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がん専任栄養士が患者さんの声を聞いてつくった73の食事レシピ

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「何も食べたくない」という小児患者さんから、「うな重が食べたい」という終末期の患者さんまで。日本で唯一の「がん専任栄養士」が珠玉の食事レシピ73品を大公開。看護師、栄養士、患者家族など、「がん患者の食」を支えるすべての人に役立つ知恵と知識が満載。
シリーズ 看護ワンテーマBOOK
川口 美喜子 / 青山 広美
発行 2011年11月判型:B5変頁:128
ISBN 978-4-260-01477-9
定価 1,980円 (本体1,800円+税)

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はじめに

がん治療と栄養士の役割
 皆さんはじめまして。管理栄養士の川口と申します。当院では、2006年4月にがん専任栄養士(青山)を配置し、協力しながらがん患者さんへの食事支援に取り組んでいます。
 管理栄養士としてがん患者さんにどのような支援を行なうかについては、大きく分けて3つの時期があります(図表1、本サイトでは省略)。1つはがんに対する積極的治療を行なっている時期の栄養療法としての支援です。免疫能力の低下を予防し、全身の治癒環境を整えること。そして、治療中の日常生活に耐える体力を維持するために、栄養状態を維持・管理することが目標となります。もしも経口摂取による栄養量でその目標を達成することができなければ、経管栄養、もしくは静脈栄養によって、積極的な栄養管理を実施する必要もあります。
 次に、再発、転移などのために血液炎症反応が高値となり、食欲が低下し、全身の体力が消耗する悪液質の病態に陥る時期の栄養管理があります。ここでは体重減少や食欲低下を認めるため、患者さんにとってより食べやすく、また、エネルギーや栄養価の高いメニューを提案することで病態の改善を目指すこととなります。
 3つ目に、終末期を迎えられた患者さんへの食事支援があります。経口摂取も難しく、栄養障害となることが多くなるこの時期においては、栄養状態の維持・管理もさることながら、患者本人と家族の「食に対する思い」をできるかぎり受け入れ、「食べる喜び」を提供するという、QOL向上の視点が重要となります。

栄養バランスも考慮しつつ、「食べる喜び」を支える
 どの病期にある患者さんであっても、栄養士が患者さんの心を支えるような食事を提案することで、栄養状態、ひいては全身状態の改善をみることがあります。治療による有害事象など、さまざまな原因によって食事をとることができない患者さんに、私たちはできる限り「食べる喜び」を提供できるよう、メニューを試行錯誤し続けてきました。がん専任栄養士の設置は、そうした取り組みのなかで、「患者さんの思いに寄り添って食事を考える」専門家の必要性を感じたことによるものです。
 がん専任栄養士は、がん患者さんの思いに寄り添うと同時に、患者さんの有害事象や食べる機能に応じ栄養状態を維持するためにエネルギー、たんぱく質や各種の栄養素、水分の補給を満たすメニューを検討します。患者さんの希望は非常に多岐にわたります。「麺類が食べたい」「寿司が食べたい」「果物が食べたい」「酢の物が食べたい」という要望がある一方で、「病院食に飽きた」「肉(or魚)のにおいが気になる」といった、「○○が苦手(食べたくない)」という要望もあります。
 こうした要望に単純に応えているだけでは、糖質や食物繊維は摂取できても、たんぱく質、脂肪や微量栄養素が欠乏してしまうことがしばしばあります。これらの栄養が欠乏すると、免疫能の低下に起因する感染症などの懸念も高まります。当院で考案したバランスマット(図表2、本サイトでは省略)は、必要な栄養素を過不足なく食事から摂取していただくための工夫の1つです。
 患者さんの病態や思いに寄り添った食事を提案するためには膨大な知識が必要です。治療とそれに伴う有害事象、調理や食材と嚥下機能や消化機能の関連、手術後に残された機能と食事の形態や味付け、そしておいしい食事を作るための調理の知識を総動員する必要があります。

信頼関係が、患者さんに受け入れられるレシピを生む
 こうしたきめ細かい食事援助の背景には、摂食嚥下機能を判断し、食べることの細かな提案をくれる言語聴覚士、薬剤の副作用と食事の関連情報の提案をしてくれる薬剤師、食べる時のポジションや呼吸に関し指示をくれる理学療法士、検査値から栄養状態の評価をしてくれる臨床検査技師、患者の家庭環境等を知らせてくれるメディカルソーシャルワーカーといった、多くのスタッフとの連携があります。
 特に看護師さんからの情報提供は、患者さんの要望に応じたレシピを考えるうえで非常に重要です。「今日は、気分よさそうよ」「口唇が痛くて、少し口が開きにくいかなあ」「右手が曲げにくそう」などといった患者さんの日ごとの情報を知ることで、例えば口に入れやすい「スティックおにぎり」(写真、本サイトでは省略)を提案したことによって食事量をしっかりと確保できた、という事例もあります。
 入院患者さんにとって、その時に必要なメニューをつくっていくためには、長い時間を共にベッドサイドで過ごし、信頼関係を築いていくプロセスが大切です。管理栄養士(川口)とがん専任栄養士(青山)がある患者さんの信頼を得るまでに、1か月以上を要すことも少なくありません。患者さんが食事を口にされるまでには、ひとつひとつのメニューに患者さんとともに作り上げてきた心に残るストーリーがあります(次ページより、そのストーリーのいくつかをご紹介します〈本サイトでは省略〉)
 今回、これまで私たちが提案してきたメニューをまとめる機会を得ました。食事・栄養治療を管理し、支える医療者と家族にとって、そしてその家族と患者が、食べることを諦めないためにも、私たちががん患者さんとともに作り上げた「命をつなぐ食事メニュー」をお手元に置いていただければ幸いです。

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はじめに
Story 「食べる喜び」を支え続けることの意味

主食
001 むせないパン粥
002 焼きおにぎり
003 いなり寿司
004 パスタムース
005 ふわふわお好み焼き
006 ふわとろオムライス
007 ナポリタン
008 粒粒うどん
009 カラフルサンドイッチ
010 ちらし寿司
011 軍艦巻き
012 うな重
013 ライスバーガー
014 天津飯
015 寒天寄せそうめん
016 しょうゆラーメン
017 焼きそば
018 焼きうどん
019 割り子そば
020 野菜入りおじや
021 洋風春野菜おじや
022 温泉卵入りおかゆ

主菜
023 白身魚のふわふわ卵焼き
024 手羽先の照り焼き
025 八宝菜
026 麻婆豆腐
027 おから団子
028 彩り蒸し豆腐
029 豆乳茶碗蒸しのそぼろあんかけ
030 焼き鮭のおろし添え
031 白身魚の煮つけ
032 サバの味噌煮
033 かれいの干物
034 魚のすり身のゼリー寄せ
035 魚のおろし包み
036 揚げギョウザ
037 軟らかフィッシュバーグ
038 野菜たっぷりがんもどき
039 だし巻き卵
040 明太子入り卵焼き
041 ハムエッグ
042 居酒屋風串焼き
043 手づくりシウマイ

副菜
044 じゃがいもスープ
045 とろろ芋
046 白菜の漬物
047 大根おろしのかつおぶしかけ
048 きゅうりとワカメとエビの酢の物
049 キャベツの漬物
050 浅漬け三種盛り
051 サツマイモのオレンジ煮
052 卵豆腐
053 温泉卵
054 かぼちゃの簡単ポタージュ
055 刺身ゼリー
056 長芋そうめん
057 エビと春雨のサラダ
058 豚肉のしゃぶしゃぶ梅マヨかけ
059 茶碗蒸し
060 ごま豆腐
061 コーンスープ

間食・飲み物
062 じゃがいも餅
063 おはぎ
064 長芋おはぎ
065 フルーツサンドイッチ
066 フルーツヨーグルト
067 フルーツ盛り合わせ
068 生オレンジジュース
069 ココア&抹茶ミルク
070 紅茶&くず湯
071 ぶどうゼリー&オレンジゼリー
072 溶けないアイスクリーム
073 七夕ゼリー

患者さんの要望に合わせたレシピづくりのヒント
逆引きINDEX

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書評 (雑誌『訪問看護と介護』より)
書評者: 岡田 晋吾 (北海道・北美原クリニック、医師)
 在宅や施設で患者さんをみていると、やはり人にとって「食事」は、とても大切なことなんだな、と感じる。がんの末期で中心静脈栄養ポートを入れた患者さんが、家に帰ったら食事がとれるようになった例を何人も見てきた。

 もちろん入院中も、栄養士さんや看護師さんが何とか少しでも食べてもらおうと努力しているのだろうが、家では何かが違うのだろうと思っていた。家で食べられるのはなぜだろうと気をつけて見ていると、やはり食事をつくる過程を嗅覚や視覚で感じられる、摂取時間や量も患者さんの好みに合わせられる、そして何よりも、その病態や気分に合わせた食事をつくってもらえることではないかと気づかされる。

 しかし、病態や気分に合わせたレシピは実は難しく、嘔気が強いとき、嚥下困難があるときなど、患者さんの病態はさまざまである。おそらく家庭ではいろいろ試行錯誤することで、患者さんの望みに合うレシピを見つけているのだろう。そうしたレシピが増えれば、患者さんもご家族ももっと楽しい食事の時間がもてるであろう。

◆経験に基づく個別性の高い食事レシピ

 この本は、そのような望みに十分に答えることができるものだ。何よりも、がん患者さんをよく知るがん専任栄養士が書いていることで、多くのがん患者さんに対応した経験が十分に反映されていると感じられる。私たちも外来や在宅でがん患者さんを見ているが、手術や化学療法を受けるときと終末期に入ったときでは、言葉のかけ方などそれぞれ対応が違う。それと同じように、食事レシピもその状態に応じて違ってくるはずである。

 この本には、食事メニューそれぞれの下に、レシピが適する患者さんの病態(食欲不振、吐き気など)、患者さんの思い(懐かしい味、病院食に飽きたなど)が書かれていて、病院でも家庭でも使いやすく、とても参考になると思う。また書かれているエピソードを読んでいると、筆者の豊富な経験や患者に対する熱い思いが感じられる。

 私たちは食事を何気なく食べているが、ひとたび病を得て食事が十分にとれなくなると、気分は落ち込み、病と闘う気力もなくなってしまう。そして食事をとれなくなった患者をみている家族もまた気分が落ち込み、自分たちだけ食事をとることを後ろめたく感じてしまうこともよく経験する。食事は単なる栄養摂取の方法ではなく、病と闘うエネルギーの源であり、家族と楽しく話すための重要なイベントだと思う。在宅で患者さんや家族と接している在宅医療スタッフは、日常的に感じていることかと思う。

 少しでも経口摂取ができるために、患者さんと一緒にレシピを選び、またアレンジを考えることはとても楽しいコミュニケーションの時間となる。私も在宅医療に関わるようになって、できるだけ経口摂取を楽しくとることで、患者さんの小さな望みを最後の時までひとつずつ一緒に叶えることが、とても大切なことだと思いながら取り組んでいる。

(『訪問看護と介護』2012年3月号掲載)
「がん患者の食」を支える関係志向アプローチ
書評者: 柏谷 優子 (東医大病院緩和ケア支援室・看護師長/緩和ケア認定看護師)
 本書には,がん患者専任としてかかわる栄養士が実際に患者さんに提供してきた食事レシピと,そのかかわりのコツがまとめられています。

 がんを抱えて生きる多くの方は,本書に紹介されているような食にまつわる悩みやつらさを体験しているでしょうし,近くで支えるご家族もまた同じだと思います。そんな方々に,本書はきっと参考になり,がんを抱えて生きていくうえで頼もしい味方になってくれるでしょう。そして同じように,がん患者さんとそのご家族を支援する医療者にとっても,心強い味方になってくれると思います。

 すべてのレシピにはカラー写真が添えられ,患者さんとの物語がレシピ誕生のstoryとして紹介されています。患者さんにしっかりと向き合って紡いだ物語から生まれたレシピには,「これは使えるな!」と思わせる説得力があります。

 レシピそのものの活用という点でもそうですが,本書が示す患者・家族との向き合い方には,医療者として学ぶところが多々あります。がん医療は臓器・疾患別に治療ガイドラインが定められ,症状緩和においても標準対応策が確立しつつある昨今ですが,多くの医療者はそれだけではがん患者のケアとして十分でないことを実感しているはずです。

 質の高い医療・ケアを提供しようと考えたときには,根拠に基づく医療・ケア,すなわちEBM(Evidence Based Medicine)の側面からだけではなく,患者固有の物語を聴くNBM(Narrative Based Medicine)の側面からも患者にアプローチしていくことが必要です。本書で示された栄養士さんたちの取り組みは,まさに患者固有の物語を聴くことであり,問題解決思考を基盤にしてさらに踏み込んだ,関係志向のアプローチの実践だと感じました。

 関係志向のアプローチとは,徹底して患者の個性に沿うことでそのニーズを感じ取り,援助の手掛かりを得ようとするかかわりです。食の嗜好が個に帰属するものであるだけに,がん患者の食にまつわる課題とその解決は一般化できないものがほとんどだと思われます。その意味では,本書における栄養士さんたちの取り組みが関係志向のアプローチとなったのは,当然の流れによるものなのかもしれません。

 豊かなコミュニケーションスキルを駆使して解決策を見いだすまでの手間と時間を惜しまない姿勢には,深い愛情と専門家としての信念を感じました。そしてこうしたかかわりから,病院給食の中で個別対応ができるような体制を確立できる組織にも敬服しました。

 この本に学ぶべきものは,目の前にいる一人の患者さん(ご家族)を大切にする姿勢です。その一端を紹介してくれたのが73のレシピであり,添えられたstoryなのだと理解しました。感心するところしきりで思いに任せた評を書きましたが,本書には利便性を考えた工夫がほかにもいろいろとされています。熱量や栄養価の表示はもちろん,「こんな方に」と工夫された見出しなどのほか,巻末にはEBMの視点も加えた原因別,要望に合わせたレシピづくりのヒントなどもまとめられています。

 単なる食事レシピ本ではなく,患者さん(ご家族)が今を生きることを支えるための姿勢を学ぶ,その手掛かりとして本書を参考にしたいと感じました。

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