神経症状の診かた・考えかた
General Neurology のすすめ

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日常診療で遭遇する患者の多彩な神経症状をどう診るか? 大学病院と市中病院で神経内科診療に長年携わってきた著者が、外来初診で必要とされるGeneral Neurology(総合神経学)の臨床エッセンスを1冊にまとめた。患者の主訴を軸とした目次構成で、数多くの症例とともに神経診察のポイントが解説され、実践的な知識が身につく。神経内科専門医をめざす若手医師や研修医のみならず、総合診療医にも勧めたい。
福武 敏夫
発行 2014年05月判型:B5頁:360
ISBN 978-4-260-01941-5
定価 5,500円 (本体5,000円+税)

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 本書は,神経内科の日常診療の中でよく遭遇する症候や病態について,筆者の経験をまとめたものであり,もちろん臨床神経学の全ての領域をカバーするものではない。遺伝学や生化学などいわゆる高度医療の側面には触れていない.それらを高速道路建設に例えると,本書は街中の交通渋滞に対処するものである。
 本書を執筆しようと思ったのにはいくつかの動機がある。臨床神経学の教科書として有用で網羅的な書籍は多いが,日常診療の中で症状をどう捉え,どう診断に結び付けていくかという具体的な道筋を示してくれるものは少ない。圧倒的な情報量の前に立ちすくんでしまう初学者に対して,ありふれた症状や疾患の具体的様相や鑑別の仕方を常にカンファレンスやセミナーの中で解説してきたので,それらを書籍の形で著したいと考えたのが第一である。特に初学者などが誤まったキーワード設定で,つまみ食い的に診断したり,鑑別診断の方向を見失ったり,患者に余計な検査を行い負担をかけたりしているのをしばしば見聞してきたので,ありふれた症状や疾患のまず第一に考慮すべき大切なポイント(訴えの内容分析や年齢などの患者背景の把握など)を示すことに力点を置いた。その際,常に意識していたのは観察と推理の天才であるシャーロック・ホームズのことである。本書には彼愛用の帽子や拡大鏡,パイプのイラストが散りばめられている。
 第二の動機は,多くの教科書が分担執筆であったり,欧米の教科書の受け売りだったりするので,筆者一人による一貫したものの診かたを提示し,病歴聴取と神経診察の実際の経験をなるべく具体的に示したいと思ったことである。臨床神経学の最高の教科書である“Adams and Victor’s Principles of Neurology”の少なくとも古い版では,客観的な教科書的記載以外に,しばしば「We」で始まる,著者らの経験が述べられていた。そこにこそ日常診療上の興味深いヒントがあったし,臨床神経学を学問としてもっと発展させる方向性があった。本書もささやかだが,そうした役割の一部でも果たせればという思いがある。
 第三の動機は,神経学の巨星であり,脳卒中学の創始者であるチャールズ・ミラー・フィッシャー教授が2012年4月14日に98歳で逝去された際に,そのポートレートを書く機会を与えられ,同教授が80歳代以降でも自らの閃輝暗点への考察や神経学と精神医学の境界領域に関する臨床的な総説を著し,90歳代になっても若いレジデントと回診していたことを知り(『BRAIN and NERVE』64:1443-1448, 2012),個人的な経験でも重要と思われることを書き遺すことの重要性を改めて認識したことである。筆者の恩師である平山惠造教授も臨床神経学・神経診察学・神経症候学におけるエッセンスの「伝授と伝受」の重要性を強調されている。
 第四の動機は,日常診療の中でよく遭遇するコモンな症候や病態を具体的な症例記載を多く用いて解説することにより,本邦ではまだなじみの薄い“General Neurology(総合神経学)”の事始めにしようと考えたことである。欧米では大学の神経内科には少なくとも8~10名の教授陣(と同数程度の部門)があって,その一人(1つ)にGeneral Neurologyの教授(部門)が存在する。そこでは頭痛やめまい,疼痛などへの対処や研究がなされ,同時にあらゆる神経疾患患者の入口の部門としての役割を果たしている。総合診療が一種のブームであるが,神経内科(臨床神経学)は昔から,頭の先から足の先までの各種の症状を扱い,またほとんどの訴えが感覚神経系を通じてなされるので,もともと総合診療を行ってきたのである。本書がGeneral Neurologyの面白さや有用性を伝える一助になればと思う。

 本書では,まず第I編として,日常的によく遭遇する症状を扱う。頭痛,めまい,しびれ(痛み)の外来・救急を訪れる患者の最も多い症状を取り上げ,次いでパーキンソン病とその周辺,物忘れ・デメンチア(認知症),精神症状,高次脳機能障害を取り上げた。その最後に,しばしば「何でもない」「気のせい」と扱われる「奇妙」な症状の章を設けた。それらの症状の半数は他章に記載したものである。筆者の専門分野の1つである脊椎脊髄疾患についてはしびれや第II編の急性四肢麻痺,神経診察の手技の中で一部扱ったが,これまでにたくさん書いてきた脊椎脊髄疾患に関する症例報告と総説は,別の書籍に譲りたいと思う。
 第II編として,緊急処置が必要な病態として,けいれん,意識障害,急性球麻痺,急性四肢麻痺,脳梗塞の章を設けた。脳血管障害の中のくも膜下出血については,第I編の頭痛の章で扱い,脳出血の症候はいくつかの症例で触れたが,多くは脳梗塞に準じて捉えられるので省略した。
 第III編として,神経診察の手技上のポイントと考えかたに加え,画像診断におけるピットフォールの章を設けた。
 全編を通じて,多くの具体的症例を紹介したので,その病歴,診察内容,検査や診断の経過を行を追うように読んでいただきたい。これらの症例記載はホームズの事件簿に相当するという思いがある。なお,画像のうち,MRIについては,そのほとんどが現在の勤務地である亀田メディカルセンターのものであり,水平断がOMライン(眼窩外耳孔線)に-20°である点に注意いただきたい。CTスキャンと一部の以前の勤務地のMRIはOMラインと平行である。これらをいちいち記載するのは煩瑣であるので,省略した。

 最後に,症例や記述の中に取り上げた多くの患者とその家族に最大の謝意を表したい。本書は彼らから教えてもらったことのまとめに過ぎない。次に,個々に名前を挙げないが,筆者とともに患者の診療に当たった同僚医師とメディカルスタッフ,多くの先達,文献の著者達,以前の勤務地の症例の発表を許可していただいた各責任者に深謝したい。本書が日の目を見たのには医学書院諸氏の励ましと尽力があったことを特に記す。

 2014年4月
 福武敏夫

*:作家アーサー・コナン・ドイルが創作したシャーロック・ホームズは1854年に生まれ,1874年に最初の事件を依頼され,1877年に大英博物館のすぐ裏で私立探偵として開業した。Baker Streetに移ったのは1881年のことで,最初の事件簿『緋色の研究』が出版されたのは1887年である。総計60の事件薄があり,104か所に脳卒中,けいれん,髄膜炎,中毒性神経疾患などの神経疾患が登場する。国立神経疾患病院(Queen Square)において1878年に創刊された神経専門誌“Brain”を助手のワトソン博士共々読んでいたと思われる。彼は諸方面に広い知識があるだけでなく,(1)研ぎ澄まされた感覚から注意深い観察を行い,知識と推理力とに結び付けた。(2)細かな点にも注意を払い,食い違いを見つけるのが得意だった。(3)事例の中にある多くの選択肢を常に熟慮した。(4)何が重要で何がそうでないかを見極めるのに長けていた。これらは現代においても神経診断学の方法論をなす。

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第I編 日常診療で遭遇する患者
第1章 頭痛
  A 頭痛を主体とする疾患を実践的に分類する
  B 患者の属性によって好発する頭痛
   1.年齢・性/2.背景因子
  C 危険な頭痛
   1.くも膜下出血/2.脳静脈(脳静脈洞)血栓症/3.脳動脈解離/
   4.側頭動脈炎/5.髄膜炎/6.脳肥厚性硬膜炎・頭蓋底骨髄炎
  D 生活改善を要する頭痛
   1.緊張型頭痛/2.睡眠時無呼吸症候群/3.副鼻腔炎性頭痛/
   4.薬物過量性頭痛
  E 生活支障度の高い頭痛
   1.片頭痛/2.群発頭痛/3.髄液量減少症(低髄液圧症候群)/
   4.心因性頭痛
  F その他の頭痛・顔面痛
   1.三叉神経痛/
   2.一次性雷鳴頭痛とreversible vasoconstriction syndrome(RVS)/
   3.特発性頭痛内圧亢進症/4.脳梗塞・脳出血による頭痛/
   5.脳腫瘍による頭痛/6.頭内爆発音症候群
  G 頭痛の神経診察のポイント
第2章 めまい
  A 「めまい」診断の決め手は病歴聴取である
   1.ERでの「めまい」の背景疾患を知る/2.「めまい」の中味を分析する
  B 非前庭性めまいを診察,診断する
  C 4つの代表的な良性(非悪性),前庭性(真性)めまい疾患の特徴を理解する
   1.良性発作性頭位めまい(BPPV)/
   2.メニエール病とその他の末梢性耳性めまい/3.片頭痛性めまい/
   4.前庭神経炎
  D その他のめまい疾患(脳血管障害は除く)
   1.前庭性てんかん・脳波異常に伴うめまい/
   2.前庭性発作(神経血管圧迫症候群の一種)/3.両側前庭機能喪失
  E 脳血管障害に関連するめまい疾患
   1.テント下脳梗塞によるめまい/
   2.小脳血管性小病変によるめまいを伴わない眼球共同偏倚/
   3.大脳病変によるめまい
  F めまい疾患の誘発因子と随伴症状
   1.誘発因子/2.頻度の多い随伴症状/3.頻度の少ない随伴症状
  G めまいの診察手技
第3章 しびれ
  A しびれの定義
  B しびれをきたす疾患・病態
  C しびれの部位,性状,経過,誘因などからわかること
   1.部位/2.性状/3.経過/4.誘因などの病歴/
   5.しびれの診察のピットフォールと対策/
   6.原因のつかめないしびれに出会った時の6つのtips
  D 上肢のしびれ
   1.手根管症候群/2.肘管症候群(尺骨神経障害)/
   3.脳梗塞による偽性尺骨神経麻痺/4.大後頭孔症候群における手のしびれ/
   5.ビタミンB12欠乏症
  E 下肢のしびれ
   1.meralgia paresthetica(異常感覚性大腿神経痛)/
   2.腰椎脊柱管狭窄症による大腿前面のしびれ/3.restless legs症候群/
   4.足根管症候群/5.burning feet(灼熱脚)症候群
  F 四肢のしびれ
   1.頸椎症による四肢遠位のしびれ(偽多発ニューロパチー型)/
   2.肢端紅痛症(erythromelalgia)/3.薬剤性のしびれ
  G 顔面のしびれ
   1.三叉神経入口部病変:脳梗塞と多発性硬化症/
   2.膠原病による三叉神経障害/3.numb chin症候群とnumb cheek症候群/
   4.burning mouth(灼熱口)症候群
  H 顔面と手のしびれ
   1.手口感覚症候群
  I 体幹のしびれ
   1.糖尿病性体幹ニューロパチー
  J 背中のしびれ
   1.後天性全身無汗症
  K 半身のしびれ
   1.中心後回にほぼ限局する脳梗塞の感覚障害
  L レベルを有するしびれ
   1.脊髄ヘルニア/2.急性自律神経性感覚性ニューロパチー
  M 難治性のしびれ
   1.視神経脊髄炎にみられる痛み・強いしびれ
  N その他のしびれ
   1.過換気症候群によるしびれ/2.心因性のしびれ
第4章 パーキンソン病とその周辺
  A パーキンソン病
   1.疾患概念/2.病型/3.検査/4.鑑別診断/
   5.パーキンソン病・パーキンソニズムの診断のポイント
  B パーキンソン病の運動症状
   1.動作緩慢(寡動・無動)/2.振戦/3.筋強剛と前屈姿勢/
   4.姿勢反射障害/5.すくみ(すくみ手,すくみ足)/6.その他の運動症状
  C パーキンソン病の非運動症状
   1.レム睡眠行動異常症と睡眠障害/2.便秘,自律神経障害/
   3.嗅覚鈍麻/4.「抑うつ状態」/5.感覚異常と疼痛/
   6.感冒(風邪)抵抗性/7.認知障害,精神症状,神経行動異常
  D その他のパーキンソン病の臨床症状
   1.パーキンソン病にみられる左右差(非対称性)/
   2.パーキンソン病の姿勢異常/3.パーキンソン病における骨粗鬆症/
   4.パーキンソン病における転倒-骨折-異常姿勢
  E パーキンソン病の神経画像検査と心筋シンチグラフィ
  F 遺伝性パーキンソン病
  G パーキンソン病の鑑別診断
   1.パーキンソニズムではないのに,パーキンソン病と誤診されやすいパターン/
   2.パーキンソニズムがあるのに,非パーキンソニズム性の他疾患と
   誤診されるパターン/3.パーキンソニズムの中での鑑別
第5章 物忘れ・デメンチア(認知症)
  A デメンチア・痴呆・認知症
  B “attended alone”(1人受診)徴候
  C デメンチアの疫学
   1.デメンチアの総数/2.デメンチアの分類と相対頻度
  D 物忘れ・デメンチアの診察
   1.物忘れの最初の診察/
   2.デメンチアや高次脳機能障害が疑われる時にベッドサイドですること/
   3.デメンチアと区別すべき状態
  E デメンチアをきたす代表的変性疾患の臨床的特徴と診かた
   1.アルツハイマー病/2.レヴィ小体型デメンチア(DLB)/
   3.前頭側頭葉変性症(FTLD)
  F 血管性デメンチア
  G 身体疾患に伴うデメンチア
   1.薬物による偽性デメンチアまたはデメンチアの悪化/
   2.ビタミンB12欠乏性デメンチア/3.水頭症/
   4.非けいれん性てんかん重積状態
第6章 精神症状,高次脳機能障害
  A せん妄とacute confusional state(ACS,急性錯乱状態)
   1.せん妄とACSの定義/2.せん妄の解剖学的-生理学的背景/3.せん妄と特殊型
  B 人格変化と前頭葉症候群
  C 無視症候群と半側空間無視
   1.半側空間無視の概念/2.半側空間無視を示す脳損傷部位/
   3.半側空間無視の症状と診察法
  D カタトニア症候群とカタレプシー
   1.カタトニア症候群の定義/2.カタトニアをきたす原因疾患/
   3.カタトニアの鑑別診断
  E 環境依存症候群とそのスペクトラム
   1.環境依存症候群の定義/
   2.強制把握から環境依存症候群までのスペクトラム/
   3.環境依存症候群を起こす病変部位と疾患/4.環境依存症候群の病態機序
  F 錯聴
  G 大脳性複視(多重視)
  H いわゆるヒステリーの症候学
   1.ヒステリーの歴史的考察/2.ヒステリーによる神経障害/
   3.主なヒステリー症状の臨床的特徴・診察所見
第7章 「奇妙」な症状
   1.「後をつけられている」「狙われている」/2.「頭に霞がかかっている」/
   3.「犬の散歩から帰ってきたのに犬がいるのをみるとまた散歩に行く」/
   4.「頭痛で目覚めたら,車の中にいて,当地の山林にいることがわかった」/
   5.「夜中に妻を殴ってしまったようだ」/
   6.「夜中にトイレに行こうとして電灯をつけたら,脚ががくがくとけいれんした」/
   7.「性交中に激しい頭痛が出現した」/8.「頭の中で爆発する音がする」/
   9.「顔の半分が紅くなる」/10.「眼が(両側とも)開きにくい」/
   11.「耳が紅く腫れて痛い」/12.「口が開けにくい」/
   13.「2週間前から時々呂律が回らない」「大腿や上腕の筋肉痛がある」/
   14.「舌の片側が痛い」/15.「あごがしびれる」/
   16.「食事は食べられるが,大きな錠剤が喉を通らない」/
   17.「食事(咀嚼)中にめまい感がする」/18.「乗物酔いしやすくなった」/
   19.「ひげそり時に失神する」/
   20.「首を前屈すると背中に電気ショックが走る」/
   21.「半身が勝手に動く」/22.「すし屋の湯飲みを押し倒しやすい」/
   23.「左手で物を取ろうとしたら,手前目になってうまく掴めなかった」/
   24.「字が小さくなった」/25.「運んだバケツから手を放せない」/
   26.「上肢の帯状疱疹後に手が腫れてから痩せて硬くなってきた」/
   27.「記憶にも会話にも異常がないのに物品・道具が扱えない」/
   28.「ネクタイが結べない,囲碁が弱くなった」/
   29.「走り始めに膝が崩れて転ぶ」/30.「足がむずむずして眠れない」/
   31.「手足が紅く腫れて痛い」/32.「坂道を下ると脚が痛くなる」/
   33.「顔を洗う時に洗面台にもたれないとだめだ」/
   34.「発作的に鳥肌が立って思考力がなくなる」

第II編 緊急処置が必要な患者
第1章 けいれん
  A けいれんと失神の鑑別
  B 真性てんかん性けいれんと心因性非てんかん性けいれん(偽性けいれん)の鑑別
  C てんかん重積状態と持続性部分てんかん
   1.てんかん重積状態/2.持続性部分てんかん
第2章 意識障害
  A 意識と意識障害
  B 一過性意識障害
  C 意識障害と紛らわしい病態
   1.失語症/2.高度のうつ状態/3.ナルコレプシー/
   4.locked-in症候群/5.いわゆるヒステリー
  D 意識障害の原因
  E 意識障害(半昏睡・昏睡)時の診察
第3章 急性球麻痺
  A 球麻痺をきたす疾患とその特徴
   1.球麻痺/2.末梢性・筋性/3.偽性球麻痺
  B 球麻痺と偽性球麻痺の鑑別のポイント
  C 急性の球麻痺の原因と鑑別点
第4章 急性四肢麻痺
第5章 脳梗塞
  A どんな時に脳梗塞を疑うか
  B 脳梗塞の分類
  C ラクナ梗塞
  D アテローム性血栓症
   1.A-to-A機序/2.分水界梗塞(低灌流機序)/3.領域閉塞/
   4.分枝アテローム梗塞(BAD)/5.大動脈原性塞栓症
  E 心原性脳塞栓症
  F 一過性脳虚血発作(TIA)と一過性神経障害(TND)
   1.TIAとTNDの定義/2.病態機序によるTIAの分類/
   3.一過性単眼性盲(TMB)/4.一過性全健忘(TGA)
  G 血管病
   1.脳アミロイドアンギオパチー/2.もやもや病/3.線維異形成症
  H 若年者の血管(脳梗塞)危険因子
   1.血管炎/2.抗リン脂質抗体症候群/3.動脈解離/
   4.凝血学的原因/5.脳静脈血栓症/6.MELAS

第III編 神経診察のポイントと画像診断のピットフォール
第1章 神経学的診察の実際
  A 「神経学的診察の実際」へ向かう前に
   1.神経学的診察とは/2.患者と対面する前に/
   3.入室から着席までにわかること/4.神経診察の目標/
   5.神経診察における系統とレベル/6.診察手技の取捨選択/
   7.神経学的現症の記載について
  B 反射の診かた
   1.腱反射の診かた/2.表在反射(特にバビンスキー徴候)の診かた
  C 運動系の診かた
   1.視診/2.筋力/3.筋緊張/
   4.上位運動ニューロン徴候と下位運動ニューロン徴候/
   5.軽微な錐体路徴候/6.心因性筋力低下
  D 体性感覚系の診かた
   1.体性感覚の障害があると何が起きるか/2.感覚系のモダリティー/
   3.感覚検査の注意点/4.感覚障害におけるいくつかの重要なキーワード/
   5.心因性感覚障害
  E 脳神経はこれだけ診ればよい
   1.脳神経I(嗅神経)/2.脳神経II(視神経)/
   3.脳神経III・IV・VI(眼球運動系)/4.脳神経III(眼瞼)/
   5.脳神経V(三叉神経)/6.脳神経VII(顔面神経)/
   7.脳神経VIII(聴神経)/8.脳神経VIII(前庭神経)/
   9.脳神経IX-X(舌咽-迷走神経)/10.脳神経XI(副神経)/
   11.脳神経XII(舌下神経)/12.下位脳神経麻痺症候群
  F その他の神経診察におけるtips
   1.協調運動系/2.自律神経系
第2章 画像診断のピットフォール
  A 撮像部位選択の誤り
   1.脳病変か脳神経病変か/2.脳病変か脊椎・脊髄病変か/
   3.腰椎部かそれより高位病変か
  B 読みの不足
   1.正常構造を異常とみなす誤り/2.ワーラー変性を新規病変とする誤り/
   3.画像上の「軽微な所見」の見落とし/4.画像の全範囲を見ない見落とし
  C 短絡的判断
  D アーチファクトへの理解不足

索引

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書評 (雑誌『Clinical Neuroscience』より)
書評者: 園生 雅弘 (帝京大学教授・神経内科)
 亀田総合病院で神経内科部長として現役で活躍されている著者の、長年の臨床経験に基づく神経内科の教科書として上梓された本書は、その副題に「General Neurologyのすすめ」と付けられている。著者の意図するところ、本書を書こうと考えられた動機は、序文で余すことなく述べられている。

 その最初に、例えば初学者が、専門医試験のために勉強するような多くの知識は得ていても、日常診療で遭遇する症状をどのように捉えて診断に結びつけていくかという場面で、圧倒的な情報量の中で立ちすくんでしまって診療の道筋を間違えてしまう、たとえばキーワードにつられて全然関係ない疾患の鑑別のために余計な検査をして患者に負担をかけてしまうような現実を見聞きする中で、そのような日常診療の道標となることを目指したと書かれている。非常に説得力のある観点であり、本書の章立てもまさにそのように、頭痛、めまい、しびれ…というプライマリケア症状から始まる部分が全体の2/3を占めている。後半の1/3が神経救急の同様の観点からの記述で、けいれん、意識障害、急性球麻痺…と続いている。まずはこのような観点の章立てで書いてある、しかもレジデント向けマニュアルの類いではなくて、まさに神経専門医が座右にできる教科書というのは、評者の乏しい知識の範囲だが、他にない唯一無二のものなのではと思われる。

 序文では次に分担執筆ではなく、著者一人による一貫したものの見方を提示したことの自負が書かれている。これも本書の大きな特徴といえよう。各分野の専門家が書く分担執筆の教科書ももちろんそれ故の価値があるが、このようなモノグラフとしての教科書は得難いものであり、その利点が遺憾なく発揮されている。例えば、おそらく自験例から選択されたのであろう、第一部の最後にある「『奇妙』な症状」、などという章は、単著ではないととても書かれないものであろう。色々あるが、「食事中にめまい感がする」というのはなるほど!と感心させられたし、「すし屋の湯飲みを押し倒しやすい」というのは、評者の専門にも関係することだが、とても面白く勉強になった。

 最後に「神経学的診察の実際」という短い章があるが、そこでは症候学の大著ではないけれども、実際に診療を行う上での様々な指針やtipsがちりばめられており、ここだけでも多くの初学者は、目から鱗の記述をたくさん見出すことができよう。著者には日本神経学会の卒後教育セミナー(現専門医育成セミナー)で、神経症候学についてご講演いただいたことがあるが、そこで強調されていたことがさらに補完充実して記載されている。多くの興味深い記述があるが、例えば、腱反射が系統(運動系・感覚系)とレベルの交差点にある現象だから重視するのだという主張はおそらく著者のオリジナルではないかと思う。「診たものだけを具体的に書く」というのも大事なことで、「診てもいないのに『脳神経 I~XII正常』などと書くな」というのは、今日神経学的検査の算定のために神経学的チャートの記載が必須とされているなかで、多くの人が陥りかねないpitfallへの重要な警鐘であり、評者も完全に同意する。

 やはり今日の医療状況と関係することとして、序文に「総合診療が一種のブームであるが、神経内科(臨床神経学)は昔から、頭の先から足の先までの各種の症状を扱い、またほとんどの訴えが感覚神経系をつうじてなされるので、もともと総合診療を行ってきたのである」とあり、それがGeneral Neurologyを称する所以でもあると書かれている。まさしくそのとおりである。患者の「症状」とは神経系によって感知され表出されるものである以上、患者の主訴を診療しようとすると(それがイコール医療であろう。ちなみに「医療とは患者の主訴を解決することだ」というのは私の師のひとり、井上聖啓先生の言葉である)、そのかなりの部分が神経内科の守備範囲となってしまうことは当然であり、評者も常々主張していることである。そのような医療の大きな部分についてのexpertである神経内科が、単に内科の一部分であってよいわけがない。ちなみに、著者と評者は「神経内科(Neurology)は、諸外国同様、独立した基本診療科となるべき!」という主張を、ことあるごとに最も先鋭に主張しているひとりとして、同志でもある…これは余談だが。

 ともあれ、著者の長年の実臨床経験の集大成として、このような印象深い大著を上梓されたことに、心から敬意を表し、祝辞を送りたい。

(中外医学社発行 『Clinical Neuroscience』 2014年10月号(Vol.32 No.10)1136頁より許可を得て転載)
卓越した臨床家による神経内科臨床の叡智の結晶
書評者: 西澤 正豊 (新潟大脳研究所所長・神経内科学)
 亀田メディカルセンターの福武敏夫先生が「General Neurology」の素晴らしい書籍を上梓された。本書には一人の卓越した臨床家の手になる,まさに「臨床の叡智の結晶」というべき内容がつづられている。

 「序」に福武先生が述べておられるように,Adams and VictorのPrinciples of Neurologyの初期の版には,「筆者はこう考える」という一節が随所にあり,筆者の深い臨床経験に裏付けられた,説得力のあるコメントが添えられていた。福武先生も愛読され,こうしたスタイルを引き継がれて,本書には先生による貴重なコメントが数え切れないほど散りばめられている。評者はかつて,日本神経学会専門医認定委員会での専門医試験の問題作成にあたって,委員を務めておられた福武先生の臨床の深さに感心することしきりであった。本書をひもとく読者も,「なるほど!」と納得されるであろう。

 欧米の神経学科の外来診療は,通常まず「General Neurology」が担当し,必要に応じてアルツハイマー病,脳卒中,てんかん,運動異常症,神経筋疾患などの専門外来にreferされる。頭痛などのcommonな疾患はそのまま「General Neurology」が診療することになる。わが国ではスタッフ数の差が歴然としているために,このような分業体制をとれる施設はほとんどないので,外来担当医は神経疾患全般に通暁していることが求められる。

 特に頻度の高い神経疾患にアプローチするにはどのような注意が必要か,神経救急の現場では,緊急を要する神経疾患にはどのようなものがあり,どのようにアプローチすべきなのか,こうした基本的なプロセスを示し,考え方の道標となるべき良書はこれまでなかった。本書が執筆された目的の一つはこの点にあり,その目的は十分に達成されている。

 興味深いのは,「『奇妙』な症状」を呈した患者さんについての記載である(第I編 第7章)。「気のせい」「医学的に理解できない」などと切り捨てられがちな34症例が挙げられていて,大変参考になる。重複して引用されている症例は,それぞれの引用先まで戻らねばならないのが,本書では唯一残念なところで,機会があれば,ぜひまとめて読めるようにしていただきたい。

 最近の医学生はテキスト離れが進んでいるが,医学生にも,そして神経学を学ぶ研修医,学生や研修医を指導する立場の専門医・指導医にも,「General Neurology」に関する前例のない,優れた入門書として,本書を強く推薦したい。
ユニークな内容で広く長く読まれるべき一冊
書評者: 河村 満 (昭和大教授・神経内科学/昭和大病院附属東病院長)
 福武敏夫先生ご執筆の『神経症状の診かた・考えかた—General Neurologyのすすめ』が出版されました。福武先生でなくては書くことができないユニークな内容です。神経内科医であれば初心者から上級医まで,広い範囲の先生方に太鼓判を押してお薦めできます。一般内科の先生方や,リハビリテーション医,メディカル・スタッフにも有益な本であると思います。本来難しいことがわかりやすく表現されているのがこの本の最も大きな特徴です。

 全体は3つの部分から構成されています。すなわち,第I編「日常診療で遭遇する患者」,第II編「緊急処置が必要な患者」,第III編「神経診察のポイントと画像診断のピットフォールからなっており」,第I編の第7章はなんと「『奇妙』な症状」とされています。その前の第6章は,神経内科医があまり得意ではない「精神症状,高次脳機能障害」です。第I編の第1章・2章・3章が,「頭痛」「めまい」「しびれ」で,いわゆるコモン・ディジーズであり,この本では奇妙な症状もコモンな病態も同等に扱われて,平等に並んでいるのです。第II編の第3章は「急性球麻痺」そして第4章が「急性四肢麻痺」であり,その組み立ての特異さが際立っています。さらに,それぞれの章に多くの具体的症例が,病歴・診察内容・検査や診断の過程とともに掲載されていて,わかりやすい読み物をめざして執筆された著者の気持ちが伝わってきます。

 ごく最近,昭和大神経内科のカンファレンスで,カタレプシーを呈し,緊張病(カタトニア)症候群が疑われましたが,辺縁系脳炎も否定できない問題症例が提示されました。受け持ちグループは,内外の最新文献を読み,よく消化して解説してくれました。しかし,「カタレプシー」「緊張病症候群」の定義や実際の症候内容は本来なかなか難しい点があり,カンファレンスはさらに簡潔な解説が欲しい,という雰囲気になりました。私は本書評を書くために,偶然この本を持っていました。もしかしたら書かれているかもしれないと思い,ページをめくると,右頭頂葉皮質下出血の急性期にみられた左上肢のカタレプシー症例の診察風景と頭部CT所見がちゃんと掲載され,平易に解説されていました(p205)。緊張病症候群を来す神経疾患も表できちんと示されており(p206),この中に辺縁系脳炎が確かに含まれていました。カンファレンスの最後,受け持ちグループの「考察」が述べられた後に,この本を紹介し,皆で回し読みして,私自身だけではなく医局員全員の理解が進みました。私たちの教室では,とても役に立つ本として,この本が認識されています。

 福武先生と私は,千葉大神経内科で10年以上ご一緒しました。当時の教授は平山惠造先生で,私たちは平山先生に直接ご指導いただき,大きな影響を受けました。序文を読むと,福武先生はご自身の診療態度を名探偵シャーロック・ホームズの観察や推理と同様である,と考えていることがわかります。平山先生から神経症候学の神髄を伝授され,ホームズを意識して神経疾患を持つ患者さんの症状・病態に向き合われて,独自の診かた・考えかたを開拓なさった福武先生が一人でつくったこの本は,広く読まれ,長く残るに違いない,と私は考えております。
神経内科プロフェッショナルの思考過程を学べる一冊
書評者: 岩田 充永 (藤田保健衛生大教授・救急総合内科)
 私はこれまで,walk-inから救急車までいろいろな経路でERを受診した方の救急診療を研修医と共に行ってきました。神経疾患の比率としては脳血管障害,つまり画像で“答え合わせ”ができる疾患に非常に多く遭遇します。救急医を志した当初は,時間があるかぎり自分で診察して,病歴をとって,「この部位に病変があるのかな」と考えてから画像を撮り,神経内科医を呼んだときに,自分が行った診察と彼らがとりたい所見とがどう違うのかを見ながら勉強するように,心がけてきたつもりです。

 しかし,神経内科医によっても所見のとり方が微妙に異なっていたり,神経内科の先生に笑われないように勉強しようと思って本を買っても,まるで所見のカタログではないかと思うくらいたくさんの所見が載っていて,「神経診察を勉強するのも難しいものだなあ……」と途方に暮れ,いつしか「患者多数でER混雑」を言い訳に,ついつい「画像検査を行って,必要があれば髄液検査を行って…,(結果がどうであっても)神経内科医に相談して……」という流れ作業のような診療になってきたことに気付きます。

 そんな中で,福武敏夫先生が記された『神経症状の診かた・考えかた―General Neurologyのすすめ』に出合い目次を見たところで,かつて,米国で神経内科専門医としてご活躍の先生に,「神経内科の専門医は,どのように考えて診察を行っているのか?」と思考過程を伺ったところ,「神経内科専門医の資格をとるための神経診察の仕方のスタンダードが,ある程度決まっていて,訴えからどのセットを出してくるかということなんですよね。Parkinson病セットとか,錐体外路セットとか,運動異常症セットみたいな感じで,所見のとり方を考えるのが面白い」と教えていただいたことを思い出しました。

 読んだ後の感想は……。

 「そうそう,この症状からどの診察セットを出すか,専門医の思考過程を知りたかったんだよね!!」と本当に得をした気分になりました。

 日常診療でよく遭遇する症状(ERではwalk-in受診に該当するものと感じました)から救急車で受診するような緊急性の高い症状まで「神経内科のプロフェッショナルはこんな風に考えていたんだ」と思考過程を学ぶことができます。第I編 第7章「『奇妙』な症状」を読んで,かつて「最近,うちのおじいさん,首が下がって元気がない」という受診にどうしたものか頭を抱えていたところ,たまたま通りかかった神経内科医が「これは典型的なアミトロ(amyotrophic lateral sclerosis ; ALS,筋萎縮性側索硬化症)ですね」と瞬時に診断した衝撃を思い出しました。また,第III編 第2章「画像診断のピットフォール」を読んで,「とりあえず画像検査」という安易な診療になっていた自分を反省する機会となったことは個人的には大きな収穫です。

 世の中に優れた臨床家はたくさんいると思いますが,彼らの頭の中(思考過程)をわかりやすく説明してくれる優れた書き手は多くいません。福武先生は,優れた臨床家と書き手の両方の能力を備えられた先生なのだと思います。今後も「臨床医の匠の技」をぜひ,私たち(出来の悪い)後輩医師に伝えていただきたいと心から願っています。

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