内科診断学 第3版
内科診断学の定番テキストに、新たなステージを拓く待望の新版登場
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症候から診断への思考プロセスを丁寧に解説した、内科診断学の定番テキストの最新版。さらに診断学に特化すべく、好評の「症候編」を大幅拡充し、医学生・研修医が知っておきたい症候・病態をカバー。加えて、診断のプロセスを具体的な症例で解き明かす「症例編」を新設。また、図版を整理、全文オールカラー化で、一層読みやすく生まれ変わった。本文を収載した「付録電子版」付。定番のその先を狙った、野心的な大改訂。
● | 『標準医学シリーズ 医学書院eテキスト版』は「基礎セット」「臨床セット」「基礎+臨床セット」のいずれかをお選びいただくセット商品です。 |
● | 各セットは、該当する領域のタイトルをセットにしたもので、すべての標準シリーズがセットになっているわけではございません。 |
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2021.02.18
- 序文
- 目次
- 書評
- 付録・特典
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序文
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第3版 序
第2版の出版から7年以上が経ち,ここに第3版を出版できることとなった.これまでと同様,奈良信雄先生との協働で改訂作業にあたらせていただき,内容のよりいっそうの充実,そして可読性と利便性の向上を目的に,以下のような変更を行った.
内容については,前版までの「症候編」を「症候・病態編」に,「疾患編」を「症例編」に変更し,I.診断の考え方,II.診察の進め方,III.症候・病態編,IV.症例編という4部構成とした.症候・病態編では,扱う項目が増え,内容もさらに精緻なものとなった.疾患に関する解説は他書に譲ることとし,実症例について,症候から診断に至る一連のステップ——症状や徴候から疾患名の想起,検査の選択,検査結果の解釈,診断の確定——を具体的に示し,治療の基本方針も簡略に記述した.そうして,症例に即して,診断の思考プロセスや検査,治療に関する臨床上のコツ(クリニカルパール)が披歴されていて,執筆された先生方の高い臨床能力がいかんなく発揮されている.
可読性については,全頁をカラー化し,図表をより印象深くなるよう工夫を凝らし,診断の考え方を1段組みにした.さらには,付録をWebベースで閲覧できるようにしたことで,利便性がこれまで以上に高まることが期待される.
CTやMRI,超音波検査,内視鏡検査などが頻用される急性期医療の現場では,残念ながら,医師の五感を用いた診断能力(医療面接と身体診察)が軽視される傾向は続いているといってよい.しかしながら,急性期を脱したのちの患者のケア——地域包括ケア——の重要性,同じ健康アウトカムをもたらす医療であれば,より低額のものを重視せざるをえない社会経済状況,さらにはICT(Information Communication Technology)を用いた聴診器開発の進展など,医師の五感を用いた診断能力をこれまで以上に利活用する方向への力も働きつつある.そのような外的圧力だけでなく,医療面接と身体診察は医師の仕事のエッセンス(真髄)であり,それらを極めることの面白さ,やりがい,ひいては病める人々への献身性の重要な表現行動への興味といった内的駆動力をもって,診断学を学び続けたいものである.
引き続き,特に医学生,研修医をはじめとする若い医師の皆さんに,診断学のコース,臨床実習,卒後研修など,さまざまな学習場面で本書を活用していただければ幸甚である.膨大な作業をこなし,本書を第2版からさらに高みに押し上げた本田崇氏と片山智博氏に心から感謝申し上げる次第である.
2015年9月
福井次矢
第2版の出版から7年以上が経ち,ここに第3版を出版できることとなった.これまでと同様,奈良信雄先生との協働で改訂作業にあたらせていただき,内容のよりいっそうの充実,そして可読性と利便性の向上を目的に,以下のような変更を行った.
内容については,前版までの「症候編」を「症候・病態編」に,「疾患編」を「症例編」に変更し,I.診断の考え方,II.診察の進め方,III.症候・病態編,IV.症例編という4部構成とした.症候・病態編では,扱う項目が増え,内容もさらに精緻なものとなった.疾患に関する解説は他書に譲ることとし,実症例について,症候から診断に至る一連のステップ——症状や徴候から疾患名の想起,検査の選択,検査結果の解釈,診断の確定——を具体的に示し,治療の基本方針も簡略に記述した.そうして,症例に即して,診断の思考プロセスや検査,治療に関する臨床上のコツ(クリニカルパール)が披歴されていて,執筆された先生方の高い臨床能力がいかんなく発揮されている.
可読性については,全頁をカラー化し,図表をより印象深くなるよう工夫を凝らし,診断の考え方を1段組みにした.さらには,付録をWebベースで閲覧できるようにしたことで,利便性がこれまで以上に高まることが期待される.
CTやMRI,超音波検査,内視鏡検査などが頻用される急性期医療の現場では,残念ながら,医師の五感を用いた診断能力(医療面接と身体診察)が軽視される傾向は続いているといってよい.しかしながら,急性期を脱したのちの患者のケア——地域包括ケア——の重要性,同じ健康アウトカムをもたらす医療であれば,より低額のものを重視せざるをえない社会経済状況,さらにはICT(Information Communication Technology)を用いた聴診器開発の進展など,医師の五感を用いた診断能力をこれまで以上に利活用する方向への力も働きつつある.そのような外的圧力だけでなく,医療面接と身体診察は医師の仕事のエッセンス(真髄)であり,それらを極めることの面白さ,やりがい,ひいては病める人々への献身性の重要な表現行動への興味といった内的駆動力をもって,診断学を学び続けたいものである.
引き続き,特に医学生,研修医をはじめとする若い医師の皆さんに,診断学のコース,臨床実習,卒後研修など,さまざまな学習場面で本書を活用していただければ幸甚である.膨大な作業をこなし,本書を第2版からさらに高みに押し上げた本田崇氏と片山智博氏に心から感謝申し上げる次第である.
2015年9月
福井次矢
目次
開く
I.診断の考え方
●診断の意義
医療における診断の意義
診断の軸
●診断の論理
診断のプロセス
診断の思考様式
日常診療における診断の認知心理
●医療情報の有用性
病歴情報の有用性
身体診察の有用性
現代医療における医療面接と身体診察の位置づけ
検査情報の有用性
●新しい診断学の考え方
病態の理解と臨床疫学の統合
Evidence-Based Diagnosis(EBD)
●誤診に至る心理
臨床判断を誤る心理機制
不運な結果と誤診
誤診の背景と予防
II.診察の進め方
●診察の進め方
診察の進め方のアウトライン
●医療面接
医療面接とは
医療面接の手順
●身体診察の進め方と方法
身体診察の進め方
身体診察の方法
●部位別の身体診察 バイタルサイン
意識状態
体温
脈拍
血圧
呼吸状態
●部位別の身体診察 全身状態
顔貌
精神状態
体格
体位と姿勢
運動
歩行
言語
皮膚・爪・体毛
表在性リンパ節
●部位別の身体診察 頭頸部
頭部
頸部
●部位別の身体診察 胸部
胸郭の診察
心臓の診察
肺の診察
乳房の診察
腋窩の診察
●部位別の身体診察 腹部
腹部の区分
視診
触診
打診
聴診
肛門・直腸の診察
外性器の診察
●部位別の身体診察 四肢
視診
触診
生体計測
●部位別の身体診察 神経所見
神経所見のとり方
神経症候の診察
●検査
検査計画の立て方
尿・便検査
髄液検査
血液学的検査
肝機能検査
腎機能検査
代謝検査
内分泌検査
炎症マーカー検査
免疫血清学的検査
腫瘍マーカー検査
病原微生物検査
遺伝子検査
画像検査
病理検査
●診療録の記載法
診療録とは
POMRの記載法
III.症候・病態編
発熱/寝汗,ほてり/全身倦怠感/肥満,肥満症/るいそう/成長障害/不眠/
失神/皮膚の異常/黄疸/出血傾向/貧血/頭痛/めまい/視覚障害/
結膜の充血/眼球突出/眼瞼下垂/瞳孔異常/眼底異常/眼球振盪(眼振)/
眼球運動障害/顔面痛/聴覚障害/鼻出血/舌の異常/咽頭痛/嗄声/いびき/
悪心・嘔吐/食欲不振/胸やけ・げっぷ/口渇/嚥下困難/吐血/甲状腺腫/
リンパ節腫脹/咳,痰/喀血・血痰/胸痛および胸部圧迫感/乳房のしこり/
呼吸困難/喘鳴/胸水/動悸,脈拍異常/高血圧/低血圧/脱水/チアノーゼ/
静脈怒張/くも状血管腫,手掌紅斑/ばち状指(ばち指)/浮腫/腹痛/
腹部膨隆/腹水/肝腫大/脾腫/下痢/便秘/下血・血便/無月経/背部痛/
腰痛/排尿障害/排尿痛/頻尿/乏尿・無尿/血尿/四肢痛/関節痛/
末梢血行異常/知能障害/失語・失行・失認/痙攣/構音障害/運動麻痺/
感覚障害/筋脱力/筋萎縮/筋緊張異常/運動失調/不随意運動/歩行障害/
心肺停止/ショック/意識障害/甲状腺機能亢進症/脳血管障害/呼吸不全/
急性心不全/急性冠症候群/急性腹症/急性腎不全/妊娠と分娩/急性感染症/
外傷/急性中毒/誤飲・誤嚥/熱傷/精神科領域での救急
IV.症例編
口腔内びらんが繰り返し出現した難治性口内炎
息切れ,めまい,立ちくらみと全身倦怠感
突然に発症した頭痛
長引く発熱と頭痛
歩くと起こるめまい
体が回るようなめまい
無痛性の頸部リンパ節腫脹
4か月続く慢性咳嗽
立ち上がった際に自覚した胸痛
急激に増悪した胸痛
突然に発症した胸痛を伴う呼吸困難
労作時呼吸困難
胸苦しさと動悸
全身浮腫と体重増加
心疾患を疑わせる心窩部付近の腹痛
魚の生食後に出現した間欠的腹痛
繰り返す血便
突然に発症した腰背部痛
間欠的な赤色尿と息切れ
尿意を我慢できない
徐々に発症した多関節炎
数週間にわたり進行する感覚障害と脱力
進行する動作緩慢と歩行障害
突然に発症した運動麻痺を伴う意識障害
発熱・咳を伴った呼吸困難
発熱・頭痛を伴った膿性痰
主要検査の基準値
略語一覧
和文索引
数字・欧文索引
●診断の意義
医療における診断の意義
診断の軸
●診断の論理
診断のプロセス
診断の思考様式
日常診療における診断の認知心理
●医療情報の有用性
病歴情報の有用性
身体診察の有用性
現代医療における医療面接と身体診察の位置づけ
検査情報の有用性
●新しい診断学の考え方
病態の理解と臨床疫学の統合
Evidence-Based Diagnosis(EBD)
●誤診に至る心理
臨床判断を誤る心理機制
不運な結果と誤診
誤診の背景と予防
II.診察の進め方
●診察の進め方
診察の進め方のアウトライン
●医療面接
医療面接とは
医療面接の手順
●身体診察の進め方と方法
身体診察の進め方
身体診察の方法
●部位別の身体診察 バイタルサイン
意識状態
体温
脈拍
血圧
呼吸状態
●部位別の身体診察 全身状態
顔貌
精神状態
体格
体位と姿勢
運動
歩行
言語
皮膚・爪・体毛
表在性リンパ節
●部位別の身体診察 頭頸部
頭部
頸部
●部位別の身体診察 胸部
胸郭の診察
心臓の診察
肺の診察
乳房の診察
腋窩の診察
●部位別の身体診察 腹部
腹部の区分
視診
触診
打診
聴診
肛門・直腸の診察
外性器の診察
●部位別の身体診察 四肢
視診
触診
生体計測
●部位別の身体診察 神経所見
神経所見のとり方
神経症候の診察
●検査
検査計画の立て方
尿・便検査
髄液検査
血液学的検査
肝機能検査
腎機能検査
代謝検査
内分泌検査
炎症マーカー検査
免疫血清学的検査
腫瘍マーカー検査
病原微生物検査
遺伝子検査
画像検査
病理検査
●診療録の記載法
診療録とは
POMRの記載法
III.症候・病態編
発熱/寝汗,ほてり/全身倦怠感/肥満,肥満症/るいそう/成長障害/不眠/
失神/皮膚の異常/黄疸/出血傾向/貧血/頭痛/めまい/視覚障害/
結膜の充血/眼球突出/眼瞼下垂/瞳孔異常/眼底異常/眼球振盪(眼振)/
眼球運動障害/顔面痛/聴覚障害/鼻出血/舌の異常/咽頭痛/嗄声/いびき/
悪心・嘔吐/食欲不振/胸やけ・げっぷ/口渇/嚥下困難/吐血/甲状腺腫/
リンパ節腫脹/咳,痰/喀血・血痰/胸痛および胸部圧迫感/乳房のしこり/
呼吸困難/喘鳴/胸水/動悸,脈拍異常/高血圧/低血圧/脱水/チアノーゼ/
静脈怒張/くも状血管腫,手掌紅斑/ばち状指(ばち指)/浮腫/腹痛/
腹部膨隆/腹水/肝腫大/脾腫/下痢/便秘/下血・血便/無月経/背部痛/
腰痛/排尿障害/排尿痛/頻尿/乏尿・無尿/血尿/四肢痛/関節痛/
末梢血行異常/知能障害/失語・失行・失認/痙攣/構音障害/運動麻痺/
感覚障害/筋脱力/筋萎縮/筋緊張異常/運動失調/不随意運動/歩行障害/
心肺停止/ショック/意識障害/甲状腺機能亢進症/脳血管障害/呼吸不全/
急性心不全/急性冠症候群/急性腹症/急性腎不全/妊娠と分娩/急性感染症/
外傷/急性中毒/誤飲・誤嚥/熱傷/精神科領域での救急
IV.症例編
口腔内びらんが繰り返し出現した難治性口内炎
息切れ,めまい,立ちくらみと全身倦怠感
突然に発症した頭痛
長引く発熱と頭痛
歩くと起こるめまい
体が回るようなめまい
無痛性の頸部リンパ節腫脹
4か月続く慢性咳嗽
立ち上がった際に自覚した胸痛
急激に増悪した胸痛
突然に発症した胸痛を伴う呼吸困難
労作時呼吸困難
胸苦しさと動悸
全身浮腫と体重増加
心疾患を疑わせる心窩部付近の腹痛
魚の生食後に出現した間欠的腹痛
繰り返す血便
突然に発症した腰背部痛
間欠的な赤色尿と息切れ
尿意を我慢できない
徐々に発症した多関節炎
数週間にわたり進行する感覚障害と脱力
進行する動作緩慢と歩行障害
突然に発症した運動麻痺を伴う意識障害
発熱・咳を伴った呼吸困難
発熱・頭痛を伴った膿性痰
主要検査の基準値
略語一覧
和文索引
数字・欧文索引
書評
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全ての医学生・医師必携! 国際認証評価時代における医学教育の質保証のために
書評者: 長谷川 仁志 (秋田大大学院教授・医学教育学)
日本で「医学教育の国際認証評価時代」の動きが本格的に始まってきている2016年2月に,待望の『内科診断学 第3版』が発刊された。8年ぶりに大幅改訂された中身を見て,まさにこのテキストは医学科1年生からの臨床実習前教育から診療参加型臨床実習時,さらには生涯教育まで,すなわち初学者から指導医まで,症候・病態ベースで統合すべき日本の医学教育改革を実現化するバイブルと言えるテキストであり,内科系のみではなく,全国の全ての医学生,医学部教員,医育にかかわる機関の各科指導医の皆さんにお勧めしたい一冊であることを実感した。
その理由としては,1)始めの「診断の考え方」(第I章)と「診察の進め方」(第II章)で医療面接における情報収集スキルの重要性と臨床推論のエッセンス(検査前確率,尤度比など)と信頼を確立するために必要なコミュニケーションンスキルなどについて,カラー図表が駆使されて初学者でもわかりやすくまとめられていること,2)続いての「症候・病態編」(第III章)で,発熱,全身倦怠感,めまい,頭痛,胸痛から精神領域の救急まで,何科の医師としても実践対応が可能になるよう修得すべき約100の必須症候・病態について,患者の訴え方,医療面接,身体診察,確定診断のポイントなど臨床各分野横断的な統合教育を展開するために適した内容で,幅広く網羅されていること,3)購入者は,本文を収載した付録電子版も利用でき,いつでもどこでもネットを介して読むこともできるようになったことが挙げられる。特に,1)2)については,医師の資質・人間力を養う「プロフェッショナリズム教育効果」も高く,この観点からも有用であることを強調しておきたい。
評者の大学では,2010年頃から本テキスト(第2版)を入学直後の1年生全員が指定教科書として共同購入し,入学直後から通年で症候ベースのPBL/TBL形式で基礎医学,臨床医学,臨床推論・医療面接コミュニケーション,医療行動科学,プロフェッショナリズム教育を統合させる講義を展開してきた。本テキストの活用により,入学直後からの医学に関する自己学習も容易に導入することができ,1年生全員への臨床推論・医療面接OSCEも年4回実施することが可能となった。今後の国際認証評価時代には,大学のみならず関連病院の各科指導医の皆さんにも普及し,日本社会のニーズに合った教育展開をめざしていきたいと考えている。ぜひ,全国の全ての医学生,医学教育にかかわる全ての機関の指導医の皆さんにお勧めしたいテキストである。
101の症候・病態の思考と診療のプロセスを明示
書評者: 大滝 純司 (北大大学院医学教育推進センター教授/東京医大病院総合診療科兼任教授)
『内科診断学』の第3版が出版された。第2版の第1刷から約8年後の,待ちに待った改訂である。
この本は評者が診療している東京医科大学病院総合診療科の外来で,最も頻繁に読まれている参考資料の一つであり,その外来の一角にある本棚(200冊くらいの本が並んでいる)に置かれている旧版は,大勢の研修医やスタッフに8年間使われ続けて,文字通りぼろぼろになっている。昔話になるが,私が研修医だった頃に症候や病態から診断を考える際の参考書は,洋書の〈The Spiral Manual Series〉の『Problem-Oriented Medical Diagnosis』という小さな本だった。それを読みながら,日本の診療に沿った本が欲しいと何度も思った。
この本は改訂のたびに構成を大胆に見直し進化を繰り返している。今回の改訂では,最大の特徴である症候・病態に関する部分が,大幅に強化されている。その項目数は101にまで増え,各項目につき数ページずつ,思考と診療のプロセスがわかりやすくまとめられている。一方,旧版でかなりのページ数を占めていた,個別の疾患に関する章はなくなった。これについて新版の「序」では「他書に譲る」としている(p.V)。確かに,疾患ごとの解説は,電子教科書など優れた他の参考資料が増えている。前述したように評者が診療する現場での旧版の使われ方を見ても,本書はこの症候・病態に関する部分の需要が最も多いので,今回の改訂方針はありがたい。
旧版と同様に「診断の考え方」「診察の進め方」の二つの章には,基本的な理論や考え方から身体診察や基本検査のノウハウまで,新たな知見も含めてわかりやすくまとめられている。疾患に関する章はなくなったが,具体的な症例の診断プロセスを例示する第IV章「症例編」が新たに設けられた。この症例編では多様な症例それぞれに丁寧な解説が付けられ,新版の特徴の一つになっている。診断能力を習得するには,ある程度の知識を学んだ上で具体的な症例の検討を繰り返すことが大切とされており,このような幅広い領域の症例検討の読みやすい資料は,演習形式での学習にも使えるだろう。今版は個人で利用する場合に限りオンラインの電子版も閲覧できるようになった。また,冊子体は全てのページがカラーになり,索引も充実して,一覧性など紙媒体としての強みが増している。
あえて要望するならば,参考文献をある程度は示していただきたかった。改訂の間隔が8年と長いことを考慮しても,症候や病態などについて項目ごとに,いわゆるエビデンスとしての基礎的な文献が数編ずつでも確認できると,診療や指導の裏付けとして役に立つだろう。
標準的教科書でありながら,実践的な学習書
書評者: 徳田 安春 (地域医療機能推進機構(JCHO)本部顧問)
「医学」を意味する“Medicine”には,「内科」という意味もあります。将来専攻する基本領域にかかわらず,全ての医師には,“Medical Diagnosis”すなわち「内科診断学」の学習が勧められます。医学生や初期研修医にとっては,内科診断学は医療面接や診察法を行う基礎となる学問であり,各論的な症候学と合わせて,最も重要な臨床医学の学ぶべき領域となります。
さらには,新しい内科専門研修を専攻する医師には,将来のサブスペシャリティー診療科の種類にかかわらず,総合(一般)内科的な知識の習得と経験が求められており,内科診断学は研修目標のコアとなるでしょう。また,総合診療専門研修を専攻する医師にとっても,病院総合や家庭医療のいずれを選択するにせよ,多くの内科系疾患の初期診断過程にかかわることから,内科診断学を学ぶことが必須です。
内科診断学を効果的に学ぶためには,内科の実習や研修で臨床経験を積むことに加え,まず本書のような標準的な教科書を利用することをお勧めします。第I章「診断の考え方」では,基本的な診断の意義や論理に加え,Evidence-based Diagnosisや誤診に至る心理など最近のトピックが取り上げられています。そして第II章「診察の進め方」では,医療面接法,部位別身体診察法,検査の計画と解釈,POMR(Problem Oriented Medical Record)による診療録の記載法の基本が網羅されています。
本書のコア部分であり,かつユニークで非常に有用なものが第III章「症候・病態編」です。それぞれの症候・病態の定義,患者の訴え方,頻度,病態生理,原因疾患の相対的頻度,診断の進め方としての医療面接,身体診察,診断のターニングポイント,必要なスクリーニング検査と確定診断法が,豊富な図表や実践的アルゴリズムとともに,理路整然と展開されています。
それぞれの症候・病態における原因疾患については,各症候の項目でユニークな二次元図が付いており,臨床的重要度(横軸)と疾患頻度(縦軸)の相対的な位置が一目でわかるような工夫がなされており,記憶に残りやすいでしょう。
第IV章「症例編」では,実例を用いた診断思考プロセスが示されており,内科診断の実践的なロジックを習得するのに役立ちます。「見逃してはならない疾患」の鑑別診断も含む診断仮説を立てて,正確な診断に到達する道筋が,最後のクリニカルパールとともに,明快に解説されています。
このように,本書は内科診断学の標準的教科書でありながら,実践的な学習ができるように工夫されており,医学生,研修医のみならず全ての医師にお勧めしたいと思います。
書評者: 長谷川 仁志 (秋田大大学院教授・医学教育学)
日本で「医学教育の国際認証評価時代」の動きが本格的に始まってきている2016年2月に,待望の『内科診断学 第3版』が発刊された。8年ぶりに大幅改訂された中身を見て,まさにこのテキストは医学科1年生からの臨床実習前教育から診療参加型臨床実習時,さらには生涯教育まで,すなわち初学者から指導医まで,症候・病態ベースで統合すべき日本の医学教育改革を実現化するバイブルと言えるテキストであり,内科系のみではなく,全国の全ての医学生,医学部教員,医育にかかわる機関の各科指導医の皆さんにお勧めしたい一冊であることを実感した。
その理由としては,1)始めの「診断の考え方」(第I章)と「診察の進め方」(第II章)で医療面接における情報収集スキルの重要性と臨床推論のエッセンス(検査前確率,尤度比など)と信頼を確立するために必要なコミュニケーションンスキルなどについて,カラー図表が駆使されて初学者でもわかりやすくまとめられていること,2)続いての「症候・病態編」(第III章)で,発熱,全身倦怠感,めまい,頭痛,胸痛から精神領域の救急まで,何科の医師としても実践対応が可能になるよう修得すべき約100の必須症候・病態について,患者の訴え方,医療面接,身体診察,確定診断のポイントなど臨床各分野横断的な統合教育を展開するために適した内容で,幅広く網羅されていること,3)購入者は,本文を収載した付録電子版も利用でき,いつでもどこでもネットを介して読むこともできるようになったことが挙げられる。特に,1)2)については,医師の資質・人間力を養う「プロフェッショナリズム教育効果」も高く,この観点からも有用であることを強調しておきたい。
評者の大学では,2010年頃から本テキスト(第2版)を入学直後の1年生全員が指定教科書として共同購入し,入学直後から通年で症候ベースのPBL/TBL形式で基礎医学,臨床医学,臨床推論・医療面接コミュニケーション,医療行動科学,プロフェッショナリズム教育を統合させる講義を展開してきた。本テキストの活用により,入学直後からの医学に関する自己学習も容易に導入することができ,1年生全員への臨床推論・医療面接OSCEも年4回実施することが可能となった。今後の国際認証評価時代には,大学のみならず関連病院の各科指導医の皆さんにも普及し,日本社会のニーズに合った教育展開をめざしていきたいと考えている。ぜひ,全国の全ての医学生,医学教育にかかわる全ての機関の指導医の皆さんにお勧めしたいテキストである。
101の症候・病態の思考と診療のプロセスを明示
書評者: 大滝 純司 (北大大学院医学教育推進センター教授/東京医大病院総合診療科兼任教授)
『内科診断学』の第3版が出版された。第2版の第1刷から約8年後の,待ちに待った改訂である。
この本は評者が診療している東京医科大学病院総合診療科の外来で,最も頻繁に読まれている参考資料の一つであり,その外来の一角にある本棚(200冊くらいの本が並んでいる)に置かれている旧版は,大勢の研修医やスタッフに8年間使われ続けて,文字通りぼろぼろになっている。昔話になるが,私が研修医だった頃に症候や病態から診断を考える際の参考書は,洋書の〈The Spiral Manual Series〉の『Problem-Oriented Medical Diagnosis』という小さな本だった。それを読みながら,日本の診療に沿った本が欲しいと何度も思った。
この本は改訂のたびに構成を大胆に見直し進化を繰り返している。今回の改訂では,最大の特徴である症候・病態に関する部分が,大幅に強化されている。その項目数は101にまで増え,各項目につき数ページずつ,思考と診療のプロセスがわかりやすくまとめられている。一方,旧版でかなりのページ数を占めていた,個別の疾患に関する章はなくなった。これについて新版の「序」では「他書に譲る」としている(p.V)。確かに,疾患ごとの解説は,電子教科書など優れた他の参考資料が増えている。前述したように評者が診療する現場での旧版の使われ方を見ても,本書はこの症候・病態に関する部分の需要が最も多いので,今回の改訂方針はありがたい。
旧版と同様に「診断の考え方」「診察の進め方」の二つの章には,基本的な理論や考え方から身体診察や基本検査のノウハウまで,新たな知見も含めてわかりやすくまとめられている。疾患に関する章はなくなったが,具体的な症例の診断プロセスを例示する第IV章「症例編」が新たに設けられた。この症例編では多様な症例それぞれに丁寧な解説が付けられ,新版の特徴の一つになっている。診断能力を習得するには,ある程度の知識を学んだ上で具体的な症例の検討を繰り返すことが大切とされており,このような幅広い領域の症例検討の読みやすい資料は,演習形式での学習にも使えるだろう。今版は個人で利用する場合に限りオンラインの電子版も閲覧できるようになった。また,冊子体は全てのページがカラーになり,索引も充実して,一覧性など紙媒体としての強みが増している。
あえて要望するならば,参考文献をある程度は示していただきたかった。改訂の間隔が8年と長いことを考慮しても,症候や病態などについて項目ごとに,いわゆるエビデンスとしての基礎的な文献が数編ずつでも確認できると,診療や指導の裏付けとして役に立つだろう。
標準的教科書でありながら,実践的な学習書
書評者: 徳田 安春 (地域医療機能推進機構(JCHO)本部顧問)
「医学」を意味する“Medicine”には,「内科」という意味もあります。将来専攻する基本領域にかかわらず,全ての医師には,“Medical Diagnosis”すなわち「内科診断学」の学習が勧められます。医学生や初期研修医にとっては,内科診断学は医療面接や診察法を行う基礎となる学問であり,各論的な症候学と合わせて,最も重要な臨床医学の学ぶべき領域となります。
さらには,新しい内科専門研修を専攻する医師には,将来のサブスペシャリティー診療科の種類にかかわらず,総合(一般)内科的な知識の習得と経験が求められており,内科診断学は研修目標のコアとなるでしょう。また,総合診療専門研修を専攻する医師にとっても,病院総合や家庭医療のいずれを選択するにせよ,多くの内科系疾患の初期診断過程にかかわることから,内科診断学を学ぶことが必須です。
内科診断学を効果的に学ぶためには,内科の実習や研修で臨床経験を積むことに加え,まず本書のような標準的な教科書を利用することをお勧めします。第I章「診断の考え方」では,基本的な診断の意義や論理に加え,Evidence-based Diagnosisや誤診に至る心理など最近のトピックが取り上げられています。そして第II章「診察の進め方」では,医療面接法,部位別身体診察法,検査の計画と解釈,POMR(Problem Oriented Medical Record)による診療録の記載法の基本が網羅されています。
本書のコア部分であり,かつユニークで非常に有用なものが第III章「症候・病態編」です。それぞれの症候・病態の定義,患者の訴え方,頻度,病態生理,原因疾患の相対的頻度,診断の進め方としての医療面接,身体診察,診断のターニングポイント,必要なスクリーニング検査と確定診断法が,豊富な図表や実践的アルゴリズムとともに,理路整然と展開されています。
それぞれの症候・病態における原因疾患については,各症候の項目でユニークな二次元図が付いており,臨床的重要度(横軸)と疾患頻度(縦軸)の相対的な位置が一目でわかるような工夫がなされており,記憶に残りやすいでしょう。
第IV章「症例編」では,実例を用いた診断思考プロセスが示されており,内科診断の実践的なロジックを習得するのに役立ちます。「見逃してはならない疾患」の鑑別診断も含む診断仮説を立てて,正確な診断に到達する道筋が,最後のクリニカルパールとともに,明快に解説されています。
このように,本書は内科診断学の標準的教科書でありながら,実践的な学習ができるように工夫されており,医学生,研修医のみならず全ての医師にお勧めしたいと思います。
正誤表
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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。
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