診察・診断の流れ
   社会として自傷・自殺を防ぐアプローチ
   おわりに

第2部 疾患別の早期段階における徴候,治療,対応
 第1章 統合失調症
  A.早期徴候
   疾患概念と早期徴候の特徴
   診断のポイント
   臨床ケース
  B.早期段階の治療と対応
   はじめに
   早期精神病の治療
   早期精神病の予後
   臨床ケース-ARMS症例に対するCBTによる介入
   まとめ
 第2章 双極性障害
  A.早期徴候
   疾患概念
   早期徴候(早期再発徴候を含む)の特徴と診断のポイント
   臨床ケース
   まとめ
  B.早期段階の治療と対応
   治療
   予後
   臨床ケース
   まとめ
 第3章 うつ病
  A.早期徴候
   はじめに
   疾患概念と早期徴候の特徴
   診断のポイント
   臨床ケース
   おわりに
  B.早期段階の治療と対応
   はじめに
   早期段階のうつ病の治療
   予後
   臨床ケース
   おわりに
 第4章 不安障害の早期徴候と治療・対応
   はじめに
   疾患概念と早期徴候の特徴
   診断のポイント
   治療
   予後
   臨床ケース
   おわりに
 第5章 強迫性障害の早期徴候と治療・対応
   疾患概念と早期徴候の特徴
   診断のポイント
   治療
   予後と難治例への対応
   臨床ケース
   おわりに
 第6章 物質使用障害と行動嗜癖(アディクション)
   疾患概念と早期徴候の特徴
   診断のポイント
   治療
   予後
   臨床ケース
   おわりに

第3部 精神科未受診例の早期発見と支援
 第1章 学校における早期発見,早期支援
   はじめに
   学校保健の現状
   学校における精神保健
   学校における早期発見,早期支援の基盤
   学校との連携の実際
   臨床ケース
   おわりに
 第2章 産業現場での早期発見,早期支援
   産業現場におけるメンタルヘルス不調者の増加と国の対応
   産業現場におけるメンタルヘルス不調の基本的な考え方
   職場の体制整備
   個別対応としての面接や質問紙などの利用
   さまざまな連携の重要性について
   就労を支援するために
 第3章 地域(保健所/精神保健福祉センターなど)との連携
   はじめに
   保健所,精神保健福祉センターなどの基本的な役割
   臨床ケース
   地域精神行政機関との連携のコツと留意事項
   おわりに
 第4章 他科医受診を契機に発見される精神疾患
   はじめに
   精神疾患のはじまりと自律神経症状
   他科医が遭遇する医学的に説明困難な症状
   他科医と協同した精神医療の実現
   精神科医に求められること
 第5章 救急現場でみつかる精神疾患
   はじめに
   初療で遭遇する精神疾患の未治療患者
   身体疾患による症状との鑑別が困難な精神症状を呈しているケース
   アルコール・薬物による問題を生じるケース

第4部 早期治療をめぐるトピックス
 第1章 統合失調症の早期治療を支持するエビデンス
   はじめに
   統合失調症の経過と想定されている生物学的背景
   精神病未治療期間短縮の試み
   早期精神病に対する包括的早期介入
   ハイリスク群の精神病顕在発症を防止する試み
   早期介入に対する批判
   おわりに
 第2章 早期精神病治療の国際的ガイドライン
   はじめに
   国際的治療ガイドライン
   おわりに-治療ガイドラインの概観
 第3章 精神科早期治療の取り組み
   はじめに
   東邦大学医療センター大森病院
   ユースクリニック
   イル ボスコ
   イル ボスコの機能
   早期精神病ユースデイケアの意義と課題
   おわりに-重症化させないための早期治療
 第4章 海外の精神科早期治療ベストプラクティス
   はじめに
   英国のメンタルヘルス計画
   NHSのメンタルヘルスサービス
   精神病への早期介入サービス(EIP)の開発
   精神病初回エピソードの評価と治療
   おわりに
 第5章 精神科早期治療における臨床倫理
   はじめに
   医療倫理の原則
   顕在発症後の早期介入における倫理
   顕在発症前の早期介入における倫理
   おわりに
 第6章 早期介入のリスクとベネフィット-医療人類学的視点から
   早期介入の両義性
   早期介入の歴史
   ループ効果
   早期介入の明暗-リスク・アイデンティティ
   近代的時間,臨床的時間
 第7章 早期精神疾患をめぐる将来の研究の方向性
   はじめに
   精神病への移行の予測因子
   発症予防から機能的転帰の向上へ
   今後の研究の方向性-トランスレーショナルリサーチの可能性
   おわりに

索引

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早期段階の患者対応に迷う臨床現場へのヒント
書評者: 渡辺 洋一郎 (公益社団法人日本精神神経科診療所協会会長)
 まず,この本のタイトルに考えさせられた。言われてみればまさにそのとおり,重症化させないことが重要なのである。考えてみれば,一般身体疾患への対応は重症化させないことが治療の中心である。高血圧,糖尿病などほとんどの身体疾患は生理的にみれば根本的には治っているとは言い難いことが多い。何らかの対処や対応により,日常生活に支障なくコントロールできればそれで目的は達成しているといえるのである。精神疾患においてもまさに同じことがいえる。たとえ精神障害に罹患したとしても,最も重要なのは,本人にとって満足のできる日常生活が送れるようになるかどうかである。

 精神科医療においては「入院から地域へ……」と言われて久しい。国も2004年9月に策定された「精神保健医療福祉の改革ビジョン」において「入院医療中心から地域生活中心へ」という基本的方策をうたっている。確かに,長期入院患者を地域に移行し,地域で生活できるよう支援していくことは非常に重要なことである。しかし,同時に,地域で暮らしたいと希望する通院者ができるだけ入院しないですむような医療,重症化を防ぎ,満足した日常生活が送れるような支援を考えていかねばならない。さらには,市民の精神障害を予防できるところまで機能できればそれが最大の貢献であろう。精神疾患の予防という観点は重要である反面,さまざまな難しい面を有している。不安,抑うつなどといった症状は精神疾患として重要な症状であるが,同時に人間としてごく当たり前の情緒でもあり,どこから疾患として扱うのか……過剰診断,過剰治療の問題が取りざたされることも少なくない。そのほかにもプライバシーの観点,家族,学校,職場,社会からの視点も欠かすことができない。

 本書の序論で編者の水野雅文先生が「臨床現場にあって『発病していない人は診ません』という看板はありえない」と記されている。まさにその通りである。精神疾患も身体疾患と同様に予防,早期介入が有用であることは確かであろう。問題は診方と対応の方法なのである。いかに,目の前の対象者を生物学的のみならず,心理学的にも社会学的にも理解し,そして,適切な倫理的な配慮をもって対応できるかが問われている。本書はその方法論に的確なヒントを与えてくれる。随所に多角的な視点が盛り込まれており,治療導入のタイミング,あるいは患者・家族説明のポイントといった観点,学校や産業現場の視点,地域や他科医療機関・救急現場の視点,早期介入のリスク,あるいは臨床倫理の視点からも幅広く論述されている。

 これからの精神科医療を考えるべき今日,本書が発刊された意義は極めて大きい。
精神疾患の「予防・早期発見・早期治療」を学ぶ
書評者: 樋口 輝彦 (国立精神・神経医療研究センター理事長)
 国は「健康寿命の延伸」を健康日本21の目的の一つとし,さまざまな施策を展開している。健康長寿を実現するために最も大切なことは「病気の予防」であり「早期発見・早期治療」であろう。これは身体疾患だけでなく精神疾患にも当てはまる。病気の予防がいかに重要かについては,これまでにも保健の観点からさまざまなメッセージが発信されてきた。しかし,メンタルヘルスの領域では,予防医学は概念的には受け入れられても,具体的に何をどうすれば予防につながるのか,早期発見に至るのか,その道筋が見えないところがあった。最近,早期介入をすることが病気の予後を改善すること,治療に至るまでの時間が短ければ短いほど治療効果が高いことなどに関するエビデンスが集積されてきたことから,漠然としていた「予防」が中身を伴って語られるようになってきた。

 本書は以上のような今日的時代背景の中でまとめられた時宜にかなった書籍である。病気は突然始まるいわゆる急性の疾患(代表例は感染症)と,発症する前一定期間,前駆状態と呼ばれる非特異的な症状を示し,そのうちその疾患の本来の症状を呈する疾患に分かれるが,精神疾患の多くは後者に属する。この前駆状態は疾患特異的でないため,注意が向きにくく早期介入が困難であった。しかし,本書ではこの時期(前駆期)に焦点を絞り,これまで積み重ねられてきたエビデンスを総説することで早期介入のプロセスを明示した。

 本書は4部で構成されている。すなわち,第1部「早期段階の主訴・症候の診方と鑑別」,第2部「疾患別の早期段階における徴候,治療,対応」,第3部「精神科未受診例の早期発見と支援」,第4部「早期治療をめぐるトピックス」である。第1部は前駆状態の非特異的症状の代表とも言うべき「不安」「抑うつ」「思考障害と減弱精神病症状」「不眠」「不登校とひきこもり」「希死念慮と自傷」を取り上げ,それぞれの臨床的位置付けと実際の診断・治療の流れが要領よくまとめられている。第2部は逆に疾患ごとの早期徴候,早期段階の治療がまとめられており,中でも臨床ケースの項は解説も含めて読むと早期徴候の内容がよく把握できる。第3部は医療の現場にまだ登場しない,学校や産業現場などに隠れている未受診例の早期発見と支援を扱っている。第4部は統合失調症の早期治療を指示するエビデンス,早期精神病治療の国際的ガイドラインの紹介,日本と海外の具体的取り組みの紹介,早期治療における臨床倫理の問題,早期介入のリスクとベネフィット,将来の研究の方向性など多岐にわたるトピックスを扱うが,この本の神髄ともいえる内容で満たされている。

 最後に編集を担当された水野雅文先生の序論の最後の言葉が大変重要と思われるので引用させていただく。

 「早期介入の目的は健康人の医療化ではない。重症化させないアプローチをしっかり身につけ,自信をもって早期段階の精神疾患に向き合いたい」。

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