スーパーバイズでお悩み解決!
地域における支援困難事例15

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ヘルパーに大量の塩をまく娘さん、セーラー服の女子高生を追いかける男性、生活保護費で彼氏に薬物を買う女性……地域支援で遭遇するのは、教科書に掲載されているような典型事例ばかりとは限りません。本書では「にっちもさっちもいかない事例」に対し、経験豊富な精神科医らによるケースワークさながらのスーパーバイズを展開。支援者自身が解決に向けた視点に気づき、思考力・判断力を養うエッセンスが満載です。
編著 吉岡 京子
吉永 陽子 / 伊波 真理雄
発行 2016年12月判型:B5頁:176
ISBN 978-4-260-02877-6
定価 2,640円 (本体2,400円+税)

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  • 序文
  • 目次
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はじめに-1人で悩まず、みんなで考えよう

 地域支援の現場では、学生時代に習った方法や教科書通りにはいかないことが少なくありません。残念ながら書物に書かれていることが古かったり、現場に即していないこともあります。また日々のケースワークでは、見たことも聞いたこともない問題にもしばしば出会います。現場で支援者が遭遇する困難は、ある意味「時代の最先端の課題」といえるでしょう。
 私は病棟勤務を経て、行政保健師となりました。病棟では対象者が退院してしまえば、そこで支援者とのかかわりはなくなります。ところが地域では、対象者が住民である限り、ずっとかかわりが続きます。新人時代の私は、「他人の人生にここまで深くかかわり続ける仕事」ということに衝撃を受け、同時に大変な責任を担っていることをいつも痛感していました。
 その一方で、いつも自分の行った支援に対して、「本当にこれでよいのだろうか」と悩んでいました。病棟のように、ナースコールや電話をすれば、先輩や医師がすぐ応援に駆けつけてくれるわけではありません。主治医の指示通りに支援しても、うまくいかないばかりか、かえって問題がこじれることもありました。さらに当時は参考になるような書物も十分ではありませんでしたので、困ったときには先輩に相談したり、関係者と連絡をとりながら、手探りで支援方針の確認や情報共有をするようにしていました。しかし、いつもベストな支援策や方針を選択できるわけではありません。むしろ「ベストではないが、ベターな道」や、2番手、3番手の支援策を選ばざるを得ないことも多くありました。私はいつも自分の力不足を歯がゆく思い、ベストな道を選べないことに罪悪感を抱いていました。
 幸いなことに、職場には経験豊富な精神科医の先生方や先輩方がおり、自分の行った支援やアセスメントについて、スーパーバイズを受ける機会が定期的に設けられていました。支援に行き詰まったときにはスーパーバイズを受け、重くのしかかっている肩の荷を下ろし、「これでよかったんだ」と仲間と確認し合えることが、どんなに支援者を勇気づけ、次の支援に前向きに取り組めるようになるか、この本を手にとられた方なら容易に想像できるのではないでしょうか。時にはスーパーバイズを受けてもすっきりしないこともあるかもしれませんが、それでも自分1人で悩み続けるよりは一歩も二歩も前進しているはずです。
 支援者が支援に行き詰まり悩んだとき、誰もがスーパーバイズを受けられればよいのですが、組織の大小や地域の事情によってそれが叶わない場合もあります。そんなとき、「少しでも支援者の肩の荷や心が軽くなるような本があったら、どんなによいだろうか」と思い、本書の執筆を始めました。本書では、支援者が対象者を支援するうえで大変な困難を感じる事例(以下、支援困難事例とします)として15事例を作成し(すべてフィクションで、登場人物も架空のものです)、それぞれに対し支援者のアセスメントや見解と、それに対するスーパーバイザーの助言をまとめています。すべて一話完結となっているので、どの事例から読んでいただいても構いません。
 地域における支援では、支援者が1人で事例や問題を抱え込まないことがとても大切です。みなさんが支援に行き詰まったり、悩んだりしたときに本書を手にとっていただき、支援の糸口を見つけてもらえれば望外の喜びです。私たちと一緒に、支援困難事例へのアプローチについて考えていきましょう。

 2016年11月
 著者を代表して
 吉岡 京子

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はじめに-1人で悩まず、みんなで考えよう

第1章 支援困難事例を考えよう
【高齢者関連】
 01 認知症を発症しているにもかかわらず本人は受診も訪問も拒否。
   高額な買い物をさせる同居女性のことは、どうしたらいいでしょうか。
   [COLUMN 1] 「家族」って誰のこと?-家族の規定(民法)

 02 母親を介助するヘルパーに向かって大量の塩をまく娘さん。
   このままでは誰も支援に行けなくなります。
   [COLUMN 2] 支援者への暴力に備える-地域におけるリスクマネジメント

 03 高次脳機能障害の父親と息子の力関係が逆転。
   今にも事件に発展しそうなのですが、どうしたらいいでしょうか。
   [COLUMN 3] 対高齢者と対児童では違う-虐待における「分離・保護」の考え方

【子ども関連】
 04 「母乳で育てたい」と薬物治療中断中の統合失調症の母親。
   子どもに何かあったらと考えると心配です。どうしたら入院させられますか?
   [COLUMN 4] 精神障害者の入院(精神保健福祉法)

 05 ネグレクトで、ゴミだらけの部屋に娘を置いて夜外出する母親。
   どうにかしたいのですが、介入のきっかけがつかめません。
   [COLUMN 5] ゴミの山への強制介入-行政代執行

 06 コンサート以外は引きこもり、母親に暴力をふるう息子。
   このままではエスカレートして、殺人事件が起こらないかと心配です。
   [COLUMN 6] 「長くて1時間半」-家庭訪問の心構え

【知的障害関連】
 07 知的障害の施設に通いながら摂食障害の症状も併発!?
   一体どちらを優先して支援すべきでしょうか。

 08 「金髪の女を隠しているだろう!」近所の壁を頭突きで血だらけにして苦情が殺到。
   知的障害もあるのに、保健師である私に対応を押しつけてきます。

 09 郵便受けに液体を配り、セーラー服を追いかける自転車に乗った25歳男性。
   触法スレスレの問題行動をすぐにでもやめさせたいのですが、
   どうしたらよいのでしょうか。

【依存・嗜癖関連】
 10 生活保護費で同居男性に怪しい薬物を購入してあげているようなのですが、
   大丈夫でしょうか。警察に通報するべきでしょうか。
   [COLUMN 7] 「これ以上悪い状況をつくらない」-ハームリダクションという方法

 11 パチンコで借金数百万円をくり返す会社員。主治医の診断は
   「双極性障害(躁うつ病)」。妻が相談に来ましたが、離婚を勧めるべき?

 12 結核で入院した病棟にまで酒を持ち込み、「アリが見える」と訴える路上生活の男性。
   バレたら退院を迫られやしないかとヒヤヒヤしています。

【精神疾患関連】
 13 “2番目の椅子”にこだわってトラブル多発。あらゆるデイケアから入所を断られ、
   毎日支援センターの椅子に座り続ける女性に困っています。

 14 新人スタッフが教えてしまった私の携帯番号に、昼夜問わず電話をかけてくる女性。
   休みなく要求をいわれ、もう仕事を辞めたいです。

 15 「うつ病」で休職中の住民の会社の産業看護師から
   「地域で面倒をみてくれ」との連絡。これって本当に保健師の仕事?

第2章 「支援困難」を解剖してみよう
 01 地域における支援と医療機関における支援の違い
 02 支援困難事例はなぜ発生するのか
 03 支援困難事例の発生を予防する仕組みづくりについて考えよう

付録 「困難」を感じたときに参考になるアセスメントポイントのまとめ
おわりに
索引

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現代の家族が抱える複合する健康課題の解決に向けて地域ケアシステムをデザインするためのガイドブック(雑誌『保健師ジャーナル』より)
書評者: 武田 世津 (山形県庄内保健所)
 地域の中では高齢化の進展により,65歳以上の夫婦のみ世帯や単身世帯が増加している。晩婚化,少子化も相まって,人口ピラミッドは杯型へと姿を変えようとしている。また,社会保障・人口問題研究所の推計によれば,2035年には高齢女性の23.4%,高齢男性の16.3%が一人暮らしとなるという。これまでは一人暮らしの高齢者といえば圧倒的に女性が多かったが,今後は男性の一人暮らしも増加していくとの報告がある。
 これまでセーフティネットであった家族は,支え手としてのマンパワーと,絆というネットワークを併せ持っていた。しかし,現代ではそれが脆弱化している状況を社会のどこにあっても感じる。地域で暮らしていれば,昔は隣の家の事情がよく見えていた。今は一軒一軒の家族の顔を知ることも難しい。何らかの問題が地域の中で気付かれたときには,それは困難事例となって公になる。そうなると,誰が,どうやってその家族の問題に介入していくかが議論になる。多くは,最初に問題になったテーマにより担当窓口に持ち込まれる。緊急性から健康問題が最初の入口になりやすい。しかし,そのときにはすでに問題は複雑多岐にわたり,対処は1つのポジションで完結できなくなっていることも多い。多分野での検討,連携を図りながら時間をかけてようやく解決の糸口を見いだす。そんな経験を,地域保健に従事する多くの保健師は経験している。
 家族の機能が発揮できない状況では,社会的なセーフティネットを新たに構築していく必要がある。その人に合った地域ケアシステムをデザインする。それが保健師の地域保健活動である。病の発生から回復に至るまで暮らしがどう変化していくか,その過程を見越してアセスメントし,解決策を検討し,実行していく。対象が個でも集団でも,ロジックは同じである。
 本書は保健師の日々の活動で直面する,さまざまな人々,家族,住民の問題に対してどう向き合い,誰とつながり,解決へのケアシステムをデザインするか,その過程に対するスーパーバイズがたくさん詰まっている。
 読み進めて行く中で,過去に評者が遭遇した事例に類似したものがあり,自分のアセスメントを振り返る良い機会となった。国民の生活を守り,健康を守り,公衆衛生を守る。そして地域の人々がつながり,支え合える地域を創る。そんな意欲を引き出してくれる本書との出会いに感謝したい。
 本書は,側に置いて実際の事例への支援に生かしていけるガイドブックである。地域保健,産業保健,病院,教育等あらゆる場で看護を展開・実践している方々にぜひご一読いただきたい。

(『保健師ジャーナル』2017年9月号掲載)
「社会の最先端の課題」を投げかける「支援困難事例」への実践的かつ高度な支援専門書(雑誌『保健師ジャーナル』より)
書評者: 吉澤 みどり (渋谷区幡ヶ谷保健相談所)
 ときに私たち保健師は,家庭の中に土足で入るに等しい招かれざる客である。しかし,わずかに開いたドアに踏み入れた足を,抜いてはならない。治療中断ケースに導かれた先で,引退した町の歯科医師が白衣をまとい「保健師さんについていきなさい」とケースに諭すなど,精神科入院に力を借りられたような経験はないだろうか。つまり,支援の答えは地域の中,“ケースとの関係性”の中にしか見い出せないのだ。
 「社会の最先端の課題」を投げかける「支援困難事例」と,ケースの人生に深く関わっていく支援者たちへの畏敬の念を礎とし,そこに光を当て,「少しでも現場の保健師たちの肩の荷や心が軽くなるような本を」とつくられた本書は,地域における“支援の知恵”が凝縮された高度な専門書である。
 前半は,「支援者が対象者を支援するうえで大変な困難を感じる事例」として「高齢者」「子ども」「知的障害」「依存嗜癖」「精神疾患」の関連分野から15事例が紹介され,保健師など「支援者」のアセスメントや見解に対し,精神科医である「スーパーバイザー」が助言するという一話完結物語だ。その助言は,医学的・心理社会的側面の見立てからケースワークまで,平易でありながら深く丁寧な解説となっている。また,関連する重要な知識「7つのCOLUMN」が織り込まれ,その中でもとくに「現段階以上に健康被害が拡大・悪化することを予防する-ハームリダクション」は,児童虐待など命の問題に直面する際に参照すべき重要な理論である。
 そして後半は,「支援困難」の要因・共通点・特徴が分析され,支援困難事例の発生予防の仕組みづくりも示されている。事例への「助言」をまとめたアセスメントのポイントを示す「付録」も,簡潔に整理され実用的だ。
 前半で示される15の物語は読みやすいタッチで描かれているが,緻密に構造化され,全事例を通して,今現場で困っていること,知っておくべきことが網羅されている。とくに際立つ点は以下の2点である。
 1点は,「地区担当保健師の役割」「支援者への暴力に備える」「感情労働とバーンアウト」など,われわれの限界を自覚する必要性,支援者を支援する「間接的な支援」や「ネットワーキング機能」といった,個別支援を超えたポピュレーションアプローチの重要性についても展開されている点である。
 2点目は,本書の事例には障害者相談支援センターの精神保健福祉士,福祉事務所の事務職など,他機関,他職種が登場しており,彼らが保健師をどのように捉え,保健師に何を期待するのかを知る機会ともなる点である。地域の中で“保健師はどのような存在であるべきか”を,保健師自身が振り返る必要性があると説いている。
 本書は,新人期の保健師にとっては事典的な活用もできるであろう。「苦情対応」「ゴミ屋敷」「仮の見立て」など115項目の「牽引」から興味のある箇所を引き,本文に戻るのもよい。中堅・ベテラン保健師には,プリセプターとして助言者として人材育成の手引きとして活用できる。心配で眠れぬほどの思いに本書は寄り添い,一歩前へ踏み出すガイドとなるであろう。

(『保健師ジャーナル』2017年4月号掲載)

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