ナースのための臨床試験入門

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臨床研究や臨床試験は決して特別なことではなく、臨床現場で患者のケアを行なう看護師にとっては、非常に身近なことである。ところが現場では、医師やCRC(治験コーディネーター)のみが臨床試験にかかわっているような誤解もある。本書は、被験者である患者の最もそばにいて、ケアを行なう看護師だからこそ、臨床試験の理解のために、ぜひとも手にとってほしい入門書である。
新美 三由紀 / 青谷 恵利子 / 小原 泉 / 齋藤 裕子
発行 2010年02月判型:B5頁:196
ISBN 978-4-260-00960-7
定価 3,300円 (本体3,000円+税)

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推薦の序(井部俊子)/(著者一同)

推薦の序
 本書はナースによって執筆された,ナースのための臨床試験入門書である。執筆者はこれまで治験コーディネーターやデータマネジャーとして医薬品の開発研究にかかわってきたベテランナースである。彼女たちの臨床試験に対する価値認識や情熱が余すところなく発揮されており,読者を高揚させてくれるという“副作用”を伴なった学術書である。
 第1章では,聖書に記された比較試験からひもとき,臨床試験の目的と科学的原則を説明する。読者は臨床試験の理解に必要な基礎用語を理解することができる。第2章では,ニュルンベルグ綱領,ヘルシンキ宣言,ベルモント・レポートをていねいに解説した後,ICH-GCP,「臨床研究に関する倫理指針」,GCP省令を網羅する。インフォームド・コンセント,倫理審査による患者保護が強調される。第3章は,試験実施計画書(プロトコル),説明同意文書,そして症例報告書における看護師のデータ収集の重要性が説明されると共に,費用や補償,利益相反について述べられる。第4章は,臨床試験実施の仕組みとして,治験と治験以外の研究者主導試験が解説され,研究責任者/試験責任医師,研究分担者/試験分担医師,CRC,薬剤師,看護師が登場する。さらに,研究者を支援する運営委員会,効果安全性評価委員会,厚生労働省の機能が説明される。第5章では,臨床試験を成功させるための計画と実施について述べられる。そして第6章では,「臨床試験における看護師の役割」について,ナースCRCと臨床看護師に分け,看護の専門性と臨床試験への関与が記される。第7章は,「特徴的な臨床試験」として,がん,生活習慣病,小児,精神疾患の臨床試験と看護のかかわりが解説される。最後に看護師が研究者として計画・実施する臨床試験の意義と展望について言及する。
 私は,1997(平成9)年,厚生科学研究「新GCP普及定着総合研究」(主任研究者・中野重行)において「治験支援スタッフ養成策検討作業班」の班長をつとめた。そこでは,専任の治験スタッフを「治験コーディネーター」と称することにしたが,英語の表記はClinical Research Coordinator(CRC)であった。13年前は「臨床研究コーディネーター」と称するには準備不足であるという思いが私の中にあったからである。本書の誕生は私のそうした懸念を払拭してくれるものである。その後,2004年11月から日本臨床薬理学会が認定CRCの資格試験を開始し,質の保証を行なっている。現在1,199名(2009年末)の認定CRCが臨床試験にかかわっているほか,臨床看護師の多くが「未来の患者のために」臨床試験に参加する患者のケアにかかわっている。
 本書は,臨床試験における看護師の位置づけを確立し,臨床看護が新たなステージに移行しようとする意志を示す道標となるものである。

 2010年1月
 井部俊子



 看護師・助産師として臨床現場で働いていた私たちが,臨床試験の領域に入ってはや10年以上が過ぎようとしています。
 15年以上前の日本では,看護師が臨床試験にかかわることはほとんどなく,1995年に筆者の1人が,「臨床試験の領域で活躍する看護婦─欧米のシステムから日本の将来を探る」という総説を『看護学雑誌』(医学書院)に書いた時,臨床試験に興味を持つ看護師はごくわずかでした。しかしその後,1998年から厚生労働省(当時は厚生省)のモデル事業として臨床研究コーディネーターの養成が始まり,看護師も薬剤師と共に臨床研究コーディネーターとして臨床試験の領域にかかわることが多くなり,今では専門看護師や認定看護師の教育の中にも,臨床試験に関する講義が加えられるようになりました。
 私たちは,看護学部,医学部,その他医学系の大学院等でこのような臨床試験に関する講義を担当していますが,とくに看護師や看護学生に対して講義をする際,臨床試験の基礎をまとめた適切な教科書がないことでずっと不便を感じてきました。欧米では,医学生・看護学生向けの優れた臨床試験の基礎の教科書がいくつもあり,とくに看護師にターゲットを絞ったものもあります。当初,私たちはこのような欧米の教科書を翻訳して利用することも考えましたが,臨床試験のグローバル化が進む今でも,欧米と日本ではいくつかの異なる点があり,その違いも含めて臨床現場で行なわれている臨床試験を知る必要があります。
 結局は自分たちで書くしかないと,5年以上前に一度は計画し挫折していた企画を再度練り上げ,今度こそ絶対にと,東京大学大学院医学系研究科教授・大橋靖雄先生からのご紹介で,医学書院の編集部の方々にお会いしたのは2008年4月でした。そこから1年半をかけてようやく原稿を書き上げ,出版することができました。
 その間,教科書として使う予定だった認定看護師コースの学生は2学年となり,現在は認定看護師として臨床現場で活躍している修了生から,「教科書はいつ出版されますか?」というメールをいただいては焦ったことを思い出します。これでようやく出版できると,著者一同,胸をなで下ろしています。
 本書は,看護師である私たちが,多くの看護師が臨床試験をより理解し,積極的にかかわってほしいという願いを込めて書いた臨床試験の基礎的なテキストです。臨床現場では治験だけでなく,多くの臨床試験が行なわれていますし,患者は単にボランティアとしてではなく,自分自身の治療選択肢の1つとして臨床試験に参加する場合も少なくありません。これを読んで,臨床試験・臨床研究に興味を持ち,積極的にかかわっていただける看護師が増えたとしたら,これ以上の喜びはありません。
 最後に,本書の出版の機会を与えてくださいました医学書院の北原拓也さん,筆の遅い私たちを励まし根気よくおつきあいくださいました竹内亜祐子さんに,心より感謝申し上げます。

 2009年12月
 著者一同

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 推薦の序
 序
 患者が臨床試験と看護師に望むこと

第1章 臨床研究・臨床試験とは何か
 1 臨床研究・臨床試験の歴史
 2 臨床研究・臨床試験の分類
 3 症例研究
 4 疫学研究
 5 臨床試験の目的と科学的原則
 6 臨床試験の種類と相
 7 安全性と有効性の評価
 8 臨床試験の結果の利用
第2章 臨床試験における倫理と患者保護
 1 倫理規定,ガイドライン
 2 インフォームド・コンセント
 3 個人情報保護とプライバシー保護
 4 補償と賠償
 5 臨床試験審査委員会と倫理審査委員会
第3章 臨床試験を実施するときに必要な資料や資金
 1 試験実施計画書(プロトコル)
 2 説明同意文書
 3 症例報告書
 4 臨床試験にかかる経費と資金源
第4章 臨床試験実施の仕組みと協力スタッフ
 1 臨床試験を実施する仕組み
 2 臨床試験の依頼者/責任者
 3 実施医療機関
 4 委員会およびデータセンター
 5 規制当局
第5章 臨床試験の計画と実施
 1 臨床試験の計画と準備段階
 2 臨床試験の実施段階
 3 重篤な有害事象(SAE)発生時
 4 臨床試験の終了段階
第6章 臨床試験における看護師の役割
 1 看護師としての関与
 2 被験者スクリーニングとインフォームド・コンセントにおける看護師の役割
 3 試験中の患者の症状アセスメントと安全確保
 4 臨床試験における診療の補助 投薬管理・服薬指導,検体採取,情報収集と記録
 5 試験中止・終了時の対応
 6 患者と家族への教育
 7 臨床試験に参加する患者・家族を支援するためのコミュニケーション
第7章 特徴的な臨床試験
 1 がん領域の臨床試験
 2 生活習慣病の臨床試験
 3 小児の臨床試験
 4 精神疾患の臨床試験
 5 看護師が計画・実施する臨床試験

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 欧文索引

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はじめての看護師のための臨床試験テキスト (雑誌『看護学雑誌』より)
書評者: 足利 幸乃 (日本看護協会神戸研修センター)
 この書評のタイトルにある“はじめて”には2つの意味をこめている。読者を看護師と限定した臨床試験の本として“はじめて”という意味と、臨床試験について“はじめて”学習する看護師が活用できる本という意味である。

◆読者を看護師に限定した“はじめての”臨床試験テキスト

 本書の序に、治験コーディネーター養成研修、認定看護師、専門看護師等の教育課程において臨床試験を教えるうえで適切な教科書がなく、そのニーズに応えるために本書がつくられたとある。私も教科書がなくて困っていた一人だと、思わず序文に語りかけてしまった。

 私は、2000年に開講したがん化学療法看護認定看護師教育課程の専任教員を8年間担当した。準備段階より、臨床試験に関する科目を絶対にもうけなければと考えていた。新薬、新レジメンの臨床試験の理解なしにがん化学療法看護はありえない。しかし、教育をはじめてみると、臨床試験について教えることが思っていた以上に難しいということがわかってきた。とにかく、講義が研修生にはいっていかない。臨床試験独特の用語が難しいことはわかるが、看護師向けの適切な本がないということも痛かった。

 教科書とは、教科書がスコープする範囲で、何をどのように、どの程度知るべきかを明示する本である。臨床試験に関心の薄い看護師が大方である日本で、看護師が臨床試験の何をどのようにどの程度知るべきかを明示することは、言うはやすく行うは難い作業である。この困難な作業に打ち込まれた4名の著者、新美三由紀氏、青谷恵利子氏、小原泉氏、齊藤裕子氏に深く敬意を表したい。

 7章から構成された本書は、第1章「臨床研究・臨床試験とは何か」から、第7章「特徴的な臨床試験」まで、とにかくきっちりと書かれている。分担執筆の場合、各執筆者の文章の癖やレベル設定の解釈差などがでてくるものだが、それをほとんど感じずに読むことができる。文献の引用等も一貫して正確で、硬派で正統な教科書といえる。

◆教科書としてどう活用するか

 専門看護師教育、認定看護師教育の教科書として本書をどう使うかと尋ねられたら、私ならどう答えるか。実際使ってみないとよい使い方はみえてこないだろうが、今は次のように考えている。修士課程の学生なら、本書は講義用かつ自習用テキストとして機能するだろう。臨床試験の講義時間が少なくても、実習で臨床試験を受ける患者を受け持ち、本書を参考すれば、患者の試験実施計画書等は読みこめるだろうし、臨床試験の実施システムもみえてくるだろう。インフォームドコンセントでのサポート、患者説明での補足、臨床試験に伴う患者の懸念や不安の特定と看護等、本書をガイドとして実習でできること、学べることは多いと思う。

 では、認定看護師教育課程の研修生は、本書を一人で読みこなせるか? 私の答えはNOである。本書のタイトルには入門とあるが、決してやさしい入門書ではない。章や項の構成、書かれていることの順序、内容は、臨床試験の理で構成されている。そのロジックは、現場の一般的な看護師がもっている理とは異なる。認定看護師教育課程では、本書の一章から順番に授業を行うというより、本書を部分的かつ解説的に用いることが適切だと考える。たとえば、III相試験まで終了している新薬レジメンの臨床試験レポートを例にとって、その臨床試験を理解するために必要な内容が書かれている本書のページを授業で示し、そこに書かれている内容を解説するといった形での活用である。教員による本書の読みこみと活用のアイデアに期待したい。

◆“はじめて”臨床試験を学ぶテキストとして

 臨床試験の背景にある倫理や法、薬の開発過程、研究デザイン等を知らなくても看護業務はできるし、日常的に困ることはない。そういう考えの方には、序にある「患者が臨床試験と看護師に望むこと」を読んでほしい。臨床試験を知らない、臨床試験にかかわらないということは、臨床試験を受ける患者を知らず、かかわらないということに通じる。看護師として、それでよいのか。よくないと思う方は、本書を手にしてほしい。

 “はじめて”臨床試験に関する本を読むという現場の看護師に向けた私の提案は、現実的に読んでみてはというものだ。たとえば、患者さんが「今日、臨床試験の説明をされたのだけれど、II相試験って何? 説明されたようだけれどよくわからない」とあなたに尋ねたとする。「今はうまく説明できませんが、臨床試験の本を持っているので、その本に書かれてあることならお話しできます。どうしましょう」。これも本の活用の一つではないだろうか。

◆版を重ねることを祈って

 分野が発展していくためには、その分野にコミットメントしている人がおり、その分野の誰もが認めるテキストがあることが必要である。そして、分野のテキストは版を重ね、分野と共に発展する。本書が、臨床試験の看護テキストとして版を重ね、臨床試験の看護という分野が発展することを心より願っている。

(『看護学雑誌』2010年7月号掲載)
看護師,さらには広く医療関係者に読んでほしい本
書評者: 大橋 靖雄 (東大教授・生物統計学)
 本書の帯には「患者と家族を支える看護師に読んでもらいたい」との記載がある。4人の著者いずれも,相当な看護実務経験を有され,その後は「黎明期」のわが国の臨床試験の現場で奮闘し,さらに臨床試験コーディネータ(CRC)の教育を引っ張ってきた方々である。その思いが書かせた文章であろう。筆者と4人の著者の方々には「臨床試験」を通じた深いかかわりがあり,このような本が誕生し,そして書評を書かせていただくことは,唐突かつ奇妙な表現であろうが,良くできた「孫」を見る思いである。

 新美氏は看護短大からの東京大学健康科学・看護学科第1期編入生かつ筆者の教室の卒論生であり,面接時に臨床試験のGCP(Good Clinical Practice)の質問をしたときからこの世界に入ることが運命付けられたようである。修士の学生であった齋藤氏には厚労省のCRC育成パイロット事業に参加することを勧め,その後氏は日本のCRCの草分けの1人となられた。アメリカで臨床研究マネジメント修士課程に在籍されていた青谷氏には,西海岸でお目にかかり,当時立ち上げたばかりの「がん臨床試験CRCセミナー(財団法人パブリックヘルスリサーチセンター・CSPOR主催)」においてカリキュラム紹介をお願いした記憶がある。筆者が立ち上げに参画したJCOG(Japan Clinical Oncology Group)でCRCの中心として活躍された小原氏を含め,4人の著者すべての方のリーダーシップと貢献により,上記セミナーは半年ごとの開催が20回を超え,わが国ではほかにほとんど存在しない,専門性の高いCRC生涯教育プログラムとしての地位を確立している。

 さて「黎明期」と記したが,1997~98年の国際ハーモナイゼーションGCP導入は「黒船」であった。乱暴の誹りを恐れずに言えば,それ以前の日本の治験(製薬会社主導の申請のための臨床試験)は,新規性の乏しい薬を対象とした科学的には価値の低い,患者負担と保険制度の中で明確な契約もなく,インフォームド・コンセントも不十分に,医師が勝手に行う行為であった。患者を思う看護師の協力が得がたい状況であったことは想像に難くない。本来臨床試験とは,患者の理解と協力を得て,もちろん当該患者のケアの質は落とすことなく,得られた研究成果によって治療の進歩に貢献する学術的価値の高い行為である。効率的な試験実施のためには病院内の職員の協力とシステム作りが必須である。従来の「治験観」と「望まれる臨床試験実施体制」のギャップを埋める役割を,本書が担うことを期待したい。

 複雑な臨床試験の全貌を理解することは,臨床試験に参加経験の無い者にとっては,たとえ医療者であっても困難である。本書は,臨床試験の歴史・臨床研究の分類・相やエンドポイントなどの臨床試験の基礎概念に始まり,倫理と患者保護,臨床試験に必要な資料と資金,試験実施のシステム,実際の手順を解説する。これらにつづく「臨床試験における看護師の役割」を述べた章と,がんなど領域別の臨床試験の特徴記述につづく「看護師が行う臨床試験」の記述が本書のユニークな特徴である。臨床試験に参加すること,あるいは主体的に協力することが,(臨床試験に限らない)看護研究の質向上につながるという視点に筆者も賛成である。

 本書は,本来の意図とはやや異なり医師にも広く読まれているようである。個々の患者ケアと将来に貢献する研究をどう現場で折り合わせるかは,真摯な医師にとっても重要な課題である。そのニーズに応える本なのであろう。

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