発声発語障害学

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本書は成人、小児における音声障害、構音障害、吃音について、その原因から症状、評価、治療、訓練に至る知識が平易な言葉で述べられている。また、言語聴覚士養成校で学ぶ学生のためのテキストとして編集された本書では、言語聴覚士として必要な事項が過不足なく解説されている。学生にとって親しみの持てる書籍であるのと同時に、卒後の臨床場面でも座右の書としておきたい1冊。
シリーズ 標準言語聴覚障害学
シリーズ監修 藤田 郁代
編集 熊倉 勇美 / 小林 範子 / 今井 智子
発行 2010年03月判型:B5頁:344
ISBN 978-4-260-00916-4
定価 5,500円 (本体5,000円+税)
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 本書は当初,「発声発語・嚥下障害学」として1冊にまとめる企画であった.しかし,それではかなりの大部となることもあり,「音声障害」「運動障害性構音障害」「機能性構音障害」「器質性構音障害」「吃音」を小児から成人までの領域を含めてくくり「発声発語障害学」とした.標準言語聴覚障害学シリーズで「摂食・嚥下障害学」は,別に1冊企画されている.
 基本的に,本書は言語聴覚士をめざす学生のテキストとなることを念頭に置いて執筆されている.内容は障害別に書かれており,それぞれの障害の定義,発症のメカニズム,症状,評価の方法,訓練・指導などの項目を立て,領域によっては,事例を通して具体的に理解しやすいように配慮した.「診断/評価」,「訓練/指導/治療」ということばをめぐっては,これまでにいろいろな議論がなされているが,ここでは執筆者の用いる表現をできるだけ尊重した.ほかにも,原語(英語)の日本語訳について統一が取れていない点などもあるが,これらは今後の課題としたい.
 さて,言語聴覚士の教育をめぐってはさまざまな議論がなされているが,そのうちの1つに,“養成課程で何を,どこまで,どのように教えるべきか”,ということがある.発声発語障害領域に限らないが,その研究や教育は,縦割りに単一のものとして扱われることが多い.しかし,臨床現場を見てみると,単一の障害の患者は多くないことに気づく.むしろ言語聴覚士が実際に対応しなければならないのは,複数の障害にまたがる応用問題ばかりと言ってもよい.いくつかの成人の例をあげれば,運動障害性構音障害と嚥下障害や音声障害,反回神経麻痺による音声障害と嚥下障害,口腔がん術後の器質性構音障害と嚥下障害などである.これに高齢者,意識障害,認知症などの問題が重複すると,評価,診断はもちろんのこと,訓練,治療は一筋縄ではいかない.こういった応用問題は日に日に増えており,単一の障害について学んだ後に,あるいは同時に,患者を広い視野で診ることを学生に教える必要性が増しているのではないかと思われる.しかし,時間的な制約があり,どこまでやっても切りのない話なので,卒後教育や現場での臨床教育も含めて考えなければならないが,現場ではさらに時間的制約は厳しく,ゆとりのないのが実態であろう.そういう意味で,本シリーズでテキストは終わることなく,アドバンス・シリーズが必要と考えられる.
 それに,発声発語障害の臨床は言語聴覚士の目と耳によって鑑別診断,評価され,特殊な検査機器によって測定されるものが多く含まれているため,文字を読んだだけでは習得できない特殊なスキルが数多く含まれている.これらのスキルを習得するには,audio-visualな教材も必要であり,それらのことも含めて考えると,並大抵の時間の教育ではすまされない.いずれにしても,学生には膨大な量の情報処理能力が要求され,教える側には効率的かつ効果的な教育方法が求められているのは間違いない.われわれに課せられた大きな宿題である.
 いずれにしても,本書の執筆者は,音声障害,運動障害性構音障害,機能性構音障害,器質性構音障害,吃音に関する臨床や研究に第一線で取り組んでこられた医師,言語聴覚士,研究者である.特に言語聴覚士の養成,教育に携わっている方々も多く含まれており,長年の教育経験も執筆に際して加味されている.紙数の関係もあって,十分に紹介し尽くせない理論や治療法に関しては,引用文献や参考図書を示してあるので是非参照し,先に進んでいただきたい.
 最後になるが,忙しい臨床・教育の時間を割いてご執筆いただいた方々に心から感謝申し上げたい.同時に本書の刊行にご尽力いただいた医学書院編集部の方々に深謝申し上げる.

 2010年3月
 編集
 熊倉勇美
 小林範子
 今井智子

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第1章 音声障害
 1 発声のしくみと声の障害
 2 原因とメカニズム
 3 症状
 4 評価(聴覚印象評価)
 5 評価(機器を用いた評価)
 6 指導・訓練
 7 無喉頭音声
 8 気管切開とコミュニケーションの問題
第2章 構音障害
 1 音韻・構音の発達と加齢に伴う変化
 2 構音障害の概念と分類
 3 機能性構音障害
 4 器質性構音障害
 5 運動障害性構音障害
第3章 吃音
 1 定義,鑑別診断
 2 発症のメカニズム,原因論
 3 評価・検査
 4 治療
 5 社会参加,セルフヘルプ(ケア)グループ

 参考図書
 索引

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発声・構音・吃音分野の知識の標準化に大きく寄与する1冊
書評者: 廣瀬 肇 (東大名誉教授・音声言語医学)
 本書は,現在わが国の言語聴覚士界をリードするメンバーが先頭に立ち,言語聴覚士の知識や質の向上をめざして企画された「標準言語聴覚障害学」シリーズの1冊として刊行されたものである。すなわち,いくつかの基本的な分野に分かれる言語聴覚障害学のうち,発声・構音(発語)というヒトの末梢運動器官の生理と病態に深く関連した領域を主題として,複数の著者の協同執筆の形で完成されたテキストである。

 発声・発語は,ヒトのコミュニケーション機能のうち,生成productionの部分において具体的に外界に信号を送る機能を担っている。発声・発語器官の多くは同時に呼吸機能や嚥下機能にも深く関連しており,その病態を考える場合,これらの機能を切り離しては考えられないことも少なくない。しかし,本書は敢えて主題を発声・発語に限っており,言語聴覚士にとって重要な分野である嚥下とその病態については別の巻に譲るとされ,そのことは結果的に本書のいろいろな部分の記述を判り易くするものとなったと評価できよう。

 本書は大きく発声,構音,吃音の3章に分かれており,各章が独自に基礎的事項,評価の方式,具体的な病態,訓練・治療指針などの項目を含み,それぞれ異なった著者が担当する形となっている。複数の著者が参加するにあたって,事前にどの程度まで相互の分担あるいは連携のための話し合いが行われていたのか,本書をみる限りでは明らかでないが,ちょうど連邦共和国の各地域が独自性を持つように,本書の各章さらには各項も,かなり独立した性質をもっている。このため記述の重複や,中身の“濃度”の違いが出てくるのはやむを得ないが,逆に,読者として単に本書を通読するのではなく,それぞれの章や項を抜き出して読むことによって随時的確な情報を得られる利点もあろう。本書は言語聴覚士養成課程で学ぶ学生を読者対象としているが,もう少し専門的な記載に重点が置かれている印象であるので,こうした部分的な読み方も有意義であるように思われる。

 上に述べた3つの章のうち,発声,構音の章はすでに多くの知識,経験,さらには最近の研究成果に基づく定説が積み重ねられつつある領域でもあり,いくつかの検査法などについて部分的には検討の余地を残すものがあるにしても,全体としてクリアカットな内容となっている。しかし最後の吃音の章については,率直に言ってその構成がやや一貫性を欠く印象が否めず,言語聴覚士養成課程で学ぶ学生はもちろん,初学者にとっても読みにくい部分となっているような感想を持った。いうまでもなく吃音については,定義はおろか成因を含めた病態の本質についても異説が多く,さらに一般的なコミュニケーション障害学の範囲を超える社会科学的要素も入りうるだけに,その取扱いが単純でないことは理解できる。しかし,本シリーズの基本的な狙いからすれば,もう少し言語聴覚士の立場として知るべきこと,さらには最近の脳科学の立場から判ってきつつある生物学的・生理学的な記載などが強調されてもよかったのではないかと考えている。これらについては改訂の折などに少しずつ考慮されるべきところであろう。

 いずれにしても本書の特徴は,一口に言って盛り沢山でしかも充実した内容に富んでいるといえる点にあり,本書がこれからの言語聴覚士の知識の標準化に大きく寄与していくことが期待される。

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