米国式Problem-Based Conference
問題解決,自己学習能力を高める医学教育・卒後研修ガイド

もっと見る

2004年から卒後2年間の初期臨床研修が必修化され,医学教育・卒後研修制度は大きく変わっていく。しかし何を改革すればよいのか,何を実行すればよいのか,誰もが迷い,悩んでいる。その答えの1つとして,米国において診療科を問わず大きな成果をあげているproblem-based conferenceの基本的考え方とその実際を紹介。
町 淳二 / 児島 邦明
発行 2003年12月判型:B5頁:256
ISBN 978-4-260-12714-1
定価 4,400円 (本体4,000円+税)
  • 販売終了

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 目次
  • 書評

開く

第1章 医学教育・卒後研修改革:あなたは,何をどのようにはじめますか?
第2章 基本的な考え方とその実際:Problem-Based Conferenceとは何か
第3章 病歴と身体所見のとり方:頸部腫瘤
第4章 問題点に焦点を絞った鑑別診断と診断法:急性上腹部痛(その1)
第5章 問題点に焦点を絞った鑑別診断と診断法:急性上腹部痛(その2)
第6章 救急でのプライオリティーのおき方:上部消化管出血(その1)
第7章 救急でのプライオリティーのおき方:上部消化管出血(その2)
第8章 病態とマネージメント:ショック
第9章 スタンダードケア:重症多発外傷
第10章 Controversyとプロトコール:乳癌の治療
第11章 患者さん・家族とのコミュニケーション:胆道系手術と合併症
第12章 医学生の試験:Problem-Based形式の口述試験による評価(その1)
第13章 医学生の試験:Problem-Based形式の口述試験による評価(その2)
第14章 参考資料:そのほかの症例シナリオとTeaching Point一覧
索引

開く

米国の“当たり前”のカンファレンスを日本で
書評者: 黒川 清 (日本学術会議会長)
◆臨床研修必修化の中で求められる実践的教育

 いよいよ卒後臨床研修が義務化され,マッチングで卒業大学から外へと,多くの新卒業生が新しい医師として巣立つ。大学でどのような教育を受けてきたのか,どのような医師になるべく育ってきたのか,それぞれの大学の評価が広い臨床の場で行なわれるようになる画期的なことである。もし,「混ざる」原則がこの義務化で採用されなかったなら,あいも変わらず出身大学病院の医局への囲い込みが当たり前のように行なわれていたであろう。まったくばかげている。臨床教育,クリニカルクラークシップもお題目で,何も変わらなかったのではないかと思われる。

 さて,医学教育の問題がいわれて久しい。何が問題で,その障害は何か。その1つが臨床での現場教育の貧困さであろう。それは教員の経験不足が主なものであって,これから医師になる学生のせいではない。この本に呈示されているのは,日常的に米国の教育現場で行なわれている,教員も,研修医も,学生も「タテ」の人間関係ではない,水平な同士,仲間としての教育の実践である。「なぜ?」「何の根拠で?」「鑑別診断は?」「その理由は?」と次々と対話が進む。知的刺激が双方向のやり取りから生まれる。患者中心の問題解決へといかに思考し,決断し,実践するのかのプロセスが示されている。「Problem―Based」は理屈ではない,実践なのである。教えるのではなく,お互いに患者さんから学び,向上しようという前向きのプロセスなのである。実践からの知識は生きている。身につくのである。

◆米国の“当たり前”の「カンファ」を日本で

 著者の町先生は,いまや臨床研修の「超ブランド」になった沖縄県立中部病院で研修後,渡米。外科医としての研修を受けつつ転々と武者修行し,大きな難関を克服しながら米国外科専門医となり,そして現在はハワイ大学外科教授。児島先生は町先生の大学の同級生である。

 この本に書かれていることは,ほとんどが米国で日常的に行なわれている「カンファ」である。章立ては,導入部から実際の外科症例へと続き,後半で評価方法の事例を示している。どこにも最後に「日本の立場からコメント」という欄が付いている。このような形式のカンファは,実際に自分で体験しないと,読んでいるだけではなかなか「感覚的に」理解できないかもしれないが,指導医の役割は「躍動感あふれるように進行する」「興味をひきつけ維持する」ことであり,対話によって学生の積極的な参加を促している。このような体験を少しでもした人なら,この本の内容のスタイルをすぐに理解するであろう。たとえていえば,ゴルフは本ばかり読んでも理解できない。進歩しない。実際にクラブでボールを打ってみる,コースに出てみる,そしてまた本を読んでみる,練習する。この繰り返しが大切なのである。勉強も研修も同じことである。特に臨床教育ではこれが大事なのである。

 だから著者は,「指導医の先生方は,ぜひ,Problem―Based Conferenceを」というのであり,学生や研修医は「指導医にこのようなカンファを求めるべし」と書いているのである。しかし,このような躍動感は「書いて」みてもなかなか伝わらないところが,わかっている人にはもどかしい。やってみせることが最も重要なのである。何とか「書いて」これを表せないか。著者の気持ちが痛いほど伝わってくる。

 この数年で,卒後臨床研修の場で,そして医学部のクラークシップで,どれだけこのようなカンファが普及していくか。医学教育改革が研修制度の「混ざる」大改革とともに急激に進化することを期待したい。実践あるのみである。この本はよいお手本である。学生にも,臨床研修病院でも,ぜひ,試してほしいものである。

指導医も若手医師も「米国式」の刺激で意識改革を
書評者: 安達 洋祐 (岐阜大教授・腫瘍総合外科学)
◆日本の伝統があるのに「米国式」?

 何と挑発的なタイトルだろう。日本には日本の伝統があるのに「米国式」である。「Evidence―Based Medicine(EBM)」にうんざりしているのに,「Problem―Based Conference(PBC)」である。「見て学べ」「習うより慣れろ」で鍛えるべきなのに,「問題解決」「自己学習」「医学教育」「卒後研修」など,タイトルを見ただけで敬遠したくなる。

 案の定,「tutorial」「BSL」「OSCE」「EBM」「PBL」と馴染みのない英語が並ぶが,写真はカンファレンスルームのありふれた光景である。「シナリオに沿って指導医が質問し,医学生や研修医が答える」と書いてあり,基本的なシナリオは,「主訴→病歴→診察→検査→診断→治療」と進行していくという。私たちがやっている日常診療の手順である。

 最初のシナリオは「55歳女性の頸部腫瘤」である。医学生や研修医が自由に病歴聴取を行うと,指導医は「現病歴→既往歴→家族歴→社会歴→服薬歴→アレルギー歴」の順に聴取することを確認し,見逃しを避けるための「Review of Systems(ROS)」を補足する。全身所見と部位別所見のあと,甲状腺腫瘤や転移リンパ節を想定した検査法に進んでいく。

 臨床判断のポイントは,「主訴から鑑別診断を考える」「常にcommon diseasesを考える」「cost―effectiveな検査を優先する」という。大学病院の臨床研修で洗脳された若い医師たちは,鑑別診断を考えずにとりあえず検査を行い,ありふれた疾患を忘れがちである。コスト意識もない若い医師には「米国式」がよい刺激になるかもしれない。

 次は「急性腹症」であり,「消化管出血」「術後ショック」「重症多発外傷」と続く。いずれも臨場感にあふれ,迫力のある質疑応答に思わず引き込まれてしまうが,「米国式」では,「バイタルサイン,静脈確保と酸素投与,救急処置のA・B・C・D・E・F・G」を繰り返し叩き込み,救命処置を徹底的に指導しているのがすごい。これは自分の勉強にもなる本だ。

◆「standard」と「controversy」をしっかり区別

 治療のポイントは,「スタンダードな治療を行なう」ことだという。「米国式」に一貫しているのは,臨床試験などで検証されて推奨されている「standard」,臨床研究があるにもかかわらず「controversial」,臨床研究がないので「controversial」,この3つを区別する姿勢である。権威や経験に左右されずにエビデンスを重視する指導は見習いたい。

 最後に,実際の口述試験が紹介されている。なるほど,「米国式」では,「医学的知識,臨床上の判断力,問題点への対応能力,コミュニケーション技術,医師の責任感や倫理観」などが総合的に評価できる。巻末の「症例シナリオとteaching point一覧」も参考になり,自分も明日から後輩を集めて「米国式PBC」をやってみようという気になる。

 著者はいう。「PBCを行なう指導医は現時点でのstandardとcontroversyを正確に教授すべきである」「指導医は『一方的に教え込む』という考えを捨て,学習意欲を向上させるような指導を行ない,自らも学習を怠ってはならない」「実践に強くpatient orientedな医療のできる医師を育成していきたい」。今,指導医の「意識改革」が迫られている。

医療人のすべてが一度は熟読すべき臨床教則本
書評者: 宮城 征四郎 (臨床研修病院群プロジェクト「群星沖縄」研修センター長)
◆臨床指導のあり方を明確に示す

 2004年5月からいよいよ必修化される本邦の卒後臨床研修制度を前に,医学生はもとより研修医,指導医の双方にとって臨床指導のあり方に関するきわめて有意義な教則本がよくもタイムリーに出版されたものだと思う。臨床研修に実績のない研修指定病院にとどまらず,本邦の医育機関の大部分の指導医たちにとっても,臨床教育,指導方法のハウツーが判然とせず,従来の経験からみても,今回の研修必修化が大きな戸惑いと負担になるであろうことは想像に難くない。

 本書は指導医側が教育に適した模擬患者のシナリオを自由自在に操り,医学生,研修医にいかに臨床医学の基本の大切さとおもしろさ,EBMに基づく臨床的アプローチとアカデミックなレベルの論理を伝えるか,という巧みな構成になっている。

 表向きは外科の教則本ではあるが,同領域といえども患者を局部的に診るのではなく,全人的に診る臨床態度が必須であることが反復強調され,問診,バイタルサイン,身体所見の重要性が繰り返し述べられているばかりでなく,コミュニケーションのあり方,インフォームド・コンセントのとり方と注意点,medical ethics,medical intelligenceなどが縦横無尽に行間にあふれている。臨床医学の基本に忠実な指導方法は,内科を含むどの分野にも共通する重要な内容である。

 瞠目すべきは,相互の討論という形式のなかで,医学生,研修医,指導医各人の意見が順を追って整然と記述されていて,医学生と研修医,研修医と指導医間では明らかに発言内容のレベルが違い,まさしく屋根瓦的な大差が認められることである。
 筆者はかねがね,よりよい臨床教育環境とは,研修医各学年ごとの大きなレベルの差を生むものであると主張してきたが,著者らのPBCはそういう意味では文字通り成功していて,それぞれのレベルにおけるteaching pointやlearning issueが整理され,教育方針とその目的を明確にしているところが実に素晴らしい。

◆global standardへの関心が低い日本

 例えば米国では,stageまたはが予想される乳癌の場合,術前の検査は血液検査として血算と肝機能検査,画像診断としては胸部X線写真に限られるのが一般的である(178頁)としている記述は,ややもすると読み飛ばされ,軽視されがちであるが,ここにはEBM,cost―effectiveness,medical intelligence,果てはethicsに至るまで実に重要な内容が包含されている。

 「あの検査をやったか,これをやったか」と多くの検査を現場の研修医に求めるような教育,指導が平然と罷り通っている本邦の医育機関が最も反省を求められる内容である。さらには,医療行為のstandardとcontroversialを明確に分けて議論を推し進めるという態度が一貫しており,このあたりは各指導医の力量が最も問われるところである。

 本邦ではこのglobal standardに対する関心の薄さが臨床指導上の大きな問題である。そして,この教則本に述べられているような,最も基本に忠実な臨床指導方法が本邦の大学の教育陣に共感を呼びうるであろうか。また果たして,時間を割いてこのような書を彼らが真剣に読破してくれるであろうか。残念ながら,最も危惧されるところである。

 このような内容の指導は学生や研修医各人が本を読んで習得すべきものであって,いちいち超多忙な教育陣が教えるレベルの内容ではないと思いがちである。特に本邦の指導医たちは,よりリサーチ的な内容を含む最先端医学の討論を好み,このような基本的な討論は低学年の学生を対象とした指導内容だと誤解しがちである。

 しかし,卒後臨床教育は基礎教育が基本であり,1階や2階をつくらずにいきなり3階や7階の建造物を建築することはできまい。1~2階の基礎固めが完成して初めて,その上階につながるという当然の論理を決して蔑ろにしてはなるまい。

 共著者の順天堂大学外科助教授の児島氏は,おそらくハワイ大学の町教授とは大学時代の同級生であり,学生時代からの親しい友人なのであろう。日米臨床外科学の比較を盛り込みながら,実に息の合った名コンビぶりでこの教則本を仕上げている。日米の新時代の臨床教育者として巧みな教育モデルを示してくれている。もって銘すべきである。

 本教則本のPBCは指導医が模擬患者を設定して,不羈奔放にそのシナリオを操り,より充実した討論を企図した教育方法の内容になっていることはすでに述べた。多彩なteaching pointやlearning issuesを次々と設定していくという点ではきわめて有効な教育方法ではあるが,模擬患者である点にはそれなりの限界があり,いくばくか臨場感に欠ける印象を否めない。

 特に回診時に研修医が呈示する身体所見を指導医が自ら確認し,訂正するという作業がここでは欠けている。願わくば,実在の患者で新患回診などを通じ,Problem―Based Roundに応用して欲しいと願うものである。とはいえ,この書の価値がそれで損なわれるわけではない。

 臨床研修必修化を前に,指導医はもとより,研修を受ける側の学生,研修医をはじめ,プロフェッショナルな医療人すべてが一度は熟読すべき臨床教則本であり,確信を持って推奨できる良書である。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。