絵でみる脳と神経 第4版
しくみと障害のメカニズム
脳と神経を学ぶすべての人のための定番書、8年振りの改訂!
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末梢神経と中枢神経の違いを説明できる? 意識障害や脳ヘルニア、脳では何が起こっているの?――「脳と神経」は目に見えないから難しい。でも見えたら…こんなに面白い! 著者による秀逸なイラストと臨床につながる解説で、脳と神経のしくみが見える、障害のメカニズムが理解できる。日常診療やケアに必ず役立つ、脳と神経の定番書。
著 | 馬場 元毅 |
---|---|
発行 | 2017年12月判型:A4変頁:264 |
ISBN | 978-4-260-02783-0 |
定価 | 3,080円 (本体2,800円+税) |
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- 目次
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序文
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この本を読まれる皆さんへ
2015年の暮れに医学書院の編集者から「前回の改訂(第3版)から6年以上になりますが,そろそろ次の版への改訂はいかがでしょうか」との声かけをいただきました。あまりの時の流れの速さに驚いたのですが,考えてみますと本書は第1版が発刊された1991年以降,おおむね8年から10年ごとに改訂版を発行してきています。
本書は本来,看護師さんにはややもすれば敬遠されがちであった神経学と神経解剖学,神経生理学をわかりやすい文章とイラストを多用して解説することを目的としたものでした。この分野は比較的普遍的な学問で,当初は10年ごとに内容を見直すことでよいと思われていたのですが,医学の進歩は臨床面だけでなく,基礎医学においても画期的な発見や発展を認め,その変化を皆さんにお伝えするペースは10年ごとでは遅すぎる時代になってしまいました。このトレンドに乗り遅れることは,本書を愛読していただいている皆さんを時代遅れにしてしまうと危惧し,このたび約8年ぶりに改訂第4版を上梓させていただきました。
現在,看護師や理学療法士向けの雑誌はもとより,単行本もイラストはオールカラーで,まさしくビジュアル本全盛期の時代を迎えています。今回の改訂にあたり,本書もオールカラーにすることを真剣に考えたのですが,結論として,これまでどおり2色刷のオーソドックスな作りといたしました。その理由は,まず本文を熟読し対応する箇所のイラストを見ていただくことで,その内容の理解が容易になると思っていますし,一つの項を読み終わるたびに,脳と神経のしくみと働きの理解が深まって,その“面白さ”を実感していただけるのでは,と思ったからです。
今回の改訂で最も着目していただきたい項目は“髄液の動き”に関する箇所です。本文を読んでいただければおわかりになると思いますが,100年前から定説とされてきた「髄液は循環している」という概念が,最近になって覆されたのです。
さらに,認知症や脳血管障害,排尿障害などに新しい学説が唱えられており,これらについても少しだけ,今回の改訂版に取り入れました。
今回はあらたに「てんかん」および「高次脳機能障害」の項を追加いたしました。わが国でもてんかんの患者さんは決して少なくないのですが,この疾患への偏見のために辛い思いをされている方が大勢おられます。また高次脳機能障害は頭部外傷後遺症だけでなく,脳血管障害後遺症などでも観察される病態ですが,これらの障害に苦しむ患者さんが少しでも健全な日常生活を営むためにも何らかの支援が必要だと思います。看護,介護に携わる皆さんが,これらの障害や疾病を正しく理解することで,患者さんにいくらかでも手を差しのべることができるようになると信じております。
最後に,本書から得られた知識が机上の学問とならず,日常の看護や理学療法,介護の現場で生かされたものとなることを切に願っております。
2017年12月 初冬の久が原にて
馬場元毅
2015年の暮れに医学書院の編集者から「前回の改訂(第3版)から6年以上になりますが,そろそろ次の版への改訂はいかがでしょうか」との声かけをいただきました。あまりの時の流れの速さに驚いたのですが,考えてみますと本書は第1版が発刊された1991年以降,おおむね8年から10年ごとに改訂版を発行してきています。
本書は本来,看護師さんにはややもすれば敬遠されがちであった神経学と神経解剖学,神経生理学をわかりやすい文章とイラストを多用して解説することを目的としたものでした。この分野は比較的普遍的な学問で,当初は10年ごとに内容を見直すことでよいと思われていたのですが,医学の進歩は臨床面だけでなく,基礎医学においても画期的な発見や発展を認め,その変化を皆さんにお伝えするペースは10年ごとでは遅すぎる時代になってしまいました。このトレンドに乗り遅れることは,本書を愛読していただいている皆さんを時代遅れにしてしまうと危惧し,このたび約8年ぶりに改訂第4版を上梓させていただきました。
現在,看護師や理学療法士向けの雑誌はもとより,単行本もイラストはオールカラーで,まさしくビジュアル本全盛期の時代を迎えています。今回の改訂にあたり,本書もオールカラーにすることを真剣に考えたのですが,結論として,これまでどおり2色刷のオーソドックスな作りといたしました。その理由は,まず本文を熟読し対応する箇所のイラストを見ていただくことで,その内容の理解が容易になると思っていますし,一つの項を読み終わるたびに,脳と神経のしくみと働きの理解が深まって,その“面白さ”を実感していただけるのでは,と思ったからです。
今回の改訂で最も着目していただきたい項目は“髄液の動き”に関する箇所です。本文を読んでいただければおわかりになると思いますが,100年前から定説とされてきた「髄液は循環している」という概念が,最近になって覆されたのです。
さらに,認知症や脳血管障害,排尿障害などに新しい学説が唱えられており,これらについても少しだけ,今回の改訂版に取り入れました。
今回はあらたに「てんかん」および「高次脳機能障害」の項を追加いたしました。わが国でもてんかんの患者さんは決して少なくないのですが,この疾患への偏見のために辛い思いをされている方が大勢おられます。また高次脳機能障害は頭部外傷後遺症だけでなく,脳血管障害後遺症などでも観察される病態ですが,これらの障害に苦しむ患者さんが少しでも健全な日常生活を営むためにも何らかの支援が必要だと思います。看護,介護に携わる皆さんが,これらの障害や疾病を正しく理解することで,患者さんにいくらかでも手を差しのべることができるようになると信じております。
最後に,本書から得られた知識が机上の学問とならず,日常の看護や理学療法,介護の現場で生かされたものとなることを切に願っております。
2017年12月 初冬の久が原にて
馬場元毅
目次
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巻頭カラーイラスト color illustration
この本を読まれる皆さんへ
第1章 中枢神経系のしくみ
中枢神経系を取り巻く環境
中枢神経系を守るしくみ
中枢神経系と末梢神経系
中枢神経と末梢神経の違い
[MEMO]脳のミクロのしくみと働き
ニューロンのしくみと働き
グリア細胞(神経膠細胞)-神経細胞を支える裏方の脳細胞
大脳
大脳の構成
大脳皮質
間脳
大脳基底核
大脳辺縁系
小脳
小脳のしくみ
小脳の働き
脳幹
脳幹のしくみ
脳幹の内部構造
[MEMO]脳死
脊髄
脊髄のしくみ
脊髄の働き
脳循環
脳循環のしくみ
脳循環の調節
脳脊髄液の動き(動態)
髄液の動きに関する新しい知見
髄液の動きと役割
第2章 障害のメカニズム
意識障害
意識を保つためのしくみと働き
意識障害をみるポイント
脳ヘルニア
脳ヘルニアのメカニズムと病態
脳ヘルニアに特徴的なバイタルサインの変化
意識障害患者の神経症状のみかた
[MEMO]脳腫瘍
脳腫瘍の分類
脳腫瘍の症状
言語障害
言葉をあやつる脳
言語障害のメカニズム
高次脳機能障害
高次脳機能障害とは
高次脳機能障害の症状と病巣部位
認知症
脳組織の生理的老化
認知症の定義
認知症の原因疾患の分類と頻度
アルツハイマー型認知症の症状
認知症の進行過程
代表的な認知症疾患
認知症の診断
認知症の治療
てんかん
てんかんの起こるメカニズムと分類
てんかんの診断と治療
[MEMO]中枢神経系の補助検査(1)脳波検査
脳波の検査と分類
正常脳波と異常脳波
運動麻痺
運動神経経路のしくみ
反射
運動麻痺の分類
障害部位ごとにみた運動麻痺の症状
錐体外路障害
[MEMO]パーキンソン病
発症のメカニズムと病態
パーキンソン病の治療
感覚障害
感覚を感じるしくみ
感覚の種類とその特徴
感覚伝導路のしくみ
脊髄での感覚伝導路の並び方
部位ごとにみた感覚障害の特徴
[MEMO]頭痛
頭痛の分類
代表的な頭痛とそのメカニズム
その他の頭痛
脳神経障害
脳神経の構成
第 I 脳神経(嗅神経)
第 II 脳神経(視神経)
眼球運動を支配する脳神経
第 V 脳神経(三叉神経)
第 VII 脳神経(顔面神経)
第 VIII 脳神経(聴神経)
尾側脳神経群(第IX~XII脳神経)
摂食嚥下障害
摂食の神経機能
嚥下の神経機構
嚥下障害の臨床
小脳の障害
小脳失調
小脳の疾患
小脳疾患の治療
排尿障害
排尿のメカニズム
神経因性膀胱(過活動膀胱/低活動膀胱)とは
神経因性膀胱のメカニズム
膀胱機能障害の診断法
排尿障害のケア
脳血管障害
脳血管障害の分類
出血性脳血管障害(1)高血圧性脳内出血
出血性脳血管障害(2)クモ膜下出血
脳動脈瘤
閉塞性脳血管障害(脳梗塞)
[MEMO]中枢神経系の補助検査(2)CT,MRI画像の見方,読み方
CTの特徴と画像の見方
MRIの特徴と画像の見方
髄液の動きの障害(水頭症)
髄液の動きの障害と水頭症
部位ごとの髄液の動きの障害
年齢による水頭症の病態
水頭症の症候と診断
水頭症の治療
[MEMO]正常圧水頭症
[MEMO]中枢神経系の補助検査(3)腰椎穿刺
腰椎穿刺はどういう検査か
腰椎穿刺の手技と介助
髄液検査でわかること
文献
索引
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第1章 中枢神経系のしくみ
中枢神経系を取り巻く環境
中枢神経系を守るしくみ
中枢神経系と末梢神経系
中枢神経と末梢神経の違い
[MEMO]脳のミクロのしくみと働き
ニューロンのしくみと働き
グリア細胞(神経膠細胞)-神経細胞を支える裏方の脳細胞
大脳
大脳の構成
大脳皮質
間脳
大脳基底核
大脳辺縁系
小脳
小脳のしくみ
小脳の働き
脳幹
脳幹のしくみ
脳幹の内部構造
[MEMO]脳死
脊髄
脊髄のしくみ
脊髄の働き
脳循環
脳循環のしくみ
脳循環の調節
脳脊髄液の動き(動態)
髄液の動きに関する新しい知見
髄液の動きと役割
第2章 障害のメカニズム
意識障害
意識を保つためのしくみと働き
意識障害をみるポイント
脳ヘルニア
脳ヘルニアのメカニズムと病態
脳ヘルニアに特徴的なバイタルサインの変化
意識障害患者の神経症状のみかた
[MEMO]脳腫瘍
脳腫瘍の分類
脳腫瘍の症状
言語障害
言葉をあやつる脳
言語障害のメカニズム
高次脳機能障害
高次脳機能障害とは
高次脳機能障害の症状と病巣部位
認知症
脳組織の生理的老化
認知症の定義
認知症の原因疾患の分類と頻度
アルツハイマー型認知症の症状
認知症の進行過程
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認知症の診断
認知症の治療
てんかん
てんかんの起こるメカニズムと分類
てんかんの診断と治療
[MEMO]中枢神経系の補助検査(1)脳波検査
脳波の検査と分類
正常脳波と異常脳波
運動麻痺
運動神経経路のしくみ
反射
運動麻痺の分類
障害部位ごとにみた運動麻痺の症状
錐体外路障害
[MEMO]パーキンソン病
発症のメカニズムと病態
パーキンソン病の治療
感覚障害
感覚を感じるしくみ
感覚の種類とその特徴
感覚伝導路のしくみ
脊髄での感覚伝導路の並び方
部位ごとにみた感覚障害の特徴
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代表的な頭痛とそのメカニズム
その他の頭痛
脳神経障害
脳神経の構成
第 I 脳神経(嗅神経)
第 II 脳神経(視神経)
眼球運動を支配する脳神経
第 V 脳神経(三叉神経)
第 VII 脳神経(顔面神経)
第 VIII 脳神経(聴神経)
尾側脳神経群(第IX~XII脳神経)
摂食嚥下障害
摂食の神経機能
嚥下の神経機構
嚥下障害の臨床
小脳の障害
小脳失調
小脳の疾患
小脳疾患の治療
排尿障害
排尿のメカニズム
神経因性膀胱(過活動膀胱/低活動膀胱)とは
神経因性膀胱のメカニズム
膀胱機能障害の診断法
排尿障害のケア
脳血管障害
脳血管障害の分類
出血性脳血管障害(1)高血圧性脳内出血
出血性脳血管障害(2)クモ膜下出血
脳動脈瘤
閉塞性脳血管障害(脳梗塞)
[MEMO]中枢神経系の補助検査(2)CT,MRI画像の見方,読み方
CTの特徴と画像の見方
MRIの特徴と画像の見方
髄液の動きの障害(水頭症)
髄液の動きの障害と水頭症
部位ごとの髄液の動きの障害
年齢による水頭症の病態
水頭症の症候と診断
水頭症の治療
[MEMO]正常圧水頭症
[MEMO]中枢神経系の補助検査(3)腰椎穿刺
腰椎穿刺はどういう検査か
腰椎穿刺の手技と介助
髄液検査でわかること
文献
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書評
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脳と神経の「実体」を掴む,ゴールデン・スタンダード
書評者: 山内 豊明 (名大大学院教授・看護学)
このたび,馬場元毅先生の『絵でみる脳と神経』が改訂され,第4版となりました。本書の初版発行は1991年であり,26年もの歳月を越えて読み続けられている名著です。
人体は目に見えて手で触れることのできる揺るぎない「実体」のあるものです。その実体を読者の目に映してくれる比類なき秀逸なイラストは,まさに自らの目で見て手で触れている者の手によるからでしょう。そこに描かれているのはただの線の集まりではなく,人知の集積である学問的知見の裏付けがあるメディカルイラストレーションなのです。
脳・神経というと,動いたり音を立てたりしているものではない分,その実体感をアピールしづらいシステムでしょう。しかしその精緻で巧妙な仕組みは,非常に規則的に組み立てられています。そのため,ひとたびある程度の解剖生理学的な理解に達してしまえば,目の前の現象を原理原則でほぼ掴めるのです。その有力な手助けとなるものが,優れたシェーマであり,明快な説明文といえるでしょう。
難しいことを誤解なく正しくわかりやすく伝えることは,実に面倒なことです。難しいことを難しい術語で記述することは,ある意味,言葉の言い換えにすぎません。読み手が持ち合わせているであろう適切な受け皿に正しく落とし込んでこそ,「伝わった」という成果が得られます。著者の馬場先生は,それこそわが使命とお考えでしょう。読者を,そしてその読者である医療職者にケアを受ける患者さんのことを常に第一にお考えの馬場先生だからこそ,「伝わってこそ」の細心の記述と描画になっているものと思われます。
ところが一方,学問では常に新たな仮説の提唱とその検証が絶え間なく続きます。それまで絶対的なものとして当たり前のごとく信じられてきたことに挑戦し,その挑戦を受けていくのが学問の宿命です。変わることのないと思われている解剖学的知見にもそれがみられます。
その一例が髄液の循環です。概念が変われば対処や治療も根底から変わってくるものも少なくありません。人智がステップアップしていく中で,それを基に活動する者が正しくキャッチアップしていかなければ,患者さんが享受し得る利得を正しく提供し損ねてしまいます。
その意味からも,既に得ている高い評価に甘んじることなく,常にその内容を誠実に見直し続けている馬場先生のお姿は私達後輩のかがみです。
揺るぎなき実体の描写と記述,たゆまなき学問への関心とその正しい普及,これこそ本書の本書たる魅力に他なりません。これからも本書がゴールデン・スタンダードであり続けることを信じています。
基礎科学と臨床医学がつながる,「スラスラ」読める!
書評者: 森岡 周 (畿央大教授・理学療法学)
「脳と神経のしくみは複雑である」と誰しもが思っていることでしょう。医療職に就こうとしている学生にとって,「脳と神経」に関する学習は,最も難渋する分野ではないでしょうか。しかし,馬場元毅先生による本書『絵でみる脳と神経――しくみと障害のメカニズム 第4版』は,それを見事に払拭してくれます。
本書は,「しくみと障害のメカニズム」と副題にあるように,脳と神経の構造と生理,そしてその障害のメカニズムが一冊の中で学べるところに特徴があります。解剖生理学と疾病の特徴あるいはそのメカニズムを統合し解釈していくことは,それを学ぶ学生たちにとって最も苦労するプロセスであることを,私は長年の教員生活から知っています。特に神経解剖学,神経生理学,神経学に関する教科書が別々であることから,それらの情報を統合していくことに学生たちはとても苦労するようです。有職者となり臨床に出ればそれらは徐々に自己の経験から統合されていきますが,まだ臨床経験のない学生にとって,解剖生理といった基礎科学と神経学といった臨床医学を結び付けていくことは,至難の技のようです。
基礎科学と臨床医学の両者がいとも簡単に融合されているところに本書の最大の特徴があります。そして,それらの情報が過不足なく,かつ平易に解説されています。よって,「スラスラ」読み進めていくことができます。神経生理学や神経学の教科書はなかなか「スラスラ」読めませんが,本書はそれを可能にしてくれます。
また,本書は「絵でみる」という表現が修飾されています。本書では,脳や身体のイラストにとどまらず,文脈・シチュエーションのイラストまで展開されていることによって,初学者が実際の臨床場面をイメージしやすいよう配慮されています。そして,そのイラストは馬場先生自ら描かれたものです。
各項目の冒頭には,医学・医療に関連しない一般の方々が読んでも十分に全体像を理解できるように配慮された解説があり,看護やリハビリテーション医療にかかわるメディカルスタッフ(理学療法士,作業療法士など)ならびにその学生にとって,難解なイメージがつきまとう「脳と神経」に関して,「まずは網羅的に特徴をつかもう!」といった著者の意図をくみ取ることができます。
今回の改訂にあたり,馬場先生が最も強調されたいことは,医学に関する定説が覆されれば,必ずそれを正確な情報として伝達する,という点ではないでしょうか。まさにそれは,情報を発信する者としての責務といえるでしょう。ゴールデン・スタンダード的な教科書であっても情報の更新を怠らず,それを供給し続け,存在し続けること,それこそ人類への貢献作業ということがいえます。
冒頭にも示したように,本書は「脳と神経=難解」というイメージを払拭してくれます。ぜひとも手にとっていただき,脳と神経の「面白さ」に気付いてもらえればと思います。
大胆なイラストで難解な世界を切り拓く(雑誌『看護教育』より)
書評者: 鎌倉 やよい (日本赤十字豊田看護大学学長)
本書は医学書院のJJNブックスとして1991年に初版が上梓されて以来,2001年に第2版,2009年に第3版,そして2017年12月にはJJNから離れた書籍として第4版が出版された。実に,四半世紀を超えて愛読されている書籍であり,本書に導かれて脳神経を学んだ医療者は多く,その意味から医療の世界への貢献は計り知れない。
私も本書に導かれた1人である。1987年ごろから脳卒中後の嚥下障害を課題として研究に取り組み始め,正常の機能から嚥下障害のメカニズムを理解しようとした折に,偶然に出会ったのが本書であった。それは衝撃的であった。とにかくわかりやすい。脳と神経の複雑なしくみの理解は一般的に難しいが,本書では目的にそって情報が精選されたイラストを中心として,視覚的に構造と機能が説明されて,障害のメカニズムが表現されている。第3版では「摂食・嚥下障害」「認知症」が追加され,この第4版ではこれまでのコンセプトを引き継ぎながら,第2章の障害のメカニズムで「てんかん」「高次脳機能障害」が追加された。
本書の特長は書籍名が表すように,「絵でみる」にある。これらの絵は著者である馬場元毅氏のデッサンであり,絵の横に小さく“M. Baba”のサインを見つけることができる。馬場氏は長年脳外科医として活躍され,手術記録にはイラストを多用してこられたと聞き及んでいる。その実績にもとづく精緻なデッサン力に加えて,病態を表す大胆なイラスト構成力が本書の魅力を形作っている。これらのイラストと項で整理された端的な説明によって,脳と神経の障害のメカニズムの世界に導かれ,読み手の理解が深まっていく。
「第1章 中枢神経系のしくみ」では,第3版の「脳脊髄液循環」が「脳脊髄液の動き(動態)」に表現が修正された。近年の研究成果によって,循環する概念が覆されて「撹拌されながら動いている」と表現され,体リンパ系への吸収路の存在がイラストにも加わった。「第2章 障害のメカニズム」では,特に「認知症」「脳血管障害」「排尿障害」の項において,新たな知見が導入されて内容が整理された。摂食嚥下障害とそれに関連する脳神経についても内容が加筆されている。そして,要所ごとに「NOTE」の欄が配置されて,重要項目が平易な短い文章で説明され,これが第4版ではさらに充実した。また,随所にちりばめられた馬場氏の遊び心あふれるイラストも楽しむことができる。マイケル・ジャクソンのムーンウォークのイラストも健在であった。
さて,本書を読むと,脳と神経に関するしくみと障害のメカニズムが実によくわかる。これがわかると臨床場面での脳神経系の身体診査によって病態を推論することができる。是非とも手に取ることをお勧めしたい。
(『看護教育』2018年7月号掲載)
書評者: 山内 豊明 (名大大学院教授・看護学)
このたび,馬場元毅先生の『絵でみる脳と神経』が改訂され,第4版となりました。本書の初版発行は1991年であり,26年もの歳月を越えて読み続けられている名著です。
人体は目に見えて手で触れることのできる揺るぎない「実体」のあるものです。その実体を読者の目に映してくれる比類なき秀逸なイラストは,まさに自らの目で見て手で触れている者の手によるからでしょう。そこに描かれているのはただの線の集まりではなく,人知の集積である学問的知見の裏付けがあるメディカルイラストレーションなのです。
脳・神経というと,動いたり音を立てたりしているものではない分,その実体感をアピールしづらいシステムでしょう。しかしその精緻で巧妙な仕組みは,非常に規則的に組み立てられています。そのため,ひとたびある程度の解剖生理学的な理解に達してしまえば,目の前の現象を原理原則でほぼ掴めるのです。その有力な手助けとなるものが,優れたシェーマであり,明快な説明文といえるでしょう。
難しいことを誤解なく正しくわかりやすく伝えることは,実に面倒なことです。難しいことを難しい術語で記述することは,ある意味,言葉の言い換えにすぎません。読み手が持ち合わせているであろう適切な受け皿に正しく落とし込んでこそ,「伝わった」という成果が得られます。著者の馬場先生は,それこそわが使命とお考えでしょう。読者を,そしてその読者である医療職者にケアを受ける患者さんのことを常に第一にお考えの馬場先生だからこそ,「伝わってこそ」の細心の記述と描画になっているものと思われます。
ところが一方,学問では常に新たな仮説の提唱とその検証が絶え間なく続きます。それまで絶対的なものとして当たり前のごとく信じられてきたことに挑戦し,その挑戦を受けていくのが学問の宿命です。変わることのないと思われている解剖学的知見にもそれがみられます。
その一例が髄液の循環です。概念が変われば対処や治療も根底から変わってくるものも少なくありません。人智がステップアップしていく中で,それを基に活動する者が正しくキャッチアップしていかなければ,患者さんが享受し得る利得を正しく提供し損ねてしまいます。
その意味からも,既に得ている高い評価に甘んじることなく,常にその内容を誠実に見直し続けている馬場先生のお姿は私達後輩のかがみです。
揺るぎなき実体の描写と記述,たゆまなき学問への関心とその正しい普及,これこそ本書の本書たる魅力に他なりません。これからも本書がゴールデン・スタンダードであり続けることを信じています。
基礎科学と臨床医学がつながる,「スラスラ」読める!
書評者: 森岡 周 (畿央大教授・理学療法学)
「脳と神経のしくみは複雑である」と誰しもが思っていることでしょう。医療職に就こうとしている学生にとって,「脳と神経」に関する学習は,最も難渋する分野ではないでしょうか。しかし,馬場元毅先生による本書『絵でみる脳と神経――しくみと障害のメカニズム 第4版』は,それを見事に払拭してくれます。
本書は,「しくみと障害のメカニズム」と副題にあるように,脳と神経の構造と生理,そしてその障害のメカニズムが一冊の中で学べるところに特徴があります。解剖生理学と疾病の特徴あるいはそのメカニズムを統合し解釈していくことは,それを学ぶ学生たちにとって最も苦労するプロセスであることを,私は長年の教員生活から知っています。特に神経解剖学,神経生理学,神経学に関する教科書が別々であることから,それらの情報を統合していくことに学生たちはとても苦労するようです。有職者となり臨床に出ればそれらは徐々に自己の経験から統合されていきますが,まだ臨床経験のない学生にとって,解剖生理といった基礎科学と神経学といった臨床医学を結び付けていくことは,至難の技のようです。
基礎科学と臨床医学の両者がいとも簡単に融合されているところに本書の最大の特徴があります。そして,それらの情報が過不足なく,かつ平易に解説されています。よって,「スラスラ」読み進めていくことができます。神経生理学や神経学の教科書はなかなか「スラスラ」読めませんが,本書はそれを可能にしてくれます。
また,本書は「絵でみる」という表現が修飾されています。本書では,脳や身体のイラストにとどまらず,文脈・シチュエーションのイラストまで展開されていることによって,初学者が実際の臨床場面をイメージしやすいよう配慮されています。そして,そのイラストは馬場先生自ら描かれたものです。
各項目の冒頭には,医学・医療に関連しない一般の方々が読んでも十分に全体像を理解できるように配慮された解説があり,看護やリハビリテーション医療にかかわるメディカルスタッフ(理学療法士,作業療法士など)ならびにその学生にとって,難解なイメージがつきまとう「脳と神経」に関して,「まずは網羅的に特徴をつかもう!」といった著者の意図をくみ取ることができます。
今回の改訂にあたり,馬場先生が最も強調されたいことは,医学に関する定説が覆されれば,必ずそれを正確な情報として伝達する,という点ではないでしょうか。まさにそれは,情報を発信する者としての責務といえるでしょう。ゴールデン・スタンダード的な教科書であっても情報の更新を怠らず,それを供給し続け,存在し続けること,それこそ人類への貢献作業ということがいえます。
冒頭にも示したように,本書は「脳と神経=難解」というイメージを払拭してくれます。ぜひとも手にとっていただき,脳と神経の「面白さ」に気付いてもらえればと思います。
大胆なイラストで難解な世界を切り拓く(雑誌『看護教育』より)
書評者: 鎌倉 やよい (日本赤十字豊田看護大学学長)
本書は医学書院のJJNブックスとして1991年に初版が上梓されて以来,2001年に第2版,2009年に第3版,そして2017年12月にはJJNから離れた書籍として第4版が出版された。実に,四半世紀を超えて愛読されている書籍であり,本書に導かれて脳神経を学んだ医療者は多く,その意味から医療の世界への貢献は計り知れない。
私も本書に導かれた1人である。1987年ごろから脳卒中後の嚥下障害を課題として研究に取り組み始め,正常の機能から嚥下障害のメカニズムを理解しようとした折に,偶然に出会ったのが本書であった。それは衝撃的であった。とにかくわかりやすい。脳と神経の複雑なしくみの理解は一般的に難しいが,本書では目的にそって情報が精選されたイラストを中心として,視覚的に構造と機能が説明されて,障害のメカニズムが表現されている。第3版では「摂食・嚥下障害」「認知症」が追加され,この第4版ではこれまでのコンセプトを引き継ぎながら,第2章の障害のメカニズムで「てんかん」「高次脳機能障害」が追加された。
本書の特長は書籍名が表すように,「絵でみる」にある。これらの絵は著者である馬場元毅氏のデッサンであり,絵の横に小さく“M. Baba”のサインを見つけることができる。馬場氏は長年脳外科医として活躍され,手術記録にはイラストを多用してこられたと聞き及んでいる。その実績にもとづく精緻なデッサン力に加えて,病態を表す大胆なイラスト構成力が本書の魅力を形作っている。これらのイラストと項で整理された端的な説明によって,脳と神経の障害のメカニズムの世界に導かれ,読み手の理解が深まっていく。
「第1章 中枢神経系のしくみ」では,第3版の「脳脊髄液循環」が「脳脊髄液の動き(動態)」に表現が修正された。近年の研究成果によって,循環する概念が覆されて「撹拌されながら動いている」と表現され,体リンパ系への吸収路の存在がイラストにも加わった。「第2章 障害のメカニズム」では,特に「認知症」「脳血管障害」「排尿障害」の項において,新たな知見が導入されて内容が整理された。摂食嚥下障害とそれに関連する脳神経についても内容が加筆されている。そして,要所ごとに「NOTE」の欄が配置されて,重要項目が平易な短い文章で説明され,これが第4版ではさらに充実した。また,随所にちりばめられた馬場氏の遊び心あふれるイラストも楽しむことができる。マイケル・ジャクソンのムーンウォークのイラストも健在であった。
さて,本書を読むと,脳と神経に関するしくみと障害のメカニズムが実によくわかる。これがわかると臨床場面での脳神経系の身体診査によって病態を推論することができる。是非とも手に取ることをお勧めしたい。
(『看護教育』2018年7月号掲載)