顕微鏡検査ハンドブック
臨床に役立つ形態学

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顕微鏡検査に必要な知識を網羅した本書は、まず総論で、材料の採取法、標本の固定法、作成法、染色法、観察法など、顕微鏡検査の基本的な知識と手技を解説。各論では、すべての技師が見逃してはならない重要な臨床所見の読み方と医師への報告法、そして異常所見が認められた場合の対応法を解説する。好評を博した 「検査と技術」 増刊号「顕微鏡検査のコツ-臨床に役立つ形態学」の待望の書籍化。臨床検査技師必読の1冊。
編集 菅野 治重 / 相原 雅典 / 伊瀬 恵子 / 伊藤 仁 / 手島 伸一 / 矢冨 裕
発行 2012年06月判型:B5頁:416
ISBN 978-4-260-01554-7
定価 7,150円 (本体6,500円+税)

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 顕微鏡検査は,微生物,細胞,結晶など豊富な情報が得られる検査である.現在の臨床検査室における顕微鏡検査は,微生物,細胞診,血液像,尿沈渣などの分野に分かれて検査が行われており,検査成績も各領域に限った内容が報告されている.しかし,検査技師が自分の専門領域に加えて他の領域の顕微鏡検査の観察法を習得することによって,顕微鏡検査から得られる情報が飛躍的に向上する可能性がある.
 例えば微生物領域の顕微鏡検査では,通常はグラム染色による微生物の観察のみが行われており,検査結果として「グラム陰性桿菌(3+),グラム陽性球菌(+)」などと医師に報告されることが多いが,これでは感染症の診断には情報としては不十分であり,医師も検査成績の意味が理解できない.この微生物情報に,「多核白血球(3+)」などの細胞情報を加えることによって,患者さんの感染症が急性炎症期にあることがわかり,さらに検出菌は感染症の原因菌である可能性が高くなるのである.
 このように,疾患の診断と治療に役立つことを目的とする顕微鏡検査では,「病像」検査としての役割があり,判読には幅広い領域の知識が必要になる.各専門領域の顕微鏡検査については多くの参考書があるが,専門領域を超えて顕微鏡検査を総合的に解説した書籍は極めて少なく,ここに本書の存在意義があると思う.
 本書の構成としては,まず微生物,一般検査,血液像,細胞診,病理など各領域における材料の採取法,標本の固定法,染色法,観察法など顕微鏡検査の基本的な知識と手技について解説している.次に,顕微鏡検査においてすべての検査技師が見逃してはならない重要な臨床的所見について解説し,最後に,臨床的に重要な疾患における顕微鏡検査の特徴的所見,およびその読み方と医師への報告法について解説している.また臨床的に重要な異常所見が認められた場合に,他の領域の専門家に確認するなど,その対応法についても解説している.これらの知識と技術を習得することによって,読者の皆さんが個々の専門領域を超える広範な顕微鏡検査の知識を得られることを期待する.
 本書は2009年に出版された雑誌「検査と技術」の増刊号「顕微鏡検査のコツ-臨床に役立つ形態学」を,加筆・改訂し,新たに単行本として出版したものである.執筆者一同の尽力によって,類書のない,真に臨床検査に役立つ検査書になったと自負している.本書を日々の検査や診療に,おおいに役立てていただければ幸甚である.

 2012年6月
 菅野 治重

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I 顕微鏡の基本
 1 顕微鏡の原理と調整法
 2 顕微鏡写真撮影のコツ

II 微生物検査
総論
 1 固定法の種類と特徴
 2 染色法の原理と特徴
 3 検体保存による塗抹所見への影響
 4 感染所見の読み方
 5 薬剤の影響
 6 培養検査が必要な感染症
 7 塗抹標本の作製法
各論
 8 感染症と顕微鏡検査の所見
 9 抗微生物薬の治療効果の判定

III 一般検査
総論
 1 一般検査に関する形態像観察の基礎
 2 顕微鏡標本の作製法
 3 染色の原理と特徴
 4 検体保存の影響
 5 結晶成分の同定
各論
 6 尿沈渣
 7 糞便
 8 髄液
 9 胸水,腹水
 10 関節液

IV 血液像
総論
 1 血球の産生と機能
 2 標本の作製と保存
 3 染色法の原理と特徴
各論
 4 健常者の血液像
 5 異常血液像(造血器腫瘍を除く)
 6 造血器腫瘍のWHO分類

V 細胞診
総論
 1 基礎知識
 2 標本作製法
 3 染色法
各論
 4 婦人科
 5 呼吸器
 6 泌尿器
 7 消化器
 8 体腔液
 9 乳腺
 10 甲状腺
 11 リンパ節

VI 病理
総論
 1 病理形態像の観察の仕方,考え方
 2 病理標本の種類と目的
 3 病理標本作製法
 4 染色法
 5 免疫組織化学
 6 迅速診断
 7 透過型電子顕微鏡法
各論
 8 代謝異常の病理
 9 循環障害
 10 炎症
 11 免疫異常と移植の病理(肝移植を中心に)
 12 腫瘍

索引

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目に焼き付けておきたくなるハンドブック
書評者: 山中 喜代治 (前・大手前病院臨床検査部長)
 小学生のころ,雑誌の懸賞で手に入れた顕微鏡(100倍率程度)を用い,植物の葉脈やたまねぎの表皮細胞,昆虫の羽などを観察した経験が,私を臨床検査の道に進めさせた。40数年前に直面した臨床検査は,まさにミクロの世界が基本であり,連日,多種多様な尿中細胞を学び,多くの虫卵や原虫を速やかに捉え,100%好酸球性白血病を見つけ,ガフキー10号の真っ赤な標本にも出会えた。これらの功績は,職場の先輩や教育機関の先生方の指導の賜物と感謝しているが,何より頼りにしたのが各種専門書であり,数少ない写真集を食い入るように見入ったものである。

 本書は,顕微鏡で探る多くの疾患を対象とし,診断に直結できる鏡検所見をそろえ,検査手技,鏡検像の特徴解説,病態解析に至るまで簡潔にまとめており,冒頭では,顕微鏡の原理と使い方,顕微鏡写真撮影のコツをわかりやすく概説している。続いて部門別に紹介されているが,微生物検査では,鏡検で判断できる感染所見や薬剤影響による変化などの概説,主な原因微生物の鏡検像の特徴解説に目を奪われた。一般検査では,尿沈渣,寄生虫,穿刺液などの標本作製法,染色法,症例と鏡検所見が紹介され,昔懐かしい虫卵など貴重な写真に出会えた。血液像では,末梢血,骨髄の採取,標本作製,染色原理,手技が概説され,各論では健常者の血液像を把握することから始まり,異常血液像,造血器腫瘍のWHO分類が紹介され,専門知識修得に最適と思えた。細胞診では,細胞所見や判定基準の基礎解説,一般的塗抹法,集細胞法,各種染色法の手技がわかりやすく記述され,各論では疾患別症例の鏡検像とその細胞特徴の解説がそろえられており,鮮明な画像に見入った。そして病理では,細胞診,末梢血,尿沈渣,細菌検査との違いが解説され,標本作製法,染色法,迅速診断,腫瘍診断を適正に表し,幾何学模様を連想させる鏡検像を堪能した。さらに,随所挿入のCOLUMNもまた,適切なアドバイスとして楽しめた。

 最新検査の変遷は目覚ましく,高性能画像分析,遺伝子解析,質量分析の応用など早期診断を目的に邁進している。しかし,病態変化を目の当たりにでき,瞬時に診断治療に貢献できる顕微鏡検査は永遠に不滅であると信じている。百分は一見にしかず,本書は臨床検査に従事する方々にとって目に焼き付けておきたくなるハンドブックではないだろうか。
臨床医学に役立つ顕微鏡検査のすべてがここにある!
書評者: 渡辺 彰 (東北大加齢医学研究所教授・抗感染症薬開発寄附研究部門)
 臨床医学に大きく役立つ顕微鏡検査のすべてがここにある! これが私の第一印象である。本書は微生物検査だけでなく,細胞診,血液像,尿沈渣,病理などの顕微鏡検査法があまねく,しかも互いに連携を保って網羅・解説されており,これが本書の最大の特色である。すなわち,横断的な編集であり,しかも各分野が有機的に連携されていて,統一した視点から編集されている。今日の臨床医学に最も欠けている部分は本書によって埋められるものと考える。

 これまでは,そうではなかった! 病院や検査センターにおける顕微鏡検査は,各分野に分かれて行われており,互いの連絡や接触は希薄であった。臨床検査法の教科書も同様であった。すなわち,縦割りの検査が行われており,教科書も縦割りだったのである。皆がたこ壺にこもっているので,互いの様子は互いによくわからない。たこつぼから臨床へ有用な情報を発信することはできるだろうか? できるわけはなく,これが今日の臨床検査・臨床医学の大きな欠陥となっていたが,本書はその欠陥を埋める良いハンドブックとなっている。編者の先生方の力量に負うところが極めて大きいが,わが国の微生物検査に携わる医師と臨床検査技師の中で,本書の編集代表である菅野治重先生を知らない人はいない。

 本書は,菅野先生をはじめとする編者の方々および執筆者の方々が他の分野にも広く名を知られるようになる第一歩の一冊でもあると思われる。それは本書が,微生物検査の領域だけではなく,広く他の臨床検査,のみならず,広く臨床医学全体の中で顕微鏡検査によって得られる情報を最大限に生かすためには,どのような知識と技術の習得が必要なのかを解説した本だからである。微生物検査以外の分野に携わる方々にも薦めたい一冊であり,もちろん,微生物検査に携わる方々にも薦めたい一冊である。

 本書を読むことによって自分の目が大きく開かれることは間違いないが,現に顕微鏡検査に携わっている医療者のみならず,これからこの分野に進む学生らなどにとっても,たこつぼ的な知識の枠を超えて広い視野を与えてくれる必読の一冊であり,臨床検査・臨床医学における自分の存在価値を高めてくれることは間違いない!

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