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救急救命士によるファーストコンタクト 第2版
病院前救護の観察トレーニング

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「体の部位に着目する観察から、病態に着目する観察へ」「値に着目する判断から、変化に着目する判断へ」。好評を博した初版に、新たに「トレーニング論」「Oxygen Delivery」「中枢神経の観察」などの章を加えた待望の第2版。マヨネーズで心拍出量、山手線で循環不全(うっ血)など、身近なたとえで病院前救護に必要な病態生理がよくわかる! 救急救命士はもちろん、医学生、看護師、研修医にも推薦。
郡山 一明
発行 2012年02月判型:B5頁:144
ISBN 978-4-260-01479-3
定価 2,860円 (本体2,600円+税)

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第2版の序

 医療機関という「場」は,患者の治療を行う場所である。そのために医師は患者の訴え,診察に加えて,心電図,超音波,X線,CTなどの高度な医療機器を駆使して,これらの医療機器が示した結果を解釈して「診断」する能力を備えていなければならない。
 一方,病院前救護という「場」は全く異なる。高度な医療機器が存在しない上に活動時間も制約されている。病院前救護という場においては,要救護者の状況を「観て」「触れて」「聴いて」という五感を用いて把握した上で医学的知識に基づく評価を行い,対応できる設備が整った医療機関を選択して迅速に搬送する能力が求められる。したがって,病院前救護活動の中心を担う救急救命士は,これら4つの能力を磨かなければならない。このうち最も本質的なものは「医療機関の選択」である。選択とは,(1)選択肢を挙げる,(2)選択肢の中から1つを決定,という2つを行うことであり,選択肢の豊富さ,決定に際しての科学的根拠性をいかにもてるかが専門職の能力なのだ。そして,その選択のために医学的専門性で行うのが,要救護者の状況把握と評価,すなわち観察である。
 救急救命士の教育は,いつからかプロトコールという約束手法を,コース教育という統一方法で行うことに,その中心を置くようになった。活動時間の制約,公的サービスの一環,という現行の病院前救護の特性を考えると,その質を全国均一化するためにプロトコールという方法を採用することは必ずしも間違いではない。しかし,教育は違う。教育の目的はプロトコールに使われる者を育成することではなく,その科学的意味を理解し,適用を含めてプロトコールを自在に使える者を育成することにある。同時に,教育とは現状を充足することに加えて,未来を構築していく種子をまくことでもある。
 小さな本であるが,第2版を出させていただけることになった。今版では,近年の消防法改正を踏まえるとともに,トレーニング論など,救急救命士の未来を構築するための概念を盛り込んだつもりである。
 麻酔科指導医としての手術室での仕事,救急専門医としての救命救急センターでの仕事,行政官としての厚生労働省での仕事,そして救急救命九州研修所での教育,どれが欠けても本書を作成することはできなかった。
 すべての出発点である医学部に入学するのに時間を要した私を常に励まし,支援してくれた母に,そしてある日突然,臨床を離れて行政に行くと言い出した私の行動を理解し,応援してくれた妻と子供たちに,感謝とともに本書を捧げたいと思う。

 2012年1月
 郡山一明

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第1章 トレーニング論
 A 救急救命士の役割は何か
  1.マーケティングのSTPで考えてみる
  2.救急救命士の役割はMust not missの病態を見つけること!
 B プロフェッショナルへのトレーニング
  1.人にモノを付けるのか,モノに人を付けるのか?
  2.缶詰型教育と問題解決型教育
 C 熟達段階-今,あなたがいる段階,これからの方向性
 D 脳を鍛える
  1.見えないゴリラ
  2.郡山式AIDMA法によるトレーニング
  3.「他覚所見>自覚症状>状況」を取り入れたトレーニング
第2章 Oxygen Delivery
 A 生物にとっての酸素
  1.「生きる」の中心にあるもの
  2.救急救命士と一般人が同じ対応?
 B 観察とOxygen Delivery
第3章 循環の観察
 A マヨネーズを握る
  1.循環の意義
  2.心拍出量
  3.どんなときに心拍出量が減るのか
  4.心拍出量の維持
 B 脈を触れる
  1.橈骨動脈を触れる
  2.頸動脈を触れる
  3.大腿動脈,足背動脈を触れる
  4.血圧の左右差,上下差
 C 循環不全(うっ血)を見抜く-山手線で理解する
  1.心不全とは何か
  2.左心不全による肺の変化-スポンジを持って風呂に入る
  3.右心不全-うっ血性心不全による頸静脈の性状
  4.その他の変化
 D 末梢循環
 E シミュレーション
  1.正常の循環状況を確かめる
  2.動脈閉塞を再現する
  3.頸静脈の性状を観察する
第4章 呼吸の観察
 A 呼吸の原理を知る
  1.肺の意義
 B 目で見る
  1.ティッシュペーパーで肺胞内圧を見る
  2.呼吸の大きさと速さ
  3.生体はどんなときに分時換気量を大きくするのか
 C 聴診器を使う
  1.肺胞呼吸音を聞いてみる
  2.どんなときに肺胞呼吸音が聞こえなくなるのか
  3.気管支呼吸音を聞いてみる
  4.どんなときに気管支呼吸音が聞こえなくなるのか
 D 上気道閉塞パターンを理解する
 E シミュレーション
  1.普通の呼吸を観察する
  2.左右差を見いだす
  3.さまざまな呼吸状態でやってみる
  4.チェックリスト項目
第5章 出血の観察
 A 出血の生体への影響
  1.出血量は見た目ではわからない
  2.出血で足りなくなっているのは酸素か,それとも……
 B バイタルサインの経時変化
 C シミュレーション
  1.バイタルサインの変化を感じる
  2.Interestを鍛える
第6章 Oxygen Deliveryのまとめ
 A 酸素化と低酸素
  1.Oxygen Deliveryを回転寿司に学ぶ
  2.SaO2を理解する
 B 低酸素の症状
 C 努力呼吸の辛さ
 D バッグバルブマスクを使う-2つの役割
  1.たくさんの酸素を投与する
  2.バッグバルブマスクのもう1つの役割-呼吸仕事量を減弱する
  3.呼吸に合わせる
  4.「陽圧換気」がわかっている
 E シミュレーション
第7章 中枢神経の観察
 A 意識の観察
  1.病院前救護における意識確認の意義
  2.「お名前を言えますか? 手を握ってみてください」-中枢神経のAttention
  3.意識レベル-JCSとGCS
  4.意識状態
 B 脳局在機能の観察-意識レベルの次のInterest
  1.巣症状(Focal sign)
  2.眼の観察
  3.麻痺の観察
  4.その他の巣症状
 C その他の観察事項
  1.脳圧亢進とその進行
  2.心電図変化,肺水腫
 D シミュレーション
  1.生体を使って以下の状態を再現せよ
  2.シミュレーターを使ってクッシング現象を再現せよ
第8章 モニター心電図
 A 影絵を映す
  1.モニター心電図の概念
  2.電極の基本位置とダイアルの設定
  3.電極の位置と観察している部位
 B モニター心電計で知りたいことを決める
 C 心筋虚血-急性冠症候群とST変化
  1.心筋虚血と急性冠症候群
 D 伝導障害-不整脈
  1.不整脈の監視
  2.危険な不整脈
 E 電極を付ける
  1.右手に赤電極,左足に緑電極
  2.右肩に赤電極,V5に緑電極
  3.胸骨柄に赤電極,V5に緑電極
  4.前壁,前壁中隔の心筋を見たい
  5.たくさんの部位の心筋を見たい
  6.胸骨柄に赤電極,胸骨下部に緑電極
 F モニター心電図のまとめ
 G 心電図シミュレーション
  1.紙と鉛筆を使って
  2.心電図発生装置を使って
第9章 小児の特性
 A 小さいということ
 B 「なのに」というKeyword
  1.循環系
  2.呼吸系
  3.体温
第10章 シナリオトレーニング
 A シナリオトレーニングの意味
  1.郡山式AIDMA法のInterestをトレーニングする
  2.病院前救護における3つの観察
  3.疾患別シナリオ
  4.症候別シナリオ-鑑別の重要性:Wason課題と病院前救護
 B 疾患別シナリオ
  1.急性冠症候群
  2.気管支喘息
  3.脳卒中
 C 症候別シナリオ
  1.胸痛
  2.腹痛
第11章 まとめ
 A 観察を組み立てる-当選したお年玉付き年賀はがきを探す
 B ピサの斜塔の定理
 C 現場処置の有効性>迅速な搬送 なのか

付録1 気道確保(下顎挙上法)
  1.手技の位置づけ
  2.ポイント
  3.実施の際の確認事項
付録2 器具を用いた気道確保
  1.気道確保器具の原理を理解する
  2.頭の位置を変えてみる
付録3 救急救命士が間違いやすい16ポイント+1

索引

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救急医療の真髄を伝える「目からうろこ」の一冊
書評者: 坂本 哲也 (帝京大教授・救急医学)
 まさに「目からうろこ」の一冊に出会いました。昨今のマニュアル本が氾濫する世の中で本書はこれらと一線を画し,ことの本質をとらえた上で,わかりやすいたとえを駆使して読者に救急医療の真髄を伝える内容です。

 著者は,麻酔科指導医,救急科専門医としての豊富な臨床経験を生かして,現在は救急救命九州研修所で教鞭をとられている郡山一明教授です。副題に『病院前救護の観察トレーニング』とありますが,本書は救急救命士だけでなく,救急患者に接する可能性のあるあらゆる医療従事者に役立つ内容です。

 私たちは救急患者の診療の際にもついつい画像診断や血液検査に依存してしまいますが,そのファーストコンタクトでは五感を駆使して緊急度を判断し,患者の問題がどこにあるのかをあぶり出すことが最も重要であることは同じです。

 著者はまず,救急救命士の存在価値から説き起こし,それによりいわゆる特定行為に偏重している世間の誤解を正して,救急病態の観察と判断こそが本質であると喝破しています。これは,消防法の改正により救急活動として明確に位置付けられた観察に基づく医療機関選定につながります。

 そして問題解決能力こそがプロフェッショナルたるゆえんであり,いかにすればこの能力に熟達することができるかを論じています。いわく,手順に従って典型例に対応するのがアマチュアであるのに対し,複雑な状況下でも患者の命を救うという目標に向けて多様な対応ができるのがプロフェッショナルであると。これは医療従事者を育てる上での肝といえます。

 その上で,具体的な内容は,生命の維持に不可欠なoxygen deliveryをキーワードに展開されていきます。日常,何気なく診ている呼吸や循環について,その異常が生じるメカニズムと見抜き方を豊富なたとえと一目瞭然の写真で理解させてくれます。

 本文中では,心臓をマヨネーズのチューブに見立て,酸素運搬を回転寿司にたとえ,心電図を影絵にたとえるなど,他に例を見ないユニークな解説に,なるほどと思わず膝頭を叩きたくなります。われわれがつい陥りがちな罠についての心理学のトリビアを駆使した説明や,医学とは一見無関係に見えますが示唆に富む比喩には,著者の並々ならぬ知識と機知がうかがえます。

 重ねて,救急患者に対応する救急救命士,医師,看護師だけでなく,その教育にあたる人,そして自分のアイデアを人に伝えるためにはどのように書いたらよいのかを知りたい人すべてに本書を一読することをお勧めします。
救急救命士のみならず救急医療スタッフにも薦めたい書
書評者: 横田 順一朗 (市立堺病院副院長)
 命にかかわる重大な事態を把握するには,生命維持に関する生理学を習得した上で,重要な項目から観察しなければならない。これは急病や外傷の傷病者に最初に接する救急救命士に最も求められる技能であるが,この習得が必ずしも容易ではない。著者はこの本で,生命維持の基本となる酸素の取り込みと運搬に焦点を当て,その生理学,病態,観察そして処置までを解説している。呼吸,循環,中枢神経系の働きを生理学の医学書から学ぶのは医師ですら難解であるのに,多くの比喩を使って理解を助けている。例えば,心拍出の様子を「マヨネーズのチューブの握り方」に,循環の仕組みを「山手線」に,oxygen deliveryを「回転寿司」になぞらえ,ユニークな絵を付けて関心を引き付けている。また,双極誘導の特徴を影絵から想像させたり,P波とQRS波との組み合わせを描かせて不整脈を理解させたりするなどして心電図を楽しく理解させようとしている。こういった工夫は随所に見られ,一気に読み進めてしまうほど面白味がある。

 本書には上記のような魅力だけでなく,さらに特筆すべき点がある。それは,冒頭で病院前救護と医療機関での診療との相違点を整理し,救急救命士の職務の姿勢を明確にしたことである。「救急救命士の役割は,要救護者の生命危機を回避させつつ,病態に応じた最適な医療機関に迅速に搬送することである」とし,米国における救急医療サービスの業務ポリシー“The right patient in the right time to the right place”を巧妙に伝授している。適切な処置や医療機関選定のためには,最初に要救護者の全身状態を把握しなければならず,このため大半を「観察」に割き,副題を「病院前救護の観察トレーニング」としたのが書の本質であろう。さらに,教育と実践における「意思決定」の重要性に言及し,学習は缶詰型知識の詰め込みではなく,問題解決型能力の開発が重要であるとしている。このために「脳を鍛える」トレーニング方法として,認知力を高めるために「その気」を持つこと,「その気」から行動を起こすまでの一連のプロセスとして消費者心理を応用した郡山式AIDMA法での学習法を紹介している。これを軸に疾患別シナリオを提示し,読者に意思決定を求め,問題解決能力の開発を図っている。

 本書は病院前救護に携わる救急救命士のみならず,メディカルコントロールや救急診療にかかわる医師にとってもぜひ一読を薦めたい図書である。

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