神経眼科 第3版
臨床のために
難解な神経眼科学をやさしく解説した名著、待望の改訂第3版
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好評を博した故藤野貞による名著を、藤野の薫陶を受けた著者らが全面改訂した第3版。難解な神経眼科学をわかりやすく実践的に解説するという前版までの執筆スタイルを踏襲しながら、大規模臨床スタディなどの新たなエビデンスも盛り込み、内容を全面updateした。前版同様、簡易検査器具の付録つき。眼科医はもちろん、神経内科医、脳外科医、眼科コメディカル必携の書。
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序文
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第3版の刊行にあたって
米国での研鑽の後帰国され,東京医科歯科大学,慶應義塾大学,東京大学,北里大学,都立府中病院など大学の壁を超えて臨床的な神経眼科学を後輩に指導することを一生の仕事とされた藤野貞先生と寿先生が居ました。ご夫妻は晩年に至るまであらゆる神経眼科の国際学会に参加され,欧米の神経眼科医には最も知られた日本人の神経眼科医でした。彼らの子供達とも言うべき日本神経眼科学会には,生前から多額の寄付をされ,それは日本神経眼科学会Fujino Fundとして今も学会活動を支えています。
先生は常に,電気生理学や分子生物学に頼らない臨床神経眼科学の必要性を強調され,自分の目で眼球運動や視神経乳頭を観察し考えることの重要性を私達弟子に説き続けられました。この本は先生のそのお考えを体現した教科書で,眼科医ばかりではなくコメディカルにも広く読み続けられてきました。しかし,初版から20年,2版改訂後も10年が過ぎ,このままではいずれこの名著も古さが目立ち始め,絶版にならざるを得ないと思い,東京医科歯科大学神経眼科外来で藤野先生ご夫妻の教えを受けた者達で,この本の大改訂を計画しました。執筆協力のメンバーが各章を分担して準備し,江本博文が中心となってさらに加筆と文献調整をしました。解剖学が専門で,漫画を書くことをお得意となさった藤野先生御自筆の図はトレースして最大限残しています。最新でありながら,分担執筆本とは全く違った統一性が残せたかと思います。
初版の序文に藤野先生がのこされた“いま目の前にいる患者さん”のために良きように,という言葉が永遠の真実であろうと思います。
2011年8月
東京医科歯科大学眼科 神経眼科外来 臨床教授
清澤源弘
米国での研鑽の後帰国され,東京医科歯科大学,慶應義塾大学,東京大学,北里大学,都立府中病院など大学の壁を超えて臨床的な神経眼科学を後輩に指導することを一生の仕事とされた藤野貞先生と寿先生が居ました。ご夫妻は晩年に至るまであらゆる神経眼科の国際学会に参加され,欧米の神経眼科医には最も知られた日本人の神経眼科医でした。彼らの子供達とも言うべき日本神経眼科学会には,生前から多額の寄付をされ,それは日本神経眼科学会Fujino Fundとして今も学会活動を支えています。
先生は常に,電気生理学や分子生物学に頼らない臨床神経眼科学の必要性を強調され,自分の目で眼球運動や視神経乳頭を観察し考えることの重要性を私達弟子に説き続けられました。この本は先生のそのお考えを体現した教科書で,眼科医ばかりではなくコメディカルにも広く読み続けられてきました。しかし,初版から20年,2版改訂後も10年が過ぎ,このままではいずれこの名著も古さが目立ち始め,絶版にならざるを得ないと思い,東京医科歯科大学神経眼科外来で藤野先生ご夫妻の教えを受けた者達で,この本の大改訂を計画しました。執筆協力のメンバーが各章を分担して準備し,江本博文が中心となってさらに加筆と文献調整をしました。解剖学が専門で,漫画を書くことをお得意となさった藤野先生御自筆の図はトレースして最大限残しています。最新でありながら,分担執筆本とは全く違った統一性が残せたかと思います。
初版の序文に藤野先生がのこされた“いま目の前にいる患者さん”のために良きように,という言葉が永遠の真実であろうと思います。
2011年8月
東京医科歯科大学眼科 神経眼科外来 臨床教授
清澤源弘
目次
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第1部 神経眼科臨床の解剖・生理
1 網膜から視神経へ
2 網膜内視神経線維走行
3 視神経の血管
4 眼窩内の血管
5 視神経交叉,視索,外側膝状体と視野
6 視放線
7 有線領
8 視路全図(水平断)
9 瞳孔散大神経路(眼交感神経路)
10 対光反応経路(副交感神経路)
11 眼球運動神経核
12 垂直眼球運動の神経機構
13 眼球運動皮質中枢から脳幹皮質下機構へ
14 眼球運動に関与する動脈
15 小脳と眼球運動
16 頭蓋底の神経と静脈
第2部 症状・徴候より診断へ decision tree
1 眼科検査の基本事項
2 視力障害
3 視野異常
4 一過性視覚障害
5 乳頭の異常
6 瞳孔の異常
7 複視,(明瞭な)眼球運動障害
8 軽い複視,軽い眼球運動障害
9 第一眼位,眼球運動障害の記録
10 眼振(その1,主として振子眼振)
11 眼振(その2,主として律動眼振)
12 自発性異常眼球運動
13 眼瞼の異常,眼球突出
第3部 各論
第1章 乳頭の異常
A うっ血乳頭
B 特発性頭蓋内圧亢進症
C 乳頭腫脹
D 偽うっ血乳頭
E 乳頭の先天異常
第2章 視神経疾患
A 視神経炎
B 虚血性視神経症
C 圧迫性・浸潤性視神経症
D 中毒性視神経症・栄養欠乏性視神経症
E 遺伝性視神経症
F 外傷性視神経症
G その他の視神経症
H 心因性視覚障害
I 視神経萎縮
J 視覚障害者のロービジョンケア
第3章 視交叉,視交叉後,および後頭葉視領の病変
A 同名半盲と異名半盲
B 視交叉病変
C 視索病変
D 外側膝状体病変
E 視放線の病変
F 後頭葉,視皮質の病変
第4章 高次視機能障
A 大脳性色覚異常
B 視覚失認
C 失読
D 視空間障害
E 視覚陽性現象
第5章 眼疾患と全身疾患
A 眼内の血管性病変
B 神経疾患類似の症状を起こす眼疾患
C 神経・全身疾患と関係深い眼疾患
D 神経眼科と関係深い神経・全身疾患
第6章 眼球運動障害
A 複視
B 筋疾患による眼球運動障害
C 神経筋接合部疾患による眼球運動障害
D 神経疾患による眼球運動障害
E 代謝障害による眼球運動障害
第7章 眼振と眼振様運動
A 眼球運動に関する用語
B 概略
C 生理的眼振
D 病的眼振
E 眼振様運動
F 意識障害下の自発性眼球運動
第8章 瞳孔異常
A 正常瞳孔
B 瞳孔反応異常
C 縮瞳
D 散瞳
E その他の瞳孔異常
第9章 眼瞼・顔面表情筋の障害
A 眼瞼の位置と異常
B 眼瞼下垂
C 眼瞼の不随意運動
D 開瞼困難
E 瞬目異常
F 瞼裂開大
G 眼瞼の矛盾運動
第10章 眼窩疾患と海綿静脈洞病変
A 眼球突出と眼球陥凹
B 眼窩部腫瘍
C その他の眼窩疾患
D 海綿静脈洞病変
第11章 片頭痛,その他の頭痛
A 頭痛症候群の分類
B 片頭痛
C 緊張型頭痛
D 群発頭痛および三叉神経・自律神経性頭痛
E その他の頭痛,顔面痛
付録 ポケットに入る神経眼科用検査器具とその使用法
A 視力,中心視野の検査
B 瞳孔,前眼部の検査
C 眼球運動の検査
D 核上性眼球運動の検査
E その他
F 眼底検査法
索引
1 網膜から視神経へ
2 網膜内視神経線維走行
3 視神経の血管
4 眼窩内の血管
5 視神経交叉,視索,外側膝状体と視野
6 視放線
7 有線領
8 視路全図(水平断)
9 瞳孔散大神経路(眼交感神経路)
10 対光反応経路(副交感神経路)
11 眼球運動神経核
12 垂直眼球運動の神経機構
13 眼球運動皮質中枢から脳幹皮質下機構へ
14 眼球運動に関与する動脈
15 小脳と眼球運動
16 頭蓋底の神経と静脈
第2部 症状・徴候より診断へ decision tree
1 眼科検査の基本事項
2 視力障害
3 視野異常
4 一過性視覚障害
5 乳頭の異常
6 瞳孔の異常
7 複視,(明瞭な)眼球運動障害
8 軽い複視,軽い眼球運動障害
9 第一眼位,眼球運動障害の記録
10 眼振(その1,主として振子眼振)
11 眼振(その2,主として律動眼振)
12 自発性異常眼球運動
13 眼瞼の異常,眼球突出
第3部 各論
第1章 乳頭の異常
A うっ血乳頭
B 特発性頭蓋内圧亢進症
C 乳頭腫脹
D 偽うっ血乳頭
E 乳頭の先天異常
第2章 視神経疾患
A 視神経炎
B 虚血性視神経症
C 圧迫性・浸潤性視神経症
D 中毒性視神経症・栄養欠乏性視神経症
E 遺伝性視神経症
F 外傷性視神経症
G その他の視神経症
H 心因性視覚障害
I 視神経萎縮
J 視覚障害者のロービジョンケア
第3章 視交叉,視交叉後,および後頭葉視領の病変
A 同名半盲と異名半盲
B 視交叉病変
C 視索病変
D 外側膝状体病変
E 視放線の病変
F 後頭葉,視皮質の病変
第4章 高次視機能障
A 大脳性色覚異常
B 視覚失認
C 失読
D 視空間障害
E 視覚陽性現象
第5章 眼疾患と全身疾患
A 眼内の血管性病変
B 神経疾患類似の症状を起こす眼疾患
C 神経・全身疾患と関係深い眼疾患
D 神経眼科と関係深い神経・全身疾患
第6章 眼球運動障害
A 複視
B 筋疾患による眼球運動障害
C 神経筋接合部疾患による眼球運動障害
D 神経疾患による眼球運動障害
E 代謝障害による眼球運動障害
第7章 眼振と眼振様運動
A 眼球運動に関する用語
B 概略
C 生理的眼振
D 病的眼振
E 眼振様運動
F 意識障害下の自発性眼球運動
第8章 瞳孔異常
A 正常瞳孔
B 瞳孔反応異常
C 縮瞳
D 散瞳
E その他の瞳孔異常
第9章 眼瞼・顔面表情筋の障害
A 眼瞼の位置と異常
B 眼瞼下垂
C 眼瞼の不随意運動
D 開瞼困難
E 瞬目異常
F 瞼裂開大
G 眼瞼の矛盾運動
第10章 眼窩疾患と海綿静脈洞病変
A 眼球突出と眼球陥凹
B 眼窩部腫瘍
C その他の眼窩疾患
D 海綿静脈洞病変
第11章 片頭痛,その他の頭痛
A 頭痛症候群の分類
B 片頭痛
C 緊張型頭痛
D 群発頭痛および三叉神経・自律神経性頭痛
E その他の頭痛,顔面痛
付録 ポケットに入る神経眼科用検査器具とその使用法
A 視力,中心視野の検査
B 瞳孔,前眼部の検査
C 眼球運動の検査
D 核上性眼球運動の検査
E その他
F 眼底検査法
索引
書評
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待ち遠しかった名著の第3版の誕生
書評者: 若倉 雅登 (井上眼科病院院長)
外国の教科書などに倣い,記念すべき人名を冠して「藤野貞の図説臨床神経眼科」とでもタイトルしてほしかった待望の第3版である。その藤野貞氏は2005年12月12日,83歳でひっそりと自宅でその生涯を閉じられた。本書の初版は,藤野氏が丹精込めて1991年10月に刊行された。自らが描かれた数々のわかりやすいイラスト,簡潔明瞭な箇条書きの記載,何よりも視診を重視し,それに見合う付録と,どれをとっても藤野氏の静かな情熱と後進への思いやりが表されていた。日本人のための教科書だからと,参考文献も日本語のものを選択していた。しかし,内容は正確で,質は高かった。神経眼科の初学者だけでなく,専門だと自認する医師たちも大いに参考にした。
神経眼科という,ともすれば敬遠されがちな領域だが,眼科の臨床上避けて通れぬ領域でもあることはすべての眼科医が知っていたし,神経内科など関連領域の医師たちもこの領域の大切さに気付いていた。だが,多くの教科書はやはり難しい記載になりがちで,読破できる人は多くなかった。本書の第一版はそのわかりやすさ,必要な所を読めばよろしいという編集スタイルで,神経眼科とそれに苦手意識を持つ医師との距離をぐっと縮め,医学書としては異例の5刷を重ね,「飛ぶように売れた」と表現してよい人気を博した。第2版は2001年に刊行された。これもよく売れた。
神経眼科も,神経学,眼科学の進歩に従って進歩の速度は決して遅くない。改訂が待たれたが,本人が天国に行ってしまったのでそう簡単にはゆかない。藤野氏は47歳以降,常勤の勤務先を持たず,東大,慶応大,北里大,東京医科歯科大などいくつもの大学や病院を走りまわり,論文を物するといった通常の教育方法とは違ったやり方で,患者さんを直〈じか〉に診ながら臨床神経眼科の普及と啓発に努めた。今回の第3版はそうして育った弟子たちのうち,東京医科歯科大の神経眼科グループが主体となって作り上げた。
イラストは藤野氏のものをそのまま用いており,個条書きというスタイルも踏襲された。さらに,視神経炎や眼瞼けいれんなど近年の疾患概念の捉え方の変遷が著しい項目には,適切な改訂が加えられている。上斜筋ミオキミアの掲載部位が変更されているのも新たに加わった著者の適切な判断である。開散不全の原因に意外に高頻度だが認識されていない強度近視によるものを,さりげなく加え,痒い所まで行き届いている(複視の診断の所にも記載してほしかったが)。
このように第2版にはなかった新しい項目や適切な改訂が加わり,引用文献もリニューアルされた。待ち遠しかった名著の第3版の誕生である。
数ある神経眼科教科書の最新版
書評者: 石川 哲 (日本神経眼科学会初代理事長/北里大名誉教授)
今回,東京医科歯科大学眼科江本博文氏,清澤源弘氏2人のスタッフを中心に,1991年初版の藤野貞氏(故人)による『神経眼科』改訂第3版が出版された。今回書評を依頼されたので本書を紹介すると同時に,2012年に第50回を迎える日本神経眼科学会の発展も知っておいてほしいので以下に紹介する。
本邦では1974年に石川哲編・著で『神経眼科学:NEURO-OPHTHALMOLOGY(以下,N-Oと略)』が日本で初めて医学書院から発刊された。『N-O』は,故藤野氏を含む北里大学眼科教室員により執筆された。当時,神経眼科学の教科書は評者が留学したニューヨーク大学のKestenbaum(眼科臨床専門),ジョンズ・ホプキンス大学のWalsh(神経病理学)およびカリフォルニア大学のHoyt(脳神経外科・眼科)らの著書が米国から出版されていた。
そのころ日本では水俣病,神経ベーチェット病など日本人に数多く発症した眼症を含む特異な疾患もあったので,上記の教科書『N-O』は,それら疾患の紹介と病態の解明,診断,治療などに重点が置かれた。これら難病患者から得られる情報は複雑で,新たに開発された他覚的所見に基づく症例の神経眼科的分析法,つまり眼球運動,瞳孔,調節,輻湊などの分野に立ち入り他覚的分析法を駆使して疾患を詳述した書籍は当時世界にもみられず,日本独特の神経眼科教科書であった。
さて,約40年後非常に読みやすく整理された『神経眼科-臨床のために 第3版』が出版されたことは大変喜ばしい。本書は各章の初めに目次とページを示し,内容が順序よく記載されているので項目を探しやすい。この領域に新しく入る学徒にも文章は個条書きで読みやすく,覚えやすく,読者の理解を容易にするための図もわかりやすくトレースされている。患者の顔写真は直接に表示しにくい現在,それを読者に理解させるには幾多の困難があるが,これを見事に克服し,図の作成,説明にもいろいろと工夫がなされている。加えて,日ごろから藤野氏が一般外来で神経眼科と関連する患者を診たとき一体何を考えるかについての解説と,今回も付録として採用された“診断七つ道具”がある。これも外来診察で大いに活用してほしい。評者がもし付け加えるとすれば,J Arden開発のコントラスト感度測定チャートなどがあるとさらに視覚情報系異常検出に便利かもしれない。
本書では難解とされる先端の電気生理学的技術の応用,分子生物学的手法の応用による疾患分析の詳細,さらに新しい神経薬物治療法に関しては記載が少ない。例えば慢性疲労症候群や,線維筋痛症など最近の難病の治療法などは述べられていない。
数ある神経眼科教科書の最新版として本書は座右に置き,神経眼科と関連する新しい疾患の要点などを知りたいとき,神経眼科に関する基礎知識を深めたい方々にお薦めしたい。
書評者: 若倉 雅登 (井上眼科病院院長)
外国の教科書などに倣い,記念すべき人名を冠して「藤野貞の図説臨床神経眼科」とでもタイトルしてほしかった待望の第3版である。その藤野貞氏は2005年12月12日,83歳でひっそりと自宅でその生涯を閉じられた。本書の初版は,藤野氏が丹精込めて1991年10月に刊行された。自らが描かれた数々のわかりやすいイラスト,簡潔明瞭な箇条書きの記載,何よりも視診を重視し,それに見合う付録と,どれをとっても藤野氏の静かな情熱と後進への思いやりが表されていた。日本人のための教科書だからと,参考文献も日本語のものを選択していた。しかし,内容は正確で,質は高かった。神経眼科の初学者だけでなく,専門だと自認する医師たちも大いに参考にした。
神経眼科という,ともすれば敬遠されがちな領域だが,眼科の臨床上避けて通れぬ領域でもあることはすべての眼科医が知っていたし,神経内科など関連領域の医師たちもこの領域の大切さに気付いていた。だが,多くの教科書はやはり難しい記載になりがちで,読破できる人は多くなかった。本書の第一版はそのわかりやすさ,必要な所を読めばよろしいという編集スタイルで,神経眼科とそれに苦手意識を持つ医師との距離をぐっと縮め,医学書としては異例の5刷を重ね,「飛ぶように売れた」と表現してよい人気を博した。第2版は2001年に刊行された。これもよく売れた。
神経眼科も,神経学,眼科学の進歩に従って進歩の速度は決して遅くない。改訂が待たれたが,本人が天国に行ってしまったのでそう簡単にはゆかない。藤野氏は47歳以降,常勤の勤務先を持たず,東大,慶応大,北里大,東京医科歯科大などいくつもの大学や病院を走りまわり,論文を物するといった通常の教育方法とは違ったやり方で,患者さんを直〈じか〉に診ながら臨床神経眼科の普及と啓発に努めた。今回の第3版はそうして育った弟子たちのうち,東京医科歯科大の神経眼科グループが主体となって作り上げた。
イラストは藤野氏のものをそのまま用いており,個条書きというスタイルも踏襲された。さらに,視神経炎や眼瞼けいれんなど近年の疾患概念の捉え方の変遷が著しい項目には,適切な改訂が加えられている。上斜筋ミオキミアの掲載部位が変更されているのも新たに加わった著者の適切な判断である。開散不全の原因に意外に高頻度だが認識されていない強度近視によるものを,さりげなく加え,痒い所まで行き届いている(複視の診断の所にも記載してほしかったが)。
このように第2版にはなかった新しい項目や適切な改訂が加わり,引用文献もリニューアルされた。待ち遠しかった名著の第3版の誕生である。
数ある神経眼科教科書の最新版
書評者: 石川 哲 (日本神経眼科学会初代理事長/北里大名誉教授)
今回,東京医科歯科大学眼科江本博文氏,清澤源弘氏2人のスタッフを中心に,1991年初版の藤野貞氏(故人)による『神経眼科』改訂第3版が出版された。今回書評を依頼されたので本書を紹介すると同時に,2012年に第50回を迎える日本神経眼科学会の発展も知っておいてほしいので以下に紹介する。
本邦では1974年に石川哲編・著で『神経眼科学:NEURO-OPHTHALMOLOGY(以下,N-Oと略)』が日本で初めて医学書院から発刊された。『N-O』は,故藤野氏を含む北里大学眼科教室員により執筆された。当時,神経眼科学の教科書は評者が留学したニューヨーク大学のKestenbaum(眼科臨床専門),ジョンズ・ホプキンス大学のWalsh(神経病理学)およびカリフォルニア大学のHoyt(脳神経外科・眼科)らの著書が米国から出版されていた。
そのころ日本では水俣病,神経ベーチェット病など日本人に数多く発症した眼症を含む特異な疾患もあったので,上記の教科書『N-O』は,それら疾患の紹介と病態の解明,診断,治療などに重点が置かれた。これら難病患者から得られる情報は複雑で,新たに開発された他覚的所見に基づく症例の神経眼科的分析法,つまり眼球運動,瞳孔,調節,輻湊などの分野に立ち入り他覚的分析法を駆使して疾患を詳述した書籍は当時世界にもみられず,日本独特の神経眼科教科書であった。
さて,約40年後非常に読みやすく整理された『神経眼科-臨床のために 第3版』が出版されたことは大変喜ばしい。本書は各章の初めに目次とページを示し,内容が順序よく記載されているので項目を探しやすい。この領域に新しく入る学徒にも文章は個条書きで読みやすく,覚えやすく,読者の理解を容易にするための図もわかりやすくトレースされている。患者の顔写真は直接に表示しにくい現在,それを読者に理解させるには幾多の困難があるが,これを見事に克服し,図の作成,説明にもいろいろと工夫がなされている。加えて,日ごろから藤野氏が一般外来で神経眼科と関連する患者を診たとき一体何を考えるかについての解説と,今回も付録として採用された“診断七つ道具”がある。これも外来診察で大いに活用してほしい。評者がもし付け加えるとすれば,J Arden開発のコントラスト感度測定チャートなどがあるとさらに視覚情報系異常検出に便利かもしれない。
本書では難解とされる先端の電気生理学的技術の応用,分子生物学的手法の応用による疾患分析の詳細,さらに新しい神経薬物治療法に関しては記載が少ない。例えば慢性疲労症候群や,線維筋痛症など最近の難病の治療法などは述べられていない。
数ある神経眼科教科書の最新版として本書は座右に置き,神経眼科と関連する新しい疾患の要点などを知りたいとき,神経眼科に関する基礎知識を深めたい方々にお薦めしたい。
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