看護教育へようこそ

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超高齢社会を迎え、政府は2025年までに看護職員50万人増員計画を打ち出した。看護教育はその質の向上とともに、量の確保をも改めて迫られる時代である。看護大学化時代にあってなお最大の育成機関である看護専門学校では、教務や学生の変化に対応できず現場を去る教員が後をたたない。本書は教育歴30年を超える二人のベテランが、その長年の思いとノウハウを後進に贈るべく著した、看護教師を激励する唯一の教育書。
池西 靜江 / 石束 佳子
発行 2015年04月判型:B5頁:216
ISBN 978-4-260-02121-0
定価 3,080円 (本体2,800円+税)
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  • 序文
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まえがき

 超高齢・多死社会を迎えたわが国で,厚生労働省が打ち出す「社会保障・税一体改革」では「2025年までに看護職員を50万人増やす必要がある」と謳われ,看護基礎教育において,再び「量」の確保が大きな課題として注目を集めることになった.
 また2014年6月には,「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備に関する法律」が公布され,社会人経験者の看護職への取り込み促進等による養成の拡大や復職支援のための登録義務化の推進等が施行されることになった.
 近年は主に「質」-多様な看護教育制度の不統一に関する問題が指摘されてきたが,今後は需要確保のため,多様性を維持しつつ,それぞれの質の向上をめざす取り組みの重要性が増すと考えられる.また本年3月31日付で看護師等養成所等の運営・指定申請等に関する指導要領・手引きが廃止され,4月からそれらの内容を網羅した指針が厚生労働省から出されるが,時を経るにつれ,今後は各地それぞれでの教育の特徴も出てくるであろう.

 看護師の養成拡大および教育の質向上をめざすとき,何より重要なのは「教員」の質・量の確保である.近年,臨床看護師のキャリア開発・発達については,さまざまな制度が生まれ,関係諸団体が積極的に取り組まれている.しかし,教育現場を実際に支えている看護学校教員のキャリア開発の方向性は,見えにくい.一般に専任教員養成講習会などの受講を経て専任教員になるが,そのあとには,教務主任養成講習会が用意されているのみである.その間の実務のなかで将来に希望が見いだせず,異動や退職を選ぶ者も多い.
 また専任教員としての新任期に,教育現場になじめず,看護学生の変化に戸惑い,慣れない授業に疲れて,せっかく専任教員養成講習会を修了しても,教員の道を継続することをあきらめる者も少なくない.このような教員の姿を悔しい思いで見続けてきた.

 筆者は看護基礎教育に身を置いて約40年になる.その間に,看護師2年課程,看護師3年課程,そして統合カリキュラム教育を経て,最後は在籍校にて看護師3年課程を修業年限4年で行う課程を立ち上げたタイミングで,自身の定年退職という区切りの時期を迎えた.これを機に,現場の第一線から離れ,それを外から支える立場に立ち位置を変化させた.現在は,これまでの教育経験を通して積み重ねてきた知識や技術を,次の世代の人々に伝えたい.広く看護基礎教育を支援したいという思いで,京都に小さなオフィスを開設している.もちろん自身ができることには限りがあり,その力は微々たるものであるが,たくさんの課題を抱える教育現場,そして,看護基礎教育の実務に戸惑う教員を応援したいという思いを「形」にしたものである.

 その最初の仕事として,看護教員の道を選んでくれた人たちが,これからも「教員」であり続けられるように,という願いを込めた書籍を出版する機会を得た.出版にあたっては,これから看護教育を担う方々に自らの経験知を伝えたい,という願いをしっかり受け止めてくれた編集部青木大祐さん,制作部筒井進さん.そして,願いを共有できるかけがえのない仲間である石束佳子さんの存在があって,願いは「形」になった.本書は,石束さんと私の合作である.すべての章,項目においてお互いの意見を聞き合い,完成させたものである.

 「学生が看護師になるのを応援する教育」のやりがいを感じて,一人でも多く,少しでも長く「教員」を続けられるように,と願ってやまない.

 2015年3月
 著者代表 池西靜江

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 まえがき

1 看護教育とは-そのやりがい
 A 学生の変化からみる看護教育のやりがい
 B 教員自身の変化からみる看護教育のやりがい
 C コミュニティからみる看護教育のやりがい
 D パトリシア・ベナーの教え

2 看護学校とは-そのおもしろさ
 A 学生たちを「看護師にする」場であり,一人の学生が「看護師になる」場である
 B “手塩にかける教育”を実現する場である
 C 日本版デュアルシステムを実現する場である
 D 小さな職場のよさ・強みがある場である

3 これからの看護基礎教育
 A 教えたい看護の専門性-「生活」・「生命」を守ること
 B 専門性を追求し,看護実践能力を育成する教育の内容と方法
 C 「生涯ゆるがないもの,それが基礎」

4 看護教員の心得
 A 看護教員の「心得十か条」

5 看護教員としてのキャリア発達
 A 看護師養成所の専任教員になる資格
 B キャリア発達の道すじ
 C キャリア発達を支えるもの

6 看護教員の業務
 A 看護師養成所の専任教員の業務

7 学生との付き合い方と距離感-イーブンな関係をめざす
 A 一定の距離を保って付き合う
 B 倫理的な原則に従った付き合い方をする
 C 学生が憧れるロールモデルを示す

8 困った学生・気になる学生-こんな場合どうする?
 A シングルマザーは増加傾向に
 B 性同一性障害の学生-マイノリティを許容する
 C 学校内での盗難
 D SNS利用上の注意点
 E 心の病気

9 授業場面で困ること-こんな場合どうする?
 A 看護の心が伝わらない,そんな場面での対応
 B さまざまな授業場面での困りごととその対応

10 授業力を磨く-研究授業の実践と評価
 A 研究授業とは何か-その要件
 B 研究授業で授業力を磨くために
 C 研究授業の効果
 D 研究授業の実際

11 看護実践能力の向上をめざす授業づくり-「看護の統合と実践」
 A 科目設定理由
 B 前半の単元-臨地実習に向けた準備
 C 後半の単元-OSCE
 D 看護の統合と実践Ⅰ(後半の単元)を終えて
 E 看護の統合と実践Ⅰを通して

12 学生参加型の授業づくり
 A 学生参加型の授業方法
 B 事例・看護場面を教材にした学生参加型の授業づくり
 C PBLテュートリアル教育
 D 事例・看護場面を教材化した講義

13 臨地実習の効果的な指導法
 A 臨地実習の意義
 B 現代の課題-看護過程の展開の限界
 C これから大事にしたい指導方法

14 看護教育課程を理解する
 A 教育課程理解のための基礎知識
 B 看護教育課程について
 C いま求められる看護基礎教育
 D 看護教育課程編成のプロセス
 E 看護教育課程編成の実際
 F 看護教育課程の評価

15 教育評価の悩みに答える
 A 教育評価とは何か
 B 評価の妥当性と信頼性
 C 教育評価の種類
 D 評価規準(criterion)・評価基準(standard)とルーブリック(rubric)
 E 評価方法(用具・ツール)
 F 看護教育に新しく導入された評価方法

16 教科外活動の運営と課題
 A ホームルーム活動
 B 学校行事および研修など
 C 学生自治会活動
 D 教科外活動の課題と神髄

17 国家試験対策をどう考え,進めるか
 A 国家試験直前で慌てる学生たちへ
 B 国家試験対策で必要な事項

18 対談-ふたりの30年を振り返る
 A なぜ,どうして教員の道に
 B 教員を辞めたいと思ったとき
 C 看護教員になってよかった
 D 教員同士の関係性のなかで
 E コミュニケーションが苦手な学生とのかかわり
 F なぜ看護の専門学校なのか-その先の夢

 あとがき
 索引


コラム
 百年を思うものは人を育てよ
 当たり前のことばかり
 書籍からの学びは,成長によって変化する
 対人距離について
 宣誓の日を迎えるにあたって
 「めんどうくさい」という学生Aさんのこと
 教職員が魅せたスタンツ

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40年の蓄積から語られる看護教育の真髄と醍醐味 (雑誌『看護教育』より)
書評者: 川嶋 みどり (日本赤十字看護大学名誉教授/臨床看護学研究所所長)
 看護の高等教育化の勢いは未だに留まることを知らない。一方で,大学を上回る数の看護専門学校が看護師育成の主力を担っている。その専門学校教育ひとすじに40年間歩み続けた著者が,「これだけ打ち込める職業と出会えたことに勝る幸せはない」と,教師の立場と学生の目線から専門学校教育の“よさ”と魅力を,共著者との意見交換をふまえて隈なく語ったのが本書である。

 教育のキーワードは「変化」であるといい,「待って,現れる変化こそ,人として,援助職者としてのやりがい」,その積み重ねが教員のやる気につながり,その過程での学生との相互作用により教員自身も変化成長するという。まさに著者らのこの経験知は,教育全般に通じることと受け止めた。

 全体が18の柱で構成されていて,4番目の柱を読み終える頃には,看護教育の展望をふまえた看護教員のあり方が浮き彫りになる。「教えるとは希望を語ること,学ぶとは誠実を胸にきざむこと」とのアラゴンの言葉が,著者らの教育への思いの全容を語り,読む人それぞれが直面している問題と重ねると,さらに枝を広げる可能性を秘めている。

 そして,本書の多くでは,看護実践能力の向上をめぐる授業づくりを中心に,看護教員の授業力の磨き方から評価方法に至るまで丁寧に述べられている。新参教員を悩ませる学生とのつきあい方についても,決してきれい事では済まず,こんな場合にはどうすればよいかを具体的に展開している。どの頁にも,教員であれば誰でも思い当たる事例を通して,理念を具体化する道筋が述べられている。

 最終章のお二人の対談は圧巻である。30年間に醸成された息の合った同士の率直なやりとりが楽しい。「大学も専門学校も看護を学ぶうえでの指定規則は同様であるが,実践者としての看護師を育てるには,都道府県管轄の専門学校の指導要領は厳しく規定されていて,とりわけ臨地実習時間数において大学を上回っている実情がある」とは,職業人育成から見た専門学校の優位性とも言え,専門学校教師としての自負心の根拠でもあろう。確かに大学教育では,それぞれの専門領域で卓越した教師がいても,他領域との交流が日常的にあるわけではなく,実習時間数の読み替えなどによる臨床実践能力への影響は無視できない。したがって,「異なった価値観や経験を持った教員が一丸となって手塩にかけた教育のできることが楽しい」というのは,決して強がりではなく真実であると思う。ここでは,教員である前に一人の女性(人間)としての思いや生き方にまで触れた会話がされていて,本書を手にした者が「教育って面白い」という著者らの気持ちに心底共感できる。

 看護教員はもちろん,多くの看護師のみなさまにぜひ読んでいただきたい書である。

(『看護教育』2015年8月増大号掲載)
学生の可能性を信じ,自ら学び続けるための看護教員の心得書
書評者: 荒川 眞知子 (日本看護学校協議会会長)
 超高齢社会を迎え,今後より一層,保健医療福祉の充実が求められる。中でも看護職員の質・量の確保は大きな課題であり,厚生労働省は「2025年には看護職員を50万人増やす必要がある」と,具体的な数値を打ち出している。そのためには,これまで以上に看護職養成に携わる教員の質・量の確保が重要となる。しかし,われわれが行った「管理運営に関する実態調査」でも,多くの養成所において「慢性的な教員不足」の状態が続いている。看護教育を通して,学生とともに成長する喜び,その仕事のやりがいや魅力を次の世代の人々に伝えたい——。そう思いながら,看護教育に携わってきた者として,本書の誕生を心から喜び,感謝している。

 本書は,全18章で構成されており,看護教育実践に必要な全てが網羅されている。この領域の書籍として,方法論に関するもの,教育カリキュラムに関するもの,学校管理や学校経営に関するもの等それぞれについては数多く出版されているが,本書のように一冊にまとめられているものは見当たらない。

 著者は,「百年を思うものは人を育てよ」と古の言葉を引用しながら,すぐに答えの出ない“教育”に対して決してあせらなくてよいこと,また学ぶ人を「発達の可能性を秘めた人」と捉え,なにげない些細なことが「やりがい」となると示す。この教育観は,悩みながら手探りで看護教育に携わっている人たちに「教育の本質」を見出すための道しるべとなるであろう。

 本書では,著者たちの30年以上にわたる実体験を事例やエピソードとして,惜しみなく余すことなく紹介されている。その内容は教員としての喜びにつながる成功体験をはじめ,「辞めてしまおう」と思うほどの辛い体験や,良かれと思って行った指導が学生を傷つけてしまっていたことに気付いたときの恥ずかしく悲しい体験等である。読む人それぞれが自分の体験と重ねながら,自己を振り返り,また看護教育の面白さに気づき,「頑張って続けよう」と前向きになり,自信を取り戻すことができる。看護教育が「面白い」「やりがい」となるために,教員は,学生とともに在ること,何よりも学生の可能性を信じ,学び続けること,探究心を失わないことが大切であることを示唆している。19頁の「看護教員の心得十か条」は,著者の体験から導かれたものだけに説得力がある。

 コラムや丁寧な用語解説が,本書をより理解しやすいものにしている。「もっと深く知りたい」と学習意欲を喚起させる。「看護基礎教育の実務に戸惑う教員を応援したい,看護教育の道を選んでくれた人たちが,これからも教員であり続けられるように」という著者の願いが本の構成・内容に反映されている。

 新任教員だけでなく,彼らを導き支える中堅,管理的な立場にある人の今を,そしてこれからの歩みに力を与え,次世代の人への指導書としても役立つ本である。看護教育に携わる全ての人に本書を活用されることを勧めたい。

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