気分障害治療ガイドライン

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各大学の教授により構成された精神医学講座担当者会議が監修した気分障害の治療ガイドライン。疾患の概念から,治療計画の策定,治療法の解説,特殊な問題,研究の方向まで,日本の実情に即した記述で,日常臨床にすぐに役立つ実践的な内容。「治療計画の策定」において治療オプションの推奨度を明示し,引用文献にはすべてエビデンスレベルの評価を加えた,本格的な治療ガイドライン。
監修 精神医学講座担当者会議
編集 上島 国利
発行 2004年03月判型:A5頁:336
ISBN 978-4-260-11891-0
定価 5,170円 (本体4,700円+税)
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  • 目次
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第I編 うつ病性障害
 第1章 疾患の概念
 第2章 治療計画の策定
 第3章 治療法の解説
 第4章 特殊なうつ病の治療
 第5章 その他特殊な問題
 第6章 研究の方向
第II編 双極性障害
 第1章 疾患の概念
 第2章 治療計画の策定
 第3章 治療法の解説
 第4章 その他の特殊な問題
 第5章 研究の方向
索引

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急速な進展をみせる気分障害治療の最先端をいく指針
書評者: 田代 信維 (九大名誉教授・精神病態医学)
◆こころのカゼ「うつ病」

 躁うつ病やうつ病は1980年の米国精神医学会編纂のDSM―IIIで気分障害と衣替えした。「うつ病」は,特にその疾患スペクトラムが拡大され,従来の内因性疾患にとどまらず,「こころのカゼ」とも呼ばれるように,身体疾患に付随するものも含め一般内科や産婦人科でも多くみかけるポピュラーな疾患となった。経済的不況も加わって自殺者は,この5年間3万人を超す状況で,その大半が「うつ病」であるといわれる。「うつ病」の外来通院患者数も,この3年間で急増しているという調査がある。このような時期に『気分障害治療ガイドライン』が出版されたことは,治療者だけでなく患者さんにとっても大変ありがたいことである。

◆正しい診断と適切な治療

 本書の特色はDSM―IVの診断基準に従って,「うつ病」を幅広くとらえた「うつ病性障害」と従来内因性疾患とされた「双極性障害」とに2分して,その疾患概念をまず明らかにしているところであろう。本書の意図として,「正しい診断」がなされていないと「適切な治療」ができないという大前提がある。疾患の定義にはじまり,疫学調査による有病率,臨床症状にみる特徴,そして予後がエビデンスに基づき詳細に述べられている。うつ病で悩む人々を1日でも早く,その苦しみから解放することが本書の目標でもある。“治療計画の策定”にあって注意すべき点が事細かに,懇切丁寧に書かれている。初心者にとっても,読み返し,多くの患者さんに接していると,早く計画が立てられるように組まれている。その治療手順として,まず急性期,継続期,そして維持期を見極めること,どの治療期にあるかによって,チェックポイント,薬物の選択,精神療法のあり方などが異なる。治療法の適応だけでなく,その限界にも触れられている。さらに深く理解するためには“治療法の解説”が別章としてたてられていて親切である。治療効果だけでなく,副作用に関してもエビデンスに基づいた解説がされている。

◆難治性うつ病とラピッド・サイクラー

 このように近年,「うつ病」の治療法が急速に進展しているが,それだけに治りの悪い難治性うつ病への対策が大きな問題となっている。その対応についても手順を追って治療を進めるよう,かゆい所に手が届く解説がなされている。“自殺”の問題にも正面から取り組んでいる。「双極性障害」は,再発を繰り返しやすいこともあって,その治療にあたっては,ラピッド・サイクラーを含め,細心の配慮が必要であるが,十分な喚起がなされている。近年,気分安定薬としてリチウム,カルバマゼピン,バルプロ酸が使用されているが,データに基づく詳しい解説があり,副作用の問題も含めて役立つ情報が満載されている。

 本書の治療ガイドラインは,最先端をいく指針であり,著者らの意気込みが感じられる。さらに深く勉強しようと思う者にとっては多くの文献がついている。本書は座右の書といえるが,詳しいだけに,初心者にとっては取っつきにくいかもしれない。本書になじみ,十分に活用できるようになるよう,多くの症例にあたり本書を読み返し,理解を深めるとよい。

気分障害の診断・治療のためのsource book
書評者: 渡辺 昌祐 (川崎医大名誉教授,河田病院理事・心療内科)
◆科学的根拠に基づく記述

 今般,精神医学講座担当者会議の監修になる『気分障害治療ガイドライン』が上島教授の編集により刊行された。

 内容を見ると「うつ病性障害」と「双極性障害」とに分けて,疾患の概念,治療計画の策定,治療法の解説,特殊なうつ病の治療,その他の特殊な問題,研究の方向,というように気分障害の診断と治療全般におよび,可能なかぎり科学的根拠に基づくデータを中心に記述されている。特に,薬物療法に関しては急性期治療におけるupdateなデータが満載されているし,気分障害は再発しやすい疾患であるので予防療法が必須であるが,その主役をなす気分安定薬の用い方についても詳述されている。さらに精神療法についても患者に対する精神療法,家族に対する指導,自助グループ活動にも言及している。

 気分障害の診断・治療のためのsource bookとして活用できる内容が盛られている。23名の著者はいずれも本邦での気分障害に関するエキスパートである。また,引用された文献数も1,000に及んでいる。

◆常に最新のガイドラインであり続けるために

 本書に対する小生の勝手なお願いしたい点を述べさせていただく。第1の点は,気分障害の診断について初心者がもっとも悩む点は診断基準を満足しない症例をどう考えるかという点である。DSMのうつ病診断基準はうつ病のなかでは比較的重症に基準が置かれている。また近年軽症うつ病が増加しつつあるという指摘がある。さらに,どのようなうつ病でも初期段階では症状は軽症である。軽症うつ病は本書ではプライマリケアにおけるうつ病のなかでとりあげられているが,うつ病全般にかかわる重要な問題である。どのような疾患でも早期発見・早期治療が大切であり,うつ病の早期発見・早期治療についてのガイドラインが欲しいのである。

 第2の点はうつ病の鑑別診断に関してである。近年のうつ病は,不安性障害との合併例が多いことが明らかになっているので,より詳しい解説をしていただければ本書の有用性がさらに増すであろう。

 第3の点はわが国における気分障害に関する研究は多いし本邦患者独特のevidenceが存在することも認められているので,わが国での研究報告をもさらに引用していただければ幸いであるということである。以上の点については本書の基礎となるevidenceに基づくデータが乏しい部分であるが,臨床医にとっては気分障害の診断・治療のはじまりであり,最も重要な点でもある。

 序文で述べられているように本書は使いやすくかつ最新のガイドラインである為に,改訂の作業を念頭においているので,著者らの新たな努力を期待したい。そして常に最新の気分障害治療ガイドラインであり続けることを期待するものである。

 本書が精神科医をめざしている研修医をはじめ,精神科医療にかかわるであろう看護師,臨床心理士,薬剤師,また精神科関連の患者と接触が多いプライマリケア医,心療内科医などに広く活用されるように推薦する次第である。

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