新生児学入門 第5版
新生児医療に携わるすべての方へ
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新生児医療に携わる際の基礎知識、考え方をまとめた好評のサブテキストが大幅改訂! 各章に執筆者を置き、第4版までの内容をおさえながら最新の知見・情報を盛り込んだ。「新生児蘇生」「災害と新生児医療」を新たに章立てしたほか、近年その重要度が高まっている「フォローアップ」の項目も追加された。看護学生、助産学生はもとより、看護師、助産師、専門医といった新生児医療に従事するすべての医療者の必読書。
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2022.08.01
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- 目次
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序文
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第5版 序
本書は幸いなことに初版出版時から多くの新生児医療にかかわる方々に読んでいただき,すでに30年余の日月が流れている。もちろん各版の改訂出版に際しては,可能な範囲で最新の知見を盛り込む努力をしてきたが,新生児学の進歩はすでに1人でカバーできるレベルを超えていることは明らかである。それゆえ,今版の改訂にあたり,私が1人で書くことにより新生児医療に対する考え方(philosophy)が一貫して読者に受け入れられやすい,というこれまでの本書の利点を可能なかぎり生かしながらも,新生児学の各分野の新進気鋭の方々に分担執筆をお願いしたのは時代の必然であると受け取っている。また,より深くなった内容の統合を支援してくれることを願って,わが国の新生児学の分野で広い視野をもって活躍している髙橋尚人医師と豊島勝昭医師の2人に編集協力をお願いした。
各章のタイトルは第4版とほぼ同じものを踏襲しているが,以前の版で私が入門という名前に甘えて書いたレベルを超えていることを読み取っていただきたい。しかしながら専門書のように微に入り細にわたる記載でなく,新生児を学ぶ者が知っておくべき基礎知識(basic knowledge)を念頭において執筆していただいた。多少高度な内容が含まれているが,ぜひ読みこなしていただきたい。
また第5版では,東北や熊本の震災時に新生児専門医が中心となって対応した経験を盛り込み,新生児・周産期医療における災害時の対応の章を加えた。これは単に救急時の対応の枠を超えた,母体胎児管理と高度チーム医療体制を必要とするNICUを中心とした地域医療体制を考慮しなければならない特殊性を含んでおり,この基礎知識は新生児を学ぶ者に必須の項目と考えられているからである。第4版では,その重要性に気づきながらも,当時はまだその内容を章立てするほど私たちの知識が十分でなかったが,近年の災害時における新生児仲間の活躍は目を見張るものがあり,その中心の1人である大木 茂医師にまとめていただいた。さらに,これまで総説のなかで取り扱ってきたフォローアップ(特に超早産児に対して)は,わが国がその分野では世界の最先端を担っていることもあり,全国のデータにアクセスしている専門家の河野由美医師に稿を改めて取り上げてもらった。
これまでの版の序で繰り返し述べてきたが,本書は専門分野の教科書やベッドサイドで用いられているマニュアルとは趣旨を異にしている。自分たちが日常の新生児の臨床において行っていることの学問的な理由を理解してもらうことを目的としており,あえて言うなら“scientific basis of clinical neonatology”である。有名な『ネルソン小児科学』のように世に知られている教科書とは,その時代の知るべき内容を網羅し,さらに不確実な内容や誤った記載が載っていてはいけない,という裁判の資料となるほどの厳しさを要求されるレベルであり,大勢の専門家集団が長い年月をかけて編み上げるものである。一方でマニュアルは,実際の臨床の現場での「診断の手順は・薬の量は・呼吸器のセッティングは」などに関し,理屈ではなく具体的にどのようにするかが記載されているハウツーものであり,故 小川雄之亮教授は“cookbook(料理本)”と呼んで,考える習慣がつかないと研修医が使用することを好まなかったのである。施設によってやり方が異なることから,巷にはたくさんのマニュアルが出ており,どれがよいともいえないのはそのような由縁である。
本書は新生児医療の背景にある知るべき学問的な知識を記載したものであり,「あーそうか,そんな理由があるのか」と気づくことにより,臨床の深みと新生児医療への興味が増すことを眼目としている。ベッドサイドですぐに役立つ本ではないが,側に置いて時間のあるときに読んでおくことで,ビタミン剤のようにジワジワとその価値が出る本だと考えている。本書があらゆる新生児医療に携わる方々の目に触れ,わが国の新生児医療の底辺を支え,多くの新生児とその母親の幸せに貢献することを願っている。
2018 年9 月
長き人生を生き抜いた証の後期高齢者なる名称に違和感をおぼえながら
仁志田 博司
本書は幸いなことに初版出版時から多くの新生児医療にかかわる方々に読んでいただき,すでに30年余の日月が流れている。もちろん各版の改訂出版に際しては,可能な範囲で最新の知見を盛り込む努力をしてきたが,新生児学の進歩はすでに1人でカバーできるレベルを超えていることは明らかである。それゆえ,今版の改訂にあたり,私が1人で書くことにより新生児医療に対する考え方(philosophy)が一貫して読者に受け入れられやすい,というこれまでの本書の利点を可能なかぎり生かしながらも,新生児学の各分野の新進気鋭の方々に分担執筆をお願いしたのは時代の必然であると受け取っている。また,より深くなった内容の統合を支援してくれることを願って,わが国の新生児学の分野で広い視野をもって活躍している髙橋尚人医師と豊島勝昭医師の2人に編集協力をお願いした。
各章のタイトルは第4版とほぼ同じものを踏襲しているが,以前の版で私が入門という名前に甘えて書いたレベルを超えていることを読み取っていただきたい。しかしながら専門書のように微に入り細にわたる記載でなく,新生児を学ぶ者が知っておくべき基礎知識(basic knowledge)を念頭において執筆していただいた。多少高度な内容が含まれているが,ぜひ読みこなしていただきたい。
また第5版では,東北や熊本の震災時に新生児専門医が中心となって対応した経験を盛り込み,新生児・周産期医療における災害時の対応の章を加えた。これは単に救急時の対応の枠を超えた,母体胎児管理と高度チーム医療体制を必要とするNICUを中心とした地域医療体制を考慮しなければならない特殊性を含んでおり,この基礎知識は新生児を学ぶ者に必須の項目と考えられているからである。第4版では,その重要性に気づきながらも,当時はまだその内容を章立てするほど私たちの知識が十分でなかったが,近年の災害時における新生児仲間の活躍は目を見張るものがあり,その中心の1人である大木 茂医師にまとめていただいた。さらに,これまで総説のなかで取り扱ってきたフォローアップ(特に超早産児に対して)は,わが国がその分野では世界の最先端を担っていることもあり,全国のデータにアクセスしている専門家の河野由美医師に稿を改めて取り上げてもらった。
これまでの版の序で繰り返し述べてきたが,本書は専門分野の教科書やベッドサイドで用いられているマニュアルとは趣旨を異にしている。自分たちが日常の新生児の臨床において行っていることの学問的な理由を理解してもらうことを目的としており,あえて言うなら“scientific basis of clinical neonatology”である。有名な『ネルソン小児科学』のように世に知られている教科書とは,その時代の知るべき内容を網羅し,さらに不確実な内容や誤った記載が載っていてはいけない,という裁判の資料となるほどの厳しさを要求されるレベルであり,大勢の専門家集団が長い年月をかけて編み上げるものである。一方でマニュアルは,実際の臨床の現場での「診断の手順は・薬の量は・呼吸器のセッティングは」などに関し,理屈ではなく具体的にどのようにするかが記載されているハウツーものであり,故 小川雄之亮教授は“cookbook(料理本)”と呼んで,考える習慣がつかないと研修医が使用することを好まなかったのである。施設によってやり方が異なることから,巷にはたくさんのマニュアルが出ており,どれがよいともいえないのはそのような由縁である。
本書は新生児医療の背景にある知るべき学問的な知識を記載したものであり,「あーそうか,そんな理由があるのか」と気づくことにより,臨床の深みと新生児医療への興味が増すことを眼目としている。ベッドサイドですぐに役立つ本ではないが,側に置いて時間のあるときに読んでおくことで,ビタミン剤のようにジワジワとその価値が出る本だと考えている。本書があらゆる新生児医療に携わる方々の目に触れ,わが国の新生児医療の底辺を支え,多くの新生児とその母親の幸せに貢献することを願っている。
「新生児(あなた)への 夢に生きたる 我が人生(いのち)
旅路の果てに 編みし新生児学入門(もの)あり」
旅路の果てに 編みし新生児学入門(もの)あり」
2018 年9 月
長き人生を生き抜いた証の後期高齢者なる名称に違和感をおぼえながら
仁志田 博司
目次
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第1章 新生児学総論
A わが国の新生児学の過去・現在・未来
B 新生児医療に関する用語
C 新生児の医学的特徴
D 新生児の薬物動態の特徴
E 新生児医療の特徴
F 新生児医療の原則とルチーン
G 新生児医療に必要な産科学的知識
第2章 発育・発達とその評価
A 胎児・新生児の発育
B 胎児・新生児の発達
C 在胎週数推測と児の成熟度評価法
D 在胎期間別出生時体格基準曲線とその利用法
E フォローアップ
第3章 新生児診断学
A 新生児の診察法
B 新生児に特徴的な所見
C 主要な異常所見とその診断学的アプローチ
D 母体・胎児情報の読み方
第4章 新生児の養護と管理
A 分娩室からの管理
B 正常新生児の管理
C ハイリスク新生児の管理
D NICU入院児の管理
E 新生児モニタリング
第5章 母子関係と家族の支援
A 母子相互作用の科学的背景
B 母子関係確立のステップ
C 母子関係確立のための臨床
D 母子関係の破綻に基づく臨床的問題
E 出生前小児保健指導
F 母親への保健指導
G 病児の家族への援助
H 児を失った家族への援助
第6章 新生児医療とあたたかい心
A 子育てと環境
B あたたかい心を育む医療
C 新生児発達促進ケア(ディベロプメンタルケア)
第7章 新生児医療における生命倫理
A 新生児医療における倫理問題の特徴
B 倫理的観点からの医療方針決定
C 成育限界をめぐる倫理
D 医の倫理の基本的な考え方
第8章 医療事故と医原性疾患
A 新生児における医原性疾患
B 医療事故の原因と背景
C 医療事故の原因による分類と予防
D 医療事故が起こったときの対応
E 医療事故と訴訟
第9章 体温調節と保温
A 新生児の体温調節
B 保温とその目的
C 保温の臨床
D 体温の異常
第10章 新生児蘇生
A 出生直後の適応生理
B 出生直後の蘇生術
第11章 呼吸器系の基礎と臨床
A 新生児の呼吸生理と特徴
B 肺サーファクタントと呼吸窮迫症候群
C 肺水の動態と一過性多呼吸症
D 子宮内環境が影響する新生児呼吸障害
E 新生児の慢性肺疾患
F 新生児呼吸障害の一般的管理
G 補助呼吸法の進歩
第12章 循環器系の基礎と臨床
A 循環生理の基礎知識
B 循環系の発達生理
C 循環系の適応生理
D 新生児における先天性心疾患の診断と治療
第13章 水・電解質バランスの基礎と臨床
A 新生児の水・電解質バランスの特徴
B 新生児の腎機能の特徴
C 水・電解質管理の実際
第14章 内分泌・代謝系の基礎と臨床
A 副腎皮質ホルモン
B 甲状腺ホルモン
C 血糖調節機構とその異常
D 糖尿病母体児
E 先天性代謝異常症
F FGR児の有する内分泌学的問題点
第15章 栄養・消化器系の基礎と臨床
A 新生児の栄養に関する特徴と問題点
B 栄養と発育・発達
C 新生児に必要な栄養量
D 正常新生児における栄養法
E 低出生体重児における栄養法
F 母乳栄養法
G 授乳と薬剤
H 新生児から小児にみられる主な消化器関連疾患
第16章 黄疸の病態と臨床
A 黄疸の基礎
B 黄疸の病態
C 黄疸の臨床
第17章 血液系の基礎と臨床
A 新生児の血液系の特徴
B 血液系の発達生理
C 多血症
D 貧血
E 新生児メレナとビタミンK
F 血小板減少症
G 好中球減少症
H 易出血性疾患
I 新生児における輸血
J 血液に関与するサイトカイン療法
第18章 免疫系と感染の基礎と臨床
A 新生児の免疫の特徴
B 新生児感染症の特徴
C 感染経路とその特徴
D 新生児の敗血症・髄膜炎の病態
E サイトカインの役割とそれがもたらす疾患
F その他の新生児に特有な感染症
第19章 中枢神経系の基礎と臨床
A 新生児の神経学的後障害
B 低酸素性虚血性脳症
C 頭蓋内出血
D 脳室周囲白質軟化症
E 新生児発作
第20章 先天異常と遺伝
A 先天異常の基礎知識
B 代表的な先天異常症候群
C 遺伝医療と遺伝カウンセリング
D エピジェネティクス
第21章 主要疾患の病態と管理
A 未熟児網膜症
B 超低出生体重児
C 乳幼児突然死症候群
第22章 災害と新生児医療
A 災害時における新生児医療の特性
B 自助(最初の72時間を耐え抜く備えを)
C 共助
D 公助
E 施設避難
F 関連団体の後方支援
索引
和文索引
欧文索引
人名索引
A わが国の新生児学の過去・現在・未来
B 新生児医療に関する用語
C 新生児の医学的特徴
D 新生児の薬物動態の特徴
E 新生児医療の特徴
F 新生児医療の原則とルチーン
G 新生児医療に必要な産科学的知識
第2章 発育・発達とその評価
A 胎児・新生児の発育
B 胎児・新生児の発達
C 在胎週数推測と児の成熟度評価法
D 在胎期間別出生時体格基準曲線とその利用法
E フォローアップ
第3章 新生児診断学
A 新生児の診察法
B 新生児に特徴的な所見
C 主要な異常所見とその診断学的アプローチ
D 母体・胎児情報の読み方
第4章 新生児の養護と管理
A 分娩室からの管理
B 正常新生児の管理
C ハイリスク新生児の管理
D NICU入院児の管理
E 新生児モニタリング
第5章 母子関係と家族の支援
A 母子相互作用の科学的背景
B 母子関係確立のステップ
C 母子関係確立のための臨床
D 母子関係の破綻に基づく臨床的問題
E 出生前小児保健指導
F 母親への保健指導
G 病児の家族への援助
H 児を失った家族への援助
第6章 新生児医療とあたたかい心
A 子育てと環境
B あたたかい心を育む医療
C 新生児発達促進ケア(ディベロプメンタルケア)
第7章 新生児医療における生命倫理
A 新生児医療における倫理問題の特徴
B 倫理的観点からの医療方針決定
C 成育限界をめぐる倫理
D 医の倫理の基本的な考え方
第8章 医療事故と医原性疾患
A 新生児における医原性疾患
B 医療事故の原因と背景
C 医療事故の原因による分類と予防
D 医療事故が起こったときの対応
E 医療事故と訴訟
第9章 体温調節と保温
A 新生児の体温調節
B 保温とその目的
C 保温の臨床
D 体温の異常
第10章 新生児蘇生
A 出生直後の適応生理
B 出生直後の蘇生術
第11章 呼吸器系の基礎と臨床
A 新生児の呼吸生理と特徴
B 肺サーファクタントと呼吸窮迫症候群
C 肺水の動態と一過性多呼吸症
D 子宮内環境が影響する新生児呼吸障害
E 新生児の慢性肺疾患
F 新生児呼吸障害の一般的管理
G 補助呼吸法の進歩
第12章 循環器系の基礎と臨床
A 循環生理の基礎知識
B 循環系の発達生理
C 循環系の適応生理
D 新生児における先天性心疾患の診断と治療
第13章 水・電解質バランスの基礎と臨床
A 新生児の水・電解質バランスの特徴
B 新生児の腎機能の特徴
C 水・電解質管理の実際
第14章 内分泌・代謝系の基礎と臨床
A 副腎皮質ホルモン
B 甲状腺ホルモン
C 血糖調節機構とその異常
D 糖尿病母体児
E 先天性代謝異常症
F FGR児の有する内分泌学的問題点
第15章 栄養・消化器系の基礎と臨床
A 新生児の栄養に関する特徴と問題点
B 栄養と発育・発達
C 新生児に必要な栄養量
D 正常新生児における栄養法
E 低出生体重児における栄養法
F 母乳栄養法
G 授乳と薬剤
H 新生児から小児にみられる主な消化器関連疾患
第16章 黄疸の病態と臨床
A 黄疸の基礎
B 黄疸の病態
C 黄疸の臨床
第17章 血液系の基礎と臨床
A 新生児の血液系の特徴
B 血液系の発達生理
C 多血症
D 貧血
E 新生児メレナとビタミンK
F 血小板減少症
G 好中球減少症
H 易出血性疾患
I 新生児における輸血
J 血液に関与するサイトカイン療法
第18章 免疫系と感染の基礎と臨床
A 新生児の免疫の特徴
B 新生児感染症の特徴
C 感染経路とその特徴
D 新生児の敗血症・髄膜炎の病態
E サイトカインの役割とそれがもたらす疾患
F その他の新生児に特有な感染症
第19章 中枢神経系の基礎と臨床
A 新生児の神経学的後障害
B 低酸素性虚血性脳症
C 頭蓋内出血
D 脳室周囲白質軟化症
E 新生児発作
第20章 先天異常と遺伝
A 先天異常の基礎知識
B 代表的な先天異常症候群
C 遺伝医療と遺伝カウンセリング
D エピジェネティクス
第21章 主要疾患の病態と管理
A 未熟児網膜症
B 超低出生体重児
C 乳幼児突然死症候群
第22章 災害と新生児医療
A 災害時における新生児医療の特性
B 自助(最初の72時間を耐え抜く備えを)
C 共助
D 公助
E 施設避難
F 関連団体の後方支援
索引
和文索引
欧文索引
人名索引
書評
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救命から育てる医療へ-新生児学の進化と奥深さを巧みに著す
書評者: 中村 肇 (神戸大名誉教授)
『新生児学入門』は,1988年に初版が出版されて以来,この30年間に版を重ねてきました。このたび第5版の出版に至ったことは,仁志田博司博士の新生児学への変わらぬ熱い思いにより成し遂げられた偉業です。仁志田先生は,1970年代初頭に米シカゴ大で学ばれた最先端の新生児学をわが国に紹介され,その後も絶えず日本の新生児学・新生児医療発展におけるリーダーとして活躍してこられました。
本書は,単に新生児学の知識や技術的な指導書としてだけでなく,新生児学の持つ機微,奥深さが実に巧みに表現された名著として,新生児医療に携わる医師の座右の書として欠かすことのできない一冊となっています。これは,日本国内はもとより海外からも新生児科医を志望する多くの若い小児科医に対し,東女医大母子総合医療センター新生児部門のトップとして仁志田先生がこれまで尽力されてきた,豊富な指導経験に基づくものだといえます。
とりわけ,仁志田先生自らが執筆されている,「第5章 母子関係と家族の支援」「第6章 新生児医療とあたたかい心」「第7章 新生児医療における生命倫理」「第8章 医療事故と医原性疾患」の4つの章では,この半世紀の間に急速に発展した新生児医療の光と陰,そして,救命の新生児医療から育てる新生児医療への進化の中で,医師として,人間として,われわれが考えなければならない難しい問題を平易に解説されており,初心者だけでなく,経験ある新生児科医にとっても,自らの考えを整理する上で大いに役立つと考えます。
今版では,仁志田博士の薫陶を受けた新生児学のわが国のトップリーダーとして活躍している小児科・新生児科医により,新生児の特徴である発達生理,適応生理を中心に,病態生理の最新の情報までもが網羅されており,単に入門書というだけでなく,臨床現場においても役立つものとなっています。
新生児期は,子宮内生活から子宮外生活へと大きく変化する時期であり,人の生涯で最もリスクの大きな時期でもあり,うまく環境に適応しなければ,脳とこころの発達に重大な障害を引き起こします。新生児学は,子どもの健全な成長・発達をサポートする学問です。新生児医療に携わる医療者にとって,医学的知識だけでなく,人文科学的な広い一般教養(liberal arts)が不可欠であり,科学と心をはぐくむ教養(science and art)の持つ意味の重要性がますます大きくなってきているとの仁志田博士のお考えには大いなる共感を覚えます。
飛躍的な発展を遂げてきた新生児学の進歩を学ぶだけでなく,次世代における新生児学のあり方を考える上で,ぜひ多くの方々に本書を読んでいただければ幸いです。
新生児医療に携わる者の基礎となる一冊
書評者: 多田 裕 (東邦大学名誉教授)
『新生児学入門 第5版』が出版された。1988年に初版が発刊されて以来改版を重ね,第5版では最新の新生児医療が紹介されている。
この機会にわが国の新生児医療を振り返ってみよう。
出生に伴って,新生児は人の一生の中でも最も大きな変化を経験する。各臓器の機能が未熟で脆弱なため,死亡率が高いだけでなく,この時期に受けた影響は小児期から成人期の生活の質にも影響を及ぼすことが知られている。
新生児や未熟児は,体が小さいだけでなく未熟な臓器機能や脆弱性からその取り扱いが難しく,新生児医療は他領域に比べて発展が遅れていた。また,成人や年長児では普通に使用される医療機器や検査法も,体重が成人の20から100分の1しかない新生児や未熟児には適用が困難であった。
他領域では診断や検査方法,治療が進歩し専門性が深まり,全体を診るよりは疾病を診て治療する傾向になった。しかし新生児医療では,利用できる検査や治療方法が限られていたこともあって,経験と観察を生かして対象となる児の全体を診るとともに,できる限り児に負担をかけないこと,現在の疾病の治療だけでなくこれからの長い一生を見すえた対応をすることが特色となった。
その後,新生児や未熟児の生理・病理が次第に解明され,利用できる機器の開発も進み,新生児医学の中での各専門領域が深まっていった。予後は大きく改善し,わが国の新生児医療は世界でも最も優れたものとなった。しかし専門領域が深まっても,児とそれを取り巻く家庭環境全体を配慮する特色は変わらない。入院中の児をめぐる環境の改善,ケアへの両親の関与,ディベロプメンタルケア,フォローアップと退院後の支援など,関係する医師,看護師,助産師,臨床心理士,保健師,保育士,その他の協働の下に志向する子どもと親に優しい医療は,疾病だけでなくこころも重視する本質が保たれている。こうした新生児医療の考えは他領域にも影響を与えるようになった。
『新生児学入門』は新生児医療に長く携わり指導を続けてきた仁志田博司氏が,新生児医療に携わる者の基礎となるように,これまでの経験と知識を中心にその考えを著した書である。第5版では,新生児医学各領域で活躍中の第一人者がそれぞれの領域の基礎と臨床について分担執筆し,深い内容を理解しやすく解説した書となった。加えて,新生児に対する温かいまなざしが伝わる氏の哲学は,版を重ねてもご自身で担当した多くの章の中に保たれ本書の特色となっている。
タイトルには「入門」とあるが,これから新生児医療に携わる者が新生児学の基礎と心がまえを学ぶ書であると共に,経験を重ねた者にとっても初心に帰って日常の診療を見直す良い機会となる書である。また,他領域の医療従事者にとってもどのような考えの下に新生児が療育され,成長して現在の診療対象になったかを知る上で参考になる書であろう。
今日の新生児医療の実践に不可欠な知識が詰まった一冊
書評者: 横尾 京子 (広島大名誉教授)
『新生児学入門』の初版から30年,数度の改訂を経て第5版が発行されました。もちろん,本書でも「日常の臨床で行っていることの科学的な理由を理解してもらう」という初版からの目的が貫かれており,表紙に配された英文タイトルでも“Scientific Basis of Clinical Neonatology”と謳われています。大きく変わったのは,より進歩した新生児医療に応えるべく,髙橋尚人先生と豊島勝昭先生の両先生を編集協力として立てられ,さらに,新生児学各分野の専門の先生方が新たに執筆担当に加わっているということです。本書は全22章から成り,2つに大別されています。1つは,新生児医療を支えるフィロソフィーと基本知識(第1章~第8章,第22章)であり,もう1つは,新生児の適応生理と発達,および病態やその臨床(第9章~第21章)です。残すべき内容,加えるべき内容が吟味され,全体として第4版と同じ分量(432ページ)が維持されています。
第1章~第8章は,これまでのように仁志田博司先生が執筆されており,新生児医療の考え方に一貫性が維持されています。加えて,新しい知見や方向性が重視され,第1章「新生児学総論」には新生児の薬物動態の特徴,第2章「発育・発達とその評価」にはフォローアップが追加され,第22章として「災害と新生児医療」が新設されました。一方,第3章「新生児診断学」から「検査結果の読み方」は省かれています。続く各章「新生児の養護と管理」「母子関係と家族の支援」「新生児医療とあたたかい心」「新生児医療における生命倫理」「医療事故と医原性疾患」では,仁志田先生作詩「新生児(あなた)に生きる」(巻頭p.ⅴ)をほうふつとさせてくれ,新生児にかかわることの幸せの意味を知ることができます。
本書の後半もこれまで以上に洗練された構成と内容になっています。出生直後の適応生理が考慮され「体温調節と保温」の次に「新生児蘇生」「呼吸器系の基礎と臨床」「循環器系の基礎と臨床」と続きます。「新生児蘇生」は,第4版の「呼吸器系の基礎と臨床」から独立し章立てされたものです。そして「水・電解質バランスの基礎と臨床」「内分泌・代謝系の基礎と臨床」「栄養・消化器系の基礎と臨床」「黄疸の病態と臨床」「血液系の基礎と臨床」「免疫系と感染の基礎と臨床」「中枢神経系の基礎と臨床」「先天異常と遺伝」(本章は内容が一新されています)「主要疾患の病態と管理」と続き,いずれの章にも今日の新生児医療の実践に不可欠な知識やヒントが示されています。次版改訂の機会には,新生児のQOLを保証するためにも,「新生児の痛みの生理とケア」の記述が加わることを願っています。
助産や新生児看護をめざす若者や,新生児医療に従事する臨床家の皆さまが,あらためて日常ケアの科学性を解き明かすためにも,本書を活用されることをお勧めいたします。
“新生児医療を目指したくなる魔法の本”(雑誌『助産雑誌』より)
書評者: 内田 美恵子 (埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センター 副センター長)
『新生児学入門』というタイトルの本書であるが,この本には「ピンクの本」というかわいい別名がある。30年間,私も含めて新生児に関わる人々に愛されている本書は,私たちにとってバイブル的存在である。スマートフォンで何でも調べられる現代でも,本書は新生児医療を志す人々にとって机の傍らに置いておきたいかけがえのない1冊であり,この本を持つだけで,新生児医療に携わる同志であることを示すアイテムでもある。堅苦しい専門用語で会話するより「“ピンクの本”に書いてあったよね」と話すだけで相互理解ができるのである。
著者自身が教科書ではなく“新生児医療関係者の愛読書”を目指したように,この本には医学書らしからぬ表現が随所に認められる。たとえば,30年前は呼吸窮迫症候群の児が入院すると,出生から72時間の期間を自分の技術と体力を最大限発揮して,気胸,動脈管開存による状態の悪化がないように勤務時間を過ごしたものだ。それを経験した医療者には,サーファクタント補充療法を“ドラマチックな効果”という表現で記載したい気持ちがよく理解できる。サーファクタント補充療法が当たり前になった今の世代からすると大げさな表現かもしれないが,この本は,読む世代によって文章の受け止め方が異なることもユニークな魅力である。
“赤ちゃんとお母さん”に命を賭けている著者の信念と人柄が表れている文章を探すのが面白くなるし,印象深い文章を人に伝えたくなるのだ。この“伝えたくなる”という読者の思いは,繰り返し他者に伝えることにより短期記憶から長期記憶に変わり,改めてその人の信念として身に付いていく。その魅力を感じ取った人は,知らず知らずのうちにこの本を読み進め,いつの間にか新生児医療を自分の言葉で語れる人に成長していくと私は考える。そうして,新生児医療の魅力に引き付けられていった人も多いと思う。
私も出版当時からこの本を愛し,読み続けてきた一人である。私は新生児病棟に入職した新人には「分からなくてもいいから,“ピンクの本”を3回読みなさい。そうすれば新生児看護が好きになる」と話している。この本は,新生児学入門と題されているが,新生児医療に足を踏み入れたくなる魔法の本だと私は思っている。
最後に若い人たちに伝えたい。新生児病棟に足を踏み入れたら,“ピンクの本”を3回とは言わないが,忘れたところは繰り返し読んでほしい。きっと赤ちゃんたちへの想いが湧き起こるはずだ。
(『助産雑誌』2019年5月号掲載)
書評者: 中村 肇 (神戸大名誉教授)
『新生児学入門』は,1988年に初版が出版されて以来,この30年間に版を重ねてきました。このたび第5版の出版に至ったことは,仁志田博司博士の新生児学への変わらぬ熱い思いにより成し遂げられた偉業です。仁志田先生は,1970年代初頭に米シカゴ大で学ばれた最先端の新生児学をわが国に紹介され,その後も絶えず日本の新生児学・新生児医療発展におけるリーダーとして活躍してこられました。
本書は,単に新生児学の知識や技術的な指導書としてだけでなく,新生児学の持つ機微,奥深さが実に巧みに表現された名著として,新生児医療に携わる医師の座右の書として欠かすことのできない一冊となっています。これは,日本国内はもとより海外からも新生児科医を志望する多くの若い小児科医に対し,東女医大母子総合医療センター新生児部門のトップとして仁志田先生がこれまで尽力されてきた,豊富な指導経験に基づくものだといえます。
とりわけ,仁志田先生自らが執筆されている,「第5章 母子関係と家族の支援」「第6章 新生児医療とあたたかい心」「第7章 新生児医療における生命倫理」「第8章 医療事故と医原性疾患」の4つの章では,この半世紀の間に急速に発展した新生児医療の光と陰,そして,救命の新生児医療から育てる新生児医療への進化の中で,医師として,人間として,われわれが考えなければならない難しい問題を平易に解説されており,初心者だけでなく,経験ある新生児科医にとっても,自らの考えを整理する上で大いに役立つと考えます。
今版では,仁志田博士の薫陶を受けた新生児学のわが国のトップリーダーとして活躍している小児科・新生児科医により,新生児の特徴である発達生理,適応生理を中心に,病態生理の最新の情報までもが網羅されており,単に入門書というだけでなく,臨床現場においても役立つものとなっています。
新生児期は,子宮内生活から子宮外生活へと大きく変化する時期であり,人の生涯で最もリスクの大きな時期でもあり,うまく環境に適応しなければ,脳とこころの発達に重大な障害を引き起こします。新生児学は,子どもの健全な成長・発達をサポートする学問です。新生児医療に携わる医療者にとって,医学的知識だけでなく,人文科学的な広い一般教養(liberal arts)が不可欠であり,科学と心をはぐくむ教養(science and art)の持つ意味の重要性がますます大きくなってきているとの仁志田博士のお考えには大いなる共感を覚えます。
飛躍的な発展を遂げてきた新生児学の進歩を学ぶだけでなく,次世代における新生児学のあり方を考える上で,ぜひ多くの方々に本書を読んでいただければ幸いです。
新生児医療に携わる者の基礎となる一冊
書評者: 多田 裕 (東邦大学名誉教授)
『新生児学入門 第5版』が出版された。1988年に初版が発刊されて以来改版を重ね,第5版では最新の新生児医療が紹介されている。
この機会にわが国の新生児医療を振り返ってみよう。
出生に伴って,新生児は人の一生の中でも最も大きな変化を経験する。各臓器の機能が未熟で脆弱なため,死亡率が高いだけでなく,この時期に受けた影響は小児期から成人期の生活の質にも影響を及ぼすことが知られている。
新生児や未熟児は,体が小さいだけでなく未熟な臓器機能や脆弱性からその取り扱いが難しく,新生児医療は他領域に比べて発展が遅れていた。また,成人や年長児では普通に使用される医療機器や検査法も,体重が成人の20から100分の1しかない新生児や未熟児には適用が困難であった。
他領域では診断や検査方法,治療が進歩し専門性が深まり,全体を診るよりは疾病を診て治療する傾向になった。しかし新生児医療では,利用できる検査や治療方法が限られていたこともあって,経験と観察を生かして対象となる児の全体を診るとともに,できる限り児に負担をかけないこと,現在の疾病の治療だけでなくこれからの長い一生を見すえた対応をすることが特色となった。
その後,新生児や未熟児の生理・病理が次第に解明され,利用できる機器の開発も進み,新生児医学の中での各専門領域が深まっていった。予後は大きく改善し,わが国の新生児医療は世界でも最も優れたものとなった。しかし専門領域が深まっても,児とそれを取り巻く家庭環境全体を配慮する特色は変わらない。入院中の児をめぐる環境の改善,ケアへの両親の関与,ディベロプメンタルケア,フォローアップと退院後の支援など,関係する医師,看護師,助産師,臨床心理士,保健師,保育士,その他の協働の下に志向する子どもと親に優しい医療は,疾病だけでなくこころも重視する本質が保たれている。こうした新生児医療の考えは他領域にも影響を与えるようになった。
『新生児学入門』は新生児医療に長く携わり指導を続けてきた仁志田博司氏が,新生児医療に携わる者の基礎となるように,これまでの経験と知識を中心にその考えを著した書である。第5版では,新生児医学各領域で活躍中の第一人者がそれぞれの領域の基礎と臨床について分担執筆し,深い内容を理解しやすく解説した書となった。加えて,新生児に対する温かいまなざしが伝わる氏の哲学は,版を重ねてもご自身で担当した多くの章の中に保たれ本書の特色となっている。
タイトルには「入門」とあるが,これから新生児医療に携わる者が新生児学の基礎と心がまえを学ぶ書であると共に,経験を重ねた者にとっても初心に帰って日常の診療を見直す良い機会となる書である。また,他領域の医療従事者にとってもどのような考えの下に新生児が療育され,成長して現在の診療対象になったかを知る上で参考になる書であろう。
今日の新生児医療の実践に不可欠な知識が詰まった一冊
書評者: 横尾 京子 (広島大名誉教授)
『新生児学入門』の初版から30年,数度の改訂を経て第5版が発行されました。もちろん,本書でも「日常の臨床で行っていることの科学的な理由を理解してもらう」という初版からの目的が貫かれており,表紙に配された英文タイトルでも“Scientific Basis of Clinical Neonatology”と謳われています。大きく変わったのは,より進歩した新生児医療に応えるべく,髙橋尚人先生と豊島勝昭先生の両先生を編集協力として立てられ,さらに,新生児学各分野の専門の先生方が新たに執筆担当に加わっているということです。本書は全22章から成り,2つに大別されています。1つは,新生児医療を支えるフィロソフィーと基本知識(第1章~第8章,第22章)であり,もう1つは,新生児の適応生理と発達,および病態やその臨床(第9章~第21章)です。残すべき内容,加えるべき内容が吟味され,全体として第4版と同じ分量(432ページ)が維持されています。
第1章~第8章は,これまでのように仁志田博司先生が執筆されており,新生児医療の考え方に一貫性が維持されています。加えて,新しい知見や方向性が重視され,第1章「新生児学総論」には新生児の薬物動態の特徴,第2章「発育・発達とその評価」にはフォローアップが追加され,第22章として「災害と新生児医療」が新設されました。一方,第3章「新生児診断学」から「検査結果の読み方」は省かれています。続く各章「新生児の養護と管理」「母子関係と家族の支援」「新生児医療とあたたかい心」「新生児医療における生命倫理」「医療事故と医原性疾患」では,仁志田先生作詩「新生児(あなた)に生きる」(巻頭p.ⅴ)をほうふつとさせてくれ,新生児にかかわることの幸せの意味を知ることができます。
本書の後半もこれまで以上に洗練された構成と内容になっています。出生直後の適応生理が考慮され「体温調節と保温」の次に「新生児蘇生」「呼吸器系の基礎と臨床」「循環器系の基礎と臨床」と続きます。「新生児蘇生」は,第4版の「呼吸器系の基礎と臨床」から独立し章立てされたものです。そして「水・電解質バランスの基礎と臨床」「内分泌・代謝系の基礎と臨床」「栄養・消化器系の基礎と臨床」「黄疸の病態と臨床」「血液系の基礎と臨床」「免疫系と感染の基礎と臨床」「中枢神経系の基礎と臨床」「先天異常と遺伝」(本章は内容が一新されています)「主要疾患の病態と管理」と続き,いずれの章にも今日の新生児医療の実践に不可欠な知識やヒントが示されています。次版改訂の機会には,新生児のQOLを保証するためにも,「新生児の痛みの生理とケア」の記述が加わることを願っています。
助産や新生児看護をめざす若者や,新生児医療に従事する臨床家の皆さまが,あらためて日常ケアの科学性を解き明かすためにも,本書を活用されることをお勧めいたします。
“新生児医療を目指したくなる魔法の本”(雑誌『助産雑誌』より)
書評者: 内田 美恵子 (埼玉医科大学総合医療センター総合周産期母子医療センター 副センター長)
『新生児学入門』というタイトルの本書であるが,この本には「ピンクの本」というかわいい別名がある。30年間,私も含めて新生児に関わる人々に愛されている本書は,私たちにとってバイブル的存在である。スマートフォンで何でも調べられる現代でも,本書は新生児医療を志す人々にとって机の傍らに置いておきたいかけがえのない1冊であり,この本を持つだけで,新生児医療に携わる同志であることを示すアイテムでもある。堅苦しい専門用語で会話するより「“ピンクの本”に書いてあったよね」と話すだけで相互理解ができるのである。
著者自身が教科書ではなく“新生児医療関係者の愛読書”を目指したように,この本には医学書らしからぬ表現が随所に認められる。たとえば,30年前は呼吸窮迫症候群の児が入院すると,出生から72時間の期間を自分の技術と体力を最大限発揮して,気胸,動脈管開存による状態の悪化がないように勤務時間を過ごしたものだ。それを経験した医療者には,サーファクタント補充療法を“ドラマチックな効果”という表現で記載したい気持ちがよく理解できる。サーファクタント補充療法が当たり前になった今の世代からすると大げさな表現かもしれないが,この本は,読む世代によって文章の受け止め方が異なることもユニークな魅力である。
“赤ちゃんとお母さん”に命を賭けている著者の信念と人柄が表れている文章を探すのが面白くなるし,印象深い文章を人に伝えたくなるのだ。この“伝えたくなる”という読者の思いは,繰り返し他者に伝えることにより短期記憶から長期記憶に変わり,改めてその人の信念として身に付いていく。その魅力を感じ取った人は,知らず知らずのうちにこの本を読み進め,いつの間にか新生児医療を自分の言葉で語れる人に成長していくと私は考える。そうして,新生児医療の魅力に引き付けられていった人も多いと思う。
私も出版当時からこの本を愛し,読み続けてきた一人である。私は新生児病棟に入職した新人には「分からなくてもいいから,“ピンクの本”を3回読みなさい。そうすれば新生児看護が好きになる」と話している。この本は,新生児学入門と題されているが,新生児医療に足を踏み入れたくなる魔法の本だと私は思っている。
最後に若い人たちに伝えたい。新生児病棟に足を踏み入れたら,“ピンクの本”を3回とは言わないが,忘れたところは繰り返し読んでほしい。きっと赤ちゃんたちへの想いが湧き起こるはずだ。
(『助産雑誌』2019年5月号掲載)
正誤表
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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。