臨床薬理学 第3版

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日本臨床薬理学会編集による本格的テキストの改訂第3版。好評であった初版、第2版の質は保ちつつ、より読みやすく使い勝手の良い教科書にするため、項目の追加・削除、構成の見直しとともに、分量の全体的なスリム化を図った。医療の現場において薬物療法の重要性が益々高まっている現在、本書は医師、医学生、研修医はもちろんのこと、看護師、薬剤師、臨床検査技師、製薬企業関係者など多くの医療関係者にとって必携の書である。
編集 日本臨床薬理学会
責任編集 中野 重行 / 安原 一 / 中野 眞汎 / 小林 真一 / 藤村 昭夫
発行 2011年08月判型:B5頁:464
ISBN 978-4-260-01232-4
定価 8,800円 (本体8,000円+税)
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第3版の序

 治療の行われる医療の現場では,薬物療法の重要性は益々高まっている.薬物療法では,科学的に信頼できる方法で有効性と安全性の実証された薬が存在する必要があるが,同時に個々の患者に対してより有効で安全な使い方ができることが重要である.そこで,医薬品の有効性と安全性評価のための創薬の段階における臨床試験,製造販売後の育薬の段階における臨床試験,医薬品の適正な使用法や医薬品情報伝達の重要性が,臨床現場からだけでなく,社会的な要請として強く求められている.このような社会的な要請は,医学部における臨床薬理学,薬学部における医療薬学教育への期待,さらには日本臨床薬理学会の専門医(旧認定医)制度・認定薬剤師制度・認定 CRC 制度の充実への期待として現れている.
 『臨床薬理学』は初版,続く第 2 版と,日本臨床薬理学会を挙げての「はじめて刊行された」教科書として編纂された.幸いにしてその質の高さから,読者に好評を博してきた.本書の初版は 1996 年の発行であったが,当時は日本臨床薬理学会認定医制度と認定薬剤師制度の創設時期に当たっていたため,認定医や認定薬剤師の受験のための教科書としての役割を持ちつつ,医学生を対象にした臨床薬理学,薬学生を対象にした医療薬学のテキストブックとしても役立つことを目指していた.その後,第 2 版への改訂(2003 年)を経て,医療関係の幅広い学生や臨床研究コーディネーター(CRC)などにも読者層は広がってきた.
 「臨床薬理学(Clinical Pharmacology)」は,「臨床薬理・治療学(Clinical Pharmacology and Therapeutics)」であることが求められている.そこで,今回の第 3 版では,従来のものより「臨床薬理・治療学」としての水準の高い教科書であるだけでなく,読みやすくて使い勝手の良い教科書を目指して改訂作業を進めた.そのために,初版と第2版の骨格をもとにして,項目の追加・削除・移動を行うとともに,分量の“全体的なスリム化”を図ることで,簡潔で分かりやすい教科書を目指した.内容的には,臨床薬理学の基本骨格となる事項はもちろんのこと,最近注目を集めている領域や重要事項をも取り入れて,医師,研修医,医学生,専門医・認定薬剤師・認定 CRC を目指す受験者,さらには看護師,薬剤師,臨床検査技師,製薬企業の方々などを含めて,医薬品や薬物治療中の患者と接することのある多くの方にとって,必要最低限となる事項は網羅することを心がけた.
 『臨床薬理学』の「臨床」の意味について一言触れておきたい.医薬品の真の実力は,それを使用した患者の反応を通してしかわからない.「臨床」は“bed-side”を意味しており,「患者のそばにいる」ということである.医薬品の恩恵(場合によっては害)を受けるのは最終的なエンドユーザーとなる患者である.そこで単に「患者のためになる」という視点ではなく,もう一歩進めて「患者の視点に立って」考えることができることが重要である.知識を広め,技能を身につけ,態度を磨いて,医薬品を提供する医療者サイドにいると同時に,いつでも患者サイドの視点にも立って考え,かつ行動できることが重要である.
 最後に,改訂を重ねるごとに本書の中で使用される用語の統一は進んではいる.しかし,医学から薬学やその他の領域にわたる幅広い領域の著者に執筆いただいている関係で,まだいくつかの用語については,文脈に応じて使い分けられている.たとえば,以下のような用語がある.本書ではこれらの用語を区別して使用する努力をしているが,混在するのは避け難い現状にあることをご理解いただきたい.

 1)治験,臨床試験,臨床研究
 人間を対象にした研究を「臨床研究」という.臨床研究の中でなんらかの介入の影響を明らかにしようとする前向きの研究を「臨床試験」と称する.臨床試験の中で,厚生労働省から製造販売の承認を得るために申請する資料にする臨床試験を「治験」と称する.つまり,治験は臨床試験に含まれ,臨床試験は臨床研究に含まれる.

 2)薬物有害反応,副作用,有害事象
 薬理学用語の定義に従うと,薬物の作用には,本来使用目的とする「主作用」とそれ以外の「副作用(side effect)」がある.しかし,薬事法などの法律を含めて一般に「副作用」というときには,主作用が強く出すぎた場合も含めて使用されている.臨床薬理学的に厳密に記述する際には,「薬物有害反応(adverse drug reaction)」とも呼び,主作用の強く出すぎた場合,主作用に対する副作用,アレルギー反応をこの中に含めるのが,予防も含めた対処法を考える際に役立つ.
 また,副作用と区別すべき概念に「有害事象(adverse event)」がある.有害事象とは,本来の意図とは異なる医学的に好ましくない出来事すべてを包含して使われる.通常は,薬物療法において生じる出来事を意味して使用されており,薬物との因果関係は問わない.治験の段階ではまだ例数が少なく,因果関係の判断ができないことが多いため,明らかに因果関係を否定できる場合以外は有害事象として取り上げておいて,将来因果関係が判断できるようになるまでは,副作用とみなして取り扱うことが一般的である.

 3)IRB,治験審査委員会,臨床研究審査委員会,施設内審査委員会
 治験を含む臨床研究の実施に際して,その倫理性と科学性が事前に審査されることになるが,その際の審査委員会である IRB(institutional review board)は,文字通り「施設内審査委員会」と訳されることもあるが,実施施設の実情に応じて,GCP で規定する「治験審査委員会」と呼ばれたり,「臨床研究審査委員会」と呼ばれているため,文脈に応じて混在することを許容した.

 本書は,医学書院の北條立人氏の細かな配慮と努力なくしては完成しなかった.ここに編集者と執筆者一同を代表して謝意を表したい.

 2011年7月
 編集者を代表して 中野 重行

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第1章 臨床薬理学の概念と定義
 A 臨床薬理学の基本的な考え方 ―臨床薬理学の概念と定義
 B 臨床研究の科学性と倫理性

第2章 医薬品開発にかかわる臨床試験
 A 医薬品開発と臨床試験
 B 臨床試験のデザインと生物統計学

第3章 臨床薬物動態学
 A 臨床薬物動態学の治療医学における位置づけ
 B 薬物代謝酵素とトランスポーター
 C 薬物動態学各論
 D 薬物送達システム

第4章 薬物の作用と有害反応
 A 生理活性物質と病態
 B 薬物の作用メカニズム
 C 薬物相互作用
 D 薬物有害反応
 E 時間薬理学
 F 薬理作用の個体差

第5章 薬物治療学総論
 A 薬物動態学理論の薬物投与計画への応用
 B 治療計画へのアドヒアランス(コンプライアンス)
 C 妊産婦における薬物投与計画
 D 新生児・小児における薬物投与計画
 E 高齢者における薬物投与計画
 F 腎障害時の薬物投与計画
 G 肝障害時の薬物投与計画
 H 心不全時の薬物投与計画
 I PGx(薬理ゲノミクス)の臨床応用

第6章 エビデンスに基づく薬物治療
 A 臨床薬理学と EBM
 B 降圧薬
 C 抗不整脈薬
 D 虚血性心疾患治療薬
 E 脂質異常症治療薬
 F 糖尿病治療薬
 G 消化管治療薬
 H 呼吸器疾患治療薬
 I 中枢神経作用薬
 J 抗炎症薬・抗リウマチ薬
 K 骨粗鬆症薬
 L 抗菌薬
 M 抗悪性腫瘍薬
 N 免疫抑制薬
 O 認知症,Parkinson 病,脳血管障害,その他の中枢神経作用薬

第7章 医薬品開発の法的側面
 A 医薬品添付文書など医薬品情報の活用
 B 臨床試験関係者と医事紛争
 C 薬事行政
 D 臨床薬理と健康保険

付録
 1.日本臨床薬理学会専門医制度規則
 2.日本臨床薬理学会認定薬剤師制度規則と細則
 3.日本臨床薬理学会認定 CRC 制度規則と細則
 4.日本臨床薬理学会臨床薬理専門医・認定薬剤師のための研修ガイドライン:改訂版
 5.臨床薬理学関連の Website
 6.世界医師会ヘルシンキ宣言 人間を対象とする医学研究の倫理的原則
 7.臨床研究に関する倫理指針

索引

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薬物治療のレベルアップのために不可欠なテキスト
書評者: 日野原 重明 (聖路加国際病院理事長)
 今般,『臨床薬理学 第3版』が医学書院から出版された。本書の初版は,日本臨床薬理学会責任編集の下に,中野重行教授(大分大学名誉教授/国際医療福祉大学大学院・創薬育薬医療分野長),安原一教授(昭和大学名誉教授/昭和大学医学振興財団理事長),他4名と新進の研究者,計57名を招集し,1996年に出版された。

 これまで基礎的な薬理学の専門書はあったが,本書は薬理学の臨床分野で働きつつ研究する医師,薬剤師のほかに,臨床医,さらには医学生,看護学生やその大学院生のための最高のテキストとなることをめざして作られたものである。

 今後,医師と薬剤師とのよき協力体制はますます強化されなければならない。そのような背景の基,医学における臨床薬理学分野の方々と,薬学における医療薬学分野の方々との協力により,臨床薬理学の専門書として計画されたのが,この教科書といえる。日本臨床薬理学会の専門医制度(1991年発足)と認定薬剤師(1995年発足)のための教科書としても使われよう。

 本書は,1996年の初版から2003年には第2版を,2011年には,大改訂で今回の第3版を出版するに至った。

 患者のための薬物治療のレベルアップのために本書の寄与する役割は大きい。本書が学習のためのテキストとして,臨床医学,看護学に従事する多くの方々に用いられることを期待したい。
最適・最良の薬物療法を志向する者に,新しい視点での考え方を提供する
書評者: 五味田 裕 (就実大副学長・薬学部長/岡山大名誉教授)
 薬は,元来生体作用の強い物質であり,その物質がヒトの身体の歪み,すなわち疾患を治療し,患者の心身の苦痛を癒したとき,初めてその物質に“薬”としての称号が与えられるものと思われる。そこでは薬の物質的特性の把握はもちろんであるが,作用する生体側の病態生理を十分把握しておく必要がある。しかしながら,疾患によってはいまだ十分解明されていないものもあれば,また合理的な薬物治療を施す意味で考慮すべき点も多々存在する。その意味で,日本臨床薬理学会では,薬物治療の有効性と安全性を最大限に高め,個々の患者への最適・最良の治療を提供することを掲げている。

 わが国では,基礎薬理学についての参考書は前々から存在していたものの,本格的な臨床薬理学についての教科書は1995年以前存在していなかった。そこで日本臨床薬理学会では,臨床薬理をより体系化するために1996年,『臨床薬理学』の教科書を発行するに至った。その大きな流れの根底には,医療者が合理的な薬物治療を施す際,常に薬がクスリたる真の意義を問うという“評価”の概念が存在していると思われる。薬理の「理」は,まさに薬たる“ことわり”を意味し,それは治療者側からの治療評価,患者側からの満足度評価が無くてはあり得ない。本教科書では,その双方の「評価し合いながら」という考え方がさらにクローズアップされ,最適・最良の薬物療法を指向する者に対して新しい視点での考え方を提供している。

 具体的には,薬物治療における患者とのパートナーシップ,薬物治療の創薬・育薬のチーム医療の考え方,世界における医薬品開発の考え方,薬物代謝酵素と遺伝性,疾患別のより的確な最新薬物投与計画,最新のエビデンスに基づく薬物治療等々,個別化医療を踏まえた新しい情報を数多く盛り込んでいる。さらに,新規医薬品の開発に関しての評価では時代の流れと直近の法的側面に触れ解説がなされている。

 優れた医薬品は,医療施行側,治療を受ける患者側,そして医療が施される社会側等において,種々の観点から評価され,そこではじめて“真の薬”が誕生すると思われる。その“真の薬”を誕生させるためには,創薬・育薬にかかわる医療人の専門性が問われることは言うまでもない。その意味で日本臨床薬理学会では,以前から日本臨床薬理学会認定制度を発足させ,すでに多くの専門医,認定薬剤師,認定CRCが誕生している。その結果として患者には早期の治療が,また副作用の早期発見が可能となり,また優れた医薬品の開発にも繋がっている。本書第3版では,最新の情報をもとに各専門家が実際の展開を踏まえながら解説されており,当学会認定制度の道標〈みちしるべ〉的内容が含まれている。

 そのような意味で,本書第3版が,治療を施す者(医師,薬剤師,看護師ら),創薬・育薬関係者(医薬品開発者ら),また医学・薬学・看護学・臨床検査学などの分野での教育者,学生・院生,さらには医療福祉関係者らにとって大いに役立つものと確信している。

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