誤診症例から学ぶ
認知症とその他の疾患の鑑別
明日の診療をよりよいものにするためのコツとノウハウが満載
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うつ病や高齢発症てんかん、アルコール依存症など、高齢者でみられる精神・神経疾患の中には、その症状が認知症の症状と似通っているものも多く、両者の鑑別は非常に困難である。そのような「認知症もどき」の疾患について、経験豊かな執筆者らが自身の苦い経験(誤診・見逃し)を交えながら、鑑別診断のポイントなどを紹介する1冊。
シリーズセットのご案内
●≪精神科臨床エキスパート≫ シリーズセット II 本書を含む3巻のセットです。
セット定価:本体16,400円+税 ISBN978-4-260-01858-6 ご注文ページ
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
開く
序
DSM診断に慣れた世代の精神科医には馴染みが薄いかもしれないが,かつては精神疾患を表に示したように,大きく3分類して診断を考えるのが基本とされた.そして診断作法の基本として,まず外因性ではないことを神経学的所見などを踏まえて確認したうえで,次の内因性と心因性の可能性を検討すべしと教えられた.
表 従来の精神疾患分類法(従来診断)
外因性:脳への直接侵襲
脳器質性精神疾患
症状性精神疾患
中毒性精神病
内因性:原因不明,遺伝性?
統合失調症
躁うつ病
心因性:ストレスなど心理的要因
神経症
ところで医学雑誌『精神医学』には,ケースレポートのみならず「私のカルテから」という人気の高い投稿カテゴリーもある.系統的な臨床研究にはないレアケースの報告や,ある種の精神疾患に思いがけない薬剤が効果を奏したという内容の論文が寄せられる.そのような論文の中には,若い精神科医が筆頭著者になった誤診例や危うく誤診しそうになったケースの報告も少なくない.数年来,同誌の編集委員を務めさせていただく中でこうした諸ケースには,どうも共通するものがありそうだと感じるようになっていた.
改めて思い出してみると,外因性とされた器質性・症状性精神疾患を,内因性すなわち一般的な機能性精神疾患と診誤ったという内容が多いのである.少なからぬ精神科の教授たちが,若い精神科医は神経学的所見を取らなくなっていると指摘されるのを聞くことがあるが,そのようなことがこうした例の背景にあるのかもしれない.
現在わが国の精神科病院の入院患者のうち,認知症などの器質性疾患と診断されている人が15%以上に達したとされる.高齢化の進行とともに,現在入院患者の病名として最多の統合失調症を遠からず抜き去るのではないかという予測さえある.また私は認知症を専門にしているが,患者さんの団体などから認知症に絡んで精神科医療に対する意見やコメントを受けることも少なくない.その中で何度も言われて強く記憶に残るものがある.若年性認知症の診断に関して「当初うつ病と診断されて2年通った後に,実はアルツハイマー病ですと言われました.この年月をどうしてくれるの?」というものである.
以上のような現実があるだけに,好むと好まざるとにかかわらず,多くの精神科医には器質性精神疾患・症状性精神疾患と機能性精神疾患を鑑別する能力が求められる.とはいっても筆者にそのような鑑別能力が備わっているわけではない.むしろ本文で述べるような忘れられない痛恨の失敗や誤診をしてきた.
東日本大震災以降,がぜん注目されているものに失敗学がある.その根本は「失敗にはいくつかのパターンがある」という考えである.老年期精神疾患の鑑別の難しさと重要性を学ぶには,正統的な教科書スタイルというよりも痛恨の誤診症例を振り返って,失敗に至るパターンを学習することが効果的ではなかろうかと考えた.以上のような思いがあって本書を企画した.
本書の題名には敢えて「誤診症例」という言葉を用いた.その理由を,偉大な先達の言葉を拝借してここに説明しておきたい.
「誤診という言葉はかなりどぎつい響きをもっている.医者はみなこの言葉をはなはだしく忌み嫌う.学会報告でも“貴重な一例”とか“診断に困難をきたした症例”という演題はあっても,“誤診例”という報告はまず見当たらない.(中略)医者の間ではこの言葉をもう少し使ってもよいのではないか.あるいはその意味の取違いがないようにしておくとよい.(中略)診断とは必要なあらゆることを知り尽くそうとする終わりのない努力である」(山下 格:誤診のおこるとき-早まった了解を中心として.精神科選書3,診療新社,1997)
本書の執筆者には,認知症をはじめとする精神・神経疾患診療のエキスパートらが名を連ねている.今回は本書の主旨にご賛同くださり,各氏ご多忙中にもかかわらず,自身の苦いご経験を惜しみなく披露していただいた.ここに深く御礼申し上げるとともに,本書が読者諸氏の日々の診療において少しでも役に立つものになることを切に願っている.
2013年5月
編集 朝田 隆
DSM診断に慣れた世代の精神科医には馴染みが薄いかもしれないが,かつては精神疾患を表に示したように,大きく3分類して診断を考えるのが基本とされた.そして診断作法の基本として,まず外因性ではないことを神経学的所見などを踏まえて確認したうえで,次の内因性と心因性の可能性を検討すべしと教えられた.
表 従来の精神疾患分類法(従来診断)
外因性:脳への直接侵襲
脳器質性精神疾患
症状性精神疾患
中毒性精神病
内因性:原因不明,遺伝性?
統合失調症
躁うつ病
心因性:ストレスなど心理的要因
神経症
ところで医学雑誌『精神医学』には,ケースレポートのみならず「私のカルテから」という人気の高い投稿カテゴリーもある.系統的な臨床研究にはないレアケースの報告や,ある種の精神疾患に思いがけない薬剤が効果を奏したという内容の論文が寄せられる.そのような論文の中には,若い精神科医が筆頭著者になった誤診例や危うく誤診しそうになったケースの報告も少なくない.数年来,同誌の編集委員を務めさせていただく中でこうした諸ケースには,どうも共通するものがありそうだと感じるようになっていた.
改めて思い出してみると,外因性とされた器質性・症状性精神疾患を,内因性すなわち一般的な機能性精神疾患と診誤ったという内容が多いのである.少なからぬ精神科の教授たちが,若い精神科医は神経学的所見を取らなくなっていると指摘されるのを聞くことがあるが,そのようなことがこうした例の背景にあるのかもしれない.
現在わが国の精神科病院の入院患者のうち,認知症などの器質性疾患と診断されている人が15%以上に達したとされる.高齢化の進行とともに,現在入院患者の病名として最多の統合失調症を遠からず抜き去るのではないかという予測さえある.また私は認知症を専門にしているが,患者さんの団体などから認知症に絡んで精神科医療に対する意見やコメントを受けることも少なくない.その中で何度も言われて強く記憶に残るものがある.若年性認知症の診断に関して「当初うつ病と診断されて2年通った後に,実はアルツハイマー病ですと言われました.この年月をどうしてくれるの?」というものである.
以上のような現実があるだけに,好むと好まざるとにかかわらず,多くの精神科医には器質性精神疾患・症状性精神疾患と機能性精神疾患を鑑別する能力が求められる.とはいっても筆者にそのような鑑別能力が備わっているわけではない.むしろ本文で述べるような忘れられない痛恨の失敗や誤診をしてきた.
東日本大震災以降,がぜん注目されているものに失敗学がある.その根本は「失敗にはいくつかのパターンがある」という考えである.老年期精神疾患の鑑別の難しさと重要性を学ぶには,正統的な教科書スタイルというよりも痛恨の誤診症例を振り返って,失敗に至るパターンを学習することが効果的ではなかろうかと考えた.以上のような思いがあって本書を企画した.
本書の題名には敢えて「誤診症例」という言葉を用いた.その理由を,偉大な先達の言葉を拝借してここに説明しておきたい.
「誤診という言葉はかなりどぎつい響きをもっている.医者はみなこの言葉をはなはだしく忌み嫌う.学会報告でも“貴重な一例”とか“診断に困難をきたした症例”という演題はあっても,“誤診例”という報告はまず見当たらない.(中略)医者の間ではこの言葉をもう少し使ってもよいのではないか.あるいはその意味の取違いがないようにしておくとよい.(中略)診断とは必要なあらゆることを知り尽くそうとする終わりのない努力である」(山下 格:誤診のおこるとき-早まった了解を中心として.精神科選書3,診療新社,1997)
本書の執筆者には,認知症をはじめとする精神・神経疾患診療のエキスパートらが名を連ねている.今回は本書の主旨にご賛同くださり,各氏ご多忙中にもかかわらず,自身の苦いご経験を惜しみなく披露していただいた.ここに深く御礼申し上げるとともに,本書が読者諸氏の日々の診療において少しでも役に立つものになることを切に願っている.
2013年5月
編集 朝田 隆
目次
開く
第1部 総論 老年期における精神疾患の鑑別の難しさと重要性
総論 精神疾患診断の失敗学 器質性・症状性精神疾患診断の勘どころ
●誤診の原因とよくある失敗パターン
1.誤診の原因分類
2.具体的な誤診パターン
●精神神経学的な診断プロセス
●認知症の診断プロセス
1.問診での注目点
2.検査上の注目点
●精神症状から認知症診断へのフローチャート
1.認知症を疑う着眼点
2.「認知症かな?」と感じたときの問診
3.小テスト
●鑑別のためのポイント
1.想定外を想定するための心構え
2.鑑別診断のための必須事項
3.診断で失敗しないための習慣作り
第2部 各論 非認知症の疾患を認知症と見誤らないために
第1章 うつ病
Case 1 難治性うつ病が先行したレビー小体型認知症の男性例
65歳で初めてのうつ病?
Case 2 FTDの診断後に気分の浮き沈みが出現した男性
目立ち始めた「我が道を行く行動」
Case 3 双極性障害の既往があった女性例
気分障害-認知症スペクトラム
●うつ病と認知症(DLB)を鑑別するためのポイント
1.DLBとうつ病の鑑別
2.DLBのうつ症状の特徴
3.陥りやすいピットフォール
●うつ病,双極性障害などの気分障害とFTDを鑑別するためのポイント
1.前頭側頭型認知症(FTD)とは
2.FTDの症状
3.陥りやすいピットフォール
●うつ病,双極性障害などの気分障害と認知症(AD)を鑑別するためのポイント
1.陥りやすいピットフォール
第2章 遅発性パラフレニー・双極性障害・統合失調症
●遅発性パラフレニー
Case 1 幻聴で初発し老年期精神病と診断された女性
耳はほとんど聞こえないはずなのに…
Case 2 独居開始後に幻視や幻聴が始まった女性
1人暮らしの部屋に同居人?
Case 3 不潔でだらしなく,被害妄想がエスカレートしていた女性
幻聴や妄想はなくなったけれど,代わりに…
●鑑別診断のポイント
1.幻覚妄想で初発するアルツハイマー病は少なくない
2.脳器質性疾患における幻覚・妄想の特徴
●双極性障害(躁うつ病)
Case 4 躁うつで転院をくり返していた男性
双極性障害の経過中に徘徊や幻視が出現
Case 5 多弁や浪費などが出現した男性
躁状態の後,性格が変わった?
Case 6 誇大的言辞や睡眠欲求低下などから躁病と診断された男性
年を取ってから怒りっぽくなった
●鑑別診断のポイント
1.高齢発症の双極性障害の特徴
2.躁状態は加齢の影響を受けにくい
●統合失調症
Case 7 徐々に人格が解体していった男性
妄想・暴力・生活めちゃくちゃ…,「統合失調症」で決まり?
Case 8 20年で3回の入院歴があった女性
統合失調症ともやもや病
Case 9 統合失調症・躁状態の診断があった男性
けいれん発作の原因は?
Case 10 パーキンソン病の診断で外来通院していた女性
抗パーキンソン病薬を飲んだら幻覚妄想が出現?
●鑑別診断のポイント
1.症状精神病とせん妄
2.誤診のリスクが高い症状精神病とは?
3.疾患の特性を見逃さないために
●認知症を伴う脳器質疾患と診断され,機能性精神病などであった症例
Case 11 入院後に認知機能検査結果が改善した女性
徘徊するので,診断は認知症?
Case 12 抑うつ続き歩行困難などの症状が出現した男性
パーキンソン症状+幻視=レビー小体型認知症? (1)
Case 13 薬剤整理によりアカシジアなどの症状が改善した女性
パーキンソン症状+幻視=レビー小体型認知症? (2)
●鑑別診断のポイント
1.仮性認知症を見抜くためのコツ
2.パーキンソン症状・意識障害を伴う疾患は要注意
●アルツハイマー病,レビー小体型認知症,血管性認知症以外の認知症性疾患
Case 14 興奮状態から老年期精神病と診断された男性
剖検の結果は“進行性核上性麻痺”?
Case 15 医療保護入院で老年期精神病と診断された女性
嫌がらせ行為の原因は“神経原線維変化型老年期認知症”?
Case 16 人格変化を示し老年期精神病と診断された男性
病理診断で“嗜銀性顆粒型認知症”と判明
●鑑別診断のポイント
●正しい診断のために重要なこと
第3章 心気症・不安障害
Case 1 初診時は心気症状と不安が主とみられた女性
認知機能低下はみられなかったけれど…
Case 2 ここ2~3年で家に閉じこもるようになった女性
変貌の原因は身体症状と抑うつ症状?
Case 3 多彩な精神症状から不安障害+非定型精神病と診断されていた女性
向精神薬の効果がはっきりせず,副作用も出やすくなった
Case 4 物忘れに関する強迫的な訴えをしてくる男性
病識があるから認知症ではない?
Case 5 長期の身体愁訴にパニック発作を併発した女性
その内服薬,すべて必要?
Case 6 交通事故後に車への恐怖や抑うつなどが現れた女性
診断はPTSDで間違いない!?
●鑑別診断のポイント
1.全般性不安障害と認知症
2.身体表現性障害と認知症
3.強迫性障害と認知症
4.その他の不安障害と認知症
第4章 てんかん
Case 1 抑うつ,物忘れに加え応答不良が変動して出現した女性
過去の大きなイベントが思い出せない
Case 2 原因不明の全身けいれん発作がみられた男性
なぜ机や膝をぐるぐるなでるのか?
Case 3 うつの数か月後から未視感・恐怖・不安感などが出現した男性
神経心理検査は高得点で海馬萎縮硬化なし
Case 4 突然受け答えがちぐはぐになる女性
「人の名前も行く場所もわからない」
●てんかんと認知症の鑑別診断のポイント
1.認知症患者にてんかん発作が併存することが少なくない
2.認知症の症状か,てんかん発作かの鑑別が困難な状況がある
3.認知症との鑑別にはてんかん発作の症状を積極的に確認する
4.一過性てんかん性健忘の概念が最近注目されている
5.高齢発症の扁桃核腫大を伴う側頭葉てんかんについて
第5章 知的障害
Case 1 42歳でてんかん発作を起こした知的障害のある女性
ダウン症とアルツハイマー病の関係は?
Case 2 振戦の出現などでパーキンソン病が疑われた重度知的障害の男性
抗コリン薬を服用し始めたら迷子になるようになった
Case 3 20歳代から1人暮らしと作業所通いを続けていた男性
40歳になったら着替えができなくなった
●知的障害と認知症を鑑別するためのポイント
1.一度獲得した生活機能が低下したか
2.陥りやすいピットフォール
●知的障害者の認知症とは?
第6章 アルコール症
Case 1 当初は病的飲酒とは言えなかった男性
断酒指示から半年経って…
Case 2 宿泊先で徘徊騒ぎを繰り返す男性
酔ってチョコっと申し訳なかった
Case 3 毎晩日本酒8合を飲酒する男性
年相応のもの忘れを心配しすぎ?
●アルコール性認知症とアルツハイマー病の鑑別診断のポイント
1.アルコール性認知症とは?
2.萎縮や血流低下から考える鑑別点
●ビギナーが陥りやすいピットフォール
1.大量飲酒=アルコール依存症?
2.原則は「断酒」
第7章 薬物
Case 1 ベンゾジアゼピンによる認知機能障害があった男性
処方カスケード
Case 2 抗パーキンソン病薬による認知機能の変動を認めた女性
日中は眠くて考えがまとまらない
Case 3 鎮痛薬・鎮痙薬の中止で認知機能が改善した症例
薬剤性のせん妄に見えるけれど…
Case 4 腎炎の治療中に精神症状が出てきた女性
ステロイド精神病か,それとも認知症か
●薬物による認知障害
1.認知障害を引き起こす可能性のある薬物
2.薬物による認知機能障害の機序と臨床像
3.多剤併用による危険性
第8章 梅毒
Case 1 40代前半で認知機能が低下した男性
若年性アルツハイマー病と診断していたが…
Case 2 40代後半に浪費行動が出現した男性
行動障害といえば前頭側頭型認知症!
●誤診を防ぐために
1.神経梅毒とは
2.どのように見極めるか
●治療のポイント
1.駆梅療法の効果
2.ドネペジルは効くのか?
第9章 神経疾患における認知症様症状
Case 1 亜急性の経過で進行するアルツハイマー病とおぼしき男性
物忘れに加え四肢の運動失調と眼球運動障害が出現
Case 2 頭部CTで血管性認知症が疑われた女性
動脈硬化のリスクはなさそうだけれど…
Case 3 パーキンソン症状などからレビー小体型認知症と思われた女性
画像所見の左右差をどう考えるか?
Case 4 自己免疫性脳炎の治療後に悪化した軽度認知障害疑いの男性
造影MRIを行ってみたところ…
Case 5 抑うつ,不眠などから仮性認知症を疑った男性
遺伝子検査でなければわからないことは?
●神経疾患と認知症の鑑別ポイント
索引
総論 精神疾患診断の失敗学 器質性・症状性精神疾患診断の勘どころ
●誤診の原因とよくある失敗パターン
1.誤診の原因分類
2.具体的な誤診パターン
●精神神経学的な診断プロセス
●認知症の診断プロセス
1.問診での注目点
2.検査上の注目点
●精神症状から認知症診断へのフローチャート
1.認知症を疑う着眼点
2.「認知症かな?」と感じたときの問診
3.小テスト
●鑑別のためのポイント
1.想定外を想定するための心構え
2.鑑別診断のための必須事項
3.診断で失敗しないための習慣作り
第2部 各論 非認知症の疾患を認知症と見誤らないために
第1章 うつ病
Case 1 難治性うつ病が先行したレビー小体型認知症の男性例
65歳で初めてのうつ病?
Case 2 FTDの診断後に気分の浮き沈みが出現した男性
目立ち始めた「我が道を行く行動」
Case 3 双極性障害の既往があった女性例
気分障害-認知症スペクトラム
●うつ病と認知症(DLB)を鑑別するためのポイント
1.DLBとうつ病の鑑別
2.DLBのうつ症状の特徴
3.陥りやすいピットフォール
●うつ病,双極性障害などの気分障害とFTDを鑑別するためのポイント
1.前頭側頭型認知症(FTD)とは
2.FTDの症状
3.陥りやすいピットフォール
●うつ病,双極性障害などの気分障害と認知症(AD)を鑑別するためのポイント
1.陥りやすいピットフォール
第2章 遅発性パラフレニー・双極性障害・統合失調症
●遅発性パラフレニー
Case 1 幻聴で初発し老年期精神病と診断された女性
耳はほとんど聞こえないはずなのに…
Case 2 独居開始後に幻視や幻聴が始まった女性
1人暮らしの部屋に同居人?
Case 3 不潔でだらしなく,被害妄想がエスカレートしていた女性
幻聴や妄想はなくなったけれど,代わりに…
●鑑別診断のポイント
1.幻覚妄想で初発するアルツハイマー病は少なくない
2.脳器質性疾患における幻覚・妄想の特徴
●双極性障害(躁うつ病)
Case 4 躁うつで転院をくり返していた男性
双極性障害の経過中に徘徊や幻視が出現
Case 5 多弁や浪費などが出現した男性
躁状態の後,性格が変わった?
Case 6 誇大的言辞や睡眠欲求低下などから躁病と診断された男性
年を取ってから怒りっぽくなった
●鑑別診断のポイント
1.高齢発症の双極性障害の特徴
2.躁状態は加齢の影響を受けにくい
●統合失調症
Case 7 徐々に人格が解体していった男性
妄想・暴力・生活めちゃくちゃ…,「統合失調症」で決まり?
Case 8 20年で3回の入院歴があった女性
統合失調症ともやもや病
Case 9 統合失調症・躁状態の診断があった男性
けいれん発作の原因は?
Case 10 パーキンソン病の診断で外来通院していた女性
抗パーキンソン病薬を飲んだら幻覚妄想が出現?
●鑑別診断のポイント
1.症状精神病とせん妄
2.誤診のリスクが高い症状精神病とは?
3.疾患の特性を見逃さないために
●認知症を伴う脳器質疾患と診断され,機能性精神病などであった症例
Case 11 入院後に認知機能検査結果が改善した女性
徘徊するので,診断は認知症?
Case 12 抑うつ続き歩行困難などの症状が出現した男性
パーキンソン症状+幻視=レビー小体型認知症? (1)
Case 13 薬剤整理によりアカシジアなどの症状が改善した女性
パーキンソン症状+幻視=レビー小体型認知症? (2)
●鑑別診断のポイント
1.仮性認知症を見抜くためのコツ
2.パーキンソン症状・意識障害を伴う疾患は要注意
●アルツハイマー病,レビー小体型認知症,血管性認知症以外の認知症性疾患
Case 14 興奮状態から老年期精神病と診断された男性
剖検の結果は“進行性核上性麻痺”?
Case 15 医療保護入院で老年期精神病と診断された女性
嫌がらせ行為の原因は“神経原線維変化型老年期認知症”?
Case 16 人格変化を示し老年期精神病と診断された男性
病理診断で“嗜銀性顆粒型認知症”と判明
●鑑別診断のポイント
●正しい診断のために重要なこと
第3章 心気症・不安障害
Case 1 初診時は心気症状と不安が主とみられた女性
認知機能低下はみられなかったけれど…
Case 2 ここ2~3年で家に閉じこもるようになった女性
変貌の原因は身体症状と抑うつ症状?
Case 3 多彩な精神症状から不安障害+非定型精神病と診断されていた女性
向精神薬の効果がはっきりせず,副作用も出やすくなった
Case 4 物忘れに関する強迫的な訴えをしてくる男性
病識があるから認知症ではない?
Case 5 長期の身体愁訴にパニック発作を併発した女性
その内服薬,すべて必要?
Case 6 交通事故後に車への恐怖や抑うつなどが現れた女性
診断はPTSDで間違いない!?
●鑑別診断のポイント
1.全般性不安障害と認知症
2.身体表現性障害と認知症
3.強迫性障害と認知症
4.その他の不安障害と認知症
第4章 てんかん
Case 1 抑うつ,物忘れに加え応答不良が変動して出現した女性
過去の大きなイベントが思い出せない
Case 2 原因不明の全身けいれん発作がみられた男性
なぜ机や膝をぐるぐるなでるのか?
Case 3 うつの数か月後から未視感・恐怖・不安感などが出現した男性
神経心理検査は高得点で海馬萎縮硬化なし
Case 4 突然受け答えがちぐはぐになる女性
「人の名前も行く場所もわからない」
●てんかんと認知症の鑑別診断のポイント
1.認知症患者にてんかん発作が併存することが少なくない
2.認知症の症状か,てんかん発作かの鑑別が困難な状況がある
3.認知症との鑑別にはてんかん発作の症状を積極的に確認する
4.一過性てんかん性健忘の概念が最近注目されている
5.高齢発症の扁桃核腫大を伴う側頭葉てんかんについて
第5章 知的障害
Case 1 42歳でてんかん発作を起こした知的障害のある女性
ダウン症とアルツハイマー病の関係は?
Case 2 振戦の出現などでパーキンソン病が疑われた重度知的障害の男性
抗コリン薬を服用し始めたら迷子になるようになった
Case 3 20歳代から1人暮らしと作業所通いを続けていた男性
40歳になったら着替えができなくなった
●知的障害と認知症を鑑別するためのポイント
1.一度獲得した生活機能が低下したか
2.陥りやすいピットフォール
●知的障害者の認知症とは?
第6章 アルコール症
Case 1 当初は病的飲酒とは言えなかった男性
断酒指示から半年経って…
Case 2 宿泊先で徘徊騒ぎを繰り返す男性
酔ってチョコっと申し訳なかった
Case 3 毎晩日本酒8合を飲酒する男性
年相応のもの忘れを心配しすぎ?
●アルコール性認知症とアルツハイマー病の鑑別診断のポイント
1.アルコール性認知症とは?
2.萎縮や血流低下から考える鑑別点
●ビギナーが陥りやすいピットフォール
1.大量飲酒=アルコール依存症?
2.原則は「断酒」
第7章 薬物
Case 1 ベンゾジアゼピンによる認知機能障害があった男性
処方カスケード
Case 2 抗パーキンソン病薬による認知機能の変動を認めた女性
日中は眠くて考えがまとまらない
Case 3 鎮痛薬・鎮痙薬の中止で認知機能が改善した症例
薬剤性のせん妄に見えるけれど…
Case 4 腎炎の治療中に精神症状が出てきた女性
ステロイド精神病か,それとも認知症か
●薬物による認知障害
1.認知障害を引き起こす可能性のある薬物
2.薬物による認知機能障害の機序と臨床像
3.多剤併用による危険性
第8章 梅毒
Case 1 40代前半で認知機能が低下した男性
若年性アルツハイマー病と診断していたが…
Case 2 40代後半に浪費行動が出現した男性
行動障害といえば前頭側頭型認知症!
●誤診を防ぐために
1.神経梅毒とは
2.どのように見極めるか
●治療のポイント
1.駆梅療法の効果
2.ドネペジルは効くのか?
第9章 神経疾患における認知症様症状
Case 1 亜急性の経過で進行するアルツハイマー病とおぼしき男性
物忘れに加え四肢の運動失調と眼球運動障害が出現
Case 2 頭部CTで血管性認知症が疑われた女性
動脈硬化のリスクはなさそうだけれど…
Case 3 パーキンソン症状などからレビー小体型認知症と思われた女性
画像所見の左右差をどう考えるか?
Case 4 自己免疫性脳炎の治療後に悪化した軽度認知障害疑いの男性
造影MRIを行ってみたところ…
Case 5 抑うつ,不眠などから仮性認知症を疑った男性
遺伝子検査でなければわからないことは?
●神経疾患と認知症の鑑別ポイント
索引
書評
開く
必要性が増す認知症診療に適切に対処するために
書評者: 門司 晃 (佐賀大教授・精神医学)
まず『誤診症例から学ぶ』というタイトルが刺激的かつ魅力的である。編者の序文にも紹介されているが,北海道大学名誉教授である山下格先生の『誤診のおこるとき―早まった了解を中心として』という名著も過去にあり,評者は多くをこの著作から学ばせていただいた。やはり,「とくに失敗からこそ,人は多くを学ぶものである」というのが素直な現場感覚と思われる。
本書の内容を紹介すると,まずは編者が執筆した第1部「総論」では誤診の原因とその分類が取り上げられている。臨床診断を誤る6パターンとして,未知による失敗,無知による失敗,不注意による失敗,手順の不遵守による失敗,誤判断による失敗,調査・検討の不足による失敗が挙げられ,おのおのに対応する具体的な誤診パターンが紹介されている。続いて,ベッドサイドでもすぐに役に立つ認知症診察のポイントが簡潔かつ明瞭に述べられている。最後に「診断で失敗しないための習慣作り」という項が設けられている。具体的内容は本書をぜひご覧になっていただきたいが,まさに編者の臨床家としての深い知恵が開陳されている。
第2部「各論」ではうつ病,遅発性パラフレニー・双極性障害・統合失調症,心気症・不安障害,てんかんなどの各疾患と認知症との関係について9章にわけて複数の誤診例を取り上げている。各論のそれぞれの章は第一線の専門臨床医によって書かれている。各論全体では46の誤診例が紹介され,症例報告とその解説,そのあとに正しい診断にいたるための勘所,関連する重要事項の提示というスタイルをとっている。目次にもおのおのの症例に関しての簡潔な紹介文が記されているので,読者はそれに基づいて,興味を引く頁を開くことができるようになっている。この点は日頃多忙な臨床医にとって極めて親切な配慮と思われる。なぜ誤診が起きたのかのポイントは青字で所々に強調されているが,「疾患を一元的にみるか,二元的にみるかは,診断学では重要な点である」「医師は,診断をするうえで決定的と思えるほどに重要な病歴や検査結果があると,他の診断の可能性について無意識のうちに排除しようとする傾向がないとはいえない」といったすべての臨床家にとっての金言が紹介されている。総論・各論を通じて,随所に参考文献が提示されている。いくつかの項の紹介文献を実際にあたってみたが,読者がさらに知見を深める上で有用と思われる重要な文献が新旧を問わず選ばれていた。
評者は前任の大学病院および現在勤務の大学病院において,認知症疾患医療センターの設立に加わった経験を持つが,どちらの大学でも神経内科と精神科が連携して,認知症を診る形式をとっている。この形式は認知症のような神経内科学と精神医学のいわば「ニッチ」に存在する疾患診療には極めて理想的と考えるが,どこでもこのような形式が存在するわけではない。これからますます必要性が増大する認知症診療に精神科医が適切に対処するために,ぜひ本書を精読されることをお薦めしたい。
書評者: 門司 晃 (佐賀大教授・精神医学)
まず『誤診症例から学ぶ』というタイトルが刺激的かつ魅力的である。編者の序文にも紹介されているが,北海道大学名誉教授である山下格先生の『誤診のおこるとき―早まった了解を中心として』という名著も過去にあり,評者は多くをこの著作から学ばせていただいた。やはり,「とくに失敗からこそ,人は多くを学ぶものである」というのが素直な現場感覚と思われる。
本書の内容を紹介すると,まずは編者が執筆した第1部「総論」では誤診の原因とその分類が取り上げられている。臨床診断を誤る6パターンとして,未知による失敗,無知による失敗,不注意による失敗,手順の不遵守による失敗,誤判断による失敗,調査・検討の不足による失敗が挙げられ,おのおのに対応する具体的な誤診パターンが紹介されている。続いて,ベッドサイドでもすぐに役に立つ認知症診察のポイントが簡潔かつ明瞭に述べられている。最後に「診断で失敗しないための習慣作り」という項が設けられている。具体的内容は本書をぜひご覧になっていただきたいが,まさに編者の臨床家としての深い知恵が開陳されている。
第2部「各論」ではうつ病,遅発性パラフレニー・双極性障害・統合失調症,心気症・不安障害,てんかんなどの各疾患と認知症との関係について9章にわけて複数の誤診例を取り上げている。各論のそれぞれの章は第一線の専門臨床医によって書かれている。各論全体では46の誤診例が紹介され,症例報告とその解説,そのあとに正しい診断にいたるための勘所,関連する重要事項の提示というスタイルをとっている。目次にもおのおのの症例に関しての簡潔な紹介文が記されているので,読者はそれに基づいて,興味を引く頁を開くことができるようになっている。この点は日頃多忙な臨床医にとって極めて親切な配慮と思われる。なぜ誤診が起きたのかのポイントは青字で所々に強調されているが,「疾患を一元的にみるか,二元的にみるかは,診断学では重要な点である」「医師は,診断をするうえで決定的と思えるほどに重要な病歴や検査結果があると,他の診断の可能性について無意識のうちに排除しようとする傾向がないとはいえない」といったすべての臨床家にとっての金言が紹介されている。総論・各論を通じて,随所に参考文献が提示されている。いくつかの項の紹介文献を実際にあたってみたが,読者がさらに知見を深める上で有用と思われる重要な文献が新旧を問わず選ばれていた。
評者は前任の大学病院および現在勤務の大学病院において,認知症疾患医療センターの設立に加わった経験を持つが,どちらの大学でも神経内科と精神科が連携して,認知症を診る形式をとっている。この形式は認知症のような神経内科学と精神医学のいわば「ニッチ」に存在する疾患診療には極めて理想的と考えるが,どこでもこのような形式が存在するわけではない。これからますます必要性が増大する認知症診療に精神科医が適切に対処するために,ぜひ本書を精読されることをお薦めしたい。
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