肝胆膵高難度外科手術

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肝胆膵外科学会では専門医制度として「高度技能医制度」が発足した。その資格認定に必要な知識・技能・態度を解説するとともに、高度指導医がどのようにして技能医取得をめざす若手医師に指導するかを解説したテキスト。さらに手術ビデオの審査の際にみられる基本的な手術手技のポイントはもちろんのこと、そのDos&Don'tsも明示した。これから肝胆膵外科手術を学ぶ若手からベテランまで関係者必読の書。
編集 日本肝胆膵外科学会高度技能医制度委員会
発行 2010年06月判型:B5頁:324
ISBN 978-4-260-01042-9
定価 11,000円 (本体10,000円+税)
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-肝胆膵高難度外科手術の発刊に際して

 日本には,専門医制度は数々あるが,それらは主として知識の有無を問う制度であり,技術度について問われる制度はほとんどみられない.
 一般の国民は,病気にかかった時にどの医師に治療をお願いしたらよいのかと不安になることが多い.特に,難治とされている肝胆膵領域の癌におかされた時に,だれに手術を頼んだらよいかの判断ができない.
 日本外科学会ならびに日本消化器外科学会の専門医制度では,その資格には,いわゆる高難度の肝胆膵外科手術を経験していなくともよいことになっている.
 そこで日本肝胆膵外科学会では,2003年の理事会,評議員会で高難度の肝胆膵外科手術を「安全に,かつ,確実に行うことができる外科医を育成し,認定する制度」をつくるべく作業することを決めた.このような制度が確立され,公開(ホームページなどで)されれば,上記のような病で悩んでいる患者さんや家族が適切な外科医を求めることができよう.
 2008年2月16日の日本肝胆膵外科学会(以下,本学会)の評議員会にて,本学会の専門医制度の発足について承認をうけた.その後,関連の学会との話し合い,ならびに本学会執行部会,理事会において本学会の専門医制度の名称を「日本肝胆膵外科学会高度技能医」とすることが決まった.
 この制度の趣旨は,“高難度の手術をより安全かつ確実に行いえる外科医師を育てる”ことであり,そのためには“指導医のもとで,high volume center ともいえる修練施設で経験を積んで規定数に達した後に学会に申請をし,実際に申請者が執刀した手術のビデオ審査と経験症例ならびに教育プログラムのクレジット数のチェックを行い,合格した者が高度技能医となるシステム”である.
 すなわち,本制度で,高度技能医の資格を得るためには,いくつかのハードルを越えなければならない.
 高度技能医になるためには,まず,基本的に獲得していなければならない資格がある.日本外科学会の専門医資格と日本消化器外科学会の専門医資格である.これで,いわゆる消化器外科医の基礎的資格を有していることが確認される.さらに,肝胆膵の学識の有無については,基本的資格をチェックされ本学会評議員資格を有していることである.さらに,肝胆膵領域の基本的知識や新しいエビデンスを獲得するために学会出席や学会が行う教育セミナー受講がクレジットとして義務づけられている(なお,海外などで修業,診療を続けてから帰国したような場合や,都合により,上記の規定を満たさない人には特別に枠外での申請資格があるので,高度技能医制度規約をご覧いただきたい).
 次に,修練施設ならびに高度技能指導医についてであるが,修練施設は,高難度の肝胆膵外科手術を規定の症例数を年間行っている施設が相当する.修練施設は,毎年,高難度肝胆膵外科手術の経験例を報告し,5年ごとに再申請が必要である.指導医は,高難度肝胆膵外科手術の執刀経験や指導経験を十分に持っている外科医で基本資格を有するものとされる.なお,これも5年ごとに再申請が必要である.
 このような厳しい条件の中で,高度技能医を目指す外科医や,教える立場にある高度技能指導医が経験し,自在に行いうる術技をいわばマニュアル化して示したものが,本書“肝胆膵高難度外科手術”である.また,高度技能医だけでなく,一般外科医,あるいは消化器外科医にとっても手術を熟知し,対応できる書にと考えて企画した.

 皆様が,高度の技能をマスターし,より手術技術を磨き患者さんにフィードバックできるように,本書が役立てば幸いである.

 2010年4月
 日本肝胆膵外科学会 理事長
 高田忠敬

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I 肝胆膵の外科解剖
 1 肝臓の外科解剖
 2 胆管の外科解剖
 3 膵臓の外科解剖
II 基本手技
 1 肝門部脈管処理
  A 肝門部グリソン鞘一括処理
  B 個別処理
 2 肝切除における血行動態
 3 肝臓ハンギング法,肝脱転
 4 肝切離
  A ペアン法
  B CUSA®を用いた肝切離
 5 肝静脈の処理・下大静脈切除再建
 6 膵頭十二指腸切除術における膵切離法
 7 門脈切除再建
 8 膵消化管吻合
  A 膵胃吻合
  B 膵腸吻合
   B1 No stent法
   B2 Stent法
 9 胆道再建
III 偶発症への対処
 1 肝臓手術
 2 膵臓手術
 3 胆道手術
IV 基本手術
 1 右肝切除
  A 前方アプローチ
  B 開胸アプローチ
 2 左肝切除
 3 肝区域切除(前区域・後区域・内側区域)
 4 肝中央二区域切除術
 5 胆道再建を伴う肝切除・尾状葉切除
  A 左肝切除(左三区域を含む)
  B 右肝切除(右三区域を含む)
 6 膵頭十二指腸切除
  A 通常型膵管癌
  B 中下部胆管癌・乳頭部癌など
 7 膵体尾部切除(脾温存切除含む)
 8 S4+S5肝切除+胆管切除再建
 9 生体肝移植
  A ドナー左肝切除
  B ドナー右肝切除
V 腹腔鏡下肝膵切除
 1 腹腔鏡下肝切除と腹腔鏡補助下肝切除
 2 腹腔鏡下膵切除

索引

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修羅場にあっても安泰な精神状態を維持できる座右の書
書評者: 齋藤 洋一 (神戸大名誉教授/肝胆膵外科学会第二代理事長)
 日本肝胆膵外科学会は,この領域に携わるアクティブメンバーで構成された専門医集団の学会として発足したものであります。この領域の高難度な手術をより安全かつ確実に行える外科医を育てることを目的として,2008年2月の理事会で「高度技能医制度」が生まれました。

 この領域の先達にはいわゆる黄金の手を持つ外科医が少なからず存在していましたが,国民の要請に応える体制づくりのためには,常にこのような技術を駆使できるhigh volume centerの設置や,きめ細かい指導教育体制の確立が急務とされてきました。各学会を中心に種々の診療ガイドラインが作成され,各疾患に対する共通の認識がもたれるようになりましたが,外科技術面での巧拙の認識や独特のコツについてはまとめられたものがないのが現状であります。

 このような要請に応えて日本肝胆膵外科学会・高度技能医制度委員会の手により作成した指導書が本書であります。これまでこの面での知識・情報の取得に苦労してきた,まさに現役バリバリの高度技能医とも言うべき人たちが魂を込めて書き上げたのが本書と言えるかと思います。

 内容は多年にわたる経験と失敗を踏まえた解決策が簡明に記されており,特に留意点が章の冒頭に重要ポイントとして明示されています。また,各章ごとにDos & Don’tsとして手技の進行に応じたチェックポイントの要点が記されているのも嬉しく感じます。先輩たちから口酸っぱく言われたことや,自らが工夫したことがColumnとして記され,現場意識を盛り上げてくれるとともに息抜きのひと時を与えてくれています。各章ごとに短く簡明に記されているので,これから手術に臨む術者が一読しておけば,修羅場にあっても安泰な精神状態を維持できる座右の書とも思いました。

 これから,この途にチャレンジする若い外科医にとっても,また指導に携わる上級医にとっても必読に値する書としてお薦めしたいと思います。

 本制度の発足にあたっては,高田理事長ほか役員の皆さまの数々のご努力があったと思いますが,制度実施の評価を見ることなく本年8月に亡くなられた東京女子医大名誉教授 故 羽生富士夫初代理事長のご冥福を祈るとともに,生前私たちに示された外科医の情熱をこの制度で受け継いでいかれることをお祈り申し上げて,推薦の文といたします。
肝胆膵難度外科手術書をいかにマスターするか?
書評者: 川原田 嘉文 (日本消化器外科専門医/米国外科専門医/三重大名誉教授)
 2008年に「日本肝胆膵外科学会高度技能医」の資格とシステムが承認されました。トレーニングを受けるフェローにとって,最も大切なものはhigh volume centerでのトレーニング,専門医からの指導と本人のやる気です。しかし今,日本の外科トレーニングで最も欠けているのが,標準的な手術手技のマニュアルつまりtext book of technics in surgeryの存在です。

 一般的に大学病院の外科やhigh volume centerの外科では,その施設独自の術式がマスターされ,それが伝承されていきます。フェローにとって大切なことは,まず解剖を頭の中に入れ,次いで一般的な高度な術式を把握することです。

 少しアメリカの消化器外科のトレーニングの一部を紹介します。トレーニングを受ける施設によっても異なりますが,教官の術式はまちまちで,アメリカのレジデントは指導を受けるその教官の症例を手術させていただくのです(この形式が短期間での技術向上に非常に役立っているのです)。レジデントは教官が何を考えどの術式か,術後の抗菌薬などを,術前に把握しておかなければなりません。また術中にはいろいろなanatomyの質問,また術式に関しても,この症例では「○○大学の○○教授の方法がよいね」と尋ねられます。この時迷ってはダメです。教官の術式を遂行しなければポイントを得られないばかりか二度と「Surgeon」としてその教官の症例にメスを入れるチャンスはありません。専門医になるには,術者として最終学年で最低限400例が必要です。しかし85~95%を本人が手術をしないと,術者としてカウントされません。外国人の私達にとってそれは,とても大変なことで,アメリカのレジデントがやっているように,私も「解剖の本」と「Madden」と「Zollinger」の2冊の手術アトラスを用い,術前にその術式を読み,当日の朝食の前,6:00 amにパラパラと目を通し,また,手術記事を書く時には,その本を見ながらディクテーションしたものです。

 日本には沢山の術式の報告や術式が雑誌に紹介されていますが,フェローに必要な手術書は見当らないように思います。ところが最近(2010年6月),本書が肝胆膵高難度外科手術書として発刊されました。

 目次を見てみますと,I.肝胆膵の外科解剖,II.基本手技,III.偶発症への対処,IV.基本手術,V.腹腔鏡下肝膵切除の5項目からなっています。

 消化器外科のトレーニングの上級生,肝胆膵外科のフェローの先生方にこの本をぜひともお奨め致します。いや,指導医の先生方にも必要と思います。

 まず,消化器外科のシニアレジデントの時,肝胆膵の手術の時,一読する必要があります。フェローとして,手術をさせてもらう時には,その術式を勉強し,そして手術の当日は朝食の前に野球やゴルフの“素振り”をするように,該当する項目の術式を2~3回目を通し,手術が終わってからもその箇所を読んで,マスターできなかったところや,気が付いたところを黄色のマジックペンでチェックをすることです。手術が終わってから手術所見,術式を書く時も,もう一度,目を通してポイントとコツを覚えてから書くことです。

 この手術書が登場したことは,これからのフェローにとって,そして教官にとっても,唯一のtext bookになることは言うまでもありません。

 老人の言葉を信じて2年間この本を熟読しながらトレーニングに取り組んでいただけると,あなたは立派な高度技能医になることは間違いなしです。

 最後に,リラックスしながらエンジョイしてください。

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