糖尿病と心機能障害

もっと見る

近年,糖尿病患者の心臓死の頻度が高まる一方,虚血性心疾患患者における糖代謝異常が急増し,大きな問題となっている。本書は,心臓病の病態を肥満,糖尿病,高脂血症,高血圧などと密接に関連した病態と捉え理解することが重要であるとの観点から,糖尿病と心機能障害の基礎と臨床を最新の情報を盛り込んで解説した本邦初の成書。
監修 坂田 利家
編集 犀川 哲典
発行 2001年09月判型:B5頁:200
ISBN 978-4-260-11986-3
定価 5,170円 (本体4,700円+税)
  • 販売終了

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 目次
  • 書評

開く

基礎編 
I. 糖尿病の病態生理 
II. 糖尿病心筋のエネルギー代謝 
III. 実験的糖尿病モデルと虚血・再灌流障害 
IV. 糖尿病心の電気生理学的異常 
V. 糖尿病心のCa代謝 
VI. 糖尿病の血管障害 
VII. 糖尿病治療薬と心機能 
VIII. インスリン抵抗性と心臓 
臨床編 
IX. 糖尿病と心機能 
X. 糖尿病性自律神経障害 
XI. 糖尿病と123I-MIBG心筋シンチグラフィ 
XII. 糖尿病における脂質代謝異常と冠動脈硬化 
XIII. 糖尿病と虚血性心疾患 
XIV. 糖尿病と高血圧 
XV. 糖尿病と不整脈 
XVI. 糖尿病の治療と心臓 
XVII. まとめ;循環器科医からみた心機能障害と糖尿病

開く

糖尿病と心機能障害の基礎と臨床の最新情報を詳述
書評者: 島本 和明 (札幌医大教授・内科学)
 糖尿病患者に冠動脈疾患に代表される動脈硬化性大血管障害の合併が多いことは,よく知られていた。そして,糖尿病患者における冠動脈疾患の特徴として,多枝病変,心機能低下,他の脳・腎・大血管などの臓器障害合併例が多く,冠動脈疾患の予後を著しく悪くする要因となっていた。

◆タイムリーな優れた企画内容

 最近の本邦における生活習慣の変化による糖尿病の増加と冠動脈疾患の増加,そして両者の合併例の顕著な増加には,多くの臨床医が大きな驚異を持ち,またその対策を真剣に考えざるを得なくなっている。そのような折に,糖尿病と心機能障害のタイトルで,長年糖尿病・肥満等代謝面から多くの業績を残され,循環器系疾患にも造詣の深い坂田,犀川両先生による本著が上梓された。誠にタイムリーな企画と言えよう。
 本書は,まず「基礎編」において,糖尿病の病態をわかりやすい中にも詳しく述べ,さらに心筋のエネルギー代謝・心筋虚血電気生理学的異常など心筋代謝と糖代謝異常の関連をわかりやすく解説している。「臨床編」においては,これら基礎的な知識をベースに,虚血性心疾患,高血圧,不整脈などの具体的な循環器疾患と糖尿病の関連をまとめている。糖尿病と循環器疾患について,包括的にまとめた臨床医にとって大変有意義な著書と言えよう。
 特に,最近注目されるインスリン抵抗性についても項を設けて記述している点も,読者にとってはありがたい点である。また,本書の特徴として,ポイントとなる項に「サイドメモ」を設け,最近のあるいは臨床的に有用な事項をよりわかりやすく解説している。この点も非常に有用であり,優れた企画と言えよう。著者の科学的で几帳面な性格をよく反映した,内容がよく吟味されている良書である。
 一方で,この分野における基礎科学と臨床研究そして大規模臨床試験などは,近年急速に進展している。近い将来,新しい知見を加えた改訂版が出ることを併せて期待したい。

代謝,循環器両者からアプローチした糖尿病最新情報
書評者: 原納 優 (甲子園大教授・栄養学)
 糖尿病の死因の第1は心疾患であり,大血管障害としての冠動脈硬化症の早期診断,管理と病態理解は,糖尿病専門医・療養指導士にとってますます重要性が増しており,必須事項である。
 一方,循環器医師・コメディカルの方にとっても,狭心症あるいは心筋梗塞の2-3人に1人は糖尿病またはその予備軍であり,両領域の医療従事者にとって,格好の書物が出版された。

◆要望される代謝,循環器 両者協調の糖尿病診療

 本書は,「基礎」および「臨床編」から構成されており,前者は,糖尿病病態生理,診断,治療など最新の基本的事項が理解しやすい図表を中心に,Side Memoも活用し要領よくまとめられている。また心疾患理解に必須である,エネルギー・電解質,特にK+チャネル,Ca代謝,インスリン感受性,AGEと血管障害について,臨床にも役に立つ最新の情報が記載されている。
 「臨床編」では,心筋症,糖尿病・肥満・高血圧・心肥大と心機能,自律神経障害と心,脂質代謝異常,特に食後高脂血症と小粒子LDL,高血圧と冠動脈疾患,123I-MIBG心筋シンチグラフィによる心自律神経障害の評価,不整脈,治療など糖尿病を有する心疾患の理解と管理について,非専門領域の方にも要領よく,しかも,質の高い学術レベルを保ちつつ記述されている。
 代謝,循環器それぞれの書物はよくみられるが,両者を1冊にまとめた書物は少なく,両者協調しての診察が要望されかつ必須である現状にとって推奨に値する良書である。

糖尿病心機能を学ぶための必読書
書評者: 豊田 隆謙 (東北労災病院長)
 このたび,坂田利家先生が監修,犀川哲典先生が編集された『糖尿病と心機能障害』が,医学書院から出版された。本書は,「基礎編」と「臨床編」に分けられ,それぞれ糖尿病学および循環器病学の立場から記述されている点がおもしろい。
 現在でも循環器病専門家が,1970年に報告されたUGDPの結果を忘れていないことに驚かされる。これはスルフォニル尿素薬(tolbutamide)が心筋障害を起こすという,当時としては驚くべき成績が報告された。UGDPそのものは臨床試験の不確かさから,今は忘れ去られているが,スルフォニル尿素薬を含めて糖尿病治療薬が心筋障害を起こすのではないか,という議論が現在でも続いている。本書を読んでみると,この問題について多くの情報が含まれていることがわかる。

◆糖尿病の心機能を糖尿病学と循環器病学からアプローチ

 本書は,糖尿病の心筋および血管に対して,糖尿病治療法が適当なのかどうかを考えるよい材料を提供している。糖尿病学からみて利益があると思われる実験結果が,循環器病学からみると危険であることを示唆するものがある。糖尿病の心機能を両者の立場からみると,どうなるか大変興味深い。glyburideやglipizideがプレコンディショニング現象を抑え,心筋防護を低下させるとすれば,これらのスルフォニル尿素薬を服用している糖尿病患者はどうなるか。PTCAを施行した糖尿病患者を追跡すると,早期死亡率が高いと報告されている。glyburideやglipizideは,心筋細胞のATP依存性カリウムチャネルに作用するのに対して,新しく市販されたglimiprideは,心筋細胞のチャネルに作用しない。チアゾリジン系薬物であるtroglitazoneは,心筋細胞のカルシウムチャネルとATP依存性カリウムチャネルに作用するのに対して,pioglitazoneは作用しない。同種の薬物も心筋に対して微妙な差がある。糖尿病治療に欠かせないインスリンは心機能に影響せず,生命予後改善に役立つ。糖尿病自律神経障害によるdenervationは,大きな問題である。dead in bed syndromeと呼ばれる突然死は,自律神経障害が関与する。本書を読むと,動脈硬化による心疾患の他に,糖尿病特有な糖尿病性心筋症が存在する。
 本書の構成の特徴の1つは,随所にサイド・メモを挿入してあり,重要な事項が簡潔にまとめられている。これから糖尿病心機能を学ぼうとする糖尿病専門医にも,ぜひ一読を勧めたい。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。