リンパ浮腫診療実践ガイド

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本書は、診断や治療をはじめ、診療体制や患者の精神面のケア、セラピスト養成まで、リンパ浮腫に関わるあらゆる事項を網羅している。全国各地でリンパ浮腫のケアに携わる方々による執筆のため、さまざまな取り組みや視点に触れることができる。リンパ浮腫のケアをこれから始めようとしている人にも、すでに関わっている人にもお勧めしたい1冊。
編集 「リンパ浮腫診療実践ガイド」編集委員会
発行 2011年08月判型:B5頁:144
ISBN 978-4-260-01382-6
定価 2,640円 (本体2,400円+税)
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発刊にあたり(蘆野吉和)/推薦の言葉(Rüdiger G.H. Baumeister / Etelka Földi)

発刊にあたり
 2003年,ある学会の書籍販売で一冊の本を手に取り読んだそのとき,「リンパ浮腫に対して有効な治療法がある!」という,強い希望の念が湧き起こりました.手にした本は,『リンパ浮腫の治療とケア』〔佐藤佳代子(編),医学書院.現在は第2版/2010年〕.書籍のタイトルに強く目を惹かれたのは,私が働く現場にリンパ浮腫で苦悩している多くの患者がいたからでした.乳がん手術などから数年後に突然出現するリンパ浮腫,多くのがん患者の終末期に出現するリンパ浮腫,そして,その苦痛をやわらげてあげられないまま寄り添うことは,家族と同じく医療者にとってもつらいことです.
 それまでは,それとなく患者や家族にマッサージを勧める程度でしたが,1つの衝撃的な経験を通じて,リンパ浮腫ケアの重要性について再認識することになりました.それは,泌尿器科に紹介されてきたある男性患者との出会いでした.直腸がん局所再発による激痛と著しい下肢浮腫のため約半年にわたり苦悩の日々を送られていた方で,尿管閉塞による尿閉に対しWJステント挿入,その後の疼痛治療のために私のもとへ紹介されてきたのです.その日のうちにオピオイドを開始し,3日後に痛みがなくなった時点で,看病にあたる奥さんに徒手によるマッサージを勧めました.足先から鼠径部までの皮膚をゆっくりとさすりあげていくごく単純なものでしたが,奥さんは一生懸命ご主人のケアにあたってくれました.翌日の午後,「先生! 主人の足,とてもよくなりました!」という声に連れられて病室に向かうと,パンパンに張っていた両脚が細くなり,やわらかな笑顔のご主人が迎えてくれました.在宅医療に移ってからも約1年後に自宅で看取られるまで,奥さんは毎日ご主人の脚を優しくケアされました.この時の経験を境に,リンパ浮腫に対して必ず何かしらの手立てがあるはずだと真剣に考えるようになったのです.
 それから間もなくして,この本に出会ったのです.それからというもの,いくつもの偶然の出会いが重なり始め,次第に私の周りにはリンパ浮腫治療のセラピストが多く集まってきました.4年前には当院でもリンパ浮腫外来を立ち上げ,今では入院治療ができる体制ができました.日々,リンパ浮腫治療を受ける人やその家族の笑顔,リンパ浮腫治療にあたるスタッフの生き生きとした顔を見るたびに,この医療技術の有用性を強く確信するとともに,リンパ浮腫治療の重要性を日本の社会にも広めていく必要性を強く感じるようになりました.
 平成20年度の診療報酬改定においては,全国各地の多くの方々の尽力の賜物により「リンパ浮腫指導管理料」が新設されましたが,リンパ浮腫の治療自体の医療技術料は,現時点において保険適用として認められていません.この保険適用が認められれば,患者のQOLを大きく向上させる可能性がありますので非常に残念なことです.
 最近では,リンパ浮腫に対する治療の必要性を認識した医療機関が,医療者のリンパ浮腫セラピスト認定取得にかかる費用(研修費,旅費,宿泊費などを含め)を全額支援するケースも増えてきたことは喜ばしいことですが,有志の個人が自己負担しているケースも少なくありません.そのうえ,認定された後に所属病院でこの専門技術を活かしたくとも医療技術料として算定されないという現状が壁となり,実際に活動に従事できる人は非常に少ないという問題が続いています.結果として,リンパ浮腫治療を受けられる患者の人数は極端に制限され,効果的に治療を継続することができないことや,かろうじて自由診療で治療を受けることができても患者の自己負担額は大きく,経済的理由から治療を継続できなくなるなどの実情の中で,症状を抱える患者や家族,そして医療の現場を苦しめています.

 このような状況下で現実的な問題として,リンパ浮腫や合併症を抱え苦悩している多くの患者が,必要に応じて,安心して継続的な治療を受けられる環境が必要であり,また,個々の患者の病状の重症化を極力避けるためにも,リンパ浮腫の保存的治療である「複合的理学療法」の保険収載の実現と体制の構築は,今急ぐべき重要な課題です.
 この一冊には,全国のリンパ浮腫治療の現場において第一線で活躍する医師や医療リンパドレナージセラピスト,多職種のメディカルスタッフによる現場での取り組み,リンパ浮腫治療に関わる医療者への教育,現在の診療報酬収載に関する詳細,患者の生の声などが集約されています.また,執筆にあたりドイツ語圏リンパ学者協会(GDL)および学術医学専門協会の研究会(AWMF)によるドイツ語圏リンパ学者協会ガイドライン「リンパ浮腫の診断と治療」に準じてまとめあげました.構想から約1年,趣旨にご賛同いただき執筆協力を賜りました方々には日常業務に加え大変な作業を強いていただくこととなりましたが,皆様の熱い想いが本書のすべての項に詰まっています.
 本書が,リンパ浮腫を発症し日々生活に支障を抱えている患者が,日本各地のどの地域においても,適切なリンパ浮腫治療やケアの指導が受けられ,その結果,日常生活行動の範囲が広がって,安心して会社で働くことができたり,家族や友人とごく普段の生活を楽しめたり,豊かに毎日を暮らすことが当たり前にできるようになること,また,患者を支える家族や支援者がともに症状と向き合い,楽に寄り添えることができるような地域体制あるいは社会体制を創造するための一助となりますよう心より祈念しています.

 末筆となりますが,本書の執筆にあたり,終始懇切なるご指導とご鞭撻を賜りました監修の加藤逸夫教授,重松 宏教授をはじめ,執筆にご尽力くださいました皆様,多職種の医療者の皆様,患者会の皆様に深く感謝を申し上げます.また,ドイツ語圏リンパ学者協会ガイドラインの引用を快諾してくださるとともに有益なご助言をいただいたドイツ語圏リンパ学者協会会長のバウマイスター教授,フェルディ教授,ハルトックご夫妻に感謝の意を表します.構想から発刊に至るまで並々ならぬご支援を賜りました医学書院の看護出版部 藤居尚子氏,制作部 富岡信貴氏に御礼を申し上げます.

 2011年7月
 編集委員代表
 蘆野吉和


推薦の言葉
 このたび,日本において「リンパ浮腫診療」の実践的なガイドが出版されること,さらに,本書がドイツの「リンパ浮腫診療ガイドライン」に基づいて作成されたことを,ドイツ語圏リンパ学者協会の会長として大変嬉しく思います.これにより,ドイツと日本の医療における古き歴史ある友好関係に結びつけられたといえるでしょう.また,科学的知見に沿い,責任ある治療を基盤とする本書が,日本におけるリンパ学の進展に多大な貢献をもたらし得ることを確信しております.
 ドイツのリンパ学においては,さまざまな専門分野から広く意見交換を行い,経験を共有することによって,実りある共同発展への門戸を開くことができました.私自身,マイクロサージャリーによる自家リンパ管移植術の専門医として,新しい治療がなかなか受け入れられない状況が,さまざまな専門領域の方々と交流し協力しあうことで,相互に発展できる土壌へと変わってきたことを経験してまいりました.
 日本のリンパ学分野においても,深い科学的知見を踏まえ,対等で活発な意見や経験をお互いに分かち合える雰囲気のなかで,リンパ学的疾患の診断および治療の領域が発展し,多くの患者の喜びにつながることを心より祈っております.

 Prof. Dr. Dr. med. habil. Rüdiger G.H. Baumeister
 ミュンヘン市ルードヴィヒ・マクシミリアンス大学外科教授
 外科クリニックミュンヘン・ボーゲンハウゼンリンパ学コンサルタント


推薦の言葉
 数十年前より,世界各地のリンパ学に携わる医師たちは,科学的知見に基づいて相互に協力をしてきました.私どもも1989年には東京で開催された国際リンパ学会学術大会で,日本の仲間たちとの交流を深めることができました.そして,日本においても,他の先進国と同様に,研究所による最前情報と,臨床実践すなわちリンパ学的疾患を抱える患者に必要な治療との間に大きな乖離があることがわかりました.

 ドイツでは,1960年代にリンパ浮腫の保存的治療法(複合的理学療法)が定着し,治療の有効性が明らかになりました.そして,本療法は数多くの出版物や学会発表により,リンパ浮腫の標準治療として認められました.学校法人後藤学園は,新しい治療法である「複合的理学療法」に関心をもち,日本の患者の治療のために,日本で初めてドイツに研修生を派遣しました.現在,後藤学園附属リンパ浮腫研究所では患者への治療のみならず,本療法を正しく普及するために取り組んでいます.このような日本の医療制度に関わる政府・医師・保険組合・リンパドレナージセラピストの開拓精神と努力のおかげで,今日まで日本におけるリンパ浮腫治療は大きな進展を遂げてきました.

 2009年,日本医療リンパドレナージ協会学術大会に出席するために来日した際,光栄にも厚生労働省にて,ドイツにおける「リンパ学的疾患を抱える患者に対する治療の現況」について報告する機会を与えられました.近年,日本の全国各地においても,いくつものリンパ浮腫外来施設が開設されるようになりましたが,リンパ学的疾患の大半は慢性疾患であるため,医学的な面だけでなく,経済的な側面においても予防および早期治療が必要不可欠です.

 本書の発行を機に,今後も日本におけるリンパ浮腫治療の研究が深まり,リンパ浮腫の治療環境が充実されるべく,ますますのご発展を祈念いたします.人口構成の変化に伴い,リンパ学的疾患による患者の増加も予想されることから,これらの要素はなおのこと重要であるといえるでしょう.

 Prof. Dr. med. Etelka Földi
 フェルディクリニック院長
 国際リンパ学会(ISL)前会長
 ドイツ語圏リンパ学者協会(GDL)前会長

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本書の目的

第1章 リンパ浮腫の診断と評価
 1 リンパ浮腫の診断
 2 リンパ浮腫の評価
第2章 リンパ浮腫の治療
 1 治療の目的と選択肢
 2 複合的治療-リンパ浮腫に対する保存的治療
 3 薬物療法
 4 外科的治療
第3章 緩和ケアの一環としての取り組み
 1 緩和ケアにおけるリンパ浮腫治療の役割
 2 緩和ケア医療におけるリンパ浮腫治療
第4章 患者へのセルフケアと生活指導
 1 リンパ浮腫患者を取り巻く環境
 2 病期に応じたセルフケアのポイント
 3 急性炎症(蜂窩織炎)発症時の対処方法
 4 生活上の具体的注意事項
 5 患者への指導の重要性
第5章 リンパ浮腫および治療に関する社会的側面
 1 医療ソーシャルワーカーの業務
 2 日々の相談支援で行っていること
 3 リンパ浮腫の相談への対応例
 4 診療報酬など
第6章 リンパ浮腫治療外来の実際
 1 国公立病院(がん医療連携拠点病院)にて
 2 大学附属病院・急性期総合病院にて
 3 地方における医療機関にて
 4 欧米におけるリンパ浮腫の標準治療
 5 後藤学園附属臨床施設の取り組み
第7章 チーム医療・クリニカルパス
 1 厚生労働省科学研究費補助金によるリンパ浮腫保存的治療クリニカルパス作成
 2 医療機関内における多職種連携
 3 開業施設との医療連携
第8章 リンパ浮腫治療に携わるセラピストの教育・養成
 1 NPO法人日本医療リンパドレナージ協会
 2 厚生労働省委託事業 リンパ浮腫研修委員会の取り組み
 3 日本がん看護学会 教育研究活動委員会 リンパ浮腫コアメンバー
 4 弾性ストッキング・コンダクター養成委員会
 5 学校法人後藤学園の取り組み
第9章 患者会からの声
 1 リンパ浮腫患者グループ「あすなろ会」
 2 NPO法人女性特有のガンのサポートグループ「オレンジティ」

今後の展望

付録
 A リンパ浮腫に関する診療報酬について
 B 日本におけるリンパ浮腫治療の歴史
 C 患者サポートグループ

索引

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リンパ浮腫治療についての詳細な情報が集約
書評者: 前原 喜彦 (九州大学大学院教授/消化器・総合外科)
 日本人の2-3人に1人ががんにかかる時代になった。検査や治療の進歩により,がんサバイバーとして生活する方も多くなっており,がん治療中,治療後の生活の質(quality of life ; QOL)を高く維持することは非常に重要である。乳がんや婦人科がんの術後,あるいはさまざまながんの転移などにより生じるリンパ浮腫は,患者のQOLを著しく損なうものであるが,生命予後にそれほど影響を及ぼすことがないこともあり,積極的な対応は行われてこなかった。近年ようやく,がん患者の増加,QOL重視などの変化に伴い,リンパ浮腫の問題を多くの医療者が認識するようになってきたが,どのように診断し,評価するのか,さらにその対処法,予防法になると具体的にはほとんど理解されていないのが現状ではなかろうか。

 本書では,リンパ浮腫の診断と評価,治療,患者へのセルフケア,生活指導などに加え,わが国でリンパ浮腫治療に対して先駆的な取り組みをしている施設の医師や医療リンパドレナージセラピスト,そのほかの職種のスタッフによる現場での取り組み,リンパ浮腫治療にかかわる医療者への教育,現在の診療報酬収載に関する詳細な情報などが集約されている。どの施設でも,リンパ浮腫を抱え苦悩している患者のため,試行錯誤しているが,その実情は自由診療であったり,リンパ浮腫と異なる病名に対する保険診療として行っていたり,内容もさまざまである。

 2007年4月に施行されたがん対策基本法の内容は,がん医療の均てん化の促進や予防および早期発見の促進などが主なものであるが,今後このがん医療の中に,がんの治療や進行に伴うリンパ浮腫への対処も含まれるべきであろう。2008(平成20)年度の診療報酬改定において,「リンパ浮腫指導管理料」が新設され,また,四肢のリンパ浮腫治療のための弾性着衣に係る療養費の支給が認められた。しかし,リンパ浮腫治療そのものの医療技術に関しては保険適用として認められていない。

 本書を読んで痛感するのは,リンパ浮腫の治療には,リンパ浮腫のみならず,がん治療,がん患者の心理,緩和ケアなどに関するさまざまな知識と技能を要することである。リンパ浮腫治療は誰が行ってもうまくいくわけではないため,リンパ浮腫治療に携わるセラピストの教育・養成は非常に重要であり,急務であるとともに,リンパ浮腫治療を保険適用とするには,治療を行うセラピストそのものの資格を公的に認める制度の必要性を感じるものである。リンパ浮腫に悩む患者が,全国どこでも同じようにリンパ浮腫の治療を受けられる日が早く訪れるために,克服すべき多くの課題に早急に対処することの重要性を認識させられる書である。

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