今日の精神疾患治療指針

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専門医が自らの治療法を紹介する好評書『今日の治療指針』の精神疾患版。個別の疾患および関連する諸問題など計341項目について、最新かつ実践的な臨床情報を提供する。処方例や非薬物療法などの治療に関する内容はもちろん、診断、検査、患者・家族への説明のポイントなどの情報も収載しており、臨床上の疑問点については必ず何らかの情報にたどりつくことができる。まさに精神科臨床書籍の決定版と呼ぶにふさわしい1冊。
シリーズ 今日の治療指針
編集 樋口 輝彦 / 市川 宏伸 / 神庭 重信 / 朝田 隆 / 中込 和幸
発行 2012年02月判型:A5頁:1012
ISBN 978-4-260-01380-2
定価 15,400円 (本体14,000円+税)
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 『今日の治療指針』は,1959年から今日に至るまで,毎年項目と執筆者を全面改訂し,第一線で活躍する医師の最新の治療内容をまとめた実践書である.同書では内科疾患をはじめ様々な領域の疾患を網羅的にカバーしているが,限られた紙面での解説では書き切れない面もあり,そのため各領域に特化した治療指針シリーズも刊行され,それぞれ好評を博しているとのことである.ただ,こと精神疾患に関しては,諸般の事情から,これまで同シリーズでは取り上げられてこなかった.
 しかし近年,精神科医療を取り巻く状況は大きく変化している.精神科領域にも専門医制度が導入され,精神科医は技能を高めることはもちろん,標準的な治療法に対する知識・情報が今まで以上に必要とされる時代となった.時を同じくして,精神疾患ごとの治療ガイドラインも徐々に充実してきており,代表的な疾患については標準的な治療法が確立されつつあるものも少なくない.また,精神疾患患者の急増に伴い,一般内科医・かかりつけ医をはじめ精神科領域以外の医療従事者にも最低限の精神疾患に関する知識が求められつつある.そして,2011年7月の精神疾患の「5大疾患」への“格上げ”は,その診療にあたる医療従事者にさらなる研鑽の必要性を求めていると言っても過言ではない.
 上記のような状況を踏まえ,今回,満を持して『今日の精神疾患治療指針』を上梓する運びとなった.
 本書では,臨床現場で遭遇する精神疾患について,日常的に経験するものはもちろん,比較的まれな疾患についてもできる限り取り上げ,それぞれについて第一線で活躍する300人以上のエキスパートに最新かつ最高の治療法を具体的かつ実践的にまとめていただいている.その結果,項目立ては全23章・341項目に及ぶこととなった.それぞれの項目において,治療指針シリーズの大きな特徴である詳細な処方例はもちろん,検査や鑑別診断,心理・社会的療法,患者・家族説明のポイントなどについて具体的に解説し,特に処方例については病期や重症度別に細かく用法・用量を提示し,副作用対策や代替薬についても記載している.また,精神科リハビリテーションや身体合併症の治療とケアなど,精神科臨床で知っておきたいテーマについても紹介しており,臨床上の疑問点については何らかの情報にたどり着ける一冊にまとまったのではないかと自負している.
 最後に,本書の企画にご賛同くださり,多忙な時間を割いてご執筆をお引き受けくださった先生方に心から深甚の謝意を表するとともに,本書が読者諸氏の日常診療の一助となることを切に願う次第である.

 2012年1月
 編者一同

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1 症候,主訴からのアプローチ
意識障害/幻覚/記憶障害(健忘)/睡眠の異常/失認,失行,失語/思路障害/妄想/強迫/不安(解離,離人症)/恐怖/パニック発作/抑うつ気分/多幸/感情鈍麻/意欲低下(制止)/食欲減退・亢進/自傷,自殺/身体症状,身体愁訴/性行動の異常/衝動行為

2 統合失調症とその他の精神病性障害
統合失調症の疾患概念/統合失調症の治療予測因子/統合失調症の急性期/統合失調症の回復・安定期/統合失調感情障害/妄想性障害/早期精神病/非定型精神病/遅発性統合失調症/緊張病/治療抵抗性統合失調症/抗精神病薬の減量・スイッチングの方法/統合失調症における物質・アルコール使用障害/統合失調症と広汎性発達障害/遅発性ジスキネジアへの対応/水中毒への対応

3 気分障害
気分障害の疾患概念/大うつ病/大うつ病(幻覚妄想を伴う)/難治性うつ病/双極うつ病/双極性障害,躁病/双極性障害の維持療法/双極スペクトラム/抗うつ薬と躁転/混合性病相/季節性感情障害/ラピッドサイクラー/気分変調症/気分循環症/軽症うつ病あるいはメランコリー親和型うつ病/非定型うつ病/血管性うつ病/女性の気分障害/気分障害の併存疾患(物質,不安障害,パーソナリティ障害など)

4 神経症性障害(身体表現性障害も含む)
神経症性障害の疾患概念/パニック障害(広場恐怖)/特定の恐怖症/社会(社交)不安障害/強迫性障害/全般性不安障害/混合性不安抑うつ障害/身体化障害/転換性障害/心気症/身体醜形障害/疼痛性障害/慢性疲労症候群/虚偽性障害/ポリサージェリー/解離性健忘/解離性遁走/解離性同一性障害/離人症性障害

5 パーソナリティ障害
パーソナリティ障害の疾患概念/パーソナリティ障害の評価スケール/境界性パーソナリティ障害/自己愛性パーソナリティ障害/パーソナリティ障害と気分障害/パーソナリティ障害と広汎性発達障害/パーソナリティ障害と摂食障害/パーソナリティ障害の精神療法/パーソナリティ障害の薬物療法/パーソナリティ障害の入院治療

6 行動異常
病的放火/窃盗癖/病的賭博/抜毛症(抜毛癖)/性同一性障害/性嗜好障害/性機能不全

7 ストレス反応と適応障害,反応性精神病
心的外傷後ストレス障害/急性ストレス障害/適応障害(抑うつ)/適応障害(行為および情緒)/感応性妄想性障害/急性一過性精神病性障害/拘禁反応/祈祷性精神病

8 摂食障害
神経性無食欲症/神経性大食症/摂食障害の関連症状(自傷,過量服薬)/摂食障害における認知行動療法/摂食障害におけるその他の精神療法/重症摂食障害患者の身体管理・入院治療

9 児童・青年期の精神疾患と精神医学的諸問題
児童・青年期にみられる精神疾患の概説/精神遅滞(知的障害)/広汎性発達障害(自閉症スペクトラム障害)/学力の特異的発達障害/会話および言語の特異的発達障害(吃音)/注意欠如・多動性障害/行為障害/チック障害,トゥレット障害/虐待/分離不安障害/選択性緘黙/愛着障害/からかい,いじめ/不登校,ひきこもり/児童・青年期の統合失調症/児童・青年期の気分障害/児童・青年期の不安障害

10 認知症と高齢期の精神疾患
認知症の疾患概念/アルツハイマー病/軽度認知障害/脳血管性認知症/レビー小体型認知症/前頭側頭型認知症/正常圧水頭症/神経原線維変化型老年期認知症(tangle dementia)/ビンスワンガー病/クロイツフェルト-ヤコプ病/アルコール性認知症/BPSDと漢方/認知症の家族ケア/認知症の非薬物療法/高齢期の気分障害/高齢期の身体表現性障害/高齢期の不安障害/高齢期の睡眠障害/高齢者のパーソナリティ障害/高齢期の統合失調症

11 器質性精神障害
パーキンソン病/ハンチントン病/進行性核上性麻痺/大脳皮質基底核変性症/多系統萎縮症/進行性皮質下膠症/脳卒中後のアパシー/三山病/HIV感染症/細菌性・真菌性感染症/神経梅毒/橋本脳症/傍腫瘍性辺縁系脳炎/自己抗体介在性急性可逆性辺縁系脳炎/単純ヘルペス脳炎/硬膜下血腫/外傷性脳損傷/脳腫瘍術後/多発性硬化症/求心路遮断性疼痛

12 薬剤性精神障害と他の症状性精神障害
抗精神病薬による精神症状/抗うつ薬による精神症状/抗てんかん薬による精神症状/抗不安・睡眠薬による精神症状/抗認知症薬による精神症状/抗パーキンソン病薬による精神症状/抗酒薬(ノックビン)による精神症状/インターフェロンによる精神症状/ホルモン剤による精神症状/抗がん剤による精神症状/鎮痛薬による精神症状/循環器用薬による精神症状/抗潰瘍薬による精神症状/抗結核薬による精神症状/内分泌疾患に伴う精神症状/腎不全・人工透析に伴う精神症状/性周期に伴う精神症状/代謝障害(糖尿病)に伴う精神症状/全身感染症に伴う精神症状/全身性エリテマトーデスに伴う精神症状/インスリノーマに伴う精神症状/神経ベーチェット病/ビタミン欠乏症に伴う精神症状/低酸素脳症/肝性脳症/尿毒症性脳症/悪性腫瘍に伴う精神症状/抗NMDA受容体脳炎

13 睡眠覚醒障害
睡眠覚醒障害の基本的な治療姿勢/精神生理性不眠/内科疾患による不眠/神経疾患による睡眠障害/精神疾患に伴う不眠/ナルコレプシー/睡眠時無呼吸症候群/時差症候群や交代勤務による概日リズム睡眠障害/睡眠相後退症候群/睡眠相前進症候群/非24時間睡眠覚醒症候群/睡眠時随伴症/むずむず脚症候群/周期性四肢運動障害

14 てんかん
てんかんの基本的な治療姿勢/強直間代発作/欠神発作/ミオクロニー発作/単純部分発作/複雑部分発作/ウェスト症候群/レンノックス-ガストー症候群/状況関連性発作/発作に直接関連した精神症状/発作間欠期精神症状/偽発作/てんかんの外科的治療/てんかんの心理・社会的治療

15 物質使用障害
アルコール依存症/アルコール離脱/アルコール幻覚症/ウェルニッケ-コルサコフ症候群/鎮痛薬,鎮咳薬依存/抗不安薬・睡眠薬依存/覚醒剤依存症,メチルフェニデート(リタリン)依存症/有機溶剤依存症/ヘロイン依存/大麻依存/ニコチン依存

16 心身症
心身症総論/消化器系の心身症/心血管系の心身症/呼吸器系の心身症/内分泌系の心身症/皮膚の心身症/神経・筋肉系の心身症/リウマチ性疾患(線維筋痛症を含む)/頭痛

17 精神科面接,診断と各種検査
面接への導入(予診)/面接の方法/特別な配慮が必要な患者との接し方/疾患診断/精神症状評価尺度/QOL診断/脳波検査,脳磁図/脳画像検査/神経心理学検査/心理検査/睡眠ポリグラフ

18 薬物療法総論
薬物療法の基本/抗精神病薬/抗うつ薬/気分安定薬/抗不安薬/睡眠薬/抗パーキンソン病薬/抗てんかん薬/抗酒薬/中枢刺激薬/抗認知症薬/今後期待される抗精神病薬/薬物血中濃度

19 精神療法とその他の治療法
認知行動療法/対人関係療法/社会生活技能訓練/力動的・分析的精神療法/集団精神療法/家族療法/森田療法/内観療法/描画療法/音楽療法/箱庭療法/心理劇/TEACCH/自律訓練法/感覚統合療法/EMDR/持続エクスポージャー療法/電気けいれん療法/経頭蓋磁気刺激法/断眠療法/高照度光療法

20 精神科救急
精神科救急の診療/統合失調症/気分障害(双極性障害)/せん妄/物質離脱/心的外傷後ストレス障害/認知症/パーソナリティ障害に対する精神科救急医療の実践/症状精神疾患の見方/胸・腹部症状を伴う精神症状/神経症状を伴う精神症状/ジストニア(薬剤性)/アカシジア(薬剤性)/身体系薬剤による精神症状/自殺のポストベンション/自殺企図への精神科的対応

21 精神科リハビリテーション
デイケア/作業所/障害者就業・生活支援センター/包括型地域生活支援/ケースマネジメント/退院促進・地域移行支援/幻覚・妄想症状に対する認知行動療法/日常生活の改善を目指した認知行動療法/認知リハビリテーション/うつ病の復職支援プログラム/精神科リハビリテーションの展望

22 身体合併症の治療とケア
精神科における身体合併症の問題点/精神科で注意すべき身体所見/合併症での身体管理の注意点/消化器疾患合併症/呼吸器疾患合併症/循環器疾患合併症/代謝疾患合併症/腎・泌尿器疾患合併症/外傷性疾患合併症

23 その他の臨床的諸問題
自殺予防/職場のメンタルへルス/家庭と学校のメンタルヘルス/サイコオンコロジー/コンサルテーション・リエゾン/予防・早期介入/患者の期待に応える精神科医療面接の手順/地域精神医療・コミュニティケア/アンチスティグマ/精神科関連用語をめぐる最近の動向/医療観察法と精神鑑定/精神保健福祉法と入院形態/向精神薬の臨床試験/災害に伴う精神医学的問題/医療関係者の精神保健/レジリアンスの概念/日本に住む外国人のメンタルヘルス/精神障害者による犯罪と暴力のリスク・アセスメント/ジェンダー/病名告知/強制治療

和文索引
欧文索引

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精神科医師が待望していた実践書の誕生
書評者: 高橋 清久 (精神・神経科学新興財団理事長)
 『今日の治療指針』という書名は多くの医師にとってなじみの深いものであろう。私も日常診療の中でそれをひもといた経験は数知れない。しかし,精神科医師の私がそのページを繰るのは,ほとんどが他科の疾患項目であって,精神科関係のものはごくまれであった。そのまれにしか見なかった精神科疾患に関する治療指針の解説は正直言って物足らないものであった。

 このたび新たに出版された本書を手にして,これこそ精神科の日常診療に役立つものだと実感した。初めて精神科医師にとって日常診療で実際に役立つ治療指針が世に出たわけだが,考えてみるとなぜこのような書物が今まで出版されなかったのか不思議に思えてくる。裏返していうと,まさに精神科医師が待望していた実践書と言えよう。

 本書が出版されるに至った背景を考えてみると,今日ほど精神科医療が重要であることの認識が高まった時代はない,という事実があると思われる。うつ病,PTSD,不安障害,睡眠障害,不登校,虐待,自殺など数多くのこころの健康問題に社会的関心が高まっており,さらに東日本大震災で生じたこころの健康問題はそれを大きくクローズアップした。それもあって国は精神疾患を五大疾患の一つとしたのである。

 本書は1,000ページ余りの大著であり,取り上げられたテーマは23の項目にわたっており,300人以上もの第一線で活躍する人々によって最新の情報が書かれている。統合失調症や気分障害を始め,ICD-10,DSM-IV-TRなど国際診断基準で取り上げられているすべての疾患についてそのスタンダードとなる治療指針が述べられている。

 精神疾患に関する治療は単に薬物療法だけでは効果がなく,精神療法や環境調整,さらに社会的な支援までも視野に入れなければならない。そのような包括的医療が的確かつ網羅的に記述されているのが本書の特色の一つである。また,ある特定の疾患について薬物療法,精神療法,家族との関係を含めての環境調整などの記述があると同時に,それらの治療法を中心とした記述がまた別の項で適切に記述されている。いわば,治療指針を立体的に俯瞰しているといってよいだろう。一例を挙げれば,精神療法については実に17種類もの治療法についてわかりやすい解説が加えられている。

 もう一つの本書の特徴は,身体疾患にはみられない精神疾患特有の重要事項あるいは社会的観点をも取り入れている点である。まず,精神疾患の身体合併症について実際の臨床で有用と思われる解説が行われている。また,社会的支援の資源についても有用な情報が盛られており,さらにはアンチスティグマ,ジェンダー,外国人のメンタルヘルス,医療関係者の精神保健といった項目まである。

 このように多岐にわたる精神疾患の治療指針を,実際の臨床現場での必要な知識と共にその背景にある多彩な課題を,かくも網羅的に,しかも要点を簡潔に解説するという本書を生み出された編者および執筆者の努力に敬意を表したい。と同時に,新しい薬剤の登場が盛んであり,疾病概念も時代と共に移り変わり,環境調整や社会的支援の在り方の変化も急である精神医療の現状を思うと,本書の内容は遠からず追補・修正する時が到来すると予想されるが,本書に見られる豊かな最新情報を網羅的に提供し,実践上高い有用性を持つ,という編集方針を今後とも堅持していただきたいと願う次第である。
精神疾患治療の手引きとして推奨できる実践書
書評者: 佐藤 光源 (東北大名誉教授・精神医学)
 「今日の治療指針」は日常診療の実用書として既に定評があり,毎年,項目と執筆者を替えて改訂されている。しかし精神疾患のページ数と項目は限られていて,日ごろ出会う精神疾患の治療指針としてはかなり制約がある。

 本書は,それを克服した「今日の治療指針」の精神疾患版で,一般診療に向けた具体的な治療指針が網羅されている。全23章341項目で構成され,第一線で活躍中の300人を超えるエキスパートが執筆している。薬物療法と心理社会療法を組み合わせて症状を改善し,社会的機能を高めるところに精神疾患治療の特徴があるが,それを従来の「今日の治療指針」と同じスタイルで編集したことは画期的といえる。

 近年,うつ病や認知症が右肩上がりに増加したこともあって,精神疾患の患者数は320万人(2008年)を超えている。このため,社会保障審議会は精神疾患を「社会を挙げて取り組むべき疾患」と位置付け,精神疾患を糖尿病や癌など4疾病に加えて5疾病5事業とし,前年度から国の医療計画に反映させることが決まったところである。また,精神疾患の長期転帰を改善できる早期介入や回復した人の社会的自立を促すために,精神疾患の正しい理解の普及啓発が急がれており,疾患概念と治療指針をわかりやすくまとめた本書の登場はまことに時宜にかなっている。

 なぜ,本書の企画が可能になったのだろうか。それは,診断学や病因・病態の解明が進み,疾患概念が見直され,薬物選択アルゴリズムの普及,心理社会療法の進歩,治療ガイドラインの充実など,近年の精神医学の長足の進歩にほかならない。本書はそうした最新の知見を踏まえながら,(1)症候,主訴からのアプローチ,(2)精神疾患の治療指針(統合失調症,気分障害,神経症性障害,パーソナリテイ障害,認知症,心身症など15項目と身体合併症の治療),(3)精神科面接,診断と検査,精神科治療法,精神科救急,精神科リハビリテーションの解説,(4)自殺予防,予防と早期介入など21のトピックスで構成されている。

 エキスパートが「私はこう治療している」とした治療指針には,薬物処方例はもちろん,心理社会療法,患者・家族への説明のポイントが記載されていて,精神疾患に特化した「今日の治療指針」を特徴付けている。また,治療指針に先だって,疾患概念,病因・病態,診断のポイントが明解にまとめられている。

 精神疾患の保険病名は国際疾病分類(ICD-10)の「精神および行動の障害」に準拠しているが,病因・病態を除外した疾病分類なので,病態に則した治療指針に結び付きにくい。本書は,そうした日常診療の場で治療方針を立てるのに便利である。

 ただし保険診療に限ってみると,エキスパートの処方例に保険適応外の処方が身体疾患に比べて多い傾向があり,疾患によってはすべて保険適応外の場合もある。保険適応病名の見直しにかかわる問題であるが,薬物選択の際に留意しておく必要がある。

 今後さらに改訂を重ねていくのであろうが,本書はその初版である。一般診療における精神疾患治療の手引きとして推奨できる実践書であり,広く活用されるに違いない。

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