基礎から読み解くDPC 第3版
実践的に活用するために
“DPCの第2波”を解説
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2010年度のDPC改定により、「調整係数」が段階的に廃止され、“DPCの第2波”といえるほど大きな意味を持つ改定となった。本書では、2010年度の改定点を中心に、DPC制度に関する解説に加え、医療産業界からの疑問に答える形の解説を展開する章も新設。DPCの概要の理解だけにとどめず、DPCを用いて実践的な分析ができるような内容・解説も盛り込んでいる。
著 | 松田 晋哉 |
---|---|
発行 | 2011年03月判型:B5頁:240 |
ISBN | 978-4-260-01205-8 |
定価 | 3,740円 (本体3,400円+税) |
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
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第3版 まえがき
平成15(2003)年度に特定機能病院等82施設を対象に始まったDPCに基づく包括評価制度は,平成22(2010)年度は支払い対象病院が1,334施設となり,支払いを伴わない準備病院を加えると1,670の急性期病院がDPC調査対象施設となりました.これは病床規模で47万床の施設に相当し,急性期の入院医療を必要とする患者の90%以上がDPC対象施設で治療を受けていると推測されます.DPC参加病院は,同じフォーマットで退院サマリー(様式1)とプロセスデータ(E/Fファイル)を提出しています.したがって,それを用いることで臨床面・経営面で各施設を共通の視点から評価することが可能です.すなわち,DPCデータはわが国の急性期医療を評価するための重要なプラットフォームとなったのです.
さらに平成22(2010)年度のDPC制度の見直しでは,従来の調整係数を徐々に廃止して,順次機能評価係数に置き換えていくこととなりました.具体的には効率性(同じDPCの患者をどのくらい短期間で診ているか)や複雑性(どのくらい医療資源を必要とするDPC患者を診ているか),さらには救急やがん診療,脳血管障害,へき地医療,周産期医療の実施状況と連携体制などが評価されることとなりました.すなわち,地域医療計画に記載されている医療機能の分化および連携体制の整備を推進していくための具体的ツールとして,DPCが用いられることになったのです.
筆者らは過去10年間,このDPCデータを用いた評価手法について研究を行ってきました.そして,その成果のいくつかは新しい機能係数の基礎資料となりました.筆者の見解が正しいとすれば,今回の見直しは単なる機能評価係数の導入ではなく,医療提供体制の構造改革の一環として行われています.この改革は単にDPC対象病院のみならず,関連する医療機関や医療関連産業,さらには保険者や地方自治体の医療行政担当者の業務にも大きな影響を及ぼすものだと考えます.加えて,DPCという大規模臨床データが構築されたことで,今後わが国における臨床研究の推進も期待されているのです.
DPCに基づく包括評価制度の概要(特に診療報酬請求の実務)については,すでに多くの成書がありますので,第3版ではこの部分は大幅に削除しました.DPCがわが国の急性期医療を評価するための重要なデータベースになったことを理解していただくために,今回の改訂版では,DPCデータの種々の活用方法について具体的な事例を挙げて解説することと,DPCに基づく医療情報の標準化が医療制度全体に及ぼす影響について解説を試みることとしました.この本の内容が関係者の方々の何らかの参考になれば幸いです.
2011年1月
松田晋哉
平成15(2003)年度に特定機能病院等82施設を対象に始まったDPCに基づく包括評価制度は,平成22(2010)年度は支払い対象病院が1,334施設となり,支払いを伴わない準備病院を加えると1,670の急性期病院がDPC調査対象施設となりました.これは病床規模で47万床の施設に相当し,急性期の入院医療を必要とする患者の90%以上がDPC対象施設で治療を受けていると推測されます.DPC参加病院は,同じフォーマットで退院サマリー(様式1)とプロセスデータ(E/Fファイル)を提出しています.したがって,それを用いることで臨床面・経営面で各施設を共通の視点から評価することが可能です.すなわち,DPCデータはわが国の急性期医療を評価するための重要なプラットフォームとなったのです.
さらに平成22(2010)年度のDPC制度の見直しでは,従来の調整係数を徐々に廃止して,順次機能評価係数に置き換えていくこととなりました.具体的には効率性(同じDPCの患者をどのくらい短期間で診ているか)や複雑性(どのくらい医療資源を必要とするDPC患者を診ているか),さらには救急やがん診療,脳血管障害,へき地医療,周産期医療の実施状況と連携体制などが評価されることとなりました.すなわち,地域医療計画に記載されている医療機能の分化および連携体制の整備を推進していくための具体的ツールとして,DPCが用いられることになったのです.
筆者らは過去10年間,このDPCデータを用いた評価手法について研究を行ってきました.そして,その成果のいくつかは新しい機能係数の基礎資料となりました.筆者の見解が正しいとすれば,今回の見直しは単なる機能評価係数の導入ではなく,医療提供体制の構造改革の一環として行われています.この改革は単にDPC対象病院のみならず,関連する医療機関や医療関連産業,さらには保険者や地方自治体の医療行政担当者の業務にも大きな影響を及ぼすものだと考えます.加えて,DPCという大規模臨床データが構築されたことで,今後わが国における臨床研究の推進も期待されているのです.
DPCに基づく包括評価制度の概要(特に診療報酬請求の実務)については,すでに多くの成書がありますので,第3版ではこの部分は大幅に削除しました.DPCがわが国の急性期医療を評価するための重要なデータベースになったことを理解していただくために,今回の改訂版では,DPCデータの種々の活用方法について具体的な事例を挙げて解説することと,DPCに基づく医療情報の標準化が医療制度全体に及ぼす影響について解説を試みることとしました.この本の内容が関係者の方々の何らかの参考になれば幸いです.
2011年1月
松田晋哉
目次
開く
第1章 診断群分類とは何か
1 診断群分類が必要な理由
2 疾病および関連保健問題の国際統計分類
3 DPCの概要
4 定義テーブルと樹形図
5 DPC点数表
6 DPCレセプト
7 機能評価係数
第2章 DPCによる医療評価
1 医療の質とは何か
2 DPCを用いた医療の質評価
3 DPCの臨床研究への応用
第3章 DPCを用いた病院マネジメント
1 DPC時代の収入管理と支出管理
2 DPCとVRIO分析
3 DPCとクリティカルパス・クリニカルパス
4 DPCと病院情報システム
5 地理情報システムを用いたDPCデータの分析
6 DPCとValue chain分析
7 DPCとバランスト・スコアカード(BSC)
第4章 DPCと医療職
1 DPCと医師
2 DPCと看護師
3 DPCと薬剤師
4 DPCと病院事務職
5 DPCと診療情報管理士
6 DPCとその他の医療職
第5章 DPCと医療関連産業
1 製薬産業
2 医療機器・医療材料産業
3 医療関連卸業
第6章 諸外国における診断群分類の活用
1 諸外国における医療制度の概要
2 アメリカ
3 フランス
4 ドイツ
5 イギリス
6 オランダ
7 スウェーデン
8 オーストラリア
9 シンガポール
10 韓国
11 オーストリア
12 カナダ
13 諸外国における診断群分類の活用のまとめ
第7章 DPCと医療制度改革
1 わが国の医療制度の何が問題なのか
2 医療提供体制の構造改革(医療計画とDPC)
3 標準的医療情報システム整備の必要性
第8章 まとめ
Q&A
1.DPC対応のための体制整備について
2.DPCに対応した請求業務
3.DPCと診療報酬および医療の質
4.DPCと看護業務
5.DPCが医療内容に及ぼす影響について
6.医療のグローバル化とDPC
7.DPCの今後について
8.DPCデータの利用可能性について
9.DPCと医療経営
10.DPCと高額薬剤・高額材料
11.Pay for Performance(P4P)について
12.機能評価係数について
13.DPCと医療機能の分化について
付録
厚生労働省公開データのAccess®とExcel®を用いた分析
1.データの準備
2.アクセスによるデータ取り込み
3.アクセスによる新しいテーブルの作成
4.エクセルのピボットテーブルを用いた分析
付録図表
参考資料
1.様式1
2.Eファイル
3.Fファイル
4.E/F統合ファイル
5.Dファイルの仕様
6.様式3
7.様式4
8.DPCデータを活用した臨床研究およびヘルスサービスリサーチの例
引用文献
参考になるURL
あとがき
索引
1 診断群分類が必要な理由
2 疾病および関連保健問題の国際統計分類
3 DPCの概要
4 定義テーブルと樹形図
5 DPC点数表
6 DPCレセプト
7 機能評価係数
第2章 DPCによる医療評価
1 医療の質とは何か
2 DPCを用いた医療の質評価
3 DPCの臨床研究への応用
第3章 DPCを用いた病院マネジメント
1 DPC時代の収入管理と支出管理
2 DPCとVRIO分析
3 DPCとクリティカルパス・クリニカルパス
4 DPCと病院情報システム
5 地理情報システムを用いたDPCデータの分析
6 DPCとValue chain分析
7 DPCとバランスト・スコアカード(BSC)
第4章 DPCと医療職
1 DPCと医師
2 DPCと看護師
3 DPCと薬剤師
4 DPCと病院事務職
5 DPCと診療情報管理士
6 DPCとその他の医療職
第5章 DPCと医療関連産業
1 製薬産業
2 医療機器・医療材料産業
3 医療関連卸業
第6章 諸外国における診断群分類の活用
1 諸外国における医療制度の概要
2 アメリカ
3 フランス
4 ドイツ
5 イギリス
6 オランダ
7 スウェーデン
8 オーストラリア
9 シンガポール
10 韓国
11 オーストリア
12 カナダ
13 諸外国における診断群分類の活用のまとめ
第7章 DPCと医療制度改革
1 わが国の医療制度の何が問題なのか
2 医療提供体制の構造改革(医療計画とDPC)
3 標準的医療情報システム整備の必要性
第8章 まとめ
Q&A
1.DPC対応のための体制整備について
2.DPCに対応した請求業務
3.DPCと診療報酬および医療の質
4.DPCと看護業務
5.DPCが医療内容に及ぼす影響について
6.医療のグローバル化とDPC
7.DPCの今後について
8.DPCデータの利用可能性について
9.DPCと医療経営
10.DPCと高額薬剤・高額材料
11.Pay for Performance(P4P)について
12.機能評価係数について
13.DPCと医療機能の分化について
付録
厚生労働省公開データのAccess®とExcel®を用いた分析
1.データの準備
2.アクセスによるデータ取り込み
3.アクセスによる新しいテーブルの作成
4.エクセルのピボットテーブルを用いた分析
付録図表
参考資料
1.様式1
2.Eファイル
3.Fファイル
4.E/F統合ファイル
5.Dファイルの仕様
6.様式3
7.様式4
8.DPCデータを活用した臨床研究およびヘルスサービスリサーチの例
引用文献
参考になるURL
あとがき
索引
書評
開く
「DPCのすべて」がすっきりと理解できる初心者から上級者まで満足する良著 (雑誌『看護管理』より)
書評者: 林田 賢史 (産業医科大学病院医療情報部 副部長・看護師)
2003年4月,DPCにもとづく支払い制度が始まり,早くも8年が過ぎた。その間,さまざまな制度変更があり,特に2010年度診療報酬改定では“新たな機能評価係数の導入”という大きな動きがあった。筆者は,日頃の研究や実務の場面において,DPCは制度としてもマネジメントツールとしても幅と奥行きがあるものだと,常々実感している。
筆者が本書で注目しているのは,(1)DPC初心者あるいは改定内容についての理解が十分でない方向けの「診断群分類やDPCの概要(理論や制度等)」,(2)基礎は理解していて,さらに医療の質向上も視野に入れている方向けの「ツールとしてのDPCの活用方法(理論と実践)」という2つの柱である。これらはおそらく,DPCに興味をもっている,あるいはもたざるを得ない立場のすべての人が知りたいところであり,本書はまさに1冊で読者のわがまますべてに応えてくれる本であると言える。
◆読んだその日から“DPCをよく知る人”になれる
DPCに関しては,厚生労働省から多くの情報が発信されているものの,重要なエッセンスだけ取り出し,常にキャッチアップしておくのはなかなか難しい。かといって,2次的な情報だと,必ずしも正確でない場合もある。著者の松田晋哉氏は,制度の背景にも精通したDPCの設計・開発・普及に携わってきた中心的人物であり,正確な情報のみが簡潔に提供されている。「第1章 診断群分類とは何か」を読むだけで,知識が全くなくても概要を十分に理解できる。「DPCのことを知っている」と語る人のうち,第1章の内容すべてを理解している人はおそらく多くはないであろう。第1章を読んだだけで,あなたも“DPCをよく知る人”の仲間入りすること間違いない。
◆「理解」から,さらに「活用」のレベルにまで踏み込んだ内容
DPCは,経営的な視点とともに臨床的な視点においても大きなポテンシャルを有している。例えばQuality Indicator,医療安全,院内・地域連携クリティカルパス,ベッドコントロールなどにおいて有用である。第1章でDPCデータや定義テーブルなど,ツールとして使う際の基礎的な知識を入手し,「第2章 DPCによる医療評価」「第3章 DPCを用いた病院マネジメント」で質評価・向上のための理論と,それにもとづく活用方法を理解すれば,ツールとして利用するための基本的な準備は整う。さらに付録では,市販のソフトウェアを用いた具体的な操作手順にも言及している。つまり,知識や理論の「理解」というレベルから,さらに一歩進んだ実践的な「活用」というレベルにまで踏み込んだ内容となっているのである。
DPCデータは,日常業務の中で大量に収集されているにもかかわらず有効に活用されていないケースも多い。しかし工夫して使うと業務の質や効率が格段に向上するので,とにかく使ってみることが重要である。DPCを理解しそして活用するべく,DPC病院やDPC準備病院,あるいはDPC準備病院を目指している病院,すべての医療関係者必読の本である。
(『看護管理』2011年10月号掲載)
「チームでめざす病院運営」を進めるための好著
書評者: 秦 温信 (札幌社会保険総合病院 病院長)
松田晋哉氏の著書『基礎から読み解くDPC第3版―実践的に活用するために』が刊行された。著者は評価システムともいうべきDPCについて設計・開発から普及まで厚生労働省の作業を中心的に主導してきた研究の第一人者である。
初版から筆者も含め当院職員が利用しており,対象病院にとっては診療や病院運営の見直しや今後の方向を考える際の参考書として,新たに導入を検討されている病院には座右の書としてぜひ購入をお勧めしたい。
言うまでもなく,DPCは医療の標準化あるいは効率化という点においては利点があり,特にDPCによって医療が透明化されるので,エビデンスに基づいた医療が推進されると思われる。また,病院経営者からみると,DPCにより病院の経営状況を把握しやすいという面はあると思われる。一方では,DPCに対する欠点ないし疑問として,将来の医療の制度として満足すべきものなのか,あるいはよく問題視される粗診粗療になるのではないのか,医療の安全は確保されるのか,利用者(患者)の満足度は損なわれないか,などが挙げられている。そのような予想される利点や欠点を視野に入れた好著となっている。
この内容の中で個人的に最も共感するのは,第4章「DPCと医療職」である。病院経営は,多くの職種の職員によって支えられているのであるが,病院の医師をはじめ看護師,薬剤師あるいは診療情報管理士等職員のそれぞれにとってDPCとのかかわりは極めて深いのである。奇しくも本年6月の第13回日本医療マネジメント学会学術集会では「チームで目指すDPC環境下の病院運営」の司会を松田氏と共に担うことになっているが,病院職員にとって良好なチームを形成するためのDPCデータの利用方法が示されている。
また,新たに加わった内容として特に注目されるものは,第1章「診断群分類とは何か」での「機能評価係数」である。これまでの「機能評価係数I」に加えて2010(平成22)年度から調整係数の約25%を置き換えるべく導入された「機能評価係数II」について丁寧に解説されている。すなわち,調整係数は段階的に機能評価係数に置き換えられていくのであろうが,その設定の検討を継続的に進め,DPCに基づく診療報酬体系をさらに刷新していくことが必要であることが強調されている。
本書の全体の流れから,DPCは単なる診療報酬の支払いシステムではなく,病院の経営構造や診療内容を検討するための重要なデータベースシステムであることがわかる。そして筆者もこれまで述べてきたが,医療の質とコストについて検討する際のエビデンスはDPCによって極めて有効に明示されるのである。DPCという共通の基盤による急性期病院の評価は今後のわが国の医療制度の方向性を探る大きな社会実験という見方がある。その意味でも大きな役割が期待されているDPCであるが,本書がDPC環境下の病院経営と医療政策の指針として多くの医療者の必携となることを期待したい。
DPCの理論・研究・実践の第一人者による必読の実践書
書評者: 堺 常雄 (聖隷浜松病院 病院長)
2003年にDPCが特定機能病院に先行導入されてから8年が過ぎ,大きな変革の時期を迎えている。DPCの変遷に合わせて刊行されてきた本書も第3版となり,その存在意義は版を重ねるごとに大きくなっている。今後の大きな変革を予期させる2010年度改定後に刊行された本書は,サブタイトルもこれまでの『正しい理解と実践のために』から『実践的に活用するために』に変わり,著者の意気込みが感じられる。
病院の運営でいちばん大切なのは診療の質と経営の質であり,2つが相まって初めて健全な医療を提供することが可能である。公的病院が次々と独立法人化し,民間病院も社会医療法人化されるなかでこのような考えはますます重要になってきている。著者はまえがきで「……したがって,それを用いることで臨床面・経営面で各施設を共通の視点から評価することが可能……」と述べているが,まさにDPCが良質な医療を担保するうえでのツールであることを示しているものといえる。
第1章では診断群分類を理解するために必要な事項が述べられており,今回および今後の改定の方向性について説明されている。
第2章ではDPCの本来の目的である医療の質の評価について述べられており,ベンチマークによる活用,今後どの病院にも望まれる臨床研究での活用が述べられている。
第3章では医療のもう一つの指標である経営の質について述べられている。診療・経営の“見える化”にはDPCが有用であり,またクリニカルパスによる診療の標準化は必須の課題である。さらにこの章では地理情報システム,Value chain分析,BSCなどとDPCについての説明もあり,医療マネジメントの先端を目指そうとする読者には必読である。
第4章ではDPCと各医療職のかかわりが述べられているが,専門分化が進んできている現状でチーム医療の重要性がいわれており,DPCは共通の言語・ツールとして活用できるものと考える。
医療は地域産業といわれるが,医療再生がいわれるなかで地域医療提供体制整備は喫緊の課題である。その意味でも第7章は大変示唆に富むものとなっている。また診療報酬と介護報酬ダブル改定を前にして,医療提供体制整備は診療報酬改定と連動して行われるのが望ましく,ここでもDPCの果たす役割は大きいものとなってくる。
第8章では著者の考えである医療の質と経営の質の重要性が繰り返し述べられている。DPCの導入以来8年が過ぎ,今までは制度を理解し適用することに一生懸命だったのが,ようやくこれを実際に活用して医療の質の担保に資する時期に来ているものと思われる。DPC自体はあくまでもツールであって目的ではないので,われわれ医療者に何が求められているのかを理解してDPCを使いこなす時期に来ている。
このように見てくると,DPCの理論・研究・実践の第一人者である著者による今回の第3版は必読の書であり,実践の場で活用してほしいものである。
書評者: 林田 賢史 (産業医科大学病院医療情報部 副部長・看護師)
2003年4月,DPCにもとづく支払い制度が始まり,早くも8年が過ぎた。その間,さまざまな制度変更があり,特に2010年度診療報酬改定では“新たな機能評価係数の導入”という大きな動きがあった。筆者は,日頃の研究や実務の場面において,DPCは制度としてもマネジメントツールとしても幅と奥行きがあるものだと,常々実感している。
筆者が本書で注目しているのは,(1)DPC初心者あるいは改定内容についての理解が十分でない方向けの「診断群分類やDPCの概要(理論や制度等)」,(2)基礎は理解していて,さらに医療の質向上も視野に入れている方向けの「ツールとしてのDPCの活用方法(理論と実践)」という2つの柱である。これらはおそらく,DPCに興味をもっている,あるいはもたざるを得ない立場のすべての人が知りたいところであり,本書はまさに1冊で読者のわがまますべてに応えてくれる本であると言える。
◆読んだその日から“DPCをよく知る人”になれる
DPCに関しては,厚生労働省から多くの情報が発信されているものの,重要なエッセンスだけ取り出し,常にキャッチアップしておくのはなかなか難しい。かといって,2次的な情報だと,必ずしも正確でない場合もある。著者の松田晋哉氏は,制度の背景にも精通したDPCの設計・開発・普及に携わってきた中心的人物であり,正確な情報のみが簡潔に提供されている。「第1章 診断群分類とは何か」を読むだけで,知識が全くなくても概要を十分に理解できる。「DPCのことを知っている」と語る人のうち,第1章の内容すべてを理解している人はおそらく多くはないであろう。第1章を読んだだけで,あなたも“DPCをよく知る人”の仲間入りすること間違いない。
◆「理解」から,さらに「活用」のレベルにまで踏み込んだ内容
DPCは,経営的な視点とともに臨床的な視点においても大きなポテンシャルを有している。例えばQuality Indicator,医療安全,院内・地域連携クリティカルパス,ベッドコントロールなどにおいて有用である。第1章でDPCデータや定義テーブルなど,ツールとして使う際の基礎的な知識を入手し,「第2章 DPCによる医療評価」「第3章 DPCを用いた病院マネジメント」で質評価・向上のための理論と,それにもとづく活用方法を理解すれば,ツールとして利用するための基本的な準備は整う。さらに付録では,市販のソフトウェアを用いた具体的な操作手順にも言及している。つまり,知識や理論の「理解」というレベルから,さらに一歩進んだ実践的な「活用」というレベルにまで踏み込んだ内容となっているのである。
DPCデータは,日常業務の中で大量に収集されているにもかかわらず有効に活用されていないケースも多い。しかし工夫して使うと業務の質や効率が格段に向上するので,とにかく使ってみることが重要である。DPCを理解しそして活用するべく,DPC病院やDPC準備病院,あるいはDPC準備病院を目指している病院,すべての医療関係者必読の本である。
(『看護管理』2011年10月号掲載)
「チームでめざす病院運営」を進めるための好著
書評者: 秦 温信 (札幌社会保険総合病院 病院長)
松田晋哉氏の著書『基礎から読み解くDPC第3版―実践的に活用するために』が刊行された。著者は評価システムともいうべきDPCについて設計・開発から普及まで厚生労働省の作業を中心的に主導してきた研究の第一人者である。
初版から筆者も含め当院職員が利用しており,対象病院にとっては診療や病院運営の見直しや今後の方向を考える際の参考書として,新たに導入を検討されている病院には座右の書としてぜひ購入をお勧めしたい。
言うまでもなく,DPCは医療の標準化あるいは効率化という点においては利点があり,特にDPCによって医療が透明化されるので,エビデンスに基づいた医療が推進されると思われる。また,病院経営者からみると,DPCにより病院の経営状況を把握しやすいという面はあると思われる。一方では,DPCに対する欠点ないし疑問として,将来の医療の制度として満足すべきものなのか,あるいはよく問題視される粗診粗療になるのではないのか,医療の安全は確保されるのか,利用者(患者)の満足度は損なわれないか,などが挙げられている。そのような予想される利点や欠点を視野に入れた好著となっている。
この内容の中で個人的に最も共感するのは,第4章「DPCと医療職」である。病院経営は,多くの職種の職員によって支えられているのであるが,病院の医師をはじめ看護師,薬剤師あるいは診療情報管理士等職員のそれぞれにとってDPCとのかかわりは極めて深いのである。奇しくも本年6月の第13回日本医療マネジメント学会学術集会では「チームで目指すDPC環境下の病院運営」の司会を松田氏と共に担うことになっているが,病院職員にとって良好なチームを形成するためのDPCデータの利用方法が示されている。
また,新たに加わった内容として特に注目されるものは,第1章「診断群分類とは何か」での「機能評価係数」である。これまでの「機能評価係数I」に加えて2010(平成22)年度から調整係数の約25%を置き換えるべく導入された「機能評価係数II」について丁寧に解説されている。すなわち,調整係数は段階的に機能評価係数に置き換えられていくのであろうが,その設定の検討を継続的に進め,DPCに基づく診療報酬体系をさらに刷新していくことが必要であることが強調されている。
本書の全体の流れから,DPCは単なる診療報酬の支払いシステムではなく,病院の経営構造や診療内容を検討するための重要なデータベースシステムであることがわかる。そして筆者もこれまで述べてきたが,医療の質とコストについて検討する際のエビデンスはDPCによって極めて有効に明示されるのである。DPCという共通の基盤による急性期病院の評価は今後のわが国の医療制度の方向性を探る大きな社会実験という見方がある。その意味でも大きな役割が期待されているDPCであるが,本書がDPC環境下の病院経営と医療政策の指針として多くの医療者の必携となることを期待したい。
DPCの理論・研究・実践の第一人者による必読の実践書
書評者: 堺 常雄 (聖隷浜松病院 病院長)
2003年にDPCが特定機能病院に先行導入されてから8年が過ぎ,大きな変革の時期を迎えている。DPCの変遷に合わせて刊行されてきた本書も第3版となり,その存在意義は版を重ねるごとに大きくなっている。今後の大きな変革を予期させる2010年度改定後に刊行された本書は,サブタイトルもこれまでの『正しい理解と実践のために』から『実践的に活用するために』に変わり,著者の意気込みが感じられる。
病院の運営でいちばん大切なのは診療の質と経営の質であり,2つが相まって初めて健全な医療を提供することが可能である。公的病院が次々と独立法人化し,民間病院も社会医療法人化されるなかでこのような考えはますます重要になってきている。著者はまえがきで「……したがって,それを用いることで臨床面・経営面で各施設を共通の視点から評価することが可能……」と述べているが,まさにDPCが良質な医療を担保するうえでのツールであることを示しているものといえる。
第1章では診断群分類を理解するために必要な事項が述べられており,今回および今後の改定の方向性について説明されている。
第2章ではDPCの本来の目的である医療の質の評価について述べられており,ベンチマークによる活用,今後どの病院にも望まれる臨床研究での活用が述べられている。
第3章では医療のもう一つの指標である経営の質について述べられている。診療・経営の“見える化”にはDPCが有用であり,またクリニカルパスによる診療の標準化は必須の課題である。さらにこの章では地理情報システム,Value chain分析,BSCなどとDPCについての説明もあり,医療マネジメントの先端を目指そうとする読者には必読である。
第4章ではDPCと各医療職のかかわりが述べられているが,専門分化が進んできている現状でチーム医療の重要性がいわれており,DPCは共通の言語・ツールとして活用できるものと考える。
医療は地域産業といわれるが,医療再生がいわれるなかで地域医療提供体制整備は喫緊の課題である。その意味でも第7章は大変示唆に富むものとなっている。また診療報酬と介護報酬ダブル改定を前にして,医療提供体制整備は診療報酬改定と連動して行われるのが望ましく,ここでもDPCの果たす役割は大きいものとなってくる。
第8章では著者の考えである医療の質と経営の質の重要性が繰り返し述べられている。DPCの導入以来8年が過ぎ,今までは制度を理解し適用することに一生懸命だったのが,ようやくこれを実際に活用して医療の質の担保に資する時期に来ているものと思われる。DPC自体はあくまでもツールであって目的ではないので,われわれ医療者に何が求められているのかを理解してDPCを使いこなす時期に来ている。
このように見てくると,DPCの理論・研究・実践の第一人者である著者による今回の第3版は必読の書であり,実践の場で活用してほしいものである。
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