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てんかん治療ガイドライン2010

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神経疾患としては患者数が多く、神経内科医、精神科医、脳神経外科医、小児科医などさまざまな医師が診療にあたっている「てんかん」。日本神経学会監修による本ガイドラインは、成人および小児のてんかんの診断、検査、薬物治療、外科治療、予後に至るまで、エビデンスに基づいた臨床上の指針を網羅。クリニカル・クエスチョン形式で、専門医のみならず一般医にも理解しやすくまとめられている。
シリーズ 日本神経学会監修ガイドラインシリーズ
監修 日本神経学会
編集 「てんかん治療ガイドライン」作成委員会
発行 2010年10月判型:B5頁:168
ISBN 978-4-260-01122-8
定価 5,500円 (本体5,000円+税)
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神経疾患治療ガイドライン改訂版の発行にあたって(葛原 茂樹/水澤 英洋/清水 輝夫)/てんかん治療ガイドラインについて(辻 貞俊)

神経疾患治療ガイドライン改訂版の発行にあたって
日本神経学会
 前代表理事 葛原 茂樹/代表理事 水澤 英洋
 ガイドライン統括委員長 清水 輝夫

 日本神経学会では,2001年5月と7月の理事会で,当時の柳澤信夫理事長の提唱に基づき,主要な神経疾患について治療ガイドラインを作成することを決定し,2002年に「慢性頭痛」,「パーキンソン病」,「てんかん」,「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」,「痴呆性疾患」,「脳血管障害」の6疾患についての「治療ガイドライン2002」を発行しました.
 2002年の発行から5年以上が経過し,各疾患において新しい知見や治療薬が加わったことを踏まえ,2008年5月と7月の理事会において治療ガイドラインの改訂を行うことを決定し,直ちに作業を開始しました.今回の改訂の対象は,前回のガイドライン発行以降に治療上の新薬承認や使用薬の変更があった「慢性頭痛」,「パーキンソン病」,「てんかん」,「認知症」,「脳血管障害」の5疾患(その後,諸般の事情で慢性頭痛については今回の改訂は見送り)と,今回から新たに加わった「多発性硬化症」を含めた6疾患であり,疾患別治療ガイドライン(改訂)委員会が設置されました.さらに,これらと新規に設置された「遺伝子診断のガイドライン」作成委員会を含めて,全体を代表理事の下で統括する統括委員会も発足しました.なお,それぞれの疾患別委員会は,委員のほかに,研究協力者,評価・調整委員から構成されております.
 今回の治療ガイドライン改訂の作成にあたっては,本学会として,すべての治療ガイドラインに一貫性を持たせることができるような委員会構成としました.近年問題になっている利益相反に関しても,本学会として独自に指針と基準を定めた上で,担当委員を選びました.各委員会における学会としての責任体制を明確にするために,委員長(他学会と合同の委員会を作っているものについては,本学会から参加する担当理事)は,理事長が理事の中から指名しました.各疾患別委員会の委員候補者は,委員長(あるいは担当理事)から推薦していただき,推薦された委員候補者には利益相反について所定の様式に従って自己申告していただき,審査委員会の審査と勧告を踏まえて各委員会の委員長と再調整した上で,理事会で承認するという手順で委員を決定しました.
 ガイドライン作成にあたり,関連する他学会との協力は前回の治療ガイドライン2002でも実施されておりましたが,今回のガイドライン改訂にあたってはこの方針をもう一歩進めて,全疾患について複数の関連諸学会に呼び掛けて合同委員会を組織し,ガイドライン作成にあたりました.快く合同委員会設置にご賛同いただいた各学会には,この場を借りまして深く感謝いたします.
 今回の改訂治療ガイドラインは,日本図書館協会の協力を得て前回と同じくevidence-based medicine(EBM)の考え方に基づいて作成されていますが,基本的にQ&A(質問と回答)方式で記述されていますので,読者には読みやすい構成になっていると思います.回答内容は,エビデンスを精査した上で,可能な限りエビデンスレベルに基づいたガイドラインを示してあります.もちろん,疾患や症状によっては,エビデンスが十分でない領域もあります.また,薬物治療や脳神経外科治療法が確立している疾患から,薬物療法に限界があるために非薬物的介入や介護が重要な疾患まで,治療内容はそれぞれ様々で,EBMの評価段階も多様です.当然ながら,治療によって症状の消失や寛解が可能な疾患と,症状の改善は難しくQOLの改善にとどまる疾患とでは,治療の目的も内容も異なります.そのような場合であっても,現時点で考えられる最適なガイドラインを示すように努めました.
 さらに,神経内科診療において,遺伝子診断の重要性が増している現状を踏まえ,神経内科医に必要な遺伝子診断のための知識とポイントをまとめた『神経疾患の遺伝子診断ガイドライン 2009』を新規に作成し,2009年に刊行いたしました.
 本ガイドラインは,決して画一的な治療法を示したものではないことにもご留意いただきたいと思います.同一の疾患であっても症状には個性があり,最も適切な治療は患者さんごとに異なっていますし,医師の経験や考え方によっても治療内容は同じではないかもしれません.治療ガイドラインは,あくまで,医師が主体的に治療法を決定する局面において,ベストの治療法を選択する上での参考としていただけるように,個々の治療薬や非薬物的治療の現状における一定の方式に基づく評価を,根拠のレベルを示して提示したものであります.
 本ガイドラインが,協力学会会員の皆様の診療活動に有用なものとなることを,作成関係者一同願っております.神経疾患の治療法は日進月歩の発展を遂げており,今後も定期的に改訂していくことが必要です.今回作成した各疾患の治療ガイドラインを関係学会会員の皆様に活用していただき,皆様からいただいたご意見をフィードバックさせて改訂内容に反映させることにより,よりよいものに変えていきたいと考えております.
 これらのガイドラインが,会員の皆様の日常診療の一助になることを期待しますとともに,次なる改訂に向けてご意見とご批判をいただければ幸いです.

 2010年8月


てんかん治療ガイドラインについて
「てんかん治療ガイドライン」作成委員会
 委員長 辻 貞俊

はじめに
 てんかんは患者数が多く,わが国では人口の約0.8%にあたる約100万人の患者がいるといわれている.したがって,てんかん治療に携わる臨床医はてんかんを専門とする医師だけでは不十分であり,専門医以外の多くの医師が診療にあたっているのが現況である.そこで,てんかん診療にあたる一般医の指針として編集されたのがこのガイドラインであり,成人および小児てんかんの診断,検査,治療および予後についてまとめている.
 委員会では,このガイドラインは簡潔でわかりやすい内容にすることを基本方針とした.具体的には,クリニカル・クエスチョン(clinical question; CQ)と回答は1~2頁におさまる程度を原則とした.
 また,このガイドラインの特徴は,CQ(目的)とその回答という形式を用いた点が従来のガイドラインとの大きな相違である.その利点は,読者が探している項目に容易に到達することができること,推奨・推奨のグレード,解説(背景を含めて)および文献のエビデンスレベルが簡潔,明確に示されるということである.

1.てんかん治療ガイドライン作成の資金源と委員の利益相反について
 このガイドラインは,日本神経学会の経費負担により作成された.このガイドラインの売り上げによる利益は作成にかかった経費として充当するものとする.
 このガイドライン作成に携わる委員長,副委員長,委員,研究協力者,評価・調整委員は,「日本神経学会治療ガイドライン作成に係る利益相反自己申告書」を日本神経学会理事長に提出し,日本神経学会による「利益相反状態についての承認」を得ている.

2.ガイドラインを使用するにあたって
 このガイドラインは,臨床医が適切かつ妥当なてんかん診療を行うための臨床的判断を支援する目的で,現時点での医学的知見に基づいて作成されたものである.個々の患者の診療は,その患者のすべての臨床データをもとに,主治医によって個別の決定がなされるべきものである.したがって,このガイドラインは医師の裁量を拘束するものではない.
 また,このガイドラインは,すべての患者に適応されるものではなく,患者の状態を正確に把握した上で,てんかん治療の現場で参考にしていただくために作成されたものである.

 1)ガイドラインの作成
 このガイドラインは,日本神経学会てんかん治療ガイドライン委員会が作成したが,日本てんかん学会,日本神経治療学会および日本小児神経学会の協力により作成したものである.
 てんかん治療ガイドライン委員会委員は,上記4学会に所属する神経内科,小児科,精神科,脳神経外科の医師から構成された.
 ガイドラインの文献検索は,ライブラリアンが,委員会で最終決定したCQに含まれる用語をキーワードとして,CQごとにMEDLINEおよび医学中央雑誌から系統的に行った.検索期間は1983年以降,対象を人間,言語は英語と日本語に絞り込んだ.さらに,Cochrane Library Systematic Review,日本てんかん学会てんかん治療ガイドライン,米国神経学会・てんかん学会合同てんかんガイドライン,スコットランドてんかんガイドライン(SIGN),英国てんかんガイドライン(NICE),国際抗てんかん連盟てんかんガイドライン(ILAE)等を参考にした.

 2)エビデンスレベルおよび推奨グレードの定義

 エビデンスレベル:内容(エビデンスのタイプ)
  エビデンスレベルI:RCTもしくはRCTのメタアナリシス
  エビデンスレベルII:よくデザインされた比較研究もしくは準実験的研究
  エビデンスレベルIII:よくデザインされた非実験的記述研究(比較・相関・症例研究)
  エビデンスレベルIV:専門家の報告・意見・経験

 推奨のグレード:推奨内容
  グレードA:行うよう強く勧められる(少なくとも一つのエビデンスレベルIの結果)
  グレードB:行うように勧められる(少なくとも一つのエビデンスレベルIIの結果)
  グレードC:行うことを考慮してもよいが十分な科学的根拠がない
  グレードD:行わないように勧められる

 診断,分類,定義等でエビデンスレベルと推奨グレードに乖離が生じる理由は,これらのCQでは無作為化比較対照試験(randomized controlled trial; RCT)等の研究が不可能なためである.したがって,推奨グレードがエビデンスレベルと対応しないCQについては,委員会で検討し最終決定した.
 引用した他のてんかん治療ガイドラインのエビデンスレベルは,そのガイドラインが引用する文献のエビデンスレベルに準拠した.

 3)抗てんかん薬の表記について
 日本で承認されている薬品名は本文中ではカタカナ表記した.一方,日本で未承認・未発売の薬品は本文中では英語表記した.本文で用いる略号などを表1,2(本サイトでは省略)に示す.略号は,Official Names of Antiepileptic Drugs. Epilepsia 1993; 34: 1151を参考とした.

 4)第一選択薬および第二選択薬について
 第一選択薬:新規発症てんかんに対して,最初に選択する薬剤であり,てんかん発作抑制効果および副作用を総合的に考慮して推奨される抗てんかん薬である.
 第二選択薬:第一選択薬の効果が十分でないとき,もしくは副作用のため継続が困難なときに使用する薬剤である.

3.改訂の期日と手順について
 次回の改訂は2015年を目途に,日本神経学会てんかん治療ガイドライン作成委員会が改訂を行う予定である.

4. 著作権は,日本神経学会に帰属する.許可なく転載すること等を禁ずる.

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第1章 てんかんの診断・分類,鑑別(REM睡眠行動異常症を含む)
第2章 てんかん診療のための検査
第3章 成人てんかんの薬物療法(高齢発症てんかんを含む)
第4章 小児・思春期のてんかんと治療
第5章 難治てんかんの薬物療法
第6章 てんかん症候群別の治療ガイド
第7章 抗てんかん薬の副作用
第8章 てんかん重積状態
第9章 てんかん外科治療
第10章 てんかんの刺激療法
第11章 てんかん治療の終結
第12章 薬物濃度モニター
第13章 てんかんと女性(妊娠)
第14章 心因性発作の診断
第15章 てんかんの精神症状
第16章 急性症候性発作
第17章 てんかんの遺伝と遺伝子診断
第18章 てんかん患者へのアドバイスと情報提供

索引

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てんかんの教科書として,最初に読むべき本
書評者: 中里 信和 (東北大大学院教授・運動機能再建学/東北大病院てんかん科)
 抗てんかん薬を処方する医師ならば,誰もが本書を手に取って,せめて目次だけでも目を通していただきたい。

 本書は日本神経学会が監修し,辻貞俊先生を中心とする委員会がまとめたガイドラインの力作である。てんかんの教科書として,医療関係者が最初に読むべき本といってよい。また患者さんやその家族にとっても決して難しすぎる本ではない。自分の診療に対して疑問や不安があるのなら,本書を読んで主治医に相談してみるのも一法である。

 本書の構成は網羅的・系統的で,てんかんの診断・分類に始まり,検査,成人の薬物治療,小児の薬物治療,てんかん重積状態,てんかんの外科治療,妊娠に関係する話題,精神症状,日常生活に関するアドバイス,と続く。

 各章はコンパクトで読みやすい。冒頭に1~2行にまとめられた「クリニカル・クエスチョン(CQ)」がおかれ,このCQに答える形で簡潔な「推奨」が続き,さらに詳しい「解説・エビデンス」と,文献や参考資料,が記されている。読者には,まず「CQ」と「推奨」だけでも,ざっと流し読みしてもらいたい。1時間もかからないであろうこの過程で,読者はてんかん医療の骨格を理解することができる。

 一例を挙げよう。CQ「てんかん重積状態で脳波モニターの必要性はあるか」に対して,推奨は「てんかん重積状態で脳波モニターは必要である(グレードB)」と続く。簡潔にして要を得ている,とはまさにこのことである。日本国内の診療体制をみるに,てんかん重積状態を疑う症例に対し,脳波モニターを実施できない施設がいかに多いことか!

 日本では,てんかんを診療する医師の多くが,てんかん診療の非専門家といわれている。抗てんかん薬の処方量に着目すると,某社の推計結果は私の直感とよく似ていて,約2割が日本てんかん学会の会員,残り8割は非会員によるものらしい。いかにして本書を多くの医師に読んでもらうかが,今後の啓発活動における最重要課題ともいえる。

 私はひそかに夢見ているのだが,たとえば抗てんかん薬を販売する製薬会社が分担して,本書を必要部数買い上げておき,抗てんかん薬を処方する日本中の医師のすべてに配布してもらえないだろうか。あるいは,抗てんかん薬を処方する薬局にも配備してもらい,患者さんが自由に手にとって読めるようにしてもらってはどうだろう。

 多くの医師や医療関係者が基本知識を持たずに安易に治療を開始・継続しているのは問題であり,その結果,普通の生活を送れるはずの患者さんが悩みをかかえたまま人生をあきらめている可能性がある。こうした問題を解決する上でも,本書が日本全国,津々浦々に配布されることを願うのみである。
集学的治療ネットワークの地図となる書
書評者: 渡辺 雅子 (国立精神・神経医療研究センター病院精神科)
 本書は下記の2点で歴史に残る画期的な本である。その1点は日本神経学会が複数の学会へ協力を呼びかけ作成したという発行の特異な経緯であり,もう1点はその姿勢と内容の先進性にある。

 まず第1の点について,発行に至る過程を関連学会(日本てんかん学会)の事務担当理事として拝見してきたので,述べさせていただく。今回は特に,関連する複数の学会(日本てんかん学会,日本神経治療学会,日本小児神経学会)へ協力が呼びかけられ,関連学会からの委員を含む合同委員会で作成された。具体的には神経内科医のみならず,小児科,小児神経科,精神科,脳神経外科の医師が内容作成に直接かかわった。

 この過程で,委員同士の直接の討議を介して,各専門分野のてんかん診療の現状,てんかん学の知識の多彩さを委員同士が認識した結果,項目立てが充実して真に包括的となった。具体的には「自動車運転免許についてアドバイスする点はなにか」というクリニカル・クエスチョンや「てんかんと女性(妊娠)」の章などを設けたのはまさしくその成果である。想像であるがおそらく委員同士でも,それぞれほかの学会が持つ専門文化(一流企業の持つ企業文化のようなもの)を知るよい機会となったことと思われる。

 第2の点については,クリニカル・クエスチヨンに基づく回答方式で作られており,必要なときに必要な情報が短時間で得られることである。さらにそれにはエビデンスレベル,推奨グレード,および検索式・参考にした二次資料がついており,初学者に誠に親切な構成である。日本で発売されていない抗てんかん薬治療や利益相反に関しても配慮され,公正で客観的な記載内容であることも特筆に値する。

 以上の経緯と内容から,本書の作成には委員間の意見のすりあわせに多大なご苦労があったことが想像され,それを乗り越えて短期間で完成された辻 貞俊委員長および委員の方がたの熱意に敬服する。葛原茂樹前代表理事,水澤英洋代表理事をはじめとする日本神経学会理事会のバックアップも強い推進力となったことであろう。今後はわれわれ一人ひとりがこれを臨床に生かして,よりよいてんかん診療を行うことが肝要である。

 てんかんは脳内ネットワークの障害であるが,それを克服するのも医師・家族ら関連する人々のネットワークである。そのときに本書はネットワーク連携の中の時刻表や地図のような存在として頼られることであろう。

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