看護管理者のコンピテンシー・モデル事例集
書き方とその評価
管理者が組織のためにすべき行動と成果をあげるための全コンピテンシー116事例
もっと見る
「看護管理者のコンピテンシー・モデル」を自身に、また自組織に導入するにあたって、そのもっとも基本となるのが「事例」。本書では、管理者が組織のためにすべきことを実行し、成果をあげるための6クラスター・16コンピテンシー・レベル0~5のすべての事例を、書き方とその評価のポイントとともにわかりやすく具体的に示す。
編 | 看護管理コンピテンシー研究会 |
---|---|
発行 | 2015年09月判型:B5頁:180 |
ISBN | 978-4-260-02431-0 |
定価 | 3,080円 (本体2,800円+税) |
更新情報
-
更新情報はありません。
お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。
- 序文
- 目次
序文
開く
はじめに
看護の質の向上を図り,患者満足度の高い看護を提供するためには,看護職員1人ひとりの能力を高めることが不可欠となる。同時に,人的資源を含む看護実践の場全体を管理,監督する看護管理者のマネジメント能力を高めることがそれ以上に重要である。その組織の看護の質を決定づける最も大きな要因の1つが,現場の看護管理者の能力といっていいだろう。
このような考えから,私は,虎の門病院(以下,当院)での主任看護師(以下,主任)の看護管理研修に指導者として直接関わり,その知識,技術の向上に努めている。また,看護管理者に院外の研修や大学院で管理について学ぶことを積極的に推奨してきた。そして,それぞれが学んだことを実際の職務に活かして,高い業績,成果を生み出してくれることを期待してきた。しかしながら,研修などで管理に関する知識,技術を高めたことと,看護管理者としての成果,業績との間にほとんど関連性が認められなかったり,研修のあとには一時的な変化があっても,それが継続しなかったりすることが少なくないと感じていた。
こうした経験から,実際のマネジメントに活かせる看護管理者の能力をどのように高めたらいいのか考えあぐねていたとき,偶然手にした書籍がスペンサーらの『コンピテンシー・マネジメントの展開』1)であった。そこに書かれていたコンピテンシーの概念,すなわち,人は知識や技術だけでなく,特性や価値観と合わせて行動しており,知識や技術に加え価値観や特性を含めた全体を反映した行動のうち,成果につながる行動を重視するという考え方に出合い,私がずっと追い求めていたのはこれだったのだと閃いた。この考えに照らせば,知識,技術が必要であることはいうまでもないが,だからといって知識,技術のみを高めるだけでは,高い成果,業績に結びつかないことは至極当然であり,看護管理者の育成に関するそれまでの疑問に納得のいく答えが見つかったのである。
そこで,当院では看護管理者の育成を目的に,「目に見える知識,技術」や「目に見えない価値観,特性」をそれぞれ単独としてではなく,「それらすべてを統合した結果としての行動」に焦点を当て,看護管理実践に対してフィードバックを行なうためのツールを開発することにした。そして,2005年より2年余の歳月をかけて,実際に看護管理の職務に就いている人たちが語った行動からコンピテンシーを抽出するという帰納的アプローチを用いて,「看護管理者のコンピテンシー・モデル」を完成させた。
このコンピテンシー・モデルは,レベル0~5までの6段階でできており,基礎的レベルから高業績レベルまで段階的にステップアップを促す設計となっている。当院では,レベル0を主任の選出基準,レベル1~4を看護師長,主任の評価基準,レベル5を複数の看護単位を管理する管理看護師長の評価基準として2007年より運用している。
毎年70人前後が対象となる看護師長,主任の評価結果を整理してみると,2010年まで6割を占めていたレベル1以下が,2012年以降は4割未満に減少し,反対に,レベル2以上が6割から7割に増加した。特に2012年からレベル3に達する人が増加し,全体の2割程度を占めるまでになった。
スペンサーらが示した「管理者の一般的コンピテンシー・モデル」1)で最もウエイトの高い「達成重視」について,レベル3の看護管理者のパフォーマンスをコンピテンシー事例で紹介すると,院内資格である静脈注射ナース(留置針の穿刺と規定薬剤のワンショットができる)の対象者それぞれに対して資格取得を目標設定し,期限内に達成させる(301b),看護師長である自身が指導者となって部署の看護師全員にフィジカルアセスメント研修を行なうことで看護実践に対する自信を高め,退職率を20%から9.3%まで低下させた(301c)などがある。
タイムリーに安全に静脈注射の処置を実施できる看護師を増やし,看護師の定着を促進して看護現場を安定させることは患者にとっての望ましい環境づくりである。したがって,コンピテンシー・モデルを使った評価で,高いレベルの人が増えるということは,組織全体の看護の質向上を牽引する力が増大することを意味する。
「看護管理者のコンピテンシー・モデル」運用後のもう一つの変化は,新任主任数が減少したことである。導入前は多い年で20人近く新たな主任が任命されたこともあったが,2008年以降はその数が1~8人に減少した。主任任命は看護師長や主任の産前産後休暇や育児休職者の代替人事としても行なわれるが,やはり最も大きな要因は看護管理者の退職である。それゆえ,新任主任数が減少するということは,一定レベルの能力を有する看護管理者が継続して管理,監督を行なうことにより,看護マネジメントの安定化をもたらす。この変化は,コンピテンシー・モデルによって看護管理者としての熟達の道筋が明確になり,目標を見失ったり迷ったりする人が少なくなった影響が大きいと考えている。
本書は,事例の記述に多くの紙幅を割いている。2013年出版の『看護管理者のコンピテンシー・モデル——開発から運用まで』2)でも,116コンピテンシーすべての事例を紹介しているが,今回はさらに,各コンピテンシーに含まれるキーワードや核となる要素,評価のポイントが明確となるよう事例の取り上げ方に工夫を凝らした。具体的には,1つのコンピテンシー事例について,コンピテンシーの解釈がずれていたり,レベルに合致していなかったりして記述が不十分な例(×事例)と基準を満たしている例(〇事例)を対比させて載せ,それぞれに不足している点,重要なポイントを付記し,これを全116コンピテンシーに対して展開している。
また,「看護管理者のコンピテンシー・モデル」は汎用性があり,多様な使い方があり得るというわれわれの提言に呼応して,それぞれの組織のニーズや事情に合わせて導入,活用している3つの実例を,当院の運用状況とともに紹介する。
これらの具体的で詳しい内容が,コンピテンシーについての理解を一段と深化させ,「看護管理者のコンピテンシー・モデル」の活用を後押しするものと確信する。本書が,看護管理者としての能力を高めるために,今後自分がどのように思考し行動すればよいか,あるいは他の人をどのように教育,指導したらよいかを知りたいと望む人たちの助けとなることを期待する。
2015年8月
著者を代表して
宗村美江子
看護の質の向上を図り,患者満足度の高い看護を提供するためには,看護職員1人ひとりの能力を高めることが不可欠となる。同時に,人的資源を含む看護実践の場全体を管理,監督する看護管理者のマネジメント能力を高めることがそれ以上に重要である。その組織の看護の質を決定づける最も大きな要因の1つが,現場の看護管理者の能力といっていいだろう。
このような考えから,私は,虎の門病院(以下,当院)での主任看護師(以下,主任)の看護管理研修に指導者として直接関わり,その知識,技術の向上に努めている。また,看護管理者に院外の研修や大学院で管理について学ぶことを積極的に推奨してきた。そして,それぞれが学んだことを実際の職務に活かして,高い業績,成果を生み出してくれることを期待してきた。しかしながら,研修などで管理に関する知識,技術を高めたことと,看護管理者としての成果,業績との間にほとんど関連性が認められなかったり,研修のあとには一時的な変化があっても,それが継続しなかったりすることが少なくないと感じていた。
こうした経験から,実際のマネジメントに活かせる看護管理者の能力をどのように高めたらいいのか考えあぐねていたとき,偶然手にした書籍がスペンサーらの『コンピテンシー・マネジメントの展開』1)であった。そこに書かれていたコンピテンシーの概念,すなわち,人は知識や技術だけでなく,特性や価値観と合わせて行動しており,知識や技術に加え価値観や特性を含めた全体を反映した行動のうち,成果につながる行動を重視するという考え方に出合い,私がずっと追い求めていたのはこれだったのだと閃いた。この考えに照らせば,知識,技術が必要であることはいうまでもないが,だからといって知識,技術のみを高めるだけでは,高い成果,業績に結びつかないことは至極当然であり,看護管理者の育成に関するそれまでの疑問に納得のいく答えが見つかったのである。
そこで,当院では看護管理者の育成を目的に,「目に見える知識,技術」や「目に見えない価値観,特性」をそれぞれ単独としてではなく,「それらすべてを統合した結果としての行動」に焦点を当て,看護管理実践に対してフィードバックを行なうためのツールを開発することにした。そして,2005年より2年余の歳月をかけて,実際に看護管理の職務に就いている人たちが語った行動からコンピテンシーを抽出するという帰納的アプローチを用いて,「看護管理者のコンピテンシー・モデル」を完成させた。
このコンピテンシー・モデルは,レベル0~5までの6段階でできており,基礎的レベルから高業績レベルまで段階的にステップアップを促す設計となっている。当院では,レベル0を主任の選出基準,レベル1~4を看護師長,主任の評価基準,レベル5を複数の看護単位を管理する管理看護師長の評価基準として2007年より運用している。
毎年70人前後が対象となる看護師長,主任の評価結果を整理してみると,2010年まで6割を占めていたレベル1以下が,2012年以降は4割未満に減少し,反対に,レベル2以上が6割から7割に増加した。特に2012年からレベル3に達する人が増加し,全体の2割程度を占めるまでになった。
スペンサーらが示した「管理者の一般的コンピテンシー・モデル」1)で最もウエイトの高い「達成重視」について,レベル3の看護管理者のパフォーマンスをコンピテンシー事例で紹介すると,院内資格である静脈注射ナース(留置針の穿刺と規定薬剤のワンショットができる)の対象者それぞれに対して資格取得を目標設定し,期限内に達成させる(301b),看護師長である自身が指導者となって部署の看護師全員にフィジカルアセスメント研修を行なうことで看護実践に対する自信を高め,退職率を20%から9.3%まで低下させた(301c)などがある。
タイムリーに安全に静脈注射の処置を実施できる看護師を増やし,看護師の定着を促進して看護現場を安定させることは患者にとっての望ましい環境づくりである。したがって,コンピテンシー・モデルを使った評価で,高いレベルの人が増えるということは,組織全体の看護の質向上を牽引する力が増大することを意味する。
「看護管理者のコンピテンシー・モデル」運用後のもう一つの変化は,新任主任数が減少したことである。導入前は多い年で20人近く新たな主任が任命されたこともあったが,2008年以降はその数が1~8人に減少した。主任任命は看護師長や主任の産前産後休暇や育児休職者の代替人事としても行なわれるが,やはり最も大きな要因は看護管理者の退職である。それゆえ,新任主任数が減少するということは,一定レベルの能力を有する看護管理者が継続して管理,監督を行なうことにより,看護マネジメントの安定化をもたらす。この変化は,コンピテンシー・モデルによって看護管理者としての熟達の道筋が明確になり,目標を見失ったり迷ったりする人が少なくなった影響が大きいと考えている。
本書は,事例の記述に多くの紙幅を割いている。2013年出版の『看護管理者のコンピテンシー・モデル——開発から運用まで』2)でも,116コンピテンシーすべての事例を紹介しているが,今回はさらに,各コンピテンシーに含まれるキーワードや核となる要素,評価のポイントが明確となるよう事例の取り上げ方に工夫を凝らした。具体的には,1つのコンピテンシー事例について,コンピテンシーの解釈がずれていたり,レベルに合致していなかったりして記述が不十分な例(×事例)と基準を満たしている例(〇事例)を対比させて載せ,それぞれに不足している点,重要なポイントを付記し,これを全116コンピテンシーに対して展開している。
また,「看護管理者のコンピテンシー・モデル」は汎用性があり,多様な使い方があり得るというわれわれの提言に呼応して,それぞれの組織のニーズや事情に合わせて導入,活用している3つの実例を,当院の運用状況とともに紹介する。
これらの具体的で詳しい内容が,コンピテンシーについての理解を一段と深化させ,「看護管理者のコンピテンシー・モデル」の活用を後押しするものと確信する。本書が,看護管理者としての能力を高めるために,今後自分がどのように思考し行動すればよいか,あるいは他の人をどのように教育,指導したらよいかを知りたいと望む人たちの助けとなることを期待する。
2015年8月
著者を代表して
宗村美江子
【引用・参考文献】
1) | ライル・M・スペンサー,シグネ・M・スペンサー著,梅津祐良,成田攻,横山哲夫訳:コンピテンシー・マネジメントの展開[完訳版].生産性出版,2011.(現在入手可能なもの) |
2) | 虎の門病院看護部編:看護管理者のコンピテンシー・モデル——開発から運用まで.医学書院,2013. |
目次
開く
はじめに
第1章 コンピテンシー・モデルの概要
第2章 コンピテンシー・モデル116事例
第3章 コンピテンシー・モデル活用例
おわりに
第1章 コンピテンシー・モデルの概要
「コンピテンシー」とは
コンピテンシー・モデルの設計
コンピテンシー・モデル一覧
コンピテンシー・モデルの設計
コンピテンシー・モデル一覧
コンピテンシー・モデルの活用
導入する意義,目的を明確化する
コンピテンシー・モデルを共通理解する
運用マニュアルを作成する
事例を書く
評価をする
導入する意義,目的を明確化する
コンピテンシー・モデルを共通理解する
運用マニュアルを作成する
事例を書く
評価をする
第2章 コンピテンシー・モデル116事例
事例の読み方
クラスター〈達成とアクション〉
達成重視
イニシアティブ
情報探求
達成重視
イニシアティブ
情報探求
クラスター〈支援と人的サービス〉
対人関係理解
顧客サービス重視
対人関係理解
顧客サービス重視
クラスター〈インパクトと影響力〉
インパクトと影響力
インパクトと影響力
クラスター〈マネジメント能力〉
他の人たちの開発
指揮命令-自己表現力と地位に伴うパワーの活用
チームワークと協調
チーム・リーダーシップ
他の人たちの開発
指揮命令-自己表現力と地位に伴うパワーの活用
チームワークと協調
チーム・リーダーシップ
クラスター〈認知力〉
分析的思考
概念化思考
分析的思考
概念化思考
クラスター〈個人の効果性〉
セルフ・コントロール
自己確信
柔軟性
組織へのコミットメント
セルフ・コントロール
自己確信
柔軟性
組織へのコミットメント
第3章 コンピテンシー・モデル活用例
コンピテンシー・モデルの汎用性
コンピテンシー・モデル全体を活用する
● 虎の門病院の取り組み
● 虎の門病院の取り組み
マネジメントラダーとコンピテンシー・モデルの融合
● 東北大学病院の取り組み
● 東北大学病院の取り組み
「達成重視」からすべてのコンピテンシーへ,2段階の導入を試みて
● 九段坂病院の取り組み
● 九段坂病院の取り組み
5病院合同の主任会議を開催して
● 平塚共済病院を中心とした取り組み
● 平塚共済病院を中心とした取り組み
おわりに
更新情報
-
更新情報はありません。
お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。