高齢期作業療法学

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高齢期作業療法とは,修得した知識と技術を,高齢者という対象に,適切な態度で実践する実践学である。本書は高齢者をとりまく社会環境や高齢者に特徴的な身体・精神機能,疾患を明示し,実施場所や病期,疾患に応じた援助方法をわかりやすく解説する。さらにさまざまなケースの実践事例を紹介。高齢期作業療法のすべてを凝縮した1冊。
シリーズ 標準作業療法学 専門分野
シリーズ監修 矢谷 令子
編集 松房 利憲 / 小川 恵子
発行 2004年06月判型:B5頁:216
ISBN 978-4-260-26710-6
定価 3,960円 (本体3,600円+税)
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  • 目次
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序章 高齢期作業療法学を学ぶ皆さんへ
第1章 高齢期作業療法学の基礎
 GIO,SBO,修得チェックリスト
 I 高齢社会
 II 高齢期の課題
 III 社会制度
 IV 高齢期の作業療法
 V 高齢期の特徴
 VI 高齢期に多い疾患
 VII 高齢期のリスク
 VIII 痴呆
 本章のキーワード
第2章 高齢期作業療法の実践
 GIO,SBO,修得チェックリスト
 I 作業療法実践の基本的枠組み
 II 一般高齢者の作業療法
 III 痴呆高齢者の作業療法
 本章のキーワード
第3章 高齢期作業療法の実践事例
 GIO,SBO,修得チェックリスト
 I 虚弱高齢者のケース
 II 寝たきり高齢者のケース
 III 重度の痴呆性老人のケース
 IV 中等度の痴呆性老人のケース
 V 重度痴呆から寝たきりに移行したケース
 VI 老年期にうつ病が顕在化したケース
 本章のキーワード
高齢期作業療法学の発展に向けて

さらに深く学ぶために
索引

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従来のリハビリテーションが対象としてこなかった人たちへのまなざし
書評者: 大田 仁史 (茨城県立医療大附属病院長)
◆「学生主体の教育」をコンセプトに

 冒頭でシリーズ監修者が述べているように,本シリーズは「学生主体の教育」,すなわち学生が主体的に学習に取り組める「環境づくりの一翼を担う」というコンセプトで編集されている。そのために学習内容の到達目標を明確化し,チェックシステムを構築するなど,学生の目線に立った編集が工夫されている。たとえば,各章には自己学習の修得チェックリストがあり,自己の学習の到達度,未熟な点を確認することができる。

 また,シリーズすべての序章には見開きで学習マップが設けられ,全体の構成・概要が一覧できる。このマップはまことに親切にできていて,自分がどのあたりの学習をしているのかを常に確認できる。また,シリーズ全巻の中で,手にしている書の位置づけがマップ上で一覧できるのも親切である。

◆臨床の目を通した編集

 本書を編集された松房先生と小川先生はよく存じ上げているが,お二人とも臨床と教育双方に造詣が深い方で,臨床の目を通して編集されているのがよくわかる。特に実践事例に虚弱高齢者,寝たきり高齢者,重度・中度痴呆性老人,重度痴呆から寝たきりになった人など,どちらかと言えば従来のリハビリテーションが必ずしも対象とはしてこなかった人たちにまなざしが向けられていることに,「終末期リハビリテーション」の確立を願っている筆者としては百万の味方を得た思いと同時に,編集者の人間としての深さを感じた。

 序のなかで述べられている「高齢者は若中年者をそのまま延長したものではなく,また,高齢者という1つのグループにまとめられるものではない」という認識にはまったく同感である。社会一般の認識と教育にずれがあってはならないからである。本書はまさにそのような視点で貫かれている。また「この分野での作業療法は未成熟で」と謙遜されているが,世界に類をみない早さで高齢化の道を進んでいる日本では未知のことばかりで,何も作業療法に限ったことではない。統合失調症者の高齢化の課題などは,社会全体が取り組むべき未解決の難題である。

 本書は,「序章高齢期作業療法を学ぶ皆さんへ」から「第1章高齢期作業療法学の基礎」「第2章高齢期作業療法の実践」「第3章高齢期作業療法の実践事例」まであり,最後は「高齢期作業療法学の発展に向けて」で結ばれている。各章で何を学んだかはキーワードで整理できる。また章ごとのチェックリストもよくできていて,試してみると学ぶべきことがたくさんあり勉強になる。シリーズ監修者が言うように,総じて文章は平易で読みやすい。落ち着いた色合いの図表が多く,見ていて楽しい。教科書として学生には喜ばれるであろうし,教官も使いやすいと思う。

学生だけでなく現役作業療法士も学べる高齢期作業療法についての教科書
書評者: 望月 秀郎 (長野医療技術専門学校 作業療法士)
 今日,急速に増えつつある高齢者と高齢障害者に対して,高齢期作業療法は分野としての確立はできつつあるものの専門書は少なかった。このような背景の中,本書が刊行された意味は大きい。

◆主体的な学習に焦点を当てたわかりやすさ

 本書の特筆すべき点は,全体を通して豊富なデータに基づいた図表が多く使われていることである。膨大な資料をもとに見やすい2色刷りの図表を作成し,本文とともに学生にも容易に理解できるよう書かれている。時間にゆとりのないときなどは,図表だけ拾い読みしてもおよその内容が把握できる。

 本書は表題のシリーズのうちの1冊である。シリーズ全体の編集方針として,学習者の主体性を求めて,学習内容の到達目標すなわち「一般教育目標(GIO)」と「行動目標(SBO)」を各章ごとに表記し,さらに,自己学習のための「修得チェックリスト」を掲げた点が特筆される。また,各章の最後に「本章のキーワード」としてその章での重要語句の辞書的解説があり,言葉の定義を確認しながら学習できるようになっている。

◆基本に忠実な内容と広範な知識を集積した展開

 内容的な面では,序章から1,2,3章の4部構成で,序章の「高齢期作業療法学を学ぶ皆さんへ」では,冒頭に学習マップを示し,どんな内容をどのように学んだらよいかをわかりやすく解説している。

 第1章「高齢期作業療法学の基礎」では,高齢者や高齢社会の基本について記載し,高齢期作業療法の概論的内容と特徴を身体機能・精神心理機能の両面から説明,さらには高齢期に多い疾病やリスクの解説をしている。この基礎知識の部分は,基礎医学的知識を具体的に引用しながら説明しているためわかりやすく説得力がある。

 第2章は「高齢期作業療法の実践」と題して,高齢期作業療法の枠組み,対象者ごとの基本的考え方,痴呆高齢者の評価法・作業療法の実践・アクティビティなどについて解説している。ともすれば障害を持った高齢者に偏りがちな面を,加齢そのものもひとつの障害として,治療・援助の違いや病期に応じた対応,さらには健康・虚弱・身体障害・寝たきり・精神障害をもつ各高齢者の作業療法について広範な面から書かれている。病気や障害そのものでなく「人間」に焦点を当て,生活障害,その要因分析,治療的対応を展開しており,作業療法士ならではの視点で述べられている。

 最後に第3章「高齢期作業療法の実践事例」として4名の臨床作業療法士が6つの実践例について書いている。かなり詳細な症例報告で,随所に筆者の工夫や発想が織り込まれた内容は,読んでいて思わず引き込まれてしまう。この章では,作業療法の展開の仕方やかかわり方のポイント,また,重要な視点といったことを学べる。学生にとってはハンドブック的な示唆に富んだ章である。

◆学生に親切な入門書と専門書を併せ持った書

 全編通じて平易な文章で理解しやすいことを念頭に,専門用語についてはキーワードとして解説を加えるなど,学生に対して親切な教科書といえる。本書は,入門書と専門書を併せ持った1冊であり,高齢者を理解するうえでも作業療法士として治療・援助を進めるうえでも,ぜひお勧めしたい書である。

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