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AAP/AHA新生児蘇生テキストブック 第2版

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米国小児学会(APA)と米国心臓協会(AHA)による新生児蘇生公式テキストブック原著第7版の翻訳。30年近くにわたり、この領域に携わる医療従事者に必要な知識と手技を提供してきたが、今版では特に症例を通して、リーダーシップ、コミュニケーション、チームワークに焦点をあてている。章ごとにポイントと復習問題が設置されており、テキストを読み進めていくうちに自然と知識が身についていく。
監訳 田村 正徳
発行 2019年03月判型:A4変頁:328
ISBN 978-4-260-03243-8
定価 6,380円 (本体5,800円+税)
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監訳者 序(田村正徳)/(Gary M. Weiner)

監訳者 序

 日本では2007年7月から日本周産期・新生児医学会の学会事業として新生児蘇生法普及事業(NCPR)が始まり,2018年9月末現在で学会公認の累計講習会開催件数が2,067件,受講者数累計が140,229人となっている.当事業の客観的な効果としては,2006年までは横ばいであった出生児仮死を主因とする早期新生児死亡率は,2007年以降有意に減少傾向を示していることなどがあげられる.
 この事業のお手本となったのは米国小児科学会(the American Academy of Pediatrics:AAP)が,1987年より周産期医療従事者を対象として続けている新生児心肺蘇生法講習会事業(NRP)であり,「序」にもあるようにNRPのプロバイダーコースの認定資格者は300万人を越して,発足時の目標であった「すべての分娩に,新生児の初期蘇生ができるスタッフが少なくとも一人,新生児の責任者として従事する」という体制を確立しており,日本のはるか先を走り続けている.『The Textbook of Neonatal Resuscitation』はこのNRP講習会の公式教材であり,国際蘇生連絡委員会(International Liaison Committee On Resuscitation:以下,ILCOR)が推奨する成人教育論の立場に則った構成となっている.監訳者らは2003年にハワイのKapiolani小児病院においてNRPのプロバイダーコース,インストラクターコースを受講して,このNRPの教育効果に魅了されて,日本で新生児蘇生法普及事業(NCPR)を開始することを決意した.ただ当時の日本はILCORには正式参加が認められていなかったために,2005年11月29日の“2005 International Consensus on Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care Science With Treatment Recommendations(以下,CoSTR2005)”のCirculation(Consensus2005;Circulation. 2005;112:III-91-III-99)での公表を待って初めて日本版新生児蘇生法ガイドラインの作成にとりかかり,ガイドラインが完成したのは2007年3月と,欧米のガイドライン作成に1年以上出遅れることとなった.
 2006年にやっと日本蘇生協議会のILCOR加盟が認められたことから,CoSTR2010 neonateとCoSTR2015 neonateのシステマティックレビューを中心とした作成作業には監訳者らを含めた日本の新生児科医もタスクフォースやワークシートオーサーとして参加できるようになったので,2010年と2015年のILCORのCoSTR公表とほぼ同時に日本版新生児蘇生法ガイドラインを発表することができるようになった.「序」にもあるようにCoSTR2015新生児部会には13か国から新生児医療代表者が参加しており,2015年の2月にILCOR本部のあるダラスでCoSTR2015 neonateの概要が固まってから,各国の文化的・社会的背景に合わせて各国の新生児蘇生法ガイドラインを作成して2015年10月中旬にCoSTR2015 neonateとともに一斉に公開された.したがって同じCoSTR2015 neonateを基盤にしていても,米国と日本の新生児蘇生法ガイドラインは微妙に異なる点がある.例えば分娩室でのECGの活用や,いつ,どのような対象患児で蘇生を中止・差し控えするかといった倫理的な面では,本書の内容に違和感を覚える日本人の読者も少なくないと思う.また蘇生処置中の児に対する臍帯結紮遅延も,米国では分娩台に連結した新生児蘇生台が開発されているからこそできることで,日本では臍帯血ミルキングのほうが現実的であろう.その一方では,臍帯カテーテル挿入中は児の頭側に移動して両母指で胸骨圧迫を行うという本書での胸骨圧迫法は,日本でももっと積極的に取り入れてもよいと思われる.日本版新生児蘇生法(NCPR)をマスターした方々も是非本書を一読することによって日本版新生児蘇生法を相対評価してさらに効果的に活用する一助として頂ければ監訳者としては望外の幸である.
 多忙な日常の臨床業務の傍ら本書の翻訳にご尽力下さった分担翻訳者の諸氏にこの場を借りて篤く御礼申し上げたい.“多少不自然な日本語としての文章”も少なくないが,これは「意訳をせず,原文に忠実な翻訳にする」というAAP出版部との約束によるので,ご容赦いただきたい.最後に厳しい競争に打ち勝ってAAPから本書の日本での出版権を獲得し,辛抱強く分担翻訳者と監訳者にご対応下さった医学書院医学書籍編集部の大橋尚彦氏に感謝申し上げて監訳者序とさせて頂きたい.

 2019年1月
 埼玉医科大学総合医療センター小児科 田村正徳




 新生児の誕生にあたり,そのケアを両親から託されたわれわれ医療者は大きな使命と責任を負っている.『新生児蘇生テキストブック』の初版刊行以来,the Neonatal Resuscitation Program®(NRP®)は300万人以上の医療従事者の力となってきた.新生児の生命を救うための知識と技術を得るための機会を提供し,この大きな責任を果たす助けとなってきた.NRPの歴史とその発展は魅力的であり,健康の教育者にも重要な講義内容を供給してきた.NRPのウェブサイトにその概要があるので読んでいただきたい.この第7版には新たな推奨がいくつか含まれているが,NRPの基盤である指針となる原則は30年近く変わることなく強調されている.
 NRPの初版のテキストが出版されたのは1987年だが,これはその当時の手法,合理的な推測,エキスパート間の非公式な合意などに基づいていた.しかし2000年以降はNRPのテキストの中での推奨は,公式な国際的な合意形成をもとに発展していくことになる.米国小児学会(AAP)と米国心臓協会(AHA)のパートナーシップは,国際蘇生連絡委員会(ILCOR)を通して新生児蘇生を発展させてきた.ILCOR新生児タスクフォースの研究者たちは定期的な会合を重ね,新生児蘇生を検証してきた.厳密な過程のもと,カギとなる知識の疑問点が特定され,また広範な文献検索が実施されたことで,新生児タスクフォースのメンバーはシステマティックレビューを完遂した.科学的なエビデンスがグレード付けされ,パブリックコメントのためのドラフトサマリーがオンラインで公表された.最終的には新生児タスクフォースのメンバーは,科学的な根拠に基づく合意が得られ,また治療の推奨が定式化されるまで定期的に会合してサマリーを論議した.その最も新しいステートメントは“2015 International Consensus on Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care Science With Treatment Recommendations(CoSTR)”で,これは13か国を代表した38名のタスクフォースのメンバーによってなされた27の新生児蘇生の課題に関するレビューに基づく.会合の後,ILCORのメンバーは各々,CoSTRに基づいた臨床ガイドライン作成を遂行した.ILCORのメンバーは国家間での違いを最小限にしようと努めたにもかかわらず,それぞれの国の蘇生協議会で作成されたガイドラインは,地理的,経済的,論理的な違いに応じて異なっているかもしれない.米国における最新のガイドラインは“Neonatal Resuscitation 2015 American Heart Association Guidelines Update for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care”である.ガイドラインと各々の推奨の根拠となるシステマティックレビューへのリンクはオンライン上で利用できる(http://pediatrics.aappublications.org/content/136/Supplement_2/S196).NRP運営委員会は,最新の新生児蘇生ガイドラインを実施するのに必要な技術を習得するのに役立つ教材を開発している.
 今版は11章から構成されている.新しく加わったのは2章で,蘇生のための準備(第2章)と蘇生後のケア(第8章)を扱っている.前版と同じように,本書では十分な準備と効果的な陽圧換気とチームワークの重要性が強調されている.陽圧換気の手順の詳細は追加されたイラストレーションで詳しく解説されている.大部分のシェーマがカラー写真に置き換えられて,明快に理解できるようになっている.章の順番も胸部圧迫を開始する前の挿管をより強調するために入れ替えられた.新しいガイドラインに収載された,重要な推奨の変更事項は以下のようなものである.臍帯結紮のタイミング,蘇生中の酸素濃度,蘇生中・蘇生後のPEEP,CPAPの使用,胎便に汚染された羊水の扱いかた,蘇生中のECGモニタリング,気管挿管の深さの推定,早産児(32週未満)の体温調節の方法などである.それぞれの章においても,その章の内容に沿ったチームワークやさらなる考察に伴い頻発する質問が新たに項目立てされている.

 本書は専門的に組織されたチームと才能ある個人の力がなければ完成しなかった.AAP,AHA,ILCORの間で継続されたパートナーシップによって,綿密なシステマティックレビューを完遂するための基盤が提供されたし,エビデンスに基づいた国際ガイドラインに発展させることができた.NRP運営委員会のメンバーはテキスト中の用語,イラストレーションの準備,吟味などに数えられないほどの膨大な時間をかけてくれた.その尽力によって読者に対して,十分なエビデンスが乏しくて決定的な推奨がない場合でも,実務的な指針を提供することができた.われわれの事業上の提携パートナーであるLaerdal Medicalからの継続的なサポートによって,NRPはあらゆる技術レベルの学習者に対して学びのための技術と道具を提供できている.Anne Ades(ペンシルベニア大学),Kimberly Ernst(オクラホマ大学),そしてJeanette Zaichkin(AAP)との共働は,創造的なパートナーシップとなり,すべてのNRPプロバイダーを電子的なシミュレーションに参加させるというバーチャル学習環境を発展させた.数々の写真の収載や印刷された数々の用語には,多大な忍耐と細部への注意が払われている.St Joseph Mercy Ann Arbor病院のNICUのスタッフメンバー(Chris Adams,Jennifer Boyle,Anne Boyd,Ann Caid)とミシガン大学のNICUのスタッフメンバー(Anthony Iannetta,Wendy Kenyon,Shaili Rajput,Kate Stanley,Suzy Vesey)がJeanette Zaichkinとともに,われわれの医療フォトグラファーのBenjamin Weatherstonの撮影に,蘇生技術を忍耐強く,冷静沈着にモデル提供してくれた.また,臨場感のある分娩室の写真の大部分はロチェスターにあるMayo ClonicのChristopher Colbyと彼の有能なスタッフによって提供された.Jill Rubinoによる緻密な原稿整理によって内容の一貫性と明確さが強化され,またRachel Poulinは執筆準備から編集の段階まで,あらゆる面で細部にわたり,巧みに調整してくれた.
 チームの力を発揮するには強いリーダーシップが不可欠だが,NRPは優れたリーダーたちの集団に導かれてきた.Jeffrey Perlman(ウェイル医科大学),Jonathan Wylie(ジェームスクック大学病院)およびMyra Wyckoff(テキサス南西大学)は国際的で科学的なコンセンサスの取りまとめにしっかりとしたリーダーシップを発揮してくれた.その作成過程では,NRP運営委員会共同議長のJane McGowan(ドレクセル大学),Myra Wyckoff,Steven Ringer(ダートマス・ヒッチコック医療センター)とMarilyn Escobedo(オクラホマ大学)が忍耐強く,激しく論議された点をまとめてくれた.Lou Halamek(スタンフォード大学)は委員会に対して従順であるよりも能動的であることに重点を置き,将来に向けた革新への献身を残した.Jerry Short(バージニア大学)はプログラムの教育的なデザインを確立し,成人教育の原則と合致させることによって,幅広いレベルの学習者層のニーズを満たしてくれた.NRPの創設メンバーであるJohn Kattwinkel(バージニア大学)は,運営委員会の共同座長として働き,過去4版分の編集を行い,国際的なコンセンサスに内包されたニュアンスと複雑さを表現した用語を提供してくれた.このたびの第7版の作成においても,彼からアドバイスを受けたり,彼に相談することが,決定的に重要であった.彼は新生児蘇生の世界における真の偉人であり,その穏やかな姿勢と柔軟に語られた知恵は,プログラムのあらゆる側面を導き続けている.

 不断の努力を続けたJeanette ZaichkinとWendy Simonの貢献について触れなければこの謝辞は完結しない.Jeanetteの創造性と限りのない情熱は,ここ最近のあらゆるNRPの教育活動の中枢であった.彼女は完璧なインストラクターの指導者であり,NRPインストラクターの教材を編纂し,オンラインのインストラクターコースを作り上げた.さらに“NRP Instructor Update”を共同編集し,NRPのシミュレーションのシナリオを編集し,最近のNRPのすべての教育用ビデオを際立たせている.このたびの第7版の初めのドラフトも,その概要は彼女のダイニングテーブルから始まっており,その後あらゆる局面で彼女はパートナーであった.Jeanetteは読者が内容の本質を直感的に理解できるよう,すべての文章を注意深く吟味している.
 舞台裏ではしばしばWendy SimonがNRPとILCOR蘇生タスクフォースのあらゆる面での内密なつなぎ役となってくれた.彼女は重要な根拠を擁護する方法を直感的に知っており,どうやって人々をつないで複雑な国際プロジェクトを促進していくかについても理解していた.Wendyの信念は,誰もが考えていた以上の成果が達成できるように,人々を鼓舞している.彼女はめったにほめ言葉を受け取らないと思うが,ボストンから北京に至るまでの新生児の両親たちは,その健康的な出生について,Wendyに感謝していることを記したい.

 Gary M. Weiner, MD, FAAP

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第1章 新生児蘇生の基礎
第2章 蘇生のための準備
第3章 出生児に対して行う最初の処置
第4章 陽圧換気
第5章 人工的気道確保:気管チューブとラリンジアルマスク
第6章 胸骨圧迫(心臓マッサージ)
第7章 薬物投与
第8章 蘇生後のケア
第9章 早産児の蘇生と安定化
第10章 特別な配慮
第11章 いのちの終わりの倫理とケア

付録:PEDIATRICS®
 Part 13 新生児蘇生:2015年American Heart Associationガイドライン
        心肺蘇生と緊急循環管理 アップデート

索引

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日本版NRPの原点となる米国NRPを知る
書評者: 仁志田 博司 (東女医大名誉教授)
 米国からわが国に導入された新生児蘇生法の教育のシステム「the Neonatal Resuscitation Program®(NRP®)」が,予想を超えた普及と早期新生児死亡の減少をもたらしたことは,わが国の周産期新生児医療の歴史に残る出来事である。本書の監訳者田村正徳教授は,米国小児科学会(AAP)がすでに1987年よりスタートしていたNRPに興味を示し,当時のAAPで行われていたNRP専門委員会に,AAP会員である小生と共に強引に参加して彼らに変な顔をされたことを思い出す。その後田村教授は米国のNRPの講習会などに参加して人脈を作り,日本周産期・新生児学会が国際蘇生連絡委員会(International Liaison Committee On Resuscitation;ILCOR)に加わる際の中心となり,2007年7月から同学会が中心となり日本版新生児蘇生法(Neonatal Cardio-Pulmonary Resuscitation;NCPR)普及事業を開始し現在に至っている。ILCORが5年ごとに最新のデータに基づいたInternational Consensus on Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care Science With Treatment Recommendations(CoSTR)を作成しているが,日本からも田村教授ら4人が参加し,わが国の立場からproductiveな意見を述べて貢献している。

 NCPRガイドラインが作成されすでに第3版となっているが,2007年の初版作成の折は,その雛形となる英文のテキストを日本語に翻訳したものを再び英語に訳して,その内容に齟齬がないことをチェックするという大変なプロセスを踏んだという。それほどの手間暇を掛けても,NRPのわが国への導入は現在の素晴らしい成果につながったところから,本書の監訳者田村教授の固い意志に賞賛のエールを贈るものである。

 本書は『Textbook of Neonatal Resuscitation, 7th Edition』(American Heart Association and American Academy of Pediatrics 2016)の翻訳(日本語版第2版)であり,初版は2006年である。すでにNCPRガイドラインがあり,さらに原本が2016年であるところから本書の立ち位置を疑問視する向きがあるが,わが国のNRPの原点となっている米国のNRPがどのような内容になっているかを知る意義は大きい。

 本書を開いてまず驚くことは,各章ごとの説明・解説に続き,「よくある質問」への回答と要点のまとめ,さらに質問形式の復習があり,最後にパフォーマンスチェックリストが整理されており,至れり尽くせりのスタイルとなっていることである。せっかちな日本人には「くどい」と言われそうだが,その習得の是非が児の命と予後に直結するから,との思いが伝わる。

 第5章の人工的気道確保の項で,挿管チューブに2.0mmがないのは,500グラム未満のいわゆるmicropremieの蘇生もかなりの頻度で行われているわが国とは異なる。欧米でもわれわれの成績をみてmicropremieにactive interventionを行うようになれば変更されるであろう。また挿管による気道確保が困難な例にラリンジアルマスクを使用することが広く試みられている点も日本と異なるのは,ベテランが日常の新生児蘇生にかかわる日本との挿管技術の違いであろう。新生児挿管でのスタイレット使用は,わが国では例外的な事例に限られていることも異なっている。

 第6章胸骨圧迫(心臓マッサージ)の項には,具体的な胸骨圧迫の仕方が繰り返し書かれているが,成人・小児では胸骨圧迫―気道―呼吸のアルゴリズムであるが新生児においては気道―呼吸―胸骨圧迫(Air way-Breathing-Circulation)であることを強調しているのは,評者も新生児の徐脈の病態生理の大半は低換気による低酸素血症であると日頃レジデントに話していることと一致し,わが意を得たりの思いであった。

 第7章の薬物投与の項では,アプガー0の児は10分間蘇生を試みて心拍が戻らなければ止める,とある。マニュアルに書いてあるからといって助からないことが明らかな児にfutile(無益)な行為を行うことは害あって益なしであるが,不明なときはfail safe(安全なほうに間違う)の原則で蘇生は続けるべきで,この記載に関して抗議したという田村教授に同意する。

 本書は,意訳などを廃してできる限り原著に忠実に訳することが課せられているとのことであり,日本語として読みづらい趣がある。しかし科学的(医学的)な内容は文学的文書と異なり,正確さに関する疑問はない。一方,すでにNCPRガイドラインがあり広く使用されてその有用性が示されているところから,現在の本書の立ち位置としては,前者は英語版NRPの流れをくむものであり,少なくともNRP普及の指導的立場にいる者にとっては,その原点を知る意味で一読するべきである。同時にNRPを行う施設においてはreferenceとして常備されるべきであろう。
蘇生処置の具体的なイメージを持ちながら生きた知識を習得できる
書評者: 金山 尚裕 (浜松医大病院病院長)
 本書は,米国小児科学会(AAP)と米国心臓協会(AHA)が公式の新生児蘇生ガイドブックとして作成した原書を,2006年に初めて翻訳出版して以来,原書での改訂を重ね,2016年に刊行された原書第7版の翻訳です。9章からなる翻訳初版(原書第5版)に今版では新たに2章が加えられ,全11章から構成されています。

 本書は新生児の生理とそれに基づく新生児蘇生の原則から,終末期における倫理的問題とケアにまで言及し,新生児蘇生にまつわる事柄をほぼ網羅しています。胎児が出生後,どのように胎外生活へ移行しているのか,といった変化が具体的なイラストと解説で示されていますので,胎児から新生児への循環酸素動態の基礎的理解と実際に行われる新生児蘇生への臨床的理解が一目瞭然にわかるようになっています。

 翻訳初版から変更された重要な推奨の中で,蘇生中のECGモニタリングや酸素濃度測定について言及されており,わが国のNCPR改訂でも同様の変更が踏襲されました。改訂NCPRでは近赤外線モニターによる酸素飽和度測定の重要度が増しており,本書を介してこの分野の研究の発展が期待されます。

 また前版と同様に十分な準備と有効な陽圧換気,そしてチームワーク医療が重要視されています。各章にはより良いチームワークとして各人がどのような行動をとるべきか,具体的な行動例が示されています。本書は実際の蘇生処置をどのように行うべきか具体的なイメージを持ちながら,生きた知識を習得できるような工夫が各所に施されているのも特徴です。

 本書は新生児蘇生にかかわる全ての職種,医師,助産師,看護師,そして将来それらの仕事に従事する学生のバイブルとして最適な一冊です。いざというときのために新生児を救う強力な武器として本書を活用されることを願っています。

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