脊椎腫瘍の手術 [DVD付]
最高のスタッフが贈る、最先端の脊椎腫瘍手術実践書!
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日本における脊椎腫瘍手術の最高峰、金沢大学整形外科学教室による脊椎腫瘍手術の教科書。世界的に評価が高く、かつハードな手術として知られる腫瘍脊椎骨全摘術の全容を丁寧に記載し、さらに手術にまつわる問題点とその対策・対応をもれなく記載。また各論では、脊椎腫瘍の種類別にくまなく解説する。脊椎腫瘍の手術に関するすべてを学術的かつ最先端の実践書として凝縮させた1冊。
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- 序文
- 目次
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序文
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序
これは脊椎腫瘍手術の実録であり,手引書であり,参考書である.
“がん”はいまや死因のトップとなっている.これを阻止すべく“国家的がんプロジェクト”が組まれ,がん治療はどんどん進歩し続けている.がんの怖さは転移にある.従来,脊椎骨に転移が見つかると「もうこれまで!」と,医師も家族も同情と諦めのなか,患者さんは脊椎破壊の激痛と脊髄麻痺の二重苦に悶えながら息絶えていくのが常であった.しかし整形外科医・脊椎脊髄外科医として,そのような患者さんの姿に目を背けていてもいいのだろうか…….その答えの1つがこの書である.
かつて私が入局した頃(1970年),脊椎腫瘍の手術は“死への扉を開く作業に等しい”として,タブー視されていた.平成元年(1989年),金沢大学整形外科学教室の主任教授を拝命したとき,私は,たまたま「骨肉腫」と「脊椎」の研究という“二足のわらじ”を履いていた.そこで一大決心して,ライフワークを「脊椎転移がん・悪性腫瘍の根治的手術」として,この未開拓ともいえるジャングルに分け入ることにしよう,と心に誓った.
誠に幸運なことに,私のすぐ傍らにはご存知,若さ溢れる“助さんと格さん”がいた.脊椎グループの川原範夫君と骨腫瘍グループの土屋弘行君である.助さん役の川原君はどんな手術にも不平ひとつ言わず影武者のように立ち回り,修羅場に直面しても雑草のように粘り強く耐えしのいで“助”けてくれた.格さん役の土屋君は腫瘍治療学の観点から管制官のように常に適“格”な状況判断と方向性を指し示してくれた.
さらに「Total en bloc spondylectomy(TES):腫瘍脊椎骨全摘術」開発の道のりで最大の底力は,脊椎グループを中心に関わりをもった多くの若き整形外科医たちの智力と協力であった.「これは無謀な手術ではない,“医の心”を示す手術だ」とお互いに鼓舞し,一例一例,患者一人ひとり,丁寧に仏像を彫り刻み出すような気持ちで手術の限界に挑戦してきた.しかもそのたびに湧き出てくる命題を解決するために,教室員が実験・研究に昼夜汗を流す姿は,“坂の上の雲”を目指すかのように照り輝いていた.本書はこうして患者・家族の悲嘆や喜悦の涙を共有しながら,道なき道を一歩一歩かき分けて前進し続けてきた20年間にわたる手術実録であり,実践的手術手引書である.とりわけ中核をなすTESは,教室員全員で奮闘してきた結晶であり,築き上げてきたモニュメントでもある.
この手術(TES)はあちこちで実践されはじめてはいるが,いまだに“高度先進医療”のままである.それゆえわが金沢大学病院に紹介されてくる患者さんが多い.これはありがたくも誇らしくもあるが,歯がゆくもある.ぜひ一般病院でもできるような標準的な手術として広まり,保険診療で賄われてもいい時が早くきてほしい.そんな意味でもぜひひとりでも多くのファイトある医師に,この本に目を通していただきたいと願っている.
この本の出版に漕ぎつけるまでの長い間,川原先生をはじめ,かかわってきた教室員の全員のご苦労に心から感謝したい.さらには全国の整形外科医,脊椎脊髄外科医の先生方や,世界各国の先生方の折々の激励にも心から感謝します.
2010年1月
金沢大学整形外科主任教授 富田 勝郎
これは脊椎腫瘍手術の実録であり,手引書であり,参考書である.
“がん”はいまや死因のトップとなっている.これを阻止すべく“国家的がんプロジェクト”が組まれ,がん治療はどんどん進歩し続けている.がんの怖さは転移にある.従来,脊椎骨に転移が見つかると「もうこれまで!」と,医師も家族も同情と諦めのなか,患者さんは脊椎破壊の激痛と脊髄麻痺の二重苦に悶えながら息絶えていくのが常であった.しかし整形外科医・脊椎脊髄外科医として,そのような患者さんの姿に目を背けていてもいいのだろうか…….その答えの1つがこの書である.
かつて私が入局した頃(1970年),脊椎腫瘍の手術は“死への扉を開く作業に等しい”として,タブー視されていた.平成元年(1989年),金沢大学整形外科学教室の主任教授を拝命したとき,私は,たまたま「骨肉腫」と「脊椎」の研究という“二足のわらじ”を履いていた.そこで一大決心して,ライフワークを「脊椎転移がん・悪性腫瘍の根治的手術」として,この未開拓ともいえるジャングルに分け入ることにしよう,と心に誓った.
誠に幸運なことに,私のすぐ傍らにはご存知,若さ溢れる“助さんと格さん”がいた.脊椎グループの川原範夫君と骨腫瘍グループの土屋弘行君である.助さん役の川原君はどんな手術にも不平ひとつ言わず影武者のように立ち回り,修羅場に直面しても雑草のように粘り強く耐えしのいで“助”けてくれた.格さん役の土屋君は腫瘍治療学の観点から管制官のように常に適“格”な状況判断と方向性を指し示してくれた.
さらに「Total en bloc spondylectomy(TES):腫瘍脊椎骨全摘術」開発の道のりで最大の底力は,脊椎グループを中心に関わりをもった多くの若き整形外科医たちの智力と協力であった.「これは無謀な手術ではない,“医の心”を示す手術だ」とお互いに鼓舞し,一例一例,患者一人ひとり,丁寧に仏像を彫り刻み出すような気持ちで手術の限界に挑戦してきた.しかもそのたびに湧き出てくる命題を解決するために,教室員が実験・研究に昼夜汗を流す姿は,“坂の上の雲”を目指すかのように照り輝いていた.本書はこうして患者・家族の悲嘆や喜悦の涙を共有しながら,道なき道を一歩一歩かき分けて前進し続けてきた20年間にわたる手術実録であり,実践的手術手引書である.とりわけ中核をなすTESは,教室員全員で奮闘してきた結晶であり,築き上げてきたモニュメントでもある.
この手術(TES)はあちこちで実践されはじめてはいるが,いまだに“高度先進医療”のままである.それゆえわが金沢大学病院に紹介されてくる患者さんが多い.これはありがたくも誇らしくもあるが,歯がゆくもある.ぜひ一般病院でもできるような標準的な手術として広まり,保険診療で賄われてもいい時が早くきてほしい.そんな意味でもぜひひとりでも多くのファイトある医師に,この本に目を通していただきたいと願っている.
この本の出版に漕ぎつけるまでの長い間,川原先生をはじめ,かかわってきた教室員の全員のご苦労に心から感謝したい.さらには全国の整形外科医,脊椎脊髄外科医の先生方や,世界各国の先生方の折々の激励にも心から感謝します.
2010年1月
金沢大学整形外科主任教授 富田 勝郎
目次
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総論 概念と術式
I 脊椎腫瘍に対する基本概念
II 脊椎腫瘍の手術適応
III 脊椎腫瘍に対する手術手技
1.腫瘍脊椎骨全摘術total en bloc spondylectomy;TES
後方単一アプローチによるtotal en bloc spondylectomy
前方・後方2段階アプローチによるtotal en bloc spondylectomy
後方・前方2段階アプローチによるtotal en bloc spondylectomy
2.脊椎腫瘍に対するaggressive piecemeal excision
3.脊椎腫瘍に対するpalliative decompression and stabilization
IV Total en bloc spondylectomyにおける様々な問題点とその対策
1.いかにして術中出血量を少なくするか
2.いかにして脊椎周囲の大血管・分節動脈損傷を防止するか
3.Total en bloc spondylectomy後の脊髄血行について
4.腫瘍細胞のcontamination
5.どのように脊柱を再建するべきか
V 脊椎腫瘍手術の周術期合併症とその対策
VI 脊椎腫瘍再発に対するsalvage surgery
VII 脊椎腫瘍手術の成績
各論 各腫瘍の病態と手術の実際
脊椎腫瘍の概要
I 原発性脊椎腫瘍
1.良性腫瘍
骨軟骨腫
類骨骨腫
骨芽細胞腫
血管腫
骨巨細胞腫
巨大神経鞘腫
2.腫瘍類似疾患
動脈瘤様骨嚢腫
好酸球性肉芽腫,Langerhans細胞組織球症
線維性骨異形成
3.悪性腫瘍
軟骨肉腫
脊索腫
骨肉腫
Ewing肉腫
多発性骨髄腫・形質細胞腫
悪性リンパ腫
II 脊椎転移がん
腎癌
甲状腺癌
乳癌
肺癌
前立腺癌
肝癌
消化器癌(胃癌,食道癌,大腸癌)
原発不明癌
手術器具一覧
索引
I 脊椎腫瘍に対する基本概念
II 脊椎腫瘍の手術適応
III 脊椎腫瘍に対する手術手技
1.腫瘍脊椎骨全摘術total en bloc spondylectomy;TES
後方単一アプローチによるtotal en bloc spondylectomy
前方・後方2段階アプローチによるtotal en bloc spondylectomy
後方・前方2段階アプローチによるtotal en bloc spondylectomy
2.脊椎腫瘍に対するaggressive piecemeal excision
3.脊椎腫瘍に対するpalliative decompression and stabilization
IV Total en bloc spondylectomyにおける様々な問題点とその対策
1.いかにして術中出血量を少なくするか
2.いかにして脊椎周囲の大血管・分節動脈損傷を防止するか
3.Total en bloc spondylectomy後の脊髄血行について
4.腫瘍細胞のcontamination
5.どのように脊柱を再建するべきか
V 脊椎腫瘍手術の周術期合併症とその対策
VI 脊椎腫瘍再発に対するsalvage surgery
VII 脊椎腫瘍手術の成績
各論 各腫瘍の病態と手術の実際
脊椎腫瘍の概要
I 原発性脊椎腫瘍
1.良性腫瘍
骨軟骨腫
類骨骨腫
骨芽細胞腫
血管腫
骨巨細胞腫
巨大神経鞘腫
2.腫瘍類似疾患
動脈瘤様骨嚢腫
好酸球性肉芽腫,Langerhans細胞組織球症
線維性骨異形成
3.悪性腫瘍
軟骨肉腫
脊索腫
骨肉腫
Ewing肉腫
多発性骨髄腫・形質細胞腫
悪性リンパ腫
II 脊椎転移がん
腎癌
甲状腺癌
乳癌
肺癌
前立腺癌
肝癌
消化器癌(胃癌,食道癌,大腸癌)
原発不明癌
手術器具一覧
索引
書評
開く
脊椎外科医必携の書
書評者: 野原 裕 (獨協医大教授・整形外科学)
ついにすごい本が出た。これは富田勝郎先生の勇気と挑戦の記録であり,冷静な眼力と忍耐力の記録でもある。富田先生の開拓した腫瘍脊椎骨全摘術(Total En bloc Spondylectomy, TES)は,Norman Capenerのcost-transversectomyを両側から行うものであり,また同時に開発したT-sawも羊羹を糸で切るところから発想したという,いずれも謂わばコロンブスの卵である。さらにTESのすごさは,腫瘍を一塊として取り除くその卓越した手術手技がエビデンスによって裏付けされていることである。
序文の中で,「助さん」「格さん」に代表されるチームワークを強調し,治療計画,手術の実施,優れた術式開発のエビデンスによる裏付けの原動力となったチームワークに謝辞を述べており,茶目っ気がありほのぼのとした温かい先生の人間味が伝わってくる。
総論がまたすばらしく,診断から治療手段の選択に至るまでのフローチャートには富田軍団の哲学を随所に垣間見ることができる。この手術に挑むものが遭遇するであろう困難への「コツ」や出血対策,誰もが心配する脊髄血行の問題や腫瘍細胞の汚染に関してまで丁寧に記述されている。
各論で提示された疾患別の症例は見慣れているとはいえ「よくぞやった」の連続である。クライマックスは付属のDVDによる手技の公開で,腰椎前方大血管の陰から取り出される椎体腫瘍塊は何度見ても背筋がザワザワしてくる。
TESという優れた手術が未だ普遍化していないことを嘆かれているが,近い将来,標準的手術になると確信するのは私だけではないだろう。そして本書はその時にバイブルとなっているであろう。
ここで示された論理思考,技術は他の多くの脊椎疾患にも応用できるものであり,脊椎外科医を自負するものはここに記されたすべてを修得すべきだと思う。その意味で,脊椎外科に携わる者,これから脊椎外科医になろうとする者にとり「必携の書である」と言って過言ではない。最後に欲を言うならば,英語でも出版し広く世界に発信してほしいと願うものである。
脊椎腫瘍手術バイブル
書評者: 戸山 芳昭 (慶大教授・整形外科学/慶應義塾 常任理事)
金沢大学整形外科主任教授をこの3月末に退官された富田勝郎先生が,在任中に取り組んでこられた先生の業績の集大成とも言うべき書「脊椎腫瘍の手術」が医学書院よりこの度発刊された。本書の序文にも書かれているように,この書は正に金沢大学整形外科,富田先生をリーダーとした一門が一つの目的に向かって脊椎腫瘍,特に転移癌と戦ってきた実録であり,手引き書,参考書である。教室の脊椎外科グループと骨腫瘍グループが一体となって基礎から臨床へと進め,実際の手術として世に送り出した術式であり,正真正銘の世界に発信すべき脊椎腫瘍手術書である。従来は全く手がつけられず,対症的治療を余儀なくされてきた転移性脊椎腫瘍,痛みに耐えられずに苦しみ,またまひのために寝たきりとなっていた患者さんへ,金沢大学富田チームが一つの光を差し入れた業績は見事という以外,言葉はない。痛みから解放し,まひも救え,生命予後をも大きく改善させ得る「total en bloc spondylectomy(TES)=腫瘍脊椎骨全摘術」の開発は称賛に値する。思い起こせば十数年前であったか,私がアメリカ整形外科学会(AAOS)に出席した折,確か富田先生の本手術に関する講演が行われていた。その会場の最後列で私もそっと先生の講演を拝聴していたが,講演終了後に満席の会場でいわゆる“standing ovation”により,しばらく拍手が鳴り止まず鳥肌の立つ想いで見ていたことが昨日のように感じられる。私にはその時の素晴らしい光景が今でも鮮明に焼き付いており,自分もいつか先生のように・・・と感じたことを思い出す。
さて,ご存じのようにわが国は世界一の長寿を享受できる国となったが,この高齢社会においては,国民がより健康で明るく元気に生活できる社会の構築が必要不可欠である。国民が求めている「健康」とは「健康寿命延伸」そのものであり,癌や心臓病,脳血管障害など生命に直接かかわる疾患群への対策が強く望まれている。同時に,国民への安全・安心な医療の提供が医療側に強く求められている。特に外科系医師にとっては,安全・安心な医療の提供とは「手術手技・技術」そのものと言っても過言ではない。ただし,この手術手技の基本を支えるものは基礎研究に裏付けされ,臨床の現場でも十分に検証された手技でなければならない。この点も,本術式は教室員をあげて,その妥当性や安全性等を十分に証明しており,正に脊椎外科と腫瘍外科が一体となっての成果と言えよう。
本術式がさらに一般に周知され,一定以上の実績を有する脊椎外科医により日本は元より世界中で標準的手術として行われる日の来ることを期待したい。そのためにも,是非とも本書を英語版として世界に向け発信していただきたい。そして本書が,脊椎腫瘍手術バイブルとして世界中の脊椎外科医の手引書,参考書,安全・安心,確実な脊椎手術への良きナビゲーションとなり,痛みやまひで苦しんでいる脊椎腫瘍の患者さんが一人でも多く救われることを願っている。
書評者: 野原 裕 (獨協医大教授・整形外科学)
ついにすごい本が出た。これは富田勝郎先生の勇気と挑戦の記録であり,冷静な眼力と忍耐力の記録でもある。富田先生の開拓した腫瘍脊椎骨全摘術(Total En bloc Spondylectomy, TES)は,Norman Capenerのcost-transversectomyを両側から行うものであり,また同時に開発したT-sawも羊羹を糸で切るところから発想したという,いずれも謂わばコロンブスの卵である。さらにTESのすごさは,腫瘍を一塊として取り除くその卓越した手術手技がエビデンスによって裏付けされていることである。
序文の中で,「助さん」「格さん」に代表されるチームワークを強調し,治療計画,手術の実施,優れた術式開発のエビデンスによる裏付けの原動力となったチームワークに謝辞を述べており,茶目っ気がありほのぼのとした温かい先生の人間味が伝わってくる。
総論がまたすばらしく,診断から治療手段の選択に至るまでのフローチャートには富田軍団の哲学を随所に垣間見ることができる。この手術に挑むものが遭遇するであろう困難への「コツ」や出血対策,誰もが心配する脊髄血行の問題や腫瘍細胞の汚染に関してまで丁寧に記述されている。
各論で提示された疾患別の症例は見慣れているとはいえ「よくぞやった」の連続である。クライマックスは付属のDVDによる手技の公開で,腰椎前方大血管の陰から取り出される椎体腫瘍塊は何度見ても背筋がザワザワしてくる。
TESという優れた手術が未だ普遍化していないことを嘆かれているが,近い将来,標準的手術になると確信するのは私だけではないだろう。そして本書はその時にバイブルとなっているであろう。
ここで示された論理思考,技術は他の多くの脊椎疾患にも応用できるものであり,脊椎外科医を自負するものはここに記されたすべてを修得すべきだと思う。その意味で,脊椎外科に携わる者,これから脊椎外科医になろうとする者にとり「必携の書である」と言って過言ではない。最後に欲を言うならば,英語でも出版し広く世界に発信してほしいと願うものである。
脊椎腫瘍手術バイブル
書評者: 戸山 芳昭 (慶大教授・整形外科学/慶應義塾 常任理事)
金沢大学整形外科主任教授をこの3月末に退官された富田勝郎先生が,在任中に取り組んでこられた先生の業績の集大成とも言うべき書「脊椎腫瘍の手術」が医学書院よりこの度発刊された。本書の序文にも書かれているように,この書は正に金沢大学整形外科,富田先生をリーダーとした一門が一つの目的に向かって脊椎腫瘍,特に転移癌と戦ってきた実録であり,手引き書,参考書である。教室の脊椎外科グループと骨腫瘍グループが一体となって基礎から臨床へと進め,実際の手術として世に送り出した術式であり,正真正銘の世界に発信すべき脊椎腫瘍手術書である。従来は全く手がつけられず,対症的治療を余儀なくされてきた転移性脊椎腫瘍,痛みに耐えられずに苦しみ,またまひのために寝たきりとなっていた患者さんへ,金沢大学富田チームが一つの光を差し入れた業績は見事という以外,言葉はない。痛みから解放し,まひも救え,生命予後をも大きく改善させ得る「total en bloc spondylectomy(TES)=腫瘍脊椎骨全摘術」の開発は称賛に値する。思い起こせば十数年前であったか,私がアメリカ整形外科学会(AAOS)に出席した折,確か富田先生の本手術に関する講演が行われていた。その会場の最後列で私もそっと先生の講演を拝聴していたが,講演終了後に満席の会場でいわゆる“standing ovation”により,しばらく拍手が鳴り止まず鳥肌の立つ想いで見ていたことが昨日のように感じられる。私にはその時の素晴らしい光景が今でも鮮明に焼き付いており,自分もいつか先生のように・・・と感じたことを思い出す。
さて,ご存じのようにわが国は世界一の長寿を享受できる国となったが,この高齢社会においては,国民がより健康で明るく元気に生活できる社会の構築が必要不可欠である。国民が求めている「健康」とは「健康寿命延伸」そのものであり,癌や心臓病,脳血管障害など生命に直接かかわる疾患群への対策が強く望まれている。同時に,国民への安全・安心な医療の提供が医療側に強く求められている。特に外科系医師にとっては,安全・安心な医療の提供とは「手術手技・技術」そのものと言っても過言ではない。ただし,この手術手技の基本を支えるものは基礎研究に裏付けされ,臨床の現場でも十分に検証された手技でなければならない。この点も,本術式は教室員をあげて,その妥当性や安全性等を十分に証明しており,正に脊椎外科と腫瘍外科が一体となっての成果と言えよう。
本術式がさらに一般に周知され,一定以上の実績を有する脊椎外科医により日本は元より世界中で標準的手術として行われる日の来ることを期待したい。そのためにも,是非とも本書を英語版として世界に向け発信していただきたい。そして本書が,脊椎腫瘍手術バイブルとして世界中の脊椎外科医の手引書,参考書,安全・安心,確実な脊椎手術への良きナビゲーションとなり,痛みやまひで苦しんでいる脊椎腫瘍の患者さんが一人でも多く救われることを願っている。
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