親子保健24のエッセンス

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『公衆衛生』誌の連載「保健師さんに伝えたい24のエッセンス-親子保健を中心に」を書籍化。保健師が効果的な親子保健の活動を実践するために、この分野に長くかかわってきた小児科医・公衆衛生医である著者からの珠玉の提言。とくに、乳幼児の発育のチェック、発達障害を理解し支援する視点、思春期教育の進め方など、具体的な実践方法が記されており、新人から中堅の保健師には必読の書。
平岩 幹男
発行 2011年10月判型:A5頁:232
ISBN 978-4-260-01445-8
定価 2,640円 (本体2,400円+税)

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はじめに

 2011年3月11日午後2時46分,私は鳥取県境港市で高校生を対象とした講演を始めたところでした.まもなく体育館の天井の水銀灯が揺れ,地震だと感じましたがそのまま講演を続け,終わってから東日本大震災が起きたことを知りました.地震が鳥取にまで届くまでに約2分でした.今回の大震災では津波で何人もの保健師さんたちが命を落とされました.まずこれまでのお仕事に敬意を表するとともに,震災により亡くなられた方々にこころより哀悼の意を表したいと思います.今後とても長い時間がかかるとは思いますが,現地の復興を心より願っています.
 講演が終わってからテレビを見ても,まだ津波の情報がなく,建物の被害など大変な状況であることだけがわかりました.その後の数日で全容が明らかになるにつれ,特に津波での大惨事が明らかになってきました.関東地方に戻ってからはいろいろなところと連絡を取り,学会の役員などをしていることもあって,現地に何ができるかを考え,対応に追われる日々が続きました.初期対応が一段落してきたので,被災地での子どものこころの問題への対応や発達障害を抱えた子どもたちへの対応を開始しましたが,これらは1回や2回行っただけでどうなるものでもないので,しばらくの間は続けていきたいと考えています.
 今回はとても早い時期から周辺の県や関西地区から多くの保健師さんたちが被災地に入り,避難所だけではなく周辺の自治体業務の応援もしてこられました.積極的に活動されている地域の保健師の方々にもこころからお礼を申し上げたいと思います.
 今回の震災では200名を超える子どもたちが命を落としましたし,両親を失った子どもも100名を超えました.住居を失っただけではなく,家族を失った子どもたち,悲惨な光景を目の当たりにした子どもたち,これからも何年もこうした子どもたちへの支援は必要になってきますし,こころとからだの健康を支えるという面からも保健師さんたちの役割はとても大きいと思います.
 子どもたちは人口割合では少数派ですし,今回の震災でも子どもたちの報道や情報は当初は多くはありませんでした.多くの子どもたちはつらくても笑顔を忘れません.このことも子どもたちへの介入が十分ではなかった理由ですが,私たちにとって子どもたちの笑顔は私たち自身を励ましてくれるだけではなく,子どもたちがこれから作っていくはずの未来のお手伝いをしようという意欲ももたらしてくれます.
 本書は雑誌「公衆衛生」に2009年4月から2011年3月まで連載したものを1冊にまとめたものです.この2年間に自分自身もがんの手術も経験しましたし,還暦も迎えました.このような時期ではありますが,親子保健の重要性は今後とも変わるものはなく,いっそう必要性は高まっていくと信じて,上梓することといたしました.

 2011年10月
 平岩 幹男

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はじめに

第1章 親子保健の現状と課題
 1 親子保健のすすめ:日本における保健師の仕事と保健領域の構造
  コラム:思いを伝えるということ
 2 親子保健は保健の牙城であり続けられるか
  コラム:親子保健の夢
 3 子育て支援とは:ピア・エデュケーショとピア・サポートも含めて
  コラム:共感(sympathy)と感情移入(empathy)

第2章 周産期の問題をめぐって
 4 うつ状態・うつ病:妊娠中~出産後の問題を中心に
  コラム:ハイリスク
 5 授乳・離乳の支援ガイドと母乳育児をめぐって
  コラム:子育ては妊娠前から始まっている
 6 新生児訪問をめぐって

第3章 乳幼児健康診査と地域保健
 7 乳幼児健康診査の考え方
  コラム:指導と相談
 8 5歳児健診をめぐって:発達障害を中心に
  コラム:苦い思い出
 9 歯科保健をめぐって
 10 地域保健と予防接種
 11 児童虐待をめぐって

第4章 発達のチェックで気をつけたいこと
 12 身体発育:乳児を中心に
 13 身体発育:幼児期をめぐって
  コラム:子どもの時期は限られている
 14 言葉の遅れ
 15 運動発達について知っておいてほしいこと
  コラム:全体を見る

第5章 発達障害とその関連
 16 発達障害とは
 17 自閉症の療育をめぐって
  コラム:「教条主義」と「いいとこどり」
 18 親子保健における障害や疾患の発見と受容

第6章 思春期の問題
 19 思春期相談と思春期対応の体制づくり
  コラム:根拠のない励まし
 20 不登校・ひきこもりをめぐって
 21 青少年の飲酒・喫煙・薬物乱用
 22 思春期の性の問題点
 23 性教育とその周辺
  コラム:性教育は技術教育ではない

第7章 最後に伝えたいこと
 24 health reformとrespect, self-esteem

索引

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保健師が「親子保健をがんばりたくなる」一冊
書評者: 草野 恵美子 (大阪医大准教授・地域看護学)
 親子保健(母子保健)活動は重要な保健師活動の1つである。しかし,近年は「保健師の分散配置や年々増加する事務のため家庭訪問に行けない」「福祉部門など多岐にわたる分野がかかわる「子育て支援」における保健師の専門性とは何か悩む」……など親子保健の活動についてジレンマを感じる保健師も多いと思われる。このように親子保健の置かれた状況が社会情勢と共に変化し,以前のように親子保健に携わることが難しい場合もある。本書は,そのような現代の状況下でも,親子保健にもっと取り組もうという意欲を持たせてくれる一冊である。

 それはなぜか。理由の1つは「親子保健の重要性」を再認識できることである。本書は「親子保健のすすめ」という節から始まり,時代が変わってもなお親子保健が重要である理由や保健師に期待される役割が述べられている。

 「親子保健をがんばりたくなる」もう1つの理由は,本書を読んでいると保健師への期待が感じられるところである。ところどころに,「これは保健師にがんばってほしい」というメッセージが散りばめられている。著者は小児科医であるが,親子保健の現場で保健師と共に働いた経験から,保健師の専門性や得意とすることを理解されており,現場の経験に裏打ちされた提言には説得力がある。

 そして本書の一番の特長はとにかくわかりやすいことだ。この一冊で親子保健の基本的重要事項や大切な要素の全体像をとらえることができる。コンパクトでありながら内容が具体的で,すぐに実践で活用できそうだ。例えば本書では「reproductive ring」という図を用いて,ライフサイクルにおける親子保健の対象を表現している。乳幼児期~思春期,青年期,妊娠,出産といったライフサイクルは循環しているものであり,どこが始まりという性質のものではない。この図によって,親子保健には連続性という特性があることが理解できる上,ライフサイクルの各時期における課題や重要なポイント,実践の際に気を付けるべきこと,法的根拠なども具体的に解説されている。

 保健師が現場で直面する頻度が多くなってきている発達障害について1章を割いて取り上げていることも本書の特長だ。発達障害の法的な定義も紹介されているが,著者の定義はわかりやすく,さらに療育内容や親子への対応について経験を踏まえて具体的に解説されている。いずれも保健所や市町村等で親子保健の現場に長年携わってきた筆者の経験談を踏まえた臨場感のあるものでイメージがしやすい。

 新人期の保健師にとって,本書は「コンパクトな教科書」として手元においてすぐに活用できるのではないかと思われる。中堅期の保健師ならば「振り返りの教材」として,これまでの自分の経験に照らして「やっぱり大事だよね」と共感しながら学び直すことができ,改めて日々の活動を振り返る際に役立つだろう。このように本書は新人~中堅期の保健師を主な読者対象として執筆されたものであるが,「新人指導の際の手引き」としてベテラン保健師にも役立つと思われる。

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