• HOME
  • 書籍
  • 変容を生みだすナースの寄り添い

マーガレット・ニューマン
変容を生みだすナースの寄り添い
看護が創りだすちがい

もっと見る

「ケアリングは、ナースの使命として最上位に位置する。しかし、ケアリングだけでは十分ではない」―『マーガレット・ニューマン看護論』で、健康の新しい概念、すなわち、拡張する意識としての健康の理論を世に問うた著者が、さらに思索を深め著したのが本書。「看護実践に革命をもたらす」といわれるニューマンモデルとは何か。看護への迷いを吹き払う看護理論がここに。
シリーズ 看護理論
マーガレット・ニューマン
監訳 遠藤 惠美子
ニューマン理論・研究・実践研究会
発行 2009年10月判型:A5頁:180
ISBN 978-4-260-00934-8
定価 2,860円 (本体2,600円+税)

お近くの取り扱い書店を探す

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。

  • 序文
  • 目次
  • 書評

開く

日本語版へのメッセージ(マーガレット・ニューマン)/監訳者 はじめに(遠藤惠美子)

日本語版へのメッセージ
看護とは,その瞬間に心をこめて寄り添うこと―─
  それは 変容を生みだすナースの寄り添いである

日本においても ほかの国においても
  看護が ちがいを創りだすことは確かなのだ

寄り添い,それは 相手を気遣って深く関心をそそぎ
  理解しようとすることを伝え
    響き合う意識であるナースの最高位の姿である

この道をたどることで 寄り添いが宿すパワーが
  何かをするという古いアジェンダに結びつき

洞察力が 全体性と意味の世界に
  シフトする

患者は 全体性に宿る核心を感じとり
  苦しみを超えて その核心の意味を理解する

ナースは 拓かれていくその人のパターンを理解するという
  自由のもとで安らぐ

探究することで 今までとはちがう方向に そして新しい道をたどって
  予期しなかった地平に導かれる

探究し続けなさい
  そして待ちなさい…
    やがて理解が 悟りとなって訪れるでしょう


 私のことばを 皆様方のことばに変容させるという仕事における
 遠藤惠美子博士のリーダーシップに深い感謝を込めて
 
 2009年6月
 マーガレット・ニューマン


監訳者 はじめに
 本書は,Margaret A. Newman. (2008). Transforming Presence The Difference That Nursing Makes, Philadelphia: F. A. Davis Companyの全訳である.ナースにニューパラダイム・シフトの必要性を,高らかに呼びかけているという点で,既出版のHealth as Expanding Consciousness (1986/1994) (手島恵訳:マーガレット・ニューマン看護論 拡張する意識としての健康,医学書院,1995)と同様である.しかし,このことはナースが行ってきたものを捨て去ることを意味するものではないと博士は言う.ナースは,クライアントに寄り添い,そのかかわりの過程を大切にしてきた.しかし,このことの意味が問われることは少なく,医学的な診断・治療より下位に置かれ,それよりも劣るものとして見なされてきた歴史がある.そうではなく,この看護の長い歴史を,クライアントが,自らの力を使って変容し,癒しと新たな統合性を獲得するのを手助けしてきた“ナースの寄り添い”として,新しい角度から見直し,意味を与え,さらに入念に探究し,実践していくことであると主張している.
 博士は本書を,上記の理論書の不足を補い,よりわかりやすくする書として位置づけ,教育・研究のみならず,日々の実践の中で活用されることを強く願っている.さらに,理論の次なる進化として,個人や家族を超えた社会全体の変容をも模索しているように見える.タイトルを改め,理論的内容の部分をコンパクトにまとめ,研究と実践からの事例を多く取り入れて具体性を与え,理論と研究と実践を統合させた看護プラクシスについてよりわかりやすく説明し,看護とは何かを説き明かしている.
 ここで,博士が熱い眼差しを注いでいる実践家ナースに,二つのことについて,訳者の立場を借りて解説しておきたい.まず,タイトルの「変容を生みだす寄り添い」(transforming presence)についてである.この“寄り添い”には,ナースが物理的にクライアントの傍にいることを超えた意味がある.それは,クライアントに変容が生みだされ,また寄り添うナースにも変容が生まれるような寄り添いである.この理論が準拠するホリスティックなパラダイムでは,ナースが変わることなくクライアントだけが変わるということはありえず,もしそのようなかかわりであるならば,博士が主張するパラダイムとは異なるものである.ニューマン理論に導かれて看護実践を試みようとするナースは,クライアントを“気遣って深く関心を注ぎ”(caring),“クライアントを理解しよう”(understanding)と,柔軟な心をもって,しかし心をこめて寄り添うことになる.このことによって,日々の忙しい仕事にも,寄り添いが宿すパワーが結びつくであろう.このことを本書からしっかり読み取ってほしいと思う.
 二つ目は“意識”(consciousness)である.この言葉は,博士の造語ではなく,ホリスティックなパラダイムにおいては,重要な概念であり,多くの研究者がいる.しかし,私たちナースは,意識と言えば大脳の下にある意識だけを考えがちであるために,この理論において最も理解し難いようである.博士の定義は,“情報交流能力”である.つまり,自分を取り巻く環境を感じ取り,察知し,共鳴し,呼応し,響き合うなどの,その人全体に宿る環境との情報交流能力である.実践家ナースは,己全体を使って自分を取り巻く環境を感じ取り,それにこたえることを,日々実践していると言えるであろう.ナースは,意識そのものである.そして,同じように意識そのものであるクライアントと,日々交流している.
 本書の図4-1(p.43)には,意識であるクライアントとナースが共に近づき合い,変容が生まれるまでの過程が表現されている.ナースは,クライアントがケアを求めていることを察知したときには,心をこめてそこに留まり,関心を注ぎ,理解しようと寄り添うナースの勇気を,博士は促している.クライアントに寄り添い,クライアントとまさにひとつになって響き合うときが,ナースの最高位の姿であるとも言っている.
 訳者らが,この博士の新書をぜひ翻訳したいと思った理由は,一人でも多くのナースが,クライアントとまさにひとつになって響き合い,お互いに変容する体験を味わってほしいと願うからである.この体験を味わったナースには,バーンアウトなどという概念は消失するであろう.そこに至るまでには,これでよいのかと行ったり来たりするであろうが,やがて理解でき,合点して,悟りが訪れるであろうという博士の言葉(日本語版へのメッセージ最後の章)が,私たちを励ましてくれる.
 博士は,詩や日本の俳句のような簡潔な文体を好むが,そこには全体をとらえた深い意味がこめられているために,その意味を汲み取り,日本語に変容させる作業は容易なことではなかった.5名の訳者に,研究会の他のメンバーも加わって,わかりやすい日本語で意味を伝えたいと努力したつもりであるが,まだ十分ではない.読者の皆様のご教示,ご意見をぜひお願いしたい.
 最後に,医学書院の杉之尾成一氏と林田秀治氏に,心から感謝を申し上げたい.杉之尾氏には出発の時点で,林田氏には一貫して多くの示唆と励ましをいただいた.深い意味がある竹林(本文p.62)の表紙写真を撮影して準備してくださったこともありがたいことであった.

 2009年8月
 訳者を代表して 遠藤惠美子

開く



1. 健康の新しい概念
2. 新しいパラダイムへの転換
3. 看護の理論・研究・実践の融合(看護プラクシス)
4. 全体性と響き合いながら
5. 心をこめて寄り添って
6. 方法を超えて
7. 変容を生みだす看護教育
8. 変容をかたどる弧形

資料A 拡張する意識としての健康の理論に基づくプラクシス:パターン認識の過程
資料B 質問とコメンタリー
引用文献
さくいん

開く

自らの看護の核心をつかむ
書評者: 渡邉 眞理 (神奈川県立がんセンター医療相談支援室長/副看護局長)
 本書は,マーガレット・ニューマン博士の,『マーガレット・ニューマン看護論―拡張する意識としての健康』(1995年)から14年後に出版された著作の全翻訳本である。私は本書のタイトル『変容を生みだすナースの寄り添い―看護が創りだすちがい』に大変ひかれ,その内容に深く感銘を受けたので,皆様に紹介したい。

 私はがん看護専門看護師として,また看護管理者として,看護の質が関心の的であるが,今日の慢性的な看護師不足に加え,平均在院日数の短縮化や医療の高度化により,看護師は多忙を極め,看護を見失い,疲弊感を抱いている場合が多いように感じている。一方このような状況の中にあっても,看護の質を維持し,向上させようと,“看護の見える化”など,さまざまな取り組みを実施し模索し続けていることも知っている。私は,後者のあり様を大いに支持したいと考えているのであるが,しかしそのためには“看護とは何か”という問いをしかりと探求する必要がある。

 本書の特徴の一つは,実践家看護師に熱い視線がそそがれ,ニューマン理論に導かれた研究的姿勢と実践を重ねた看護プラクシスについてよりわかりやすく説明され,看護とは何かが説き明かされていることである。

     看護とは,その瞬間に心をこめて寄り添うこと―
     それは変容を生み出すナースの寄り添いである(中略)

     寄り添い,それは相手を気遣って深く関心をそそぎ
     理解しようとすることを伝え
     響きあう意識であるナースの最高位の姿である

     (本書序文より一部抜粋)

 ニューマン博士は,私たちのケアリングとは,疾患だけに目を向けるのではなく,またそれを排除しようとするのでもなく,疾患を包み込み,そしてそれを超えた“健康”の概念と結びつかなければならないことを強調している。がん看護に携わる看護師の中には,患者やその家族が,疾患の苦しみの真っ只中でも,自分の内部に潜む力に気づき,その力を使って,より自分らしく変容し,成長していく姿を知っている者は多いであろう。この患者や家族の姿は,看護の視点から言えば,健康の過程であり,この過程を助けることができるのは,看護師の“心をこめた寄り添い”なのだ,とニューマン博士は主張している。

 本書には,この寄り添いについて,具体的な実践事例をもとに詳しく記述されているので,実践家である看護師は,自分の看護についての考え方や患者・家族への関わりのあり様を意識的に問い直してみることができる。さらに,患者や家族の看護に苦悩している看護師や看護チーム,彼らを支援しようとしている看護管理者,また看護教育の場も対象に,“その瞬間に心をこめて寄り添うこと”が相互の成長へとつながることが示唆されている。がん看護専門看護師としての私自身について言えば,がん患者・家族が苦悩の中にあるとき,パートナーとして寄り添い,どのような時でも患者・家族一人一人が納得のいく意思決定ができるよう,また耐えがたい現実に立ち向かえるよう共に歩んでいくことを大切にしている。また一人一人の看護師や看護チームが,自分たちのがん看護実践を意味づける体験ができるような支援と,その看護師らを支援する看護管理者への支援を大切にしてきている。本書を読み進めるほどに,自分が追求してきたことの意味づけができ,これでよいのだという確信を得ることができた。

 読みやすく翻訳されてはいるが,それでも難しいところに出会うかもしれない。そのような時には,そこをとばして次に進み,また戻って読み直せばよい。さらに新たな意味が生まれ,納得でき,やがては自分の看護の核心をつかむことができるであろう。資料の「質問とコメンタリー」では,日々の看護実践でニューマン理論を活用するための数多くのヒントが記載されているので,この部分も本書の理解を助けてくれるであろう。貴重な1冊として推薦する。
ニューマンの“深さ”に,心ざわめいて
書評者: 河 正子 (NPO法人緩和ケアサポートグループ代表)
 監訳者の遠藤先生の論文や著作,先生が看護を考える基盤とされているマーガレット A.ニューマンの著書からはこれまでも多くの刺激をいただいた。私が学んできた健康について,看護についての考え方とは異なる見方があることを教えられ,心がざわめいた。

 しかし,そのざわめきの本質をよく見極め消化しないうちに,また既存の概念でコントロールする日常に戻っていってしまう。「読んで理解することの限界かもしれない」と,言い訳しながら。実践を経ない理解は,身につかぬまま記憶の底で覚醒のときを待つことになる。

 本書は,ニューマン女史の2008年の著書の翻訳である。女史と訳者らは,再びナースたちに新しいパラダイムへのシフトを熱く呼びかけている。その内容は「変容を生みだすナースの寄り添い」である。これは何度となく語られ,誰もが考えてきた看護の本質ではないか…と思いつつページを繰れば,やはりまた心がざわめく。

 本書から私が学びつつあることを至らなさを承知で抄出してみると:「拡張する意識としての健康」という理論は,病や喪失などで望みが無いと見えるどのような無秩序な状況にいる人も,もっとその人らしくなる過程,生きる意味を見出す過程,他者や万物とつながり新たな秩序に至る過程の途上にあるのだということを主張している;この理論に調和する研究(実践)方法は,実験や観察データから帰納的に一般化して問題解決の道筋を見出していく方法ではない。人生における最も意味深いできごとや関係性に焦点を合わせて,研究者(実践者)の心をこめた寄り添いを受けて対話を重ねながら,研究参加者(クライアント)から「参加者(クライアント)―環境の相互依存的関係性」の潜在的パターンが開示され,研究者(実践者)と分かち合われ,洞察が生まれ,パターンが変容していく。その過程で変容するのは参加者(クライアント)だけではない。研究者(実践者)も変容する;この理論・研究・実践の幸福な融合を「看護プラクシス」という。看護プラクシスの要は変容を生み出す心からの寄り添いを提供することである。寄り添いは,単に傍に存在することではない。そこにある知は,ケア対象を客観的に把握することを超え,感覚的に調和し,共鳴しながら受容するというありようのものである。「他のすべてを横に置いて」「自分のすべての側面を活かしてクライアントと共にある」というような。

 この理解を実践に移せるかどうか,正直まだ自信はない。ただ,ここ数年来考え続けているスピリチュアルケアの本質は「心をこめた寄り添い」につながると思っている。ケアするものは無機的な観察者としてケア対象の深い苦悩をみつめることはできない。苦悩する人との関係性をもつことで否応なく影響し合う存在になる。変容を目的とするのではなく,かかわり合い,共有する時間からのプレゼントのようにケア対象にもケア提供者にも変容が与えられる。本書から受けるざわめきが,そこに至る扉を開く鍵であるように思う。

  • 更新情報はありません。
    お気に入り商品に追加すると、この商品の更新情報や関連情報などをマイページでお知らせいたします。