ウエルネスからみた
母性看護過程+病態関連図

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妊娠期・分娩期・産褥期・新生児期ごとに、生理、アセスメント、異常別看護過程の構成で記載。特にウエルネスという視点から本書全体をまとめた。正常産に対するアセスメントの展開、正常からの逸脱という視点から疾患・異常別の看護過程を説明している。疾患の知識は妊娠・出産に特有の病態生理から臨床までをコンパクトに、かつイラストをふんだんに使って解説。母と子のケアを意識した看護過程を記載。
シリーズ からみた看護過程
編集 佐世 正勝 / 石村 由利子
発行 2009年03月判型:A5頁:920
ISBN 978-4-260-00622-4
定価 4,180円 (本体3,800円+税)
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はじめに

 母性看護学は,すべての女性に対して一生を通した健康の保持・増進,疾病予防や健康回復を図るとともに,健全な次世代を育成するために必要な看護を提供することを役割として発展してきました.近年,その対象は女性だけでなく,パートナーである男性,家族,さらに生活の場としての地域社会へと拡大し,健康な社会生活を営んでいる人々を多く含んでいることに特徴があります.
 母性看護学の教育では,母子保健の理念やリプロダクティブヘルスケアの概念を理解し,女性特有の健康問題をマクロにとらえる視点と,1人ひとりの対象者の健康状態に即したケアを大切にする立場がともに重視されています.
 母性看護学の実習はマタニティサイクルに焦点を当てた学習が中心であり,一組の母子を通して正常な経過をたどる妊産褥婦および胎児・新生児に特有の健康状態を把握し,必要な看護を提供するプロセスを学ぶ場です.実習での対象はいわゆるローリスクであり,他の領域に比べて健康レベルの高い人たちであることに特徴があります.他の領域の実習では疾患や機能障害/低下をもつ人を対象とすることが多く,健康問題を発見し,目標を設定し,問題を解決するという看護のプロセスを学びます.いわゆる「問題解決型思考」であり,この思考プロセスには,必ず健康問題が存在することが前提条件となります.
 しかし,この「問題解決型思考」で妊産褥婦や新生児をみると,順調な経過をたどる対象からは何の問題もみつからない,セルフケア能力も十分で,何をしたらよいのかわからない,という悩みにぶつかります.その結果,正常から逸脱する「リスクがある」という表現で,無理に問題をつくり,対象の実情にそぐわない診断をつけてしまうことが起こるのです.たとえば,血圧測定値に問題がないのに,妊娠末期になると「妊娠高血圧症候群発症のリスクがある」としたり,産褥1日に母乳分泌がなくても当然であるにもかかわらず,「母乳栄養確立困難のリスク状態」などのように,です.「リスクがある」というのは,一般集団に比較して,その個人にとくに発症の危険があるときに用いられる表現ですから,ローリスクの対象者には適さない表現であることはいうまでもありません.
 順調な経過をたどる妊産褥婦や新生児の健康状態に対して,「実在型」あるいは「リスク型」看護診断を使うことが難しいときは「ウエルネス型」看護診断の手法を用いて考えると理解しやすくなります.この手法を用いれば,現状をありのままに表現すればよく,今後どのような経過をたどることが望ましいかを考え,目標を設定し,看護介入を決定することができます.対象が妊娠・分娩・産褥期の各時点で,時期に相当する生理的変化を遂げている,生理的変化に適応できている,状態を受容できている,適切な対処行動がとれている,サポート資源をもっている,等々,望ましい状態にあるのなら,その状態を維持する,あるいはさらに良い方向へ向かうように支援することを考えればよいのです.臨床の現場では,対象のセルフモニタリング/セルフケア能力を高めるための支援に多くの時間と力を注いでいますが,これも良い状態を維持するために重要なケアです.
 本書では,妊娠期,分娩期,産褥期,新生児期に分け,時期ごとに生理的変化が理解でき,正常な状態であるか,あるいは時期に相応した経過をたどっているかをアセスメントできるように,基礎的な知識の解説を充実させています.ここではイラストを多用して理解しやすくすること,健康診査の方法がわかること,分析に有用な判断基準や根拠をわかりやすく示すこと,パートナー・家族の機能を大切にすることに留意しました.
 一方,妊娠・分娩経過はいつ正常から逸脱するかわからない危険性をはらむものであり,異常の予防,早期発見,適切なケアが求められます.本書では,知識としてもっていてほしい代表的な疾患と比較的よく遭遇する異常を選び,それぞれに医学的な解説と看護過程をまとめました.ここでは悪い状態が今以上に悪くならない,あるいは良い方向に向かっている(回復過程にある)ことに着目すれば,ウエルネス型の考え方を使って看護過程を記述することもできますが,健康問題を明らかにして,「問題解決型思考」で記述することに統一しました.まず看護過程フローチャートで思考過程を概観したのち,情報収集とアセスメントのポイント→看護問題・看護診断→看護目標・看護成果→看護活動・看護介入→評価の順に解説を加え,看護介入を導き出した根拠を明確にするように努めています.
 母性看護の対象を,健康なレベルにある,あるいは経過観察をしてよいと判断することは,時としてたいへん勇気がいることであり,十分な知識なくしては難しいことです.母性看護実習はウエルネスの視点で対象をみることを学ぶ貴重な機会です.何らかの産科異常があっても,優先度の高い健康問題のみを強調するのではなく,時期に相応した経過をたどっている部分を忘れずに,対象をみる目を養ってほしいと思います.
 本書は看護学生の方々の学習の一助となるよう企画されたものですが,助産師学生,臨床の看護師,助産師の方々にも活用していただければ幸いです.
 最後になりましたが,本書の出版にあたり,根気よく支え続けてくださいました医学書院諸氏に深謝申し上げます.

 2009年1月
 著者を代表して 石村由利子

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  はじめに
  本書の構成と使い方

第1章 妊娠期
 1.妊娠の正常経過とアセスメント
  1 妊娠の正常経過
  2 妊娠期のアセスメント
 2.妊娠期の異常とケア
  3 妊娠悪阻
  4 子宮外妊娠
  5 流産
  6 切迫流産
  7 妊娠高血圧症候群
  8 切迫早産,早産
  9 前期破水
  10 前置胎盤
  11 多胎妊娠
  12 常位胎盤早期剥離
  13 羊水過多症
  14 羊水過少症
  15 過期妊娠,過期産
  16 子宮内胎児発育遅延 IUGR
  17 血液型不適合妊娠
 3.合併症妊娠とケア
  18 心疾患合併妊娠
  19 腎疾患合併妊娠
  20 糖尿病合併妊娠
  21 喘息合併妊娠
  22 自己免疫疾患合併妊娠
第2章 分娩期
 1.分娩の正常経過とアセスメント
  23 分娩の正常経過
  24 分娩期のアセスメント
 2.分娩期の異常とケア
  25 児頭骨盤不均衡 CPD
  26 骨盤位,横位
  27 微弱陣痛
  28 遷延分娩
  29 胎児機能不全(胎児ジストレス,胎児仮死)
  30 胎盤剥離異常(癒着胎盤)
  31 産科出血,産科ショック, DIC
  32 分娩損傷
 3.産科手術とケア
  33 帝王切開
  34 吸引遂娩術,鉗子遂娩術
第3章 産褥期
 1.産褥の正常経過とアセスメント
  35 産褥の正常経過
  36 産褥期のアセスメント
 2.産褥期の異常とケア
  37 子宮復古不全
  38 子癇
  39 産褥熱,産褥感染症
  40 乳腺炎
  41 乳汁分泌不全
  42 妊娠高血圧症候群(産褥期)
  43 マタニティブルーズ
  44 死産
第4章 新生児期
 1.新生児の生理とアセスメント
  45 新生児の生理
  46 新生児のアセスメント
 2.新生児の異常とケア
  47 新生児仮死
  48 低出生体重児
  49 初期嘔吐
  50 哺乳障害
  51 体重増加不良
  52 黄疸
  53 分娩外傷
  54 口唇口蓋裂,ダウン症

  付録
   付録1 抗薬菌の種類と特徴
   付録2 抗菌薬略語一覧
  索引

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学生を“ウエルネスに基づく”看護診断に導くために (雑誌『看護教育』より)
書評者: 松岡 恵 (静岡県立大学看護学部 母性看護学・助産学)
 看護学生の多くが,母性看護学の看護過程の展開を苦手としている。その理由は,「看護問題がみつからないから」「何を問題としてよいかわからないから」である。たしかに,他の看護領域では,受け持ち患者に何らかの訴えがあるので,看護問題とすべき現象を見つけることが比較的容易かもしれない。それに対して,正常経過の妊産褥婦を受け持つ母性看護学の実習では,ケアの対象は基本的に健康である。そのため,極端な場合,学生が何も気づかず,何の看護を提供できなくても,母子は元気に退院していくこともありうる。

 「正常であること」「健康であること」を診断するためには,起こりうる異常や疾患を予測し,それらすべてを否定しなければならない。学生は,ヒントとなる訴えのない状態から,これまでの学習に基づく知識を駆使し,起こりうる異常を予測し,異常があった場合に認められる兆候を観察項目として挙げなければならない。これが,母性看護学の実習で学生がつまずく「経過の予測」である。起こりうる異常を予測して観察するためには,十分な知識と正常と異常との判断基準を理解していなければならない。そのため,学生にとって,母性看護学は「とにかく覚えなければならないことが多い」科目であり,それゆえに「母性看護学は苦手」となるようだ。

 そこで,本書である。本書は,周産期の専門医と看護学の教員のコラボレーションによって生まれている。本書のボリュームは索引を入れて903ページもある。学生は厚い本を嫌う。しかし,本書はカラーの図版が多く,単元ごとの構成が,正常経過解説,アセスメント解説,疾患解説,看護過程解説と統一され,非常にわかりやすい。疾患解説では,学生が苦手とする治療薬についても表にまとめられ,治療の流れもフローチャートとして提示されている。看護過程解説も,看護過程のステップごとに詳細な解説がされ,最後に学生が実習で一番頭を悩ます「病態関連図」も提示されている。本書を手にした学生は,実習初日に「看護問題リスト」と「介入のポイントと根拠」をみれば,“とりあえず,初期計画は何とかなりそう”と感じられるはずである。

 本書は,このように,学生がつまずきやすい母性看護学のウエルネスに基づく看護診断を行うための大きな助けとなる。しかし,一つ疑問に感じたことがある。それは,本書が母性看護学の看護過程を学ぶ初学者を対象としながら,記載された周産期の専門医による解説が非常に詳細で高度な点である。あまりに詳しすぎる解説は,初学者をかえって混乱させる場合がある。本書を,学生に紹介する際,その点に教員が気をつけて,指導することが必要だろう。

(『看護教育』2009年10月号掲載)
妊娠の正常経過と異常をビジュアルで解説する1冊 (雑誌『助産雑誌』より)
書評者: 大月 恵理子 (埼玉県立大学)
 看護の基礎課程にある学生たちに,母性看護学の事例を展開させる時,学生たちからよく問われるのは,「問題がない」「何をしていいかわからない」ということである。これは,母性看護学を座学で学びはじめ,演習として事例を提示した時ももちろん聞かれるが,領域別実習を回ってきた学生が,母性看護学実習に臨む時にも聞かれることである。

 それは,成人看護学や小児看護学等の実習では,基本的に疾患を持つ人を対象としているのに対して,母性看護学では,基本的にリスクの低い,正常経過をたどることが予測される対象を受け持つからである。健康問題を発見し,それを支援するという思考のままでは,母性看護学においては看護過程を展開することは難しいからであろう。健康度の高い妊産褥婦や新生児に対する看護診断を行なう場合には,「ウエルネス型」という考え方が必要となる。私たち母性看護学教員は,まずそのことを学生たちにしっかりと伝えなくてはならない。

 本書は,その母性看護学実習において,対象を理解し,看護計画を立案しやすいように,多くの点で工夫されている。まず,各期の正常経過がコンパクトにまとめられた後,正常経過におけるアセスメントの視点がポイントを押さえて記述されている。アセスメントの項目立ては情報源によって分類されており,情報収集しながら系統的に遺漏なく診断できるように組み立てられている。

 そのなかで異常が疑われる場合は,それぞれの異常の項目を参照するようページも挿入されているため,すぐに関連ページを見つけ出すことができ,病態関連図も付記されていて非常にわかりやすい。また,異常に関しては,それぞれフローチャートが提示された後,「情報収集」「情報分析」「看護課題の明確化」「介入実施」「評価」と統一されている。さらに,それらが色枠でかたどられており,まるでPC画面のウィンドウを見るように紙面が構成されていて,学生にとってはなじみやすく,見やすい構成となっている。

 実際に,母性看護学実習中の学生に参考文献として提示したところ,カラフルで大変見やすい,項目がわかりやすい,どんな視点でアセスメントしたらよいのか,次にどんな情報を得たらよいのかなどがわかりやすいという意見が出て,一番人気の文献となった。惜しむらくは,その厚さであろう。私も手にした時,びっくりするほどの厚みであった。もう少し薄いか,または2分冊のほうが,実習のために持ち歩くにはちょうどよかったかもしれないが,内容の充実のためには,やむを得なかったのであろう。看護学生の皆さんには一度手にとってご覧いただくと,その見やすさを実感できるかもしれない。

(『助産雑誌』2009年8月号掲載)

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