人工膝関節置換術
手技と論点

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人工膝関節置換術をめぐっては、その手術法や使用するインプラントのデザイン、周術期の管理、最小侵襲手術(MIS)の是非など、いくつかの論点が存在する。これらの論点を軸としながら、一般的に手技が“難しい”といわれている膝の人工関節置換術の方法やコツ、ピットフォールなどを最前線の現場で活躍する術者がわかりやすく解説する、実践的な手術書。
編集 松野 誠夫 / 龍 順之助 / 勝呂 徹 / 秋月 章 / 星野 明穂 / 王寺 享弘
発行 2009年12月判型:A4頁:352
ISBN 978-4-260-00842-6
定価 19,800円 (本体18,000円+税)

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 人工膝関節置換術(total knee arthroplasty/TKA)は年々増加し,TKAに関する報告も増えてきている。しかし,study designの不十分な報告も少なくなく,従来から術者自身が用いている機種,術式に拘泥して,他の術式との比較,検討をした報告は少ない。

 米国においては年2回,CURRENT CONCEPTS IN JOINT REPLACEMENTの学会が開催され,AffirmativeとOppositionの立場から人工膝関節置換術をめぐる手技やさまざまな論点について討論がなされている。我が国においても第38回日本人工関節学会(2008年)において,Minimally Invasive Surgery(MIS)とPS vs CR,第82回日本整形外科学会(2009年)において,機種選択,computer navigation,MIS-TKAの3題がcross fireとして取り上げられ興味ある討論がなされた。
 術者は自らが慣用している方法を熟知していなければならないことはもちろんであるが,同時にcontroversyの問題(design,material,手術手技などを含め)についても十分にその利点と欠点を理解しておくことが大切である。そのためには広く内外の文献を渉猟し,術者自身の多くの経験と照合しながら,常に最も適正と考えられるTKAを選択することが望まれる。
 こうした意図から,本書ではTKAを行ううえで問題となる手技や論点を選び出し,それらに精通した術者を執筆者に迎えて章を構成した。また,各章の冒頭には論点を明確にし,問題の全容を概観できるように「論点の整理」という項目を設け,編集者6名が分担して執筆を行った。
 本書がTKAに携わる多くの方々にとって,問題を再考するきっかけとなり,また実際の手術の一助となれば幸いである。

 本書は龍順之助教授とともに企画し,編集を『人工膝関節置換術-基礎と臨床』(文光堂)と同じ編集者の方々にお願いした。龍順之助教授をはじめ,編集に加わっていただいた方々,および執筆者の皆様にお礼を申し上げ,また本書の出版にあたり御尽力いただいた(株)医学書院の方々,特に入戸野洋一氏に感謝する。

 平成21年10月1日

 松野誠夫
  北海道大学名誉教授
  北海道整形外科記念病院理事長

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第1章 皮膚切開
 論点の整理
 1.ストレート皮切(anterior straight midline皮切)
 2.Medial parapatellar(MPP)皮切
 3.Lateral parapatellar皮切
第2章 関節展開法
 論点の整理
 1.Medial parapatellar法(MPP)
 2.Subvastus法(SVA)
 3.Midvastus法
 4.Lateral法
第3章 Soft tissue balancingとBone cut
 論点の整理
 1.基本的手術手技 Independent cut
 2.基本的手術手技 Dependent cut
 3.基本的手術手技 Parallel cut technique
 4.大腿骨コンポーネントの設置①
 5.大腿骨コンポーネントの設置②
第4章 脛骨コンポーネント
 論点の整理 脛骨コンポーネントの回旋設置とmobile bearing kneeの有用性
 1.脛骨コンポーネントの設置①
 2.脛骨コンポーネントの設置②
 3.機種選択 fixed PE
 4.機種選択 mobile PE
第5章 髄内ガイドと髄外ガイド
 論点の整理
 1.髄内ガイド(大腿骨側)
 2.髄外ガイド(大腿骨側)
 3.髄内ガイド(脛骨側)
 4.髄外ガイド(脛骨側)
第6章 人工膝関節のデザイン
 論点の整理 TKAデザインにおけるPCLの意義-30年論争の整理
 1.後十字靱帯代償型(PS型)
 2.後十字靱帯温存型(CR型)
第7章 Minimum invasive surgery(MIS)
 論点の整理
 1.MIS手術の実際と注意点
 2.Mini-midvastus法によるMIS-TKA
 3.現時点でのMIS-TKAに対する慎重,限定使用を主張する見解
 4.MIS;May I Stop?
第8章 CASの有用性
 論点の整理 Computer assisted surgery-introduction for controversy
 1.賛成の立場から
 2.反対の立場から
第9章 膝蓋骨の置換
 論点の整理
 1.置換
 2.非置換
第10章 コンポーネントの固定法の選択
 論点の整理
 1.骨セメント固定人工膝関節
 2.セメントレス人工膝関節
第11章 骨欠損への対策
 論点の整理
 1.Bone graft
 2.Prosthetic augmentation
 3.Bone cement
第12章 両側同時手術の是非
 論点の整理
 1.推進派
 2.反対派
第13章 麻酔法
 論点の整理
 1.全身麻酔
 2.硬膜外麻酔・腰椎麻酔(脊髄くも膜下麻酔)
第14章 DVT,PEの予防
 論点の整理
 1.国内外のガイドライン
 2.診断方法
 3.薬物療法
第15章 手術法のオプション
 論点の整理
 1.人工膝単顆置換術(fixed type)
 2.モバイルベアリング型単顆置換術
 3.HTO

索引

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百家争鳴の知識の迷宮でさまよう
書評者: 津村 弘 (大分大教授・整形外科学)
 まず,大変面白い本である。

 ここ10年ほど,人工膝関節置換術を巡っては,基礎研究,臨床研究,新機種の発表など話題に事欠かない。人工膝関節置換術の進歩に対して,日本の整形外科医が大きく貢献しているのは周知の事実である。この本は,同じ編集者たちで作成された『人工膝関節置換術―基礎と臨床』(文光堂)と対をなすものであり,主として手術手技に焦点を当てたものである。人工膝関節置換術の手術手技においては,現在はまさに百家争鳴の時代であり,多くの学会でディベートやクロスファイヤが企画され,呼び物となっている。このようなディベートを書物にしたものが本書である。

 本書の章立てを見ると,「皮膚切開」「関節展開法」「Soft tissue balancingとBone cut」「脛骨コンポーネント」「髄内ガイドと髄外ガイド」「人工膝関節のデザイン(PS型とCR型)」「Minimum invasive surgery(MIS)」「CASの有用性」「膝蓋骨の置換」「コンポーネントの固定法の選択」「骨欠損への対策」「両側同時手術の是非」「麻酔法」「DVT,PEの予防」「手術法のオプション」の15章からなっており,人工膝関節置換術の開始から終了までのそれぞれの段階で,論点となっている部分を事細かに解説している。いかにも,人工膝関節置換術を知り尽くした編集者たちが企画した本である。

 それぞれの章は,「論点の整理」という比較的公平に書かれた総括があり,その後に異なる主張の解説が書かれている。それぞれの著者も,最もふさわしい分野を担当している。各解説の独立性のため,重複する図や説明はあるものの,煩わしいものではなく,戻って参照する手間が省けて読みやすい。なお,「麻酔法」や「DVT,PEの予防」などの一部の章では,対立する意見ではなく,詳細な解説となっている。

 初心者は,「論点の整理」だけを読んでも勉強になる。既に手術を行なっている者は,自分の手技の部分だけを読んでも,知識と手技の確認ができる。さらに興味のあるものは,対立する意見を読み,熟考し,知識の迷宮をさまようと良い。対立する方針や手技が,臨床成績の明確な差を生んでいないことが,混乱の理由であり,この本の存在理由であり,われわれの努力のモチベーションである。次世代のエビデンスづくりへの道筋も見えてくるだろう。

 人工膝関節置換術に関するディベートのネタがばれることが,唯一の心配事ではある。人工膝関節置換術を扱う学会の会長にとっては,迷惑な本かもしれない。
知的好奇心に生き生きと語りかけてくる
書評者: 安田 和則 (北大大学院医学研究科科長/北大医学部長)
 本書は全15章,本文336ページから成る堂々たる医学専門書で,筆頭編集者は北海道大学医学研究科整形外科学分野名誉教授の松野誠夫先生です。そして人工膝関節置換術の領域で大きな業績を上げておられる龍順之助,勝呂徹,秋月章,星野明穂,王寺亨弘の5先生も編集を担当されています。松野先生は人工膝関節を膝関節疾患の治療体系へ導入するための臨床研究をわが国で最も早く開始されたお一人で,人工膝関節置換術の研究をライフワークの1つとしてこられました。本書の企画と上梓は松野先生の指導の下でなされ,前著である『人工膝関節置換術―基礎と臨床』(文光堂,2005年)に続いて松野先生の長年のご研究を集大成する1冊になっています。

 人工膝関節置換術は幾つかの手術工程の成功の積み重ねによって,最終的成功が導かれる大変難しい関節手術です。最近では,手術用機器を使うのではなく,“使われている” ような初心者が,「人工膝関節置換術は易しい手術である」などと錯覚することがあるのは大変嘆かわしいことです。本書は,整形外科医がこの難手術を真に成功させるために必要な知識と手技のコツを体系的に整理して詳述しています。人工膝関節置換術の特徴の1つは,先端的手術であるが故に重要手技を巡っては大きなcontroversyが存在することです。本書では読者にそのcontroversyの全貌が理解できるように各章の冒頭に「論点の整理」という項目を設け,膨大な重要文献を引用しつつその論争点を明確に解説していることがすばらしい特長となっており,これが本書の学術的価値を大きく高めています。松野先生は本書の序の中で「術者は自らが慣用している方法を熟知していなければならないことはもちろんであるが,同時にcontroversyの問題(design,material,手術手技などを含め)についても十分にその利点と欠点を理解しておくことが大切である。そのためには広く内外の文献を渉猟し,術者自身の多くの経験と照合しながら,常に最も適正と考えられるTKAを選択することが望まれる」と書いておられますが,本書には先生のこの臨床哲学が見事に具現化されています。本書は単なる手術手技書ではなく,手術という侵襲的治療を行うに当たっての医師の心構えをも説く教育の書です。

 お叱りを覚悟であえて書かせていただきますが,松野先生は来年,米寿を迎えられます。この紹介記事を読まれた多くの読者は,松野先生は本書の編集に当たって象徴的役割のみを果たされたのだろうと思われたのではないでしょうか。しかしそれはまったくの誤りです。松野先生は先頭に立って本書の企画・編集を指揮され,本書の内容の約16%に当たる55ページを自ら執筆しておられます。医学専門書というものは,ともすれば無味乾燥な事実の羅列になりがちなものです。しかし,本書は読むと実にexcitingなのです。生き生きと読者の知的好奇心に語りかけてくる何かがあるのです。それは筆頭編集者としての松野先生の若々しい情熱と強力なリーダーシップが,いずれ劣らぬ有名な論客である5人の編集者の「科学する心」を存分に引き出していることからくるのでしょう。

 本書は過去にわが国で出版された人工膝関節置換術に関する専門書の中で間違いなく最も充実した1冊であり,現在の人工膝関節置換術の手技を理解するために必須の知識をこの1冊で網羅する教育書として世界に誇れる書です。本書はこれから膝関節外科専門医をめざす医師にはもちろんのこと,既に多くの手術を行っている専門医にとっても自らの知識と手技を評価し,さらに発展させていただくために,ぜひ読んでいただきたい1冊です。

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