臨床薬理学 第4版
日本臨床薬理学会が総力を挙げて編む、待望のテキスト改訂第4版!
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薬物療法の重要性がますます高まり、新しい知見が日々もたらされる領域だからこそ、コアとなる知識をこの1冊に凝縮。必要事項を網羅しつつ情報は精選し、よりわかりやすくなった。医師、医学生、研修医はもちろん、看護師、薬剤師、臨床検査技師、製薬企業関係者まで、臨床薬理学に関わる医療関係者の定番書。臨床薬理専門医/認定薬剤師認定試験受験者には必携書!
編集 | 一般社団法人 日本臨床薬理学会 |
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責任編集 | 小林 真一 / 長谷川 純一 / 藤村 昭夫 / 渡邉 裕司 |
発行 | 2017年11月判型:B5頁:460 |
ISBN | 978-4-260-02873-8 |
定価 | 8,800円 (本体8,000円+税) |
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序文
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刊行によせて(渡邉裕司)/第4版の序(長谷川純一)
刊行によせて
臨床薬理学は,薬物とヒトとのあらゆる側面に関与する科学と定義され,その領域は,適正な個別化薬物治療の礎となる薬物動態・薬力学・薬理遺伝学や薬効評価指標の探索,医薬品候補となるシーズの発見から患者のもとに届けるまでの全ての相での医薬品開発とそれに関わる規制科学,さらには個の治療と集団のヘルスケアにおける医薬品のリスク・ベネフィット分析にまで及びます.また,近年の分子生物学あるいは細胞治療・再生医療の進歩は,臨床薬理学の対応範囲をさらに拡大するものとなっています.
このような変化に対応し,教科書として必要な情報を網羅するため,この度,総勢64名の執筆者の協力のもと『臨床薬理学(第4版)』が完成しました.諸領域の知見が積み上げられ,情報量が増える中で,第3版より総ページ数がほぼ変わらないボリュームでまとめられたのは,諸先生方が,学ぶ側に寄り添って,必要な事項を精選してご執筆下さった結果と感じています.
英国では,NHS(国民保健サービス)において臨床薬理学を中核分野として再構築することが,英国における医療の将来のために極めて重要であることが確認されました.わが国でも,国が政策として掲げる医療イノベーションの実現に向けて,臨床薬理学に期待される役割は極めて大きくなっています.さらに,臨床現場において過剰な医薬品使用を回避し,適正な薬物治療を実現することも臨床薬理学の大切なミッションです.本書を通じて,このような幅広い領域を担当する臨床薬理学について理解を深めていただければ幸いです.
刊行にあたり,編集者・執筆者の皆様にお礼申し上げるとともに,医学書院の方々の熱意とたゆまぬ支援に心から感謝いたします.
2017年10月
一般社団法人 日本臨床薬理学会 理事長
渡邉裕司
第4版の序
医療における薬物療法の果たす役割は非常に大きく,近年の医薬品開発の驚異的な進展によりますますその重みを増している.特に分子標的薬などの登場は,これまで不治と思われていた疾患すら克服したかのような勢いである.個々の患者の疾患,病態に合わせて,有効性と安全性が証明された薬物を,最適な用法・用量で使用し,最大の効果が得られるように,科学的,合理的な薬物療法を実践することが重要である.薬物治療の個別化にはテイラーメイド治療とかプレシジョンメディスンなど呼び名は色々あるものの,臨床薬理学の目指す治療の一形態である.また,この治療手段となる医薬品開発において,国家的体制整備が進められ,開発環境が大きく改善している一方,倫理的課題も次々と提起されている.改めて基本的原則を踏まえ対応していく必要がある.
『臨床薬理学』は初版から日本臨床薬理学会挙げて編纂され,学部教育のみならず,臨床薬理専門医,あるいは認定薬剤師,さらに認定CRCのための教科書としての性格を帯びている.これまで同様,今回の構成も,これらの受験のためのカリキュラムとなっていることを付言したい.実際,本書の改訂は,日本臨床薬理学会の専門医制度委員会における要望に端を発している.すなわち,新薬開発の進展による重要な薬物の出現や,治療法をキャッチアップして行くには改訂スピードを速くしていく必要があることや,教科書という性格から,全ての分野の治療薬を網羅すべきであるという点である.早期の改訂に関し,当時の大橋京一理事長,理事会,続く渡邉裕司理事長の下で学会としての総意が形成された.医学書院と改訂について話し合う中でこれまでどおりの責任編集体制を継続することを決めるとともに,初版から代表として編集に責任を持って来られた中野重行先生からこの教科書への思いの丈を伺い,継承・発展させることを了解いただいた.著者には定評のある実力者ばかりでなく,実践的で新進の先生にもお願いした.
第3版からの変更点として,臨床研究の科学性,倫理性などを医薬品開発などと同じ章にまとめ,薬物動態学を独立させるのではなく,薬理作用と動態の基本,治療学における薬物動態などできるだけ重複を避け連続して読めるよう工夫した.割愛した項目もあるが,臨床研究の信頼性確保に関するモニタリング・監査の項や,インフォームド・アセントなどの説明を新たに設けた.また上述のように血栓症,痛風・高尿酸血症,薬物乱用・依存症,腎・泌尿器疾患など多方面の治療薬を網羅したほか,ジェネリック医薬品,薬害問題などの項を加え,教科書としての充実に努めた.さらに,新たな記載方法など重要な教育課題となっている処方せんの書き方も追加し,学部教育のモデル・コア・カリキュラムに配慮した.これらは,読みやすく利用しやすくするためのスリム化と両立させるのが難しい問題もあったが,ボリュームを何とか目標内に収めていただいた.
これまでの版同様領域によって統一が困難な用語がある.基礎薬理学の教科書であれば薬物の使用目的である主作用と,それ以外の利点にも欠点にもなる作用である副作用を区別できるが,臨床試験や一般臨床において,法律的な用語としては有害な,好ましくない作用を副作用と表現する.たとえば,降圧薬の添付文書には,血圧低下,めまい,ふらつき,立ちくらみなど,主作用が過度に現れた場合の症状も副作用として記載されている.本書では薬理学的な箇所では有害反応という言葉を用い,それ以外の部分では副作用を使用しているが,その取り扱い方を念頭に置いて理解いただきたい.
予定より発刊が大幅に遅れたうえ,新たな法制などに手が届かない部分はあるが,次回の早めの改訂に期待するとともに,付録部分や学会サイトに掲載の情報などを参照いただきたい.本書が臨床薬理専門医や認定薬剤師試験のみならず,全ての領域の専門医や,学部学生のための教科書として利用されることを期待したい.最後に本書の改訂に際し,助言いただいた専門医制度委員の諸先生,執筆者の方々,並びに忍耐強くサポートいただいた医学書院の志澤真理子氏に感謝の意を表したい.
2017年10月
編集者を代表して 長谷川純一
刊行によせて
臨床薬理学は,薬物とヒトとのあらゆる側面に関与する科学と定義され,その領域は,適正な個別化薬物治療の礎となる薬物動態・薬力学・薬理遺伝学や薬効評価指標の探索,医薬品候補となるシーズの発見から患者のもとに届けるまでの全ての相での医薬品開発とそれに関わる規制科学,さらには個の治療と集団のヘルスケアにおける医薬品のリスク・ベネフィット分析にまで及びます.また,近年の分子生物学あるいは細胞治療・再生医療の進歩は,臨床薬理学の対応範囲をさらに拡大するものとなっています.
このような変化に対応し,教科書として必要な情報を網羅するため,この度,総勢64名の執筆者の協力のもと『臨床薬理学(第4版)』が完成しました.諸領域の知見が積み上げられ,情報量が増える中で,第3版より総ページ数がほぼ変わらないボリュームでまとめられたのは,諸先生方が,学ぶ側に寄り添って,必要な事項を精選してご執筆下さった結果と感じています.
英国では,NHS(国民保健サービス)において臨床薬理学を中核分野として再構築することが,英国における医療の将来のために極めて重要であることが確認されました.わが国でも,国が政策として掲げる医療イノベーションの実現に向けて,臨床薬理学に期待される役割は極めて大きくなっています.さらに,臨床現場において過剰な医薬品使用を回避し,適正な薬物治療を実現することも臨床薬理学の大切なミッションです.本書を通じて,このような幅広い領域を担当する臨床薬理学について理解を深めていただければ幸いです.
刊行にあたり,編集者・執筆者の皆様にお礼申し上げるとともに,医学書院の方々の熱意とたゆまぬ支援に心から感謝いたします.
2017年10月
一般社団法人 日本臨床薬理学会 理事長
渡邉裕司
第4版の序
医療における薬物療法の果たす役割は非常に大きく,近年の医薬品開発の驚異的な進展によりますますその重みを増している.特に分子標的薬などの登場は,これまで不治と思われていた疾患すら克服したかのような勢いである.個々の患者の疾患,病態に合わせて,有効性と安全性が証明された薬物を,最適な用法・用量で使用し,最大の効果が得られるように,科学的,合理的な薬物療法を実践することが重要である.薬物治療の個別化にはテイラーメイド治療とかプレシジョンメディスンなど呼び名は色々あるものの,臨床薬理学の目指す治療の一形態である.また,この治療手段となる医薬品開発において,国家的体制整備が進められ,開発環境が大きく改善している一方,倫理的課題も次々と提起されている.改めて基本的原則を踏まえ対応していく必要がある.
『臨床薬理学』は初版から日本臨床薬理学会挙げて編纂され,学部教育のみならず,臨床薬理専門医,あるいは認定薬剤師,さらに認定CRCのための教科書としての性格を帯びている.これまで同様,今回の構成も,これらの受験のためのカリキュラムとなっていることを付言したい.実際,本書の改訂は,日本臨床薬理学会の専門医制度委員会における要望に端を発している.すなわち,新薬開発の進展による重要な薬物の出現や,治療法をキャッチアップして行くには改訂スピードを速くしていく必要があることや,教科書という性格から,全ての分野の治療薬を網羅すべきであるという点である.早期の改訂に関し,当時の大橋京一理事長,理事会,続く渡邉裕司理事長の下で学会としての総意が形成された.医学書院と改訂について話し合う中でこれまでどおりの責任編集体制を継続することを決めるとともに,初版から代表として編集に責任を持って来られた中野重行先生からこの教科書への思いの丈を伺い,継承・発展させることを了解いただいた.著者には定評のある実力者ばかりでなく,実践的で新進の先生にもお願いした.
第3版からの変更点として,臨床研究の科学性,倫理性などを医薬品開発などと同じ章にまとめ,薬物動態学を独立させるのではなく,薬理作用と動態の基本,治療学における薬物動態などできるだけ重複を避け連続して読めるよう工夫した.割愛した項目もあるが,臨床研究の信頼性確保に関するモニタリング・監査の項や,インフォームド・アセントなどの説明を新たに設けた.また上述のように血栓症,痛風・高尿酸血症,薬物乱用・依存症,腎・泌尿器疾患など多方面の治療薬を網羅したほか,ジェネリック医薬品,薬害問題などの項を加え,教科書としての充実に努めた.さらに,新たな記載方法など重要な教育課題となっている処方せんの書き方も追加し,学部教育のモデル・コア・カリキュラムに配慮した.これらは,読みやすく利用しやすくするためのスリム化と両立させるのが難しい問題もあったが,ボリュームを何とか目標内に収めていただいた.
これまでの版同様領域によって統一が困難な用語がある.基礎薬理学の教科書であれば薬物の使用目的である主作用と,それ以外の利点にも欠点にもなる作用である副作用を区別できるが,臨床試験や一般臨床において,法律的な用語としては有害な,好ましくない作用を副作用と表現する.たとえば,降圧薬の添付文書には,血圧低下,めまい,ふらつき,立ちくらみなど,主作用が過度に現れた場合の症状も副作用として記載されている.本書では薬理学的な箇所では有害反応という言葉を用い,それ以外の部分では副作用を使用しているが,その取り扱い方を念頭に置いて理解いただきたい.
予定より発刊が大幅に遅れたうえ,新たな法制などに手が届かない部分はあるが,次回の早めの改訂に期待するとともに,付録部分や学会サイトに掲載の情報などを参照いただきたい.本書が臨床薬理専門医や認定薬剤師試験のみならず,全ての領域の専門医や,学部学生のための教科書として利用されることを期待したい.最後に本書の改訂に際し,助言いただいた専門医制度委員の諸先生,執筆者の方々,並びに忍耐強くサポートいただいた医学書院の志澤真理子氏に感謝の意を表したい.
2017年10月
編集者を代表して 長谷川純一
目次
開く
第1章 臨床薬理学の概念と定義
A 臨床薬理学の基本的な考え方
第2章 臨床研究と医薬品開発
A 臨床研究総論
B 医薬品開発と臨床試験
第3章 薬物作用と動態の基本
A 生理活性物質と病態
B 薬物の作用メカニズム
C 薬物動態の基本
第4章 臨床薬物治療学
A 治療学における臨床薬物動態学
B 薬物動態学理論の薬物投与計画への応用
C 薬物送達システム(DDS)
D 薬物代謝酵素とトランスポーター
E 薬物相互作用
F 薬物有害反応
G 薬理遺伝学
H 時間薬理学
I 病態時における薬物療法
J EBMの実践
K 治療計画へのアドヒアランス(コンプライアンス)
L 処方せんの書き方
第5章 薬物治療学各論
A 循環器疾患治療薬
B 消化管疾患治療薬
C 呼吸器疾患治療薬
D 代謝・内分泌疾患治療薬
E 精神疾患治療薬
F 神経疾患治療薬
G 腎・泌尿器科疾患治療薬
H 抗炎症薬・抗リウマチ薬
I 鎮痛薬,頭痛薬
J 感染症治療薬
K 抗悪性腫瘍薬
L 免疫抑制薬
M 急性薬物中毒治療
第6章 医薬品開発・薬物治療の法的側面
A 医薬品添付文書等医薬品情報の活用
B 薬事行政
C 健康保険制度
D 医薬品副作用被害救済制度
付録1 世界医師会ヘルシンキ宣言 人間を対象とする医学研究の倫理的原則
付録2 人を対象とする医学系研究に関する倫理指針
付録3 内服薬処方せんの記載方法
索引
A 臨床薬理学の基本的な考え方
第2章 臨床研究と医薬品開発
A 臨床研究総論
B 医薬品開発と臨床試験
第3章 薬物作用と動態の基本
A 生理活性物質と病態
B 薬物の作用メカニズム
C 薬物動態の基本
第4章 臨床薬物治療学
A 治療学における臨床薬物動態学
B 薬物動態学理論の薬物投与計画への応用
C 薬物送達システム(DDS)
D 薬物代謝酵素とトランスポーター
E 薬物相互作用
F 薬物有害反応
G 薬理遺伝学
H 時間薬理学
I 病態時における薬物療法
J EBMの実践
K 治療計画へのアドヒアランス(コンプライアンス)
L 処方せんの書き方
第5章 薬物治療学各論
A 循環器疾患治療薬
B 消化管疾患治療薬
C 呼吸器疾患治療薬
D 代謝・内分泌疾患治療薬
E 精神疾患治療薬
F 神経疾患治療薬
G 腎・泌尿器科疾患治療薬
H 抗炎症薬・抗リウマチ薬
I 鎮痛薬,頭痛薬
J 感染症治療薬
K 抗悪性腫瘍薬
L 免疫抑制薬
M 急性薬物中毒治療
第6章 医薬品開発・薬物治療の法的側面
A 医薬品添付文書等医薬品情報の活用
B 薬事行政
C 健康保険制度
D 医薬品副作用被害救済制度
付録1 世界医師会ヘルシンキ宣言 人間を対象とする医学研究の倫理的原則
付録2 人を対象とする医学系研究に関する倫理指針
付録3 内服薬処方せんの記載方法
索引
書評
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臨床家にも使いやすい実用的な構成の参考書
書評者: 楠岡 英雄 (独立行政法人国立病院機構理事長)
本書『臨床薬理学(第4版)』は,日本臨床薬理学会が総力を挙げて編集・執筆した書籍である。臨床薬理学は,医薬品の開発とそれにかかわる規制科学,薬物の特性決定やそれを用いての治療に必要な薬物動力学,疾患・個人における医薬品を用いた治療学,さらには,薬理遺伝学や集団における医薬品に関するリスク・ベネフィット評価までも含む,極めて広範な領域を対象とする科学分野である。本書はこの広範な対象を,内容を欠くことなくコンパクトにまとめており,臨床薬理学を学ぼうとする方々に必須の教科書であるだけでなく,医師・薬剤師のみならず他の医療職が臨床薬理学的事項を必要に応じ参照する際に有益な参考書でもある。
これまで創薬は主に製薬企業で行われてきたが,生活習慣病などを対象とするブロックバスター的な医薬品はほぼ開発し尽くされており,現在の創薬対象は難病などのアンメットメディカルニーズへと移っている。その結果,世界的にアカデミアにおける創薬の役割が増大しつつあり,わが国においても日本医療研究開発機構(AMED),橋渡し研究戦略的推進プログラム拠点,臨床研究中核病院などが中心となってアカデミア創薬が進められている。その中で医師主導治験や臨床研究法に基づく特定臨床研究は重要な位置を占めているが,いずれにおいても臨床薬理学的知識は必須である。また,臨床研究法に基づく認定臨床研究審査委員会においては,毒性学,薬力学,薬物動態学などの専門的な知識を有する臨床薬理学の専門家を技術専門委員に擁することが求められている。このように,これまで臨床における日常診療に従事していた方も,今後,医薬品の臨床試験などにかかわる機会も増えると考えられ,その際には本書が助けになると思われる。
また,日常臨床において治療戦略の構築には薬剤の有効性・安全性を含めた薬理作用の理解が必須であるが,本書は疾患領域ごとに臨床薬理事項が整理されており,臨床家にとっても使いやすい実用的な構成となっている。
このように,本書は,日常臨床をはじめいろいろな場面で必要とされる臨床薬理学に関する諸事項を効率的にまとめたものとなっており,座右に置いておきたい一冊である。
臨床研究でも重要な臨床薬理学のスタンダードブック
書評者: 大内 尉義 (虎の門病院院長)
日本臨床薬理学会の重鎮であられる,小林真一,長谷川純一,藤村昭夫,渡邉裕司の4教授責任編集『臨床薬理学(第4版)』が上梓された。臨床薬理学というと,「ADME」註)という言葉がすぐ思い浮かぶように,薬物の体内動態に関する学問というイメージが強い。もちろん,薬物動態は臨床薬理学の重要な一分野であるが,冒頭の「刊行によせて」において,渡邉教授が「臨床薬理学は,薬物とヒトとのあらゆる側面に関与する科学」であると述べているように,本書では,薬物の薬理作用とその機序といった基礎的な分野から,薬物動態,薬力学,実臨床における薬物の使い方,処方箋の書き方,そして新薬の開発プロセス,薬事行政に至るまで,臨床医,薬剤師,その他の医療スタッフが理解しておくべき臨床薬理学の多岐にわたる内容が丁寧に記述されている。二色刷りで読みやすく,本書はまさに日本臨床薬理学会が総力を挙げて作られた臨床薬理学のスタンダードブックといえる。
言うまでもなく,薬物療法は医療の基本である。医学生が学ぶ標準カリキュラムである医学教育モデル・コア・カリキュラムにおいては,「生体と薬物」の項に,主に薬物動態,薬力学に関する履修内容が記載されており,また「加齢と老化」の項に,薬物動態の加齢変化,polypharmacyの記載がされているが,臨床薬理学の体系的な学習という点ではまだまだ不十分と思われる。厚労省による「臨床研修の到達目標」においては薬物療法に関する独立した項目はない。このような状況下で,医療の基本である薬物療法を,医学生,医師(特に研修医),薬学生,薬剤師の方々が深く学ぶために,本書は大いに役立つであろう。さらに,看護学生,看護師など,全ての職種の医療スタッフが薬物療法の基本を学ぶのに有用であることは申すまでもない。
折しも,2018年4月に施行された臨床研究法およびその施行規則では,特定臨床研究の審査を担当する認定臨床研究審査委員会に「毒性学,薬力学,薬物動態学等の専門的な知識を有する臨床薬理学の専門家」を配置しなければならないこととなった。臨床薬理学は,臨床研究を進める上で,ますます重要な位置を占めることになるわけであり,この時代の流れからも,本書の発刊は極めて時宜を得たものになった。
臨床薬理学の全ての内容を盛り込んだ本書であるが故に,日常の持ち運びにはやや難がある。今後,本書のエッセンスをまとめた簡便なハンドブックがあれば,と思うのは評者だけであろうか。
註)吸収(absorption; A),分布(distribution;D),代謝(metabolism;M),排泄(excretion;E)の頭文字をとったもので,薬物の体内動態を理解する上での基本的な概念である。
書評者: 楠岡 英雄 (独立行政法人国立病院機構理事長)
本書『臨床薬理学(第4版)』は,日本臨床薬理学会が総力を挙げて編集・執筆した書籍である。臨床薬理学は,医薬品の開発とそれにかかわる規制科学,薬物の特性決定やそれを用いての治療に必要な薬物動力学,疾患・個人における医薬品を用いた治療学,さらには,薬理遺伝学や集団における医薬品に関するリスク・ベネフィット評価までも含む,極めて広範な領域を対象とする科学分野である。本書はこの広範な対象を,内容を欠くことなくコンパクトにまとめており,臨床薬理学を学ぼうとする方々に必須の教科書であるだけでなく,医師・薬剤師のみならず他の医療職が臨床薬理学的事項を必要に応じ参照する際に有益な参考書でもある。
これまで創薬は主に製薬企業で行われてきたが,生活習慣病などを対象とするブロックバスター的な医薬品はほぼ開発し尽くされており,現在の創薬対象は難病などのアンメットメディカルニーズへと移っている。その結果,世界的にアカデミアにおける創薬の役割が増大しつつあり,わが国においても日本医療研究開発機構(AMED),橋渡し研究戦略的推進プログラム拠点,臨床研究中核病院などが中心となってアカデミア創薬が進められている。その中で医師主導治験や臨床研究法に基づく特定臨床研究は重要な位置を占めているが,いずれにおいても臨床薬理学的知識は必須である。また,臨床研究法に基づく認定臨床研究審査委員会においては,毒性学,薬力学,薬物動態学などの専門的な知識を有する臨床薬理学の専門家を技術専門委員に擁することが求められている。このように,これまで臨床における日常診療に従事していた方も,今後,医薬品の臨床試験などにかかわる機会も増えると考えられ,その際には本書が助けになると思われる。
また,日常臨床において治療戦略の構築には薬剤の有効性・安全性を含めた薬理作用の理解が必須であるが,本書は疾患領域ごとに臨床薬理事項が整理されており,臨床家にとっても使いやすい実用的な構成となっている。
このように,本書は,日常臨床をはじめいろいろな場面で必要とされる臨床薬理学に関する諸事項を効率的にまとめたものとなっており,座右に置いておきたい一冊である。
臨床研究でも重要な臨床薬理学のスタンダードブック
書評者: 大内 尉義 (虎の門病院院長)
日本臨床薬理学会の重鎮であられる,小林真一,長谷川純一,藤村昭夫,渡邉裕司の4教授責任編集『臨床薬理学(第4版)』が上梓された。臨床薬理学というと,「ADME」註)という言葉がすぐ思い浮かぶように,薬物の体内動態に関する学問というイメージが強い。もちろん,薬物動態は臨床薬理学の重要な一分野であるが,冒頭の「刊行によせて」において,渡邉教授が「臨床薬理学は,薬物とヒトとのあらゆる側面に関与する科学」であると述べているように,本書では,薬物の薬理作用とその機序といった基礎的な分野から,薬物動態,薬力学,実臨床における薬物の使い方,処方箋の書き方,そして新薬の開発プロセス,薬事行政に至るまで,臨床医,薬剤師,その他の医療スタッフが理解しておくべき臨床薬理学の多岐にわたる内容が丁寧に記述されている。二色刷りで読みやすく,本書はまさに日本臨床薬理学会が総力を挙げて作られた臨床薬理学のスタンダードブックといえる。
言うまでもなく,薬物療法は医療の基本である。医学生が学ぶ標準カリキュラムである医学教育モデル・コア・カリキュラムにおいては,「生体と薬物」の項に,主に薬物動態,薬力学に関する履修内容が記載されており,また「加齢と老化」の項に,薬物動態の加齢変化,polypharmacyの記載がされているが,臨床薬理学の体系的な学習という点ではまだまだ不十分と思われる。厚労省による「臨床研修の到達目標」においては薬物療法に関する独立した項目はない。このような状況下で,医療の基本である薬物療法を,医学生,医師(特に研修医),薬学生,薬剤師の方々が深く学ぶために,本書は大いに役立つであろう。さらに,看護学生,看護師など,全ての職種の医療スタッフが薬物療法の基本を学ぶのに有用であることは申すまでもない。
折しも,2018年4月に施行された臨床研究法およびその施行規則では,特定臨床研究の審査を担当する認定臨床研究審査委員会に「毒性学,薬力学,薬物動態学等の専門的な知識を有する臨床薬理学の専門家」を配置しなければならないこととなった。臨床薬理学は,臨床研究を進める上で,ますます重要な位置を占めることになるわけであり,この時代の流れからも,本書の発刊は極めて時宜を得たものになった。
臨床薬理学の全ての内容を盛り込んだ本書であるが故に,日常の持ち運びにはやや難がある。今後,本書のエッセンスをまとめた簡便なハンドブックがあれば,と思うのは評者だけであろうか。
註)吸収(absorption; A),分布(distribution;D),代謝(metabolism;M),排泄(excretion;E)の頭文字をとったもので,薬物の体内動態を理解する上での基本的な概念である。