太平洋を渡った医師たち
13人の北米留学記

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米国・カナダで卒後臨床医学研修を学んだ医師たちによる体験記集。世界でも最高レベルの臨床研修を求めて北米に渡った医師たちが,留学を希望する若き医学生・研修医に向けた熱いメッセージ。アメリカ式の卒後臨床研修を導入して高い評価を受けている沖縄県立中部病院関係者を中心に,内外の第一線で活躍する医師たちが執筆。
編集 安次嶺 馨
発行 2003年04月判型:A5頁:212
ISBN 978-4-260-12705-9
定価 3,080円 (本体2,800円+税)

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  • 目次
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1 アメリカ留学への戦略
2 ニューヨークでの研修医生活
3 アメリカでの胸部心臓外科トレーニング
4 総合内科はこんなにおもしろい
5 北米の小児病院と日本の小児病院
6 感染症専門医のアイデンティティーを求めて
7 小児医療の原点-救急医療から集中治療,循環器疾患まで
8 ボルティモアは外科医としての原点
9 シカゴはアメリカ新生児医療発祥の町
10 デンバーでペティー教授に学んだこと
11 ハワイの開業に夢を託す
12 ハワイ大学医学部教官として学生を指導する
13 アラバマでの開業医生活25年を回顧する
14 Comparison between American and Japanese medical education
15 My Teaching Program
索引

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米国の卒後教育がわかる,留学希望者必読の書
書評者: 松井 征男 (聖路加国際病院副院長)
 本書は,沖縄県立中部病院での卒後研修後に,北米で臨床のトレーニングを受けた医師たちの記録である。編集をされた安次嶺馨同院院長はもちろん,宮城征四郎前院長の熱意あふれる記録も含まれる。周知のように同院はわが国の医師卒後研修のリーダー的存在であり,各執筆者は臨床研修に対して強い目的意識をもって留学されている。真栄城優夫前前院長の序文,安次嶺先生のあとがきからも,同院の卒後研修にかける並々ならぬ熱意の歴史をうかがうことができる。余談になるが私は聖路加国際病院での研修後に,たまたまシカゴの病院で安次嶺先生の後輩として研修を受ける機会があり,大変お世話になった。

◆実際の経験から語られる米国医療の実際

 中部病院の卒後研修生は700人を超え,欧米で臨床研修を経験した医師は56人に上るという。本書には,13人の医師がそれぞれに異なった視点から見た,アメリカやカナダの卒前卒後の医学教育や,医療のさまざまな面が記されている。日本各地の大学を卒業し,北米においてさまざまな臨床の領域で研修を受けたり,現に研修中であったりする。さらに帰国後,中部病院ではもとより,米国の大学で活躍されていたり,米国で開業をされていたりと多様である。

 各人の簡潔なプロフィールの紹介のあとに経験が語られているが,内容は留学への準備やその手続きの仕方に始まり,日常の臨床,教育,医療制度全般にわたっている。近い将来留学を考えている人に,また米国の卒後教育や医療の実際について直接経験した人たちの語る言葉によって知りたいと思われる方々にはとっておきの書である。

◆初期臨床研修は新たな段階へ

 これまで,個々人の経験として単発的に語られることはあっても,このようにまとめてということはなかっただけに,中部病院でしか企画できないような貴重な書といえる。読者は本書から,卒直後のたった数年間に受ける臨床医としてのトレーニングが,臨床医の形成に決定的な影響を与えること,また研修のシステムというのは個々人の資質や努力とは別に,その終了時には臨床医としてのレベルを一定以上に引き上げている,そういうものでなければならないということを理解されるであろう。

 最後に,わが国各地の教育病院で卒後教育に貢献されてきた米国人医師,Dr. G. H. Stein,Dr. J. Constantによる日米の卒前卒後の医学教育や,医療の違いについての記述があるが,これは従来から指摘されてきたこととはいえ,とても興味深い。来年2004年度からの卒後研修の必修化を迎えて,わが国の卒後研修もやっと新たな段階に入ろうとしている。若い医師,医学生にとってはまさにタイムリーな書である。
臨床留学希望者必見! 臨床教育の重要性がみえる1冊
書評者: 宮坂 勝之 (国立成育医療センター・手術集中治療部長)
◆医師たちの「情熱の物語」

 私にはなぜか「15少年漂流記」を連想させる表題だった。もちろん本書の内容はジュール・ヴェルヌの名作とは直接の関係はないが,太平洋,留学,そして13人というキーワードが,誰もが少年時代に胸を躍らせた冒険記とオーバーラップさせたのだろう。実際に,冒険とまでは言わないものの,不安をかかえながら未知の世界に飛び込んでいった心意気が満ちている。北米から日本へ,太平洋を越えてやって来た2名の医師の話も加わっており,15人の医師の情熱の物語でもあるといえる。登場する人物(すなわち執筆者)全員が沖縄県立中部病院の関係者で,現在の院長の安次嶺馨先生の薫陶を受けている点が共通であり,その共通の主張は真栄城元院長の序文に尽くされている。

◆留学をめぐる日本の医療風土

 執筆者らは,北米との臨床交流が実質的に途絶えた70年代以降に北米に留学し,現在の地位を築かれた方々である。第二次大戦後の60年代までは,いわば占領地保護政策の一環として,フルブライト奨学生に代表される米国主導のプログラムに助けられ,多くの医師が臨床留学し,現在の日本の医学の礎となる幾多のリーダーが輩出された。しかし,70年代以降,米国の保護政策の中心が韓国,中国,ベトナムなどへと移るにつれて,高度成長時代の日本にとって,金銭面および英語面で敷居の高い臨床留学の挑戦者は激減した。代わりに,論文偏重の日本の医科大学の土壌が追い風となり,資格要件があまり問われない研究費持参の研究留学を増やす結果を招いた。「見えない障壁」のため,日本への臨床留学の受け入れは皆無に近いことから,研究留学者が日本の臨床医療に大きな影響を与えてきた。

 こうした研究留学者の多くも,臨床を垣間見る機会はあったのだろうが,論文になる個々の医療技術とは異なり,医療システムの違いは見学では十分な吸収は困難であり,結果的に日本に臨床医療はほとんど伝わらなくなってしまった。加えて,レジデントなどとして臨床留学しても,帰国してからその臨床能力を発揮するためにはシステムの整備が不可欠という現実が存在し,また帰国後も,「出る杭となっては打たれ,ただの杭となっては能力を生かせない」という逆風が存在することは,臨床留学希望者減少にさらなる追い打ちをかけることになっていった。

 来年度から始まる卒後研修の義務化では,日本の医科大学教育ではとうとう実現できなかった系統的な卒後教育の導入が求められている。そのような中,北米式の系統的教育システムを積極的に取り入れ,多くの留学者を送り出してきた沖縄県立中部病院は大いに注目される。本書はその北米式の教育の恩恵を最大限に受け,感動した人々により書かれており,通常のガイドブックにはみられない,臨床教育の重要さへの共通した情熱が感じられる。医学生のみならず,これから研修医の教育に携わる一線病院の医師たちにも推薦できる内容である。一気に読破できる読みやすさがよい。


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