発達障害支援の実際
診療の基本から多様な困難事例への対応まで

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自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)などの発達特性を有する人をどのように診断し、どう支援していくべきか――。本書は、昨今の精神医療・福祉の現場で最も関心の高いテーマの一つである発達障害の診療・支援に真正面から向き合い、具体的な対応策を提示するもの。検査ツールの使い方や薬物療法、困難事例への対応など、発達障害にまつわるさまざまなトピックを第一人者らが具体的・実践的に解説。
編集 内山 登紀夫
発行 2017年11月判型:B5頁:264
ISBN 978-4-260-03239-1
定価 5,940円 (本体5,400円+税)

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 本書は自閉症スペクトラムを中心に発達障害の診断と評価,支援について医師や心理,福祉,司法関係者ら専門的支援者の参考になる内容を伝えるために企画されました。
 きっかけは厚生労働科学研究補助金による2つの研究「障害者対策総合研究事業,発達障害者に対する長期的な追跡調査を踏まえ,幼児期から成人期に至る診断等の指針を開発する研究 平成22~24年度」と「精神神経分野 青年期・成人期発達障がいの対応困難ケースへの危機介入と治療・支援に関する研究 平成25~27年度」でした。通常は研究報告書と,それをもとにした論文が専門誌に発表されることが多いのですが,本研究班の成果をもっと読みやすく,まとめて読めるような方法で発行したいという気持ちが強くなり,医学書院の松本哲さんと相談してこうして形にすることができました。
 昨今の発達障害ブームもあり,発達障害に関する書籍は数多く発行されています。しかし,成人の発達障害を対象にした専門家向けの成書は少なく,さらに,本書のメインテーマの1つである,いわゆる対応困難例について包括的に論じた書籍はほとんどありませんでした。メディアが報じる触法発達障害者の情報は,ごく一部のセンセーショナルな犯罪を題材にした偏ったものが多く,私の目からは到底,現場の実態を反映しているようには思えませんでした。
 そこで本書は主に思春期以降から成人期にかけて発達障害の人を支援する専門家を想定し,触法問題などにも正面から論じ,正しい情報を伝えることを意図しました。
執筆者は2つの研究班の分担研究者や研究協力者の方に依頼しました。職種は精神科医師,心理士,福祉職,弁護士,研究者と多様ですが,いずれも現場で実際に発達障害者の支援をし,実態を熟知されている方ばかりです。
 発達障害の子どもや成人は療育センターや,児童精神科,発達障害者支援センターなどの専門的な機関だけで支援を受けているわけではありません。実際には一般の精神科クリニックで治療をされている人が非常に多いと思われます。元来は発達障害の支援を想定していなかった児童福祉施設や少年院などの矯正機関,医療観察病棟などでも支援を受けています。これまで,このような成人や子どもは発達障害と気付かれないままに支援をされてきました。本書で,お示ししたように,実際には発達障害の頻度は低くなく,発達障害の特性に配慮した支援を必要としています。
 これだけ社会で発達障害が喧伝されるようになった現在も,一部の医療関係者の中には発達障害は治療法がないと誤解している人がおり,特に対応困難例についてははじめから支援を忌避する専門家も多いことは残念なことです。そこで本書では対応困難例も対象に支援方法についても紹介しています。
 発達障害の人は多様な機関に遍在しています。いわゆる対応困難例についても,いきなり問題行動を示すことは少なく,問題行動が生じるまでに,さまざまなサインがあり,そのサインを見つけることで予防的支援を行うチャンスがあります。
 対応困難な問題を予防するためには,支援機関では発達障害の可能性がある人を見いだし,発達障害特性を評価し,それに基づく支援を行うことが重要です。そのような臨床の実践に本書が役立つことを願っています。

 2017年10月
 内山登紀夫

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1 発達障害の疫学
 総論
 精神科クリニック
 児童福祉施設
 精神保健福祉分野
 児童医療機関
 成人医療機関
 医療観察法における指定入院医療機関・指定通院医療機関
 矯正施設における発達障害の疫学的知見

2 診断とその方法
 診断総論-主な症状と特徴
 面接の進め方と注意すべき事項
 評価ツール
  A 対人応答性尺度(SRS)-成人版
 ASDの診断ツール
  A ASDIとDISCO
  B ADI-RとADOS-2
  C CARS-2
  D PARS-TRの紹介

3 その他の精神疾患の合併・鑑別
 自閉症スペクトラム(ASD)とその他の発達障害の合併
 発達障害とその他の精神・身体疾患との合併

4 発達障害と問題行動
 問題行動総論
 不登校・ひきこもり,自殺関連行動
 発達障害と非行
 発達障害と犯罪

5 発達障害の支援の原則
 TEACCHとSPELLの原則
 非行からの復帰支援

6 発達障害の支援方法
 支援方法総論
 領域別の支援のあり方
  A 児童・思春期精神科
  B 成人精神科支援
  C 精神保健福祉分野における発達障害者支援と困難事例への対応
  D 児童福祉領域
  E 矯正医療(少年院,鑑別所,刑務所など)
  F 医療観察法-発達障害をもつ触法者の支援と医療観察法の問題点
 支援技法
  A CRAFTについて
  B DBT
  C SOTSEC-ID

7 発達障害とリスクアセスメント
 リスクアセスメント総論
 リスクアセスメントツール
  A 問題行動への予防的介入のためのアセスメントツール:@PIP33-ver.ASD
  B ARMIDILO-S

8 海外から学ぶ発達障害の支援
 海外の支援システムの紹介
  A 英国
  B オーストラリア・ビクトリア州における犯罪をした
     発達障害者への支援システム
  C 韓国における触法性発達障害者への刑事法的対応
  D ドイツにおける触法性発達障害者への刑事法的対応
  E カナダ・オンタリオ州における知的障害・発達障害のある
     支援困難な人への地域移行と地域包括的な支援

9 事例で学ぶ発達障害の支援
 自閉スペクトラム症(ASD)と境界性パーソナリティ障害(BPD)の併存事例
 発達障害・知的障害のある触法行為者への支援
 触法行為などの社会行動面での課題を有する事例
 児童福祉領域での支援
 児童・思春期精神科の入院治療ケース
 長年の引きこもり生活から就労・地域参加を果たした症例
 発達障害のある非行少年への地域生活支援センターによる支援
 救命救急センターに搬送された自殺企図事例への危機介入と再発予防

索引

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多分野の専門家による協働のベースとなる一冊
書評者: 村木 厚子 (津田塾大客員教授・総合政策学)
 発達障害者支援法が2004年に制定された。当時,発達障害の子どもを持つ親が相談に行ける場所は少なく,また,保育園・幼稚園,小学校,中学校と環境が変わるたびに障害を説明し理解と協力を求めるといった状況であった。早期の,そして切れ目ない支援を確立すべくこの法律が制定され,その効果もあって,児童の発達障害に関する認識は急速に広がり,早期発見,早期支援の取り組みも格段に進んだ。

 一方で,こうした早期支援の網の目にかからずに大人になった人への対応は,いまだ研究や支援が大きく遅れている。支援が遅れたために社会適応がうまくいかないいわゆる「対応困難例」などについて取り扱う専門書は少なく,その一方で,マスメディアなどが発達障害者のかかわった犯罪をセンセーショナルに報じるなど,間違った印象が一般の人々に伝えられている状況も看過できない。

 そうした中で出版されたのが,本書だ。本書は,主に思春期以降から青年期にある発達障害の人を支援する専門家を想定して書かれている。執筆の中心は,2つの厚生労働科学研究 障害者対策総合研究事業「発達障害者に対する長期的な追跡調査を踏まえ,幼児期から成人期に至る診断等の指針を開発する研究(2010~12年度)」「青年期・成人期発達障がいの対応困難ケースへの危機介入と治療・支援に関する研究(13~15年度)」に参加した研究者たちだ。

 本書はとりわけ2つの点で優れている。第1の点は,触法問題などの困難事例について正面から論じ正しい情報を伝えることを意図している点だ。この問題を避けることなく,また,冷静にデータに基づき解説していることは大きな価値がある。発達障害の人たちの犯罪を犯す確率はどのようなものか,どういう特性がどういう行動と結びつくのか,それは真に障害の特性なのか,それとも2次障害なのか,こうした疑問に,可能な限り客観データを示し,率直に答えている。こうした対応こそ,発達障害についてわれわれが正しい認識を持つことの第一歩となる。また,困難事例について,具体例と対応が示されている点も,関係者にとって大いに手助けとなるであろう。

 本書が優れている第2の点は,本書が,発達障害を専門に扱う機関,専門家だけを対象とするのではなく,思春期や成人期の発達障害の方たちと接する機会を多く持つこととなる一般の精神科クリニック,児童福祉施設,少年院などの矯正施設,医療観察法病棟などの職員をも対象にし,こうした場所での発達障害に対する気づき,支援の実施にも役立つように記述されている点だ。

 発達障害の出現率は高く,その支援には,医療,福祉,心理,司法,矯正・保護など幅広い分野の専門家が協働して取り組むことが重要だ。とりわけ困難事例への対応は多くの専門分野の協力が不可欠だろう。本書は,こうしたさまざまな分野の専門家が共通認識を持って支援に取り組むためのベースとなる教材,参考書として最適のものだ。本書を手に,各地で関係者のネットワークづくりが始まることを心から期待している。
発達障害支援分野の半歩先を見据えた予言の書
書評者: 田中 康雄 (こころとそだちのクリニックむすびめ・院長)
 本書は,編者の「序」によれば,厚生労働科学研究費補助金による二つの研究を基盤に,主に思春期以降から成人期にかけて発達障害の人を支援する専門家に向けて出版されたものです。
 青年期以降の発達障害の書籍は既に多数出版されておりますが,本書では,従来,支援が難しいと思われる「多様な困難事例」の理解と関わりについて網羅し,これが大きな特徴となっています。

 内容は9つに分かれています。第1章「疫学」ではエビデンスを重視し,自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如・多動症(ADHD)の有病率や原因について言及しています。医療分野にとどまらず,保健福祉分野や矯正施設などの疫学的調査にも触れています。第2章「診断とその方法」では面接方法と最新の評価・診断ツールについて紹介しています。ASDやADHDは年齢,発達状況で多様な様相を見せ,ツールをいかに有効活用しても,結局は行動観察,発達歴聴取によって診断は下されるべきとの編者の弁には強くうなずくことができます。第3章で合併・併存する障害について触れ,第4章では,不登校,ひきこもり,自殺,非行,犯罪など対応に苦慮する二次障害を取り上げ,支援の心構えを説いてくれます。こうした状況を読み進み,第5章で「支援のアイディアは個々の評価に基づき個別化して行われるべき」「(その)アイディアを活用することでより自立的な生活が送れる」ことを目指すべき(p.113),と支援の原則が説かれ,たとえ非行・犯罪問題であっても,復帰支援方法は必ずあると勇気づけられます。支援の各論は第6章で詳述され,本書の大きな柱となっています。各機関それぞれの取り組みを詳しく知ることができます。個々の役割を知ることで,正しい多職種連携が可能になることでしょう。対応に苦慮する方々であっても支援する術はあります,ということでCRAFTや弁証法的行動療法,性加害行為への治療的アプローチといった最新かつ先駆的な支援技法が紹介され,第7章でリスクアセスメントを学びます。リスクアセスメントは「個別の状況を精査することにより,それによって生じうる問題の要因を明らかにし,将来の不測の事態を未然に防ぐために必要な介入のタイプを明らかにする」(p.186)ものと定義され,具体的な手法やアセスメントツールが紹介されています。第8章では,法に触れた発達障害のある方々への5か国の海外情勢が紹介され,結果,日本には日本の取り組みを一刻も早く作る必要があると理解するのですが,その前に,この分野に真剣に取り組む姿勢を,日本はまず示すべきというメッセージを強く感じました。最後の各事例に関しては,読者諸氏が症例検討会に参加したつもりで読むと役立つと思いました。

 本書はエビデンスに裏打ちされた書籍です。読ませていただき,全ての執筆者に敬意を払うとともに,長く発達障害臨床をされておられる内山登紀夫先生にとって,触法や対応困難事例というのは,避けては通れない課題であったのだろうと痛感しました。
 本書で取り上げたツールや手法は,まだ一般の臨床では使用できないところもあり,今しばらく待たねばならないことに一抹の焦りを感じつつ,それほどの先駆的なテーマを紹介してくれたことに感謝しています。
 2点,評者として注文があるとしたら,いわゆる虐待・トラウマと発達障害との関係についてあまり言及されていないことと,本書のタイトルが“発達障害支援”となっていることです。前者は,さらに今後の発展を期待したいところです。後者は,本書の内容がASDを対象としているといっても過言ではないため,「自閉スペクトラム症支援の実際」と表記したほうが内容が正しく伝わるのではないかと思いました。中身が非常に優れたものだけに,表題で損してしまわないかと危惧したところです。

 いずれにしても本書は,ASD中心の発達障害支援分野における,半歩先の未来を見据えた予言の書,あるいは大きな方向性を指し示す良書であることは間違いありません。
 どうか,医療関係者だけでなく,連携し合う多職種の方々全てに,ぜひ読んでいただきたいと思います。

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