内科診断 Case Study

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本書には、患者の訴える症状、病歴・身体診察等から過不足なく情報を集めて、鑑別診断を行うまでのプロセスが詳述されており、実践的な診断力を養うことができる。診察への道筋を自らの思考で辿れば、さらに効果は倍増。また、内科全般にわたる一般的な疾患が取り上げられていることから、系統的な理解も深められる。まさに、基礎臨床能力の土台作りに最適の1冊といえよう。
編集 CHARLES J. GRODZIN / STEPHEN C. SCHWARTZ / ROGER C. BONE
監訳 福井 次矢
発行 2009年05月判型:B5頁:368
ISBN 978-4-260-00039-0
定価 4,950円 (本体4,500円+税)
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監訳者の序

監訳者の序
 医療の目的は,一に目の前の患者の苦痛を軽減し,可能な限り生存期間を延長し,そして予見される病的状態の発現を妨げることにある.医師が「患者を診る」のはこれらの目的を達成するためであり,具体的には,患者の抱える問題を突き止め(診断),最も効果的なことがわかっている対応策を選択・考案して実行する(治療・予防)ことになる.そのような能力を身につけるために,わが国では,まず医学生の期間に患者が有する疾患を診断し治療・予防するのに必要な医学知識を蓄えて,卒後臨床研修の間は,学生時代に蓄えた医学知識を実際の患者に活用しつつ基本的な診断・治療手技を身につけ,そして専門研修の期間に高度な診断・治療手技を獲得する,という医師養成課程が用意されている.
 これら卒前教育,臨床研修,専門研修に加えて生涯教育というそれぞれの学習段階について,より効果的・効率的な教育方法が不断に模索されてきたところである.とりわけ過去半世紀間は,医学知識がまさに指数関数的に増大したため,新たな教育方法の開発が重要な課題となった.そして,学科目を研究者の視点(~ology)から臓器・器官系へ変更したり,実際の患者の病状(一部改変されることもある)を基盤にした臨床問題解決型の学習(Case-based Learning)や学生のイニシアティブに任せた小グループ学習,シミュレーターや標準模擬患者の活用,最近ではTeam-based Learningを導入したり,と実にさまざまな試みが多くの国々で行われてきた.
 本書は,上記のさまざまな新しい教育方法のうちのCase-based Learningを行ううえで最も有用と考えられる優れた教科書である.実際の患者の病状(症例)を提示し,病歴聴取から身体診察,診断検査,治療の選択まで,それぞれの段階で医師に求められる医学知識を確認できるよう,Question&Answer形式で丁寧な説明がなされている.この方式の特徴の第1は,なんと言っても読者(医学生,研修医,若い指導医を想定している)を臨場感あふれる「患者を診る」状況下に置くことである.このことにより,読者は,実際の臨床場面での重要度のわかりにくい,いわば無味乾燥な医学知識を覚えるのではなく,近い将来自分自身が対面することになる患者の診断・治療に不可欠な,まさに実用性の高い知識を身につけようとしていることを強く意識し,そのことが,高い学習効果につながることである.第2に,疾患について学ぶというより,あくまでも患者の問題を解決するうえで必要な重要度,順序性をもって知識が整理されるため,効率的な学習形態となっていることである.読者の皆さんには,1つひとつのQuestionごとに,いったん立ち止まって,頭の中で解答を考え(あるいは紙に解答を書いて),その後,テキストの解答部分を読み,正しい医学知識が身についているかどうかを確認していただきたい.このような読み方をすることで,本を読むという,ややもすれば受動的になりがちな学習が能動的になり,知識がより強固な記憶となって脳細胞に刻まれるはずである.
 本書の翻訳にあたられたのは,主として,私が主宰していた京都大学医学部附属病院総合診療部/大学院臨床疫学講座に所属したことのある先生方である.先生方の払った大変な労力に感謝する次第である.とりわけ,本書の出版が現実のものとなったのは,翻訳者の一人,草場鉄周先生の関わりが強いことを特記しておきたい.もう10年近く前になるが,私が京都大学に勤務している頃,当時の5回生であった草場先生たちの5,6人の学習グループが,本書の原書を用いて問題解決型の小グループ学習をしたいからサポートしてほしいとの申し出があった.当時,京都大学医学部のカリキュラムは,器官系のカリキュラムであり,小グループの問題解決型カリキュラムは全く採用されていなかったため,通常の授業に出ないで自分たちで独自に行う小グループ学習を,教授会として認めてほしいとのことであった.マクマスター大学やハーバード大学を何度も訪れ,北米の新しい医学教育カリキュラムの動向を知っていた私としては,最大限の支援をすることを約束し,実際,教授会で彼らの試みが大いに意義のあることだと説明し,何度か勉強会にチューターとして出席したことを覚えている.つまり,草場先生たちの意識は,京都大学医学部のカリキュラムの先を走っていたことになり,医学生が医学教育自体に興味を示すことの比較的少ないわが国では,まれな医学生グループであったということになる.彼らの経験からも,原書は非常に有用な教材であることが明らかで,私としても原書を翻訳したいという強い希望をもち続けていたところである.また,翻訳の正確を期すために,南太郎先生には大部分の翻訳原稿のチェックの労をとっていただき,そのうえで,私がすべての原稿に目を通し,最終的な責を私が負うこととした.
 最後に,原書には105の症例が記載されているが,翻訳にあたって,臨床上の重要度が特に高いと思われた49症例を選んだ.比較的コンパクトに抑えて読みやすくする目的で約半数の症例数に絞ったのではあるが,読者の皆さんには,引き続き,原書を読まれるよう勧めたい.

 平成21年4月
 福井次矢



 医学教育はなかなか難しく責任の重い仕事である.医学の揺籃期においては教育はベッドサイドで行われた.初期の頃の医師は,病歴聴取,身体診察,疾患の自然歴などの微妙な部分を実際の患者で呈示した.このようなやり方の中から,Oslerの有名な“Chairman's Rounds”(チェアマン回診)などの伝統的な教育方法が生まれた.多くの若手医師にとって病める患者はブラックボックスのようなものである.疾患の神秘に対する答えは目の前の患者の中にあるということをOslerらは悟った.医学の優秀さを示す指標となるのは,患者のケアへの献身的貢献とその中で得られる医学知識の徹底的探求であった.
 次世代の医師にこの知識を伝授するために医学のテキストが必要となることが明らかになった.時を経るにつれ,主なテキストの中には焦点が患者から反れるものが出てきた.個々の疾患に関する詳細な情報を提供する書物が現在では主流である.これらのテキストは膨大化し,実用の域を超えるものとなった.研修中の医師には多くの事実を理解することが求められるようになった.学習理論によれば,このような方法は知識の獲得と解釈的思考の形成のためには非効率的である.すでに正式な医学教育自体が問題解決型の形式へと変化を遂げている.
 経験上,一人ひとりの入院患者について自己紹介しあい,人間関係を構築し,以下の質問への答えとなる解釈プロセスが踏襲される.「この患者はどのような人か」「主訴は何か」「病歴と身体診察でどのような情報が集められるか」「どのようにして診断を下すのか」「正しい治療的介入は何か」.患者に焦点を当てたアプローチをとればこれらの問題に答えることがより容易になることは明らかである.
 本書は健全な臨床推論を探索するための,患者志向型の枠組みを提供するものである.臨床推論能力の向上と読者の知識基盤を強化することを目的として,症例とそれぞれに関する臨床問題を選択した.本書は研修医,若い指導医,および高学年の医学生などを想定して書かれた.患者の訴えから疾患を見い出し治療しようと奮闘しているのはこの集団である.本書の題材はどれも内科各部門で直面する含蓄の深い問題である.

 Charles J. Grodzin, M.D.
 Stephen C. Schwartz, M.D.
 Roger C. Bone, M.D.

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1.アレルギー/免疫学
 Case 1 鼻漏を訴える67歳女性
 Case 2 全身の掻痒感を訴える35歳男性
 Case 3 再発性の肺炎を訴える20歳女性
2.心臓病学
 Case 4 変化する狭心痛を訴える64歳男性
 Case 5 動悸を訴える52歳女性
 Case 6 頭のふらつき,発汗,動悸を訴える61歳男性
 Case 7 心疾患をもつ妊娠中の28歳女性
 Case 8 胸痛を訴える55歳男性
 Case 9 高脂血症のある46歳女性
3.救命救急
 Case 10 両親により無意識状態で発見された26歳女性
 Case 11 胸部圧迫感とふらつきを訴える45歳男性
 Case 12 うっ血性心不全,呼吸不全と挿管の必要性のある66歳男性
4.内分泌学
 Case 13 抑うつ,脱力および体重増加を主訴に受診した39歳女性
 Case 14 悪心,嘔吐,嗜眠のある18歳男性
 Case 15 低血糖を示唆する病歴を有する32歳女性
 Case 16 不妊を理由に婦人科を受診した37歳女性
 Case 17 疲れと脱力を訴える24歳女性
 Case 18 虚弱,嘔気および精神状態の変化を訴える37歳女性
5.消化器病学/肝臓病学
 Case 19 失神を主訴に来院.黄疸を認めた21歳男性
 Case 20 発熱,悪心,嘔気があり,肝機能テスト値が上昇した34歳男性
 Case 21 心窩部痛を主訴とする40歳男性
 Case 22 進行性の体重減少と慢性的な下痢を訴える57歳男性
6.一般内科
 Case 23 めまい感を訴える61歳男性
 Case 24 高血圧の47歳男性
 Case 25 医学的な術前評価
 Case 26 癌のスクリーニング
 Case 27 腰背部痛を訴える48歳男性
7.腫瘍学/血液病学
 Case 28 消化器不良に腹部周囲径の増大がみられた42歳女性
 Case 29 右乳房に明らかなしこりが認められた42歳女性
 Case 30 全身性リンパ節腫脹の52歳男性
 Case 31 微熱と口腔潰瘍に,白血球数の上昇もみられた22歳男性
8.感染症
 Case 32 喉の痛みと発熱のある26歳男性
 Case 33 発熱に加え,心雑音を聴取した73歳女性
 Case 34 3週間以上原因不明の発熱が続いた52歳女性
 Case 35 頸部痛,体重減少,発熱,咳が続いた37歳男性
9.腎臓病学
 Case 36 痙攣を起こした61歳男性
 Case 37 腹痛と嘔吐,そしてアルコール乱用歴がある35歳男性
 Case 38 急性の意識状態の変化と高窒素血症がみられる27歳男性
 Case 39 血尿と側腹部痛を訴える27歳男性
10.神経病学
 Case 40 新たな左上下肢麻痺を呈した76歳女性
 Case 41 急性頭痛を訴える40歳女性
 Case 42 急な反応消失を起こした65歳女性
11.呼吸器病学
 Case 43 胸膜痛と急性の呼吸困難の57歳女性
 Case 44 肺炎にかかった免疫不全状態の57歳男性
 Case 45 息切れの悪化を訴える,喫煙歴が長い71歳男性
12.膠原病学
 Case 46 右足首の腫れと痛みを訴える42歳男性
 Case 47 膝,くるぶし,肩の痛みを訴える60歳女性
 Case 48 微熱と関節痛,発疹が主訴の20歳女性
 Case 49 両手の無痛性腫脹を訴える38歳女性
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