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ケアする人も楽になる
マインドフルネス&スキーマ療法 BOOK2

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認知行動療法を超えて効果がある2つのアプローチ——「マインドフルネス」と「スキーマ療法」をカウンセリング体験できます。BOOK1 はマインドフルネスが中心、BOOK2はスキーマ療法が中心。読み進めていけば、これらの技法が自然に理解できます。トラウマなどにより「感じる心」を閉ざしてしまった人、ネガティブな思考によって日常のささいな出来事でも極端に揺れてしまう人、そして日々感情を揺さぶられる援助専門職のあなたへ。
伊藤 絵美
発行 2016年09月判型:A5頁:200
ISBN 978-4-260-02841-7
定価 2,200円 (本体2,000円+税)

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ようこそBOOK2へ

BOOK1でマインドフルネスを学んで、
マミコさんはようやく自分の姿かたちがどうなっているかを
知ることができました。
その基礎の上に展開されるのが、スキーマ療法という高い山です。
さて、意を決して伊藤先生と一緒にゆっくり登っていくと、
やがて、あまりに深すぎて底の見えない谷が……。
マミコさん、ここが踏ん張りどころ!
その先には一体どんな風景が待っているのでしょう。

さあ、読者のみなさまも一緒にどうぞ!

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ようこそBOOK2へ

第1章 スキーマ療法 その1 自らのスキーマとモードを理解する
 1-1 「安全なイメージ」「安全な儀式」から始める
 1-2 ヒアリング-過去の自分に会いに行く
 1-3 早期不適応的スキーマのマップを作る
 1-4 スキーママップにもとづくモニタリングとマインドフルネス
 1-5 スキーマモードへの気づきとマインドフルネス
 1-6 「治療的再養育法」を通じてのセラピストとの関わり

第2章 スキーマ療法 その2 ヘルシーなスキーマとモードを手に入れる
 2-1 認知的ワークと対話のワーク
   -スキーマとの対話を通じて自分をいたわるヘルシーな認知を作る
 2-2 さまざまなやり方でモードワークを実践する
 2-3 ハッピースキーマとヘルシーモードを強めていく

第3章 マミコさんの新たな旅立ち
 3-1 マミコさんの回復
 3-2 新たな旅立ち

おわりに より深く学ぶために

著者紹介
索引

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もしもSMAPのマネージャーが伊藤絵美の『ケアする人も楽になるマインドフルネス&スキーマ療法』を読んだら (雑誌『精神看護』より)
書評者: 東畑 開人 (臨床心理士/十文字学園女子大学・講師)
◆ポサルとマインドフルネス

 マインドフルネスのことが気になっていた。仏教の瞑想由来だとか、Googleの社員が「心を鍛える」ためにやっているとか、ヨガ・スタジオで流行っているとか、入ってくる断片的な情報から、意識高い系の人がハマっている新手の怪しげな癒しではないかと疑っていたのだ。

 「怪しげ」となると、私は俄然、心を奪われてしまう。この前も、家族で済州島に旅行に行っていたのだが、気づけば家族からはぐれて、地元のまじない師「ポサル」の小屋に入り浸っていた。「ポサル」は「菩薩」から転じた名前らしく、ピンク色の照明の下には謎の仏像や神像がいっぱい飾られていたので、あまりに怪しくてゾクゾクした。細木数子に激似のポサルに怪しい占いをしてもらって、そのあと世間話に興じていたら、あっという間に帰りの飛行機の時間になった。

 話が完全にそれた。マインドフルネスのことだ。聞けばマインドフルネスって、認知行動療法の最新成果だという。「科学的」を標榜している認知行動療法が、なんで仏教とくっつくんだ! と余計に意味がわからない。

 マインドフルネス、そして認知行動療法って一体なんなんだ? そう思っていた時に、認知行動療法の「臨床達人」と呼ばれる伊藤絵美さんが書いた本を手に入れたので、さっそく読んでみる。謎は解けるのだろうか。

◆ハイチュウと感情労働……マインドフルネス超解釈

 この本で伊藤さんは、「超入門」と称して、わずか13ページでマインドフルネスを説明しきるという偉業を成し遂げた後、マミコさんという生きづらさをかかえた看護師さんとのセラピーを丁寧に描いている。そこで私も「超解釈」させてもらおうと思う。

 伊藤さん曰く、マインドフルネスとはつまるところ「セルフモニタリング」の方法で、やわらかくいうと「自分で自分を観察すること」だ。

 そのことをよく表しているのが、マミコさんも挑戦していたレーズン・エクセサイズだ。読者の皆さんも手元にレーズンがあればやってみてほしい。私の周りにはレーズンなんて気の利いたものはないので、ハイチュウでやってみる(ちなみに、伊藤さんはなぜかクサヤでやっていた、変な人だ)。

 ハイチュウを食べる時に、食べている自分の体験に注意を向けてみるのだ。

 「ハイチュウって白いな……口に入れると最初は固いな……あ、歯に絡みついた……うわぁ、甘ぁい……グニョッてするぅ」

 そう、一瞬一瞬の自分をひたすら観察するのがマインドフルネスで、そうやって注意を維持できている時をマインドフルな状態という。

 「唾が出てきたなぁ……うーん、うまぁい……あれ? ……やべ! ……ハイチュウが……ない!」

 最後、私はつい「マインドレス」になって、ハイチュウを飲みこんでしまっていたのだ。これはいけない。ハイチュウを食べているのは自分なのに、自分が勝手に作動してしまっているのだ。

 マミコさんの苦しさもそういうところにあった。気づけば怒っていたり、自分を責めていたり、マインドレスに自分と周りを傷つけていたのだ。だから、マミコさんはマインドフルネスによって、そういう自分を観察し、しっかり見てみようとする。

 すると不思議なことに、そうやって自分を振り回している自分と距離がとれる。そして、そういう自分を受け止める余裕が生まれてくる。

 「なるほど! 自分を見ることは、自分を制御することでもあるわけだ!」と得心がいって、私はハイチュウをマインドフルにねぶる修行を続けていた。すると、ふと思い当った。マインドフルネスがこれだけウケているのは、それだけ私たちの毎日がマインドレスだからではないだろうか?

 そう、私たちはふだん自分の気持ちを押し殺して仕事をしている。看護師さんなんて特にそうだ。恋人や家族とうまいこといかなくて悲しい時でも、患者さんに会えば「だいぶ、元気になってきましたね!」と笑顔で声をかける。

 そういう働き方を、社会学では「感情労働」という。私たちは日々、親切な自分、元気な自分をつくり出し、それを消費者に提供しているということだ。ウラの感情をどこかに押しやり、オモテに適切な感情をつくり出し、自分を装わなくてはならない。

 そういうことを続けているうちに、ウラにあったはずの感情は無視され、省みられなくなりがちだ。つまり、マインドレスになる。それがいつか逆襲に転じる。オモテの笑顔が、傷つき苦しんでいるけど気づかれないウラに食い破られてしまうのだ。SMAPみたいなものだ。

 オモテ向き「笑顔で元気」という感情を提供してくれていたSMAPは、ウラに深刻な傷つきをかかえていた。それがあのお通夜のような謝罪放送で噴出して、SMAPを壊してしまった。酷使された感情は、ケアされないでいるうちに疲弊しきって、うつになり、暴走してしまうのだ。

 だから、マインドフルネスなのだろう。マインドフルネスは、オモテを装う感情労働の時代に、無視されやすいウラに注意を向け、ケアする方法だからこそ、これだけ流行しているのではないだろうか。

 一瞬、答えが出かかった気がしたのだけど、マインドフルにページをめくっていると、この本に続きがあることに気がついた。主人公であるマミコさんは、マインドフルネスでは十分に癒されず、さらなる癒しに挑戦するのだ。そう、なんとこの本にはBOOK2があった(なんだか村上春樹みたいだ)。

◆心のマネージャー……スキーマ療法超解釈

 マミコさんの「人とまともにかかわれない」という生きづらさは、マインドフルネスだけでは解消されなかった。マミコさんは「感情を遮断する」ことで自分を守ってきた人だったから、自分の深い部分に触れることが難しかったのだ。そこで、伊藤さんはスキーマ療法を導入する。それは認知行動療法の「進化系」だという。おお! また新しい癒しが現れた!

 超解説しよう。スキーマ療法とは、幼少期に身についた自分の偏ったものの見方=スキーマ(「見捨てられる」「自分はダメなやつだ」など)を観察して手放し、その代わりにヘルシーな大人スキーマを手に入れようとする治療法だ。この時、カウンセラーがそういうヘルシーな大人スキーマを体現していて、それが徐々にマミコさんに移植されていく。だから、治療場面では濃厚な疑似的親子関係がつくられる。伊藤さんがママ代わりになって、マミコさんの傷ついた子どもの心を癒すのだ。

 こう書くと、かなり強烈だ。これはちょっと洗脳なんじゃないの? と思えるかもしれない。だけど、ここに伊藤さんの臨床達人ぶりがある。伊藤さんはそういう強烈な治療に持ち込むまでに、認知行動療法やマインドフルネスで丹念に仕込みを行い、その治療を行えるだけのマミコさんの力を育てていた。普通の治療者だと、疑似的親子関係になるとちょっとおかしくなるかもしれないけど、伊藤さんはスキーマ療法にあっても絶対に現実を見失わない。実はこの本の一番の読みどころは、ここだと思う。伊藤さんは、丁寧に丁寧に治療をマネジメントしていくのだ。

 そう、伊藤さんはきわめて有能なマネージャーなのだ。そしてそれこそがヘルシーな大人スキーマの特徴でもある。自分をよく観察していて、苦しいことがあったらきちんとコーピングする。偏ったスキーマが出てきても、きめ細やかな注意を向けて、その偏りが少しでも楽になるように助力する。それだけじゃない。ヘルシーな大人スキーマは、マミコさんの「ママ」になる。マミコさんを心底心配し、得られなかった愛情体験を充てんする。超有能にして、愛情深いマネージャー。どこかで聞いたことがある。

 あ! SMAPのマネージャーI女史ではないか! 彼女は仕事を仕切り、SMAPのオモテを輝かせると同時に、SMAPの母親代わりとしてウラを支えていたのだ(全部ワイドショー情報ですが)。

 ここに私の超解釈が生まれる。マインドフルネスもスキーマ療法も、自分で自分を見て、そしてうまくマネジメントをしていこうとする治療法だ。だから、それはセルフモニタリングを重視する認知行動療法の進化系なのだろう。ということは、認知行動療法って、心の中に自分のためのマネージャーを育てる治療法なのではないだろうか?

 これは突飛な超解釈なのだと思うけど、図らずもマミコさんの癒され方はそれを支持してくれる。

◆「もしエミ」……認知行動療法の癒し

 さまざまな心の治療はそれぞれ効果的だけど、私はそれぞれに違う治癒をもたらすと考えている。心の治癒は、体の治癒とは違って、生き方とかかわるからだ。

 たとえばポサルだ。済州島のポサルはもともと心身を深く病んでいたのだが、別のポサルから治療を受けて、癒された。すると、彼女はポサルとして生きていくことになった。心の治療は、その人の生き方にたしかに痕跡を残すのだ。

 マミコさんの場合、伊藤さんの心の治療でたしかに癒され、人生に希望を持つようになった。すると、彼女は他のナースを支える「主任」として頑張っていこうとする。それはマネージャーだ。心のマネージャーをつくる治療は、マネージャーとしての生き方をもたらしたのだ。そこにマミコさんの癒しがあった(精神分析だと親密な人間関係にもう少し価値を置くように思う)。

 感情労働の時代、私たちはひとりひとりが自分の感情を売る小さな企業であり、小さなSMAPだ。その企業が生き延びていくためには、有能な管理職=マネージャーが必要だ。情勢を読んで判断し、士気が高まるようサポートし、自分をマネジメントしていくのだ。

 だからこそ、認知行動療法は今、社会から注目を浴びているのだろう。そういうキビシイ時代に生き延びていくために、私たちは自分のための心のマネージャーを必要としているということだ。

 だから、こういう本を書いたら超売れるのではないかと思う。伊藤さんに便乗してやろうと思いついた。

『もしもSMAPのマネージャーが伊藤絵美の「ケアする人も楽になるマインドフルネス&スキーマ療法」を読んだら』

 「もしエミ」、これはミリオンセラーだ、とニヤけながら、ハイチュウをマインドフルに噛んでいるのだけど、やっぱり途中でマインドレスになって飲みこんでしまった。

(『精神看護』2017年1月号掲載)

(この書評は,『ケアする人も楽になる マインドフルネス&スキーマ療法』 の BOOK1 と BOOK2(本書) の2冊について書かれたものです)
「モグラ叩き医療者」から脱するために
書評者: 松本 俊彦 (国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所)
◆30代前半看護師——抜群のキャラ設定

 読みやすい本だ。カラー刷り,イラスト入り,平易な文章のおかげで,とにかくとっつきがよい。何よりも,架空クライエント「マミコさん」と著者とが繰り広げる「自分探し」の物語が,読む者をぐいぐい牽引する。

 「マミコさん」のキャラ設定もいい。30代前半,痛みと寂しさに満ちた疾風怒濤の10代・20代を生き延び,現在は看護師としての職を得ている。ただ,仕事こそきちんとしているものの,傷つくことへの恐れから,周囲との感情的交流から距離を置いている。

 当然,内面は穏やかではない。「助けてほしい,受け止めてほしい」と「しっかりしなきゃ,人に頼っちゃダメ」という矛盾する感情が激しく相克し,ときおり襲う強い感情を自傷や過食・嘔吐で抑えこみながら,なんとか心の均衡を保っている感じだ。

◆問題行動の根っこを丁寧に扱う

 「マミコさん」のようなケースは,精神科臨床・心理臨床ではまったく珍しくないが,実は,私たちは往々にしてその扱いに失敗している。彼らの主訴は,「自分らしい,楽な生き方をしたい」「もっと自分を好きになりたい」なのに,なぜか援助者側の意識は,自傷のような目先の問題に集中し,問題解決志向的な治療を始めてしまうからだ。

 そして案の定,「苦痛を緩和する対処行動」を取り除くだけの治療は,彼らの「生きづらさ」を強め,自傷が止まっても今度は過食・嘔吐が悪化する,といった「モグラ叩き」状態を招く。気づくと,「こじらせ系クライエント」の一丁上がり——悲劇だ。

 著者イチオシのスキーマ療法は違う。さまざまな問題行動の根っこにあるもの,子ども時代からずっと疼いてきた問題を扱う治療法だ。

 といっても,いきなり心の奥へと手を突っ込むのではない。まずは丁寧に信頼関係を構築し,本格的な治療に入る前に,当座の武器として,「応急処置」と名づけられた対処スキル,それからマインドフルネスを授ける。これらは,治療経過中の深刻な自傷からクライエントを守るためのものだ。

◆応急処置は全医療者必読!

 本書は,「マインドフルネスって何?」,あるいは「スキーマ療法ってどんな治療法なの?」という疑問にドンピシャで応えてくれる。だが,「マインドフルネスにもスキーマ療法にもまったく関心がない」という方にも読んでほしいのだ。

 特に BOOK1 「応急処置」のセクション(第3章-2)は全医療者必読だ。ただ「自傷をやめろ」と説教するのではなく,自傷衝動に対処し,被害を最小化する方策を考える(=個人レベルでの「ハームリダクション」といってよい),という医療者本来のスタンスを見直す機会となるはずだ。

 ちなみに,本書の所どころで発揮される「笑い」がすごい。特にマインドフルネスの説明として,「トイレでうんこを流す」を例に挙げたくだりは,評者自身,腹筋崩壊的大爆笑に見舞われつつも,初めてマインドフルネスの何たるかを知ることができた。

 いろいろな意味でありがたい本だ。

(この書評は,『ケアする人も楽になる マインドフルネス&スキーマ療法』 の BOOK1 と BOOK2(本書) の2冊について書かれたものです)

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