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多発性硬化症治療ガイドライン2010

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近年、日本での患者数が増加傾向にある多発性硬化症。本書では、そんな多発性硬化症について、一般神経内科医が臨床現場でよく直面する問題点とその解決策を全編クリニカル・クエスチョン形式で解説する。インターフェロンβをはじめとする代表的な薬剤の有効性や副作用、合併症や妊娠・出産時の対応など、臨床での必須事項を網羅的にカバー。難病治療の有効性を高めるために、ぜひ手元に置いておきたい1冊。
シリーズ 日本神経学会監修ガイドラインシリーズ
監修 日本神経学会 / 日本神経免疫学会 / 日本神経治療学会
編集 「多発性硬化症治療ガイドライン」作成委員会
発行 2010年11月判型:B5頁:168
ISBN 978-4-260-01166-2
定価 5,500円 (本体5,000円+税)
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神経疾患治療ガイドライン改訂版の発行にあたって(葛原 茂樹/水澤 英洋/清水 輝夫)/(吉良 潤一)

神経疾患治療ガイドライン改訂版の発行にあたって
日本神経学会
 前代表理事 葛原 茂樹/代表理事 水澤 英洋
 ガイドライン統括委員長 清水 輝夫

 日本神経学会では,2001年5月と7月の理事会で,当時の柳澤信夫理事長の提唱に基づき,主要な神経疾患について治療ガイドラインを作成することを決定し,2002年に「慢性頭痛」,「パーキンソン病」,「てんかん」,「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」,「痴呆性疾患」,「脳血管障害」の6疾患についての「治療ガイドライン2002」を発行しました.
 2002年の発行から5年以上が経過し,各疾患において新しい知見や治療薬が加わったことを踏まえ,2008年5月と7月の理事会において治療ガイドラインの改訂を行うことを決定し,直ちに作業を開始しました.今回の改訂の対象は,前回のガイドライン発行以降に治療上の新薬承認や使用薬の変更があった「慢性頭痛」,「パーキンソン病」,「てんかん」,「認知症」,「脳血管障害」の5疾患(その後,諸般の事情で慢性頭痛については今回の改訂は見送り)と,今回から新たに加わった「多発性硬化症」を含めた6疾患であり,疾患別治療ガイドライン(改訂)委員会が設置されました.さらに,これらと新規に設置された「遺伝子診断のガイドライン」作成委員会を含めて,全体を代表理事の下で統括する統括委員会も発足しました.なお,それぞれの疾患別委員会は,委員のほかに,研究協力者,評価・調整委員から構成されております.
 今回の治療ガイドライン改訂の作成にあたっては,本学会として,すべての治療ガイドラインに一貫性を持たせることができるような委員会構成としました.近年問題になっている利益相反に関しても,本学会として独自に指針と基準を定めた上で,担当委員を選びました.各委員会における学会としての責任体制を明確にするために,委員長(他学会と合同の委員会を作っているものについては,本学会から参加する担当理事)は,理事長が理事の中から指名しました.各疾患別委員会の委員候補者は,委員長(あるいは担当理事)から推薦していただき,推薦された委員候補者には利益相反について所定の様式に従って自己申告していただき,審査委員会の審査と勧告を踏まえて各委員会の委員長と再調整した上で,理事会で承認するという手順で委員を決定しました.
 ガイドライン作成にあたり,関連する他学会との協力は前回の治療ガイドライン2002でも実施されておりましたが,今回のガイドライン改訂にあたってはこの方針をもう一歩進めて,全疾患について複数の関連諸学会に呼び掛けて合同委員会を組織し,ガイドライン作成にあたりました.快く合同委員会設置にご賛同いただいた各学会には,この場を借りまして深く感謝いたします.
 今回の改訂治療ガイドラインは,日本図書館協会の協力を得て前回と同じくevidence-based medicine(EBM)の考え方に基づいて作成されていますが,基本的にQ&A(質問と回答)方式で記述されていますので,読者には読みやすい構成になっていると思います.回答内容は,エビデンスを精査した上で,可能な限りエビデンスレベルに基づいたガイドラインを示してあります.もちろん,疾患や症状によっては,エビデンスが十分でない領域もあります.また,薬物治療や脳神経外科治療法が確立している疾患から,薬物療法に限界があるために非薬物的介入や介護が重要な疾患まで,治療内容はそれぞれ様々で,EBMの評価段階も多様です.当然ながら,治療によって症状の消失や寛解が可能な疾患と,症状の改善は難しくQOLの改善にとどまる疾患とでは,治療の目的も内容も異なります.そのような場合であっても,現時点で考えられる最適なガイドラインを示すように努めました.
 さらに,神経内科診療において,遺伝子診断の重要性が増している現状を踏まえ,神経内科医に必要な遺伝子診断のための知識とポイントをまとめた『神経疾患の遺伝子診断ガイドライン2009』を新規に作成し,2009年に刊行いたしました.
 本ガイドラインは,決して画一的な治療法を示したものではないことにもご留意いただきたいと思います.同一の疾患であっても症状には個性があり,最も適切な治療は患者さんごとに異なっていますし,医師の経験や考え方によっても治療内容は同じではないかもしれません.治療ガイドラインは,あくまで,医師が主体的に治療法を決定する局面において,ベストの治療法を選択する上での参考としていただけるように,個々の治療薬や非薬物的治療の現状における一定の方式に基づく評価を,根拠のレベルを示して提示したものであります.
 本ガイドラインが,協力学会会員の皆様の診療活動に有用なものとなることを,作成関係者一同願っております.神経疾患の治療法は日進月歩の発展を遂げており,今後も定期的に改訂していくことが必要です.今回作成した各疾患の治療ガイドラインを関係学会会員の皆様に活用していただき,皆様からいただいたご意見をフィードバックさせて改訂内容に反映させることにより,よりよいものに変えていきたいと考えております.
 これらのガイドラインが,会員の皆様の日常診療の一助になることを期待しますとともに,次なる改訂に向けてご意見とご批判をいただければ幸いです.

 2010年8月



「多発性硬化症治療ガイドライン」作成委員会
 委員長 吉良 潤一

 本ガイドラインは,2002年に日本神経免疫学会および日本神経治療学会によって作成・発表されたわが国初の多発性硬化症(multiple sclerosis;MS)治療ガイドラインの改訂版にあたる.今回は新たに日本神経学会が作成に加わり,同学会のガイドラインシリーズの1冊として刊行されることとなったが,これまでの経緯を鑑み,日本神経免疫学会,日本神経治療学会は協力学会という位置づけではなく,監修に3学会を併記するかたちとした.
 本ガイドラインの最大の特徴は,クリニカル・クエスチョン形式による解説であり,この点が前回のガイドラインとの大きな違いでもある.クリニカル・クエスチョンは一般神経内科医がMSの診療現場でよく直面する疑問点を中心に設定しているため,読者は目次を見れば自分が求めている項目に容易にたどりつくことができる.さらに,クリニカル・クエスチョンに対する回答を簡潔に紹介するとともに,推奨のグレード,背景・目的,解説・エビデンス,文献および検索式・参考にした二次資料についても詳述しているため,MSおよびその治療について詳しく学びたい読者の要求にも応えられる内容となっている.
 本ガイドラインの作成にあたり,作成委員会では,「一般神経内科医にとってわかりやすい内容にまとめる」ことを基本方針とし,各委員はできる限りわかりやすい解説を心がけた.また,校正段階における修正内容も全委員で確認し内容の客観性を高めることで,質の向上に努めてきた.このような経緯もあり,完成までに思いのほか時間がかかってしまった.その一方で,内容を十分に推敲してきたという思いは,わたしたち委員全員で共通している.
 なお,本書を使用するにあたってのポイントや作成時の注意点などについては,本編「総論」にまとめたので,そちらをご参照いただきたい.
 末筆ながら,本ガイドラインが神経内科医がMS診察を進めるうえで役に立ち,それにより患者さんに成果が還元されるよう委員一同強く望んでいる.

 2010年9月

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 神経疾患治療ガイドライン改訂版の発行にあたって
 序
 本ガイドラインでの使用頻度が高い略語一覧
 多発性硬化症診断・治療のフローチャート
 病名・診断基準の解説

総論
 第1章 『多発性硬化症治療ガイドライン2010』の使用に際してのガイダンス
 第2章 多発性硬化症治療法選択のプロセスと各論の参照

各論I 主に急性期の治療
 第1章 副腎皮質ステロイド薬
 第2章 血液浄化療法(アフェレシス)

各論II 主に再発・障害進行の防止
 第3章 インターフェロンβ
 第4章 アザチオプリン
 第5章 シクロホスファミド
 第6章 ミトキサントロン
 第7章 メトトレキサート

各論III 病態ごとの治療
 第8章 視神経脊髄炎患者・抗アクアポリン4抗体陽性患者
 第9章 視神経脊髄型多発性硬化症
 第10章 膠原病合併(Sjögren症候群など)
 第11章 妊娠・出産

索引

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MS治療の中心となる3学会が監修した画期的な1冊
書評者: 田代 邦雄 (北大名誉教授/北祐会神経内科病院顧問)
 このたび日本神経学会,日本神経免疫学会,日本神経治療学会の3学会監修のもと,その作成委員会による『多発性硬化症治療ガイドライン2010』が刊行されたことは画期的なことである。

 今回のテーマである「多発性硬化症multiple sclerosis(MS)」は,欧米においては患者数も多く,医学的にも社会的にも関心が高いばかりでなく,種々の治療薬の開発・治療研究への道が進んでいる代表的な神経疾患であるが,わが国においては,その有病率が欧米に比べて低く,臨床像としても欧米型のMSのほかに,“視神経脊髄型MS”(“OSMS”と称される)が多いことは日本での特徴とまで考えられるほどである。

 そこで,これらを含めた広義のMSについて,その診断・治療・研究の中心となるべき上記3学会が,その領域でわが国において活躍している委員を配置し本格的な取り組みを行い,今回の治療ガイドラインを作成・公表したことは画期的なことといえるのである。

 世界的にみたMSの有病率の検討については膨大な資料,文献があるが,特に1965年の初版以来,MSの世界のスタンダードとされている教科書McAlpine's Multiple Sclerosis(第4版,2005年発行)に収載されている最新の世界のMS有病率分布図をみても,北米,カナダ,北欧での有病率は100前後,ないしそれ以上,また南半球でのオーストラリア,ニュージーランドでも同じく70~80近くの高値,しかし赤道近くの地域,国々での有病率は低いという事実は明らかであるが,南北に長いわが国の有病率を全体として5以下(<5)と表示しているなど今日のわが国の疫学調査研究からみても事実にそぐわず,確かに有病率は同緯度の欧米と比べて低いが北国である北海道(十勝地区2008年発表,13.1)はわが国の南に比べ高値で,North-South gradientはわが国でも当てはまるのである。

 また,“OSMS”とされわが国のMSに含まれてきた病態は,東北大学を中心とするNMO-IgG,抗aquaporin-4(AQP 4)抗体のデータも含めたNeuromyelitis Optica(NMO)の研究により,これらがMSとは区別されるべき位置付けとなってきているが,“NMOとMSとは違う病気か,同じ病気か?”という活発なdebateが展開されるなかで,現時点でのMS,NMOの診断基準,治療法の選択も含めた率直,かつホットな論議が展開されており,それらを含め,広義の疾患名としての『多発性硬化症治療ガイドライン2010』として今回出版されたことの意義は限りなく大きいと考える。

 また,その記載方針としてEBMの考えに基づき,基本的にはQ&A方式での記述を採用,クリニカル・クエスチョン(CQ)形式による明解な解説,豊富な表と各章ごとの必須文献を完全収録など,それらの個々の内容については触れることはできないが,本ガイドライン作成にかかわった委員,研究協力者,外部評価委員も含めた全員の方々の熱意,努力に対し心からエールを送る次第である。

 このガイドラインをもとに本疾患に対するさらなる研究,治療,そしてわが国の貢献が世界に冠たるものになることを祈願し書評とさせていただくこととする。
現場の医師が直面する疑問の答えを容易に見出せる
書評者: 田平 武 (順大大学院客員教授 認知症診断・予防・治療学)
 多発性硬化症(MS)治療ガイドラインが改訂された。初版は斎田孝彦前国立病院機構宇多野病院長が委員長として2002年に日本神経免疫学会と日本神経治療学会により共同で策定された。あれから8年がたちMSの考え方も治療法も大きく進歩した。今回は厚生労働省免疫性神経疾患調査研究班の班長であった吉良潤一九州大学神経内科教授を委員長としてエビデンスの詳細な検討が行われ,日本神経学会も加わって3学会により合同で策定された。

 今回の特徴はクリニカル・クエスチョン形式をとっていることで,MS医療の現場にいる医師が直面する疑問に容易に答えを見出すことができる。さらにエビデンスレベルおよびMindsの推奨のグレードが明確に示されており,EBMの実践を可能にしている。

 再発寛解型MSの急性期には炎症を抑え,病期を短縮して機能回復を図る治療が行われ,副腎皮質ステロイドが推奨される(グレードA)。しかし今日最も一般的に行われている大量静注療法(ステロイドパルス療法)は保険適用がないためグレードBとなっているのは残念である。今回,急性期の治療としてステロイドパルス療法により十分な効果が得られない症例に対し,血液浄化療法(アフェレシス),特に単純血漿交換療法がグレードBとして推奨されている。血液浄化療法は保険適用があり一定回数まで可能となっている。

 寛解期にはインターフェロンβによる再発防止がグレードAとして推奨されるが,インターフェロンβが使用できない症例や効果が不十分な症例に対し免疫抑制剤(アザチオプリン,シクロホスファミド,ミトキサントロン)がグレードB~Cで推奨されている。なお,対症療法のエビデンスや推奨のレベルは本書では知ることができない。

 近年,視神経脊髄型MSの多くにアクアポリン4抗体が証明され,MSと区別すべきかMSの範疇に含めるべきか議論されている。治療面ではインターフェロンβの使用によりむしろ悪化する症例があり注意が必要であるが,すでに使用されていて有効と思われる症例もあり,新たに始める症例では慎重に投与すべきという表現になっている。これは他の膠原病を合併するMSでも同様である。

 MSの初回発作は治療面で気を使う。ADEMのようにほとんど再発しない病気をMSと診断し,無用な予防治療を施さないとも限らない。最も恐れられるのは1回目の発作であると診断し経過観察していたところ,ひどい発作をおこして失明したような場合は訴訟もあり得る。治療のガイドラインがエビデンスに基づきここまで細かく記載されてくると,それを知らなかった場合言い訳が立たない。MSの治療にあたる医師は全員このガイドラインを熟知しておく必要があろう。

 今回の改訂では新薬の追加はほとんどない。欧米ではナタリズマブ,フィンゴリモド,リツキシマブなどが認可されMSの再発は著しく減少し病気の長期予後は改善している。わが国でも治験が行われており,これらの薬が使用可能になる日もそう遠くないと思われ,このガイドラインの見直しが近く必要となろう。

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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。

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