絵でみる脳と神経 第3版
しくみと障害のメカニズム
「認知症」「摂食・嚥下障害」の項を加え、さらに最新の知見で全体の記述を充実
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脳と神経を学ぶ学生必携のベスト&ロングセラー待望の第3版。研究と実践で近年著しい発展がみられる「認知症」「摂食・嚥下障害」の項を新たに追加。また脳梗塞の内科治療、頭痛、脳卒中・言語障害のリハビリテーションの記述も更新するなど、最新の知見をもとに全体を見直した。不動の名著がさらに内容を充実して登場!
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- 目次
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序文
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この本を読まれる皆さんへ
いま,この「前書き」を執筆しながら,前回(第2版)の前書きを書いた時のことを思い出しています.それは筆者がまだ50代半ばのことでした.本書が多くの読者に読まれていることを知るにつれ,もっとわかりやすい文章に改めなければ,と痛感しておりました.また筆者の浅薄な知識のために誤った記述をそのままにしていて,読者からその誤りをご指摘いただくこともしばしばありました.そこで約3年の年月をかけて2001年6月に改訂第2版を上梓させていただきました.
そもそも本書は当初,脳神経疾患の神経障害発症のメカニズムを解説するために『看護学雑誌』に約2年間連載され,これに基礎編として脳神経の解剖を加えて「しくみと障害のメカニズム」という副題を付け,1990年に『JJNスペシャル』の一冊として出版されました.さらに翌1991年,『JJNブックス』シリーズの一冊として初版が刊行されました.
そして第2版の刊行から早くも8年が経ってしまいました.この間に医療を取り巻く環境の変化は著しいものがありました.新卒医師の卒後研修医制度の導入に伴う,地方の医師不足の問題,また高齢化社会に伴う認知症の急増と,それに追いつかない福祉行政の歪みなど,未だ解決できない多くの問題を抱えています.こうした中で,筆者は近年,摂食・嚥下障害にかかわる勉強会への参加や講演をする機会を多く与えられ,この障害について解説して参りました.また,著者の日常の診療の中で,認知機能障害(認知症)の高齢者を診療する機会が非常に多くなりました.これらのことから筆者は,特に高齢の患者さんの医療にかかわる方々やリハビリテーションにかかわっておられる方々の中には,本書の記述がいささか物足りないと思っておられる方もおいでになったのではないか,と感じるようになりました.
そこでこのたび,本書を8年ぶりに改訂させていただきました.大きな改訂箇所として,「頭痛」「血管障害」の項に最新の資料を取り入れて書き改めました.「頭痛」の項では2004年に改訂された国際頭痛学会の国際頭痛分類第2版をもとに,特に片頭痛の発症の新しい学説を解説し,またその他の頭痛の診断基準などについて述べました.さらに,前述のような高齢者の介護に携わる方々からの要望に応えて,「嚥下障害」「認知症 知的機能障害」の章を新たに追加しました.特に「嚥下障害」はまったく新たに加えた章で,第2版に記載されていた尾側脳神経の機能,および脳幹(特に延髄)の構造と神経機構を整理しつつ,摂食・嚥下という複雑な機能を詳細に,できるだけわかりやすく記載いたしました.嚥下障害を持つ患者さんの介護に携わる方は,この神経機構を理解することで,嚥下リハビリに役立てていただける,と信じています.また認知症は早期発見により,進行をいくらかでも遅らせることができるので,「認知症」の箇所では専門医でなくても容易に診断できる診断基準についても解説いたしました.
今回の改訂でも『NOTE』の項をふんだんに掲載致しました.本文に記載するには多少専門的な内容や,ちょっと知っておくと得する内容などをここに掲載したつもりです.索引も大幅に拡大し充実させてありますので,辞書代わりに使用してください.こうして,今回の改訂では第2版より20ページ増となってしまいました.あまり厚くなると携帯に不便なのですが,それ以上に内容の充実に期待して,是非すべてのページに目を通していただきたいと思います.そして本書から得られた知識が,神経疾患の患者さんの日常診療・介護の中でいくらかでもお役に立ったとすれば,それこそ著者の本望とするところです.
2009年1月 初春の久が原にて
馬場 元毅
いま,この「前書き」を執筆しながら,前回(第2版)の前書きを書いた時のことを思い出しています.それは筆者がまだ50代半ばのことでした.本書が多くの読者に読まれていることを知るにつれ,もっとわかりやすい文章に改めなければ,と痛感しておりました.また筆者の浅薄な知識のために誤った記述をそのままにしていて,読者からその誤りをご指摘いただくこともしばしばありました.そこで約3年の年月をかけて2001年6月に改訂第2版を上梓させていただきました.
そもそも本書は当初,脳神経疾患の神経障害発症のメカニズムを解説するために『看護学雑誌』に約2年間連載され,これに基礎編として脳神経の解剖を加えて「しくみと障害のメカニズム」という副題を付け,1990年に『JJNスペシャル』の一冊として出版されました.さらに翌1991年,『JJNブックス』シリーズの一冊として初版が刊行されました.
そして第2版の刊行から早くも8年が経ってしまいました.この間に医療を取り巻く環境の変化は著しいものがありました.新卒医師の卒後研修医制度の導入に伴う,地方の医師不足の問題,また高齢化社会に伴う認知症の急増と,それに追いつかない福祉行政の歪みなど,未だ解決できない多くの問題を抱えています.こうした中で,筆者は近年,摂食・嚥下障害にかかわる勉強会への参加や講演をする機会を多く与えられ,この障害について解説して参りました.また,著者の日常の診療の中で,認知機能障害(認知症)の高齢者を診療する機会が非常に多くなりました.これらのことから筆者は,特に高齢の患者さんの医療にかかわる方々やリハビリテーションにかかわっておられる方々の中には,本書の記述がいささか物足りないと思っておられる方もおいでになったのではないか,と感じるようになりました.
そこでこのたび,本書を8年ぶりに改訂させていただきました.大きな改訂箇所として,「頭痛」「血管障害」の項に最新の資料を取り入れて書き改めました.「頭痛」の項では2004年に改訂された国際頭痛学会の国際頭痛分類第2版をもとに,特に片頭痛の発症の新しい学説を解説し,またその他の頭痛の診断基準などについて述べました.さらに,前述のような高齢者の介護に携わる方々からの要望に応えて,「嚥下障害」「認知症 知的機能障害」の章を新たに追加しました.特に「嚥下障害」はまったく新たに加えた章で,第2版に記載されていた尾側脳神経の機能,および脳幹(特に延髄)の構造と神経機構を整理しつつ,摂食・嚥下という複雑な機能を詳細に,できるだけわかりやすく記載いたしました.嚥下障害を持つ患者さんの介護に携わる方は,この神経機構を理解することで,嚥下リハビリに役立てていただける,と信じています.また認知症は早期発見により,進行をいくらかでも遅らせることができるので,「認知症」の箇所では専門医でなくても容易に診断できる診断基準についても解説いたしました.
今回の改訂でも『NOTE』の項をふんだんに掲載致しました.本文に記載するには多少専門的な内容や,ちょっと知っておくと得する内容などをここに掲載したつもりです.索引も大幅に拡大し充実させてありますので,辞書代わりに使用してください.こうして,今回の改訂では第2版より20ページ増となってしまいました.あまり厚くなると携帯に不便なのですが,それ以上に内容の充実に期待して,是非すべてのページに目を通していただきたいと思います.そして本書から得られた知識が,神経疾患の患者さんの日常診療・介護の中でいくらかでもお役に立ったとすれば,それこそ著者の本望とするところです.
2009年1月 初春の久が原にて
馬場 元毅
目次
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■巻頭カラーイラスト
序文
I 中枢神経系のしくみ
■中枢神経系を取り巻く環境
中枢神経系を守るしくみ
■中枢神経系と末梢神経系
中枢神経と末梢神経の違い
中枢神経と末梢神経の境目
■大脳
大脳の構成
大脳皮質
間脳
大脳基底核
大脳辺縁系
■小脳
小脳のしくみ
小脳の働き
■脳幹
脳幹のしくみ
脳幹の内部構造
■脊髄
脊髄のしくみ
脊髄の働き
■脳循環
脳循環のしくみ
脳循環の調節
■脳脊髄液循環
脳脊髄液循環のしくみ
脳脊髄液循環の働き
II 障害のメカニズム
■意識障害
意識を保つためのしくみと働き
意識障害をみるポイント
■脳ヘルニア
脳ヘルニアのメカニズムと病態
脳ヘルニアに特徴的なバイタルサインの変化
意識障害患者の神経症状のみかた
■言語障害
言葉をあやつる脳
言語障害のメカニズム
■認知症 知的神経機能障害
脳組織の生理的老化
認知症の定義
認知症の原因疾患の分類
アルツハイマー型認知症の症状
アルツハイマー型認知症の治療
■運動麻痺
運動神経経路のしくみ
反射
運動麻痺の分類
障害部位ごとにみた運動麻痺の症状
錐体外路障害
運動麻痺患者のケア
■知覚障害
知覚を感じるしくみ
知覚の種類とその特徴
知覚伝導路のしくみ
部位ごとにみた知覚障害の特徴
■脳神経障害
脳神経の構成
第1脳神経(I)(嗅神経)
第2脳神経(II)(視神経)
眼球運動を支配する脳神経 第3脳神経(III)(動眼神経),
第4脳神経(IV)(滑車神経),第6脳神経(VI)(外転神経)
第5脳神経(V)(三叉神経)
第7脳神経(VII)(顔面神経)
第8脳神経(VIII)(聴神経)
尾側脳神経群(第9~12脳神経)
■摂食・嚥下障害
摂食の神経機能
嚥下の神経機構
■小脳の障害
小脳失調
小脳疾患の治療
小脳疾患患者のケア
■排尿障害
排尿のメカニズム
神経因性膀胱のメカニズム
膀胱機能障害の診断法
排尿障害のケア
■脳血管障害
脳血管障害の分類
出血性脳血管障害(1) 高血圧性脳内出血
出血性脳血管障害(2) くも膜下出血
脳動脈瘤
閉塞性脳血管障害(脳梗塞)
■髄液循環障害
髄液循環障害と水頭症
部位ごとにみた髄液循環障害
年齢による水頭症の病態
水頭症の症候と診断
水頭症の治療
参考文献
索引
序文
I 中枢神経系のしくみ
■中枢神経系を取り巻く環境
中枢神経系を守るしくみ
■中枢神経系と末梢神経系
中枢神経と末梢神経の違い
中枢神経と末梢神経の境目
■大脳
大脳の構成
大脳皮質
間脳
大脳基底核
大脳辺縁系
■小脳
小脳のしくみ
小脳の働き
■脳幹
脳幹のしくみ
脳幹の内部構造
■脊髄
脊髄のしくみ
脊髄の働き
■脳循環
脳循環のしくみ
脳循環の調節
■脳脊髄液循環
脳脊髄液循環のしくみ
脳脊髄液循環の働き
II 障害のメカニズム
■意識障害
意識を保つためのしくみと働き
意識障害をみるポイント
■脳ヘルニア
脳ヘルニアのメカニズムと病態
脳ヘルニアに特徴的なバイタルサインの変化
意識障害患者の神経症状のみかた
■言語障害
言葉をあやつる脳
言語障害のメカニズム
■認知症 知的神経機能障害
脳組織の生理的老化
認知症の定義
認知症の原因疾患の分類
アルツハイマー型認知症の症状
アルツハイマー型認知症の治療
■運動麻痺
運動神経経路のしくみ
反射
運動麻痺の分類
障害部位ごとにみた運動麻痺の症状
錐体外路障害
運動麻痺患者のケア
■知覚障害
知覚を感じるしくみ
知覚の種類とその特徴
知覚伝導路のしくみ
部位ごとにみた知覚障害の特徴
■脳神経障害
脳神経の構成
第1脳神経(I)(嗅神経)
第2脳神経(II)(視神経)
眼球運動を支配する脳神経 第3脳神経(III)(動眼神経),
第4脳神経(IV)(滑車神経),第6脳神経(VI)(外転神経)
第5脳神経(V)(三叉神経)
第7脳神経(VII)(顔面神経)
第8脳神経(VIII)(聴神経)
尾側脳神経群(第9~12脳神経)
■摂食・嚥下障害
摂食の神経機能
嚥下の神経機構
■小脳の障害
小脳失調
小脳疾患の治療
小脳疾患患者のケア
■排尿障害
排尿のメカニズム
神経因性膀胱のメカニズム
膀胱機能障害の診断法
排尿障害のケア
■脳血管障害
脳血管障害の分類
出血性脳血管障害(1) 高血圧性脳内出血
出血性脳血管障害(2) くも膜下出血
脳動脈瘤
閉塞性脳血管障害(脳梗塞)
■髄液循環障害
髄液循環障害と水頭症
部位ごとにみた髄液循環障害
年齢による水頭症の病態
水頭症の症候と診断
水頭症の治療
参考文献
索引
書評
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書(描)ける脳神経外科医による大ベストセラー
書評者: 寺本 明 (日本医大大学院医学研究科長・脳神経外科学)
文武両道という言葉がある。私ども脳神経外科の分野で言うと,論文業績もあり,手術も上手な人ということになる。ところが,よくしたもので文武両道の外科医はめったにいない。つまり手術の達人は一般に講演は得意であるが,論文や原稿作成が苦手である。執筆したとしても大変な遅筆であることが多い。そのため高名な外科医に成書の分担執筆や雑誌の特集論文を頼むと企画倒れになりそうなことがまれではない。
しかし,世の中例外はあるものである。本書の著者である馬場元毅先生は,困難な脳神経外科手術のエキスパートでありながら,多数の論文業績があり原稿執筆も丁寧でかつ早い。われわれの教室では,頭蓋底手術などの解剖学的オリエンテーションが難しい症例には,指南役としていつも馬場先生に来ていただいていた。その温厚で教育熱心なお人柄から先生を慕う学生や教室員は数多い。さらに馬場先生の優れた資質は絵心があることである。「百聞は一見に如かず」というように,臨床教育では一目見ることが大切ではあるが,スライドが良いかというと実はそうではない。優れた術者の手術記載の図は,教育的なメリハリが効いているので本物のスライドよりもはるかに勉強になるものである。これは手術に関してのみならず,解剖,臨床症状,診察方法,画像の見方など多くの分野で,学習者にとってはよく工夫された図や絵のほうが教育効果が高い。
以上のご紹介の中に馬場先生に関するいくつかのキーワードが隠されている。すなわち,手術が得意な優れた臨床家,原稿執筆や絵も上手,教育熱心で親切,こういった因子が重なって本書が存在するわけである。
本書は,1991年に初版が,さらに2001年に第2版が刊行された大ベストセラーである。今回その第3版が上梓されたが,頭痛,嚥下障害,認知症などの項目を刷新し,最新の医学医療の進歩にキャッチアップしている。また,NOTEの項にはやや高度な医学知見や最新情報が盛り込まれている。これらはわかりやすい図解とともに,一見難解な神経学や神経疾患を親しみやすいものとしている。医学生や,看護師をはじめとするコメディカルの方々に一読をお勧めする次第である。
摂食・嚥下障害の記述もさらに充実,「脳と神経」を学ぶ人には必読の書
書評者: 鎌倉 やよい (愛知県立看護大教授・成人看護学)
待望の『絵でみる脳と神経 第3版』が出版されました。「脳と神経は難しい」と多くの看護学生がつぶやきます。実際,中枢神経系の組織は生命維持の中枢として機能し,思考や運動を支配していますから,簡単であるはずがありません。理解しようと進んでいくと,その広さと深さに,迷路に迷い込んで出口が見えなくなることがあります。本書は,脳と神経を理解するための地図であり,羅針盤であるように思います。
本書を手に取ると,まずイラストが多いことがわかります。よく見ると,描かれたイラストの横に馬場先生のサインを見つけることができます。そうです,このイラストは馬場先生ご自身の手によるものです。長年にわたって脳外科医として活躍され,脳と神経を目前にとらえ続けた先生ならではのイラストはわかりやすく説得力があります。そして,症状を説明するためのイラストからは馬場先生のユーモアがあふれています。これらのイラストに導かれ,理解しながら進むことができます。
2年間の『看護学雑誌』への連載が基になって,本書の第1版(1991年)が完成したと聞き及んでいますが,脳や神経の迷路で迷わないように,学ぶ側の視点に立って,根幹を押さえて進む構成となっています。難しい内容が実に平易にわかりやすく表現され,疑問に思う事項が「NOTE」として概説されるなど,あたかも馬場先生の講義を受けているように感じられます。全体の構成は,脳と神経に関する基礎知識が「I 中枢神経系のしくみ」に要約され,「II 障害のメカニズム」では意識障害,言語障害を始めとする障害について,そのメカニズム・症状・ケアなどが説明されています。しかも,それぞれの項は独立した構成となっているため,学習者のニーズに応じた項を読むことで,疑問に答えてくれます。
今回の改訂による大きな変化は,「II 障害のメカニズム」に「認知症 知的神経機能障害」と「摂食・嚥下障害」の項が追加されたことです。私は摂食・嚥下障害が取り持つ縁で本書に出会いましたので,今回の改訂はうれしい限りです。これまでも脳神経障害の項に摂食・嚥下に関する脳神経が詳しく解説されていましたが,新たに「摂食・嚥下障害」の項として摂食の神経機能及び嚥下の神経機構がまとめられています。「嚥下の神経機構」は,「咀嚼の神経機構」「嚥下の神経機構」「嚥下反射のしくみ」「摂食・嚥下の『期』と脳神経の関与」「摂食・嚥下にかかわる脳神経」「嚥下障害の臨床;仮性球麻痺と球麻痺」からなる構成です。
さて,本書に導かれ脳と神経のしくみを知ることによって,嚥下にかかわる脳神経の障害によって引き起こされる症状が,まるで謎を解くかのように理解することができます。現在,フィジカル・アセスメントが看護教育に定着してきましたが,フィジカル・イグザミネーションにおいても脳神経の理解が基盤となります。本書は,看護の領域にとどまらず「脳と神経」を学ぶ人にとって必読の書であり,ぜひお読みになるよう推薦いたします。
書評者: 寺本 明 (日本医大大学院医学研究科長・脳神経外科学)
文武両道という言葉がある。私ども脳神経外科の分野で言うと,論文業績もあり,手術も上手な人ということになる。ところが,よくしたもので文武両道の外科医はめったにいない。つまり手術の達人は一般に講演は得意であるが,論文や原稿作成が苦手である。執筆したとしても大変な遅筆であることが多い。そのため高名な外科医に成書の分担執筆や雑誌の特集論文を頼むと企画倒れになりそうなことがまれではない。
しかし,世の中例外はあるものである。本書の著者である馬場元毅先生は,困難な脳神経外科手術のエキスパートでありながら,多数の論文業績があり原稿執筆も丁寧でかつ早い。われわれの教室では,頭蓋底手術などの解剖学的オリエンテーションが難しい症例には,指南役としていつも馬場先生に来ていただいていた。その温厚で教育熱心なお人柄から先生を慕う学生や教室員は数多い。さらに馬場先生の優れた資質は絵心があることである。「百聞は一見に如かず」というように,臨床教育では一目見ることが大切ではあるが,スライドが良いかというと実はそうではない。優れた術者の手術記載の図は,教育的なメリハリが効いているので本物のスライドよりもはるかに勉強になるものである。これは手術に関してのみならず,解剖,臨床症状,診察方法,画像の見方など多くの分野で,学習者にとってはよく工夫された図や絵のほうが教育効果が高い。
以上のご紹介の中に馬場先生に関するいくつかのキーワードが隠されている。すなわち,手術が得意な優れた臨床家,原稿執筆や絵も上手,教育熱心で親切,こういった因子が重なって本書が存在するわけである。
本書は,1991年に初版が,さらに2001年に第2版が刊行された大ベストセラーである。今回その第3版が上梓されたが,頭痛,嚥下障害,認知症などの項目を刷新し,最新の医学医療の進歩にキャッチアップしている。また,NOTEの項にはやや高度な医学知見や最新情報が盛り込まれている。これらはわかりやすい図解とともに,一見難解な神経学や神経疾患を親しみやすいものとしている。医学生や,看護師をはじめとするコメディカルの方々に一読をお勧めする次第である。
摂食・嚥下障害の記述もさらに充実,「脳と神経」を学ぶ人には必読の書
書評者: 鎌倉 やよい (愛知県立看護大教授・成人看護学)
待望の『絵でみる脳と神経 第3版』が出版されました。「脳と神経は難しい」と多くの看護学生がつぶやきます。実際,中枢神経系の組織は生命維持の中枢として機能し,思考や運動を支配していますから,簡単であるはずがありません。理解しようと進んでいくと,その広さと深さに,迷路に迷い込んで出口が見えなくなることがあります。本書は,脳と神経を理解するための地図であり,羅針盤であるように思います。
本書を手に取ると,まずイラストが多いことがわかります。よく見ると,描かれたイラストの横に馬場先生のサインを見つけることができます。そうです,このイラストは馬場先生ご自身の手によるものです。長年にわたって脳外科医として活躍され,脳と神経を目前にとらえ続けた先生ならではのイラストはわかりやすく説得力があります。そして,症状を説明するためのイラストからは馬場先生のユーモアがあふれています。これらのイラストに導かれ,理解しながら進むことができます。
2年間の『看護学雑誌』への連載が基になって,本書の第1版(1991年)が完成したと聞き及んでいますが,脳や神経の迷路で迷わないように,学ぶ側の視点に立って,根幹を押さえて進む構成となっています。難しい内容が実に平易にわかりやすく表現され,疑問に思う事項が「NOTE」として概説されるなど,あたかも馬場先生の講義を受けているように感じられます。全体の構成は,脳と神経に関する基礎知識が「I 中枢神経系のしくみ」に要約され,「II 障害のメカニズム」では意識障害,言語障害を始めとする障害について,そのメカニズム・症状・ケアなどが説明されています。しかも,それぞれの項は独立した構成となっているため,学習者のニーズに応じた項を読むことで,疑問に答えてくれます。
今回の改訂による大きな変化は,「II 障害のメカニズム」に「認知症 知的神経機能障害」と「摂食・嚥下障害」の項が追加されたことです。私は摂食・嚥下障害が取り持つ縁で本書に出会いましたので,今回の改訂はうれしい限りです。これまでも脳神経障害の項に摂食・嚥下に関する脳神経が詳しく解説されていましたが,新たに「摂食・嚥下障害」の項として摂食の神経機能及び嚥下の神経機構がまとめられています。「嚥下の神経機構」は,「咀嚼の神経機構」「嚥下の神経機構」「嚥下反射のしくみ」「摂食・嚥下の『期』と脳神経の関与」「摂食・嚥下にかかわる脳神経」「嚥下障害の臨床;仮性球麻痺と球麻痺」からなる構成です。
さて,本書に導かれ脳と神経のしくみを知ることによって,嚥下にかかわる脳神経の障害によって引き起こされる症状が,まるで謎を解くかのように理解することができます。現在,フィジカル・アセスメントが看護教育に定着してきましたが,フィジカル・イグザミネーションにおいても脳神経の理解が基盤となります。本書は,看護の領域にとどまらず「脳と神経」を学ぶ人にとって必読の書であり,ぜひお読みになるよう推薦いたします。
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本書の記述の正確性につきましては最善の努力を払っておりますが、この度弊社の責任におきまして、下記のような誤りがございました。お詫び申し上げますとともに訂正させていただきます。
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