新生児ベーシックケア
家族中心のケア理念をもとに

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ハイリスク新生児看護の書籍は多々あるが、本書は健康な新生児のケアをまとめた数少ない待望の書。ローリスクを基盤にハイリスク新生児看護があるならば、本書はすべての新生児ケアの基本の書である。著者の新生児とのエピソードや、母親たちへのアンケート結果を随所に配したユニークな構成は、新生児や母親の気持ちに寄り添える内容となっている。産褥入院中に家族を対象に自宅で実践できるケアも盛り込んだ新生児ケアの従来にないテキスト。
横尾 京子
発行 2011年11月判型:B5頁:168
ISBN 978-4-260-01348-2
定価 3,520円 (本体3,200円+税)

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推薦の序(仁志田博司)/(横尾京子)

推薦の序
 著者の横尾京子教授は,淀川キリスト教病院助産師や大阪府立母子保健総合医療センター新生児棟看護師長であった経験に加え,聖路加看護大学大学院で修士課程を終え,広島大学で博士号を取得した経歴が示すように,わが国の新生児医療の世界では,臨床と学問の両方を身に付けた第一人者として知らぬ者はない存在である。特に,ともすれば経験だけに頼っていたわが国の新生児看護に学問としての看護学を導入すべく,日本新生児看護研究会(現,日本新生児看護学会)を立ち上げた情熱と指導力は,特筆に値するものであった。
 本書を一読して,その横尾教授が深い学問的知識をベースにしながらも,サブタイトル「家族中心のケア理念をもとに」に表されているごとく,マニュアルや技術中心となっている現在の新生児医療に,親と子の医療という原点に戻った人間性を注ぎ込もう,という思いが読み取れる。そういえば横尾教授は,新生児の痛みの研究やSpirituality(必ずしも特定の宗教によらない,人生に意味や目的を与えるその人の人生観)に深い関心を示されていることを思い出す。
 その第1章が「新生児とわたし」という,著者の個人的な新生児医療との接点から始まっていることが,本書の基本的な思想とスタイルを象徴的に表わしている。初体験では生臭く感じられた新生児が,やがて「かけがえのない」いのちの存在であり,あの出生の修羅場を体験した尊敬すべき存在であり,さらに無限の可能性を秘めた人間の尊厳の存在である,と著者の思いが進化していく過程は,新生児の看護者にとっては感動的でさえあろう。
 本書はさらに第2章「新生児ケアの基本」,第3章「新生児のフィジカル・アセスメント」,第4章「出生当日のケア」,第5章「出生後24時間以降,新生児早期のケア」,第6章「退院後の新生児期を支える」と,生まれてから家族のもとに落ち着くまでのケアに関し,看護師という専門家にとって必要な基本的知識に留まらず,考え方の流れが記載されている。それらの中から,筆者の心に留まったいくつかの事項を取り上げてみる。
 赤ちゃんの体(主に足)に取り違え事故防止に油性ペンで名前を書くことに関し,3歳の姉が「おかしい」と言ったことを取り上げ,本人確認という業務上は当たり前という感覚でやっていたことが,実はその小さな姉がいみじくも言い当てたごとく,赤ちゃんを物のように扱っていたのではないか,という反省をうながしている。
 うぶゆ(産湯・初湯)を何時(生まれてすぐ? 数日後?)どのように(お湯? 清拭?)の議論は,学問的なデータも必要ながら,歴史の中で中国から伝来した「初湯の儀」という文化があったことを考えなければならない。それは人が生まれることは,看護や医療の前に生活の一部であることに思いを馳せなければならない。同様に,母乳を臍帯脱落の後や眼脂のある目に垂らすことなど,学問的な良し悪しでなく「子生み・子育て」の伝承である,と捉えている。
 このように大学教授という第一線のscientistでありながら,人間の営みの一部と受け止める懐の深さは,本書のいたるところにちりばめられていることを,読者は読み取ってほしい。
 さらに本書のユニークさには,著者の個人的な思いのこもったコラムが随所に加えられていることである。このことは,本書はそばに置いてすぐ役立つHow toもののマニュアルでなく,新生児看護の基本的な知識と考え方を記載したものであり,ぜひくり返し読んで,横尾教授の新生児看護に対する思想がどんなものかを,読者自身のものとしていただきたい。

 2011年9月
 東京女子医科大学名誉教授
 仁志田博司



 看護師・助産師となって40年,その大半をNICU看護師として,助産・母性看護学の教員として新生児看護に力を注いできました。その中で学び教えられたことは,新生児看護は,新生児が持つリスクが高いか低いかによって実践内容には大きな違いがあるものの,その根底にある看護の考え方や技法に違いはなく,ローリスク新生児看護を基盤にハイリスク新生児看護があるということです。
 その意味で,ローリスク新生児看護についてまとめた本書のタイトルを『新生児ベーシックケア』としました。そして,その根底にある理念を,副題の「家族中心のケア理念をもとに」に込めました。私の長年の経験の結論のようなものです。
 なぜ,今,家族中心なのか。施設出産が99.8%を占める時代,施設で出生した新生児は担当した看護師や助産師によってケアされます。しかしながら,母子同室であっても,新生児と母親(褥婦)の担当者が別々という施設は少なくありません。これでは家族中心とは言えません。同じ看護師や助産師がその勤務帯だけでも母子を同時に受け持つことができれば,新生児のケアを母親と一緒に行い,方法を手ほどきしたり,疑問に答えたりすることができます。
 同じ看護師や助産師が母子を一緒にケアすること,新生児のケアを最初から母親の部屋で一緒に行うことは家族中心の母性看護や新生児ケアの1つの形です。その実現を願い,意識して記述しました。
 本書には,『助産雑誌』に連載された「新生児ケアの不思議考証・Evidence & Narrative Based Neonatal Care」(2004~2005年)に登場する3名の母親たちの体験談やインタビュー内容をコラムや本文に活用させていただいています。また,私の教え子たちの出産・子育て体験も参考にさせてもらっています。
 本書では,新生児や新生児看護に対する思いや考えをちりばめました。また,なぜそのようなケアをするのか,しなければいけないのかという理由や根拠も意識的に記述しました。それは,看護師や助産師を目指す学生さんたちに本書を読んでいただき,自分なりに新生児への思いやケアを膨らませ,夢を描き,そして新生児にかかわっていただきたいと考えたからです。合わせて,ハイリスク新生児のケアに従事している方々にも,ぜひ読んでいただきたいと思いながら筆を進めました。なぜなら,冒頭でも述べましたが,ローリスク新生児看護を基盤にハイリスク新生児看護があると考えるからです。さらには,看護の領域にかかわらず,成人した1人の人間として,本書を通して新生児期を振り返っていただくことができれば,このうえない喜びです。
 推薦の序は,東京女子医科大学仁志田博司名誉教授からいただくことができ,とても感激しています。仁志田先生のご著書『新生児学入門』は,今なお学生と共に使っていますが,新生児への想いが行間に語られ,その想いが私に新生児看護への夢を与えてくれています。
 最後になりますが,遅筆の私がこうして完成にこぎつけることができましたのは,医学書院竹内亜祐子氏,川口純子氏,北原拓也氏,そして,定年退職をされた河田由紀子氏らの激励によるものと,心より感謝いたします。

 2011年9月
 横尾京子

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第1章 新生児とわたし
 新生児という存在
  1 初めての出会い
  2 流産・死産のハードルを乗り越えて
  3 学生や教員を勇気づけてくれる存在
 家族の中の新生児期
 新生児ケアを業とすること
第2章 新生児ケアの基本
 新生児とは
  1 新生児の定義
  2 新生児の分類
 新生児の出生と統計
  1 出生場所
  2 第1児出生時の母親の年齢
  3 新生児分類と出生数
 新生児の死と統計
 新生児ケアの視点
  1 新生児を1人の人間として尊重する
  2 家族中心の新生児ケア
  3 生理的に逸脱しないよう予防的ケアを行う
第3章 新生児のフィジカル・アセスメント
 意義と実施時期
 実施上の原則
 ヒストリー
  1 家族歴
  2 母親の健康歴
  3 妊娠経過
  4 分娩経過
 全身の観察
 聴診
  1 肺
  2 心臓
  3 腹部
 外表所見と成熟度
 視診と触診
  1 皮膚
  2 頭部・顔面
  3 頸部
  4 胸部
  5 循環系
  6 腹部
  7 生殖器
  8 筋骨格系
  9 神経系
  10 股関節
 見落としてはならない所見
 所見の記録
第4章 出生当日のケア
 出生を迎えるとは
 出生直後のケア
  1 新生児蘇生法の重要性
  2 出生直後の新生児の状態の評価
  3 新生児蘇生法におけるルーチンケア
  4 アプガースコアの採点
  5 母子接触
  6 母子標識(IDバンド)の装着
 出生後24時間以内のケア
  1 アセスメント
  2 出生後の皮膚のケア
  3 臍処置
  4 呼吸と体温の維持
  5 母乳育児の早期開始
  6 与薬(抗菌薬の点眼とビタミンKの経口投与)
  7 感染予防
  8 事故防止
  9 親子関係,家族関係の発達を支える
第5章 出生後24時間以降,新生児早期のケア
 アセスメントと記録
 高ビリルビン血症(黄疸)のスクリーニング
  1 ビリルビン代謝
  2 生理的黄疸の原因
  3 スクリーニング
  4 光線療法
 排泄の適応とアセスメント
  1 体液成分と体重減少
  2 排尿
  3 排便
 母乳育児支援
  1 吸啜,嚥下,蠕動運動
  2 消化吸収
  3 乳汁生成(ラクトジェネシス)と乳汁分泌の調整
  4 授乳場面の観察と授乳効果の評価
 皮膚のケア
  1 新生児皮膚の特徴
  2 皮膚のケア
 新生児マススクリーニングと聴力スクリーニング
  1 新生児マススクリーニング
  2 聴力スクリーニング
 自宅出産で生まれた新生児:Mさんの体験から
第6章 退院後の新生児期を支える
 入院中に母親が習得する必要がある知識と技術
  1 事故防止対策
  2 感染予防
  3 保育環境
  4 皮膚のケア
  5 母乳不足感
  6 睡眠リズムの発達
 退院後の母子を支える
  1 小児科受診の目安
  2 新生児の訪問指導と社会資源の活用
 退院するということ
付録 目で見る新生児ベーシックケアの技術
 衣類の着脱
  1.衣類の着せ方
  2.衣類の脱がせ方
 おむつ交換
  1.紙おむつ(排便)の場合
  2.布おむつの当て方
  3.布おむつのたたみ方
 抱き方・寝かせ方
  1.抱き方
  2.寝かせ方
 排気の仕方
  1.「たて抱き」による方法
  2.「膝上で座位(横向き)」による方法
  3.「膝上で座位(向かい合わせ)」による方法
 沐浴(沐浴槽の外で石けんで洗う方法)
 整容
 爪切り

 欧文索引
 和文索引

Column
 お姉ちゃんになる時
 新生児早期を支える開業助産師
 へその緒
 新生児の身体に油性ペンで名前を書くことって?
 働く母親の母乳育児を支える
 江戸時代の産湯

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このケアに根拠はあるのか? 自らの実践を見直す好機 (雑誌『助産雑誌』より)
書評者: 木下 千鶴 (杏林大学医学部付属病院 小児病棟)
 本書は,『新生児ベーシックケア』という書名や,写真やイラストなどを多く用いた紙面から,一見これから新生児を学ぶ学生や,新人などの初学者を対象としているように思えるかもしれません。しかし,実際には,新生児看護の経験豊富な看護者にもぜひ読んでいただきたいと思える内容です。

 副題に「家族中心のケア理念をもとに」とあるように,序においても「その実現を願い,意識して記述しました」とあります。また,新生児ケアに対する基本的な考え方として,「新生児を1人の人間として尊重する」「家族中心の新生児ケア」「生理的に逸脱しないよう予防的ケアを行なう」という3つが,重要な視点として挙げられています。

 以降の章では,出生から退院後の新生児のケアについて述べられていますが,例えば随所に,最初に述べられた3つの重要な視点を,実際のケアの場面でどのように実践していけばよいのか,その在り方が具体的に示されています。

 また,著者は,1つひとつのケアについての根拠を示すことを重視したとも述べています。新生児に限らず,さまざまな科学的な根拠が明らかになるにしたがって,例えば数年前には正しいとされていたケアが,最善のケアではなくなることもあります。本書では,出生直後のケア,皮膚のケアやフィジカルアセスメントなどについて,新生児の解剖・生理学的特徴や最新の文献をもとに,根拠に基づいたケアについてわかりやすく説明されています。これらにより,最新の知見が得られるだけではなく,日常的に,時にはルティーン,あるいは慣習として根拠なく行なっているケアはないか,自らの実践を見直す機会にもなるのではないでしょうか。

 私自身,これまで行なってきたケア,現在行なっているケアは,本当に赤ちゃんや家族を尊重したものなのか,自らの日常のケアについて見直しなさい,と言われているような思いをもちました。

 また,本書にはコラムが設けられ,新生児ケアを学ぶ学生や母親の経験が,その人たち自身の言葉で述べられています。これらにより,学術的な知識,科学的根拠だけではなく,ケアの受け手の立場からの経験的な裏付けをもって,1つひとつのケアの重要性をわかりやすく理解することができるのではないかと思います。

 著者は,教育・実践・研究において豊かな経験をもつ,新生児看護のエキスパートです。本書には,その著者がどのように新生児と出会い,魅せられていったのかが述べられています。それを読むと,新生児看護の魅力,意義を改めて実感できるのではないでしょうか。

 わかりやすく,しかも,何が本当に赤ちゃんと家族のために必要なことなのか,家族中心のケアの本質が伝わってくる本だと思います。

(『助産雑誌』2012年3月号掲載)

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