母乳育児支援スタンダード

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母乳育児の重要性がこれだけ認識されつつあるのに、未だ人工栄養に頼る親は後を絶たない。しかし、UNICEF、WHOをはじめ商業主義に抗して母乳育児を普及・支援する組織や団体・学会の輪は着実に広がりつつある。その1つ、日本ラクテーション・コンサルタント協会(JALC)が総力をあげ、科学的根拠に基づいた母乳育児支援のテキストづくりに取り組んだ成果が本書。看護職・医師・心理職・栄養士らによる支援を理論面で支える、根拠に基づく知識と技術を網羅。母乳育児支援テキストの決定版!
編集 NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会
発行 2007年09月判型:B5頁:380
ISBN 978-4-260-00520-3
定価 4,400円 (本体4,000円+税)
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推薦のことば(堀内 成子)/まえがき(渡辺 和香)

推薦のことば
 平成19年度3月に「授乳・離乳の支援ガイド」が策定されました。これは「平成17年度乳幼児栄養調査」の結果や最近の研究知見を踏まえて提案されたものです。「健やか親子21」においてはすでに,「第4課題:子どもの心の安らかな発達の促進と育児不安の軽減」の中で,出産後1か月時の母乳育児の割合を増加傾向に,と謳われていました。しかし,その具体的な方策についてはふれられておらず,現場では,保健医療従事者からの矛盾する不正確な情報や技術不足により,母親や家族に混乱が生じていました。今回策定された「授乳・離乳の支援ガイド」の中で授乳の支援に関する基本的な考え方や支援する際のポイントが記載されており,これらを現場で実際に展開する専門家は,さらなる知識,技術,態度を修得する必要に迫られています。このような折に,母乳育児支援に携わる関係者の必読書となるであろう本書が出版されたことは,大変喜ばしいことと考えます。
 世界に目を向ければ,母乳育児推進の大きなうねりも加速され,2003年には母乳育児が乳児に理想的な栄養を供給する無比の方法であることを大前提にした「乳幼児の栄養に関する世界的な運動戦略」の行動計画が出されました。この運動計画の中で母乳育児の活動の手引きとして以下のようなポイントがあげられています。
・母乳だけで育てる期間は6か月で,その後も栄養を補いながら生後2年以上母乳育児を続けること。
・その実現のために政府などの権威ある公的機関が役割を果たさなければならないこと。
・母乳育児ができるような社会にするために情報伝達が適切に行われなければならないこと。
・母乳育児を支援する保健医療従事者が熟練した援助技術を身につけるべきであること。
 お産を終えた母親が赤ちゃんと至福の時をともに過ごす環境を整え,母乳育児が始められるように支援する私たち専門家の役割は,今後ますます重要になってくるでしょう。
 本書を執筆したメンバーは,助産師をはじめ,看護師,産科医,小児科医,カウンセラーとさまざまな背景を持った母乳育児専門家たちで,国際認定ラクテーション・コンサルタント(IBCLC)の資格を有する方々です。母乳育児支援が母と子を中心に多分野に広がる知識やスキルを必要とすることが理解できます。女性がエンパワーされ,母親へと大きく成長していくプロセスに寄り添い,必要な情報やケアを提供していけるような支援が求められます。
 本書は,母乳育児支援に携わる専門職をはじめ学生など関係者の日々の実践や研究,教育活動に役に立つものと確信します。母乳育児を通した子育て支援がよりいっそう充実したものとなることを期待します。
 2007年7月
 聖路加看護大学 教授
 日本助産学会 理事長 堀内 成子

まえがき
 人が人の母乳で育つこと…
 これは,自然の摂理に沿った行為であり,太古の昔から行われてきた普遍的な行為です。
 それが,いつの間にか母と子にとって,母乳で育てるということが,とても特別なことであり,困難や努力を伴うものとなってきました。世の女性たちは,氾濫する情報の中から正しいものを選択し,意識をもって望まないと母乳育児はできないものになってきています。それは,今の世界,あるいは日本の社会情勢が原因でもあり,母乳育児支援教育の未熟さが原因でもあり,支援する私たちの知識や技術の不足が原因でもあります。
 日本のIBCLC(国際認定ラクテーション・コンサルタント)によって書かれたこの本は,母乳育児をエビデンスに基づいてさまざまな面からとらえ,総合的に母乳育児を学べるようになっています。
 出版までには,多くの時間を要し,苦労した面もありましたが,著者以外にもIBCLCのメンバーからさまざまな協力を得て,無事完成することができました。多くの母乳育児支援関係者が待ち望んでいた本に仕上がったと自負しております。
 この本が,多くの関係者のもとに届き,支援や教育の現場に一石を投じることができればと思っています。
 ひとりでも多くの母乳育児支援者が,科学的・効果的に母乳育児を支援することができるよう,すべての母と子に母乳育児の恩恵が届くよう,この本がお役にたてれば,本当にうれしく思います。
 2007年夏
 NPO法人 日本ラクテーション・コンサルタント協会
 代表 助産師・IBCLC 渡辺 和香

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推薦のことば
まえがき
主要な略語

第1章 概論
 1 世界の母乳育児運動の潮流
 2 世界の母乳育児支援団体
 3 母乳育児の保護と推進:WHOの国際規準について
 4 母乳育児成功のために:「母乳育児成功のための10か条」のエビデンスを中心に
 5 IBCLCの行う母乳育児支援:業務基準・倫理規範
第2章 エモーショナル・サポート
 6 母乳育児カウンセリングの理論と基本
 7 母乳育児カウンセリングの実践
 8 1人目の母乳育児がうまくいかなかった経験をもつ母親への援助
第3章 母乳育児についての基本的知識
 9 子どもにとっての母乳育児の利点
 10 母乳の免疫学的意義
 11 母親にとっての母乳育児の利点
 12 社会にとっての母乳育児の利点
 13 母乳分泌の解剖・生理
 14 母乳の生化学
 15 吸啜・嚥下の解剖と生理
 16 母乳栄養児の消化吸収
 17 文献にみる「乳質」考察
第4章 妊娠中の母乳育児支援
 18 母乳育児のための出産前教育
第5章 出産直後の母乳育児支援
 19 早期接触(early attachment/early contact)の意義
 20 早期接触の支援
 21 出産後1週間の乳房と母乳の変化(乳房緊満を含む)と支援
 22 出産直後の授乳時間,授乳間隔,夜間授乳,母子同室
 23 ポジショニング(授乳姿勢・抱き方)と
   ラッチ・オン(吸着,含ませ方,吸い付かせ方)
 24 母乳育児と黄疸
 25 母乳育児と低血糖
 26 入院中の児のモニタリング:体重減少と増加,尿・便など
第6章 特別な支援を必要とする場合
 27 直接授乳が困難な場合の支援
 28 乳頭痛,乳頭損傷がある母親への支援
 29 帝王切開で出産した母と子への母乳育児支援
 30 母子分離:搾乳と電動搾乳器の使用方法および母乳の保存・解凍・加温
 31 双子・多胎児の母乳育児支援
第7章 退院後から1か月までの母乳育児支援
 32 退院後の地域での母乳育児支援
 33 母乳育児の継続的支援
 34 母乳不足と母乳不足感
 35 母乳育児中の食事,水分摂取
第8章 1か月以後の母乳育児支援
 36 補完食(離乳食)の開始と進め方
 37 母乳で育てられている児への鉄,ビタミンの補足
 38 人工・混合栄養からの母乳復帰
 39 働く女性と母乳育児
 40 乳腺炎の予防と治療
 41 母乳育児に関する乳幼児の発育・発達
 42 乳離れ・卒乳
 43 母乳育児と妊娠,きょうだい同時期授乳

あとがき
NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会
巻末資料1:母乳育児成功のための10か条
巻末資料2:母乳代用品のマーケティングに関する国際規準
巻末資料3:乳幼児の栄養に関するイノチェンティ宣言2005年版
索引

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個別性のある支援のための「母乳育児支援スタンダード」
書評者: 山内 豊明 (名古屋大学医学部教授・基礎看護学)
 わが家は幸いにも二人の子どもを授かった。上の子の時は何もかもが初めてで,すべてが手探りであった。さまざまな育児書を紐解くたびにそれぞれそれなりに正しく記述されていた。その一方,親初体験者としては複数の文献にあたればあたるほど,文献ごとに微妙な違いがあることも何度か直面した。次の子の時は上の子の経験があったぶん楽な面もあったが,経験があることがかえってさらなる混乱を招くこともあった。

 母乳育児に関しては上の子はいつまでもおっぱいが大好きで,「辛子を塗る」「おっぱいに似顔絵を描く」等々の,世の中のありとあらゆる「断乳」手段もものともせずママのおっぱいに執着し続けていた。かと思えば下の子はいともあっさり自分から卒乳してしまい,こちらの方が「もういいの?」と思う始末であった。

 一家族一家族,手探りで経験をしていくのである。さらに同じ家族の子どもといっても一人ひとりの行動様式は違うので,一人ひとり子どもを育てるたびにそれぞれ別々の経験をしていく。ある意味すべてが初めての経験ともいえよう。一人ひとりの親がそれぞれ新たな経験をするが,そのままで終われば消え去ってしまうものとなり,何千年の時が経ってもすべてが初めての体験の繰り返しである。しかし何らかの形で経験が蓄積され伝承されることこそが,人類が文明をもっている所以であろう。

 この伝承は傍で見て習得することも可能ではある。しかしその経験知の蓄積具合と伝播の広がりは限定的であろう。かつてはこれらの経験知の蓄積自体を覚えていること,いわゆる博識であることに大きな価値があった。しかしさまざまな技術の進歩とともに情報のネットワーク化が発展してきた今日,情報自体はどこかにあるので,それらに効率的にアクセスでき正しく取捨選択できることに,むしろ意義と重要性が移ってきた。情報が乏しい時代を越え,むしろ情報の洪水をいかにして溺れずに渡っていくかの時代になった。正しい情報がどこにあるのか,どうやってそれに辿り着くことができるのかの見極めがかえって難しい時代になったともいえよう。さらにせっかくよい情報があったとしてもそれに出会うのが困難であったら,あまり役に立たないであろう。

■エビデンスというと個別性が無視されるというのは誤解

 このように溢れんばかりの情報の信憑性を吟味し構造化して,よい有効活用に結びつける一連の過程がevidenced―basedの考え方である。エビデンスというと「個別性が無視される」などの誤解に出会うことも少なくない。確かに子育てに際しては一人ひとりの子どもに即した個別性というものがある。しかし個別性があるということは,まず標準(スタンダード)となるものがあってのことであろう。より個別性のある対応のためにも信頼に足るべき標準を足固めすることがまずは不可欠である。

 迷える親たちのよきアドバイザーとしての母乳育児支援に関わるすべての保健医療専門職にとって,エビデンスを基にした本書『母乳育児支援スタンダード』は心強い助っ人であると考えられよう。
エビデンスに基づいた母乳育児支援テキストの決定版(雑誌「助産雑誌」より)
書評者: 染谷 啓子 (助産師)
 母乳育児支援にかかわるすべての方にぜひ熟読をすすめたい本が出版された。『母乳育児支援スタンダード』である。本書には,日本で母乳育児支援を実践している国際認定ラクテーション・コンサルタント(IBCLC)が全項目を執筆している,WHO/UNICEFの“母乳育児成功のための10か条”と“母乳代用品のマーケティングに関する国際規準”(以下,国際規準)に基づいた支援内容が,具体的に,かつ科学的根拠に基づいてまとめられている。

 概論では,世界的な母乳育児支援の動向や歴史,国際規準が成立するまでの経緯やその意義などが詳述されている。各論では,支援の実践にはエモーショナル・サポートがいかに大切であるかや,母乳が母親や児,社会に与える利点,乳汁分泌のメカニズムを理解するのに必要な解剖・生理,乳汁の生化学など,必須で基本的な知識が満載されている。

 第5章 出産直後の母乳育児支援の項では,早期接触の意義と支援の実際や,母乳育児支援における重要な技術であるポジショニングとラッチ・オン,現場で判断に戸惑うことが多いと思われる黄疸や低血糖などについて紹介されている。さらに,直接授乳困難,乳頭痛,帝王切開,母子分離,多胎といった特別な支援を必要とするさまざまなケースに合わせた支援方法や,補完食(いわゆる離乳食),卒乳まで,幅広く網羅されている。

 私が助産師になった19年前頃は,いわゆる「乳房管理」が母乳育児支援に必須と考えられていた時代で,「助産師による乳房マッサージ」が支援の主要な部分となっていた。さらに,その方法論は1つではなく,情報も互いに矛盾しているものもあった。

 一方で助産師は,思うように母乳育児がうまくできない母親の気持ちを,上手に汲み取れないことに対してもジレンマを感じていた。当時母乳育児支援には基準がなく,その裏づけを知る術が少なかったため,支援方法に対する混乱と知識の模索が続いてきた。支援方法を先輩諸姉から学びながらも,その支援は何が正確で何が根拠なのかを知るために,さまざまな書物を読んだり研修を受け,臨床の場で試してみることの繰り返しだった。

 本書を手にすることで,それらの疑問は解消された。援助者が何かを“してあげること”が一番大事なのではなく,母親自身が自ら学びセルフケアを体得できるような支援や環境整備が大切であることがわかった。また,自分自身のためにも系統だてた知識の再確認が行なえた。

 本書は,母親や子どもにかかわる助産師や保健医療従事者をめざす学生,とくに助産師学生には必携の書と言えよう。ぜひ,座右の書として活用していただきたい。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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