新生児集中ケアハンドブック

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英国の看護師が中心になって執筆した、NICU看護の体系的なテキスト。病態生理や治療・管理に関する知識から、家族の支援や法的・倫理的問題までを、最新のトピックを交えながら解説。また、全体を通してエビデンスに基づいた記述がなされており、ケアの根拠として数多くの文献が引用されている点も特徴である。新人から認定看護師を目指すナースまで、NICU看護の質向上のために幅広く役立てることができる1冊。
原著編集 Glenys Boxwell
監訳 沢田 健 / エクランド 源 稚子
発行 2013年03月判型:B5頁:552
ISBN 978-4-260-01654-4
定価 7,480円 (本体6,800円+税)

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監訳者まえがき日本語版の刊行によせてまえがき

監訳者まえがき
 本書は,2010年に刊行されたGlenys Boxwell編“Neonatal Intensive Care Nursing ”の第2版の翻訳である。第1版は2000年に刊行されているので,原書は10年ぶりの改訂となっている。主に英国のNICUで実践されている新生児看護について,最新のトピックを交えながら,数多くのエビデンスに基づいて解説されたハンドブックである。
 英国では,新生児看護領域においてもっとも信頼できるテキストとして,現場で活躍する看護師・助産師の必読書のひとつとなっている。また,新生児看護学のプログラムをもつ大学・大学院教育においても,必読書として指定されている。本書を“基本書”として新生児看護の経験を積み,ナースプラクティショナーなどの資格の取得や新生児領域の研究者を目指す看護師も多い。
 読者は英国内にとどまらず,米国,カナダ,オーストラリア,ニュージーランド,ノルウェー,スウェーデン,さらにはインド,シンガポール,台湾などのアジア圏においても,臨床・教育の現場で活用されており,それぞれの地域で,新生児集中ケアの中心的なテキストとして位置づけられている。

 本書の大きな特徴は,“看護師によって,看護師のために書かれた”ということである。現場の看護師に,看護の視点で書かれたテキストを届けたいという願いから生まれた本書は,その執筆者のほとんどが新生児領域を専門とし,大学や臨床の第一線で活躍する看護師である。
 執筆には,英国だけでなくオーストラリアやニュージーランドの看護師も加わっており,エキスパートによる国際的な連携・協働が結実した1冊といえるだろう。

 新生児看護を支える参考書や教科書は,世界的にも決して多いとはいえないのが現状である。本書が日本の新生児看護領域においても,強い味方となってくれることを願っている。特に,これからNICUで働く新人看護師・助産師が学びを得るために,本書は大いに役立つだろう。もちろん,意欲のある学生や学びを深めたい経験者にも活用してほしい。2004年から,わが国でも新生児集中ケア認定看護師の養成が,日本看護協会の認定看護師制度として開始された。現在では280名強が認定されるに至っている。そのような専門コースを進む看護師にとっても,本書は重要な道標になるだろう。
 さらに本書は,看護職以外にとっても役立つ内容を多々含んでいる。特に,第1~3章,第19~20章で扱われるテーマは,全人的な医療を実践するための基盤であり,新生児にかかわるすべての医療者に一読を勧めたい。

 翻訳の企画段階では,看護師によって書かれたという原著の精神を受け継ぎ,NICUの現場で働く看護スタッフにも翻訳に参加してもらうことを主眼においた。今回,多数のNICUスタッフが翻訳に参加してくれたことは大きな喜びである。同輩・後輩にとっても大きな刺激となることだろう。
 また,翻訳を進める中で,原著者からの温かい激励を何度もいただくとともに,新生児を愛し,新生児と家族のために日々の努力と学びを重ねている世界中の看護師たちとのつながりを実感した。海を超え,大陸を超え,言葉の壁を超え,現場の看護師をつないでいる“見えない糸”を,本書を通じて読者の皆様にも感じ取っていただければと願っている。

 原書は,英国の新生児医療の実践を基礎においている。医療制度,文化的・宗教的背景を異にする部分もあるため,戸惑うこともあるだろう。また,治療法,薬剤など本邦で実践する場合には注意が必要である。
 引用されているウェブサイトのアドレスについては,2012年末の時点までは確認されているが,その時点ですでに変更がなされている場合も多く,今後も注意が必要であることをお許しいただきたい。

 翻訳の際の類書の比較検討などについては,訳者でもある横浜市立大学附属市民総合医療センターの関和男准教授にご尽力いただいた。
 本書の出版にあたっては,企画段階から編集校正にわたって,医学書院の長岡孝氏と北原拓也氏に大変お世話になった。500ページを超える本書全体に眼を光らせ,監訳者の細かな要望に対応してくださった長岡氏の存在がなければ,本書の統一のとれた完成には至らなかった。
 翻訳者を代表して御礼申し上げる。

 翻訳にあたっては,用語の統一をはかり,原著者・編者とも連絡を取り,できるだけ正確かつ読みやすい日本語への翻訳を心がけた。誤りがあればすべて監訳者の責任である。読者の皆様のご指摘をいただければ幸いである。

 朱夏のもと橋頭堡なほ夢を食む

 2013年2月
 沢田 健・エクランド 源 稚子


日本語版の刊行によせて
 新生児医療に携わる医師と看護師の多大な努力によって,本書の日本語訳が刊行されたことを,たいへん喜ばしく思う。
 周産期における介入が高度化するとともに,それらの介入技術が普及し,胎児の発達に影響を与える要因についての理解も深まってきた。そのため,出産直後に集中治療を必要とする児が増加していることは,当然の結果といってよいだろう。よく指摘されるように,ほとんどの児(約90%)は,出産というハードルを無事に乗り超え,集中治療を必要としない。しかし,残る10%の新生児には,集中治療の技術が必要となる。その多くは未熟な児であるが,なんらかの問題を併発した正期産児が含まれることもある。
 新生児看護師は,こうした脆弱な新生児が最良のアウトカムを得られるよう,最善のケアを提供する立場にある。そのためには,正常な新生児の解剖学的・生理学的な発達過程だけでなく,新生児疾患にみられる病態生理学的な変化についても詳しく理解しておく必要がある。
 かつて,看護師はそうした内容を医学書から学んでいた。それにより,必要となる医学的知識を得ることはできたが,看護の役割と実践に特化した情報を十分に得ることができなかった。2000年の第1版以来このテキストは,“看護師による,看護師のための知識”を提供するために作られている。未熟な児や病的な児をケアし,疾患や合併症を管理するとともに,危機的状況にある家族の支援を実践している現場の看護師たちの手によって,本書は生まれたのである。
 それぞれの章の著者は,解剖学的・生理学的な知識を基礎としながら新生児にみられる病態を記述し,最新のエビデンスによって裏づけた管理方法を紹介している。章末には多数の参考文献を挙げており,必要に応じて,読者のより深い探求も可能となっている。
 本書が,新生児看護学をはじめて学ぶ学生の理解を深める教材となるだけでなく,経験者のエビデンスに基づいた実践への激励となり,現状のケアを向上させようとする思考力への刺激となることを願っている。日本における新生児看護のプロフェッショナルたちの,さらなる発展を祈念している。

 Glenys Boxwell (Connolly)


まえがき
 本書は,2000年に刊行された“Neonatal Intesive Care Nursing ”の第2版である。これまでの間,新生児看護学ではさまざまな変化が生じたと思われるかもしれないが,実際のところ,変化は非常に少ない。約90%を占める大多数の新生児は,困難で問題の多い出生前後の時期を自力で乗り超え,NICUによるケアの力を借りることはない。しかし,残念なことに,残りの10%の児は私たちの治療を必要としている。その大部分は低出生体重児であるが,さまざまな周生期障害を受けた正期産児も少数ながら存在する。
 医療技術や介入技術が進歩した現在,私たちはある種の病態に対して,明らかにより効果的な治療を行うことが可能となっている。例えば,新生児遷延性肺高血圧症に対する一酸化窒素吸入療法,高機能化された人工呼吸管理などである。それ以外にも,日常診療において,体温管理に関するさまざまな管理方法が導入された。分娩直後の未熟な児をポリエチレンバッグに入れることは,簡単で非常に効果的な方法ではあるが,体温の恒常性の維持に関する革新的な成果をもたらした。一方で,脳障害を予防するための脳低温療法が,正期産の仮死児に導入されるようになった。あまり変わらないものとしては,NICUにおける両親への支援,看護師が日々の実践でつねに向き合っている倫理的ジレンマがある。
 今回改訂したこの教科書は,果たして本当に役に立つのだろうか? 多くの読者の脳裏には,「この本が出版される頃には,知識は陳旧化してしまっているはずだ!」という考えがよぎるだろう。その考えには,ある種の真実が含まれている。しかし,十分な研究をもとに作られた出版物の多くは,確かな信頼性をもっており,特定のテーマについて最新の情報を得るための出発点として活用することができる。本書では,さらなる探究を深めたい読者のために,章ごとに豊富な引用文献を備えている。
 第1版の刊行以来,インターネットからの情報は飛躍的に増大しており,それらは大いに役立つものである。しかし,今なお多くの医療者は,即座に利用できる手元の情報源を頼りにしているはずだ。特に,試験を前にした直前の午前2時の学生は!
 NICUで遭遇するすべての病態・疾患を網羅した本を作ろうとすると,分量はすぐに本書の2倍を超えてしまうだろう。そうなると,難解な大著となってしまい,読者にとっては使いにくいものになる。
 本書は前版と同様に,未熟な児や病的な児を日夜ケアし,疾病の経過や随伴症状の管理に取り組む人々によって執筆された実践的な指針として,このサイズにおさまっている。
 各章で,疾患を説明する際には,解剖学的・生理学的な基礎を含めるように努めた。また,最新のエビデンスに基づいた管理方法を示すことを心がけている。本書の知識を実践に応用することにより,疾患の過程がよりよく理解されるとともに,ケアの質が向上し,両親への支援もさらに充実していくだろう。
 専門コースを履修中の学生が,課題の“エビデンス”を探すために役立つ内容を示すということだけでなく,エビデンスに基づいた知識を,日々のNICUの看護実践に結びつけようとしている臨床の読者を後押しすることが,本書のもつ精神である。

 2009年11月
 Glenys Boxwell(Connolly)
 Plymouth

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 監訳者/訳者一覧
 執筆者一覧
 監訳者まえがき
 日本語版の刊行によせて
 まえがき
 謝辞
 主な略語一覧

第1章 エビデンスに基づく新生児看護の実践
 はじめに
 エビデンスに基づく実践とは何か?
 論証された知識(科学的知識)
 臨床経験を通じて得られる知識
 患者・家族・医療者からの知識
 現在の環境からの知識(監査と評価)
 臨床上の意思決定におけるエビデンスの使用
 実践に基づくエビデンス/看護に基づくエビデンス
 おわりに
第2章 発達に焦点を当てた看護ケア
 はじめに
 発達に焦点を当てたケアへの理論的アプローチ
 行動のアセスメント
 NICUの環境
 発達のためのケアモデル
 おわりに
第3章 NICUにおける家族
 はじめに
 家族のかかわりの歴史的背景
 環境
 親になること
 両親のストレスサインとその対処
 家族による看護と支援:家族全体へのケア
 家族システムとアセスメント
 支援のための方法:ストレスの予測と軽減
 おわりに
第4章 新生児の蘇生
 はじめに
 仮死
 事前準備
 蘇生のABC(DE)
 蘇生の評価
 おわりに
第5章 体温管理
 はじめに
 胎生期の発達
 熱獲得のメカニズム
 熱喪失のメカニズム
 出生時の体温管理
 NICUにおける体温管理
 搬送中の体温管理
 体温測定
 新生児脳症の治療としての低体温
 おわりに
第6章 呼吸器疾患の管理
 はじめに
 呼吸器系の発達
 出生による呼吸器の変化
 気胸
 肺出血
 肺炎
 胎便吸引症候群
 新生児呼吸ケアの最近の傾向
 酸塩基平衡,ガス交換,モニタリング
 非侵襲的呼吸補助
 侵襲的人工呼吸のモード
 人工呼吸中の児の看護
 おわりに
第7章 循環器疾患の管理
 はじめに
 心血管系の発生学
 胎児循環
 新生児循環への移行
 正常生理
 新生児循環の調節
 病歴と診察
 新生児の一般的な病態生理
 看護で考慮すべきこと
 革新的な治療戦略と研究の継続
第8章 新生児の脳障害
 はじめに
 新生児脳の脆弱性
 胚芽層出血と脳室内出血
 神経保護のための低体温療法
 新生児けいれん
 脳障害のその他のメカニズム
 おわりに
第9章 血液疾患の管理
 はじめに
 黄疸
 ビリルビン脳症と核黄疸
 ビリルビン産生の生理学
 黄疸のその他の原因
 ビリルビンの測定
 黄疸の管理
 ビタミンK欠乏性出血症
 播種性血管内凝固
 貧血
 おわりに
第10章 NICUにおける痛みとその管理
 はじめに
 痛み経路の発達
 痛みのアウトカム
 痛みの表出
 痛みのアセスメント
 行動状態
 痛みのアセスメントのガイドライン
 痛みの管理
 専門的な問題
 家族
 おわりに
第11章 水・電解質バランス
 はじめに
 胎生期の発達
 尿産生の生理学
 ナトリウムバランス
 カリウムバランス
 塩素(クロール)バランス
 水分管理
 糖恒常性
 急性腎不全
 透析
 おわりに
第12章 NICUにおける栄養管理
 はじめに
 消化器系
 栄養のアウトカム
 家族の支援
 おわりに
第13章 新生児感染症
 はじめに
 出生前に起こる感染
 分娩中に起こる(垂直)感染
 晩期発症と院内感染
 易感染性宿主
 新生児敗血症の徴候
 臨床検査
 感染症の新生児の管理
 おわりに
第14章 診断や治療における処置
 はじめに
 処置の一般的な問題
 胃チューブ挿入
 採血
 腰椎穿刺
 採尿
 恥骨上穿刺
 気管挿管
 胸腔ドレーン留置
第15章 新生児の麻酔
 はじめに
 術前アセスメント
 術前検査と準備
 術中管理
 鎮痛
 輸液療法
 麻酔器具
 麻酔中のモニタリング
 呼吸器モニタリング
 おわりに
第16章 新生児外科
 はじめに
 一般的な管理指針
 よくみられる先天性疾患
 よくみられる後天性疾患
 その他のさまざまな障害
 おわりに
第17章 新生児搬送
 はじめに
 人員と訓練
 機器
 搬送方式
 リスクマネジメント
 緊急搬送のプロセス
 搬送元での注意点
 搬送先での注意点
 搬送に関する法律
 発展中の領域
 おわりに
第18章 新生児における薬剤治療
 はじめに
 未承認薬
 看護師による処方
 薬物動態学
 治療薬物モニタリング
 薬剤の投与
 おわりに
第19章 NICUにおける死別
 はじめに
 喪失の定義
 英国における新生児期の喪失の背景
 死別,喪,悲嘆
 喪失の理論
 喪失の文化的要素
 亡くなっていく児のケア
 特殊な状況
 積極的な治療の差し控えと中止
 情報の秘匿性
 両親への支援
 出生と死亡の届出
 周産期の剖検
 葬儀
 思い出・遺品
 おわりに
第20章 倫理と新生児看護
 はじめに
 倫理理論:概説
 倫理原則
 胎児の権利
 両親の自律性の尊重:インフォームド・コンセントの実施
 実践における倫理
 おわりに

 索引

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物言わぬ新生児の気持ちを理解するために (雑誌『助産雑誌』より)
書評者: 滋田 泰子 (日本赤十字社医療センター NICU看護師長/新生児集中ケア認定看護師)
 皆さんは新生児学を学ぶとき,どのようなテキストや参考書を手にするだろうか。私は助産師学生の頃から医師によって書かれた新生児学の入門書をバイブルにして育ち,新生児集中ケア認定看護師となった今でも,この本を基本的な必読書として紹介してきた。

 しかし,このたび英国の新生児看護領域でもっとも信頼できるテキストといわれ,すでに世界各国の教育現場で実際に活用されている『新生児集中ケアハンドブック』が翻訳された。このハンドブックは,なにより「看護職によって看護職のために書かれたテキストである」ということが特徴だ。新生児の解剖・生理学的な特徴や新生児特有の疾患に関する病態生理,蘇生や出生後の一般的な管理だけではなく,看護職ならではの視点が記されている。たとえば,「エビデンスに基づく新生児看護の実践」「診断や治療における処置」「NICUにおける痛みとその管理」「新生児の薬物療法」「新生児の麻酔や新生児外科」などは,最新のエビデンスによって裏付けられた管理方法や看護の役割が紹介されており,臨床現場で実際に看護提供する際にすぐにでも活用できる。また,「NICUにおける死別」「倫理と新生児看護」などは,ホリスティックな看護の提供や倫理的感能力を磨くためにチームで共有すべき内容である。

 このハンドブックの「NICUにおける痛みとその管理」の章では「新生児の痛み」について記されている。NICUだけではなく産科でも採血検査などの場面で「新生児の痛み」に遭遇するだろう。皆さんは採血を実施した際の新生児の反応にどれだけ着目し,アセスメントしているだろうか。新生児の神経系は髄鞘化が不完全なため,痛みを表出する能力が低いといわれている。しかし,一方で,新生児の神経系は痛み刺激を伝達,知覚,反応,記憶する能力があり,感覚処理上,成人よりも大きく長い痛みを感じているといわれる。つまり,新生児は反応が乏しくても強く痛みを感じており,バイタルサインや皮膚色,末梢冷感などの自律神経系の変化,眉の間や鼻根部,下眼瞼や額によせる皺や閉眼の具合など,表情でも必死に痛みを伝えようとしている。そのため,アセスメントツールなどを活用した痛みの評価や積極的な痛みの管理が必要である。

 このように,物言わぬ新生児を対象とするからこそ,正しい知識を理解しアセスメントすること,真摯な態度でエビデンスに基づいたケアを提供することが重要である。看護の視点から,今一度新生児を正しく理解するためのテキストとして,ぜひおすすめしたい1冊である。

(『助産雑誌』2013年10月号掲載)

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