看護学教育における授業展開
質の高い講義・演習・実習の実現に向けて

もっと見る

看護教育において必要な講義・演習・実習の設計と展開をめざし、教育学の知識と最新の看護教育学研究の成果を整理・統合して概説。すべての看護専門分野に共通する授業展開や評価に関する知識が整理された実践的な構成になっている。「学生にわかりやすい授業を提供したい」という看護教員の願いに応える待望の1冊。
監修 舟島 なをみ
発行 2013年01月判型:B5頁:240
ISBN 978-4-260-01688-9
定価 3,520円 (本体3,200円+税)
  • 販売終了

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 序文
  • 目次
  • 書評
  • 正誤表

開く



 本書の出版は,博士後期課程に在学する大学院生のつぶやきに端を発する。その大学院生は,大学卒業後,臨床看護師,短期大学の助手を経験した後,千葉大学大学院博士課程(看護教育学専攻)に進学し,前期,後期課程ともに一貫して「看護技術演習」に着眼した研究を行った。
 博士論文も完成し,修了を目前に控えたある日のことである。その大学院生と私は彼女の研究を振り返り,次のことをあらためて確認した。それは,看護学実習と看護技術演習に関する研究の中核的部分が終わり,講義に関する研究が終われば看護学の授業の知識基盤はほぼ固まったということである。そして,「それらを整理して研究成果に立脚した授業に関する本がかけますね」と何気なく言ったところ,大学院生は小さな声であったが間髪入れずに「書いてほしい」とつぶやいた。その大学院生は,某県立大学看護学部の講師として就職することが決まっており,授業の経験を既に持っていたが,これからの職業活動に少なからず不安を抱いていた。学生と私は,しばらくの間,その夢のような出版の話に時間を費やした後,もし,授業の本を執筆するとき,その大学院生自身も執筆者になれること,出版に向けては,研究成果に立脚した看護学の授業に関する図書の必要性について論述する必要があることを伝えた。すると大学院生は数日後,「看護学教育における授業展開の理論と実際」と題した図書出版の必要性をA4用紙2枚にまとめ,提出してきた。
 その後,大学院生は修了し,その話題は中断したが,A4用紙2枚のレポートは研究室の書棚にマグネットで貼り付けられ,数年間,移動することなく同位置に所在し続けた。4年後,そのレポートが動き出した。それは,看護学の講義に関心を持つ大学院生が,修士論文として講義に際しどのような教授活動を展開するのかを明らかにしたことを契機とした。レポートはそのとき,既に変色していたが,内容は色褪せることなく新鮮であり,創造意欲をかき立てるものであった。
 このような経緯を経て,2011年1月,共著者とともに本書の執筆を開始し,約18か月間,毎月1回執筆者会議を重ね,本書は完成した。看護教育学は看護基礎教育,看護卒後教育,看護継続教育をその範疇に含み,本書は看護基礎教育のみならず,看護卒後教育,看護継続教育にも資する内容を包含する。初めて授業を担当する看護職者とともに,再度,授業を見直し授業の質向上を目指す看護職者の方々に活用していただければ,幸甚である。
 本書の作成に当たっては,多くの方々にご支援を賜った。望月美知代さんは,毎月1回開催される執筆者会議に必ず参加し,本書の完成に向け,様々な支援を下さった。また,医学書院の青木大祐氏,北原拓也氏は大学院生の発言を具現化するための道筋を切り開くとともに,丁寧な編集により完成度の高い図書へと導いてくださった。心から感謝申し上げる。
 本書の執筆者の殆どは,博士後期課程の修了生であり,修了後も研究生として在学し続け,互いに切磋琢磨しつつ研究を継続している。現在,修了生の着手している研究が新しい何かを生み出すことを予感しつつ,過ごす今日この頃である。

 最後に本書出版の契機となった発言の主が,執筆者の一人となった宮芝智子さんであることを付記する。

 2012年11月
 舟島なをみ

開く

第1章 授業とは何か
 I 授業の定義
 II 授業内容の区分を表す用語「授業科目」
 III 授業成立の要件
  1 授業成立に向けた「教授者」の要件
  2 授業成立に向けた「学習者」の要件
  3 授業成立に向けた「教育内容」の要件
 IV 看護学教育における授業の形態とその特徴
  1 講義
  2 演習
  3 実習
   用語「修得」について」
第2章 授業展開のための基礎知識
 I 授業展開を支える理論
  1 学習心理学の特徴
  2 教育心理学の特徴
  3 学習理論
  4 学習意欲
  5 成人学習理論
  6 学習のレディネス
 II 授業展開に必要な基礎知識
  1 授業設計と授業の組織化
  2 教育目的・目標の設定
  3 授業計画案作成に必要な知識
  4 授業における教授活動と学習活動の評価に必要な知識
第3章 看護学の授業に臨む学生と教員の理解-看護基礎教育に着眼して
 I 学生の理解
  1 成人学習者としての特徴
  2 看護学の初学者としての特徴
  3 編入学生の特徴
  4 男子看護学生の特徴
 II 教員の理解
  1 授業展開に際し看護学教員が直面する問題
  2 看護系大学・短期大学に所属する新人教員の特徴
  3 看護専門学校に所属する教員の特徴
  4 看護学教員と倫理的行動
第4章 看護学の講義と教授活動・学習活動
 I 看護学の講義の特徴
  1 講義の利点と欠点
  2 講義における教授活動上の留意点
  3 看護学の講義の特徴
 II 看護学の講義における教授活動
  1 講義の目標達成に向けて授業計画の全容を学生に提示する
  2 形成的評価を適宜行い授業計画を修正する
  3 学生の目標達成度向上に向けて教授技術や教具を工夫する
  4 学生の発言を促すとともに学生の反応や発言内容に適切に対応する
  5 講義中の問題発生を未然に防ぐとともに発生した問題に適切に対処する
  6 学生の課外学習に関心を持ち学習課題や学習資源の提示,学習方法の推奨を行う
  7 講義を通した学生のプライバシーの披瀝を回避する
  8 「学生は学習の主体者であり,教員の補助者ではない」ことを念頭に行動する
 III 講義,その授業設計と展開
 IV 講義における教授活動・学習活動とその評価
  1 教授活動の評価
  2 学習活動とその成果の評価
第5章 看護学演習と教授活動・学習活動
 I 看護技術演習
  1 看護技術演習,その利点と欠点
  2 看護技術演習における教授活動
  3 看護技術演習における学習活動
  4 看護技術演習,その授業設計と展開
  5 看護技術演習における教授活動・学習活動とその評価
 II 看護学のグループワーク
  1 グループワークの特徴
  2 グループワークを支援する教授活動
  3 グループワーク,その授業設計と展開
  4 グループワークの教授活動・学習活動とその評価
第6章 看護学実習と教授活動・学習活動
 I 看護学実習の特徴
   看護学実習の定義
   看護学実習の特質
 II 看護学実習に取り組む学生の理解
   看護学実習中の学習活動
   看護学実習中の学生の「行動」と「経験」の関連
 III 看護学実習の教授活動
   看護実践場面の教授活動
   看護学実習カンファレンスの教授活動
 IV 看護現象の教材化
   学習活動査定による必須指導内容の選別と焦点化
   必須指導内容教授のための現象の確定と再現
   現象への教授資源投入によるモデル現象の作成
   現象からの重要要素抜粋と連結による必須指導内容への誘導
 V 看護学実習,その授業設計と展開
 VI 看護学実習の評価
   教授活動の評価
   学習活動の評価
   学習成果の評価

索引

開く

看護学の講義,演習,実習を展開する道しるべに
書評者: 大塚 眞理子 (埼玉県立大大学院教授・保健医療福祉学)
 看護は実践学である。私たちは具体的な看護現象を理論化し体系化しつつあり,それを教育している。看護学生や看護職者が理論を具現化して看護実践ができるように,講義や演習や実習という教授法で教育している。私のように老年看護学を専門としている者は,老年看護自体を教えることには自信があるものの,教育学を踏まえた教授法にはいささか不安を覚えることがある。そのような私にとって強い味方になってくれるのが本書の出版だ。

 本書は教育学としての一貫した理論を看護学教育に活用し,看護学の教授法を体系化している。それは,監修者のもとで看護学教育を研究された大学院生や研究生たちの成果を基に成し得たものである。それぞれの修士論文や博士論文としてまとめられた研究によって,確かなエビデンスが蓄積された内容を集積・構成することで,看護教育学として体系化されたオリジナリティーの高い読物となっている。その長年の研究成果はまさに賞賛に値する。

 本書の活用としては,まず精読して看護学教育の教授法を体系的に学ぶことができる。また,授業案や評価法作りに困ったり,実習の指導に悩んだりしたとき,研究計画書の作成などで必要な章を読んで学ぶこともできる。

 第1章では「授業とは」「教授者とは」「学習者とは」「講義とは」など,基本的な教育用語を押さえることができる。さらに第2章では教育学の諸理論と授業展開の基本的な解説がありがたい。第3章からは看護学教育への応用展開である。看護基礎教育の対象を成人学習者として位置付け,「編入生」「短期大学生」「男子学生」それぞれの特徴についても研究を基に解説されている。看護実践でも教授法でも,対象理解がまず重要であり,看護学生を看護学の初学者として尊重することを忘れてはいけない。さらに「教員の特徴」にも言及されており,教員としての自己を振り返ることができる。続いて第4章で「講義」,第5章で「演習」,第6章で「実習」について解説されている。それぞれ教授活動と学習活動という教員と学生の学び合う関係で解説されていることが特徴的である。

 教育は学生と教員の相互作用であり,学び合う関係で成り立つという本書の教育者としての姿勢が貫かれており,大変共感できる。

 本書は看護学を教育する講義,演習,実習を展開する方向性,すなわち道しるべを示してくれている。私自身の教育を展開するとき,本書を参考に自分が対象となる学生をどのように理解し,自分の教育者としてのスタンスがどこにあるのかを振り返ろうと思う。そして老年看護学として自分が学生に伝えたいことを,講義・演習・実習という教授法でどのように表現するのか,それは学生との協同学習となるようデザインしてみようと思う。本書はそのためのヒントを与えてくれる。具体的な科目に落とし込み,創造的に作り出してみたいと思う。新学期の準備はこれでいこう。
よき看護教育の未来を予言し,創造する人を生み出すために (雑誌『看護教育』より)
書評者: 糸賀 暢子 (あじさい看護福祉専門学校看護学科学科長)
 装丁は,本の顔である。そして,執筆者たちが託したメッセージを伝えるものでもある。レンブラントの絵画『女預言者アンナ』(1631年)を思わせる本装丁の印象を頼りに,本書の紹介をしてみたい。本書は,大学院生の“つぶやき”を発端にして,監修者が関わったこれまでの研究結果をもとに,看護学教育と評価の空白部分,「授業展開」に焦点を絞った「授業」の実践書である。そこから見えてくるのは,長きにわたり看護学教育を研究してきた執筆者の使命感,責任感であろう。厚生労働省看護研修研究センターが幕を下ろし,教育者としての知識,技能を学ぶ機会がないまま,授業,演習,実習に携わる看護職者が増加するなかで,試行錯誤している人,卒後教育,継続教育に携わる人に向けた看護教育の質の維持向上のために,執筆者が差し伸べる手であろうと思う。

 本書は,わが国の看護教育の基盤となった学習心理学,教育心理学に則っている。よって,教育目標分類学(タキソノミー)による目標設定から授業計画,評価まで,一貫して行動主義,結果主義の立場から展開されている。「授業展開」を考えるうえで重要なのは,用語の定義とそこで使われる理論の理解である。本書の前半部分は,用語の定義,理論の説明,「授業設計」の概要が記されている。著者は,授業を「相対的に独立した学習主体としての学習者の活動と教授主体としての教授者の活動が相互に知的対決を展開する過程」と定義したうえで,学習心理学,教育心理学の考えのもとに学習と教授作用を説明している。

 「授業設計」については,シラバスの具体的例を提示して必要な4つのSTEPを説明している。初めて看護教育に携わる人が,具体例を参考にしながら自分で設計ができるよう,授業設計に必要な考え方,構造,内容が一目でわかるよう,教育目標の設定,評価は著者が監訳された前著『看護学教育における 講義・演習・実習の評価』(2001年)の内容から簡潔にして記している。

 また,看護教員が直面している課題を解決するためには,学生と教員を理解する必要があるとして,著者の研究結果から初学者の理解,教員の理解について詳細な説明がされている。

 今日,看護教育の世界では「できる」ことを求め,「できない」寛容さを許さない,知識と方法論の隙間のない鋳型に学生を押しとどめる教育の在り方が問われている。行動主義から経験主義,結果主義からプロセス重視,知識量から能力重視へと,看護教育のパラダイムが大きな転換期にある今,改めて本書が世に出たことの意味を考えずにはいられない。この本を手にする一人ひとりの読者が“預言者アンナ”となって,よき看護教育の未来を予言し,創造する人となることを願う。

(『看護教育』2013年3月号掲載)

開く

本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

正誤表はこちら

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。