助産外来の健診技術
根拠にもとづく診察とセルフケア指導

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助産外来担当者が理解していなければならない妊婦健診時の検査、診察からハイリスク妊婦の把握まで、根拠にもとづく診察のポイントが解説されている。また、妊婦健診時に妊婦から相談される妊娠中の運動や食事についての保健指導も、根拠にもとづいて解説。
シリーズ ブラッシュアップ助産学
進 純郎 / 高木 愛子
発行 2010年10月判型:B5頁:152
ISBN 978-4-260-01145-7
定価 3,300円 (本体3,000円+税)

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(進 純郎)/はじめに(進 純郎・高木 愛子)


 この世に生きるすべての生物は,子を孕〈はら〉み,産み,育て,自らの持つ遺伝子を未来に托すことに何のためらいもありません。妊娠,出産は生理的で自然な営みであり,社会文化的な行為であるとも言えるでしょう。
 本来女性に備わっている力や機能を信じ,産む女性をプライバシーの守られた適切な環境に置き,助産の専門家である助産師が寄り添うことで,不必要な医療の介入なしにお産を遂行することが可能です。
 そのために一番大切なことは,産む女性自身がお産に積極的に主体的に取り組もうとする意識があるかどうかです。20世紀のお産のように,医療従事者に世話をやいてもらう「おまかせ」のお産では,自分らしい自然なお産を行なうことは至難のわざと言わざるを得ません。
 成功の鍵はセルフヘルプ,セルフケアです。妊娠中に十分に時間をかけてセルフケアに努めれば,「自分らしい自然なお産」にチャレンジすることができます。そのためには,十分な助産指導を提供することが必要ですが,指導の努力ははっきりと目に見える成果として顕〈あらわ〉れます。
 本書が妊産婦さんに寄り添う助産師さんたちの指導書として,少しでもお役に立てればこのうえない幸せです。
 お産の介助に関わる助産師さんたちは,まずこの本を読んでみてください。妊産婦さんにどのような指導をすることが本当に大切なのかを理解できると思います。
 最後に,本書は著者の1人,進純郎の同志として助産の道に情熱を注いでいた途上に,心ならずも若くして黄泉への旅路を歩むことになってしまった森山愛子助産師の熱き思いに少しでも応えることができればと祈念しつつまとめたものです。共著者の高木愛子助産師は森山愛子さんの志を形にするべく,私と積極的にセミナーで講演し,全国の助産師さんにメッセージを送り続けてくれています。森山愛子さんも「千の風になって」,これからも全国の助産師さんと産む女性に力と勇気を降り注ぎ続けてくれることと思います。

 2010年10月
 進 純郎


はじめに
バースセンター導入に関して
 院内助産であっても院外助産であっても,一施設が助産師に特化した助産師主導のバースセンターを導入するには,多くの課題をクリアしなければなりません。なかでも一番の課題は,助産師主導のお産の必要性を助産師自身が「自分たちの問題」として捉えているかどうかということです。
 目新しいシステムに多くの助産師はそれなりの興味を示すものの,いざ実際に動き出そうとすると「自信がない」「これまでのままでいよう」と尻込みし,途中で諦めてしまうケースがあることをしばしば耳にします。
 また,せっかく動きはじめ,成果も上がっているのに,1年もしないまま,慣れ親しんだ以前の働き方に逆戻りしてしまう施設も少なくありません。これは,まだ確固たる信念が助産師の心の中に根づいていないためです。
 助産師主導のバースセンター導入に際しては,その施設の医師との協働が不可欠です。産科医が不足したからバースセンターをというだけの考えで導入したために,別の産科医が赴任してきた途端にバースセンター打ち切りといった悲しむべき方向に動いてしまった施設も多々存在します。バースセンター導入の意義は何なのかを考え,単なる自分たちの問題としてだけでなく,国民全体の問題として取り組むような「問題意識」が芽生えることが必要です。
 しかも,その推進のトップは,医師であろうが助産師であろうが,率先垂範の気持ちで陣頭指揮に当たらなければなりません。病院スタッフ全員をお産の改革を目指した「燃える志士」の集団に変え,病院全体が使命感にあふれていくような風土づくりが欠かせません。たった1人の改革者(リボリューショナー)だけではこの事業の成功はかないません。あくまで組織全体の全員参加が求められるのです。

助産師の意識改革―力量のアップ
 バースセンターを立ち上げるためには,助産師の力量アップが不可欠です。そのためには助産師の基礎知識の向上が求められます。産科医の信頼を得るためには,生理学,解剖学,病理学,免疫学,薬理学など学問的裏づけがどうしても必要なのです。
 上げ底式のうわべだけの学問では,いのちに関わる仕事を未来永劫に続けるのは困難でしょう。本書は,まだまだ学問的に自信を持てないと考え自律と自立に踏み出せない助産師たちに贈るものです。
 本書は1つひとつの問題点に対してできるだけ高く,深く,広い視野から追求し,わかりやすく,覚えやすいかたちで助産師諸姉に情報を提供することを目的としています。
 自分が弱いと思う部分から読み始めるのも結構ですし,巻頭から読んでも結構です。私たちは,読者の皆さんがこの本を読めばそれで事足りると考えず,この本を土台にしてさらに深く助産学を追求されることを希望してやみません。

 進  純郎
 高木 愛子

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1章 まずこれだけは! ハイリスク妊婦の把握と対応
 1.ハイリスク妊婦抽出のためのチェックリスト
  主に初診時に明らかになる理学所見と既往歴
  妊娠週数別チェックリスト
  健診時毎回行なうチェックリスト
 2.助産師が理解しておかなければならない3つの疾患
  妊娠高血圧症候群(PIH)
  切迫早産
  前期破水(PROM)
 3.外来でできる子宮内胎児発育遅延(IUGR)児のwell-beingの診断法
  胎児well-being診断の検査

2章 外来でのアセスメント
 1.基本的な検査と診察
  外来で行なう検査,診察の種類
  血液検査(定期検査)
  触診-妊婦に触れることの意義
  乳房の視診,触診-肥大とオキシトシンの乳房への作用
  浮腫
  外陰部の視診
  腟鏡診・内診
  胎児心音の読み方
  尿糖
  尿たんぱくの出現と病態
  血圧の測定方法
  体重増加-非妊娠時より15kg以上増加したときの対処法
 2.自覚症状,その他のトラブルへの対応
  子宮収縮の自覚と切迫早産の予知
  便秘の原因と対処法
  頭痛の原因と対処法
  お腹が痛いと訴えがあった場合の予想すべき疾患
  外来で性器出血を見たときの対応
  嘔気,嘔吐を伴った腹痛
  胸やけの原因と対処法
  鼻血・難聴
  動悸・息切れの原因と対処法
  DVが疑われたら
 3.妊婦健診での検体検査と説明
  感染症
  不規則抗体
  妊娠初期子宮頸がん細胞診
 4.助産外来で必要な超音波検査
  経腟超音波検査と経腹超音波検査
  羊水量の測定
  頸管因子による切迫早産の診断
  胎児の向きの診断
  胎盤の位置の確認
  臍帯の超音波検査
  胎児奇形の超音波検査

3章 身体づくり-体重・栄養・運動
 1.体重
  身長の妊娠・出産への影響
  やせと肥満
  妊娠による体重増加量のめやす
  肥満妊婦の問題点
  やせ妊婦と低栄養の問題点
 2.栄養
  栄養の基礎
  妊娠中の食事の注意点
  自宅での調理と食材選び
  重症妊娠悪阻となる身体のメカニズム
 3.妊娠と運動
  運動と体重減少
  妊娠中の運動の利点
  有酸素運動を取り入れる
  運動をしてよい妊婦と注意すべき妊婦
  運動と胎児への影響
  妊娠中に効果的な運動(ウォーキング)
  全身リラックスのための運動法
  お産のときの呼吸法に向けた指導
  妊娠中のセックスと切迫早産・早産の関係
 おわりに

索引

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助産外来の知識の整理や研鑽に役立つ1冊 (雑誌『助産雑誌』より)
書評者: 長坂 桂子 (NTT東関東病院)
 全国調査によると,助産外来は405施設,院内助産は59施設で開設されており,年々増加傾向にある(2010年度,厚生労働省医政局看護課調べ)。これからの産科医療の場で医師と助産師の役割分担と協働はますます重要になり,助産技術のブラッシュアップは欠かせない。

 本書は,助産師が妊婦健診を担当する際に必要な健診技術・情報の査定・ケア方法のエッセンスをわかりやすくまとめたものである。構成は,ハイリスク妊婦の把握と対応,外来でのアセスメント,身体づくりの3部からなり,ハイリスク妊婦抽出のためのチェックリスト,検査データの査定・説明から,妊娠中の食事や運動などセルフケアに至るまで,助産師が行なう妊婦健診に必要な項目が網羅されている。

 著者は聖路加産科クリニック所長である進純郎医師と,高木愛子助産師である。お2人は,助産雑誌の連載(63巻4号~64巻3号)「スキルアップのための症例検討―問題発生時に助産師はどう対応するか」の中で,医師役と助産師役となり,臨場感あふれる問答形式の事例検討を展開された名コンビであり,私もファンの1人である。

 本書には,助産外来で最も重要な正常・異常の査定に関して,生理学,解剖学,病理学といった学問的裏付けやエビデンスに基づく数値を用いて説明されてあり,読み進めるうちにポイントが絞られてくる。助産外来で遭遇する判断に迷うような状況について(たとえば,血圧が正常高値の時の対応や,子宮収縮の自覚と切迫早産の予知など)も洗練して解説されており,ケア方法や医師への異常の報告の根拠が明確になる。読み終わると単に知識が身につくだけではなく,産婦人科医師である著者から全国の助産師への期待とエールを感じるに違いない。

 大変読みやすいことも本書の特徴である。豊富な臨床データや語りかけるような文章表現に,読者はまるでその場で講義を聞いているかのように引き込まれるであろう。本書の対象は幅広い。助産外来開設準備中の方や助産外来担当者はもちろん,助産外来の開設予定はなくとも妊婦の健康相談を行なっている方にとっても,知識の整理やさらなる研鑽のために即役立つと思う。施設における助産外来担当者の研修の資料としてもそのまま活用でき,必須図書の1冊として薦めたい。さらに助産学生が,妊娠期からの継続受け持ち実習を行なう際の参考文献としても有用であろう。

 私が所属する施設で2007年に助産外来を開設した際には,助産外来での診断技術について医師と助産師が共著であらわしたこのようなテキストは見当たらなかった。もし当時本書があれば大いに役立ったに違いない。

(『助産雑誌』2011年3月号掲載)

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