学校関係者のためのDSM-5
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- 序文
- 目次
- 書評
序文
開く
監訳者あとがき
本書はRenée M. Tobin & Alvin E. House『DSM-5 Diagnosis in the Schools』(Guilford Press, 2016)の全訳である.学校を主な活動の場としている心理士を対象として,DSM-5について詳しく解説されている.
本書が刊行されるに至った米国の社会的背景が興味深い.明らかに重要な要因の1つが経済の停滞であると本書でも指摘されている.障害をもつ子どもが公教育で不利な扱いを受けないように,最近,さまざま法律が米国では成立した.しかし,法律ができたものの,その目標を達成するための予算措置が残念ながら十分ではないというのが,米国の現状である.そこで,学校は保険会社や連邦政府機関に資金援助を求める必要が出てくる.しかし,これらの資金援助を得ようとすると,ほとんど常に申請書類の作成にはDSM診断の記入が求められるため,学校心理士もDSM-5を正しく用いることが要請されているという.
本書では,DSMの最新版であるDSM-5とIDEA(障害者教育法)の関係についても詳述されている.DSM-5の究極の目的は,適切な臨床治療を目指した,精神障害の分類である.IDEAは,障害をもつ子どもが学校において特別教育サービスを受ける資格に焦点を当てて,各種の障害を分類している.DSM-5とIDEAは多くの点で共通する分類ではあるものの,両者のすべてが一対一で対応するわけではない.そこで,IDEAのもとで特別教育サービスを受ける資格を得るための条件などが詳しく解説してあり,米国の特別教育の現状もうかがい知ることができる.
なお,本書の主な対象は学校心理士であるが,それ以外の精神保健の専門家にとっても興味深い.監訳者は精神科医だが,DSMの変遷の主な流れを把握するという意味で大変勉強になった.監訳者が医学部を卒業したのは1979年であり,翌年の1980年にDSMの第3版(DSM-III)が発刊されて,わが国の精神医学界においても大きな関心をよんだことを鮮明に記憶している.DSMは当初,統計調査のために作成されたのだが,DSM-IIIからは明確な診断基準を設けることで,評価者間で精神障害の診断が異なるという診断の信頼性の問題に対応した.その後も,DSM-III-R,DSM-IV,DSM-IV-TR,DSM-5とほぼ10年ごとにDSMは改訂が繰り返され,心理学や精神医学ばかりか,司法,行政,立法,教育,ソーシャルワークなどの広い分野における共通言語のようになってきた.改訂のたびに大きな変更があったのだが,その主流を把握するという意味でも,本書は参考になるだろう.
最後になったが,本書の翻訳出版を提案してくださり,翻訳の過程でも多くの尽力をいただいた医学書院医学書籍編集部の松本哲氏と中嘉子氏に深謝する.おふたりの熱意がなければ,本書の日本語版は世に出ることはなかっただろう.
2017年5月
高橋祥友
本書はRenée M. Tobin & Alvin E. House『DSM-5 Diagnosis in the Schools』(Guilford Press, 2016)の全訳である.学校を主な活動の場としている心理士を対象として,DSM-5について詳しく解説されている.
本書が刊行されるに至った米国の社会的背景が興味深い.明らかに重要な要因の1つが経済の停滞であると本書でも指摘されている.障害をもつ子どもが公教育で不利な扱いを受けないように,最近,さまざま法律が米国では成立した.しかし,法律ができたものの,その目標を達成するための予算措置が残念ながら十分ではないというのが,米国の現状である.そこで,学校は保険会社や連邦政府機関に資金援助を求める必要が出てくる.しかし,これらの資金援助を得ようとすると,ほとんど常に申請書類の作成にはDSM診断の記入が求められるため,学校心理士もDSM-5を正しく用いることが要請されているという.
本書では,DSMの最新版であるDSM-5とIDEA(障害者教育法)の関係についても詳述されている.DSM-5の究極の目的は,適切な臨床治療を目指した,精神障害の分類である.IDEAは,障害をもつ子どもが学校において特別教育サービスを受ける資格に焦点を当てて,各種の障害を分類している.DSM-5とIDEAは多くの点で共通する分類ではあるものの,両者のすべてが一対一で対応するわけではない.そこで,IDEAのもとで特別教育サービスを受ける資格を得るための条件などが詳しく解説してあり,米国の特別教育の現状もうかがい知ることができる.
なお,本書の主な対象は学校心理士であるが,それ以外の精神保健の専門家にとっても興味深い.監訳者は精神科医だが,DSMの変遷の主な流れを把握するという意味で大変勉強になった.監訳者が医学部を卒業したのは1979年であり,翌年の1980年にDSMの第3版(DSM-III)が発刊されて,わが国の精神医学界においても大きな関心をよんだことを鮮明に記憶している.DSMは当初,統計調査のために作成されたのだが,DSM-IIIからは明確な診断基準を設けることで,評価者間で精神障害の診断が異なるという診断の信頼性の問題に対応した.その後も,DSM-III-R,DSM-IV,DSM-IV-TR,DSM-5とほぼ10年ごとにDSMは改訂が繰り返され,心理学や精神医学ばかりか,司法,行政,立法,教育,ソーシャルワークなどの広い分野における共通言語のようになってきた.改訂のたびに大きな変更があったのだが,その主流を把握するという意味でも,本書は参考になるだろう.
最後になったが,本書の翻訳出版を提案してくださり,翻訳の過程でも多くの尽力をいただいた医学書院医学書籍編集部の松本哲氏と中嘉子氏に深謝する.おふたりの熱意がなければ,本書の日本語版は世に出ることはなかっただろう.
2017年5月
高橋祥友
目次
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著者略歴
謝辞
監訳者略歴
訳者略歴
第1章 はじめに:本書の目的と特長
・本書の意図
・本書の構成について
・6種のコラムとその目的
第1部 診断の問題とDSM-5の使用法
第2章 精神医学的診断:学校心理士に関わる問題
・学校という場における課題としての精神医学的診断
・精神医学的分類と学校の場におけるその役割
・誰がDSM-5を使って診断することができるだろうか?
・小児や思春期の人を診断する際の発達的な配慮
第3章 DSM-5診断体系についての総説
・精神障害とその他の状態の基本的定義
・多軸診断体系の廃止
[筆者の意見] 多軸診断体系の廃止を悼む
[コラム]コード ICD-10の導入
[コラム]専門家へのアドバイス 医師以外の専門家による医学的診断の使用
・診断の前提:診断の習慣,階層,複数診断
・小児や思春期の人の精神保健とDSM-5
第4章 DSM-5の使用法を学ぶ
・カテゴリー分類
・鑑別診断
[コラム]適用のポイント 「除外せよ」
・診断の順位
[コラム]適用のポイント 主診断と受診理由
・診断に関する自信の程度
・どのように診断を記録するか
・他の情報源からの診断的印象をどのように解釈するか
第2部 現在の問題の評価についてのガイドライン
第5章 知的能力と認知の問題
・概要
・知的能力障害と関連の問題
[筆者の意見] 知的能力障害のレッテル貼り
[コラム]適用のポイント 知的能力障害と発達:発症年齢の定義
[コラム]適用のポイント 知的能力障害のDSM-5下位分類:重症度
[筆者の意見] 知的能力障害の重症度
[コラム]専門家へのアドバイス DSM-5とAAIDDの定義による知的能力障害
[コラム]IDEA 知的能力障害とIDEA
[コラム]専門家へのアドバイス 知的能力障害と教育の可能性への期待
[コラム]コード 「Vコード」
・神経認知障害群
[コラム]IDEA 外傷性脳損傷とIDEA
第6章 学習,コミュニケーション,運動の問題
・概要
・学習症群/学習障害群と関連の問題
[コラム]DSM-IV-TR 限局性学習症に関するDSM-5の変更点
[コラム]専門家へのアドバイス 精神保健の診断法に関する
幅広い社会的意味合い
[コラム]IDEA 学習症とIDEA
・コミュニケーション症群/コミュニケーション障害群
[コラム]IDEA コミュニケーション症群とIDEA
・運動症群/運動障害群
[コラム]DSM-IV-TR 発達性協調運動症に関するDSM-5の変更点
[コラム]IDEA 発達性協調運動症とIDEA
第7章 きわめて非定型的な症状パターン:自閉スペクトラム症群と精神病性障害群
・概要
・自閉スペクトラム症群/自閉症スペクトラム障害群
[コラム]DSM-IV-TR 5つから1つの自閉スペクトラム症へ
[コラム]IDEA 自閉スペクトラム症群とIDEA
・精神病群
[コラム]IDEA 精神病性障害
[コラム]DSM-IV-TR 統合失調症に関するDSM-5の変更点
[コラム]コード 小児や思春期の統合失調症様障害
[コラム]コード 小児や思春期の統合失調感情障害
[コラム]コード 他の特定される統合失調症スペクトラム障害および
他の精神病性障害と短期精神病性障害
第8章 気分の問題
・概要
・特定の気分の障害のパターン
[コラム]IDEA 気分関連の障害および病態とIDEA
・気分の症状を呈する精神障害
[コラム]DSM-IV 双極性障害および関連障害群に関するDSM-5の変更点
[コラム]DSM-IV 抑うつ障害群に関するDSM-5の変更点
・その他の気分関連障害および状態
・気分障害群の評価についての問題
第9章 不安の問題
・概要
[コラム]DSM-IV 不安症と関連症に関するDSM-5の変更点
[コラム]IDEA 不安関連の精神障害とIDEA
・特定の不安のパターン
・強迫症および関連症群/強迫性障害および関連障害群
[コラム]DSM-IV-TR 強迫症および関連症群に関するDSM-5の変更点
・強迫症とともに議論される障害
・心的外傷およびストレス因関連障害群
[コラム]DSM-IV-TR 心的外傷およびストレス因関連障害群に関するDSM-5の変更点
・併存
・不適切な養育
第10章 他の内在化の問題
・概要
・身体症状症および関連症群
[コラム]IDEA 身体症状症および関連症群とIDEA
[コラム]DSM-IV 身体症状症および関連症群に関するDSM-5の変更点
・身体症状を呈する他の精神障害と病態
・解離症群/解離性障害群
[コラム]IDEA 解離症群とIDEA
[コラム]専門家へのアドバイス 解離性幻覚
第11章 素行の問題
・概要
[コラム]IDEA 秩序破壊的行動障害とIDEA
[コラム]IDEA 秩序破壊的行動障害とIDEAに関する注意点
・鑑別診断
[コラム]DSM-IV-TR 反抗挑発症に関するDSM-5の変更点
[コラム]適用のポイント 秩序破壊的行動の問題の鑑別診断
・特定の行動パターン
[コラム]DSM-IV-TR 素行症に関するDSM-5の変更点
[コラム]DSM-IV-TR 間欠爆発症に関するDSM-5の変更点
第12章 衝動制御の問題
・概要
[筆者の意見] 「サーズデー・チャイルド」への同情
・注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害
[コラム]IDEA 注意欠如・多動症とIDEA
[コラム]DSM-IV-TR 注意欠如・多動症に関するDSM-5の変更点
・他の特定されるまたは特定不能の注意欠如・多動症/
他の特定されるまたは特定不能の注意欠如・多動性障害
・他の衝動制御障害群
・他の特定される,あるいは特定不能の秩序破壊的・衝動制御・素行症
第13章 特に焦点を当てられた症状パターン
・概要
・摂食の問題
・特定の摂食障害パターン
・摂食障害に関して臨床的に考慮すべき点
[コラム]IDEA 摂食障害とIDEA
[コラム]DSM-IV 食行動障害および摂食障害群に関するDSM-5の変更点
・排泄症群
・性別違和
[コラム]IDEA 性別違和とIDEA
・パラフィリア障害群
・睡眠-覚醒障害群
第14章 物質関連の問題と他の嗜癖行動
・概要
・他の嗜癖行動
・併存
・若年者の物質使用の問題の診断について今後も継続する課題
[コラム]IDEA アルコールおよび物質使用障害とIDEA
第15章 パーソナリティ障害群
・若年者のパーソナリティ障害の診断:論争と注意点
・パーソナリティ障害の診断に関するその他の注意点
[コラム]IDEA パーソナリティ障害群とIDEA
・A群(奇妙,風変わり)パーソナリティ障害
・B群(演技的,情緒的)パーソナリティ障害
・C群(不安,恐怖)パーソナリティ障害
・残遺の事例
・パーソナリティ障害群の代替DSM-5モデル
第16章 追加のコードとカテゴリー
・他の精神疾患群
・臨床的関与の対象となることのある他の状態
・新しい尺度とモデル
第3部 DSM-5の学校への応用:その課題と話題
第17章 評価における倫理と専門家の責任
・精神保健評価に学校心理士が果たす役割
・学校心理士に向けた診断に関する最善の実践への提案
[コラム]専門家へのアドバイス 精神保健診断に関する地域の方針と州の規則
第18章 事例の記録:診断のためのデータと支持する記録
・守秘義務,情報の自由,親子の権利
・記録の保持
[コラム]専門家へのアドバイス 精神保健記録の保持
第19章 学校の場における評価と診断に関する償還申請
・医師の現在の医療行為に関する用語コード
・基準としての「医学的必要性」
・請求に関する倫理的および専門家としての責任
・診断の不一致
第20章 DSM-5と障害者教育法
第21章 DSM-5についての懸念
・精神医学的分類全般に関する懸念
・DSM-5の全般的な概念化と構成に関する懸念
・DSM-5に関する特定の懸念
・DSM-5は正しい方向に進んだか?
・結論
文献
監訳者あとがき
索引
謝辞
監訳者略歴
訳者略歴
第1章 はじめに:本書の目的と特長
・本書の意図
・本書の構成について
・6種のコラムとその目的
第1部 診断の問題とDSM-5の使用法
第2章 精神医学的診断:学校心理士に関わる問題
・学校という場における課題としての精神医学的診断
・精神医学的分類と学校の場におけるその役割
・誰がDSM-5を使って診断することができるだろうか?
・小児や思春期の人を診断する際の発達的な配慮
第3章 DSM-5診断体系についての総説
・精神障害とその他の状態の基本的定義
・多軸診断体系の廃止
[筆者の意見] 多軸診断体系の廃止を悼む
[コラム]コード ICD-10の導入
[コラム]専門家へのアドバイス 医師以外の専門家による医学的診断の使用
・診断の前提:診断の習慣,階層,複数診断
・小児や思春期の人の精神保健とDSM-5
第4章 DSM-5の使用法を学ぶ
・カテゴリー分類
・鑑別診断
[コラム]適用のポイント 「除外せよ」
・診断の順位
[コラム]適用のポイント 主診断と受診理由
・診断に関する自信の程度
・どのように診断を記録するか
・他の情報源からの診断的印象をどのように解釈するか
第2部 現在の問題の評価についてのガイドライン
第5章 知的能力と認知の問題
・概要
・知的能力障害と関連の問題
[筆者の意見] 知的能力障害のレッテル貼り
[コラム]適用のポイント 知的能力障害と発達:発症年齢の定義
[コラム]適用のポイント 知的能力障害のDSM-5下位分類:重症度
[筆者の意見] 知的能力障害の重症度
[コラム]専門家へのアドバイス DSM-5とAAIDDの定義による知的能力障害
[コラム]IDEA 知的能力障害とIDEA
[コラム]専門家へのアドバイス 知的能力障害と教育の可能性への期待
[コラム]コード 「Vコード」
・神経認知障害群
[コラム]IDEA 外傷性脳損傷とIDEA
第6章 学習,コミュニケーション,運動の問題
・概要
・学習症群/学習障害群と関連の問題
[コラム]DSM-IV-TR 限局性学習症に関するDSM-5の変更点
[コラム]専門家へのアドバイス 精神保健の診断法に関する
幅広い社会的意味合い
[コラム]IDEA 学習症とIDEA
・コミュニケーション症群/コミュニケーション障害群
[コラム]IDEA コミュニケーション症群とIDEA
・運動症群/運動障害群
[コラム]DSM-IV-TR 発達性協調運動症に関するDSM-5の変更点
[コラム]IDEA 発達性協調運動症とIDEA
第7章 きわめて非定型的な症状パターン:自閉スペクトラム症群と精神病性障害群
・概要
・自閉スペクトラム症群/自閉症スペクトラム障害群
[コラム]DSM-IV-TR 5つから1つの自閉スペクトラム症へ
[コラム]IDEA 自閉スペクトラム症群とIDEA
・精神病群
[コラム]IDEA 精神病性障害
[コラム]DSM-IV-TR 統合失調症に関するDSM-5の変更点
[コラム]コード 小児や思春期の統合失調症様障害
[コラム]コード 小児や思春期の統合失調感情障害
[コラム]コード 他の特定される統合失調症スペクトラム障害および
他の精神病性障害と短期精神病性障害
第8章 気分の問題
・概要
・特定の気分の障害のパターン
[コラム]IDEA 気分関連の障害および病態とIDEA
・気分の症状を呈する精神障害
[コラム]DSM-IV 双極性障害および関連障害群に関するDSM-5の変更点
[コラム]DSM-IV 抑うつ障害群に関するDSM-5の変更点
・その他の気分関連障害および状態
・気分障害群の評価についての問題
第9章 不安の問題
・概要
[コラム]DSM-IV 不安症と関連症に関するDSM-5の変更点
[コラム]IDEA 不安関連の精神障害とIDEA
・特定の不安のパターン
・強迫症および関連症群/強迫性障害および関連障害群
[コラム]DSM-IV-TR 強迫症および関連症群に関するDSM-5の変更点
・強迫症とともに議論される障害
・心的外傷およびストレス因関連障害群
[コラム]DSM-IV-TR 心的外傷およびストレス因関連障害群に関するDSM-5の変更点
・併存
・不適切な養育
第10章 他の内在化の問題
・概要
・身体症状症および関連症群
[コラム]IDEA 身体症状症および関連症群とIDEA
[コラム]DSM-IV 身体症状症および関連症群に関するDSM-5の変更点
・身体症状を呈する他の精神障害と病態
・解離症群/解離性障害群
[コラム]IDEA 解離症群とIDEA
[コラム]専門家へのアドバイス 解離性幻覚
第11章 素行の問題
・概要
[コラム]IDEA 秩序破壊的行動障害とIDEA
[コラム]IDEA 秩序破壊的行動障害とIDEAに関する注意点
・鑑別診断
[コラム]DSM-IV-TR 反抗挑発症に関するDSM-5の変更点
[コラム]適用のポイント 秩序破壊的行動の問題の鑑別診断
・特定の行動パターン
[コラム]DSM-IV-TR 素行症に関するDSM-5の変更点
[コラム]DSM-IV-TR 間欠爆発症に関するDSM-5の変更点
第12章 衝動制御の問題
・概要
[筆者の意見] 「サーズデー・チャイルド」への同情
・注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害
[コラム]IDEA 注意欠如・多動症とIDEA
[コラム]DSM-IV-TR 注意欠如・多動症に関するDSM-5の変更点
・他の特定されるまたは特定不能の注意欠如・多動症/
他の特定されるまたは特定不能の注意欠如・多動性障害
・他の衝動制御障害群
・他の特定される,あるいは特定不能の秩序破壊的・衝動制御・素行症
第13章 特に焦点を当てられた症状パターン
・概要
・摂食の問題
・特定の摂食障害パターン
・摂食障害に関して臨床的に考慮すべき点
[コラム]IDEA 摂食障害とIDEA
[コラム]DSM-IV 食行動障害および摂食障害群に関するDSM-5の変更点
・排泄症群
・性別違和
[コラム]IDEA 性別違和とIDEA
・パラフィリア障害群
・睡眠-覚醒障害群
第14章 物質関連の問題と他の嗜癖行動
・概要
・他の嗜癖行動
・併存
・若年者の物質使用の問題の診断について今後も継続する課題
[コラム]IDEA アルコールおよび物質使用障害とIDEA
第15章 パーソナリティ障害群
・若年者のパーソナリティ障害の診断:論争と注意点
・パーソナリティ障害の診断に関するその他の注意点
[コラム]IDEA パーソナリティ障害群とIDEA
・A群(奇妙,風変わり)パーソナリティ障害
・B群(演技的,情緒的)パーソナリティ障害
・C群(不安,恐怖)パーソナリティ障害
・残遺の事例
・パーソナリティ障害群の代替DSM-5モデル
第16章 追加のコードとカテゴリー
・他の精神疾患群
・臨床的関与の対象となることのある他の状態
・新しい尺度とモデル
第3部 DSM-5の学校への応用:その課題と話題
第17章 評価における倫理と専門家の責任
・精神保健評価に学校心理士が果たす役割
・学校心理士に向けた診断に関する最善の実践への提案
[コラム]専門家へのアドバイス 精神保健診断に関する地域の方針と州の規則
第18章 事例の記録:診断のためのデータと支持する記録
・守秘義務,情報の自由,親子の権利
・記録の保持
[コラム]専門家へのアドバイス 精神保健記録の保持
第19章 学校の場における評価と診断に関する償還申請
・医師の現在の医療行為に関する用語コード
・基準としての「医学的必要性」
・請求に関する倫理的および専門家としての責任
・診断の不一致
第20章 DSM-5と障害者教育法
第21章 DSM-5についての懸念
・精神医学的分類全般に関する懸念
・DSM-5の全般的な概念化と構成に関する懸念
・DSM-5に関する特定の懸念
・DSM-5は正しい方向に進んだか?
・結論
文献
監訳者あとがき
索引
書評
開く
子どものこころの健康を考えるきっかけとして
書評者: 滝沢 龍 (東大大学院准教授・臨床心理学)
本書を一読して,DSMが米国では精神医学・心理学だけでなく,司法・行政,そして学校・教育を含めた幅広い分野で共通言語になりつつある(もしくは,その実現をめざしている)ことがわかる。もちろんDSMにも長所・短所があり,その状況自体の善し悪しの議論はあるだろう。それは脇に置くとして,日本の学校・教育現場の現状とはかけ離れた次元にあることは確かだ。特に,米国の学校心理士が診断を行おうとしていることには驚きを覚えた。
原著者のお二人が心理学部教授,名誉教授であることから,米国の学校心理士への言及も多く,心理職が学校・教育領域のメンタルヘルスの中心的役割を担おうとする意気込みがうかがえる。心理学・教育学の教育を受けた後に,精神科医としての教育を受けた私にとっても,本書は勉強になる充実した内容であった。私が2012年から約3年間過ごした英国ロンドンでも,心理学出身の研究者・実践者としてメンタルヘルス分野をリードしている方々がたくさんいた。
一方,日本ではやっと17年に,国家資格として公認心理師法が施行され,こころの健康を守る専門家として,国民の期待に応えることのできる心理学領域の人材養成が行われようとしている。公認心理師は,メンタルヘルスにかかわる専門知識を学び,それらを共通言語として,すでに国家資格を持ち現場に入っている医師,看護師,精神保健福祉士などの専門家と対話できるようになることが求められる。学ぶべき知識は多岐にわたるが,DSMの知識も当然入ってくる。そうした意味では,本書に登場する米国の学校心理士はかなりハイレベルではあるが,学校・教育領域で活躍する日本の公認心理師のめざすべき一つのモデルとして役立つかもしれない。
児童・思春期を専門とする精神科医,心理士,福祉士といった専門家はもちろんのこと,現場に立ち会う学校教員,スクールカウンセラー,スクールソーシャルワーカー,当事者,家族らに広くメンタルヘルスへの理解が深まることは,関係者間での話し合いをスムーズにして,当事者本人へのケアが充実することにつながるはずである。こころの健康の問題は,発症してからでは治療に時間がかかることがわかっている。そして早期発見が回復を早めることも知られている。児童・思春期における主な生活の場の一つである「学校」におけるメンタルヘルスの知識・対策が普及・充実することは,そうした早い回復につながることになる。日本でもその実現を願ってやまない。
本書の日本語はこなれており,大変読みやすい訳になっている。これは翻訳を担当された各先生方のご尽力によるものだと思う。評者も本書発行の前年に,DSM-5を作成した米国精神医学会が当事者,家族,初級者向けに初めて本格的な解説書として編集した『精神疾患・メンタルヘルスガイドブック-DSM-5から生活指針まで』(医学書院)の訳本を上梓した。本書,拙本ともに,DSMへの理解を深め,こころの健康の問題に立ち向かう一助となると考える。子どもにかかわるメンタルヘルス関係者に広くお薦めしたい。
子どもに対するDSM診断への疑問に丁寧に答える解説書
書評者: 今村 芳博 (直方中村病院精神科)
本書は,米国の学校精神保健に携わる学校心理士を対象としており,精神的理由から学業に支障を持つ子どもに対する公的扶助や保険申請のために,DSM-5診断を行う際の助けになることを前提に書かれている。そのため,日米の違いを意識しつつ,DSM-5の原本も傍らに置きながら活用することとなる。
今回のDSMの改訂根拠の解説が続くため,精神医学にある程度知識のない一般の学校関係者にとって,本書は残念ながら難解であろう。しかし,あまたあるDSM-5解説本の中で,児童思春期精神科医療に携わる全ての職種にとってこれほど有益な書を私は知らない。例えば,注意欠如・多動症の発症年齢引き上げについての議論は,その年齢相応とする症状評価や成人への影響などが詳述されており,参考になる。
評者は精神科医として多少の臨床経験を積んではきたものの,子どもの精神症状の多彩さと変化にはいつも戸惑わされる。自らの不勉強と出来の悪さを棚に上げて言わせてもらえば,成書を読んでもどこかピンと来ないのは今でも変わりがない。「学校・地域との連携が大事」と聞いて,とりあえず担任や養護教諭とかかわりだしたはいいが,そううまくいくものではなかった。あまり疾患理解を強調すると「学校では対応できない」「他の子に悪影響がある」と不安を刺激してしまう。ケース会議をしても医療,教育,福祉,行政といった他職種に精神医学的知識を説明することもたやすいことではないし,今話題にしていることはどのモデルの視点なのかを理解して,バランスをとりながらその子への援助を考えていくことは,とても労力を必要とすることだ。
DSMは1980年のDSM-IIIから操作的診断基準となり,社会的影響力が強まった。診断の一致率と信頼性を高め,精神医学への理解の底上げに大いに有益であったことは間違いない。しかしその成り立ちから,複雑な人間の問題を過度に単純化し,年代差も含めて重要な個人差を無視しがちなところがあり,個別の臨床的治療のための診断を目的とするにはまだまだ発展途上のものだ。私が抱いていた疑問はそこに集約している。また,こうしたマニュアルは往々にして恣意的に運用され,結果が独り歩きしてしまう。よく言われるように過剰診断・過剰な治療,さらに商業主義的拡大として,反精神医学論議の格好の題材となっている。子どもに対してはなおさらのことで,そもそも発達途上の小児期に精神医学的診断を下すことに抵抗感が生まれるのは自然なことだ。
知的能力障害などの診断が偏見や差別につながることも重大な懸念だが,そのために名称変更が繰り返し行われてきたことは一時的な解決策にすぎないと,本書の著者らは鋭く指摘している。第5章の「知的能力障害のレッテル貼り」というコラムの中で,「彼らは学習は遅いが,適切な教育でより多くを学ぶことができる」という点で,むしろ以前の「精神遅滞」のほうが現象をより的確に表現しているとして,その変更を惜しんでいる(p.47)。
さらに第21章で,「しかし,言葉はまた安心感や理解を深めることにもなる。ある問題に名前をつけたり,他の若年者も同様の問題を抱えたことがあると理解したりすることは,安心につながり,自己受容のはじまりとなる可能性もある」と指摘し,「精神医学的分類を,人間の問題に対処する助けとなる道具」とみなし,それを「よくも悪くも」有効に用いる必要を説いている(p.272)。こうした著者の視点の暖かさには共感するところが多い。真の問題は用語そのものではなく,個人の差とわれわれがどう向き合っていくかという点にあるのだ。
このように,本書は単なるDSMの参考書ではなく,子どもやその周囲に向き合い,評価せざるを得ない時に「ちょうどよい塩梅」を教えてくれる良書である。
書評者: 滝沢 龍 (東大大学院准教授・臨床心理学)
本書を一読して,DSMが米国では精神医学・心理学だけでなく,司法・行政,そして学校・教育を含めた幅広い分野で共通言語になりつつある(もしくは,その実現をめざしている)ことがわかる。もちろんDSMにも長所・短所があり,その状況自体の善し悪しの議論はあるだろう。それは脇に置くとして,日本の学校・教育現場の現状とはかけ離れた次元にあることは確かだ。特に,米国の学校心理士が診断を行おうとしていることには驚きを覚えた。
原著者のお二人が心理学部教授,名誉教授であることから,米国の学校心理士への言及も多く,心理職が学校・教育領域のメンタルヘルスの中心的役割を担おうとする意気込みがうかがえる。心理学・教育学の教育を受けた後に,精神科医としての教育を受けた私にとっても,本書は勉強になる充実した内容であった。私が2012年から約3年間過ごした英国ロンドンでも,心理学出身の研究者・実践者としてメンタルヘルス分野をリードしている方々がたくさんいた。
一方,日本ではやっと17年に,国家資格として公認心理師法が施行され,こころの健康を守る専門家として,国民の期待に応えることのできる心理学領域の人材養成が行われようとしている。公認心理師は,メンタルヘルスにかかわる専門知識を学び,それらを共通言語として,すでに国家資格を持ち現場に入っている医師,看護師,精神保健福祉士などの専門家と対話できるようになることが求められる。学ぶべき知識は多岐にわたるが,DSMの知識も当然入ってくる。そうした意味では,本書に登場する米国の学校心理士はかなりハイレベルではあるが,学校・教育領域で活躍する日本の公認心理師のめざすべき一つのモデルとして役立つかもしれない。
児童・思春期を専門とする精神科医,心理士,福祉士といった専門家はもちろんのこと,現場に立ち会う学校教員,スクールカウンセラー,スクールソーシャルワーカー,当事者,家族らに広くメンタルヘルスへの理解が深まることは,関係者間での話し合いをスムーズにして,当事者本人へのケアが充実することにつながるはずである。こころの健康の問題は,発症してからでは治療に時間がかかることがわかっている。そして早期発見が回復を早めることも知られている。児童・思春期における主な生活の場の一つである「学校」におけるメンタルヘルスの知識・対策が普及・充実することは,そうした早い回復につながることになる。日本でもその実現を願ってやまない。
本書の日本語はこなれており,大変読みやすい訳になっている。これは翻訳を担当された各先生方のご尽力によるものだと思う。評者も本書発行の前年に,DSM-5を作成した米国精神医学会が当事者,家族,初級者向けに初めて本格的な解説書として編集した『精神疾患・メンタルヘルスガイドブック-DSM-5から生活指針まで』(医学書院)の訳本を上梓した。本書,拙本ともに,DSMへの理解を深め,こころの健康の問題に立ち向かう一助となると考える。子どもにかかわるメンタルヘルス関係者に広くお薦めしたい。
子どもに対するDSM診断への疑問に丁寧に答える解説書
書評者: 今村 芳博 (直方中村病院精神科)
本書は,米国の学校精神保健に携わる学校心理士を対象としており,精神的理由から学業に支障を持つ子どもに対する公的扶助や保険申請のために,DSM-5診断を行う際の助けになることを前提に書かれている。そのため,日米の違いを意識しつつ,DSM-5の原本も傍らに置きながら活用することとなる。
今回のDSMの改訂根拠の解説が続くため,精神医学にある程度知識のない一般の学校関係者にとって,本書は残念ながら難解であろう。しかし,あまたあるDSM-5解説本の中で,児童思春期精神科医療に携わる全ての職種にとってこれほど有益な書を私は知らない。例えば,注意欠如・多動症の発症年齢引き上げについての議論は,その年齢相応とする症状評価や成人への影響などが詳述されており,参考になる。
評者は精神科医として多少の臨床経験を積んではきたものの,子どもの精神症状の多彩さと変化にはいつも戸惑わされる。自らの不勉強と出来の悪さを棚に上げて言わせてもらえば,成書を読んでもどこかピンと来ないのは今でも変わりがない。「学校・地域との連携が大事」と聞いて,とりあえず担任や養護教諭とかかわりだしたはいいが,そううまくいくものではなかった。あまり疾患理解を強調すると「学校では対応できない」「他の子に悪影響がある」と不安を刺激してしまう。ケース会議をしても医療,教育,福祉,行政といった他職種に精神医学的知識を説明することもたやすいことではないし,今話題にしていることはどのモデルの視点なのかを理解して,バランスをとりながらその子への援助を考えていくことは,とても労力を必要とすることだ。
DSMは1980年のDSM-IIIから操作的診断基準となり,社会的影響力が強まった。診断の一致率と信頼性を高め,精神医学への理解の底上げに大いに有益であったことは間違いない。しかしその成り立ちから,複雑な人間の問題を過度に単純化し,年代差も含めて重要な個人差を無視しがちなところがあり,個別の臨床的治療のための診断を目的とするにはまだまだ発展途上のものだ。私が抱いていた疑問はそこに集約している。また,こうしたマニュアルは往々にして恣意的に運用され,結果が独り歩きしてしまう。よく言われるように過剰診断・過剰な治療,さらに商業主義的拡大として,反精神医学論議の格好の題材となっている。子どもに対してはなおさらのことで,そもそも発達途上の小児期に精神医学的診断を下すことに抵抗感が生まれるのは自然なことだ。
知的能力障害などの診断が偏見や差別につながることも重大な懸念だが,そのために名称変更が繰り返し行われてきたことは一時的な解決策にすぎないと,本書の著者らは鋭く指摘している。第5章の「知的能力障害のレッテル貼り」というコラムの中で,「彼らは学習は遅いが,適切な教育でより多くを学ぶことができる」という点で,むしろ以前の「精神遅滞」のほうが現象をより的確に表現しているとして,その変更を惜しんでいる(p.47)。
さらに第21章で,「しかし,言葉はまた安心感や理解を深めることにもなる。ある問題に名前をつけたり,他の若年者も同様の問題を抱えたことがあると理解したりすることは,安心につながり,自己受容のはじまりとなる可能性もある」と指摘し,「精神医学的分類を,人間の問題に対処する助けとなる道具」とみなし,それを「よくも悪くも」有効に用いる必要を説いている(p.272)。こうした著者の視点の暖かさには共感するところが多い。真の問題は用語そのものではなく,個人の差とわれわれがどう向き合っていくかという点にあるのだ。
このように,本書は単なるDSMの参考書ではなく,子どもやその周囲に向き合い,評価せざるを得ない時に「ちょうどよい塩梅」を教えてくれる良書である。
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