がんサバイバー
医学・心理・社会的アプローチでがん治療を結いなおす

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がんと診断された日を患者もその家族も忘れることはない-「がんサバイバー」とはがんを克服した人だけを指すのではない。がんと診断された時から人はサバイバーとなり、一生サバイバーであり続ける。診断・治療時、再発監視時、完治後の各々に異なるニーズとケアを理解し、可能な限り高い質で生きていけるようサバイバーを支援するにはどうすればよいか。医療者が知っておくべき医療・心理・社会的支援の知識を解説。
原書編集 Kenneth D. Miller
監訳 勝俣 範之
金 容壱 / 大山 万容
発行 2012年06月判型:A5頁:464
ISBN 978-4-260-01522-6
定価 4,400円 (本体4,000円+税)

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監訳の序

 がんサバイバーは,がんが治癒した人だけを意味するのではなく,がんと診断された直後から,治療中の人,また,その家族,介護者も含めて定義されている(全米がんサバイバーシップ連合).その意味では,サバイバー(生存者)というよりも,がん体験者あるいは,がん経験者といったほうが理解しやすいかもしれない.現在米国では,1,200万人を超えるがんサバイバーが存在しているとされる.米国では古くからがんサバイバーに対するさまざまな取り組みがなされてきており,国立がん研究所(National Cancer Institute;NCI)にも,1996年にがんサバイバーシップ室(Office of Cancer Survivorship;OCS)が設置され,がんサバイバーシップに関する研究・教育の推進を行ってきている.
 わが国では,2006年にがん対策基本法が制定されたが,がんサバイバーシップに対する取り組みはまだまだ遅れているといえる.本書は,がんサバイバーに対する医学・心理・社会的アプローチによるケアについて記された日本語での初めてのテキストである.本書の特徴としては,がんサバイバーのさまざまな問題に対して,エビデンス・ベーストに詳細に記述されている点が挙げられ,要所に実例が「症例」として紹介されているため,日常診療を実践するうえで,かなり参考になると思われる.また,わが国でも取り組みが遅れているセクシュアリティの問題,子育ての問題,家族と介護者の問題にまで記載は及んでおり,今後大いに参照されるようになると思われる.
 本書は,腫瘍内科医であるDr. Millerによって編集されており,現場の臨床医として,患者さんの目線でなければ書けなかった内容がちりばめられている.同じく腫瘍内科医である聖隷浜松病院の金 容壱医師が,臨床現場で直面し,日頃悩んできた患者さんのケアについて,丁寧に答えが書いてあると,私に紹介してくださったのが本書である.金医師の患者さんに対する熱い想いがなければこの訳書は存在し得なかった.驚くべき短期間で翻訳実務をしてくださった金医師と,二人三脚で翻訳書独特の不自然さから放たれた美しい日本語を訳出してくださった大山万容さんに敬意を表する.
 腫瘍内科医は,抗がん薬を投与するだけの専門医ではない.がん患者さんのあらゆる問題に対して,ともに悩み,ともに闘っていく患者さんのよきパートナーとなることが真の腫瘍内科医になるためのミッションである.本書は,そのような腫瘍内科医にとってのバイブルとなるであろうし,また,その他がんに関わる医師,看護師,薬剤師他,がん患者さんに関わるあらゆる医療者,また患者さん,患者グループの多くの方々に読まれ,わが国で,がんサバイバーシップを医療者,患者さんとともに考え,取り組んでいくための道標となってくれることを期待したい.

 2012年4月
 勝俣範之

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序章

第1部 総論
1.がんサバイバーの課題
2.がんサバイバーシップの現在
 要旨/序論/成功の代償/なぜがんサバイバーシップという概念が重要なのか/
 がんサバイバーから得られる教訓/結論

第2部 心理的問題
3.がんの症状がもたらす負担:気分障害・痛み・倦怠感・睡眠障害の管理
 要旨/序論/がんサバイバーは普通の生活を取り戻し続ける/
 疾患特有の症状はサバイバーシップに積み残されることがある/気分障害/
 倦怠感と睡眠障害/痛み/まとめと推奨されるいくつかのこと
4.がんサバイバーにおける心的外傷後ストレス
 要旨/序論/ウェルネス・コミュニティについて/慢性疾患としてのがん/
 ウェルネス・コミュニティによる苦悩の研究:理論的モデルのためのケース/
 社会認知処理モデル
5.がん経験に利点を発見する:心的外傷後の成長
 要旨/序論/トラウマ的経験としてのがん/
 ベネフィット・ファインディングの現象/べネフィット・ファインディングの測定/
 ベネフィット・ファインディング:現実の変化なのか? 動機づけされた幻想なのか?/
 どのようなサバイバーが最も恩恵を見つけやすいか/
 ベネフィット・ファインディングとメンタル・ヘルスの関係/
 サバイバーのベネフィット・ファインディングを促進する介入/
 まとめと医療者への提言
6.がん後のセクシュアリティと性的愛情表現
 要旨/がん関連の性的問題の有病率と類型/診断と治療の選択肢/
 性的機能障害について支援を求める男女は少ない/
 がん関連の性的機能障害についての援助希求行動(男性)/男性のための介入/
 がん関連の性的機能障害についての援助希求行動(女性)/女性のための介入/結論
7.がんを経た後の男性セクシュアリティと妊孕性
 要旨/序論/妊孕性温存/セクシュアリティへのがん治療による影響/
 精子の冷凍保存の問題/精巣がんサバイバーにおけるボディ・イメージと性機能/
 勃起機能障害/患者のセクシュアリティと性的愛情表現に関するコミュニケーション/
 コミュニケーション成功のために推奨されること/
 プライマリ・ケアにおける自己アセスメント/まとめ
8.がんサバイバーにおける妊孕性と親になること
 要旨/序論/がん関連不妊の有病率/男性におけるがん関連不妊の関連要因/
 女性におけるがん関連不妊/男女のための実践ガイドラインの必要性/
 がん後に養子をとることについてのカウンセリング
9.前立腺がん患者の治療選択とQOL
 要旨/序論/治療手段/治療手段とQOLの問題/
 初期前立腺がんと診断された患者のための治療方針決定のプロセス/
 治療方針決定と後悔/結論
10.がんサバイバーのための遺伝カウンセリングと遺伝子検査
 要旨/序論/家系図の抽出/がんサバイバーへのリスク・アセスメント/
 がん遺伝子カウンセリング/有益な遺伝検査/がん発症の生涯リスク/
 経過観察とリスク軽減の方策/保険における差別的待遇/
 がんサバイバーの心理的・社会的問題/結論
11.サバイバーシップにおける子育ての課題
 要旨/序論/よくある懸念と疑問/医療者への実践的アドバイス/結論
12.家族と介護者:力強い味方であること-社会・コミュニティの視点
 要旨/序論/介護のストレスは大きい/筆者らの研究の知見/
 介護者のバーンアウト/オンラインでの介護者サポート/結論

第3部 疫学的問題
13.身体活動と乳がんの予防・予後
 要旨/序論/生物学的機序と中間エンドポイント/
 がん診断後に身体活動を増やすための戦略/まとめ
14.がんサバイバーの食事と予防医学
 要旨/序論/食事と活動のガイドライン/サプリメント/結論
15.「二次がん」の疫学
 要旨/序論/成人のがんサバイバーにおける代表的な「二次がん」/結論
16.放射線治療に関連する悪性腫瘍
 要旨/序論/ホジキン病の治療法の変遷/現代におけるホジキン病の治療/
 ホジキン病の放射線療法後の乳がんリスク/放射線治療の適応への影響/実践的考察
17.化学療法に関連する悪性腫瘍:白血病,非ホジキンリンパ腫と固形腫瘍
 要旨/序論/ホジキン病/精巣がん/乳がん/得られた教訓/実践的考察
18.小児がんを経た成人サバイバーにおける健康上の問題
 要旨/慢性的な健康上の問題/治療と健康ニーズに関するサバイバーの知識/
 医療の利用/健康保険と雇用/ケア・モデル/結論

第4部 医学的問題
19.がん治療による心臓への長期的影響
 要旨/序論/化学療法/放射線治療/心保護/結論
20.がんサバイバーにおける肺障害
 要旨/序論/化学療法と放射線治療の短期的な毒性/晩期・長期的肺障害/
 放射線治療/長期にわたり考慮する点/結論
21.がんサバイバーにおける消化管障害と肝障害
 要旨/序論/消化管の正常機能と役割/放射線性食道炎/胃/小腸/
 放射線性大腸炎/肝臓/移植片対宿主病/二次性鉄過剰/肝中心静脈閉塞症
22.がん治療における神経障害
 要旨/手術/放射線治療/化学療法
23.がんサバイバーにおける腎障害
 要旨/腎障害の確認と診断/がん患者における腎障害の原因/腎障害の臨床的コース
24.がんによる眼症状
 要旨/序論/がんの眼転移/白血病とリンパ腫/がんの全身症状からくる眼症状/
 日和見感染症/化学療法における眼症状/放射線治療による眼症状/
 骨髄移植による眼症状/腫瘍随伴性眼障害/全身悪性腫瘍による様々な眼症状/
 まとめ
25.がん治療による聴覚障害
 要旨/生活の質の問題/放射線治療の後遺症/化学療法の後遺症/治療
26.がん治療による内分泌障害
 要旨/副腎/性腺機能/下垂体/甲状腺/骨粗鬆症/まとめ
27.がんサバイバーにおける骨・筋・皮膚の問題
 要旨/序論/化学療法後リウマチ/
 薬物および放射線誘発性の筋骨格系障害と結合組織疾患/骨障害/
 リウマチと悪性腫瘍/結論
28.認知機能障害-「ケモブレイン」
 要旨/序論/背景/病態生理学/現在進行中の,そして未来の研究/
 認知リハビリテーションと治療
29.がんサバイバーにおける妊孕性保護
 要旨/序論/確立された治療法/実験的な治療戦略/まとめ
30.手術後リンパ浮腫:評価と治療
 要旨/リンパ器系とがん治療/二次性リンパ浮腫の定義と種類/
 二次性リンパ浮腫の評価と鑑別診断/二次性リンパ浮腫の治療/
 二次性リンパ浮腫の予防/二次性リンパ浮腫に関する研究の動向
31.結論

訳者あとがき
索引

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がん罹患に伴う問題が手軽に読みこなせる専門的一般書
書評者: 佐藤 禮子 (関西国際大学副学長・保健医療学部学部長)
 「がんは個人の世界観を根本的に変えてしまうため,多くの人が人生や人間関係,そして自分自身についての核となる原点を問いなおすようになる」。

 “がんは身の内”“がん細胞はわが身の一部が変化したもの”,等々,人はさまざまにがんの正体を表現するが,冒頭の一文は,正に言いえて妙と言いたい。本書で記されるがんの定義として「がんとは人生の長きにわたって経験される複合的なトラウマ的出来事であり,告知や,治療,副作用,再発への恐怖,死への恐怖といった数多くの不快な経験により定義されるものである」という記述も,また胸に響く。本書は,がんの専門家が自らの体験や身近ながんサバイバーとの日常生活から得た生きた知識や知恵をヒントに,それらを科学的に証明して解説したり,あるいは引用文献に基づいて解説したりしている。

 「がんと診断されたその瞬間に人はがんサバイバー(がん生存者,cancer survivor)となる」。すなわち,がんの診断を受け入れたときから,その人はサバイバーとして生き続ける存在となる。サバイバーには,がん症状によりもたらされる負担(burden)があり,それは疾患特有の生理的作用に関連した症状であることが多いと説く。そしてがんサバイバーは,自分のQOLを取り戻すための回復力(resilience)を働かせ,慢性疾患としてのがんに取り組み,問題に対処する。本書は,事実や研究によって明らかとなった人間の心理に鋭く突っ込んだ解説を行っている。そこには,5.がん経験に利点を発見する:心的外傷後の成長,6.がん後のセクシュアリティと性的愛情表現,7.がんを経た後の男性セクシュアリティと妊孕性,8.がんサバイバーにおける妊孕性と親になること,11.サバイバーシップにおける子育ての課題,等々,通常の専門書ではあまり扱わない,それでいて普通の生活に欠くことのできないがん罹患に伴う問題が,手軽に読みこなせるように書かれている。専門的一般書といえよう。手元に置いて,思いついたときには,いつでもさっと広げて読む。すると,常に何らかのヒントが得られる。

 本書は4部構成となっているが,項目すべて通し番号となっており,各章がそれぞれのテーマとして独立しているので,必要な時に必要な部分を直ちに利活用できる仕組みである。非常に滑らかで質の高い日本語による訳出となっており,医療者のみならず,学生,そしてがんを知りたい患者や家族の方々にも,手軽に読んでいただきたいものである。
あらゆる医療者のためのサバイバーシップ指南書
書評者: 内富 庸介 (岡大大学院教授・精神神経病態学)
 一昔前,がんサバイバーというと「治療後5年を経過した稀な幸運な人」を意味し,最初の5年間は医師も患者も専ら疾患コントロールに傾注し,心の問題は後回しという風潮ではなかったかと思う。現在では,生存率の大幅な改善とともに,米国のサバイバーは1,200万人に達した。「がんと診断されたその瞬間に人はがんサバイバーとなり,一生サバイバーであり続ける(全米がんサバイバーシップ連合,1984)」という定義が米国国立がん研究所(NCI)に採用されて以降,プロセスを意味するサバイバーシップの概念とともに広がり,日本ではがん対策基本法(2007)以降浸透してきたと言える。

 本書は,あらゆる医療者のための,がん診断時からのサバイバーシップ指南書であり,よくある疑問や懸念に正面から向き合っている。特筆すべき点は心の問題や回復過程をロードマップとして目に浮かぶように本書の前半分を割いて詳述していることで,疫学的問題,医学的問題の後半へと続く。編集者のKenneth D. Miller所長は,現在,Dana-Farberがん研究所Lance Armstrongサバイバーシッププログラムの所長を務めているが,腫瘍内科医であり,がんサバイバーの夫でもある。彼は,サバイバーシップ研究のエビデンスが蓄積したところで,編集して本書を誕生させた。

 前半で,がんがもたらす抑うつ・倦怠感・睡眠障害,心的外傷後ストレス/成長,さらには恩恵を見出すベネフィット・ファインディング,セクシュアリティ,妊孕性,遺伝カウンセリング,がん診断~終末期であることを子どもに伝えるコミュニケーション,家族などについて詳述されている。その中で,NCIサバイバーシップ部門長のJulia Rowland博士の重要な講演内容から,サバイバーの5つの教訓を紹介している。

1)がんが消失した状態はがんから自由であることを意味しない(倦怠感,抑うつ,痛みなどの問題は慢性期にも多い)。

2)回復へ移行する時期はストレスが多い(医療者が身体治療を乗り切ってホッとする時期に心理的危機はやってくる)。

3)困難な時期であっても驚くべき回復力や恩恵を見出せることがある。

4)適応の良さには,標準治療を選択すること,治療に積極的に参加すること,活動的であること,支援を受けること,意味を見出していくことなどが結びついている。

5)食生活などライフスタイルを見直す好機になる。

 以上のことは,「実際のがんは自分ではコントロールできないかもしれないが,食生活や活動,治療の決定は自分でコントロールできる」という体験を通して,がんという出来事も自分の世界観に結い直す(認知的統合)ことができるという臨床経験とよく符合する。

 トラウマを成長の機会としてとらえ,恩恵を見出す患者に出会うことは非常に多い。その恩恵には,ソーシャルサポート,診断時からの時間が関連する一方で,若年者,マイノリティー,がんが重篤であることも関連するという研究報告を紹介している。さらに恩恵にはメンタルヘルスに対して良い面と悪い面があり,現実の変化か動機付けられた幻想かという論争に決着はついていないという。現時点では少なくとも,医療者はがんがもたらす恩恵やギフトを否定したり,押しつけたりすることは避けたい。

 日本にも支部のあるCancer Support CommunityのGolant博士は,サポートグループの効用として,最良の状態を期待すると同時に最悪の場合にも備えるよう促された患者は,がんの嫌な現実をも評価して受け入れていけるようになることを紹介している。医療者は診断時から,生と死に関するコミュニケーションを促し,備えあれば憂いなしをぜひ,少しずつ診療に生かしてほしい。

 なお後半ではサバイバーの医学的問題として,治療による全身の各臓器障害,術後リンパ浮腫,妊孕性保護について,また疫学的問題として,エクササイズ,食事,二次がんについて詳解されている。特にサバイバーの食事に関するエビデンスは限られているが,がん以外の疾患にも有益であり,さらにQOLを増すという利点を紹介している。

 訳は非常に練られており,違和感を覚えるところは全くなかった。腫瘍内科医である訳者のあとがきに,患者を単なる「中年の乳がん患者」と記号化するのではなく,「ピアノが好きで仕事で教えてもおられて,子どもさんが高校生で受験の心配もされておられ,夫は会社員だけれど……頼れる友人もいる……」と「描写していくべきなのである」とある。小生は,訳者とがんセンターで一緒に働いた時期があり,彼の温かい基本的態度が思い出される。その後,彼が腫瘍内科医として本書をいち早く訳出したことを素直に喜び,多くのサバイバーの福音となる本書を世に出したことに心の底から感謝したい。
がんサバイバーの抱える問題を漏らさず記載,対処法も記載した実践的な良書
書評者: 田村 和夫 (福岡大教授・腫瘍・血液・感染症内科学)
 がんサバイバー,日本ではまだ聞き慣れない言葉である。本書では,このなじみのない言葉を明確に定義し,その概念を記述するに留まらず,心身の急性期・晩期障害を詳細に記載している。そればかりか医療の現場では語られない,むしろ避けて通ってきた性や子育て,家族・介護者の問題を正面から取り上げている。編者のMiller医師自身,がんサバイバーの妻を持ち,自らの体験が本書に取り上げたがんサバイバーの問題・課題をリアルなものにしている。また,本書の意を伝えるため,わかりやすく日本語訳された金容壱,大山万容両氏ならびに監訳者である勝俣範之氏に敬意を表したい。

 本書は,がんと診断されたすべてのステージの患者,すなわちがんと診断されて治療を受けている患者ばかりでなく,治療終了者ならびに患者家族や介護者をすべて包含して話を進めている。日本では毎年70万人を超える人ががんに罹患し,35万人ががんによって死亡している。単純に計算すれば,毎年35万人のがんサバイバーが出現することになる。もちろん複数のがんを持っている例や他の疾患で亡くなる患者もいるので,この数がそのまま実数にはならないが,それぞれの患者に家族や介護者がいるわけで,それにしても想像を絶するがんサバイバー数となる。

 われわれ医療者は基本的にはがんの診断を的確に行い,治療方針を決定し,支持療法を駆使してがんをターゲットとした治療を完遂することが求められている。一方で,治療の代償というべき身体的な後遺症や心理・社会的・霊的な影響に対しては,十分手を差し伸べることができていない。まさにこれらを行政レベルで反映したものが,2012年6月閣議決定した「第2次がん対策推進基本計画」であり,その重点的課題には,「がんと診断された時からの緩和ケアの推進」,就労問題を含め「働く世代や小児へのがん対策の充実」である。

 本書は,古くて新しい問題であるがん患者,がん生存者の問題を漏らすことなくエビデンスに基づいて論じ,その対処法についても記載した実践的な側面も持っており,がんの専門家,がんに携わる医療者,家族,介護者ばかりでなく,行政,学校,会社や団体の健康管理者,執行部の方々にぜひ読んでいただきたい良書である。

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