進め方と方法がはっきりわかる
看護のための認知行動療法

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認知行動療法で、看護の新しい可能性の扉を開きましょう。日常の看護場面で認知行動療法のエッセンスを取り入れて患者さんとやりとりができるよう、基礎的な解説から、実践するための方法を、豊富な会話例で紹介していきます。看護過程の流れに沿って認知行動療法を進めるための「用紙類」もすべて揃っています。
岡田 佳詠
発行 2011年11月判型:A5頁:248
ISBN 978-4-260-01482-3
定価 2,420円 (本体2,200円+税)

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はじめに

 皆さんはこれまで患者さんと接してきたなかで、自分の看護の知識・技術ではどうにも前に進めない、といった行き詰まりや限界を感じたことはありませんか?
 たとえば、うつ病の患者さんと接すると、「私は役に立たない人間です」のような極端に悲観的な言葉をたびたび言われることがありますよね。そうしたとき、皆さんはどうしていますか? おそらく、患者さんが今、自分が役に立たない人間だと感じているということを受け止め、つらい気持ちに寄り添おうとすると思います。でも、そのあとは……?
 あるいは統合失調症の患者さんが、「『おまえを殺す!』という声が聞こえてきて、ベッドから出られない」と本気でおびえているとき、どうしたらよいのでしょう。

 このような場面では、私自身も困難を感じてきました。臨床に携わっていたときも、教員として学生の実習指導をしていたときも、「この場面でどうケアを進めていけばいいのだろう」としばしば行き詰まりを感じました。
 けれどもそういうなかで、私は幸いにも、新たなケアへのヒントとなるものに出合うことができました。当時(1996年頃)私は修士課程の学生でしたが、アーロン・ベックの認知療法を学ぶ機会があり、これは看護に活かせるのではないかと直感したことを覚えています。その後、認知療法と行動療法が融合した認知行動療法にますます興味をもち、研修や学会などで学びながら、細々とではありますが今日まで実践や研究を続けてきました。

 認知行動療法は、患者さん(あるいはクライアント)の「認知」と「行動」にはたらきかけることで、患者さんのセルフコントロール力を高め、社会生活を送るうえでの問題や課題の解決をはかる心理療法です。
 私は実践や研究をとおして、認知行動療法の考え方・方法のなかでも、特に「認知」へのアプローチが、これまでの日本の精神看護領域ではほとんど強調されてこなかった部分だと感じてきました。認知行動療法でアプローチすれば、看護が、うつ病や統合失調症の患者さんをはじめ、糖尿病などの身体疾患をもつ患者さんのケアでの行き詰まりに突破口を開くことができると確信したのです。これは看護のアプローチの方法に新たな可能性が開かれたともいえるでしょう。

 今回私は、念願かなって看護の方たちのために認知行動療法の本を出すことができました。
 この本は、私が経験したケースなどをとおして、看護の皆さんへ認知行動療法を紹介し、実践できるまでに導くということを目的に書いたものです。看護への導入のしやすさを考えて、私たちになじみの深い看護過程の流れに沿って認知行動療法を実践する方法を示しました。
 さあ、これから私と一緒に、看護の新しい可能性の扉を開きましょう。

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 はじめに

第1章 認知行動療法をはじめるための基礎知識
 1-1 認知行動療法へようこそ-新たなアプローチの扉を開こう
 1-2 認知行動療法の考え方
 1-3 基本となる「協同関係」
 1-4 看護に組み入れるとここが変わる
 1-5 動機づけを高めるために
 コラム ソクラテス式質問法とはどういうものか
      実施場所、必要物品、導入する患者さんの選定について
      心理教育は認知行動療法の実践に欠かせない
第2章 アセスメントをする
 2-1 5つの領域の視点で見る
 2-2 認知をもう少し深く見てみましょう
 2-3 気分と認知の区別について
 コラム 認知行動療法では「構造化」が重要
第3章 看護計画を立てる
 3-1 問題・課題を整理する
 3-2 目標を設定する
 3-3 計画を立案する
 コラム ホームワークが大事な理由
第4章 認知へ介入する
 4-1 認知再構成法を使って
 4-2 面接の進め方-うつ病の花江さんが書けなかったホームワークをめぐって
 4-3 面接の進め方-統合失調症の一郎さんが悩まされている妄想をめぐって
第5章 行動へ介入する
 5-1 問題解決法を使って-「問題解決策リスト」
 5-2 問題解決法を使って-「アクションプラン」(1)
 5-3 問題解決法を使って-「アクションプラン」(2)
 5-4 行動活性化を使って-「活動記録表」
 5-5 行動実験を使って-「行動実験表」
 コラム 行動へ取り組む前の準備
      認知と行動へアプローチするためのその他の方法
第6章 評価する
 6-1 介入した結果を評価する
第7章 集団認知行動療法の進め方
 7-1 集団認知行動療法の特徴
 7-2 集団における認知・行動へのアプローチ
 コラム 集団認知行動療法でも構造化が大事
      アサーティブなコミュニケーションを練習する

 おわりに-認知行動療法を継続し、効果を上げていくために
 索引

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書評 (雑誌『訪問看護と介護』より)
書評者: 矢内 里英 (埼玉県立精神医療センター)
 看護師として働き出して数年目の頃、傾聴や共感を主たる技とする自分の看護に疑問を感じていた。たとえば、眠れなくてつらいと訴える患者さんに対し、その話を傾聴し自分なりに共感し、何かしらのアドバイスをしようと試みる……。しかし患者さんは、「聴いてくれてありがとう」とは言うものの、結局眠れないことに変わりはなく、頓服薬に頼らざるを得なくなる、というパターンが多かった。

 もちろん、対処方法のレパートリーに服薬という選択肢を加えられるよう、患者さんをサポートすることも立派な看護である。しかしながら当時は、患者さんの対処能力を高めるというよりも、なんとかその場を切り抜ける手段として薬に頼っていたような気がする。また、看護の技として患者さんに治療的な介入ができていない自分にも不全感を感じていた。

 そんなときに出会ったのが、認知行動療法であった。「これなら今までとは違った関わりができるかもしれない!」とワクワクしたのを覚えている。

 認知行動療法について書かれた本はこれまで数多く読んできたが、本書は初めて“看護のために”書かれた本である。これまでの本は、特有の難解な用語をそのまま用いてあったり、表現が複雑であることが多かった。本書では用語に丁寧な解説がついていたり、あえて平易な言葉が用いられていたり、看護師が手に取りやすい工夫がなされている。また、「従来の看護アプローチに認知行動療法に基づく看護アプローチを組み入れると、どう変わるのか」や「通常の看護と認知行動療法では、どのようにアセスメントが違うのか」など、看護師ならではの視点が随所に散りばめられている。

 また、認知行動療法の面接過程を会話形式で描写し、そこに解説を加えているのも本書の素晴らしさのひとつである。看護師の臨床は患者さんの生活に密着しており、もともと構造化した面接というものに馴染みがない。そのため、理論や方法論を理解していても、いざ面接を始めようというときに、どのように進めたらいいのかイメージがつきにくい。その点、本書の会話形式は、面接の全体像を把握するのを助けている。また、解説を読むことで、看護師の発言の意図まで理解できる仕組みになっている。こういったところは、認知行動療法という枠を超え、面接のトレーニングという意味でも役に立つだろう。

 さらに本書には、認知行動療法の実践者である著者ならではの、豊富な知識と経験が詰まっている。たとえば「アセスメントがうまくできないときにどうすればいいか」や「自動思考を意識すると患者さんはつらくなることがある」などのように、認知行動療法を進めていくなかで看護師が困難に感じやすいところを押さえ、わかりやすく解説してある。私も過去に、患者さんが自動思考を意識してつらくなり、その先に進めずにリタイアしてしまったという苦い経験をもつ。「あのとき、この本に出会っていたら」と思うと悔しいばかりである。

 効果の高い介入方法を探している看護師の方には、ぜひこの本を手に取っていただきたい。きっと自分の臨床に認知行動療法を融合していただけると思う。

(『訪問看護と介護』2012年6月号掲載)
CBTを「看護師が実践する」ために書かれた初の本
書評者: 吉永 尚紀 (千葉大大学院博士課程・認知行動生理学)
 私たち看護職は,患者と接する機会が最も多く,生活のさまざまな場面にかかわるという特性を持つ。当然,精神的な悩み・課題を抱える患者へ対応しなければならない場面も多く,そんなときは行き詰まりを感じたり,陰性感情を抱いてしまうこともある。

 「傾聴・受容・共感」は看護の基本姿勢だが,その先にある「問題解決」に向かうための看護実践の方法が,本書には具体的に示されている。認知行動療法(CBT)に関しては多くの書籍が出版されているが,「看護実践」の切り口から書かれたのは本書が初めてといえる。

 特徴は,看護過程に沿った認知行動療法の展開が示されている点。そしてアセスメント-看護計画-看護介入-評価までの一連の流れにおける患者-看護師間での会話が活き活きと描かれている点だ。これにより読む側は,看護実践場面をリアルに想像しつつ,認知行動療法の展開を理解することができる。こうした形は,著者が看護師として認知行動療法を実践した経験が豊富であるからこそ可能なものだ。

 さらに,文字ばかりの難解な専門書が苦手な人でも,本書は太字,下線,色分けにより重要な箇所が強調されているので,読書感覚で読み進めつつエッセンスがとらえやすい。

 さらに感動を覚えたのは,面接内での会話に並行して,「何が行われていたか」という著者による解説が,同じページの下段に記されている点だ。多くの本で,方法論と実際のやりとりが別物として示されている中で,実際の会話と解説を同時に読み進められる臨場感は,まるでスポーツの試合を観戦しながら,名アナウンサーの解説を聞いているかのようだ。

 「認知行動療法で多くの患者さんが回復している姿を見ると,看護師冥利に尽きる」と著者は書いている。評者自身も大学病院の外来などで実践しながら,患者さんへの効果や満足を自分の目で確かめられるのが認知行動療法の魅力だと常々感じている。この本により,多くの認知行動療法実践者が生まれることを望みたい。

 2011年,日本ではがん,脳卒中,急性心筋梗塞,糖尿病に並んで精神疾患が五大疾患とされ,国として重点対策を行う方針が示されている。精神的な問題を有する多くの患者には,エビデンスに基づく高い治療効果が立証されている治療介入を提供することが求められている。看護職は,全人的なアプローチに主眼を置いていることと,より患者に近い存在であることにより,「There & Then(そのとき,そこで)」だけでなく「Here & Now(いま,ここで)」の問題に対応することが可能であるため,認知行動療法の新たな担い手として期待が高まっている。認知行動療法と看護実践が融合された本書が,この期待を現実のものにするための好著であることは間違いない。

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