APAに学ぶ
看護系論文執筆のルール

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“常識”としてこれまで明文化されることが少なかった、論文を書く者の心構え、投稿のルール、論文の種類と構成、引用の仕方、文献リストの作り方といった論文執筆から発表までの“お作法”を「基本」「原則」「例外」「提言」の形式に整理して提示。『APA論文作成マニュアル』の訳者が、APA方式の考え方を日本語の論文執筆に応用する場合の実践的ヒントをやさしく解説。看護学生や臨床看護師がすぐに使える1冊をめざした。
前田 樹海 / 江藤 裕之
発行 2013年01月判型:A5頁:116
ISBN 978-4-260-01739-8
定価 1,980円 (本体1,800円+税)
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はじめに

 本書は、研究論文を書くために知っておいてもらいたい知識、知っておくと役に立つ情報を、最新版の『APA論文作成マニュアル』(アメリカ心理学会[APA],2010/2011)の内容に沿って、必要な事項を厳選し、できるだけ簡単に説明したものです。タイトルにあるように、看護系の研究論文を書く人全般が本書の想定する読者ではありますが、看護学生の卒業研究等でもすぐに使えるような内容をめざしました。
 APA〈エイピーエイ〉とは、American Psychological Association(アメリカ心理学会)の略語です。本書の考え方のベースになっている『Publication Manual of the American Psychological Association』は、もともとは、アメリカ心理学会が発行する学術誌に投稿するための執筆ガイドラインをまとめた本です。今日では、心理学のみならず、教育学、社会福祉学、看護学、経営学など幅広い学問分野の研究者や学生に広く利用されています。今日の多くの看護系論文がAPA方式で書かれていることからもわかるように、『APA論文作成マニュアル』は、看護研究の分野で論文を書くには必須の参考書と言ってよいでしょう。しかし、その内容は網羅的で、特にはじめて論文を書こうとする人にとっては詳しすぎる面もあります。また、英語論文を書くためのマニュアルなので、必ずしも日本語論文の執筆にマッチしていない点もあります。
 『APA論文作成マニュアル』の内容に沿うと言っても、本書はそのコピーではありません。日本語による論文作成を念頭におき、『APA論文作成マニュアル』に書かれていない内容でも、知っておいてほしいと考えるものは取り上げています。また同書に書かれている内容でも、日本の看護教育の現場や学術論文の出版事情にそぐわないものは省略したり、カスタマイズした部分もあります。しかしそういう場合でも、論文作成におけるAPAの掲げるフィロソフィは最大限尊重しています。
 本書から論文執筆の作法や考え方を学ぶのみならず、本書をきっかけに、自分の論文を通じて看護の知識ベースに自分の知見を積み上げる意義や楽しさを見出していただければ、著者としてこれほどうれしいことはありません。

 2012年12月 前田樹海・江藤裕之

アメリカ心理学会[APA].(2010/2011).前田樹海,江藤裕之,田中建彦(訳),APA論文作成マニュアル(第2版).医学書院.

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はじめに
本書の使い方

第1章 論文執筆の心構え
 「論文を書く」ということ
 剽窃と自己剽窃
 二重出版(二重投稿)と断片的出版
 オリジナリティの尊重と正確さの保証
 倫理的配慮
 著作権の基礎と論文発表

第2章 論文の種類と構成
 看護系論文の一般的な種類
 原著論文の一般的な構成
 タイトル
 著者名
 アブストラクト
 序文
 方法
 結果
 考察
 結論、謝辞
 引用文献リスト、注、付録

第3章 論文の執筆から投稿まで
 論文を書く前にチェックしておくこと
 執筆要領と論文にふさわしいスタイル
 適切な文の長さと文体上の注意点
 わかりやすい文章を書くために
 知っておきたい査読のルール

第4章 データの提示方法
 数値や文字の表記方法
 単位の表記方法
 統計の表示方法
 図表を用いたデータ表示
 表の作成
 図の作成

第5章 文献の引用
 引用とは
 引用のしかた
 引用の形式
 APA方式による本文中の引用

第6章 文献リスト
 文献リストとは
 文献リストの項目の並べ方
 著者の表示
 年号の表示
 タイトルの表示
 出版データの表示
 学術誌収載論文の基本書式と記載例
 書籍の基本書式と記載例
 新聞記事の基本書式と記載例
 事典・辞書の項目の基本書式と記載例
 その他の文献の基本書式と記載例

おわりに
索引

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看護精神あふれる論文執筆指南の書 (雑誌『看護研究』より)
書評者: 佐藤 勢紀子 (東北大学高等教育開発推進センター日本語研修室教授)
 評者の思い込みかもしれないが,看護師といえば,患者の状態につねに細かく気を配り,その心身を癒してくれる優しくて頼りになる人たち,というイメージがある。そういう意味では,このルールブックは,論文執筆に苦悩する「患者」にとっての「看護師」のような本である。

 著者の前田樹海氏は,ソニー(株)での勤務(経営管理業務)を経て,NPO法人在宅ケア協会で訪問看護の現場経験を積み,その後,看護学の学位を取得して看護大学で教鞭をとるに至ったという経歴の持ち主である。一方の江藤裕之氏も,言語学が専門であるものの看護大学での教育経験があり,看護学に関する知識と理解が深い。そのようなお二人によって書かれたこの本は,APAマニュアルに即して書かれた信頼に足る内容といい,「痒いところに手の届く」懇切丁寧な解説といい,目に優しい見やすいレイアウトといい,看護精神がすみずみまで満ちあふれた著作である。看護学の論文や報告を書く必要に迫られながら,執筆上の細かいルールの問題で壁に突き当たり,日々の忙しさの中で書く手が止まってしまっている多くの人々にとって,まさに福音であるといえよう。

 本書は6つの章によって構成されている。第1章「論文執筆の心構え」では,論文とは何か,から始まって,研究者が守るべき倫理上の規範が明確に記されている。看護学に限らず,どの分野でも,研究を始めようとする人が知っておくべき内容である。

 続く第2章では論文の種類と構成が,第3章では論文の執筆から投稿までの注意すべきポイントが,簡潔にわかりやすく示されている。この部分では,「知っておきたい査読のルール」という項目が,とりわけ興味深い。運悪く不採用となった場合も,落ち込む必要はないというメッセージ(136提言)は,著者から論文の書き手への力強いエールとして受け止めたい。

 第4章「データの提示方法」には,看護情報学を専門とする前田氏の知見が凝縮されている。特に量的データを扱う論文の書き手には,必読の章である。

 第5章,第6章の文献の引用と文献リストに関するルールは,どの研究分野でも複雑で理解しにくい点が多く,疑問が生じやすいところである。例えば,文献著者が5名の場合と6名の場合で文献初出の際の著者名の書き方が違う(203・204提言)などということは,普通はあまり教えられない。境界線を4名と5名の間に置いても別にいいではないかとも思うが,論文執筆の初心者は,このような些細な点で途方に暮れるものである。こうしてルールブックに明記してあれば,安心して書き進めることができる。また文献リストの書き方で,オンライン出典の最新の記載方法が詳細に解説されている点も,論文執筆者の大きな助けになるに違いない。

 看護学はもとより,どの分野でも,研究論文を書こうとする人が本書から得るものは大きいと思われる。2人の著者の見識の高さと「看護師魂」に敬意を表したい。

(『看護研究』2013年6月号掲載)
APAのエッセンスを押さえた日本語論文執筆マニュアル (雑誌『看護教育』より)
書評者: 朝倉 京子 (東北大学大学院医学系研究科保健学専攻看護教育・管理学分野教授)
 本書は,アメリカ心理学会(APA:American Psychological Association)の論文執筆マニュアル(Publication Manual)の考え方をベースにして書かれた日本語論文執筆マニュアルと言ってよいだろう。著者である前田氏と江藤氏は,APAのPublication Manual第二版の翻訳者でもあるので,本書はAPAのエッセンスを押さえつつ,日本の看護学術界の状況をふまえた論文執筆のガイドとなっている。APAのエッセンスを押さえてあるので,英語論文の執筆にも役に立つのが魅力だ。

 論文を書くのは常に大仕事である。大量の文献を読み,説得力をもってデータを示し,制限字数のなかで一貫性を保ちつつ論理的に展開するのは誰にとっても大変な作業だ。こういった大仕事と並行して,細かい字で書かれた分厚い論文執筆マニュアルを読むのを苦痛に感じる人は多いのではないかと思う。実は,私自身がそうである。APAのマニュアル最新版(英語)は購入しているが,なかなかマニュアルを読み解く気力がおきないまま本棚に並んでいる。APAマニュアルを読む必要性は知っているが,実はきちんと読んだことがないという私のような方々は,多数いらっしゃるのではないかと想像する。そういう方々にとっては,この本の出版はまさに福音である。

 この本の前半(第1章~第3章)は,論文執筆の心構え,論文の種類と構成,論文のスタイルや文体などに関する章であり,論文を書く前に読んで心に留めておくとよい内容といえる。後半(第4章~第6章)は,論文でのデータの提示方法,文献の引用方法,文献リストの記載方法に関するテクニカルな内容になるので,論文を書きながら必要なときに参照するのが効果的と思われる内容で占められている。もちろん,どの章もよく構造化され,小見出しが豊富で,内容はすべて箇条書きで整理されているので,必要なところから読んで理解できるのも魅力である。

 この本を読みやすくしているのは,箇条書きでの簡潔な記載の頭に「基本」「提言」「原則」「例外」との区分が明記されていることである。「基本」はAPAマニュアルから抜粋された事項であり,準拠すべき事項といえる。「提言」は定説ではないものの便利な手法として著者たちが薦める事項である。「原則」は原則的な考え方であるが,学会誌等によっては多少異なる場合がある事項で,「例外」は原則の例外事項である。この区別を見ながら読み進めれば,準拠すべき事項と,自分で考えて対応できる事項との判断に迷わない。

 願わくは,本家APAマニュアルの改訂に伴ってこの本も適宜改訂していただきたい。その際には「改訂」のマーク付きで,APAマニュアルの改訂点が示されると,一読者としてはとてもありがたいのだが,それは望みすぎだろうか。

(『看護教育』2013年4月号掲載)

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