内視鏡所見のよみ方と鑑別診断-下部消化管 第2版
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- 目次
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序文
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第2版 序
下部消化管疾患の診断と治療にあたって,正しい診断なくして的確な治療は成し得ない.その際,内視鏡の果たす役割が大きいことは改めて述べるまでもない.本書が刊行された目的のひとつとして,下部消化管病変の内視鏡像の基本的な読影,所見の捉え方とその応用の在り方を世に問うことであった.実際の臨床の場において内視鏡を活用するためには,まずスコープを確実に病変部位まで挿入して,質が高く情報量の多い画像を得ることからスタートしなければならない.次に得られた画像を正しく解釈する洞察力を養うことが要求される.内視鏡所見を客観的,忠実に読影するとともに,類縁疾患の鑑別診断のポイントを論理的に考えながら診断しなければならない.この目的を果たすためには,多くの典型例の画像を経験することが必要である.本書の執筆の意図のひとつは典型的な内視鏡像を数多く提示して,読者に多数の下部消化管疾患を記憶してもらいたい点にあった.内視鏡画像読影のトレーニングの教材になるように,同一症例の内視鏡画像と解説,関連事項を両ページに跨がって掲載するスタイルをとった.しかし闇雲に多くの症例数を経験するだけでなく,内視鏡所見の裏に隠されている病態を推察するための論理的な思考課程も学んで欲しいことも目標としてきた.
本書は中国語や韓国語にも翻訳され,多くの内視鏡医から好評を博してきた.執筆者として身に余る有り難いことである.しかし本書の初版が刊行されてから既に7年の歳月が流れ,この間,小腸内視鏡の進歩,「大腸癌取扱い規約」の改訂,炎症性腸疾患関連大腸癌(colitic cancer)の増加,新しい腫瘍病理診断も提示されてきた.同時に私達の経験した症例もさらに充実してきたので,本書の基本的な編集精神を踏襲しながら時代の進歩に即した内容に改める作業を進めてきた.新たな企画で書籍を製作することよりも,改訂版を造るほうが労力は大きい.前書の意図を踏襲しながら新しい充実した内容に改訂しなければならず,その苦労は並大抵なものではない.それでもさらに内容を充実したものに改め,世に問うことは執筆者としての使命であると決意して,敢えて困難な道を選択した結果が改訂版としての本書である.
内視鏡偏重の傾向がみられる今日にあって,内視鏡所見だけで病態,病像や疾患を考えるのではなく,患者の症状や背景因子についても心を配り,血液データやX線所見も考慮しながら,総合的に診断する姿勢,論理的な思考過程を本書から学んで欲しいことを強調したい.
本書の改訂作業にあたって,医学書院書籍編集部・阿野慎吾氏の尽力なくしては成立しなかった.深甚なる謝意を述べたい.
平成21年1月
多田 正大
大川 清孝
三戸岡英樹
清水 誠治
下部消化管疾患の診断と治療にあたって,正しい診断なくして的確な治療は成し得ない.その際,内視鏡の果たす役割が大きいことは改めて述べるまでもない.本書が刊行された目的のひとつとして,下部消化管病変の内視鏡像の基本的な読影,所見の捉え方とその応用の在り方を世に問うことであった.実際の臨床の場において内視鏡を活用するためには,まずスコープを確実に病変部位まで挿入して,質が高く情報量の多い画像を得ることからスタートしなければならない.次に得られた画像を正しく解釈する洞察力を養うことが要求される.内視鏡所見を客観的,忠実に読影するとともに,類縁疾患の鑑別診断のポイントを論理的に考えながら診断しなければならない.この目的を果たすためには,多くの典型例の画像を経験することが必要である.本書の執筆の意図のひとつは典型的な内視鏡像を数多く提示して,読者に多数の下部消化管疾患を記憶してもらいたい点にあった.内視鏡画像読影のトレーニングの教材になるように,同一症例の内視鏡画像と解説,関連事項を両ページに跨がって掲載するスタイルをとった.しかし闇雲に多くの症例数を経験するだけでなく,内視鏡所見の裏に隠されている病態を推察するための論理的な思考課程も学んで欲しいことも目標としてきた.
本書は中国語や韓国語にも翻訳され,多くの内視鏡医から好評を博してきた.執筆者として身に余る有り難いことである.しかし本書の初版が刊行されてから既に7年の歳月が流れ,この間,小腸内視鏡の進歩,「大腸癌取扱い規約」の改訂,炎症性腸疾患関連大腸癌(colitic cancer)の増加,新しい腫瘍病理診断も提示されてきた.同時に私達の経験した症例もさらに充実してきたので,本書の基本的な編集精神を踏襲しながら時代の進歩に即した内容に改める作業を進めてきた.新たな企画で書籍を製作することよりも,改訂版を造るほうが労力は大きい.前書の意図を踏襲しながら新しい充実した内容に改訂しなければならず,その苦労は並大抵なものではない.それでもさらに内容を充実したものに改め,世に問うことは執筆者としての使命であると決意して,敢えて困難な道を選択した結果が改訂版としての本書である.
内視鏡偏重の傾向がみられる今日にあって,内視鏡所見だけで病態,病像や疾患を考えるのではなく,患者の症状や背景因子についても心を配り,血液データやX線所見も考慮しながら,総合的に診断する姿勢,論理的な思考過程を本書から学んで欲しいことを強調したい.
本書の改訂作業にあたって,医学書院書籍編集部・阿野慎吾氏の尽力なくしては成立しなかった.深甚なる謝意を述べたい.
平成21年1月
多田 正大
大川 清孝
三戸岡英樹
清水 誠治
目次
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症例提供者一覧
第2版序
第1版序
第1章 安全な下部消化管内視鏡のための基本的事項
〔1〕消化器内視鏡教育法の基本概念
■ 基礎教育
■ 小腸内視鏡
■ 大腸内視鏡
〔2〕消化器内視鏡ガイドライン
〔3〕消化器内視鏡のリスクマネ-ジメント
■ インフォームド・コンセント
■ 適応と禁忌
■ 前準備,前処置
■ 偶発症が発生した場合の対応
第2章 下部消化管内視鏡に必要な局所解剖と正常内視鏡像
〔1〕小腸(空腸・回腸)の局所解剖と正常内視鏡像
■ 基本的局所解剖
■ 各部位の正常内視鏡像
〔2〕大腸の局所解剖と正常内視鏡像
■ 基本的局所解剖
■ 各部位の正常内視鏡像
第3章 下部消化管内視鏡の位置づけと診断手順
〔1〕小腸疾患に対する内視鏡の位置づけ
■ 診断手順
■ 内視鏡検査とX線検査の優劣
■ 小腸内視鏡の特徴と使い分け
〔2〕大腸腫瘍に対する内視鏡の位置づけ
■ 診断手順
■ 内視鏡検査とX線検査の優劣
■ 大腸スコープ挿入手技
〔3〕炎症性疾患に対する内視鏡の位置づけ
■ 診断手順
■ 内視鏡検査とX線検査の優劣
第4章 腫瘍性疾患の内視鏡所見のよみ方と鑑別診断
〔1〕小腸腫瘍の種類と分類
〔2〕小腸腫瘍の内視鏡所見のよみ方と鑑別のポイント
■ 形態からみた鑑別診断
■ 発生個数からみた鑑別診断
〔3〕大腸腫瘍の種類と分類
〔4〕大腸腫瘍の内視鏡所見のよみ方と鑑別のポイント
■ 大腸癌の肉眼分類と大きさの計測の基本
■ SM癌浸潤度分類の意義
■ 腫瘍径からみた鑑別診断
■ 形態からみた鑑別診断
■ 隆起型腫瘍の性状診断
■ 表面型腫瘍の性状診断
■ 発生個数からみた鑑別診断
■ PGとNPG
■ 大腸癌の深達度診断
■ 大腸癌診断のための補助診断
所見からみた診断へのアプローチ
1 有茎性の病変
2 亜有茎性の病変
3 無茎性・広基性の病変
4 表面型病変
5 特殊型病変
6 狭窄のある病変
7 病変部位・分布
8 大腸炎関連大腸癌
第5章 炎症性疾患の内視鏡所見のよみ方と鑑別診断
〔1〕炎症性腸疾患の種類と分類
〔2〕炎症性腸疾患の鑑別診断のポイント
■ 炎症の拡がりからみた鑑別診断
■ 局所炎症像からみた鑑別診断
■ 総合的な鑑別診断
〔3〕colitic cancerの臨床病理診断
■ 自験例における潰瘍性大腸炎合併colitic cancerの特徴
■ 早期診断が難しい理由
■ 内視鏡診断基準(pit pattern診断)の指標
■ 潰瘍性大腸炎に合併する悪性腫瘍
所見からみた診断へのアプローチ
1 色調からの鑑別
2 潰瘍・びらんの形態
3 形態
4 病変部位・分布
その他
付録:下部消化管内視鏡診療に必要な基本的事項
和文索引
欧文索引
第2版序
第1版序
第1章 安全な下部消化管内視鏡のための基本的事項
〔1〕消化器内視鏡教育法の基本概念
■ 基礎教育
■ 小腸内視鏡
■ 大腸内視鏡
〔2〕消化器内視鏡ガイドライン
〔3〕消化器内視鏡のリスクマネ-ジメント
■ インフォームド・コンセント
■ 適応と禁忌
■ 前準備,前処置
■ 偶発症が発生した場合の対応
第2章 下部消化管内視鏡に必要な局所解剖と正常内視鏡像
〔1〕小腸(空腸・回腸)の局所解剖と正常内視鏡像
■ 基本的局所解剖
■ 各部位の正常内視鏡像
〔2〕大腸の局所解剖と正常内視鏡像
■ 基本的局所解剖
■ 各部位の正常内視鏡像
第3章 下部消化管内視鏡の位置づけと診断手順
〔1〕小腸疾患に対する内視鏡の位置づけ
■ 診断手順
■ 内視鏡検査とX線検査の優劣
■ 小腸内視鏡の特徴と使い分け
〔2〕大腸腫瘍に対する内視鏡の位置づけ
■ 診断手順
■ 内視鏡検査とX線検査の優劣
■ 大腸スコープ挿入手技
〔3〕炎症性疾患に対する内視鏡の位置づけ
■ 診断手順
■ 内視鏡検査とX線検査の優劣
第4章 腫瘍性疾患の内視鏡所見のよみ方と鑑別診断
〔1〕小腸腫瘍の種類と分類
〔2〕小腸腫瘍の内視鏡所見のよみ方と鑑別のポイント
■ 形態からみた鑑別診断
■ 発生個数からみた鑑別診断
〔3〕大腸腫瘍の種類と分類
〔4〕大腸腫瘍の内視鏡所見のよみ方と鑑別のポイント
■ 大腸癌の肉眼分類と大きさの計測の基本
■ SM癌浸潤度分類の意義
■ 腫瘍径からみた鑑別診断
■ 形態からみた鑑別診断
■ 隆起型腫瘍の性状診断
■ 表面型腫瘍の性状診断
■ 発生個数からみた鑑別診断
■ PGとNPG
■ 大腸癌の深達度診断
■ 大腸癌診断のための補助診断
所見からみた診断へのアプローチ
1 有茎性の病変
2 亜有茎性の病変
3 無茎性・広基性の病変
4 表面型病変
5 特殊型病変
6 狭窄のある病変
7 病変部位・分布
8 大腸炎関連大腸癌
第5章 炎症性疾患の内視鏡所見のよみ方と鑑別診断
〔1〕炎症性腸疾患の種類と分類
〔2〕炎症性腸疾患の鑑別診断のポイント
■ 炎症の拡がりからみた鑑別診断
■ 局所炎症像からみた鑑別診断
■ 総合的な鑑別診断
〔3〕colitic cancerの臨床病理診断
■ 自験例における潰瘍性大腸炎合併colitic cancerの特徴
■ 早期診断が難しい理由
■ 内視鏡診断基準(pit pattern診断)の指標
■ 潰瘍性大腸炎に合併する悪性腫瘍
所見からみた診断へのアプローチ
1 色調からの鑑別
2 潰瘍・びらんの形態
3 形態
4 病変部位・分布
その他
付録:下部消化管内視鏡診療に必要な基本的事項
和文索引
欧文索引
書評
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内視鏡のスペシャリストによる入魂の内視鏡診断バイブル
書評者: 日比 紀文 (慶應義塾大教授・消化器内科学)
大腸内視鏡診断に関する書籍はこれまでにも数多く出版されており,その中には私自身が監修したものもある。多田正大先生らが著わされた本書はこれらの類書とは一線を画する大腸内視鏡診断の分野におけるバイブルといっても過言ではない。本書は評判が高かった7年前の初版本から改版されたものであるが,基本的な執筆方針は保ちつつも最新の消化器診断学,病理学,検査機器の進歩に基づいて各項目をリファインした結果,初版より100頁以上ボリュームが増加して下部消化管内視鏡診断に必要不可欠な内容がこの一冊に網羅されている。初版に掲載された提示症例の内視鏡写真も素晴らしいものであったが,今回ほとんどの項目で症例・内視鏡写真を新たに選ばれて,「眺めるだけでも感動する」ような美麗な内容の本に仕上がっている。
本書の根幹を成すこれら多数の症例,精選された内視鏡写真を執筆者らはいかにして集積されたのであろうか。私が類書を企画した際に,その構成とともに最も頭を悩ましたのがこの点であった。ある項目の記述を例示する症例を,と思っても読者にわかりやすくかつクオリティの高い内視鏡写真がなかなか無いのである。
聞くところによると本書は大阪で定期的に開催されている「大腸疾患研究会」の例会で検討された膨大な症例が基礎となっているということである。私は「大腸疾患研究会」なるものの存在を知らなかったが,多田正大先生らが昭和49年(私は医者になってまだ2年目である)に設立し,年に5回,世話人をはじめとする施設の先生方が大腸の症例を持ち寄って熱いディスカッションを交わすという歴史あるかつレベルの高い研究会で,いわば東京で開催されている「早期胃癌研究会」の関西地域版,大腸特化版とでもいうものであろうか。「胃と腸」誌の素晴らしい内容が「早期胃癌研究会」で検討された膨大な症例に裏打ちされたものであるように,「大腸疾患研究会」でのディスカッションの熱さも予想されよう。
厳選された症例と内視鏡写真以上に本書を特徴づけているのがその提示構成である。本書の大部をなす第4章「腫瘍性疾患」および第5章「炎症性疾患」で,各々の所見に対して4ないし8症例の豊富な内視鏡写真を提示して,所見が箇条書きでポイントを得て解説されているとともに,見開きの反対側の頁に所見に対応する病理組織写真や造影写真などを載せている。類書では内視鏡写真を多数掲載して,アトラス・写真集的になりがちなのに対して,本書では下部消化管疾患の診断を内視鏡検査だけではなく,造影検査,病理診断を含めて総合的に検討し,病態に基づいた形態学的診断を進めていくという姿勢が貫かれている。昨今の内視鏡検査万能主義,内視鏡検査だけですべて足りるという風潮に対して,特に消化管診断学を学ぶ若い消化器病専門医たちに警鐘を鳴らすものである。
もう一つの特徴はそれぞれの症例に内視鏡写真が2枚提示されている点と,比較的平易な用語で解説された内視鏡所見である。2枚の内視鏡写真は,遠景と近景,別々のアングル,生と色素散布像というように,静止画像であるにもかかわらず読者があたかも内視鏡を操作し観察しているかのごとくの動的な感覚を与えている。1枚ではなく2枚の写真が提示されていることによって内視鏡所見の解説も生きてくるのである。
執筆者らはいかにしてこのような「読者のかゆいところに手が届く」ように本書を構成することができたのであろうか。おそらく執筆者らは「トップダウン」で企画して構成されたのではなく,読者,内視鏡を学ぶ者の疑問,要望をくんだ「ボトムアップ」的な思想で企画されたのではないか。私など雑務に追われ,内視鏡検査に携わらなくなって久しい者には,若い人たちが「何がわからないのか」,「どうしてできないのか」ということが正確に把握できていない傾向にある。多田先生をはじめ執筆者の先生方は,どんな年齢,どんな立場になられても自ら内視鏡検査を施行し,身近な「読影会」,「症例検討会」,そして多施設の先生が集まる「大腸疾患研究会」のような研究会を通して若い人たちを含めたさまざまな先生方と真摯にディスカッションされてきたという経験が,このような「ボトムアップ」的な企画を生み出したと想像される。
さらにコロナビなども用いて平易に解説された第1章から第3章の総論部分,取り上げた所見,疾患の多様さも特筆すべきものであり,本書は内視鏡検査に経験の浅い者のみならず,中級者・ベテランを含めたすべての消化管疾患診療に携わる者にとって座右の書となるものである。このように素晴らしい本をまとめられた執筆者の多田正大・大川清孝・三戸岡英樹・清水誠治各先生方に心より敬意を表したい。
消化器診療に携わるすべての臨床医必携の書
書評者: 飯田 三雄 (九大大学院教授・病態機能内科学)
このたび医学書院から『内視鏡所見のよみ方と鑑別診断―下部消化管(第2版)』が発刊された。多くの内視鏡医から好評を博した初版の上梓から約7年がたち,企画の意図は初版のまま,時代の進歩に即した内容の充実が図られている。
その結果,初版より掲載症例と写真は大幅に増加し,頁数も約1.7倍に増えているが,日常臨床の現場で容易に活用できるサイズは維持されており,初版以上の売れ行きを示すことは間違いないであろう。
本書の執筆者は,いずれもわが国を代表する消化管形態診断学のエキスパートであり,東京で毎月開催される早期胃癌研究会の運営委員やその機関誌である雑誌「胃と腸」の編集委員を歴任してこられた方々である。そのため,本書は「胃と腸」誌と基本的には同様の方針で編集されている。すなわち,掲載された内視鏡写真に限らず,内視鏡所見の成り立ちを説明するために呈示されたX線写真や病理写真に至るまですべて良質な画像が厳選されており,“実証主義の立場から消化管の形態診断学を追求する”という「胃と腸」誌の基本理念が貫かれている。
本書では,第1章から第3章までが下部消化管内視鏡に必要な基本的事項,局所解剖,診断手順などの総論的な内容,第4章が「腫瘍性疾患の内視鏡所見のよみ方と鑑別診断」,第5章が「炎症性疾患の内視鏡所見のよみ方と鑑別診断」によって構成されている。
前半の総論部分では,第1章の「安全な下部消化管内視鏡のための基本的事項」が新設されたほか,第3章の「下部消化管内視鏡の位置づけと診断手順」において初版後に開発されたダブルバルーン内視鏡やカプセル内視鏡,大腸内視鏡の挿入手技などが追記されている。また,巻末には,基本的事項の付録として,大腸癌の分類,Crohn病や潰瘍性大腸炎の診断基準などの表が追加され,初学者や経験の浅い内視鏡医の理解を助けている。
本書の各論部分にあたる第4章と第5章では,種々の腫瘍性疾患と炎症性疾患が所見別に呈示されている。この2章で全体の約87%の頁数が割かれており,本書の根幹を成している。初版では各所見ごとに見開き2頁で4症例が呈示されていたが,第2版では各所見別に4頁を使い最大で8症例が呈示されている。そのため,掲載症例は474例,写真は1,200枚以上と初版に比べ大幅に増加している。
内容的には,第4章で大腸炎関連大腸癌の呈示症例が増えたほか,第5章でcolitic cancerの臨床病理診断についての解説が初版以降に集積された新知見とともに書き加えられている。
本書では,見開き2頁の左頁には内視鏡写真と簡単な臨床情報・内視鏡所見が箇条書きで示され,右頁には診断・疾患の解説がX線・病理写真の呈示とともにわかりやすく記載されている。右頁を隠し左頁のみを見て自身の診断力を試すことも可能なように配慮されており,消化器関連学会の専門医試験を受験する者にとっても便利である。
また,ポピュラーな疾患からまれな疾患まで多彩な症例が美麗な写真とともに掲載されており,かなりの経験を積んだベテランの内視鏡医にとっても役立つ内容となっている。
このように,本書は消化器診療に携わるすべての臨床医にとって,必携の書と考える。
書評者: 日比 紀文 (慶應義塾大教授・消化器内科学)
大腸内視鏡診断に関する書籍はこれまでにも数多く出版されており,その中には私自身が監修したものもある。多田正大先生らが著わされた本書はこれらの類書とは一線を画する大腸内視鏡診断の分野におけるバイブルといっても過言ではない。本書は評判が高かった7年前の初版本から改版されたものであるが,基本的な執筆方針は保ちつつも最新の消化器診断学,病理学,検査機器の進歩に基づいて各項目をリファインした結果,初版より100頁以上ボリュームが増加して下部消化管内視鏡診断に必要不可欠な内容がこの一冊に網羅されている。初版に掲載された提示症例の内視鏡写真も素晴らしいものであったが,今回ほとんどの項目で症例・内視鏡写真を新たに選ばれて,「眺めるだけでも感動する」ような美麗な内容の本に仕上がっている。
本書の根幹を成すこれら多数の症例,精選された内視鏡写真を執筆者らはいかにして集積されたのであろうか。私が類書を企画した際に,その構成とともに最も頭を悩ましたのがこの点であった。ある項目の記述を例示する症例を,と思っても読者にわかりやすくかつクオリティの高い内視鏡写真がなかなか無いのである。
聞くところによると本書は大阪で定期的に開催されている「大腸疾患研究会」の例会で検討された膨大な症例が基礎となっているということである。私は「大腸疾患研究会」なるものの存在を知らなかったが,多田正大先生らが昭和49年(私は医者になってまだ2年目である)に設立し,年に5回,世話人をはじめとする施設の先生方が大腸の症例を持ち寄って熱いディスカッションを交わすという歴史あるかつレベルの高い研究会で,いわば東京で開催されている「早期胃癌研究会」の関西地域版,大腸特化版とでもいうものであろうか。「胃と腸」誌の素晴らしい内容が「早期胃癌研究会」で検討された膨大な症例に裏打ちされたものであるように,「大腸疾患研究会」でのディスカッションの熱さも予想されよう。
厳選された症例と内視鏡写真以上に本書を特徴づけているのがその提示構成である。本書の大部をなす第4章「腫瘍性疾患」および第5章「炎症性疾患」で,各々の所見に対して4ないし8症例の豊富な内視鏡写真を提示して,所見が箇条書きでポイントを得て解説されているとともに,見開きの反対側の頁に所見に対応する病理組織写真や造影写真などを載せている。類書では内視鏡写真を多数掲載して,アトラス・写真集的になりがちなのに対して,本書では下部消化管疾患の診断を内視鏡検査だけではなく,造影検査,病理診断を含めて総合的に検討し,病態に基づいた形態学的診断を進めていくという姿勢が貫かれている。昨今の内視鏡検査万能主義,内視鏡検査だけですべて足りるという風潮に対して,特に消化管診断学を学ぶ若い消化器病専門医たちに警鐘を鳴らすものである。
もう一つの特徴はそれぞれの症例に内視鏡写真が2枚提示されている点と,比較的平易な用語で解説された内視鏡所見である。2枚の内視鏡写真は,遠景と近景,別々のアングル,生と色素散布像というように,静止画像であるにもかかわらず読者があたかも内視鏡を操作し観察しているかのごとくの動的な感覚を与えている。1枚ではなく2枚の写真が提示されていることによって内視鏡所見の解説も生きてくるのである。
執筆者らはいかにしてこのような「読者のかゆいところに手が届く」ように本書を構成することができたのであろうか。おそらく執筆者らは「トップダウン」で企画して構成されたのではなく,読者,内視鏡を学ぶ者の疑問,要望をくんだ「ボトムアップ」的な思想で企画されたのではないか。私など雑務に追われ,内視鏡検査に携わらなくなって久しい者には,若い人たちが「何がわからないのか」,「どうしてできないのか」ということが正確に把握できていない傾向にある。多田先生をはじめ執筆者の先生方は,どんな年齢,どんな立場になられても自ら内視鏡検査を施行し,身近な「読影会」,「症例検討会」,そして多施設の先生が集まる「大腸疾患研究会」のような研究会を通して若い人たちを含めたさまざまな先生方と真摯にディスカッションされてきたという経験が,このような「ボトムアップ」的な企画を生み出したと想像される。
さらにコロナビなども用いて平易に解説された第1章から第3章の総論部分,取り上げた所見,疾患の多様さも特筆すべきものであり,本書は内視鏡検査に経験の浅い者のみならず,中級者・ベテランを含めたすべての消化管疾患診療に携わる者にとって座右の書となるものである。このように素晴らしい本をまとめられた執筆者の多田正大・大川清孝・三戸岡英樹・清水誠治各先生方に心より敬意を表したい。
消化器診療に携わるすべての臨床医必携の書
書評者: 飯田 三雄 (九大大学院教授・病態機能内科学)
このたび医学書院から『内視鏡所見のよみ方と鑑別診断―下部消化管(第2版)』が発刊された。多くの内視鏡医から好評を博した初版の上梓から約7年がたち,企画の意図は初版のまま,時代の進歩に即した内容の充実が図られている。
その結果,初版より掲載症例と写真は大幅に増加し,頁数も約1.7倍に増えているが,日常臨床の現場で容易に活用できるサイズは維持されており,初版以上の売れ行きを示すことは間違いないであろう。
本書の執筆者は,いずれもわが国を代表する消化管形態診断学のエキスパートであり,東京で毎月開催される早期胃癌研究会の運営委員やその機関誌である雑誌「胃と腸」の編集委員を歴任してこられた方々である。そのため,本書は「胃と腸」誌と基本的には同様の方針で編集されている。すなわち,掲載された内視鏡写真に限らず,内視鏡所見の成り立ちを説明するために呈示されたX線写真や病理写真に至るまですべて良質な画像が厳選されており,“実証主義の立場から消化管の形態診断学を追求する”という「胃と腸」誌の基本理念が貫かれている。
本書では,第1章から第3章までが下部消化管内視鏡に必要な基本的事項,局所解剖,診断手順などの総論的な内容,第4章が「腫瘍性疾患の内視鏡所見のよみ方と鑑別診断」,第5章が「炎症性疾患の内視鏡所見のよみ方と鑑別診断」によって構成されている。
前半の総論部分では,第1章の「安全な下部消化管内視鏡のための基本的事項」が新設されたほか,第3章の「下部消化管内視鏡の位置づけと診断手順」において初版後に開発されたダブルバルーン内視鏡やカプセル内視鏡,大腸内視鏡の挿入手技などが追記されている。また,巻末には,基本的事項の付録として,大腸癌の分類,Crohn病や潰瘍性大腸炎の診断基準などの表が追加され,初学者や経験の浅い内視鏡医の理解を助けている。
本書の各論部分にあたる第4章と第5章では,種々の腫瘍性疾患と炎症性疾患が所見別に呈示されている。この2章で全体の約87%の頁数が割かれており,本書の根幹を成している。初版では各所見ごとに見開き2頁で4症例が呈示されていたが,第2版では各所見別に4頁を使い最大で8症例が呈示されている。そのため,掲載症例は474例,写真は1,200枚以上と初版に比べ大幅に増加している。
内容的には,第4章で大腸炎関連大腸癌の呈示症例が増えたほか,第5章でcolitic cancerの臨床病理診断についての解説が初版以降に集積された新知見とともに書き加えられている。
本書では,見開き2頁の左頁には内視鏡写真と簡単な臨床情報・内視鏡所見が箇条書きで示され,右頁には診断・疾患の解説がX線・病理写真の呈示とともにわかりやすく記載されている。右頁を隠し左頁のみを見て自身の診断力を試すことも可能なように配慮されており,消化器関連学会の専門医試験を受験する者にとっても便利である。
また,ポピュラーな疾患からまれな疾患まで多彩な症例が美麗な写真とともに掲載されており,かなりの経験を積んだベテランの内視鏡医にとっても役立つ内容となっている。
このように,本書は消化器診療に携わるすべての臨床医にとって,必携の書と考える。
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