看護教員に伝えたい
学校管理・運営の知恵と工夫

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学校運営や学校管理は、学校長や教務主任だけの仕事ではない。看護学生の学びを支える学校環境を作っていくには、すべての教員が学校管理・運営を知ることが必要。本書は、教育の質を担保するうえで必要な学校管理・運営について、著者らの経験をもとに、また身近な課題を取り上げて執筆されている。看護教員の必携書。
編集 江川 万千代
発行 2015年08月判型:A5頁:144
ISBN 978-4-260-02199-9
定価 3,080円 (本体2,800円+税)

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  • 序文
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まえがき

 従来から,看護学校の管理・運営は,学校長や教務主任の役割であり,看護教員はもっぱら授業や学生指導を主とした役割で,学校の管理・運営からは遠い存在としてとらえられ,なじみも薄かった。しかし,看護教育の質と量を担保するためには,看護教員も管理者の一員であるという自覚が必要であり,実質的な学校管理に対する理解は,必要不可欠な要素として看護教員の能力の1つに挙げられるようになった。
 看護教員養成講習会でも専門分野の教育目標の1つに「教師として学校の組織運営に主体的に関わる能力を養う」という内容が明確に提示されている。看護学校経営という分野の授業科目として,看護学校管理1単位(15時間)が計画され,成績評価までするようになったことからも,その必要性がうかがえる。筆者自身も,看護教員に就任した当時は,学生指導や担当分野の授業に明け暮れ,教材研究が唯一の楽しみとして,工夫を重ねながら過ごしてきた。当時の看護教育は,設置主体の看護師を養成するという目的で,病院の附属機関として運営されてきた経緯があり,学校経営という概念が薄かったのも事実である。たとえば,物品購入(図書や消耗品に至るまで)に関しても病院経営に大きく左右され,独立した管理・運営は考えられなかった時代であり,今も先輩から引き継がれたそのような観念的な要素が残っているのも事実である。
 時代は平均寿命の延長,少子高齢社会,高学歴化,健康に対する人々の関心の深さや在宅医療を重視するようになった医療など,大きく変化している。看護教育内容もまた社会背景を受け変化するようになった。看護学校がその変化に適応していくには,学校経営という概念抜きには,管理・運営ができない時代となった。
 本書は,雑誌「看護教育」において2013年4月から2014年3月まで連載されたものをもとにまとめた。筆者の長年にわたる看護教育,看護管理,看護行政の体験に基づいて書いているが,看護学校管理をわかりやすく説明するために,12回の連載を7つの章で構成しなおした。各章については目次をご覧いただくとし,本書は教務主任のみならず看護教員にも伝えたい事柄を網羅している。
 また,平成27年度より看護学校の許認可については,各都道府県に委譲されるようになった。看護教育の質が低下しないように,各学校の主体性が問われる時代である。学校の運営責任者は,看護教員個々の管理的能力を高め,学校経営に参画させる責任があることを自覚すべきである。従来型のトップダウンではなくボトムアップにより合意形成を図りながら管理運営していく姿勢が必要となる。看護教員が学校の管理運営に参画することは,将来的に学校のリーダーを育てることにつながり,大いに推奨すべきことである。

 2015年7月
 編集 江川万千代

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まえがき

1 看護学校の経営を理解するために
 I 自校(経営者)のミッションを知ろう
 II 自校のビジョンを確かめよう
 III 自校の運営方針・目標(長期,中期,短期)を確かめよう
 IV 有効な経営資源の使い道とは

2 看護学校運営で一番大切なこと
 I 学校経営と学校管理の違いを理解する
 II 組織における意思決定とは
 III 学校運営のためにどんな会議をするのか
 IV 看護学校における管理領域とは
 V 学校職員の役割と業務を知る

3 看護学校運営の中心はカリキュラム
 I 教育理念は各分野の授業まで貫かれているか
 II 授業各分野はこのように考える
 III 教科外活動はこのように考える
 IV 授業進度をどのように考えるか

4 適切な管理が学校運営を支える
 I 学習への動機づけは環境づくりから
 II 図書室は学生のオアシス
 III 施設管理は日々の点検から
 IV 情報管理は個人と学校を守るキーワード
 V 教育環境は危機管理から
 VI 職場の人間関係は互いの尊重から
 VII 学級管理でリーダーを育てよう!
 VIII 学校運営を支える事務管理

5 看護教員が身につけたい能力
 I 教育実践能力と看護実践能力のバランス感覚を身につけよう
 II 臨地実習の場で動機づけができる指導力を身につけよう
 III 教員会議を利用し研究的取り組みを
 IV 個性を尊重できる人間観をもとう
 V 発想の転換を図ろう
 VI 問題解決に必要なリーダーシップを身につけよう

6 学習権の尊重と倫理的配慮
 I 学習権とは
 II 学生が学習困難になったとき
 III 学生が問題を抱えたとき
 IV 看護教員の抱える多くの問題
 V 自己学習を支援する環境づくり

7 看護学校の自己点検・自己評価
 I 看護教員の意識になかった「学校管理」
 II 何のために自己点検・自己評価をするのか
 III 自己評価の全体像と組織づくり
 IV 自己評価する際に気をつけること
 V いつ自己点検するのか
 VI 自己評価の限界と課題
 VII 自己評価を公表する
 VIII 自己点検・自己評価の法的根拠

あとがき
索引

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専門学校を職業教育のみならず人間教育の場としていく工夫が満載 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 荒川 直子 (国立病院機構熊本医療センター附属看護学校教育主事)
 看護師養成の歴史は,1951(昭和26)年指定規則制定に遡る。当時は,医学モデル中心の看護教育であり,看護は医師によって教授されていた。その後,第4次のカリキュラム改正を経て今日の看護教育がある。この間,われわれ看護教員は,看護師が学校長として看護学校を管理・運営し,次世代を育て上げる日がくることをどれほど鶴首して吉報を待ち望んでいたことだろう。

 編著者の江川万千代氏は,昭和から平成の看護教育イノベーションにおいて,理論知と経験知を英知として先陣を走ってこられた。その英知がこの本に集約されている。この本には,看護教員自身が看護学校の経営・運営に積極的に関与することの重要性や,看護学校運営のコアであるカリキュラム,自己点検・自己評価,そして学習者である看護学生の学習権と倫理的配慮,看護教員として身に着けたい能力に関する知恵と工夫が詰まっている。思わず,「フムフム,ナルホド,ソウソウ」とつぶやきながら夢中になって読み進める。特に事例の紹介では,江川氏と共著者の鮫島陽子氏や小川恵美氏をはじめ,職員のみなさんのご苦労とあきらめない情熱と看護学生への愛情を感じる。看護教育の現実が赤裸々に記述されているが,そのなかに志と情熱を感じるのである。

 看護学校は,看護専門職を育てる職業教育の側面と一人の成人としての人間成長を育む側面をもつ。著者らは,そういった成人学習者の学習権・知る権利を尊重するという信念のもと,カリキュラムだけでなく,学習環境を整えるということを大切にされている。特に,図書教材の環境には多くの知恵と工夫が施されている。看護学生にとって図書室がオアシスとなるという発想は早速見習おうと思う。図書司書を配置し,日本看護図書協会に加入し,多くの資源を提供しよう試みている。学生がそういった環境のなかで自ら学習できるようになれば最高の学習支援といえよう。学習者にとってのオアシスとは,そういった環境をいうのであろう。

 江川先生はじめ,看護の先人たちの営みは,見通す力,“foresight”という言葉を思い起こす。2025年および2040年問題の渦中,看護実践者,看護管理者として活躍する人材となる現代の看護学生にも,このような力を養ってほしい。よき書物に囲まれ大いに学ぶことが整った環境は生涯学習力の基盤となる。そういう愛情が注がれ育った看護学生から湧き出す愛情が看護の対象に注がれていくはずだ。この本にみられる江川氏のこれまでのご活躍は私たちのバイブルである。看護教育にこれから携わる新人看護教員のみならず,中堅看護教員や看護教育管理者のみなさんにもお薦めしたい。きっと,志と情熱と,そして看護教育に携わるものとしての誇りを感じる一冊となる。

(『看護教育』2015年12月号掲載)
運営の指針を一つにする知恵と工夫が随所に光る一冊
書評者: 西村 由紀子 (純真学園大教授・健康福祉学)
 本書は,江川万千代氏の看護教育や臨床現場での実践や管理をはじめとする豊富な経験を基に記されたものである。学校管理や運営は学校長や教務主任だけの役割ではなく,看護教員も管理者の一員という自覚が必要という考えに基づき,基本的かつ具体的な内容が実例を交えて紹介されている。

 本書は7章から構成されている。1,2章には,学校経営・運営の基本的な内容が述べられているが,1章の冒頭で看護学校経営と管理・運営の関連図および学校経営のステップが示してある。これにより経営・管理・運営の目指すところや関係,その要素が多岐にわたることに改めて気づかされる。さらに学校がその使命を果たすには,運営の目標を長期,中期,短期で立案した上で,学校長以下学校職員が組織上の役割を遂行していくことが重要であるとしている。

 3章のタイトルは「看護学校運営の中心はカリキュラム」である。文字通り教育理念を実現するためのカリキュラムについて,教育理念に始まり,教育課程の構造図から分野別の構成の考え方,さらに臨地実習の考え方,教科外活動や進度表に至る例示によりわかりやすく示されている。

 4章は学校運営を,学習への動機づけのための環境づくり,危機管理,情報管理,事務管理などの視点から述べられている。例えば図書室管理については,「図書室は学生のオアシス」というタイトルとなっている。紛失図書の対策で悩んでいる学校は少なくないと考えられるが,センサーや持ち物検査ではない方法で減少させることができることを紹介している。

 5章は「看護教員が身につけたい能力」,6章は「学習権の尊重と倫理的配慮」となっており,学校管理・運営の柱というべき教員,学生について述べられている。教員に「個性を尊重できる人間観をもとう」という呼びかけに始まり,さまざまな理由で入学してくる学生の学習権を尊重するために,学習困難な状況に陥る要因を分析した上で,いつでもどこでも学習できる学生中心の環境整備・自己学習のできる環境づくりの重要性とそのポイントが具体的に述べられている。

 7章は「看護学校の自己点検・自己評価」である。ここでは1章で述べられている経営・管理・運営の目指すところに到達するために,いつ,何を,どのように点検・評価するかについて自己評価を機能させる組織づくりや評価の具体的なプロセスについて,課題を交えながら実例を用いて紹介されている。

 人口構造,医療環境,社会の期待や人々の認識の変化,看護基礎教育制度自体が転換期を迎えているなど看護教育を取り巻く環境は大きく変貌している。こういった中で教育は,学習者を尊重し,自律的かつ発展的にその使命を果たしていく必要がある。本書は,組織の一員として自身の役割を再認識し,なぜ,何を,どのようにしていくかを考え,運営の指針の一つにすることができる知恵と工夫が随所に光る,身近に置いておきたい一冊である。

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