糖尿病と心臓病
基礎知識と実践患者管理Q&A51

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本書は、循環器内科医と糖尿病医との意見交換を通じて、患者管理における問題点を共有化し、相互理解を深めていくことをめざしている。二部構成の目次は、前半で糖尿病自体の病態、心血管系で合併する病態の基本的な知識を具体的にまとめ、後半では実践的な患者管理上の問題をQ&A形式で解説。糖尿病と心臓病の関係が具体的かつ平易にまとめられ、日々の診療ですぐに活かせる工夫や患者指導のコツが満載。
編集 犀川 哲典 / 吉松 博信
発行 2010年10月判型:A5頁:312
ISBN 978-4-260-01164-8
定価 4,950円 (本体4,500円+税)
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 私たちが,本書の前身となった『糖尿病と心機能障害』(医学書院 刊)を発行したのは,2001年の夏でした.そのきっかけは,内科学講座の1グループとして虚血性心疾患の日常診療に関わっていると,リスクファクターとしての糖代謝にふだんから興味を持たざるを得ないことでした.幸い多くの読者に,企画主旨を受け入れて頂いたように思います.その後,メタボリックシンドロームに注目した特定検診も開始され,どの施設でも虚血性心疾患の患者さんには糖代謝の評価がなされるようになりました.
 虚血性心疾患と耐糖能障害の合併が過半数を超える現況では,循環器専門医といいながらも,入院・外来を問わず心疾患に加えて糖尿病の検査/治療も同時に行わざるを得ません.循環器疾患の専門的な知識に加えて,糖尿病の勉強も必要になりました.そのためか,最近,糖尿病の診療にすぐに役立つような,読みやすく,知りたいことがわかる,簡便なテキストがあればという声を聞くことが多くなりました.理論的・基礎的記述もさることながら,忙しい診療の合間でも読むことのできる,あるいは読む気になる,より臨床に密接に対応した実用書が欲しい!という声です.
 その結果,我々,大分大学の循環器内科グループと糖尿病グループが力を合わせて,悩める医療者たちに望まれているテーマで出版しようということになり,本書の企画がスタートしました.ちょうど,新しい機序による糖尿病治療薬が新たに市場に出てきた機会でもあり,“心疾患のある糖尿病患者を診る”という視点から,諸先生方に分担執筆をお願いしました.
 本書は「糖尿病を専門としてはいないが,少なからず合併症として糖尿病がある患者さんを診療している」,あるいは「必要に迫られて糖尿病患者を診ている」医師や医療スタッフを対象とした本です.
 本書の特徴は,前半の2つの章である「糖尿病の基礎知識」と「糖尿病に合併する循環器疾患」にて基本となる考え方をまとめ,その応用として,「実践・患者管理」をQ&A形式で,臨床上誰もが気になる51の問題をまとめている点にあります.記述内容には繰り返しの部分もありますが,そこは特に重要であり,どこから読んでも大切なことは決して落とさないでほしいと考えてのことです.具体的な症例呈示を含むQ&Aは,特に有用と考えています.この51の問題は,循環器内科グループの手嶋泰之先生,糖尿病グループの加隈哲也先生,葛城功先生がまとめ役となり,各々のグループが総力を上げてリストアップ,執筆したものです.日常の診療に明日から役に立つ大変有用な内容となっています.この場をかりて,協力をおしまなかった医局のみなさんに感謝の言葉を伝えたいと思います.
 最近,高齢で多彩な病態を呈する患者さんが増えてきました.ガイドラインだけでは対応しきれず,ちょっとした診療のノウハウを必要とするシーンが少なくありません.本書がそのような読者諸賢の期待に応えられれば,望外の幸せであります.
 最後に,企画以来上梓まで変わらぬご支援を頂きました医学書院編集部 大野智志氏に深謝申し上げます.

 平成22年 盛夏 豊後大分にて
 犀川哲典
 吉松博信

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I 糖尿病の基礎知識
 1 糖尿病とは
 2 糖尿病に関連する病態
 3 検査と診断
 4 食事療法
 5 運動療法
 6 薬物療法
II 糖尿病に合併する循環器疾患
 1 糖尿病の合併症としての心血管病変
 2 心房細動と糖尿病
 3 心不全と糖尿病
 4 高血圧と糖尿病
III 実践・患者管理Q&A
 1 血糖コントロールについて
  Q1 コントロール目標はどのように設定すればよいですか?
  Q2 インスリン抵抗性について教えてください
  Q3 手術前の血糖コントロールで注意すべき点を教えてください
  Q4 心臓手術後の血糖コントロールで注意すべき点を教えてください
  Q5 食事療法で気をつける点について教えてください
  Q6 運動療法ではどのように指導すればよいですか?
  Q7 妊婦の血糖コントロールで注意すべき点を教えてください
 2 虚血性心疾患のある患者さんの治療について
  Q8 虚血性心疾患のある患者さんにはどの薬から使用したらよいでしょうか?
  Q9 心血管イベントの一次予防と二次予防で使用する薬剤(糖尿病治療薬)に
   違いはありますか? またコントロール目標は違いますか?
  Q10 虚血性心疾患のある境界型糖尿病の患者さんに対しても薬物療法を
   開始したほうがよいですか?
  Q11 自覚症状のないまま狭心症や心筋梗塞を発症する患者さんを見逃さない
   スクリーニング検査を教えてください
  Q12 急性心筋梗塞の急性期における血糖コントロールでは,どの薬剤を
   使用すればよいですか? また,血糖コントロールで注意すべき点を
   教えてください
  Q13 心疾患を糖尿病に合併した場合,内服薬の数が多くなることが多いのですが,
   服薬コンプライアンス(アドヒアランス)を高める良い方法を教えてください
  Q14 ピグアナイド系薬剤服用中の患者さんでの血管造影検査で注意すべき点を
   教えてください
 3 不整脈のある患者さんの治療について
  Q15 不整脈のある患者さんの薬物療法(糖尿病治療薬)で注意する点を
   教えてください
  Q16 糖尿病を合併した心房細動での血栓の危険性について教えてください
 4 高血圧のある患者さんの治療について
  Q17 薬物療法(糖尿病治療薬)で注意する点を教えてください
  Q18 降圧薬の使い方で注意する点を教えてください(糖尿病の患者さんに対して)
 5 心不全のある患者さんの治療について
  Q19 心不全に対してβ受容体遮断薬を使用していますが,検診でHbA1cが
   7.4パーセントと糖尿病であることが判明しました.β受容体遮断薬は
   中止すべきでしょうか?
  Q20 すでに糖尿病治療中の患者さんに対してβ受容体遮断薬を開始することは
   できないのでしょうか?
  Q21 心不全の患者さんへの薬物治療(糖尿病治療薬),血糖コントロールで
   特に注意する点を教えてください
 6 ピオグリタゾン(アクトス®)の使い方について
  Q22 どのような患者さんがピオグリタゾンの適応となりますか?
  Q23 ピオグリタゾンは耐糖能障害やメタボリックシンドロームに効果がありますか?
  Q24 ピオグリタゾンは虚血性心疾患の二次予防には有効でしょうか?
  Q25 ピオグリタゾンによる副作用の浮腫が気になりますが,防ぐ方法はありますか?
  Q26 ピオグリタゾンは心機能や血管内皮機能を改善させますか?
  Q27 ピオグリタゾンで他に使用上注意する点はありますか?
 7 インスリン導入について
  Q28 SU薬を内服している患者さんですがHbA1cが8.0%より下がりません.内服薬が
   効果不十分になった場合,どのタイミングでインスリンへ切り替えればよいですか?
  Q29 インスリン導入時,どの種類のインスリンをどの時間で打つようにすれば
   よいですか?
  Q30 入院できない患者さんに対してインスリンを導入することはできますか?
  Q31 インスリン治療でインスリン抵抗性は改善されますか?
  Q32 心疾患のある患者さんにインスリンを導入する場合,特に注意すべき点に
   ついて教えてください
 8 合併症について
  Q33 腎機能が低下した患者さんへの経口血糖降下薬の使用で注意する点を
   教えてください
  Q34 糖尿病腎症の患者さんはどの段階で腎臓内科を受診すればよいか教えてください
  Q35 糖尿病腎症のある患者さんの心臓リハビリテーションでは何に注意したら
   よいですか?
  Q36 微量アルブミン尿のある患者さんの管理で気をつけるべき点について
   教えてください(微量アルブミン尿の意味とメカニズムについて)
  Q37 網膜症を悪化させない血糖低下のペースを教えてください.
   また急激な血糖改善で網膜症が悪化するのはどうしてですか?
  Q38 眼科で糖尿病網膜症による軽度の眼底出血と診断されました.
   ワルファリンや抗血小板薬の投与はどうしたらよいでしょうか?
  Q39 起立性低血圧があり立位で収縮期血圧が90mmHgまで下がり
  軽いふらつきを自覚します.降圧薬を減量したほうがよいでしょうか?
  Q40 1型糖尿病と2型糖尿病では血管に及ぼす影響は違いますか?
  Q41 糖尿病性心筋症とはどのような病気ですか? どのように治療すれば
   よいでしょうか?
 9 メタボリックシンドロームの治療について
  Q42 メタボリックシンドロームの患者さんの指導はどのように行えばよいでしょうか?
  Q43 メタボリックシンドロームに虚血性心疾患を合併する場合,薬物治療は
   必要でしょうか?
 10 漢方と糖尿病について
  Q44 糖尿病の治療に有効な漢方薬はありますか?どういう症状に対して使用するか
   コツを教えてください
  Q45 肥満治療に有効な漢方薬がありますか?
 11 症例編
  Q46 糖尿病と高血圧を合併する患者さんです.治療はどう進めればよいですか?
  Q47 糖尿病,高血圧,脂質異常症を合併する患者さんです.治療はどう進めれば
   よいですか?
  Q48 現在インスリン治療中ですが,糖尿病コントロールが不良の患者さんです.
   冠動脈疾患の進展予防のため,今後の治療をどう進めればよいですか?
  Q49 肥満があり心機能の低下した高インスリン血症の患者さんです.
   治療はどう進めればよいですか?
  Q50 心疾患があるため運動療法があまりできない食後高血糖の患者さんです.
   今後の治療はどう進めればよいですか?
  Q51 心房細動のある患者さんです.退院後の外来でどう診療を進めればよいですか?

索引

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現場で悩む医師にとって大きな助けとなる一冊
書評者: 吉岡 成人 (NTT東日本札幌病院糖尿病内分泌内科部長)
 日本における2型糖尿病患者は増加の一途をたどっています。2007年の国民健康・栄養調査によれば,糖尿病とその予備群は合わせて2,210万人と推計され,この10年間で1.6倍にも増加しているのです。糖尿病で問題となるのは,何といっても慢性合併症です。

 糖尿病の細小血管障害の代表である糖尿病網膜症に関しては,網膜症のために身体障害者手帳1級,2級を交付される患者数は年間3,000人ほどで,この10年ほどは増加の傾向は認められません。おそらく,糖尿病診療における内科と眼科との連携の強化,治療技術の向上,「糖尿病は成人の失明原因として重要な疾患である」といった一般市民の知識の向上が,失明に至る患者数の増加を抑止している要因ではないかと考えられています。また,糖尿病腎症による末期腎不全の患者数は増加しつつありますが,透析導入に至る患者数の増加の割合は,少しずつではありますが抑えられつつある傾向にあります。

 糖尿病の細小血管障害を抑止するためには血糖値,血圧,血中脂質などの代謝指標をきめ細かく治療することが重要ですが,大血管障害である虚血性心疾患や脳卒中をどのように克服するかが臨床の現場に残された大きな課題です。

 糖尿病患者の代謝管理をいかにして行うと虚血性心疾患の抑止につながるのか…,循環器科内科医はどのようにして糖尿病患者をマネジメントすべきなのか…,毎日の診療の現場で多くの医師たちが悩んでいます。

 このような医療現場のニーズに応えるために,大分大学の循環器内科と糖尿病の診療に携わっている総合内科学第一のグループが中心となって執筆された本書は,糖尿病を専門としていない医師や医療スタッフが糖尿病患者にアプローチする際のコツを丁寧に紹介しています。

 第I章では糖尿病の基礎知識を解説し,第II章で糖尿病に合併する循環器疾患がまとめられています。心房細動と糖尿病,心不全と糖尿病などの項目では,糖尿病を専門とする医師やスタッフにも必要とされる循環器疾患の知識がしっかりとちりばめられています。

 さらにどこから読んでも役に立つのが,第III章「実践・患者管理Q&A51」です。Q&A形式で日常の診療現場で問題となるさまざまな事項について,要点を押さえた解説が過不足なく記載されています。例えば,循環器分野でのエビデンスが多いと考えられているチアゾリジン薬に関しては,薬剤の有用性のみならず,副作用である浮腫への対応や骨折のリスクについても十分に記述され,メーカーのパンフレットでは推し測ることができない事実が臨床現場の視点から解説されています。肥満については,その道の専門家が多い大分大学のスタッフの手によって,実践的な記載がなされているのは言うまでもありません。もちろん,糖尿病の専門医にとっても,知識の整理のために有用なテキストです。

 糖尿病患者における「血糖値」が循環器疾患をもたらすリスクなのかマーカーなのか,治療のターゲットなのか…。本書は糖尿病と循環器疾患の複雑な病態を理解するうえでの大きな助けになる一冊です。
基本を学び,知識をアップデートするのに最適
書評者: 木村 剛 (京大大学院教授・循環器内科学)
 大分大学の犀川哲典先生,吉松博信先生が『糖尿病と心臓病』と題する医学書を発行された。

 日本における糖尿病患者数は増加の一途にあり,糖尿病患者における最も重要な合併症は心血管疾患である。また日本人の冠動脈疾患において糖尿病の合併率は50%以上であり,耐糖能異常を含めると3分の2以上の患者が糖代謝異常を有するとされている。循環器内科専門医と糖尿病専門医の連携が強く求められているところである。

 本書の画期的なところは大分大学の循環器内科グループと糖尿病グループが力を合わせて企画,編集された点にある。ともすれば循環器内科専門医は心筋虚血の治療に傾き,糖尿病専門医は血糖管理に傾くところであるが,患者の求めるところは予後改善という視点からみた総合的な管理である。本書では糖尿病患者の総合的な管理が非常にバランスの取れた形でまとめられている。

 大学病院や基幹病院以外では,糖尿病専門医は少なく,多くの糖尿病患者は一般内科医や循環器内科医によってケアされている。しかしながら,われわれ循環器内科医の糖尿病についての基礎知識は十分とは言えないことが多い。本書では,糖尿病についての基礎知識と糖尿病に合併する循環器疾患についての基礎知識を簡潔にまとめると同時に,糖尿病と循環器疾患についての基本的考え方が明確にされている。

 さらに日常的に遭遇することの多い疑問点や問題点が,51のQ&Aで解説されている。Q&Aは日常臨床にすぐに役立つ項目が包括的に取り上げられている。すべてを通しで読んでも良いし,自分が直面している問題についての解説を拾い上げて読んでも良いと思われる。ここでもエビデンスを重視し,基礎知識と基本的考え方を述べた上で各論に入るというスタイルが貫かれている。各論はすぐに診療に応用できるようにと,具体的な記述が心がけられているのもありがたいところである。

 現在の日本の実地臨床においては,糖尿病患者の心血管疾患発症予防や糖尿病を合併する心血管疾患患者の総合的管理は,残念ながら満足すべきレベルには達していないと思われる。これは医療サイドの知識不足によるところも大きいと考えられる。

 本書は,一般内科医,循環器内科医や研修医まで広い層の医師が「糖尿病と心臓病」についての基本的考え方を学び,知識をアップデートするために最適の書である。本書からのメッセージを患者に伝えることによって,患者の糖尿病と心臓病についての知識が増え,治療に対するモチベーションの向上も期待される。本書が多くの糖尿病患者の治療成績向上に寄与することを願っている。

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